特許第6116586号(P6116586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6116586固形ガンを患う患者の生存期間の予後診断のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116586
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】固形ガンを患う患者の生存期間の予後診断のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20170410BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G01N33/48 M
   G01N33/48 P
   C12Q1/06
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-552651(P2014-552651)
(86)(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公表番号】特表2015-505608(P2015-505608A)
(43)【公表日】2015年2月23日
(86)【国際出願番号】EP2013051047
(87)【国際公開番号】WO2013107907
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】12151875.7
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】509033033
【氏名又は名称】ユニベルシテ・パリ・デカルト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
(73)【特許権者】
【識別番号】508266546
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ ディドロ−パリ 7
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT−PARIS 7
(73)【特許権者】
【識別番号】596076573
【氏名又は名称】ユニヴエルシテ・ピエール・エ・マリー・キユリー・パリ・シス
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク−オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE − HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100146422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 聖
(72)【発明者】
【氏名】デュー−ノジャン,マリー−カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン,ウォルフ・エルヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ルマルク,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ソート−フリードマン,カトリーヌ
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−515148(JP,A)
【文献】 特表2002−529704(JP,A)
【文献】 特開2007−143548(JP,A)
【文献】 特表2009−517046(JP,A)
【文献】 特表2007−519903(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/054288(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍誘導型リンパ系構造を有する固形ガンを患う患者の生存期間の予後診断用データを提供するためのin vitroの方法であって、以下の工程:
a)腫瘍誘導型リンパ系構造における濾胞B細胞の細胞密度を定量すること、および
b)工程a)で得られた濾胞B細胞の細胞密度の値を、予め決定された参照値と比較することを含み、
前記濾胞B細胞の細胞密度が前記予め決定された参照値よりも高いことは、患生存期間の予後良好を示し、または
前記濾胞B細胞の細胞密度が前記予め決定された参照値よりも低いことは、患生存期間の予後不良を示す、方法。
【請求項2】
前記生存期間が、疾患特異的生存期間(DSS)、無病生存期間(DFS)または全生存期間(OS)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、
a)腫瘍全体に関して成熟樹状細胞の細胞密度を定量すること、および
b)工程a)で得られた成熟樹状細胞の細胞密度の値を、予め決定された参照値と比較することを含み、
前記濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の両方が前記予め決定された参照値よりも高いことは前記患者生存期間の予後良好を示し
前記濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の両方が前記予め決定された参照値よりも低いことは前記患者生存期間の予後不良を示し、または
濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の一方の値が前記予め決定された参照値よりも低く、他方の値が他方の前記予め決定された参照値よりも高いことは前記患者生存期間の予後中等度を示す
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍誘導型リンパ系構造を有する固形ガンが、肺ガン、結腸直腸ガンおよび乳ガンから成る群より選択される、請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
前記腫瘍誘導型リンパ系構造を有する固形ガンが肺ガンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記固形ガンが非小細胞肺ガンである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記患者が初期のガン患者である、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、ネオアジュバント療法もアジュバント療法も受けなかった初期のガン患者である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、進行期のガン患者である、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、アジュバント療法を受けている進行期のガン患者である、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、固形ガンを患う患者の生存期間の予後診断のためのin vitroの方法に関する。
【0002】
発明の背景
Dieu-Nosjeanら(J Clin Oncol 26:4410-4417. 2008)に示されているように、肺ガンは、世界中で最もよく見られるガン関連死の原因である。約80%〜90%の症例が、腺ガンおよび扁平上皮ガンを含めた非小細胞肺ガン(NSCLC)を伴う。腫瘍を完全に切除できる患者にだけ生存期間増大のかなり大きなチャンスがある。しかし、ステージIの疾患を有する患者の30%という多数が、術後に再発を経験する。腫瘍浸潤免疫細胞と肺ガン患者の予後との間の相関は、議論の的になっている。
【0003】
腫瘍は、不均一なネットワークを形成し、複雑な相互作用を示す悪性細胞、間質細胞、内皮細胞、および免疫細胞から構成される。免疫系による腫瘍根絶は非効率な場合が多いが、多数の発生途中のガンが免疫系から無視されないという証拠がある。自己免疫の出現と同時に起こる自然腫瘍退縮、および免疫抑制された患者でのより高い腫瘍発生率は、腫瘍拒絶に免疫系が関与することを指し示している。免疫機能が欠損したマウスは、自然に腫瘍を発生する。細胞傷害性表現型およびメモリー表現型の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の密度は、良好な臨床転帰を大いに予測する。しかし、予後はエフェクター免疫細胞のホーミングと関係するものの、特異的な免疫応答の活性化が、腫瘍、流入領域リンパ節、またはその両方のどこで起こるかは、まだ不確かである。免疫応答が二次リンパ器官から距離をおいた三次リンパ系構造(tertiary lymphoid structure)(TLS)内で起こりうることは、今や十分に立証されている。Dieu-Nosjeanらは、これらのリンパ節様構造が肺ガン患者に発生する場合があることを観察した。それらの構造は、NSCLC患者の非腫瘍組織からは全く見出されなかったので、「腫瘍誘導型気管支関連リンパ系組織(Tumor-induced Bronchus-Associated Lymphoid Tissues)」(Ti−BALT)と名付けられた。そのうえDieu-Nosjeanらは、Ti−BALT中に選択的に検出された集団である成熟DCの密度が、良好な臨床転帰に関連することを実証した。このことは、Ti−BALTが腫瘍特異的T細胞にとっての活性化部位に相当することを示唆している。
【0004】
他のヒト腫瘍(例えば結腸直腸腫瘍および乳房腫瘍(Gobert et al., Cancer Res 2009; 69(5) 2000-2009)にTLSが存在することが報告されており、これは、多数の固形腫瘍に異所性リンパ系構造が生じることを示している。
【0005】
発明の概要
本発明は、固形ガンを患う患者からの腫瘍誘導型リンパ系構造中に存在する濾胞B細胞の細胞密度の定量を含む、該患者の生存期間の予後診断のためのin vitroの方法であって、高密度の濾胞B細胞が、患者が予後良好であることを示し、低密度の濾胞B細胞が、患者が予後不良であることを示す方法に関する。
【0006】
本発明は、固形ガン患者の生存期間の予後診断のための新規な方法を提供する。この方法は、現在使用されている病期分類法(例えばUICC−TNM)よりも正確さが高いので、生存期間に反映されるような患者に起こりそうなガンの経過または転帰を正確かつ精密に予測するという、当業界において長い間感じられてきたずっと続いている必要性を満たしている。そのようにできると、医師がガンの処置プロトコールを特定の患者に個別に適合させることができるようになる。本発明の方法によると、良好な治療転帰の可能性が高い患者は、転帰良好を経験するために最も攻撃的な処置を受ける必要がない場合があり、したがってそのような処置に関連する副作用を回避または最小化することができる一方で、予後不良の患者は、その疾患のできるだけ初期に、または使用された治療とは別の治療で、攻撃的に処置することができる。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、固形ガンを患う患者の生存期間の予後診断のためのin vitroの方法であって、以下の段階:
a)腫瘍全体に関して濾胞B細胞の細胞密度を定量する段階、および
b)段階a)で得られた濾胞B細胞の細胞密度の値を、予め決定された参照値と比較する段階;および
c)濾胞B細胞の細胞密度が該予め決定された参照値よりも高い場合、該患者に生存期間の予後良好を提供する段階、または
濾胞B細胞の細胞密度が該予め決定された参照値よりも低い場合、該患者に生存期間の予後不良を提供する段階
を含む方法に関する。
【0008】
腫瘍誘導型リンパ系構造は、腫瘤間質中のリンパ節様構造への腫瘍浸潤白血球の組織化を意味し、成熟樹状細胞−T細胞クラスター(T細胞領域)およびB細胞濾胞(B細胞領域)から構成される。典型的には、腫瘍切片別に2つの領域の1つだけまたは両方の領域を観察することができる。
【0009】
濾胞B細胞は、B細胞濾胞内に集積したB細胞サブセットを意味する。それらの細胞は主に無感作であり、胚中心表現型である。
【0010】
生存期間は、疾患特異的生存期間(DSS)、無病生存期間(DFS)または全生存期間(OS)でありうる。
【0011】
本発明は、外科的処置され、続いて必要に応じて適切な処置(放射線療法、化学療法および/またはホルモン療法など)を受けた患者の再発リスクの評価を可能にする。
【0012】
本発明による予後診断の方法は、単独で、または病期、人口統計学的および人体計測的パラメーター、日常的な臨床検査もしくは検査室検査の結果(腫瘍サイズ、組織予後段階付け、ホルモンレセプター、腫瘍型(oncotype)など)を含めた、固形ガンの予後判定のためにすでに使用された任意の他の方法と組み合わせて、使用することができる。
【0013】
好ましい一態様では、本発明の方法は、さらに、
a)腫瘍全体に関して成熟樹状細胞の細胞密度を定量する段階、および
b)段階a)で得られた成熟樹状細胞の細胞密度の値を、予め決定された参照値と比較する段階;および
c)濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の両方が該予め決定された参照値よりも高い場合、該患者に生存期間の予後良好を提供する段階、
濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の両方が該予め決定された参照値よりも低い場合、該患者に生存期間の予後不良を提供する段階、または
濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度の一方の値が該予め決定された参照値よりも低く、他方の値が他方の該予め決定された参照値よりも高い場合、該患者に生存期間の予後中等度を提供する段階
を含む。
【0014】
成熟樹状細胞は、プロセシングされた抗原をT細胞に提示するための専門の樹状細胞集団を意味する。腫瘍浸潤性の成熟樹状細胞は、腫瘍誘導型リンパ系構造のT細胞豊富な領域内でT細胞と選択的に接触して位置する。
【0015】
典型的には、濾胞B細胞の密度および成熟樹状細胞の密度は、例えば生検によって得られた試料の腫瘍切片(凍結組織切片またはパラフィン包埋組織切片)で行われた免疫組織化学検査によって測定することができる。
【0016】
本発明の一態様では、総B細胞は、CD20分子に対する抗体を用いた免疫組織化学検査によって検出される。総B細胞のうち濾胞B細胞は、選択的に腫瘍全体の切片から計数される。
【0017】
本発明の一態様では、成熟樹状細胞は、DC−Lamp(CD208)分子に対する抗体を用いた免疫組織化学検査によって検出される。成熟樹状細胞は、全腫瘍切片から計数される。細胞密度は、腫瘍切片の表面積1単位あたりで計数された細胞数として、例えば中倍率1視野(本来の倍率:×100)または腫瘍表面積1mm2あたりで計数された細胞数として、表現することができる。
【0018】
濾胞B細胞は、B細胞濾胞内で細胞凝集体に組織化され、B細胞濾胞内に存在する総細胞の98%超を占めるので、濾胞B細胞の密度は、また、腫瘍の表面積1単位あたりのB細胞濾胞の総表面積として、例えば中倍率1視野(本来の倍率:×100)または腫瘍表面積1mm2あたりのB細胞濾胞の表面積(mm2)として測定することができる。
【0019】
典型的には、濾胞B細胞の細胞密度および成熟樹状細胞の細胞密度についての予め決定された参照値は、ガン患者に関する大規模研究に統計的方法を適用することによって決定することができる。
【0020】
腫瘍誘導型リンパ系構造を有する固形ガンの例は、肺ガン、結腸直腸ガンおよび乳ガンである。
【0021】
好ましい一態様では、固形ガンは肺ガンである。
【0022】
より好ましい一態様では、固形ガンは非小細胞肺ガンである。
【0023】
本発明の一態様では、患者は、病期Iのガンなどの初期のガン患者である。
【0024】
本発明の一代替態様では、患者は、進行期のガン(最大で病期IIIbのガン)を有する手術可能な患者である。
【0025】
乳ガンおよび結腸直腸ガンの病期は、例えばUICC. TNM Classification of Malignant Tumours. 6th ed. Sobin LH, Wittekind Ch (eds) Wiley-Liss: New York, 2002に定義されている。
【0026】
本発明の一態様では、患者は、化学療法および/または放射線療法などの、ネオアジュバント療法もアジュバント療法も受けなかった初期のガン患者である。
【0027】
本発明の一代替態様では、患者は、化学療法および/または放射線療法などの、ネオアジュバント療法と共にまたはネオアジュバント療法なしにアジュバント療法を受けている、進行期のガン患者である。
【0028】
以下に、以下の実施例ならびに表および図面によって本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】Ti−BALT内外のB細胞サブセットの特徴づけを示す図である。パラフィン包埋リンパ節切片(左欄)および肺腫瘍切片(右欄)の単(A〜B、E〜F、M〜N)免疫染色および二重(C〜D、G〜L)免疫染色。Ti−BALTのB細胞領域は、胚中心周辺のIgD+無感作B細胞のマントル(濃灰色、B)によって構成されているので、反応性リンパ節の二次濾胞の特徴を表す。リンパ節と同様に、CD20+胚中心B細胞(濃灰色、D、H、J、L)は、CD23(黒、D)、AID(濃灰色、F)、Ki67(黒、H)、およびBcl6(濃色、J)を発現するが、Bcl2(黒、L)を発現しない。CD138+形質細胞(濃灰色)は、間質反応のみで検出されるが(N)、Ti−BALTでは決して検出されない(データは示さず)。本来の倍率:(A〜D、K〜L)、×100;(E〜J、M〜N)、×200。略語:T=腫瘍胞巣。
図2A】肺腫瘍、通常の二次リンパ器官および末梢血に浸潤しているB細胞サブセットの比較を示す図である。肺腫瘍(n=7)、リンパ節(n=3)および末梢血(n=5)に関するCD19+CD14− B細胞サブセットのフローサイトメトリー分析。3ヶ所でのIgDおよびCD38の発現に基づくB細胞サブセットの代表的なドットプロット(A)および平均(B)。各バーは、異なる試料の平均±SDを表す。部位間のB細胞サブセットの統計的有意性は、マン−ホイットニー検定によって計算した。*:P<0.05。(C)異なる分化段階の無感作B細胞(CD23−CD27−CD38− Bm1およびCD23+CD27−CD38− Bm2、左欄)、胚中心B細胞(CD23−CD27−CD77+CD38+ Bm3およびCD23−CD27−CD77−CD38+ Bm4、中央欄)およびメモリーB細胞(CD23−CD27+CD38+早期Bm5およびCD23−CD27+CD38−後期Bm5、右欄)の比の比較。略語:pre−GC=プレ胚中心;GC=胚中心。
図2B】肺腫瘍、通常の二次リンパ器官および末梢血に浸潤しているB細胞サブセットの比較を示す図である。肺腫瘍(n=7)、リンパ節(n=3)および末梢血(n=5)に関するCD19+CD14− B細胞サブセットのフローサイトメトリー分析。3ヶ所でのIgDおよびCD38の発現に基づくB細胞サブセットの代表的なドットプロット(A)および平均(B)。各バーは、異なる試料の平均±SDを表す。部位間のB細胞サブセットの統計的有意性は、マン-ホイットニー検定によって計算した。*:P<0.05。(C)異なる分化段階の無感作B細胞(CD23−CD27−CD38− Bm1およびCD23+CD27−CD38− Bm2、左欄)、胚中心B細胞(CD23−CD27−CD77+CD38+ Bm3およびCD23−CD27−CD77−CD38+ Bm4、中央欄)およびメモリーB細胞(CD23−CD27+CD38+早期Bm5およびCD23−CD27+CD38−後期Bm5、右欄)の比の比較。略語:pre−GC=プレ胚中心;GC=胚中心。
図2C】肺腫瘍、通常の二次リンパ器官および末梢血に浸潤しているB細胞サブセットの比較を示す図である。肺腫瘍(n=7)、リンパ節(n=3)および末梢血(n=5)に関するCD19+CD14− B細胞サブセットのフローサイトメトリー分析。3ヶ所でのIgDおよびCD38の発現に基づくB細胞サブセットの代表的なドットプロット(A)および平均(B)。各バーは、異なる試料の平均±SDを表す。部位間のB細胞サブセットの統計的有意性は、マン−ホイットニー検定によって計算した。*:P<0.05。(C)異なる分化段階の無感作B細胞(CD23−CD27−CD38− Bm1およびCD23+CD27−CD38− Bm2、左欄)、胚中心B細胞(CD23−CD27−CD77+CD38+ Bm3およびCD23−CD27−CD77−CD38+ Bm4、中央欄)およびメモリーB細胞(CD23−CD27+CD38+早期Bm5およびCD23−CD27+CD38−後期Bm5、右欄)の比の比較。略語:pre−GC=プレ胚中心;GC=胚中心。
図3A】NSCLC患者におけるTi−BALT B細胞の予後値を示す図である。(A)DC−Lamp+成熟DCの密度と濾胞CD20+ B細胞の密度との間の相関(どちらの集団もTi−BALTに位置する)。CD20+濾胞B細胞(B)、DC−Lamp+成熟DC(C)、および両方の細胞集団(D)の密度別の、初期NSCLC患者74人についての疾患特異的生存率のカプラン−マイヤー曲線。P値は、ログランク検定を用いて決定した。略語:DSS=疾患特異的生存率。
図3B】NSCLC患者におけるTi−BALT B細胞の予後値を示す図である。(A)DC−Lamp+成熟DCの密度と濾胞CD20+ B細胞の密度との間の相関(どちらの集団もTi−BALTに位置する)。CD20+濾胞B細胞(B)、DC−Lamp+成熟DC(C)、および両方の細胞集団(D)の密度別の、初期NSCLC患者74人についての疾患特異的生存率のカプラン−マイヤー曲線。P値は、ログランク検定を用いて決定した。略語:DSS=疾患特異的生存率。
図3C】NSCLC患者におけるTi−BALT B細胞の予後値を示す図である。(A)DC−Lamp+成熟DCの密度と濾胞CD20+ B細胞の密度との間の相関(どちらの集団もTi−BALTに位置する)。CD20+濾胞B細胞(B)、DC−Lamp+成熟DC(C)、および両方の細胞集団(D)の密度別の、初期NSCLC患者74人についての疾患特異的生存率のカプラン−マイヤー曲線。P値は、ログランク検定を用いて決定した。略語:DSS=疾患特異的生存率。
図3D】NSCLC患者におけるTi−BALT B細胞の予後値を示す図である。(A)DC−Lamp+成熟DCの密度と濾胞CD20+ B細胞の密度との間の相関(どちらの集団もTi−BALTに位置する)。CD20+濾胞B細胞(B)、DC−Lamp+成熟DC(C)、および両方の細胞集団(D)の密度別の、初期NSCLC患者74人についての疾患特異的生存率のカプラン−マイヤー曲線。P値は、ログランク検定を用いて決定した。略語:DSS=疾患特異的生存率。
図4】ネオアジュバント化学療法を受けた末期NSCLC患者における成熟DCの予後値を示す図である。腫瘍浸潤DC−Lamp+成熟DCの密度別の、患者56人の疾患特異的生存率のカプラン−マイヤー曲線。ログランク検定を用いて2群の患者間での有意差を評価した。低DC−Lamp腫瘍を有する患者についてのDSS中央値は17ヶ月であったが、一方で高DC−Lamp腫瘍を有すると特徴づけられた患者については36ヶ月であった。<0.05の場合にP値は有意。
図5】ネオアジュバント化学療法を受けた末期NSCLC患者における腫瘍浸潤濾胞B細胞および/または成熟DCの予後値を示す図である。腫瘍浸潤性(A)CD20+濾胞B細胞、(B)DC−Lamp+成熟DC、または(C)CD20+濾胞B細胞およびDC−Lamp+成熟DCの両方の高または低密度の存在別の、ネオアジュバント化学療法によって処置された進行期NSCLC患者122人の全生存率のカプラン−マイヤー曲線。ログランク検定を用いて患者群間の有意差を評価した。<0.05の場合にP値は有意。略語:OS=全生存率。
【0030】

表1.「低Foll−B細胞」腫瘍を有する患者と「高Foll−B細胞」腫瘍を有する患者における臨床パラメーター、組織パラメーターおよび免疫パラメーター
それぞれTNM病期分類システム(Piemonte. NY, Wiley-Liss, 2002)およびWHO組織分類(Brambilla et al., Eur Respir. J., 2001)にしたがって、肺ガンの病期および組織型を決定した。略語:NSCLC=非小細胞肺ガン;ADC=腺ガン;SCC=扁平上皮ガン;pTNM=病理学的TNM。全てのパラメーターは74例の初期NSCLCの間で評価した。P値は、フィッシャー正確確率検定およびボンフェローニ−ダン検定を用いて得られた。略語:SEM=測定値の標準誤差
【0031】
【表1】
【0032】
表2.後ろ向き試験に算入されたNSCLC患者の臨床特徴および病理学的特徴
肺ガンの病期分類および組織型は、それぞれTNM病期分類システム(Piemonte. NY, Wiley-Liss, 2002)およびWHO組織分類(Brambilla et al., Eur Respir. J., 2001)にしたがって決定した。略語:NSCLC=非小細胞肺ガン;ADC=腺ガン;SCC=扁平上皮ガン;pTNM=病理学的TNM。
【0033】
【表2】
【0034】
表3.ネオアジュバント化学療法によって処置された進行疾患患者に関する単変量解析における生存期間についての予後パラメーター
【0035】
【表3】
【0036】
実施例
以下の説明において、詳細なプロトコールが示されていない全ての分子生物学実験は、標準プロトコールにしたがって行われている。
【0037】
略語
ADC=腺ガン;BALT=気管支関連リンパ系組織;DC=樹状細胞;NSCLC=非小細胞肺ガン;SCC=扁平上皮ガン;TIL=腫瘍浸潤リンパ球。
【0038】
実施例1
概要
本研究の目的は、防御液性免疫応答がTi−BALT内で起こるかどうかを決定することであった。
【0039】
本実施例において本発明者らは、一連のNSCLC患者104人に関して補足的アプローチ(免疫組織化学検査、フローサイトメトリー、レーザキャプチャーマイクロダイセクション、PCR低密度アレイ)を使用することによってB細胞の分化およびTi−BALTへの移動を研究した。本発明者らは、Ti−BALTのB細胞濾胞が古典的二次リンパ器官と同じ細胞組成および組織化を表すことを示した。腫瘍浸潤B細胞の中から全ての分化段階を検出することができた。関心がもたれることに、主要なB細胞区画は、エフェクター細胞(メモリーB細胞および形質細胞)を含む区画であった。本発明者らは、また、体細胞突然変異およびアイソタイプスイッチ機構がBm3細胞およびBm4細胞の存在に応じてTi−BALTのB細胞濾胞内で活性化することを示した。本発明者らは、また、この移動を編成している化学誘引物質を同定するために、Ti−BALTへのB細胞動員を研究した。関心がもたれることに、腫瘍内のPNAd+高内皮性細静脈は、Ti−BALTのみと関連していた。通常の二次リンパ器官について報告されたのと同様に、PNAd+リガンドであるCD62Lは、胚中心B細胞以外の全てのB細胞を含む大部分のTi−BALTリンパ球上から選択的に検出された。ケモカインレセプタープロファイルの分析から、CXCR5が無感作B細胞によって発現されることが示された。これは、その独特なリガンドであるCXCL13がTi−BALTのB細胞領域内に発現していることに対応している。最終的に、完全に分化したB細胞上ではCXCR5の発現が減少した。これは、リンパ節において以前に記載されたように、エフェクター細胞を胚中心から離れさせる公知の重要な調節過程である。
【0040】
最終的に本発明者らは、Ti−BALT B細胞の密度が肺ガン患者についての長期生存と相関することを実証した。
【0041】
まとめると、これらのデータは、Ti−BALTが適応免疫応答の誘導およびメモリー樹立に専門化された部位である古典的リンパ器官と強い類似性を表すことを示している。したがって、Ti−BALTは、防御液性免疫を開始するための活性部位に相当する。濾胞B細胞の定量は、高リスク患者の同定を可能にするであろう。
【0042】
材料および方法
患者
新鮮肺腫瘍試料およびパラフィン包埋肺腫瘍試料は、Institut Mutualiste Montsouris病院、Hotel Dieu病院、Tenon病院およびEuropean Georges Pompidou病院(Paris, France)で手術を受けているNSCLC患者から得た。患者の術前評価には、肺、脳、および副腎のCTスキャンならびに肝臓超音波検査が含まれた。全ての患者は、多重レベルリンパ節サンプリングまたはリンパ節切除を含めた腫瘍の完全な外科的切除を受けたが、術前化学療法も術前放射線療法も受けた患者はいなかった。Eastern Cooperative Oncology Groupのパフォーマンスステータス(Finkelstein et al., JCO, 1988)≦1の患者が適格であった。後ろ向き試験のために、1998から2002年の間に初期NSCLCを有すると診断された(Mountain, Cancer Chest, 1997)一連の患者74人から、腫瘍および隣接する肺実質の代表的な領域を有するパラフィン包埋腫瘍生検を回収した。後ろ向き試験のための患者の主な臨床特徴および病理学的特徴を表2に示す。混合型の組織学的特徴、T3腫瘍または胸膜浸潤を有する患者は不適格であった。試験の完了時に、コホートに算入された最後の患者についての最短の臨床経過観察は48ヶ月であった。非腫瘍性リンパ節は、心臓病を患う患者から手術後に得た。末梢血は、「国立輸血センター(Centre National de la Transfusion Sanguine)」(Paris, France)で健康志願者から得た。プロトコールは、フランス法律L.1121−1条を適用して地域のヒト対象研究倫理委員会(番号2008−133)および公的扶助パリ病院(Assistance Publique-Hopitaux de Paris)(AP−HP)によって承認された。試験への算入前に患者から書面のインフォームドコンセントを得た。
【0043】
免疫組織化学検査
パラフィン包埋肺腫瘍の連続5μm組織切片を脱パラフィンし、再水和させ、抗原賦活化に適した緩衝液中で前処理した。次に、切片を5%ヒト血清と共に30分間インキュベーションし、その後適切な抗体またはアイソタイプ対照を添加した。以前に記載されたように酵素活性を明らかにした(MCD, JCO, 2008)。必要ならば、切片をヘマトキシリンで対比染色した。Nikon NIS Elements BRソフトウェアで作動させたNikon Eclipse 80i顕微鏡(Nikon, Champigny-sur-Marne, France)を使用して画像を取得した。
【0044】
細胞定量方法
細胞定量は、Nikon NIS Elements BRソフトウェアで作動させたNikon Eclipse 80i顕微鏡を使用して組織切片全体(本来の倍率:×100)の腫瘍領域から定量的に測定した。Ti−BALTの濾胞B細胞の密度は、腫瘍中倍率1視野(IPF)あたりの濾胞CD20+ B細胞表面積として表現し、SEMを計算した。DC−Lamp成熟DC数は、上記細胞数よりも少なく、本発明者らは定量的な計数を実現することができた(腫瘍IPFあたりの平均DC+SEM計算値)。病理学者による標準的な評価により、壊死および線維化は腫瘤切片全体に対する陽性領域のパーセンテージとして計数した。
【0045】
腫瘍浸潤リンパ球の濃縮
新鮮な肺腫瘍標本を機械的に解離させ、非酵素溶液(Cell Recovery solution, BD Biosciences, Le Pont-de-Claix, France)に入れて4℃で1時間インキュベーションした。次に、70μmフィルター(BD Biosciences)に細胞懸濁液を通過させて濾過し、単核細胞をFicoll Hypaque上で遠心分離することによって単離した。
【0046】
フローサイトメトリー
B細胞マーカーに対する抗体を使用して多重染色を行った。簡潔には、2%ヒト血清を浸潤させた後、単核細胞を一次抗体または適切なアイソタイプ対照と共に暗条件において+4℃で30分間インキュベーションした。次に、細胞を洗浄し、1%ホルムアルデヒド中で固定後、LSRII血球計算器(BD Biosciences)で分析した。フローサイトメトリーのデータはDivaソフトウェア(BD Biosciences)で解析した。
【0047】
腫瘍浸潤B細胞のex vivo培養
総腫瘍浸潤B細胞をポジティブ選択により単核細胞から単離した。簡潔には、細胞を抗CD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)の存在下でインキュベーションし、次にMacsカラム(Miltenyi Biotec)上にロードした。新鮮単離されたB細胞を、パンソルビン(Staphylococcus aureus細胞抽出物、Calbiochem)またはマウスCD40リガンドをトランスフェクションされた線維芽細胞系(CD40−L L細胞は親切にもSchering-Plough, Laboratory for Immunological Research, Dardilly, Franceによって提供された)の存在下で培養した。上清を3日毎に9日目まで回収し、凍結保存した。
【0048】
統計解析
統計解析のために考慮された変数には、臨床パラメーター(年齢、性別、喫煙、腫瘍の再発、および生命状態)、組織病理学的パラメーター(組織学、pTNM、腫瘍の分化度、原発腫瘍の位置、壊死、線維化、腫瘍の増殖)および免疫学的パラメーター(上記マーカー参照)が含まれた。単変量解析を行うために、以下のカットオフが指定された陽性細胞密度の二峰性分布に応じて患者の群を定義した。(濾胞CD20+ B細胞:0.029mm2/腫瘍IPF、DC−Lamp:平均細胞1.65個/腫瘍IPF)。イエーツの補正を行うχ2乗検定およびANOVA検定(フィッシャーおよびボンフェローニ法を用いた事後検定)を単変量解析に使用した。疾患特異的生存率(DSS)曲線は、カプラン−マイヤー法によって推定し、患者群間の有意差はログランク検定によって評価した。OSに影響を及ぼす事象は任意の原因による死亡と、DSSに影響を及ぼす事象はNSCLCによる死亡と、DFSに影響を及ぼす事象は原発腫瘍の再発と定義した。統計解析はStatViewソフトウェアを使用して行った。P値<0.05を統計的に有意と見なした。
【0049】
結果
1 Ti−BALTは二次リンパ器官において観察されたものと同じ免疫細胞の代表団を含む
Ti−BALTのB細胞区画の役割を研究するために、本発明者らは最初に、免疫組織化学検査によってB細胞およびB細胞がこれらの三次リンパ系構造内で接触しているであろう他の免疫細胞を特徴づけた。通常のリンパ器官において記載されたのと同様に、本発明者らは、CD3+ T細胞およびDC−Lamp+成熟DCは密集してT細胞に富む領域を形成するが、大部分のCD20+B細胞はB濾胞内に隔離されていることを観察した。B細胞領域内に異なる非B細胞が存在した。本発明者らは、CD3+T細胞(おそらく濾胞ヘルパーT細胞を表す)、濾胞樹状細胞(ネットワークを構築している)、および専門集団のCD68+マクロファージ(タンジブルボディーマクロファージとも呼ばれる)が少数しかないことを検出した。
【0050】
結論として、Ti−BALT内への免疫細胞の隔離は、二次リンパ器官において観察されたものと同じであり、これは、免疫応答がヒト肺ガンの異所性リンパ系構造内で起こりうることを示唆している。
【0051】
2 Ti−BALTのB細胞領域は進行中の液性免疫応答の特徴を有する
T細胞領域とB細胞領域との隔離は、高親和性クラススイッチ抗体およびメモリー液性免疫応答の両方の発生に絶対に必要である。したがって本発明者らは、肺腫瘍内のB細胞の分化段階を判定し、それを二次リンパ器官と比較した。免疫組織化学検査により、本発明者らは最初に、D. Capra博士(Pascual et al., J. Exp. Med., 1994)によって提唱されたBm分類にしたがってB細胞サブセットを特徴づけた。リンパ節の二次濾胞において観察されたのと同様に(図1A)、本発明者らは、マントルと呼ばれる限られた領域内にIgD+無感作B細胞が蓄積していることを示した(図1B)。このマントルは、CD23+細胞の存在によって確定されるように胚中心(GC)を取り巻き、濾胞樹状細胞およびBm2無感作B細胞のネットワークを含んでいた(図1C〜D)。GC−B細胞は、また、免疫グロブリン(Ig)遺伝子の体細胞超突然変異、クラススイッチ組換えおよび遺伝子変換に重要な酵素であるAIDの発現によって特徴づけられた(図1E〜F)。同様に、Ti−BALTおよびリンパ節においてGC−B細胞は増殖マーカーKi67(図1G〜H)およびBcl6(図1I〜J)に対して陽性であったが、抗アポトーシスタンパク質Bcl2(図1K〜L)を発現しなかった。リンパ節で見られた状況と一致して(図1M)、CD138の発現に基づきTi−BALTのB濾胞から形質細胞(PC)は検出されなかった(データは示さず)。しかし、腫瘍の間質および線維化部からCD138+ PCが観察された(図1N)。
【0052】
次に本発明者らは、さらに、フローサイトメトリーによって腫瘍内B細胞サブセットの比率をリンパ節および末梢血と比較した。総CD19+細胞間のIgDおよびCD38の発現別に、NSCLCにおける5種のB細胞サブセットの分布は、リンパ節および血液と完全に異なった(図2A)。血液およびLN−B細胞は、主に無感作表現型およびメモリー表現型(それぞれ低IgD+CD38無感作B細胞、低IgD−CD38メモリーB細胞)であった。血液およびリンパ節とは対照的に、B細胞分化の各段階がNSCLCから検出された。本発明者らは、NSCLC中のメモリーB細胞およびPCのパーセンテージが他の2つの部位よりも統計的に高く、無感作B細胞のパーセンテージは低かったことを示した(図2B;血液、リンパ節およびNSCLC中のメモリー細胞は18%、48%、および62%;PCは1%、0.5%および28%;無感作B細胞は75%、42%および4%)。追加的なB細胞マーカー(CD23、CD27、CD77)のディファレンシャルな発現から、本発明者らはNSCLCおよびリンパ節中の無感作B細胞(Bm1およびBm2)、GC B細胞(Bm3およびBm4)およびメモリーB細胞(早期Bm5および後期Bm5)のサブセットの分布を研究することができた。図2Cに示すように、2つの部位間の主な差異は、肺腫瘍でBm1の方に傾いていた比Bm1/Bm2であった。分析されたその他の比(Bm3/Bm4および早期Bm5/後期Bm5)は、2つの解剖学的部位で統計的に違いはなかった。
【0053】
まとめると、これらのデータは、腫瘍浸潤B細胞の分化段階がそれらのその場の局在、すなわち異所性リンパ系構造の内か外かに基づくことを実証している。早期分化B細胞は、体細胞突然変異およびアイソタイプスイッチ機構が活性化しているTi−BALTのB濾胞内に組織化される。これは、Ti−BALTがメモリーB細胞および抗体分泌細胞の生成のための活性部位でありうることを示唆している。
【0054】
3 濾胞B細胞の密度は長期生存と相関しており、その予後値は成熟DCの密度と関連されると高まる
一部の肺腫瘍における反応性B濾胞の存在が、本発明者らを反応性B濾胞の免疫学的機能を検討するよう促した。本発明者らは、成熟DCの密度が良好な臨床転帰と関連したことを示したので(Dieu-Nosjean et al., J. Clin. Oncol., 2008)、本発明者らは、濾胞B細胞および成熟DCの密度が相互におよびそれらの予後値と相関するかどうかを検討した。たとえ濾胞B細胞の密度の全体的な増加が成熟DCの密度の全体的な増加と関連したとしても、これらの2つのパラメーターは統計的に互いに関係せず(R=0.1224)、それらの相互の独立性を示唆していることを図3Aに示す。本発明者らは次に、単変量解析によって単独または成熟DCと組み合わせた濾胞B細胞の予後値を検討した。高密度の濾胞B細胞(高Foll−CD20)の患者の間で4年疾患特異的生存率は97%であり、低密度の濾胞B細胞(低Foll−CD20)の患者の間では65%であった(図3B)。したがって、高Foll−CD20の患者は、低Foll−CD20の患者よりも生存期間が長く(P=0.0099)、濾胞B細胞数が予後良好と関連したことを実証している。高Foll−CD20腫瘍の患者と低Foll−CD20腫瘍の患者との間で、識別できる臨床特徴(性別、年齢、喫煙歴)、腫瘍の特徴(腫瘍の分化度、pTNM悪性度分類、線維化、壊死、および増殖性腫瘍細胞)、または組織学的特徴はなかった(表1)。DC−Lamp+成熟DCの密度について類似の結果が得られ(図3C)、これは、両方のプロフェッショナル抗原提示細胞が生存期間を予測したことを示している。本発明者らは、次に、「高DC−Lamp」腫瘍の患者および「高Foll−CD20」腫瘍の患者が同じであったかどうか、ならびに反対に「低DC−Lamp」腫瘍の患者および「低Foll−CD20」腫瘍の患者についても同じであったかどうかを試験した。患者74人のうち、患者31人(患者の42%)は「高DC−Lamp」腫瘍群および「高Foll−CD20」腫瘍群の両方に属し、17人(患者の23%)は「低DC−Lamp」腫瘍群および「低Foll−CD20」腫瘍群の両方に属し、26人(患者の35%)は混合型であった。「混合型Foll−CD20/DC−Lamp」と呼ばれるこの混合型群の中で、患者21人は「高DC−Lamp」腫瘍および「低Foll−CD20」腫瘍を有し、患者5人は「低DC−Lamp」腫瘍および「高Foll−CD20」腫瘍を有すると特徴づけられた。この非重複群の存在は、これら2つのパラメーターの間の独立性に味方するものである。混合型群の各部分群内の患者数が限られることから、本発明者らはこれらの患者26人を特有の群に入れることを決心した。カプラン−マイヤー曲線は、「高Foll−CD20/DC−Lamp」の患者の100%が48ヶ月の経過観察後に生存していた(患者31人の間で事象なし)ことを示した(図3D)。本発明者らは、腫瘍内の成熟DCおよび濾胞B細胞の両方が低密度の患者(「低Foll−CD20/DC−Lamp」群)が、48ヶ月後の生存患者が38%と、非常に予後不良であったことを見出した(患者17人中6事象)。「混合型Foll−CD20/DC−Lamp」腫瘍を有する患者の生存曲線は、これらの2つの曲線の間で、生存患者が86%であった(患者26人中3事象)。「低Foll−CD20/DC−Lamp」腫瘍を有する患者に関してのみ疾患特異的生存期間中央値に到達した(42ヶ月、P<0.0099)。
【0055】
結論として本発明者らは、腫瘍浸潤濾胞B細胞の密度が初期NSCLCにおける疾患特異的生存期間を高度に予測することを実証した。各細胞型の密度に比べ、成熟DCと濾胞B細胞とを組み合わせると、全く無事象の患者群および最も多い事象を有する群の同定が可能になる。
【0056】
実施例2
1 ネオアジュバント化学療法によって処置された患者における濾胞B細胞および成熟樹状細胞の予後値
初期NSCLCを有する患者の5年生存率は70%であり、末期転移性NSCLCでは15%に低下する。研究から、2剤組み合わせが単剤処置よりも有効であることが示された(Schiller et al., 2000)。現在、北米およびヨーロッパの多くの病院で進行型NSCLCを有する患者はネオアジュバント多剤化学療法(シスプラチン+ゲムシタビンまたはカルボプラチン+パクリタキセル)を受けている(Bunn et al., 2002 ; Rosell et al., 2002)。今や、ますます多くの初期肺ガン患者もネオアジュバント化学療法を受けている。2剤組み合わせの奏功率は、進行型NSCLCで20〜30%の間である。最近の報告は、細胞傷害薬が腫瘍細胞をターゲティングするだけでなく、腫瘍の微小環境内で免疫応答の発生を促進することによって腫瘍のコントロールを間接的に促進することができると示している(Zitvogel et al., 2008に総説)。
【0057】
肺ガンは、腫瘍細胞および間質成分、すなわち脈管構造、結合組織および免疫浸潤細胞を含有する。免疫細胞浸潤物のうちの一部は、DC、B細胞およびマクロファージのように、プロセッシングされた抗原の提示を専門とする。近年、本発明者らは、異なるDCサブセット(上皮ランゲルハンス細胞、間質性DCおよび成熟DC)の密度が、NSCLC患者における転帰良好と関連したことを示した(Dieu-Nosjean et al., 2008; Fridman et al., 2011)。今回、本発明者らは成熟DCの密度が、ネオアジュバント化学療法によって処置された進行型NSCLC患者についての長期生存とさらに相関することを示す(n=患者56人、P=0.0373、図4参照)。
【0058】
Ti−BALTは化学療法によって処置された患者に存在するので、別の抗原提示細胞集団であるB細胞の密度が、化学療法によって処置された患者の転帰と関連する可能性がある。B細胞の密度は、2剤組み合わせの種類によっても影響されうる。したがって、B細胞マーカーは処置に対する臨床応答と相関するであろう。このバイオマーカーは、処置に応答するであろう患者と、応答しないであろう患者とを識別するために使用することができ、したがってより合理的でターゲティングされた治療計画が可能になる。
【0059】
実施例3
本実施例において本発明者らは、濾胞B細胞、成熟DC、または両方の種類の免疫細胞の組み合わせのいずれかの予後値を、進行期NSCLC有しネオアジュバント化学療法によって処置された患者122人の後ろ向き研究において評価した。本発明者らは、各免疫パラメーターの密度が転帰良好と相関したことを実証した。カプラン−マイヤー曲線から、CD20+濾胞B細胞の密度がより長い全生存期間と関連したことが示された(OS、P=0.007)(図5A)。高Foll−CD20腫瘍を有すると特徴づけられた患者について、OS中央値は55ヶ月であり、一方、低Foll−CD20腫瘍を有する患者についてOS中央値は18ヶ月であった。DC−Lamp+成熟DCの密度も、より良好な臨床転帰と相関した(図5B、P=0.04)。高DC−Lamp腫瘍を有する患者について、OS中央値は55ヶ月であり、低DC−Lamp腫瘍を有する患者についてOS中央値は24ヶ月であった。
【0060】
Foll−CD20およびDC−Lampが患者の生存期間にポジティブに影響するので、本発明者らは各マーカーの高/低密度別に患者を3群に層別化した(高Foll−CD20/DC−Lamp、混合型Foll−CD20/DC−Lamp、および低Foll−CD20/DC−Lamp)。両種類の免疫集団を高密度で有する患者は、死亡リスクが低かった(OS中央値に到達しなかった)(図5C、P=0.003)。濾胞B細胞および成熟DCの両方を低密度で有する患者は、死亡のリスクが非常に高く(OS中央値は18ヶ月であった)、このことは、両方の免疫マーカーを組み合わせることで、化学療法にかかわらず非常に転帰不良の患者副集団を同定することが可能であることを実証している。「混合型Foll−CD20/DC−Lamp」腫瘍を有する患者は、死亡のリスクが中等度であった(OS中央値は34ヶ月であった)。
【0061】
これらのデータは、単変量解析に基づいた(表3)が、各免疫細胞型の密度が、化学療法によって処置された患者の生存期間と高度に関連することを示している(Foll−CD20ではハザード比(HR)=0.41およびP=0.00095;DC−LampではHR=0.50およびP=0.00721)。より関心がもたれることに、両方のバイオマーカーの組み合わせは、標準的な臨床パラメーターよりも良好な生存期間予測変数であった(HR=0.50、P=0.000097)。
【0062】
まとめると、本発明者らは、CD20マーカーとDC−Lampマーカーとを組み合わせることで、ネオアジュバント化学療法によって処置された進行期NSCLC患者の間で死亡リスクが非常に高い患者を識別することができることを実証した。
【0063】
参考文献
本出願にわたり、本発明が属する技術の現状を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、これによって参照により本開示に組み入れられる。
【表4】

図1-1】
図1-2】
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5