【実施例1】
【0022】
図1〜
図8は、参考例を示す。実施例1の説明の前に、理解を容易にするため参考例を説明する。
【0023】
[ヘッド・サスペンションの概略構成]
図1は圧電素子の電気的接続構造を採用したヘッド・サスペンションの一例を示す概略平面図、
図2はヘッド・サスペンションの斜視図である。
【0024】
図1及び
図2のように、ヘッド・サスペンション1は、本発明参考例の圧電素子3の電気的接続構造4を用いており、基部5にロード・ビーム7を介して先端の読み書き用のヘッド部9を支持している。
【0025】
圧電素子3は、矩形の圧電セラミック、例えば矩形のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる。圧電素子3の一側面には、金メッキにより共通の電極3aが形成され、他側面には、金メッキにより一対の電極3b,3cが形成されている。
【0026】
この圧電素子3は、基部5とロード・ビーム7との間に設けられて電極3a,3b,3cを介した電圧の印加状態に応じて変形し、ロード・ビーム7を介しヘッド部9を基部5に対してスウェイ方向に微少移動させる。
【0027】
基部5は、ステンレスなど導電性のべース・プレート11にステンレスなど導電性の補強プレート13の基端側を重ねて構成されている。ベース・プレート11と補強プレート13との間は、レーザー溶接などにより結合されている。
【0028】
べース・プレート11及び補強プレート13には、両者を貫通する貫通孔15が形成されている。ベース・プレート11には、ボス部17が一体に形成されている。ボス部17は、ボイス・コイル・モータ(図示せず)に取り付けられたキャリッジ(図示せず)の取付穴にスエージングにより取り付けられている。
【0029】
これにより、ヘッド・サスペンション1では、ボイス・コイル・モータによる旋回駆動と圧電素子3によるヘッド部9の微小駆動とを行うことができるようになっている。
【0030】
補強プレート13の先端側には、圧電素子3の取付部19が形成されている。取付部19には、圧電素子3を配置する開口部21が形成され、開口部21内にエッチング処理等による取付フランジ23,25が備えられている。この開口部21内には、圧電素子3が非導電性接着剤により固定されている。開口部21のスウェイ方向両側には、可撓部27a,27bが設けられている。
【0031】
取付部19の先端には、結合部29が形成されている。結合部29と圧電素子3の一対の電極面3b,3cとの間には、銀ペースト等の導電性接着剤31a,31bが塗布されている。この導電性接着剤31a,31bにより補強プレート13と電極面3b,3cとの間が導通接続されている。結合部29には、ロード・ビーム7が結合されている。
【0032】
ロード・ビーム7は、情報の書き込み,読み取りを行う先端側のヘッド部9に負荷荷重を与えるものである。ロード・ビーム7は、例えばステンレス鋼薄板で形成され、剛体部33とばね部35とを含んでいる。
【0033】
ばね部35は、窓37により二股に形成され、厚み方向の曲げ剛性を下げている。ばね部35の基端には、基部5側の結合部29に結合する被結合部39が形成されている。被結合部39は、結合部29にレーザー溶接などにより結合されている。
【0034】
剛体部33の幅方向両縁には、レール部41a,41bが箱曲げにより板厚方向に立ち上げ形成されている。レール部41a,41bは、剛体部33の先端側から基端に渡って設けられている。
【0035】
剛体部33の先端には、ロード・アンロード用のタブ43が設けられ、同先端側にディンプル(図示せず)が設けられている。
【0036】
ヘッド部9のスライダは、配線部材としてのフレキシャ45のタング部45aに支持されている。
【0037】
図3は、フレキシャの端子部周辺を示す一部省略斜視図、
図4は、
図3のフレキシャを反転した一部省略斜視図、
図5は、電気的接続構造の端子部を拡大して示し、(a)は平面図、(b)は(a)のV−V線矢視に係る断面図である。なお、
図3〜
図5のフレキシャは、
図1、
図2のフレキシャと若干形状は異なるが、基本的には同構造である。
【0038】
フレキシャ45は、ばね性を有する薄いステンレス鋼圧延板(SST)などの導電性薄板47に、電気絶縁層49を形成し、この電気絶縁層49に配線部である銅の配線パターン51,53を積層して形成したものである。本参考例では、
図5のように、フレキシャ45の圧電素子側に対する反対側の表面がカバー絶縁層54によって被覆されている。なお、カバー絶縁層54は省略することも可能である。
【0039】
導電性薄板47の厚みは、10〜25μm程度の範囲で、電気絶縁層49の厚みは、5〜15μm程度の範囲で、配線パターン51,53の厚みは、8〜15μm程度の範囲で、カバー絶縁層54の厚みは、1〜5μm程度の範囲で形成される。
【0040】
配線パターン51の一端は、
図1及び
図3のように、ヘッド部9のスライダに支持された書き込み用の端子、読み取り用の端子に導通接続され、配線パターン53の一端には、圧電素子3に対する端子部55が形成されている。この圧電素子3と端子部55との間には、電気的接続構造4が適用されている。なお、配線パターン51及び53の他端には、外部接続用の端子部(図示せず)が設けられている。
【0041】
[電気的接続構造]
図6は、
図1の電気的接続構造のVI−VI線矢視に係る斜視断面図である。
【0042】
図6のように、電気的接続構造4では、端子部55の圧電素子側に対する反対側で、端子部55の接続部56に導電性接着剤63を固着接続している。
【0043】
本参考例の端子部55は、
図3〜
図6のように、その周辺を含めてエッチング処理等により導電性薄板47が除去されている。この端子部55には、円形の貫通孔59が貫通形成されている。
【0044】
貫通孔59は、
図5及び
図6のように、電気絶縁層49及び配線パターン53を貫通し、電気絶縁層49側の絶縁層孔59a及び配線パターン53側の配線孔59bからなっている。絶縁層孔59a及び配線孔59bの径は、同一径に設定されている。ただし、配線孔59bを絶縁層孔59aよりも大径に形成してもよい。
【0045】
従って、貫通孔59は、配線パターン53側の径が電気絶縁層49側の径に対して同一径以上に設定された構成となっている。
【0046】
貫通孔59の周囲には、リング状の接続部56が形成されている。接続部56は、配線パターン53の一部からなっている。接続部56の表面側は、カバー絶縁層54が除去されて外部に露出している。
【0047】
従って、接続部56は、端子部55の圧電素子側に対する反対側で貫通孔59周囲に設けられた構成となっている。
【0048】
接続部56の裏面側は、電気絶縁層49によってカバーされると共に支持されている。これにより、接続部56が端子部55の圧電素子側に露出しないようになっている。
【0049】
端子部55の圧電素子側には、障突部としてのステンレス・リング57が電気絶縁層49から突設されている。ステンレス・リング57は、貫通孔59の周囲で導電性薄板47を部分的に残すことで形成されている。ステンレス・リング57は、接続部56の裏面側で径方向中間部に位置している。
【0050】
導電性接着剤63は、
図6のように、端子部55の接続部56表面から貫通孔59を介して圧電素子3の電極3aにわたって塗布固化されている。固化した導電性接着剤63は、端子部55の両側に位置して全体として略工字状となっている。
【0051】
端子部55の圧電素子側では、導電性接着剤63が圧電素子3の電極3aに固着した第1固着部63aとなっている。第1固着部63aは、ステンレス・リング57が、端子部55と圧電素子3との間で導電性接着剤63の固化前の流れ出しの障害となることで形成される。具体的には、ステンレス・リング57によって圧電素子3の電極3aとの間を狭くし、導電性接着剤63が毛細管現象により両間に入り込んで固化する。
【0052】
これにより、第1固着部63aは、ステンレス・リング57と圧電素子3の電極3aとの間及びステンスレス・リング57の内周側で段付の円柱形状となっている。
【0053】
一方、端子部55の圧電素子側に対する反対側では、導電性接着剤63が端子部55の接続部56に固着した第2固着部63bとなっている。第2固着部63bは、貫通孔59に対して放射方向に突出した円柱形状に形成されている。この第2固着部63bは、その外周側が端子部55の接続部56表面上に位置して固着している。
【0054】
第2固着部63bと第1固着部63aとの間は、貫通孔59内の連結部63cによって一体に連結されている。連結部63cは、絶縁層孔59a及び配線孔59bの内周に固着した円柱形状となっている。
【0055】
従って、導電性接着剤63は、第2固着部63b及び連結部63cが端子部55の接続部56表面及び内周に導通し、第1固着部63aが圧電素子3の電極3aに導通している。この結果、導電性接着剤63は、端子部55の接続部56と圧電素子3の電極3aとの間を導通接続し、端子部55から導電性接着剤63を介して圧電素子3に給電を行わせることができる。
【0056】
給電の際には、導電性接着剤63と端子部55の接続部56との間に熱膨張による応力が発生するが、本参考例では、この応力を低減することができる。
【0057】
すなわち、電気的接続構造4では、端子部55の圧電素子側に対する反対側において、 貫通孔59周囲に設けられた接続部56表面に導電性接着剤63の第2固着部63bが固着している。
【0058】
このため、第2固着部63bを接続部56に対する反対側で開放することができると共に貫通孔59によって接続部56の面方向の強度を低下させることができる。
【0059】
この結果、電気的接続構造4では、接続部56表面に対する拘束の発生を抑制することができ、接続部56と第2固着部63bとの間(界面)の熱膨張による応力を低減することができる。
【0060】
また、接続部56の裏面側では、電気絶縁層49が導電性接着剤63の第1固着部63aに固着し、導電性接着剤63の食い付きを弱くすることができる。これにより、接続部56の裏面側と第1固着部63aとの間でも、熱膨張による応力を低減することができる。
【0061】
なお、圧電素子3の電極3aと導電性接着剤63との間では、熱膨張による相対的に高い応力が発生するが、従来技術と同様に接着強度が相対的に高く、かかる応力にも対抗できる。
【0062】
図7は、電気的接続構造の応力分布を示し、(a)は斜視断面図、(b)は導電性接着剤のみの斜視断面図、(c)は(b)のVII−VII線矢視に係る斜視断面図である。
図7では、圧電素子3と導電性接着剤63との界面及び端子部55の基端側を拘束し、温度を20℃から140℃まで上昇させたときの応力分布の解析結果を示している。なお、
図7では、濃度の濃い部分が応力の高い部分である。
【0063】
図7から明らかなように、電気的接続構造4では、端子部55の接続部56と導電性接着剤63の第2固着部63bとの間での熱膨張による応力を低減できることが確認できた。
【0064】
接続部56の裏面側においても、導電性接着剤63の第1固着部63aとの間での熱膨張による応力を低減できることが確認できた。
【0065】
[参考例の効果]
本参考例の電気的接続構造4では、端子部55に貫通形成された貫通孔59と、端子部55の圧電素子側に対する反対側で貫通孔59周囲に設けられた接続部56とを備え、導電性接着剤63が、貫通孔59を介し接続部56表面から電極3a表面にわたって配置固化している。
【0066】
すなわち、本参考例では、端子部55の圧電素子側に対する反対側で貫通孔59周囲の接続部56表面に導電性接着剤63を固着させることで、接続部56表面に対する拘束の発生を抑制することができる。
【0067】
この結果、本参考例では、接続部56と導電性接着剤63との間(界面)での熱膨張による応力を低減することができ、両者間の剥がれを抑制して電気的接続に対する長期信頼性を確保することができる。
【0068】
本参考例の電気的接続構造4では、フレキシャ45が、圧電素子3の電極3aに対向配置された電気絶縁層49に配線パターン51,53を積層して形成され、端子部55が、貫通孔59が電気絶縁層49及び配線パターン53を貫通し、接続部56が貫通孔59周囲の配線パターン53からなる。
従って、本参考例では、端子部55と導電性接着剤63との間での熱膨張による剥がれを抑制できる電気的接続構造4を確実に実現することができる。
【0069】
貫通孔59は、配線パターン53側の径が電気絶縁層49側の径に対して同径以上に設定されている。
【0070】
このため、本参考例では、接続部56の裏面側を電気絶縁層49によって支持することができ、貫通孔59周囲に位置する接続部56の剛性を向上することができる。
【0071】
しかも、電気絶縁層49が、接続部56の裏面側で導電性接着剤63に固着し、導電性接着剤63の食い付きを弱くすることができる。このため、本参考例では、接続部56の裏面側と導電性接着剤63との間での熱膨張による応力も低減することができる。
【0072】
従って、本参考例では、より確実に端子部55と導電性接着剤63との間での熱膨張による剥がれを抑制して電気的接続に対する長期信頼性を確保することができる。
【0073】
本参考例の電気的接続構造4では、接続部56がリング状であるため、接続部56全体で表面に対する拘束の発生を確実に抑制することができる。
また、本参考例の電気的接続構造4では、電気絶縁層49の圧電素子側で貫通孔59周囲に突設され導電性接着剤63の固化前の流れ出しの障害となるステンレス・リング57を備えている。
【0074】
このため、本参考例では、ステンレス・リング57により、圧電素子3と端子部55との間の導電性接着剤63の均一化を図ることができると共に導電性接着剤63に対する食い付きを強くすることができる。
【0075】
従って、本参考例では、圧電素子3と端子部55との間の接着強度を向上することができる。この結果、上記のように接続部56の裏面側で導電性接着剤63の食い付きを弱くしても、圧電素子3と端子部55との間を確実に接着させることができる。
【0076】
かかる電気的接続構造4を用いたヘッド・サスペンション1は、圧電素子3とフレキシャ45の端子部55との導電接続の信頼性の向上したヘッド・サスペンション1を得ることができ、ヘッド・サスペンション1の高精度の位置決めを信頼性高く達成することができる。
【0077】
[変形例]
本参考例では、
図8のように、ステンレス・リングの形状を変更することも可能である。
【0078】
図8は、本参考例の変形例に係る電気的接続構造の端子部を示す断面図である。なお、変形例においては、上記参考例と基本構成が共通しているため、対応する部分に同符号或いは同符号にAを付して重複した説明を省略する。
【0079】
図8のように、本変形例は、ステンレス・リング57Aの内径を貫通孔59と同径に形成したものである。これに応じて、ステンレス・リング57Aの外径が、参考例と比較して小径に設定されている。
【0080】
このような変形例においても、上記参考例と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
図9は、本発明の実施例1に係る電気的接続構造の斜視断面図である。なお、本実施例においては、上記参考例と基本構成が共通しているため、対応する部分に同符号或いは同符号にBを付して重複した説明を省略する。
【0082】
図9のように、本実施例の電気的接続構造4Bは、ステンレス・リング57Bが、端子部55Bの接続部56に対して積層方向で重ならないようにしたものである。
【0083】
すなわち、ステンレス・リング57Bは、接続部56の外径よりも大きい内径を有するリング状であり、接続部56に対して外側に位置している。本実施例では、ステンレス・リング57Bの内径が、接続部56及び導電性接着剤63Bの第2固着部63Bbの外径と同一径となっている。
【0084】
かかる電気的接続構造4Bでは、接続部56の裏面側にステンレス・リング57Bが位置しないので、接続部56がステンレス・リング57Bによって引っ張られ或いは拘束されることがない。このため、接続部56の全域にわたって、導電性接着剤63Bの第2固着部63Bbとの間の応力を低減することができる。
【0085】
図10は、電気的接続構造の応力分布を示し、(a)は斜視断面図、(b)は導電性接着剤のみの斜視断面図、(c)は(b)のX−X線矢視に係る斜視断面図である。なお、
図10の応力分布は、参考例の
図7と同様にして解析したものであり、濃度の濃い部分が応力の高い部分を示す。
【0086】
ここで、上記参考例では、
図7のように(特に
図7(c)参照)、接続部55と導電性接着剤63の第2固着部63bとの間の応力を低減することはできたものの、ステンレス・リング57に重なる部分で応力の高い部分が残存していた。
【0087】
これに対し、電気的接続構造4Bでは、
図10から明らかなように(特に
図10(c)参照)、端子部55Bの接続部56と導電性接着剤63Bの第2固着部63Bbとの間で生じる応力を全域にわたって低減できることが確認できた。
【0088】
このように、本実施例の電気的接続構造4Bでは、端子部55Bの接続部56と導電性接着剤63Bの第2固着部63Bbとの間で生じる応力を全域にわたって低減できる。従って、本実施例では、より確実に端子部55と導電性接着剤63Bとの間での熱膨張による剥がれを抑制して、電気的接続に対する長期信頼性を確保することができる。
【0089】
また、本実施例では、上記参考例と同様の作用効果も奏することができる。