特許第6116811号(P6116811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116811
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】塗工白板紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/58 20060101AFI20170410BHJP
   D21H 23/48 20060101ALI20170410BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   D21H19/58
   D21H23/48
   D21H19/44
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-73048(P2012-73048)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204174(P2013-204174A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】宮地 絢香
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一彦
(72)【発明者】
【氏名】畠山 清
(72)【発明者】
【氏名】川島 正典
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/105552(WO,A1)
【文献】 特開2004−204409(JP,A)
【文献】 特表2004−520496(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115167(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含む塗工液から形成されるカーテン膜に原紙を通すことにより原紙上に塗工層を形成することを含む、塗工白板紙の製造方法であって、
前記塗工液が、重量平均分子量が400万〜5000万のポリカルボン酸系共重合物のW/O型エマルジョンからなる粘性改良剤およびアニオン性界面活性剤を含有し、
当該ポリカルボン酸系共重合体の量が顔料100重量部に対して0.02〜0.2重量部であり、
前記塗工液の固形分濃度が50〜75重量%であり、
塗工速度が100〜390m/分であり、
前記塗工白板紙の顔料塗工量が10〜30g/mである、前記方法。
【請求項2】
前記塗工速度が、100〜350m/分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系共重合物がアクリルアミド系共重合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記界面活性剤がアルキルスルホン酸系界面活性剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙を配合した多層抄き原紙に顔料塗工層を設ける塗工白板紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白板紙は、通常2層以上の多層原紙からなり、各種包装箱等に使用されている。原紙表層には白色度が高く高価な晒化学パルプが多く使用され、表下層および中層には晒化学パルプに比べ白色度が低く安価な脱墨および未脱墨の古紙パルプが多く使用される。
【0003】
近年、環境に対する取り組みおよびコストダウンに対する要求が高まっていることから、古紙パルプの使用率が増加する傾向にある。これに伴い、白板紙の表面において白色ムラや、チリ等の異物が目立ちやすくなるという問題が増加している。チリ等の異物を除去するためには、脱墨や除塵処理を強化する必要があるが、処理を強化するほど歩留りが低下する。
【0004】
塗工液による改善方法として、塗工量を多くする方法がある。しかし、塗工量を多くしすぎると塗工時の乾燥性が悪くなるなど操業性が低下し、また密度が増えるので嵩高でなくなる。塗工液に隠蔽性の高い顔料を使用する方法もあるが、こうした顔料は高価であり、古紙パルプの使用率を高くしてコストダウンした利点が失われる。
【0005】
塗工方式による改善としては、通常使用されるブレード塗工方式の代わりに、ロール転写塗工方式やエアナイフ塗工方式を使用する方法が知られている。ブレード塗工方式では、原紙の凹凸によらず塗工後の表面が平坦化されるという特徴により、塗工表面の平滑性は高いが塗工量が不均一になることから白色ムラが生じやすい。しかし、ロール転写塗工方式やエアナイフ塗工方式では、ブレード塗工方式に比べ塗工量が均一であるために白色ムラが目立たないという利点がある。しかしながら、ロール塗工方式ではオレンジピール等と呼ばれるロール特有の塗工パターンが発生しやすい。また、エアナイフ塗工方式では、原理上、塗工液の粘度を低くしなければならず、そのために固形分濃度を低くすると、バインダーマイグレーションにより白紙光沢度や表面強度が悪化する。また乾燥に必要なエネルギーも上昇する。
【0006】
この他、カーテン塗工により、ロール塗工方式のような塗工欠陥の発生なく白色ムラおよびチリを目立たなくする方法が提案されている(特許文献1、2)。カーテン塗工は、原紙が走行する上に薄いカーテン膜状にした塗工液を落下させて塗工する方法であり、塗工時に塗工液の掻き落としがない前計量式であるため、原紙に多少の凹凸が存在しても均一な塗工層を塗設することができ、原紙の白色ムラやチリに対して良好な被覆性が得られる。特許文献1は、カーテン塗工により1000m/分程度の塗工速度で印刷用塗工紙を製造する方法に関する。特許文献2はカーテン塗工と塗工速度の関係に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2011/115167号
【特許文献2】特開2009−41131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カーテン塗工方式で良好な被覆性を達成するには、安定なカーテン膜を形成する必要がある。安定なカーテン膜を形成するには、カーテン膜の幅を1mとした場合、流量をおおよそ4〜5リットル/分とする必要がある。ところが、塗工白板紙は一般に、原紙が多層抄きであり、500g/m以上の非常に高い坪量で製造される場合があり、抄紙と塗工をオンマシンで連続して行うことなどから、塗工白板紙の塗工速度は、一般的な印刷用塗工紙の塗工速度に比べ非常に遅く、100m/分程度の低速で製造される場合もある。このような条件でカーテン塗工を行なう場合、操業性や品質レベルを落とすことなく、一般的な塗工白板紙の塗工量である15〜30g/mを達成することが必要となる。このように塗工速度が遅い条件で一定の塗工量を塗工するには、塗工液の流量を少なくする必要がある。
【0009】
しかし、従来、流量を少なくするとカーテン膜が不安定になり、製品を長時間安定的に製造することができないという問題があった。さらに、流量がより少ない条件では、膜の状態を保つことができず、全く塗工できなくなるという問題もあった。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、板紙塗工という低速の塗工速度において、安定なカーテン膜を形成できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、白板紙製造において顔料塗工液に特定の粘性改良剤と界面活性剤を添加することにより、低塗工速度においてもカーテン塗工液の落下時の膜切れを防止し、流量が少なくても膜を安定にすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)顔料を含む塗工液から形成されるカーテン膜に原紙を通すことにより原紙上に塗工層を形成することを含む、塗工白板紙の製造方法であって、
前記塗工液が、重量平均分子量が400万〜5000万のポリカルボン酸系共重合物のW/O型エマルジョンからなる粘性改良剤およびアニオン性界面活性剤を含有し、
塗工速度が100〜800m/分である、前記方法;および
(2)当該方法により製造された塗工白板紙。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、低塗工速度において、安定なカーテン膜を形成できる製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、塗工白板紙およびその製造方法に関する。塗工白板紙とは、原紙の片面、もしくは両面に顔料塗工層を設けた板紙であり、古紙パルプが少なくとも配合される。本発明の塗工白板紙は、坪量が200g/m以上であることが好ましい。
【0015】
(1)粘性改良剤
本発明の粘性改良剤は、重量平均分子量400万〜5000万のポリカルボン酸系共重合物のW/O型エマルジョンからなる。本発明においては、ポリカルボン酸系共重合体の中でも一般に用いられていない、重量平均分子量が非常に大きいポリカルボン酸系共重合物を塗工液に添加することで、塗工液の低剪断速度における曳糸性が向上し、板紙へのカーテン塗工において低流量でもカーテン膜の安定性が保たれる。
【0016】
本発明におけるポリカルボン酸系重合体とは、カルボキシル基を含有する化合物および/またはその誘導体を主なモノマーとする重合体をいう。カルボキシル基を含有する化合物の誘導体とは、当該化合物のモノまたはジエステル、アミド、イミド、あるいは無水物等である。
【0017】
モノマーがアクリル酸であると、分子構造が直鎖になり、より曳糸性が向上するため好ましい。主となるモノマーにマレイン酸、メタクリル酸などを用いると、分子構造が分岐型になり、曳糸性が得られにくい。また任意の比率でアクリルアミドなどのアクリル系モノマーと共重合させることもできる。
【0018】
上記ポリカルボン酸系共重合物の重量平均分子量は、400万〜5000万である。重量平均分子量が400万より小さいと、塗工液に十分な曳糸性が与えられずカーテン膜の安定性が保持されない。また当該分子量が5000万より大きいと、塗工液を増粘させる効果が強すぎ、塗工液の送液が困難になる。重量平均分子量の好ましい範囲は500万〜4000万であり、より好ましい範囲は1000万〜3000万である。
【0019】
上記ポリカルボン酸系重合体はW/O型エマルジョンである。O/W型である場合、重量平均分子量が100万以上になると薬品自体の粘性が非常に高くなるため、添加剤としての扱いが困難となる。また、添加により塗工液自体も増粘するため塗工液の送液が困難になり、かつ十分な曳糸性も得られない。W/O型エマルジョンの製造は、例えば有機溶剤に、活性剤を室温にて添加し均一混合した後、これに水に溶解させたモノマーを加えプレエマルジョンを合成し、次にこのプレエマルジョンの一部に重合開始剤を加え高温で攪拌することによって製造できる。
【0020】
上記ポリカルボン酸系重合体の添加量は、カーテン膜を安定させるという観点からは、塗工液中の顔料100重量部に対して、0.02重量部以上であることが好ましい。添加量が0.02重量部より少ないと、塗工液に十分な曳糸性を付与できず、低流量でのカーテン塗工の場合にカーテン膜が不安定となりやすい。また、添加量が0.2重量部より多いとカーテン膜は安定するものの塗工液の粘度が高くなりすぎ、塗工液の固形分濃度を大幅に下げざるを得ず、その結果、塗工液が原紙へ過剰に浸透し塗工紙の品質が低下する場合がある。塗工液の曳糸性と塗工白板紙の品質のバランスを考えると、上記ポリカルボン酸系重合体の添加量は、塗工液中の顔料100重量部に対して0.05〜0.1重量部であることがより好ましい。
【0021】
(2)アニオン性界面活性剤
本発明ではアニオン性界面活性剤を併用することにより、塗工液の表面張力を低下させ、その結果、カーテン膜の膜切れを防止する。
【0022】
界面活性剤にはこの他にカチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が存在する。しかし、カチオン性界面活性剤は塗工液中の顔料を凝集させる。また、ノニオン性界面活性剤は塗工液に十分な濡れ性を与えにくい。アニオン性界面活性剤の例には、スルホン酸系界面活性剤、硫酸エステル系界面活性剤およびカルボン酸系界面活性剤が含まれる。これらの中でも、塗工液の濡れ性をより良好とできるため、アルキルスルホン酸系界面活性剤が好ましい。好ましい態様において、これらのアニオン性界面活性剤は顔料100重量部当たり0.02〜1重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部程度の範囲で使用される。
【0023】
本発明においては、アニオン性界面活性剤を用いて、顔料塗工液の動的表面張力を25〜45mN/mに調整することが好ましい。
【0024】
(3)原紙
本発明で使用される原紙は、古紙パルプが配合されていれば、それ以外の配合されるパルプ特に制限されない。例えば、晒化学パルプ、未晒化学パルプなどを使用できる。古紙パルプとしては、脱墨処理がなされていてもなされていなくてもよい。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙を原料とする脱墨パルプなどを使用できる。
【0025】
原紙は、上記各種パルプを混合したものでもよいし、同一のパルプからなるものでもよい。また、異なるパルプを1層以上重ねたものでもよい。例えば、中層に白色度の低いパルプを用いて、表層、裏層にそれより白色度の高いパルプを用いた原紙や、同じパルプからなる層を複数重ねて得た原紙を使用できる。本発明においては、2以上の層を含む原紙が好ましい。
【0026】
原紙の坪量は、特に限定されないが、例えば、板紙で一般的に使用される100g/m〜700g/m、さらには、200g/m〜600g/mとすることができる。
また、本発明においては、原紙の平滑性が低くても所望の効果が奏されるため、平滑性の低い原紙を用いてもよい。しかしながらパドリングと呼ばれるカーテン塗工時の塗料溜まりが発生しない範囲で、平滑性の高い原紙を使用することが好ましい。原紙の平滑性を高めるために、カーテン塗工前にプレカレンダー等の処理を行なってもよい。さらに、原紙の平滑性を改善する手段として、カーテン塗工前に、澱粉を主成分としたクリア塗料または顔料を含んだ塗料を原紙に塗工することができる。このプレ塗工された原紙は、乾燥工程を経ないまま、すなわち原紙上の塗料が濡れた状態で、カーテン塗工に供してもよい。このように、カーテン塗工に供される前のプレ塗工後の原紙の状態は制限されない。
【0027】
(4)塗工液
本発明に用いる塗工液は、顔料を含む。顔料は制限されず、塗工紙用に従来から用いられている顔料を使用できる。例えば、カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト等の無機顔料、プラスチックピグメント等の有機顔料、有機・無機複合顔料等を使用できる。中でも重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウムが好ましい。これらの顔料は単独で使用できるが、必要に応じて二種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
本発明においては、塗工液に接着剤(バインダー)を配合することが好ましい。接着剤は特に制限されず、塗工紙用に従来から用いられている接着剤を使用できる。接着剤の例には、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体、ポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、およびアクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成系接着剤;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類;酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉等のエーテル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等の通常の塗工紙用接着剤が含まれる。接着剤は、1種類以上を適宜選択して使用できる。好ましい態様において、これらの接着剤は顔料100重量部当たり5〜50重量部、より好ましくは8〜30重量部程度の範囲で使用される。塗工液の粘度が高くならないという理由では、澱粉類よりも前記合成系接着剤が好ましい。
【0029】
本発明の塗工液には、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常の製紙用に配合される各種助剤を適宜使用できる。
塗工液の固形分濃度は、好ましくは50〜75重量%であり、さらに好ましくは60〜72重量%である。塗工液の固形分濃度が、40重量%未満であると、塗工乾燥時における塗工層の体積変化が大きくなり、結果として塗工後の表面平滑性が劣ることがある。また塗工液の固形分濃度が75重量%より多いと、塗工液の流動性が悪化し、均一なカーテン膜を形成することが難しくなる。
【0030】
(5)カーテン塗工
1)装置
本発明においては、カーテン塗工に用いられる公知の装置を使用することができる。公知のカーテン塗工装置としては、ダイから塗工液を下向きに吐出することにより直接カーテン膜を形成するスロット型カーテン塗工装置と、ダイから塗工液を上向きに吐出し、ダイ上の斜面で塗工液の膜を形成しつつ流動していき、その後ダイを離れて自由落下することによりカーテン膜を形成するスライド型カーテン塗工装置がある。本発明においてはいずれの装置を使用してもよいが、低速での2層塗工であれば、スロット型が好ましい。
【0031】
2)流量
カーテン塗工においては、単位時間当たりの単位幅における体積流量が塗工量や塗工速度と相関しており、式1のような関係がある。
【0032】
【数1】
【0033】
例えば、固形分濃度が65%、比重1.6g/cmの塗工液において、塗工速度が400m/分の場合、塗工量を25g/mとするには体積流量は9.6L/分/mである。塗工量を15g/mとするには体積流量は5.8L/分/mとなる。同様にして、塗工速度が130m/分の場合は、塗工量を25g/mとするには体積流量は3.1L/分/mとなる。
【0034】
体積流量が4L/分/m以下になると、通常の塗工液では安定したカーテン膜を形成させることが難しい。しかし、本発明によれば、低剪断速度における曳糸性が良好であるので、体積流量が低くても安定なカーテン膜を形成できる。特に本発明においては、体積流量が3〜20L/分/mにおいて安定なカーテン膜を形成できる。
【0035】
3)塗工量および塗工速度
塗工量は、各層の合計で、片面あたり乾燥重量で10〜30g/mが好ましい。塗工量が10g/m未満では、塗工層が薄くなり、白板紙の白色度、白色ムラの改善が十分にできないことがある。一方、一つの層の塗工量が30g/mを越えると、塗工時の乾燥性が悪くなるなど操業性が低下したり、バインダーマイグレーションによる印刷ムラの原因になったりするので好ましくない。片面あたり15〜25g/mの範囲の塗工量とすることが好適である。
【0036】
前記好適な範囲の塗工量を達成するのに、本発明において塗工速度は100〜800m/分が好ましく、100〜350m/分が好ましい。塗工速度100〜350m/分で前記塗工量を達成しようとすると、カーテン塗工液は低流量となり、従来の塗工液では安定したカーテン膜が得られない。しかし、本発明においては前述のとおり、安定したカーテン膜が得られる。この条件は、オンマシン塗工による高坪量の塗工白板紙の製造条件であるので、本発明は、オンマシン塗工による高坪量の塗工白板紙の製造に特に適している。
【0037】
4)追加の塗工層
本発明においては、カーテン塗工以外の方法により追加の塗工層を設けることも可能である。例えば、ブレード塗工を行った後にカーテン塗工を行ってもよい。ただし、カーテン塗工によって形成された塗工層が最外塗工層となるようにすることが好ましい。
【0038】
(6)平滑化処理
本発明の塗工白板紙は、原紙上に塗工層を設けた後、通常の乾燥工程を経て製造されるが、必要に応じて表面処理工程等で平滑化処理してもよい。好ましい態様において、製造後の塗工紙水分が3〜10重量%、より好ましくは4〜8重量%程度となるように調整して仕上げられる。平滑化処理には、通常のスーパーキャレンダ、グロスキャレンダ、ソフトキャレンダ、熱キャレンダ、シューキャレンダ等の平滑化処理装置を用いることができる。平滑化処理装置は、オンマシンやオフマシンで適宜用いられ、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も適宜調整される。
【0039】
(7)塗工白板紙
本発明は、塗工量を適量に抑えることができるので、片面塗工であれば密度が0.9g/cm未満、両面塗工であれば0.9〜1.0g/cmの範囲の嵩高な塗工白板紙を製造できる。また、本発明は、固形分濃度を下げずに塗工できるため、白紙光沢度を45%以上とすることができ、かつ表面強度に優れた塗工白板紙を製造できる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されない。特に断らない限り、本明細書において部および%はそれぞれ重量部および重量%を示し、数値範囲はその端点を含む。
【0041】
[評価方法]
密度:JIS P8118「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0042】
白紙光沢度:JIS P8142「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準拠して測定した。
表面強度:RI−II型印刷試験機を用い、大日本インキ化学工業株式会社製IGT測定用インキ墨TV25を0.40cc使用して印刷を行った後、印刷面を台紙に写し取った。写し取った台紙から以下の基準:
◎:表面の剥けは全く見られない
○;表面の剥けはほとんど見られない
△;表面の剥けが若干認められるが、使用上は問題ない
×;表面の剥けが酷く、使用できない
により表面強度を評価した。
【0043】
カーテン膜の安定性:カーテン膜が落下して原紙に接触するまでの間に、膜が不安定になって膜切れが発生する頻度を以下の基準:
◎:膜切れが全く発生ない
○:まれに膜切れが発生する(1時間に1回程度)
△:しばしば膜切れが発生する(1分間に1回程度)
×:膜を形成できない
に基づいて評価した。
【0044】
<実施例1>
[原紙]
脱墨古紙100%の割合で配合したパルプを使用して米坪40g/mの表下層、脱墨しない雑誌古紙100%で配合したパルプを使用して米坪210g/mの中層、中層と同様のパルプを使用して米坪40g/mの裏層をそれぞれ抄造し抄き合わせ、抄紙速度130m/分にてプレス、乾燥処理、プレカレンダー処理を行い、米坪290g/m、密度0.75g/cmの塗工白板紙原紙を得た。
【0045】
[塗工液]
重質炭酸カルシウム(Imerys社製、Carbital 97)75重量部、デラミネーテッドカオリン(Imerys社製、Contour 1500)25重量部からなる顔料スラリーを調製した後、顔料100重量部に対して、スチレン・ブタジエン共重合ラテックス(旭化成ケミカル社製、B1735)12重量部、滑剤(日新化学社製、DEF−791TF)0.5重量部、界面活性剤(日本乳化剤社製、Newcol−291−PG。スルホコハク酸系)0.2重量部、粘性改良剤(ソマール社製、ソマレックス530。ポリカルボン酸系共重合物のW/O型エマルジョン。重量平均分子量:約2000万)0.1重量部を添加した。さらに水を添加して、30℃、60rpmにおけるB型粘度が1500mPa・sになるように調整した。固形分濃度は65重量%とした。
【0046】
[塗工]
上記塗工液を、スロット型カーテン塗工装置にて単層塗工を行い、乾燥した。塗工量は、乾燥後の重量で25g/mであり、塗工白板紙の坪量は315g/mであった。塗工速度は、オンマシンにより抄紙と一貫して行ったため、抄紙速度と同じく130m/分であった。
【0047】
[仕上げ処理]
得られた塗工白板紙をカレンダー処理することにより、塗工白板紙を得た。処理速度は、オンマシンにより抄紙、塗工と一貫して行ったため、抄紙速度および塗工速度と同じく130m/分であった。
【0048】
<実施例2>
実施例1において、抄紙および塗工速度を130m/分から390m/分に、塗工量を25g/mから15g/mに変更し、原紙中層パルプの米坪を210g/mから220g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ坪量の塗工白板紙を得た。
【0049】
<比較例1>
実施例1において、塗工液に界面活性剤、粘性改良剤ともに添加しない以外は、実施例1と同様に塗工白板紙を得た。
【0050】
<比較例2>
実施例1において、塗工液に粘性改良剤を添加しない以外は、実施例1と同様に塗工白板紙を得た。
【0051】
<比較例3>
実施例1において、塗工液に界面活性剤、粘性改良剤ともに添加せず、かつ塗工液の固形分濃度を65重量%から40重量%に変更した以外は、実施例1と同様に塗工白板紙を得た。
【0052】
<比較例4>
実施例1において、塗工液に界面活性剤、粘性改良剤ともに添加せず、かつ塗工量を25g/mから45g/mに変更し、原紙中層パルプの米坪を210g/mから190g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ坪量の塗工白板紙を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1と比較例1、2との対比により、塗工液に粘性改良剤および界面活性剤を添加する本発明の製造方法は、低速および低流量でのカーテン塗工において安定したカーテン膜を形成できることが分かる。
【0055】
比較例3では、塗工液に粘性改良剤および界面活性剤を添加せずに、固形分濃度を下げることで流量を増加させてカーテン膜の安定化を試みたが、実施例1と比べてカーテン膜の安定性は劣り、これに加えて固形分濃度を下げたことによる白紙光沢度や表面強度の悪化が見られた。
【0056】
比較例4では、塗工液に粘性改良剤および界面活性剤を添加せずに、塗工量を増やすことで流量を増加させてカーテン膜の安定化を試みたが、実施例1と比べてカーテン膜の安定性は劣り、これに加えて乾燥性の悪化や、密度増加による嵩高性の低下が見られた。
【0057】
実施例2と比較例4との対比より、同じ流量においても、塗工液に粘性改良剤および界面活性剤を添加する本発明の製造方法は、安定なカーテン膜を形成でき、高塗工量かつ高品質の塗工白板紙が製造できることが分かる。
【0058】
以上から、本発明により、低速および低流量でのカーテン塗工において安定なカーテン膜を形成でき、かつ良好な品質の塗工白板紙を製造できることが明らかである。