(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116877
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3212 20160101AFI20170410BHJP
F16J 15/3244 20160101ALI20170410BHJP
F16J 15/3208 20160101ALI20170410BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20170410BHJP
【FI】
F16J15/3212
F16J15/3244
F16J15/3208
F16J15/3204 201
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-262365(P2012-262365)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-109283(P2014-109283A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寿喜
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−125259(JP,U)
【文献】
特開平08−178082(JP,A)
【文献】
実開昭61−058769(JP,U)
【文献】
実公昭37−008710(JP,Y1)
【文献】
米国特許第03827703(US,A)
【文献】
米国特許第02435943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3212
F16J 15/3204
F16J 15/3208
F16J 15/3244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リップ保持部から密封対象側へ向けて設けられたシールリップと、前記シールリップの外周面に装着されたスプリングと、前記シールリップの先端から径方向内方へ向けて設けられた曲げ部と、前記曲げ部の内周端から外気側へ向けて設けられた内周リップと、前記内周リップの内周面に設けられた軸に対する摺動部とを備え、
前記摺動部は、前記曲げ部より外気側に配置されるとともに前記スプリングの中心より密封対象側に配置され、
前記内周リップは、その外気側の先端へ向けて徐々に縮径するテーパ状に成形され、前記摺動部が軸の外周面に接触して前記内周リップが径方向外方へ持ち上げられたとき、前記内周リップの内周面のうち前記摺動部以外の部位は前記軸の外周面から離れ、前記軸の外周面との間に径方向間隙を設定することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記内周リップの内周面における前記摺動部より外気側の部位に、軸回転時のポンピング作用をなすネジ部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1記載の密封装置において、
前記摺動部を含む前記内周リップの内周面に、フッ素系樹脂よりなる低摩擦材が被着されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、自動車関連の分野または鉄道車両関連の分野(例えば鉄道車両軸受シール)で用いられ、あるいは汎用機械の分野などで用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から
図5に示すように、ゴム状弾性体よりなるシールリップ51を有する密封装置が知られており、シールリップ51はその内周面に軸に対する摺動部52を備えるとともにその外周面にリップ締め付け用のスプリング53を装着する構造を有している(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながらこの密封装置では、スプリング53による締め付け力が摺動部52に直接作用するため、一般的に摺動トルクが大きい傾向にある。
【0004】
これに対し近年、例えば自動車関連の分野では、燃費向上の目的より、密封装置の摺動トルクを低減する要求が多くなっており、従来形状に対する低トルク化の検討が必要な状況である。
【0005】
また、本発明に対する先行技術として
図6に示すように、シールリップ51の内周側に内周リップ54を一体成形し、この内周リップ54を軸55に接触させる構造の密封装置が存在する(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながらこの密封装置では、内周リップ54の先端に軸55に対する摺動部52が配置されているため、スプリング53による締め付け力が摺動部52にほとんど作用せず(届かず)、よって軸55の偏心に対する追随性が不足する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭56−23756号公報
【特許文献2】実開昭49−2948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて、シールリップの摺動部における低トルク化を実現するとともに、軸の偏心に対する追随性を確保することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、リップ保持部から密封対象側へ向けて設けられたシールリップと、前記シールリップの外周面に装着されたスプリングと、前記シールリップの先端から径方向内方へ向けて設けられた曲げ部と、前記曲げ部の内周端から外気側へ向けて設けられた内周リップと、前記内周リップの内周面に設けられた軸に対する摺動部とを備え、前記摺動部は、前記曲げ部より外気側に配置されるとともに前記スプリングの中心より密封対象側に配置さ
れ、前記内周リップは、その外気側の先端へ向けて徐々に縮径するテーパ状に成形され、前記摺動部が軸の外周面に接触して前記内周リップが径方向外方へ持ち上げられたとき、前記内周リップの内周面のうち前記摺動部以外の部位は前記軸の外周面から離れ、前記軸の外周面との間に径方向間隙を設定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記内周リップの内周面における前記摺動部より外気側の部位に、軸回転時のポンピング作用をなすネジ部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記摺動部を含む前記内周リップの内周面に、フッ素系樹脂よりなる低摩擦材が被着されていることを特徴とする。
【0012】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、内周リップの内周面に設けられた軸に対する摺動部が曲げ部より外気側に配置されているために、スプリングによる締め付け力が曲げ部のほうへ回り込んだうえで摺動部に作用する。したがってスプリングによる締め付け力が摺動部に直接作用する場合(
図5)と比較して、摺動部に発生する摺動トルクを低減することが可能とされる。
【0013】
また併せて、内周リップの内周面に設けられた軸に対する摺動部がスプリングの中心より密封対象側に配置されているために、スプリングによる締め付け力が曲げ部のほうへ回り込んだうえで適度な大きさで摺動部に作用する。したがって内周リップの先端に摺動部が配置される場合(
図6)と比較して、軸の偏心に対するシールリップの追随性を向上させることが可能とされる。
【0014】
また、内周リップの内周面における摺動部より外気側の部位に、軸回転時のポンピング作用をなすネジ部を設けることにより、密封装置のシール性を向上させることが可能とされる。
【0015】
また、摺動部を含む内周リップの内周面に、フッ素系樹脂よりなる低摩擦材を被着することにより、摺動部に発生する摺動トルクを一層低減することが可能とされる。
【0016】
尚、内周リップの内周面に設けられる摺動部は一般に、断面三角の尖端状とされるが、その断面形状は限定されず、例えば断面円弧のアール状などであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0018】
すなわち、本発明においては以上説明したように、内周リップの内周面に設けられた摺動部が曲げ部より外気側に配置されているため、スプリングによる締め付け力が曲げ部のほうへ回り込んだうえで摺動部に作用する。したがってスプリングによる締め付け力が摺動部に直接作用する場合と比較して摺動トルクを低減することができる。また、摺動部がスプリングの中心より密封対象側に配置されているため、スプリングによる締め付け力が曲げ部のほうへ回り込んだうえで適度な大きさで摺動部に作用する。したがって内周リップの先端に摺動部が配置される場合と比較して軸の偏心に対する追随性を向上させることができる。したがってこれらのことから本発明所期の目的どおり、シールリップの摺動部における低トルク化を実現するとともに、軸の偏心に対する追随性を確保することができる密封装置を提供することができる。
【0019】
また、内周リップの内周面における摺動部より外気側の部位にネジ部を設けることによりシール性を向上させることができ、摺動部を含む内周リップの内周面にフッ素系樹脂よりなる低摩擦材を被着することにより摺動トルクを一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】同密封装置におけるスプリングによる締め付け力の作用方向を示す説明図
【
図4】本発明の他の実施例に係る密封装置の要部断面図
【実施例】
【0021】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置(オイルシール)1の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、ハウジング(図示せず)の軸孔内周に装着されて前記軸孔に挿通する軸(回転軸)2(
図3参照)の周面に摺動自在に密接するものであって、機内に存する密封対象が機外へ漏洩するのを抑制するとともに機外に存するダストや泥水等の異物が機内へ侵入するのを抑制する。機内側はすなわち密封対象側Aであり、機外側はすなわち外気側Bである。
【0023】
密封装置1は、ハウジングの軸孔内周面に固定(嵌着)される筒状の固定部11を有しており、この固定部11の外気側端部から径方向内方へ向けてフランジ状のリップ保持部12が一体に設けられ、このリップ保持部12の内周端部から密封対象側へ向けてシールリップ13が一体に設けられている。またこの密封装置1は部品としては、筒状部14aの外気側端部に内向きフランジ部14bを一体成形した金属等剛材製の環部材(金属環)14にゴム状弾性体15を被着(加硫接着)したものであって、この後者のゴム状弾性体15によって、外周シール部16、フランジ被覆部17およびダストリップ18とともにシールリップ13が一体に成形されている。
【0024】
シールリップ13の外周面に環状の装着溝19が設けられ、この装着溝19に環状のスプリング(ガータスプリング)20が装着されている。装着溝19はシールリップ13の先端13aから外気側へ若干後退した位置に設けられているので、スプリング19もシールリップ13の先端13aから外気側へ若干後退した位置に装着されている。
【0025】
また、シールリップ13の先端13aから径方向内方へ向けて環状の曲げ部(反転部)21が一体に設けられ、曲げ部21の内周端から外気側へ向けて内周リップ22が一体に設けられている。したがって内周リップ22はシールリップ13の内周側に空間部23を介して配置されている。内周リップ22の軸方向長さはシールリップ13の軸方向長さとほぼ同等とされ、よって内周リップ22は全体として円筒状または外気側の先端22aへ向けて徐々に縮径するテーパ状に成形されている。
【0026】
内周リップ22の内周面に、軸2に対する摺動部24が設けられている。摺動部24は断面三角形の尖端として環状に成形されており、よってこの摺動部24が軸2の外周面に接触して内周リップ22が径方向外方へ持ち上げられると、内周面の摺動部24以外の部位(先端22aを含む)は軸2の外周面から離れ、軸2の外周面との間に径方向間隙が設定される。上記したように摺動部24の断面形状は特に限定されず、例えば断面円弧のアール状などであっても良い。
【0027】
摺動部24は、その軸方向の位置(配置)に関して、曲げ部21よりも外気側に配置されるとともに、装着溝19に装着されたスプリング20の中心(スプリング20の断面形状または軸方向幅における中心、
図1ではこの中心の軸方向位置を符号20aの線で示している)よりも密封対象側に配置され、よって摺動部24は曲げ部21とスプリング20の中心の間に配置されている。したがって摺動部24は内周リップ22の内周面において曲げ部21に比較的近い位置に配置されているので、上記したように摺動部24が軸2の外周面に接触して内周リップ22が径方向外方へ持ち上げられると、内周リップ22の内周面のうちのかなり広範囲の部位が軸2の外周面から離れることになる。
【0028】
また、内周リップ22の内周面であって摺動部24よりも外気側の部位に、軸2の回転時にポンピング作用を発揮して密封対象を密封対象側へ押し戻すためのネジ部25が設けられている。
図2に詳細を示すように、このネジ部25は断面三角形のリブ(突起)26よりなり、このリブ26が円周上に多数等間隔で並べられている。ネジ部25の一端(リブ26の一端)は摺動部24の外気側斜面24aに至り、摺動部24の尖端24bに達している。ネジ部25の他端(リブ26の他端)は内周リップ22の先端22aに達していないが、内周リップ22の先端22aに達していても良い。ネジ部25の高さ(リブ26の高さ)は摺動部24の高さと同等ないしほぼ同等に設定されている。
【0029】
上記構成の密封装置1は、上記したようにハウジングの軸孔内周に装着されて軸2の周面に摺動自在に密接するものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0030】
すなわち上記構成の密封装置1においては、内周リップ22の内周面に設けられた摺動部24が曲げ部21よりも外気側に配置されているため、
図3に矢印で示すように、スプリング20による締め付け力が曲げ部21のほうへ回り込んだうえで摺動部24に作用し、締め付け力は曲げ部21において分散する。したがってスプリングによる締め付け力が摺動部に直接作用する場合(
図5)と比較して、摺動部24に発生する摺動トルクを低減することができる。
【0031】
また、内周リップ22の内周面に設けられた摺動部24がスプリング20の中心よりも密封対象側に配置されているため、摺動部24は曲げ部21の比較的近くに配置されている。したがってスプリング20による締め付け力が曲げ部21のほうへ回り込んだうえで適度な大きさで摺動部24に作用するため、内周リップの先端に摺動部が配置される場合(
図6)と比較して、軸2の偏心に対するシールリップ13の追随性を向上させることができる。
【0032】
また、上記構成の密封装置1においては、内周リップ22の内周面に設けられた摺動部24が軸2の外周面に摺動可能に密接することによって密封対象をシールするが、これに加えて、内周リップ22の内周面における摺動部24よりも外気側の部位にネジ部25が設けられているため、このネジ部25が発揮するポンピング作用によっても密封対象をシールする。したがって密封対象に対するシール性を向上させることができる。
【0033】
尚、このネジ部25については、その高さが上記したように摺動部24の高さと同等に設定されているため、内周リップ22の内周側に軸2が挿入されて軸2の外周面に摺動部24が接触すると、同時にネジ部25も軸2の外周面に接触する。また、内周リップ22の内周側に軸2が挿入された状態で内周リップ22の内周面が軸2の外周面と平行となる場合には、ネジ部25はその全長に亙って軸2の外周面に接触する。したがってこの場合には、ポンプ有効長が長く設定されるため、ネジ部25が発揮するポンピング作用はきわめて強力なものとされる。
【0034】
また、このネジ部25については、これを省略して、摺動部24を含む内周リップ22の内周面にPTFEなどのフッ素系樹脂よりなる低摩擦材を被着するようにしても良く、この場合には摺動部24に発生する摺動トルクを一層低減することができる。またPTFEなどのフッ素系樹脂よりなる低摩擦材には、摺動部24に発生する摺動発熱を抑制する効果もある。
【0035】
図4に示す他の実施例では、摺動部24を含む内周リップ22の内周面の全面に亙って、PTFEなどのフッ素系樹脂よりなる低摩擦材27が所定の厚みで被着(焼き付け)されている。但し、低摩擦材27は摺動部24を含む内周リップ22の内周面の少なくとも一部に被着されていれば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 密封装置
2 軸
11 固定部
12 リップ保持部
13 シールリップ
13a,22a 先端
14 環部材
14a 筒状部
14b フランジ部
15 ゴム状弾性体
16 外周シール部
17 フランジ被覆部
18 ダストリップ
19 装着溝
20 スプリング
20a スプリングの中心を示す線
21 曲げ部
22 内周リップ
23 空間部
24 摺動部
24a 外気側斜面
24b 尖端
25 ネジ部
26 リブ
27 低摩擦材
A 密封対象側
B 外気側