(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する錠剤であって、該N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの重量比1:8〜1:20の混合体であり、
該錠剤が、
(1)錠剤全量に対して85重量%以上の量の該混合体、
(2)錠剤全量に対して0.5〜1.5重量%の量の、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムからなる群から選択される滑沢剤、又は錠剤全量に対して0.5〜2.5重量%の量の、フマル酸ステアリルナトリウム及びタルクからなる群から選択される滑沢剤、
(3)錠剤全量に対して3〜10重量%の量の、結晶セルロース及びD−マンニトールからなる群から選択される賦形剤、及び
(4)錠剤全量に対して0〜4重量%の量のヒドロキシプロピルセルロース
を含有する、前記錠剤。
前記混合体が、N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩とヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの重量比1:10の混合体である、請求項1〜5のいずれか一項記載の錠剤。
N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩が、N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア2塩酸塩である、請求項1〜8のいずれか一項記載の錠剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願は、AC220又はその製薬学的に許容される塩を有効成分として含む、分散性及び溶出性が改善された、例えば特許文献1記載のAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と同等のバイオアベイラビリティを有する、利便性に優れる錠剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、AC220の特許文献1記載のAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と同等のバイオアベイラビリティを有する錠剤の製造を目的として、様々な製剤用担体を用いてAC220の錠剤を製したが、満足する分散性及び溶出性を有する錠剤を得ることは出来なかった。
【0010】
上記状況下、本発明者らは、AC220の物性、殊に水溶液中での分子状態を検討した結果、AC220はπ−πスタッキングを介した凝集体の形成、更に水素結合によるネットワーク形成による、強い分子間相互作用を有することを知見し、これがAC220水溶液のゲル化をもたらし、錠剤からのAC220の分散を阻害していることを解明した。更に、この分子間相互作用は、AC220をHPBCDとの混合体として用いることによって抑制できることを知見した。
そこで、AC220−HPBCD混合体を用いて、AC220の分子間相互作用が抑制された錠剤の製造を試みた。しかしながら、このAC220−HPBCD混合体を用いた一般的な処方の錠剤は、予想外なことに、満足する分散性及び溶出性を示さなかった。
【0011】
そこで、本発明者らは、このAC220−HPBCD混合体を含む錠剤の検討を更に行った結果、
(1)崩壊剤や滑沢剤等の一部の添加剤が、AC220−HPBCD混合体を用いた錠剤の崩壊性や溶出性を阻害する事実を知見し、添加剤の含有量を制限することによって、崩壊性や溶出性が改善されることを知見し、また、
(2)AC220−HPBCD混合体自体が予想外に良好な成形性及び崩壊性を有していることから、崩壊剤や滑沢剤等の一般的な添加剤の含有量を制限しても、良好な成形性及び崩壊性、更に安定性を有する製剤を得ることが出来ることを知見して、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本願は、以下の錠剤を提供するものである。
[1] N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する錠剤であって、該N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩がヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの重量比1:8〜20の混合体であることを特徴とする錠剤。
【0013】
[2] 米国薬局方 USP 34−NF 29の溶出試験法(パドル法50rpm、0.1N塩酸、900mL)において、試験開始から30分後の薬物溶出率(D30min)が85%以上である、[1]に記載の錠剤。
[3] 混合体を、製剤全量に対して50重量%以上含有する、[2]に記載の錠剤。
[4] 混合体を、製剤全量に対して80重量%以上含有する、[2]に記載の錠剤。
【0014】
[5] 混合体を、製剤全量に対して85重量%以上含有する、[2]に記載の錠剤。
[6] 崩壊剤の含有量が製剤全量に対して10重量%以下であり、かつ、滑沢剤の含有量が製剤全量に対して2.5重量%以下である、[3]〜[5]のいずれかに記載の錠剤。
[7] 結合剤、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、pH調節剤、発泡剤、甘味料、香料、着色剤及び安定化剤からなる群から選択される添加剤の合計含有量が製剤全量に対して0〜50重量%である、[3]に記載の錠剤。
【0015】
[8] 炭酸塩と固体酸からなる発泡剤を製剤全量に対して10〜45重量%含有し、更に製剤全量に対して0〜20重量%の賦形剤及び製剤全量に対して0〜2.5重量%の滑沢剤を含有する、[7]に記載の錠剤。
[9] 滑沢剤の含有量が製剤全量に対して0.5〜2.5重量%であり、賦形剤の含有量が製剤全量に対して0〜10重量%であり、かつ、結合剤の含有量が製剤全量に対して0〜5重量%である、[6]に記載の錠剤。
【0016】
[10] 崩壊剤の含有量が製剤全量に対して0〜3%である、[9]に記載の錠剤。
[11] 滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜2.5重量%含有し、賦形剤を製剤全量に対して0〜10重量%含有し、かつ、結合剤を製剤全量に対して0〜5重量%含有する、[5]に記載の錠剤。
[12] (1)ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムからなる群から選択される滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜1.5重量%含有するか、又はフマル酸ステアリルナトリウム及びタルクから選択される滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜2.5重量%含有し、(2)結晶セルロース及びD−マンニトールからなる群から選択される賦形剤を、製剤全量に対して3〜10重量%含有し、かつ、(3)ヒドロキシプロピルセルロースを、製剤全量に対して0〜4重量%含有する、[11]に記載の錠剤。
【0017】
[13] (1)ステアリン酸マグネシウムを製剤全量に対して1重量%含有し、(2)結晶セルロース及びD−マンニトールからなる群から選択される賦形剤を、製剤全量に対して4〜7.5重量%含有し、かつ、(3)ヒドロキシプロピルセルロースを、製剤全量に対して0〜4重量%含有する、[12]に記載の錠剤。
[14] 混合体を含む組成物を打錠して得られる、[1]〜[13]のいずれかに記載の錠剤。
[15] 更にコーティングを施した、[1]〜[14]のいずれかに記載の錠剤。
[16] コーティングがフィルムコーティングである、[15]に記載の錠剤。
【0018】
[17] 混合体が、N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩とヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの重量比1:10の混合体である、[1]〜[16]のいずれかに記載の錠剤。
【0019】
[18] 混合体が噴霧乾燥粉末である、[1]〜[17]のいずれかに記載の錠剤。
[19] 混合体が凍結乾燥粉末である、[1]〜[17]のいずれかに記載の錠剤。
[20] N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩が、N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア 2塩酸塩である、[1]〜[19]のいずれかに記載の錠剤。
なお、本明細書中において、N-(5-tert-ブチル-イソキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩とヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの混合体を「AC220−HPBCD混合体」と記載することがある。また、比率を特定した混合体、例えば重量比1:8〜20の混合体を、「AC220−HPBCD(重量比1:8〜20)混合体」と記載することがある。
【発明の効果】
【0020】
本願に開示する錠剤は、AC220の分子間相互作用の影響を受けず、速やかな崩壊性及び分散性を有し、特許文献1記載のAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と同等の良好なバイオアベイラビリティを有する、製造が容易で利便性に優れる錠剤である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願に開示する錠剤の各種態様を説明する。
【0023】
(AC220又はその製薬学的に許容される塩)
本願に開示されるAC220又はその製薬学的に許容される塩は、国際公開第WO2007/109120号パンフレット及び国際公開第WO2009/038757号パンフレットに開示される、化学名 N-(5-tert-ブチル-イソオキサゾール-3-イル)-N'-{4-[7-(2-モルホリン-4-イル-エトキシ)イミダゾ[2,1-b][1,3]ベンゾチアゾール-2-イル]フェニル}ウレア又はその製薬学的に許容される塩である。これらの公報に開示される各種の塩、各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質であってもよい。ある態様としては、AC220の塩酸塩であり、他の態様としてAC220・2塩酸塩である。
【0024】
(AC220又はその製薬学的に許容される塩の含有量)
AC220又はその製薬学的に許容される塩の含有量は、医薬的に予防または治療上有効な量であれば特に制限されないが、例えば1日当たり約12mg以上約450mg以下、他の態様として約12mg以上約145mg以下、約30mg以上約135mg以下、別の態様として30mg、40mg、45mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、120mg、及び135mgである。ある態様としては、60mgである。別の態様としては、90mgである。必要に応じて、1日当たりの全投与量を分割して1日複数回投与することも出来る。また、含有量は、他の態様としてAC220の量であり、別の態様としてAC220・2塩酸塩の量である。
【0025】
(AC220の分子間相互作用の検討)
後記実施例1に示す通り、AC220の水溶液のゲル形成には、分子間相互作用として、芳香環同士のπ-πスタッキングを介した凝集体形成と分子間の水素結合によるネットワーク形成が関与していることが確認された。
【0026】
一方、前記特許文献1には、AC220の分子間相互作用についての記載は無いが、AC220にゲル化防止剤としてHPBCDを重量比1:10で加えて得た噴霧乾燥粉末からなる用時溶解型製剤が開示され、これを水溶液で再構成することにより、ゲル形成が抑制された経口投与用液剤が得られた事が開示される(例えば、段落番号0073〜0075、0088、実施例6〜8)。本発明者等によるAC220の分子間相互作用の検討に基づき、前記特許文献1に記載される用時溶解型製剤の液剤のゲル化抑制は、AC220の分子間相互作用の抑制に基づくものであることが推定された。よって、AC220とHPBCDを、概ね重量比1:10で含むAC220−HPBCD混合体を用いることによって、AC220の分子間相互作用を有効に抑制することができることが示唆された。
【0028】
本願に開示されるAC220−HPBCD混合体としては、ある態様として、AC220又はその製薬学的に許容される塩とHPBCDとの重量比が1:8〜20の混合体であり、他の態様としては、重量比1:10〜15の混合体であり、別の態様としては、重量比1:10の混合体である。ここに混合体としては、錠剤の製造に適した、顆粒若しくは粉末状の、AC220とHPBCDの混合物の固体である。ある態様としては噴霧乾燥粉末又は凍結乾燥粉末であり、別の態様としては噴霧乾燥粉末であり、更に別の態様としては凍結乾燥粉末である。
【0029】
なお、AC220に対するHPBCDの添加量がより少ない場合は、患者の消化管内の水分量やpHによっては、製剤中のAC220の分子間相互作用が完全には抑制されず、錠剤からの分散や溶出が遅延したり、あるいは低下する可能性がある。
【0030】
(混合体の製造)
本願に開示される混合体は、当業者によく知られた方法を用いて製造することができる。具体的には、例えば、AC220又はその製薬学的に許容される塩とHPBCDとを不活性な溶媒に溶解・撹拌した後に、この混合物を乾燥(例えば、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥)し、所望により解砕、整粒等を行うことにより容易に製造できる。ある態様としては、AC220・2塩酸塩1重量部に対して、8〜20重量部のHPBCDを用いて、水等の不活性な溶媒に溶解・撹拌した後に、噴霧乾燥を行い、粉末状の混合体を得る。
なお、AC220・2塩酸塩1重量部に対して、HPBCD 10重量部を用いて得た噴霧乾燥粉末が特許文献1の実施例6〜8に開示される。これらは、使用時に溶解して液剤として経口投与する用時溶解型製剤用の組成物として開示されているものであるが、本願に開示される混合体として、本願に開示する錠剤の製造に好適に使用できる。
以下、本願明細書において、特許文献1の実施例6〜8に記載の方法と同様にして得た、AC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥粉末を、「AC220−HPBCD(1:10)」と記載することがある。
【0031】
(混合体の製剤中の含有量)
本願に開示されるAC220−HPBCD混合体の含有量は、本願に開示される錠剤が速やかに崩壊し、速やかな溶出を達成する量であれば特に限定されない。具体的には、例えば製剤全量に対して50重量%以上であり、ある態様としては60重量%以上、別の態様としては70重量%以上、別の態様としては80重量%以上、別の態様としては85重量%以上、別の態様としては88重量%以上である。
【0032】
他の態様として、錠剤がコーティングを施した錠剤である場合はその素錠における混合体の含有量が、素錠の80重量%以上であり、ある態様としては85重量%以上、別の態様としては90重量%以上であり、更に他の態様として、発泡剤を含む錠剤(発泡錠)の場合は、薬学的に許容できる固体酸と炭酸塩および/または炭酸水素塩を含有する化合物とを含む混合物を10〜45重量%含むことから、混合体の含有量は、50重量%以上であり、ある態様としては55重量%以上、別の態様としては60重量%以上である。
【0033】
(添加剤)
本願に開示されるAC220−HPBCD混合体を、製剤分野に汎用される添加剤を用いた一般的な処方で製剤化した場合に、予想外に放出や溶解が遅延されることが見出された。よって、本願に開示される錠剤において、添加剤の種類及びその含有量は、ある態様としては、後記の通り、添加剤の種類(分子量、溶解性、粘度等の特性等)、他の添加剤の種類と量、混合体の種類や量、剤形とその製剤化工程(造粒法、打錠方法)等、種々の条件によって、適宜選択される。
【0034】
<崩壊剤>
崩壊剤は製剤の崩壊能を向上させるための添加剤であり、具体的には、投与時に体内の水分を吸収し膨張して錠剤を崩壊させ、有効成分の放出を容易にするために加えるものである。しかしながら、後記参考例3に示す様に、AC220−HPBCD(1:10)を含む錠剤に、汎用の崩壊剤である水分を吸収し膨張するタイプの崩壊剤を添加しても、錠剤の膨潤による崩壊は確認できず、一部の処方では、錠剤の崩壊性及び溶出性を悪化させる結果が確認された。よって、本願に開示される錠剤においては、崩壊剤の含有量は、錠剤の崩壊性及び溶出性が悪化しない範囲の量に制限される。あるいは、崩壊を改善しない崩壊剤の添加は不要である。
【0035】
錠剤の崩壊性及び溶出性が悪化しない範囲の崩壊剤の含有量としては、その種類や特性、他の添加剤の種類と量、混合体の種類や量、剤形とその製剤化工程(造粒法、打錠方法)等によって異なるが、例えば、概ね製剤全体の10重量%以下、ある態様としては5重量%以下、別の態様としては3重量%以下である。本願に開示される錠剤の別の態様としては、崩壊剤を含有しない。
【0036】
本願に開示される錠剤において、崩壊剤としては、消化管内の水分を吸収し膨張して錠剤を崩壊させる効果を発現することが期待される添加剤である。具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。
・低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)(商品名:LH-11、LH-21、LH-22、LH-31等)
・クロスポピドン(商品名:コリドンCL、ポリプラスドンXL、クロスポビドン等)
・クロスカルメロースナトリウム(商品名:Kicolate、Ac-Di-Sol、Primellose等)
・デンプングリコール酸ナトリウム(商品名:Primojel、GLYCOLYS、EXPLOTAB等)
・アルギン酸ナトリウム
・カルメロース、カルメロースカルシウム及びカルメロースナトリウム
・グリセリン酸脂肪酸エステル
・低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム
・部分アルファー化デンプン(商品名:LYCATAB C、PCS、グラフロー、スターチ1500等)
【0037】
<結合剤>
結合剤は、打錠後品質保持のための粘着性を与える添加剤として分類されるものであるが、殊に分子量が大きいもの及び溶解時の粘度が高いものにおいては、本願に開示される錠剤の初期溶出を低下させる事が知見された。よって、その含有量は制限される。
【0038】
結合剤の含有量の上限は、その種類(分子量、溶解性、粘度等の特性等)、他の添加剤の種類と量、混合体の種類や量、剤形とその製剤化工程(造粒法、打錠方法)等によって異なり、概ね製剤全体の10重量%以下、ある態様としては5重量%以下、別の態様としては3重量%以下である。また、別の態様としては3重量%である。更に本願に開示される錠剤の別の態様としては、結合剤を含有しない。分子量も小さく低粘度の結合剤、例えば、HPC−SSL−SFGなどは放出抑制作用が弱く、添加による溶出性への影響は少ない。他方、HPC−Lの様に粘度が高い結合剤では、放出抑制作用が強く、添加量はより少ない方が好ましい。
【0039】
本願に開示される錠剤において、結合剤としては、例えば、以下に列記する結合剤である。
・ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-SSL、HPC-SL、HPC-L、METOLOSE SR、KLUCEL-EF、KLUCEL-LF、KLUCEL-JF等)
・ヒプロメロース(商品名:TC-5E、TC-5R、TC-5M、TC-5S、METOLOSE 65SH、メトセルF等)
・メチルセルロース(商品名:METOLOSE SM、メトセルA等)
・ヒドロキシエチルセルロース
・ヒドロキシエチルメチルセルロース
・ヒドロキシプロピルスターチ
・ポビドン(商品名:コリドン、プラスドン等)
・コーンスターチ
・ポテトスターチ
・ライススターチ
・ゼラチン
【0040】
(滑沢剤)
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸などが挙げられる。滑沢剤は疎水性であり、各滑沢剤の疎水性の程度に応じて、その錠剤への含有量は制限される。本願に開示される錠剤に滑沢剤を用いる場合、ある態様としては、滑沢剤を製剤全量に対して0〜2.5重量%配合する。別の態様としては、(1)ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムからなる群から選択される滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜1.5重量%、又は(2)フマル酸ステアリルナトリウム及びタルクから選択される滑沢剤を0.5〜2.5重量%配合する。更に別の態様としては、ステアリン酸マグネシウムを製剤全量に対して1重量%配合する。
【0041】
(賦形剤)
賦形剤は、有効成分等の製剤成分を希釈し、製剤化に適する量に調整するために使用する添加剤であり、場合によっては安定化・成形性向上等の役目も果たす添加剤であり、希釈剤或いは増量剤とも表記される。例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マルトース(好ましくはアメ粉(マルトース83%以上含有))、トレハロース、乳糖果糖等の糖類、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、結晶セルロース等が挙げられる。本願に開示される錠剤に賦形剤を用いる場合、ある態様としては、D−マンニトール、例えば顆粒マンニトール(商品名:Parteck M100、M200、Pearlitol 100SD、200SD、等)、又は結晶セルロース(商品名:Ceolus PH-101、PH-102、PH-301、PH-302、UF-711、UF-702、等)である。別の態様としては、結晶セルロースである。更に別の態様としては、結晶セルロース(商品名:Ceolus PH-102)である。
【0042】
(その他の添加剤)
本願に開示される錠剤には、前記添加剤以外にも、医薬的に許容され、添加剤として使用される各種添加剤が配合されてもよい。かかる添加剤としては、例えば、流動化剤、pH調節剤、発泡剤、甘味料、香料、着色剤、安定化剤、及び可溶化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
これらの添加剤においても、多量に配合した場合は、錠剤からのAC220の溶出に影響を与えることから、その含有量が制限され、これらの添加剤の含有量の合計が、概ね製剤全体の40重量%以下、ある態様としては30重量%以下、別の態様としては、20重量%以下である。殊に、疎水性の添加剤は製剤中への水分の侵入を阻害し、製剤からのAC220の溶出に影響を与える可能性が知見されていることから、全添加剤のうち、疎水性添加剤の合計含有量は製剤全体に対して、5重量%以下、ある態様としては2重量%以下、別の態様としては1.5重量%以下に制限され、更に別の態様としては1重量%以下に制限される。
【0044】
流動化剤としては、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、ステアリン酸、タルク等が挙げられる。
pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの酸性物質が挙げられる。殊に、AC220は低pHにおいて良好な溶解性を示すことから、酸性物質の添加により、小腸以降の消化管下部におけるAC220の溶出性向上が期待できる。
【0045】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。
香料としては、例えば、レモン、レモンライム、オレンジ、メントールなどが挙げられる。
【0046】
着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素、食用レーキ色素、ベンガラなどが挙げられる。
安定化剤としては、AC220を安定化する物質が各種検討の上選択される。
可溶化剤としては、AC220は低pHで溶解性が高いことから、前記酸性物質が挙げられる。
【0047】
また、本願に開示される錠剤は、発泡錠であってもよく、本願に開示される発泡錠は、水に触れると発泡して効率的に溶解するよう、薬学的に許容できる発泡剤、具体的には、固体酸と炭酸塩および/または炭酸水素塩を含有する化合物を含む発泡性混合物を包含する錠剤であり、ここに固体酸としては、クエン酸、酒石酸等が、炭酸塩および/または炭酸水素塩を含有する化合物としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種または2種以上を組合せて使用することができる。
【0048】
本願に開示される錠剤は、通常医薬品として規定される製剤であれば、特に制限されない。
【0049】
本願に開示される錠剤としては、AC220−HPBCD混合体(ある態様としては噴霧乾燥粉末、別の態様としてはAC220−HPBCD(1:10))と、所望により添加剤を添加して圧縮成型により製造した錠剤である。
本願に開示される錠剤を製造する方法としては、錠剤が得られる方法であれば特に制限されず、自体公知の方法が採用される。例えば、薬局方(例えば日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方)に規定された方法が採用される。具体的には、例えば、(1)AC220−HPBCD混合体(ある態様としては噴霧乾燥粉末、別の態様としてはAC220−HPBCD(1:10))を、所望により添加剤と共に、直接打錠する方法、(2)AC220−HPBCD混合体(及び所望により添加剤)を、エタノール、アセトン、水等の造粒液を用いて湿式造粒し予め顆粒とし、或いは、AC220−HPBCD混合体(及び所望により添加剤)を乾式造粒し予め顆粒とし、次いで、(所望により残りの成分を混合して)圧縮成型する方法等が、挙げられる。
【0050】
圧縮成型(打錠)は、例えば、混合品を、回転式打錠機を用いて打錠し、打錠品とする。本願に開示される錠剤を成型する方法であれば装置、手段とも特に制限されない。打錠装置としては、例えば回転式打錠機、単発打錠機、オイルプレスなどが挙げられる。
打錠圧などの打錠条件としては、錠剤を成型でき、製造工程中に錠剤が破損しない打錠圧であれば特に制限されない。例えば約2kN以上約20kN以下で、他の態様として、約5kN以上約20kNで圧縮成型できる。
また、錠剤硬度としては、流通過程等で破損しない程度の硬度であれば特に制限されない。例えば、80N以上、他の様態として90N以上200N以下が挙げられる。
【0051】
更に、錠剤にコーティングを施す場合、自体公知の方法を採用することができる。例えば、パンコーティング、ディップコーティングなどが挙げられる。コーティング剤は、1種または2種以上組合せて適宜適量添加することができる。コーティング率は、錠剤にフィルムを形成する率であれば特に制限されない。例えば、錠剤重量に対して1重量%以上5重量%以下等である。コーティング後に乾燥してもよく、通常製薬学的に使用される乾燥方法であれば特に制限されない。使用されるコーティング剤としては、一般に使用されるコーティング剤であれば特に制限はなく、例えば、商品名:Opadry、Opadry II、Opadry AMB 等が挙げられる。
【0052】
AC220−HPBCD混合体、ある態様としては噴霧乾燥粉末、別の態様としてはAC220−HPBCD(1:10)は、良好な流動性を有しており、所望により他の添加剤と混合して、直接打錠して本願に開示される錠剤を製造することができる。本願に開示される錠剤のある態様としては、AC220−HPBCD混合体又はこれを含む混合物を直接打錠した錠剤である。別の態様としては、噴霧乾燥粉末又はこれを含む混合物を直接打錠した錠剤である。更に別の態様としてはAC220−HPBCD(1:10)又はこれを含む混合物を直接打錠した錠剤である。更に別の態様としては、前記直打錠のフィルムコーティング錠である。
【0053】
本願に開示される錠剤は、錠剤からのAC220の速やかな分散性・溶出性を有する。例えば、本願に開示される錠剤は、米国薬局方 USP 34−NF 29の溶出試験法(パドル法50rpm、0.1N塩酸、900mL)において、試験開始から30分後の薬物溶出率(D30min)が85%以上である。本願に開示される錠剤の別の態様としては、D30minが90%以上である。更に別の態様としては、95%以上である。更に本願に開示される錠剤の別の態様としては、試験開始から15分後の薬物溶出率(D15min)が60%以上、70%以上又は80%以上である。
【0054】
また、本願に開示される錠剤は、特許文献1に記載されるAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と同等若しくはそれに近いバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)を有する。ある態様としては、後記のイヌBA試験におけるAUC
0−24hの値が、AC220 solution(1:10)の0.8〜1.2倍、別の態様としては0.9〜1.1倍、更に別の態様としては、0.95〜1.05倍である錠剤である。
【0055】
本願に開示される錠剤のある態様としては、保存安定性に優れる錠剤であり、別の態様としては、乾燥剤入りボトルやアルミポーチ等の一般的な包装によって、少なくとも6か月間溶出性低下がない錠剤である。このような保存安定性を有する本願に開示される錠剤としては、例えば、AC220又はその製薬学的に許容される塩のHPBCD(重量比1:8〜20)混合体を、製剤全量に対して85重量%以上含有し、(1)ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムからなる群から選択される滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜1.5重量%含有するか、又はフマル酸ステアリルナトリウム及びタルクから選択される滑沢剤を製剤全量に対して0.5〜2.5重量%含有し、(2)結晶セルロース及びD−マンニトールからなる群から選択される賦形剤を、製剤全量に対して3〜10重量%含有し、かつ、(3)ヒドロキシプロピルセルロースを、製剤全量に対して0〜4重量%含有する錠剤、若しくはそのフィルムコーティング錠が挙げられる。別の態様としては、AC220又はその製薬学的に許容される塩のHPBCD(重量比1:10)混合体を、製剤全量に対して85重量%以上含有し、(1)ステアリン酸マグネシウムを製剤全量に対して0.5〜1.5重量%含有し、(2)結晶セルロースを、製剤全量に対して3〜10重量%含有する錠剤、若しくはそのフィルムコーティング錠が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は、単に例示とすることを意図しており、当業者は当該実施例の開示から多数の均等物を認識でき、或いは、常法以上の手段を用いることなく確認できる。そのような均等物はすべて、クレームした対象の範囲内であると考えられ、本願請求の範囲に包含される。
先に、以下の参考例及び実施例で使用した評価方法及び製造方法について説明する。
【0057】
(溶出試験1)
米国薬局方 USP 34−NF 29の溶出試験法(パドル法50rpm、0.1N塩酸、900mL)において、試験開始から15分後の薬物溶出率(D15min)及び/又は試験開始から30分後の薬物溶出率(D30min)を測定した。
【0058】
(溶出試験2)
米国薬局方 USP 34−NF 29の溶出試験法に準じ、0.03N塩酸(pH1.2)、300mLを用いてパドル法(50rpm)を開始し、試験開始後30分の時点で、溶出試験の液性をpH6.8、900mLとする液置換溶出試験において、特許文献1記載の用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と溶出率を比較した。なお、後記参考例及び実施例の表中の溶出試験2の結果において、AC220 solution(1:10)とほぼ同等若しくはそれに近い薬物溶出率を示す場合を○で、AC220 solution(1:10)より明らかに薬物溶出率が劣る場合を×で示す。
ここに、特許文献1記載の用時溶解型製剤の溶出試験は、特許文献1の実施例6〜8に記載の方法と同様の方法で製造された、AC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥粉末を、5mg/mLとなるよう水で再構成し液剤(AC220 solution(1:10))とし、これを9mL(AC220・2塩酸塩を45mg含む)用いて試験を行った。
【0059】
(イヌBA試験)
イヌを用いて製剤のバイオアベイラビリティを評価した。一晩絶食させたイヌに試験製剤を投与した。特許文献1記載のAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤の場合は再構成した135mgの有効成分を含む液剤(AC220 solution(1:10):27mL)と水(23mL)を、錠剤の場合は錠剤(45mg錠×3個)を水(50mL)と共に服用させた。試験製剤を経口投与した後、経時的に血液を採取した。血漿中薬物濃度(ng/mL)を測定し、最高血中濃度(Cmax:ng/mL)と24時間後までのAUC(AUC
0−24h:ng*h/mL)を算出した。なお、健常人を想定し、胃内酸性イヌで評価した。
【0060】
(直接打錠−direct compression)
薬剤粉末と添加剤の混合物を、オイルプレスにて打錠した。薬剤粉末と添加剤の混合は、乳鉢あるいは袋にて行った。なお、後記参考例及び実施例の表中、直接打錠を「直打」と記載する。
【0061】
(乾式造粒後打錠−dry granulation & compression)
薬剤粉末と、滑沢剤を除く所望の添加剤との混合物を、オイルプレスにて圧縮し、乳鉢・乳棒等にて破砕し、造粒物を得、この造粒物と滑沢剤の混合物を、2kN又は5kNの圧力のオイルプレスにて打錠した。なお、後記参考例及び実施例の表中、乾式造粒後に2kN又は5kNの圧力のオイルプレスにて打錠して錠剤を得る方法を、それぞれ「造粒(2kN)」又は「造粒(5kN)」と記載する。
【0062】
参考例1:一般的処方
汎用される賦形剤を用いて、下表の各処方による、AC220・2塩酸塩を45mg含有する錠剤(45mg錠)を得た。これを溶出試験1で評価した。更にRef 1c、1d及び1eの錠剤を溶出試験2により評価した。結果を表中に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
Ref 1a及び1bは、標準的な処方であるが、液中でゲル状のかたまりを形成し、崩壊性が非常に悪く薬物溶出率が低いものであった。更に崩壊剤を多量に添加したRef 1cの処方でも崩壊性に乏しく十分な溶出は得られなかった。AC220が低pHで溶解度が高いことから、pH調節剤を加えた処方をRef 1dとして実施した。Ref 1dの錠剤は、溶出試験1において良好な初期溶出を示した。また、Ref 1eの錠剤は、発泡剤を加えた錠剤であり、崩壊性は改善されたが、初期溶出は72%と十分ではなかった。溶出試験2において、Ref 1c、1d及び1eのいずれの錠剤も、全ての測定点(時間)において、特許文献1記載の用時溶解型製剤より明らかに低い薬物溶出率を示した。
【0065】
参考例2:可溶化処方
噴霧乾燥法によるAC220のポリビニルピロリドン(PVP)との固体分散体(1:3)を製造し、これを用いて下表の組成の錠剤(45mg錠)を製造した。溶出試験の結果を表中に記載する。
【0066】
【表2】
【0067】
溶出試験1において、pH調節剤の添加によって、薬物溶出率は向上した(Ref 2b)。しかし、崩壊剤の添加によってはむしろ崩壊性・溶出性が低下する傾向が見られた(Ref 2c、2d)。溶出試験1の結果が良好であったRef 2eの錠剤を用いてイヌBA試験を実施した。結果を
図2に示す。Ref 2eの24時間後までのAUCは、特許文献1記載の用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と比べて大きく劣るものであった。この結果より、固体分散体を用いてAC220の溶解性を改善させても、錠剤のバイオアベイラビリティは改善しない事が示唆された。
【0068】
参考例3:AC220−HPBCD混合体と汎用処方を用いた錠剤
特許文献1の実施例6〜8に記載の方法と同様にして得た、AC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥粉末、AC220−HPBCD(1:10)を用いて、下表の汎用処方により錠剤(45mg錠)を製した。Ref 3c及び3eに示すように、崩壊剤の量を増やすと溶出試験の結果は改善傾向を示したものの、いずれの処方においても、錠剤の崩壊性が十分ではなく、初期放出(D30min>85%)を達成する錠剤を得ることはできなかった。
【0069】
【表3】
【0070】
HPBCDの製剤に対する影響を確認するために、AC220を含まないHPBCDを用いて、以下の処方による錠剤(45mg錠)を製造し、崩壊性を観察した。結果を表中に示す。HPBCDの含有量が増加するに従って、崩壊性が悪化することが確認された。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例1:AC220の分子間相互作用の検討
AC220の水溶液中の分子状態を検討した。AC220は水に溶解したが、その水溶液はAC220の濃度上昇に伴いゲル化が進行した。このときの
1H化学シフトの変化を測定した。結果を
図1に示す。なお、d及びeのプロトンについては、他のプロトンのシグナルとのオーバーラップにより解析不可であった。中央の芳香環を中心に高磁場側への
1H化学シフトの変化が観察され、芳香環部分がゲル形成に強く関与していることが示唆された。
更に、二次元NMRの1つであり、空間的に近接しているプロトン同士を検出する手法であるNOESY(NOE correlated Spectroscopy)によって、AC220の分子間のプロトンの相互作用を検出した結果、中央の芳香環部分にクロスピークが認められ芳香環同士のπ−πスタッキングがゲル形成に関与することが認められた。
また、
1H化学シフト変化の解析によりHill係数を算出した結果、値が1より大きく、ネットワーク形成が示された。AC220水溶液にメタノールを添加すると、AC220のゲル形成が阻害されることが確認され、ネットワーク形成が分子間の水素結合によるものであることが示された。
以上より、AC220は、π-πスタッキングを介した凝集体形成と水素結合によるネットワーク形成からなる分子間相互作用を有しており、AC220水溶液のゲル形成にはこの分子間相互作用が関与していることが確認された。
一方、前記特許文献1には、AC220にゲル化防止剤としてHPBCDを重量比1:10で加えて得た噴霧乾燥粉末からなる用時溶解型製剤が開示され、これを水溶液で再構成することにより、ゲル形成が抑制された経口投与用液剤が得られた事が開示される(例えば、段落番号0073〜0075、0088、実施例6〜8)。上記知見より、この液剤のゲル化抑制は、AC220の分子間相互作用の抑制に基づくものであると推定され、従って、AC220とHPBCDを概ね重量比1:10で含むAC220−HPBCD混合体を用いることによって、AC220の分子間相互作用が抑制された錠剤を製造し得ることが示唆された。
【0073】
実施例2:
後記表5に示す通り、AC220−HPBCD(1:10)と滑沢剤を乾式造粒後圧縮成型して錠剤(45mg錠)を得た。成形性は良好であり、錠剤の硬度は10錠平均にて159Nであった。溶出試験の結果を表5に示す。
【0074】
本錠剤は、溶出試験2において特許文献1記載の用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))とほぼ同等の薬物溶出率を有することが確認された。
【0075】
実施例3:滑沢剤の含有量の検討
表5に示す通り、AC220−HPBCD(1:10)と滑沢剤を直接打錠して錠剤(45mg錠)を得た。成形性は良好であった。溶出試験の結果を表中に示す。滑沢剤として疎水性の高いステアリン酸マグネシウムを用いた場合、2%の添加で初期溶出が抑制されることが確認された(Ex 3C参照)。一方、疎水性がやや劣るフマル酸ステアリルナトリウム2%添加の錠剤(Ex 3D)では初期溶出が良好であったことから、その疎水性に応じて滑沢剤の含有量をコントロールすることによって混合体を含む錠剤の溶出をコントロールできる事が示唆された。
【0076】
【表5】
【0077】
実施例4:
AC220−HPBCD(1:10)を用いて下表の組成の発泡錠(45mg錠)を製造した。成形性は良好であった。溶出試験1の結果を表中に示す。当該発泡錠は速やかに崩壊して初期溶出は良好であった。更に、溶出試験2においても、特許文献1記載の用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))と比較して、初期(15分後)ではやや劣るものの、その後はほぼ同等の薬物溶出率を有することが確認された。
【0078】
【表6】
【0079】
実施例5:
AC220−HPBCD(1:10)を用いて下表の組成の錠剤(45mg錠)を製造した。成形性は良好であった。溶出試験の結果を表中に示す。これらの錠剤はいずれも速やかに崩壊して初期溶出は良好であった。更に、Ex 5Aの錠剤を用いたイヌのBA試験(n=6)を実施した。結果を、特許文献1記載のAC220・2塩酸塩とHPBCD(重量比1:10)の噴霧乾燥品からなる用時溶解型製剤(投与時液剤:AC220 solution(1:10))の結果と共に
図2に示す。Ex 5Aの錠剤の24時間後までのAUCは、AC220 solution(1:10)の0.96倍と、同等であった。また、本錠剤は、加速条件(40℃/75RH%)下、乾燥剤入りのボトルあるいはアルミポーチに収納された状態で、6カ月保管しても溶出性に変化がないことが確認され、長期間保存後も溶出性が低下することがない、極めて安定な製剤であった。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例6:コーティング錠剤
実施例5で得られたEx 5Aの錠剤にフィルムコーティング剤(商品名:Opadry II 85F18422, Colorcon, USA)15mg/錠を用いて、コーティングを施し、錠剤サイズが15mm×8mm、重量が555.0mgのコーティング錠を得た。
【0082】
実施例7:結合剤の含有量の検討
下表8及び9に示す通り、結合剤の種類と添加量を変えて、実施例5と同様にして錠剤を得た。溶出試験1の結果を実施例5のEx 5Aの錠剤の結果とともに表中に示す。結合剤の添加量が増えると初期溶出が低下する傾向が見られた。結合剤の種類にもよるが、概ね5%程度の結合剤添加であれば、初期溶出のクライテリアは達成できる事が確認された。
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
実施例8:崩壊剤の含有量の検討
下表の通り、崩壊剤の種類と添加量を変えて、実施例5と同様にして錠剤を得た。溶出試験1の結果を実施例5のEx 5Aの錠剤の結果とともに表中に示す。一部の崩壊剤では添加量が増えると初期溶出が低下する傾向が見られた。他の添加剤や崩壊剤の種類にもよるが、概ね10%程度の崩壊剤の添加であれば、初期溶出は大きく低下することはない事が確認された。しかしながら、崩壊剤を10%添加しても、錠剤の崩壊は認められず、溶出タイプは溶解型であった。このことから、AC220−HPBCD混合体を用いた錠剤においては、崩壊剤による崩壊性改善は困難であることが示唆された。
【0086】
【表10】
【0087】
【表11】