特許第6116764号(P6116764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6116764
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】タッチパネル用層間充填材料及び積層体
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
   G06F3/041 495
   G06F3/041 400
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-538133(P2016-538133)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2016065641
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-108823(P2015-108823)
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 重一
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】岡林 賞純
【審査官】 池田 聡史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−9421(JP,A)
【文献】 特開2011−74308(JP,A)
【文献】 特開2013−166846(JP,A)
【文献】 特開2014−74122(JP,A)
【文献】 特開2011−162593(JP,A)
【文献】 特開2010−215794(JP,A)
【文献】 特開2016−113467(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/152334(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルと他の部材との層間又は前記タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられるタッチパネル用層間充填材料であって、
ポリビニルアセタール、可塑剤、及び、有機酸を含有し、
前記可塑剤は、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−ピバレート及びジ−(2−ブトキシエチル)アジペートからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記有機酸は、2−エチルヘキシル酸、アジピン酸及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とするタッチパネル用層間充填材料。
【請求項2】
ポリビニルアセタールと可塑剤との合計の含有量が50重量%以上であることを特徴とする請求項1記載のタッチパネル用層間充填材料。
【請求項3】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラールであることを特徴とする請求項1又は2記載のタッチパネル用層間充填材料。
【請求項4】
他の部材が表面保護パネル及び/又は偏光フィルムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のタッチパネル用層間充填材料。
【請求項5】
表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間が、請求項1、2、3又は4記載のタッチパネル用層間充填材料で充填されていることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯情報端末の製造等においてタッチパネルと他の部材との層間又はタッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられ、層間の充填時(貼合時)の加飾印刷部段差又は配線段差への追従性及び層間の充填時(貼合時)に巻き込まれた気泡又は段差付近に残った気泡の脱泡性に優れ、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料、及び、該タッチパネル用層間充填材料を用いて製造された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは様々な分野で用いられており、例えば、スマートフォン、タブレット等の携帯情報端末においては、ガラス等からなる表面保護パネルの下にタッチパネルが配置されており、続いて、偏光フィルム、ディスプレイがこの順で設けられている。
このような携帯情報端末においては、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、及び、タッチパネルと偏光フィルムとの層間を、空気と比較してこれらの部材との屈折率差が小さい充填材料で埋めることにより、表示画面の透明性、輝度、コントラスト等を改善し、視認性を向上させることが行われている。
【0003】
タッチパネル用層間充填材料としては、透明性、粘着性、塗工性等の観点から、アクリル系粘着剤又は粘着テープが多用されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、充填材料としてアクリル系粘着剤又は粘着テープを貼合した場合、貼合時に気泡の巻き込みが発生し、表面保護パネルと充填材料との間に気泡が残存することがあり、視認性又は耐久性を低下させる問題がある。また、表面保護パネルの裏側にはマスキング等を目的として周縁部に印刷部が形成されており、このような印刷部により形成された段差、又は、タッチパネルに形成されている配線の段差の境界部に気泡が残存し、視認性又は耐久性を低下させることが問題となっている。特に、近年、携帯情報端末の小型化、薄型化又は軽量化に伴って薄い充填材料が望まれており、従来のアクリル系粘着剤又は粘着テープでは、薄さと、段差に充分に追従して気泡を残存させない性質(段差追従性)とを両立することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−74308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、携帯情報端末の製造等においてタッチパネルと他の部材との層間又はタッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられ、層間の充填時(貼合時)の加飾印刷部段差又は配線段差への追従性及び層間の充填時(貼合時)に巻き込まれた気泡又は段差付近に残った気泡の脱泡性に優れ、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料、及び、該タッチパネル用層間充填材料を用いて製造された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タッチパネルと他の部材との層間又は前記タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられるタッチパネル用層間充填材料であって、ポリビニルアセタール、可塑剤、及び、有機酸を含有し、前記可塑剤は、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−ピバレート及びジ−(2−ブトキシエチル)アジペートからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記有機酸は、2−エチルヘキシル酸、アジピン酸及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種であるタッチパネル用層間充填材料である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、タッチパネルと他の部材との層間を充填するために用いられるタッチパネル用層間充填材料について、従来多用されてきたアクリル系粘着剤に代わる材料として、可塑化ポリビニルアセタールを用いたシート状のタッチパネル用層間充填材料を検討した。可塑化ポリビニルアセタールは、常温ではタック性が低いことから、常温での打ち抜き加工時には打ち抜き刃に対する糊残りが少ない。一方、加熱しながら圧着することより、加飾印刷部段差や配線段差にも充分に追従することができる。更に、万一落下等の衝撃により携帯情報端末が破損した場合、ガラス等の破片の飛散を抑制する効果も期待できる。
しかしながら、可塑化ポリビニルアセタールを用いたタッチパネル用層間充填材料を用いたタッチパネルを高温高湿下(例えば、温度85℃、湿度85%)に晒すと、タッチパネル用層間充填材料が白化して透明性が低下し、常温に戻しても透明性が回復しないという問題があった。これは、貼り合わせ面の側端部から侵入した水分がタッチパネル用層間充填材料に吸収され、常温に戻した際に結露することによって起こると考えられる。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、タッチパネル用層間充填材料に有機酸を配合することにより、高温高湿下に晒された場合においても白化するのを防止できることを見出した。しかしながら、タッチパネル用層間充填材料に有機酸を配合すると、該有機酸によりタッチパネルのITO膜が劣化してしまうという問題が発生した。
そこで本発明者らは、更に鋭意検討の結果、特定の有機酸、即ち2−エチルヘキシル酸、アジピン酸及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種の有機酸を選択し、これに特定の可塑剤、即ち、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ−ピバレート(3GT)、及び、ジ−(2−ブトキシエチル)アジペート(DBEA)からなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤を組み合わせることにより高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明のタッチパネル用層間充填材料は、ポリビニルアセタール、可塑剤、及び、有機酸を含有する。可塑剤を加えて可塑化したポリビニルアセタールは、アクリル系粘着剤に比べて常温(20℃付近)での貯蔵弾性率及び損失弾性率が高く、常温での打ち抜き加工時には打ち抜き刃に対する糊残りが少ない。一方、加熱(70℃付近)することで貯蔵弾性率及び損失弾性率が大きく低下することから、加熱しながら圧着することより、加飾印刷部段差や配線段差にも充分に追従して、段差の境界部に残存する気泡を除去することができる。
【0010】
上記ポリビニルアセタールは、例えば、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られたポリビニルアルコールを、触媒存在下でアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールの鹸化度は特に限定されないが、一般に70〜99.9モル%の範囲内にあり、鹸化度70〜99.8モル%が好ましく、80〜99.8モル%がより好ましい。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は特に限定されないが、万一落下等の衝撃により携帯情報端末が破損した場合にガラス等の破片の飛散を充分に抑制する(飛散防止性)観点からは分子量の大きなポリビニルアセタールが好適であるため、平均重合度の高いポリビニルアルコールを用いることが好ましい。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は4000である。上記平均重合度が200未満であると、上記可塑化ポリビニルアセタールの機械的強度が低下し、携帯情報端末が破損した場合に破片の飛散を充分に抑制できないことがある。上記平均重合度が4000を超えると、上記ポリビニルアルコールをアセタール化する際に溶液粘度が異常に高くなってアセタール化が困難になることがあり、また、タッチパネル用層間充填材料の成形が困難になることがある。上記平均重合度のより好ましい下限は600、より好ましい上限は3800であり、更に好ましい下限は800、更に好ましい上限は3600である。
【0011】
上記ポリビニルアルコールを触媒存在下でアルデヒドによりアセタール化する際には、上記ポリビニルアルコールを含む溶液を用いてもよい。上記ポリビニルアルコールを含む溶液に用いられる溶媒として、例えば、水等が挙げられる。
【0012】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般的には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。
上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
即ち、上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラール(上記アルデヒドがn−ブチルアルデヒドである場合、上記ポリビニルアセタールをポリビニルブチラールという)であることが好ましい。上記ポリビニルブチラールを用いることにより、タッチパネル用層間充填材料のガラスに対する接着力が適切に発現し、耐光性、耐候性等が向上する。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタールを併用してもよい。
【0013】
追従性及び脱泡性に優れることから、上記ポリビニルアセタールは、分子間架橋が少ないことが好ましい。上記ポリビニルアセタールの分子間架橋が少なければ、上記ポリビニルアセタールの分子量、アセチル基量、アセタール化度等が同じであっても、より段差追従性に優れたタッチパネル用層間充填材料を得ることができる。更に上記ポリビニルアセタールの分子量が大きければ、より優れた飛散防止性を得ることができる。
このような分子間架橋の少ないポリビニルアセタールを得る方法として、例えば、隣接するポリビニルアルコールの主鎖を架橋させないように、上記アルデヒドによるアセタール化反応の前又は途中で上記アルデヒドを過剰に投入しないようにする方法が好ましい。アセタール化に必要な量を超えて上記アルデヒドを投入すると、架橋の度合いが高くなる。
【0014】
上記ポリビニルアセタールの水酸基の含有率(水酸基量)の好ましい下限は16モル%、好ましい上限は45モル%である。上記水酸基量が16モル%以上であれば、タッチパネル用層間充填材料のガラスに対する接着力が向上する。上記水酸基量が45モル%以下であれば、上記ポリビニルアセタールの柔軟性が高くなって取扱い性が向上し、また、上記ポリビニルアセタールと上記可塑剤との相溶性が高くなり、タッチパネル用層間充填材料の段差追従性が向上する。上記水酸基量のより好ましい下限は18モル%、更に好ましい下限は20モル%、特に好ましい下限は22モル%であり、より好ましい上限は40モル%、更に好ましい上限は38モル%、更により好ましい上限は36モル%、特に好ましい上限は35モル%である。
なお、ポリビニルアセタールの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により求めることができる。
【0015】
上記ポリビニルアセタールのアセチル化度(アセチル基量)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記アセチル基量が0.1モル%以上であれば、上記ポリビニルアセタールと上記可塑剤との相溶性が高くなり、タッチパネル用層間充填材料の段差追従性が向上する。上記アセチル基量が30モル%以下であれば、上記ポリビニルアセタールの耐湿性が向上する。また、上記アセチル基量が30モル%を超えると、上記ポリビニルアセタールを製造する際の反応効率が低下することがある。上記アセチル基量のより好ましい下限は0.2モル%、更に好ましい下限は0.3モル%であり、より好ましい上限は24モル%、更に好ましい上限は20モル%、更により好ましい上限は19.5モル%、特に好ましい上限は15モル%である。
なお、ポリビニルアセタールのアセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0016】
上記ポリビニルアセタールのアセチル基量を上記範囲に調整する方法として、例えば、上記ポリビニルアルコールの鹸化度を調整する方法が挙げられる。即ち、上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は、上記ポリビニルアルコールの鹸化度に依存するものであり、鹸化度が低いポリビニルアルコールを用いれば上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は大きくなり、鹸化度が高いポリビニルアルコールを用いれば上記ポリビニルアセタールのアセチル基量は小さくなる。
【0017】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度の好ましい下限は50モル%、好ましい上限は85モル%である。上記アセタール化度が50モル%以上であれば、上記ポリビニルアセタールと上記可塑剤との相溶性が高くなる。上記アセタール化度が85モル%以下であれば、上記ポリビニルアセタールを製造するために必要な反応時間を短縮できる。上記アセタール化度のより好ましい下限は54モル%、更に好ましい下限は58モル%、特に好ましい下限は60モル%である。上記アセタール化度のより好ましい上限は82モル%、更に好ましい上限は79モル%、特に好ましい上限は77モル%である。
なお、ポリビニルアセタールのアセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、アセチル基量とビニルアルコール量(水酸基の含有率)とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、次いで、100モル%からアセチル基量とビニルアルコール量とを差し引くことにより算出されうる。
【0018】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度を調整する方法として、例えば、上記アルデヒドの添加量を調整する方法が挙げられる。上記アルデヒドの添加量を少なくすれば上記ポリビニルアセタールのアセタール化度は低くなり、上記アルデヒドの添加量を多くすれば上記ポリビニルアセタールのアセタール化度は高くなる。
【0019】
上記可塑剤は、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ−ピバレート(3GT)及びジ−(2−ブトキシエチル)アジペート(DBEA)からなる群より選択される少なくとも1種である。これら特定の可塑剤と特定の有機酸とを併用することにより、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料が得られる。なかでも、タッチパネル用層間充填材料の段差追従性が優れていることから、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)が好適である。
【0020】
本発明のタッチパネル用層間充填材料における上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限は5重量部、好ましい上限は75重量部である。上記含有量が上記範囲であれば、層間の充填時(貼り合わせ時)に段差に対するより高い追従性を発揮できるとともに、高温高湿下に晒された場合の白化やITO膜の劣化をより効果的に防止することができる。上記可塑剤の含有量が5重量部未満であると、タッチパネル用層間充填材料の成形性が低下することがある。上記含有量が75重量部を超えると、タッチパネル用層間充填材料の透明性が低下したり、上記可塑剤がブリードアウトしたりすることがある。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は65重量部であり、更に好ましい下限は15重量部、更に好ましい上限は55重量部であり、特に好ましい下限は20重量部、特に好ましい上限は45重量部である。
【0021】
本発明のタッチパネル用層間充填材料において、上記ポリビニルアセタールと可塑剤との合計の含有量は50重量%以上であることが好ましい。上記ポリビニルアセタールと可塑剤との合計の含有量が50重量%未満であると、携帯情報端末が破損した場合に破片の飛散を充分に抑制できなかったり、層間の充填時(貼合時)に段差に気泡が残存したりすることがある。上記ポリビニルアセタールと可塑剤との合計の含有量のより好ましい下限は60重量%、更に好ましい下限は70重量%、特に好ましい下限は80重量%、最も好ましい下限は90重量%である。
【0022】
上記有機酸は、2−エチルヘキシル酸、アジピン酸及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種である。これら特定の有機酸と特定の可塑剤とを併用することにより、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料が得られる。
【0023】
本発明のタッチパネル用層間充填材料における上記有機酸の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は5重量部である。上記有機酸の含有量が上記範囲内であれば、高温高湿下に晒された場合の白化やITO膜の劣化をより効果的に防止することができる。上記有機酸の含有量が0.01重量部未満であると、高温高湿下での白化防止効果が不充分となることがあり、5重量部を超えると、高温高湿下に晒された場合に充填材料と接触しているITO膜を劣化させることがある。上記有機酸の含有量のより好ましい下限は0.02重量部、より好ましい上限は3重量部であり、更に好ましい下限は0.03重量部、更に好ましい上限は1重量部である。
【0024】
本発明のタッチパネル用層間充填材料は、透明性を損なわず本発明の効果を妨げない範囲内で、接着力調整剤、粘着付与樹脂、可塑剤、乳化剤、軟化剤、微粒子、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0025】
本発明のタッチパネル用層間充填材料の形状は特に限定されず、例えば、シート状、フィルム状、液状(分散液状、エマルション状)等が挙げられるが、シート状が好ましい。本発明のタッチパネル用層間充填材料は、たとえ薄い充填材料であっても加飾印刷部段差又は配線段差に充分に追従して、段差の境界部に残存する気泡を除去することができる。
【0026】
本発明のタッチパネル用層間充填材料がシート状である場合の厚みは特に限定されず、用途によって設定されるが、好ましい下限が5μm、好ましい上限が800μmである。上記厚みが5μm未満であると、層間の充填時(貼合時)に段差に気泡が残存しやすくなることがある。上記厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は50μm、更に好ましい上限は300μmであり、特に好ましい下限は100μm、特に好ましい上限は200μmである。
【0027】
本発明のタッチパネル用層間充填材料の製造方法は特に限定されず、例えばシート状である場合には、上記ポリビニルアセタール、可塑剤及び有機酸と、必要に応じて配合される添加剤とを含有する組成物を、押し出し法、塗工法、キャスティング法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜する方法が挙げられる。
【0028】
本発明のタッチパネル用層間充填材料の用途は特に限定されないが、例えば、携帯情報端末(例えば、スマートフォン、タブレット)、LCD、EL、PDP等の画像表示パネルを用いた平面型又はフレキシブル画像表示装置(例えば、電子ペーパー、PDA、TV、ゲーム機)等において、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間に用いられることが好ましい。
【0029】
図1は、本発明のタッチパネル用層間充填材料の使用方法の一例を模式的に示す断面図である。図1においては、表面保護パネル3とタッチパネル2との層間、及び、タッチパネル2と偏光フィルム4との層間が、本発明のタッチパネル用層間充填材料1で充填されている。
図1においては、表面保護パネル3の裏側にはマスキング等を目的として周縁部に加飾印刷部5が形成されているが、本発明のタッチパネル用層間充填材料1は、このような加飾印刷部5により形成された段差にも、タッチパネル2に形成されている配線の段差(図示しない)にも充分に追従して、層間の充填時(貼合時)に段差の境界部に残存する気泡を除去することができる。
【0030】
表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間が、本発明のタッチパネル用層間充填材料で充填されている積層体もまた、本発明の1つである。
上記表面保護パネルは特に限定されず、例えば、ガラス板、ポリカーボネート板、アクリル板等の、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。
上記タッチパネルは特に限定されず、例えば、ITO膜等の複数の層を有するタッチパネル等の、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。上記タッチパネルの構成は特に限定されず、例えば、アウトセル型、インセル型、オンセル型、カバーガラス一体型、カバーシート一体型等が挙げられる。上記タッチパネルの方式も特に限定されず、例えば、抵抗膜式、静電容量式、光学式、超音波式等が挙げられる。
上記偏光フィルムとしても特に限定されず、携帯情報端末、平面型又はフレキシブル画像表示装置等に通常使用されるものを用いることができる。
【0031】
本発明のタッチパネル用層間充填材料を用いて、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間からなる群から選択される少なくとも1種の層間を充填して積層体を製造する方法は特に限定されず、例えば、表面保護パネルとタッチパネルとの層間、タッチパネルと偏光フィルムとの層間、及び、タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間に本発明のタッチパネル用層間充填材料を挟み、70℃付近で予備加熱圧着する方法が挙げられる。また、予備加熱圧着を、真空ラミネータを用いて、例えば1気圧、70℃、30分間の条件で行ってもよい。予備加熱圧着後、オートクレーブ処理(例えば、85℃、0.5MPa以上で30分間)を行うことにより積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、携帯情報端末の製造等においてタッチパネルと他の部材との層間又はタッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられ、層間の充填時(貼合時)の加飾印刷部段差又は配線段差への追従性及び層間の充填時(貼合時)に巻き込まれた気泡又は段差付近に残った気泡の脱泡性に優れ、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料、及び、該タッチパネル用層間充填材料を用いて製造された積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明のタッチパネル用層間充填材料の使用方法の一例を模式的に示す断面図である。
図2】実施例及び比較例で得られたタッチパネル用層間充填材料の高温高湿下でのITO膜の劣化抑制(ITO劣化性)の試験方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜24、比較例1〜30)
(1)ポリビニルブチラールの調製
攪拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度3200、鹸化度88.0モル%のポリビニルアルコールを300g投入し、攪拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。次に、この溶液に触媒として35重量%塩酸を、塩酸濃度が0.6重量%となるように添加し、温度を15℃に調整した後、攪拌しながらn−ブチルアルデヒド(n−BA)14.2gを添加した。その後、n−ブチルアルデヒド(n−BA)186gを添加したところ、白色粒子状のポリビニルブチラールが析出した。析出してから15分後に、35重量%塩酸を、塩酸濃度が3.9重量%になるように添加し、45℃に加熱し、45℃で3時間熟成させた。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラールを水洗し、乾燥させることにより、ポリビニルブチラールを得た。得られたポリビニルブチラールの水酸基量は24.0モル%、アセチル基量は12.0モル%、ブチラール化度(Bu化度)は64.0モル%であった。
【0036】
(2)タッチパネル用層間充填材料の製造
得られたポリビニルブチラール100重量部に対して、可塑剤及び有機酸として表1及び表2に示した種類及び配合量を添加し、充分に混練して混練物を得た。得られた混練物をプレス成型機でプレス成型してシート状に製膜し、厚み200μmのタッチパネル用層間充填材料を得た。
なお、表中、「3G1」はトリエチレングリコールジ−アセタートを、「3GE」はトリエチレングリコールジ−プロパネートを意味する。
【0037】
<評価>
実施例、比較例で得られたタッチパネル用層間充填材料について、下記の方法で評価を行った。
結果を表1及び表2に示した。
【0038】
(1)脱泡性の評価
76mm×52mm、厚み1.0〜1.2mmの白板ガラス(松浪硝子社製、S9112)に白板ガラスと同サイズにカットしたタッチパネル用層間充填材料の片面を貼付し、タッチパネル用層間充填材料のもう一方の面を白板ガラスと同サイズにカットしたITO−PETフィルム(ITOをコーティングしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に貼付し、ガラス/タッチパネル用層間充填材料/ITO−PETフィルム構成体を作製した。このとき、ガラスとタッチパネル用層間充填材料との界面に気泡を封入した。
次いで、この構成体を70℃、1気圧の真空ラミネータで30分間予備加熱圧着し、次いで70℃、0.5MPaのオートクレーブに入れて30分間加熱し、30℃以下にしてから解圧して、ガラスとITO−PETフィルムとの層間がタッチパネル用層間充填材料で充填されている積層体を得た。
得られた積層体をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)にて観察し、気泡の残存が認められなかった場合を「○」と、気泡の残存が認められた場合を「×」と評価した。
【0039】
(2)段差追従性の評価
76mm×52mm、厚み1.0〜1.2mmの白板ガラス(松浪硝子社製、S9112)に、外枠76mm×52mm、内枠56mm×32mmのロの字型の額縁状の厚み100μmの片面粘着剤を貼付し段差を作製した。
タッチパネル用層間充填材料を76mm×52mmにカットし、白板ガラスのロの字型の額縁状段差を貼付している面に貼付し、更に、ITOがコーティングされたポリエチレンテレフタレートフィルム(ITO−PET、積水ナノコートテクノロジー社製)を76mm×52mmにカットし、タッチパネル用層間充填材料に貼付した。それぞれ貼合する際にはできる限り気泡が入らないようにした。
次いで、この構成体を70℃、1気圧の真空ラミネータで30分間予備加熱圧着し、次いで70℃、0.5MPaのオートクレーブに入れて30分間加熱し、30℃以下にしてから解圧して、ガラスとITO−PETフィルムとの層間がタッチパネル用層間充填材料で充填されている積層体を得た。
得られた積層体をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)にて観察し、段差部分に気泡が認められなかった場合を「○」と、段差部分に気泡が認められた場合を「×」と評価した。
【0040】
(3)高温高湿下でのITO膜の耐劣化性の評価
図2に、タッチパネル用層間充填材料の高温高湿下でのITO膜の劣化抑制(ITO劣化性)の試験方法を説明する模式図を示した。
図2に示したように、まず、表面にITO膜が形成された導電性フィルム(幅25mm、長さ120mm)6の長さ方向の両端15mmに銀ペーストを塗布し、加熱乾燥して銀層(銀電極部)7を形成した。その後、銀層7を形成した導電性フィルム6を、ガラス板8に貼り付けた。次いで、タッチパネル用層間充填材料(幅30mm、長さ100mm)9を両方の銀層7に接するように貼付して、70℃、0.5MPaのオートクレーブで30分処理し、評価用サンプルを作製した。
なお、評価用サンプルは、図2に示すように、導電性フィルム6、銀層7、ガラス板8及びタッチパネル用層間充填材料9から構成される。
【0041】
テスター10により評価用サンプルの両方の銀層7間の抵抗値を測定して、これを「ITO抵抗値(初期)」とした。その後、評価用サンプルを温度85℃、湿度85%の環境に投入し、250時間高温高湿処理した。処理後、テスター10により評価用サンプルの両方の銀層7間の抵抗値を測定して、これを「ITO抵抗値(高温高湿処理後)」とした。
「ITO抵抗値(高温高湿処理後)」/「ITO抵抗値(初期)」の値を算出し、該数値が10以下の場合を「○」と、10を超え、15以下の場合を「△」と、15を超えた場合を「×」と評価した。
【0042】
(4)高温高湿下での耐白化性の評価
76mm×52mm、厚み1.0〜1.2mmの白板ガラス(松浪硝子社製、S9112)に白板ガラスと同サイズにカットしたタッチパネル用層間充填材料の片面を貼付し、タッチパネル用層間充填材料のもう一方の面を白板ガラスと同サイズにカットしたITO−PETフィルム(ITOをコーティングしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に貼付し、ガラス/タッチパネル用層間充填材料/ITO−PETフィルム構成体を作製した。それぞれ貼合する際にはできる限り気泡が入らないようにした。
次いで、この構成体を70℃、1気圧の真空ラミネータで30分間予備加熱圧着し、次いで70℃、0.5MPaのオートクレーブに入れて30分間加熱し、30℃以下にしてから解圧して、ガラスとITO−PETフィルムとの層間がタッチパネル用層間充填材料で充填されている積層体を得た。
得られた積層体を温度85℃、湿度85%の環境に投入し、250時間高温高湿処理した。処理後、積層体を取り出して30分間静置した後、ヘイズメーター(東京電色社製、ヘイズメーターTC―HIIIDPK)を用いてヘイズ値を測定した。ヘイズ値が1.0%以下であった場合を「○」と、1.0%を超えた場合を「×」と評価した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、携帯情報端末の製造等においてタッチパネルと他の部材との層間又はタッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられ、層間の充填時(貼合時)の加飾印刷部段差又は配線段差への追従性及び層間の充填時(貼合時)に巻き込まれた気泡又は段差付近に残った気泡の脱泡性に優れ、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料、及び、該タッチパネル用層間充填材料を用いて製造された積層体を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 本発明のタッチパネル用層間充填材料
2 タッチパネル
3 表面保護パネル
4 偏光フィルム
5 加飾印刷部
6 導電性フィルム
7 銀層(銀電極部)
8 ガラス板
9 タッチパネル用層間充填材料(幅30mm、長さ100mm)
10 テスター
【要約】
本発明は、携帯情報端末の製造等においてタッチパネルと他の部材との層間又はタッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられ、層間の充填時(貼合時)の加飾印刷部段差又は配線段差への追従性及び層間の充填時(貼合時)に巻き込まれた気泡又は段差付近に残った気泡の脱泡性に優れ、高温高湿下に晒された場合においても白化することなく、かつ、ITO膜を劣化させることもないタッチパネル用層間充填材料、及び、該タッチパネル用層間充填材料を用いて製造された積層体を提供することを目的とする。
本発明は、タッチパネルと他の部材との層間又は前記タッチパネルを構成する複数の透明導電フィルムの層間を充填するために用いられるタッチパネル用層間充填材料であって、ポリビニルアセタール、可塑剤、及び、有機酸を含有し、前記可塑剤は、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−ピバレート及びジ−(2−ブトキシエチル)アジペートからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記有機酸は、2−エチルヘキシル酸、アジピン酸及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種であるタッチパネル用層間充填材料である。
図1
図2