(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
研削ホイールの寿命を延ばすためには、砥石の高さ寸法を高くすることが考えられる。しかしながら、砥石の高さ寸法が高い状態で研削する場合は、低い状態の場合よりも、ウェーハ研削面までの距離が遠くなっていることから、ウェーハ研削面に必要量の研削液が供給できない不具合があった。そのため、砥石の高さ寸法が高い状態で研削する場合は、研削液の供給不足を起因として、ウェーハ1枚当たりの砥石摩耗量が増大してしまうという問題を有していた。
【0006】
そこで、砥石の高さ寸法が高い状態における砥石摩耗量を抑制するために、例えば、砥石摩耗量に応じて研削液の供給流量を変化させることが考えられる(特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載のような方法では、研削液の供給流量の調整が複雑になる問題がある。
【0007】
また、放射状に配置された羽根車を備えた飛散板を用い、この飛散板を回転させることによって発生する遠心力を利用して、研削液をウェーハ研削面に供給する方法が検討されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、羽根車を設ける必要があることから飛散板の構造が複雑になる問題がある。
以上のことから、供給配管を介して供給される研削
液を飛散させる構成において、簡単な構成で
研削液の供給方向への飛散距離を長くすることが望まれている。
【0008】
本発明の目的は、簡単な構成でかつコストの増大を抑制しながら、
研削液の供給方向への飛散距離を長くすることが可能な、飛散板、研削ホイール、および、研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の飛散板は、供給配管を介して供給され
、研削ホイールによる被研削物の研削に用いられる研削液を飛散させる飛散板であって、前記供給配管の開口端に対向する位置において、厚さ方向が前記
研削液の供給方向と略平行となるように、かつ、前記厚さ方向に略平行な回転軸を中心に回転するように配置可能な板状部材を備え、前記板状部材には、当該板状部材の回転中心以外の箇所に、厚さ方向に貫通し前記
研削液が通過可能な飛散孔が設けられ、前記飛散孔における回転方向の後ろ側に位置する壁面は、前記供給配管に対向する対向面側の前記回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部が非対向面側の前記回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部より回転方向の前方に位置するように傾斜しており、前記飛散孔は、前記対向面側の開口内に前記供給配管の開口縁の一部が位置するように設けられていることを特徴とする。
【0010】
ここで
、供給配管は、飛散板と同じ速度で、あるいは異なる速度で回転するように構成されていてもよいし、回転しないように構成されていてもよい。
本発明によれば、飛散板の飛散孔における回転方向の後ろ側に位置する壁面を、供給配管に対向する対向面側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部が非対向面側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部より回転方向の前方に位置するように傾斜させている。
上記構成の飛散板を、供給配管の開口端に対向する位置において回転させると、供給配管から排出された
研削液は飛散孔に入り込む。このとき、飛散孔の回転方向の後ろ側の壁面と接触する
研削液には、この壁面の傾斜が飛散板の回転方向の前方に移動することによって、供給方向への力が与えられると考えられる。したがって、
研削液の供給流量を調整することなく、飛散孔の壁面を上述のように傾斜させるだけの簡単な構成で、従来の構成よりも
研削液の供給方向への飛散距離を長くすることができる。
また、例えば、供給配管を回転可能な構成とした場合、
研削液は、供給配管の回転によって遠心力を受けて、供給配管の内壁面に押し付けられた状態で供給配管の開口縁に向かう。そのため、供給配管の開口内に飛散孔の対向面側の開口の全てが位置し、かつ、対向面側の開口縁が供給配管の開口縁と全く重ならないように構成されていると、供給配管の全周にわたって、供給配管の開口縁に押し付けられている
研削液は、飛散孔に入り込めず、供給配管中にとどまってしまう不具合を生じる。
一方、本発明によれば、飛散孔の対向面側の開口内に供給配管の開口縁の一部が位置するよう
に構成しているため、供給配管の開口縁に押し付けられている
研削液は、供給配管内にとどまることなく、飛散孔に確実に入り込むことができる。したがって、
研削液の飛散量の低減を抑制できる。
【0011】
また、本発明の飛散板では、前記飛散孔における回転方向の前側に位置する壁面は、前記対向面側の前記回転方向の最も前側に位置する壁面端部が前記非対向面側の前記回転方向の最も前側に位置する壁面端部より回転方向の前方に位置するように傾斜していることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、飛散孔における回転方向の前側に位置する壁面を、対向面側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部が非対向面側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部より回転方向の前方に位置するように傾斜させている。
このため、供給配管から排出された
研削液が飛散孔に到達すると、回転方向の前側の壁面の傾斜によって回転方向の後ろ側に案内される。したがって、飛散孔の回転方向の後ろ側の壁面によって、排出方向への力が与えられる
研削液の量を増やすことができ、
研削液の排出方向への飛散距離をより長くすることができる。
【0013】
また、本発明の飛散板では、前記板状部材には、複数の前記飛散孔が設けられ、前記複数の飛散孔は、前記板状部材の回転中心を中心とした仮想円の円周上において等間隔に設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、複数の飛散孔を、板状部材の回転中心を中心とした仮想円の円周上において等間隔に設けている。
このため、仮想円の円周上において等間隔に設けられた複数の貫通孔によって、円周方向のどの方向についてもムラなく
研削液を飛散させることができる。
【0017】
本発明の研削ホイールは、供給配管を介して供給される研削液を用いて、被研削物の研削を行う研削ホイールであって、前記供給配管の開口端に対向する位置において、厚さ方向が前記研削液の供給方向と略平行となるように、かつ、前記厚さ方向に略平行な回転軸を中心に回転するように配置可能な略板状のホイールベースと、前記ホイールベースにおける前記供給配管に対向しない非対向面から環状に突出するように設けられ、前記被研削物に押し当てられる砥石とを備え、前記ホイールベースには、当該ホイールベースの回転中心以外の箇所に、厚さ方向に貫通し前記研削液が通過可能な飛散孔が設けられ、前記飛散孔における回転方向の後ろ側に位置する壁面は、前記供給配管に対向する対向面側の前記回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部が前記非対向面側の前記回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部より回転方向の前方に位置するように傾斜して
おり、前記飛散孔は、前記対向面側の開口内に前記供給配管の開口縁の一部が位置するように設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の研削ホイールによれば、ホイールベースに上記飛散板と同様の飛散孔を設けたため、研削液の供給流量を調整することなく、飛散孔の壁面を上述のように傾斜させるだけの簡単な構成で、従来の構成よりも研削液の供給方向への飛散距離を長くすることができる。また、研削ホイールの砥石の高さ寸法が高い状態でも、被研削物に必要量の研削液を供給することができ、被研削物1枚当たりの砥石摩耗量が増大してしまうことがない。したがって、研削ホイールの寿命を延ばすことができる。
【0019】
本発明の研削装置は、供給配管と、前記供給配管を介して供給され
る研削液を飛散させる上述の飛散板と、前記飛散板が飛散させた研削液を用いて、被研削物の研削を行う研削ホイールとを備えたことを特徴とする。以下、本発明の第一の研削装置ということもある。
本発明の他の研削装置は、供給配管と、前記供給配管を介して供給される研削液を用いて、被研削物の研削を行う上述の研削ホイールとを備えたことを特徴とする。以下、本発明の第二の研削装置ということもある。
【0020】
本発明の第一の研削装置および第二の研削装置によれば、研削液の供給流量を調整することなく、飛散孔の壁面を上述のように傾斜させるだけの簡単な構成で、従来の構成よりも研削液の供給方向への飛散距離を長くすることができる。また、上述したように、研削ホイールの寿命を延ばすことができる。さらに、砥石の高さ寸法が高い状態であっても、研削液の供給流量を調整せずに、研削液を被研削物に確実に到達させることができるため、過剰な研削液を必要とせず、製造コストを低減できる。
また、第一の研削装置においては、飛散板と研削ホイールとを別体で構成しているため、従来の研削装置に飛散板を設置するだけの簡単な構成で、上記の効果を奏することができる。また、飛散板と研削ホイールとのどちらか一方のみの交換やメンテナンスを、容易に行うことができる。
一方、第二の研削装置においては、研削ホイールに飛散孔を設けているため、交換やメンテナンスのときの取り外しや設置が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
[両頭研削加工装置の構成]
図1に示すように、研削装置としての両頭研削加工装置1は、内部で被研削物としてのウェーハWを保持するキャリアリング2と、供給配管3と、この供給配管3を介して供給され
る研削液を飛散させる飛散板4と、この飛散板4が飛散させた研削液を用いて、ウェーハWの研削を行う研削ホイール5と、供給配管3に研削液を供給するための図示しない研削液供給手段と、研削ホイール5でウェーハWを研削するように駆動する図示しない研削機構とを備える。
【0023】
供給配管3は、キャリアリング2で保持されたウェーハWの両面に対向するように配置されている。供給配管3の研削液の供給方向D1の第1先端面31には、凸部32が設けられている。なお、供給配管3は、凸部32を含む先端部分から構成される略円板状のフランジと、このフランジが取り付けられる配管とを備えてもよい。
【0024】
研削ホイール5は、
図1および
図2に示すように、例えばダイヤモンドホイールである略円板状のホイールベース51と、砥石52とを備える。
ホイールベース51の中央には、当該ホイールベース51の両面を貫通する配置孔511が設けられている。この配置孔511には、供給配管3の凸部32が嵌め込まれている。このような構成により、ホイールベース51は、供給配管3の第1先端面31に密着し、厚さ方向が研削液の供給方向D1と略平行となるように固定される。また、ホイールベース51は、厚さ方向に略平行な回転軸を中心にして、供給配管3とともに回転方向D2に回転する。
【0025】
砥石52は、ホイールベース51における供給配管3と対向しない非対向面から環状に突出するように設けられ、ウェーハWに押し当てられる。砥石52は、円環状の砥石ベース521と、この砥石ベース521の外周方向に沿って設けられた複数のチップ522とを備える。
チップ522は、長方形板状に形成されている。また、隣り合うチップ522は所望の間隔寸法で配置されている。このような構成により、砥石ベース521と、互いに隣り合うチップ522との間に、高さ位置に関係なく幅寸法がチップ間隔寸法と等しいチップ間スリットが形成される。
【0026】
飛散板4は、
図2、
図3(A)および
図3(B)に示すように、略円板状の板状部材41を備える。板状部材41は、供給配管3の開口端である凸部32の第2先端面33に密着し、厚さ方向が研削液の供給方向D1と略平行となるように固定される。また、板状部材41は、厚さ方向に略平行な回転軸を中心にして、供給配管3および研削ホイール5とともに回転方向D2に回転する。
板状部材41には、当該板状部材41の回転中心O以外の箇所に、厚さ方向に貫通し研削液が通過可能な複数の飛散孔42が設けられる。なお、本実施形態では、4個の同じ形状の飛散孔42が設けられる。
この複数の飛散孔42は、板状部材41の回転中心Oを中心とした仮想円Pの円周上において等間隔(90°間隔)に設けられている。なお、本実施形態では、仮想円Pと、供給配管3の開口縁34とが一致している。
【0027】
飛散孔42は、回転方向D2の後ろ側に位置する第1壁面421と、回転方向D2の前側に位置する第2壁面422とを備える。第1壁面421は、供給配管3に対向する対向面411側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部421Aが非対向面412側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部421Bより回転方向D2の前方に位置するように、対向面411に対して傾斜している。第2壁面422は、対向面411側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部422Aが非対向面412側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部422Bより回転方向D2の前方に位置するように、対向面411に対して傾斜している。
また、飛散孔42は、対向面411側の開口423内に供給配管3の開口縁34の一部が位置するように設けられている。
第1壁面421および第2壁面422の傾斜は、ウェーハWの径の大きさ、研削ホイール5の構成等により適宜調整可能であるが、板状部材41の対向面411に対して30°以上60°以下の範囲が望ましく、45°が特に好ましい。
なお、このような構成を有する飛散孔42は、例えばドリル等の工具を、対向面411に対して斜めに貫通させることで形成することができる。このように形成される飛散孔42は、当該飛散孔42の中心軸に直交する断面が真円形となる。
【0028】
また、飛散板4の厚みを調整することで、研削液の飛散方向を調整することができる。なお、飛散板4の厚みが薄すぎると、第1壁面421の高さが低くなり過ぎて、研削液の飛散が弱くなってしまい、他方、飛散板4の厚みが厚すぎると、第1壁面421の高さが高くなり過ぎて、研削液が必要以上に強く飛散してしまうため、いずれも、所望の方向に研削液を飛散させることが難しくなるおそれがある。そのため、飛散板4の厚みは、供給配管3の開口34の径、飛散板4の飛散孔42の径や配置位置、研削液の供給流量などによって、適宜調整する必要がある。
【0029】
研削機構は、鉛直方向に立てられたウェーハWの両側において、研削ホイール5を回転させ、ウェーハWの中心よりも下方の位置に砥石52を押し当てる。そして、この押し当てと同時に、研削ホイール5内に研削液を供給するとともにウェーハWを回転させることで、ウェーハWを研削する。
【0030】
[両頭研削加工方法]
次に、上述の飛散板4を備えた両頭研削加工装置1を用いた両頭研削加工方法について説明する。
図1に示すように、2個の研削ホイール5を両頭研削加工装置1に装着する。そして、両頭研削加工装置1は、研削ホイール5をウェーハWの両面にそれぞれ押し当てるとともに、研削ホイール5内に研削液を供給する。さらに、両頭研削加工装置1は、供給配管3、飛散板4および研削ホイール5を回転方向D2に回転させるとともに、キャリアリング2で保持されたウェーハWを回転方向D3に回転させることで、ウェーハWを研削する。その後、当該研削したウェーハWを新しいウェーハWに交換して、次の研削を行う。
【0031】
研削液は特に限定されないが、水、水溶性研削液、不水溶性研削液、乳化油などが挙げられる。
また、1個の研削ホイール5における、研削液供給流量は、1.3L/min以上であることが好ましい。研削液供給流量が1.3L/min未満であると、研削液の供給方向D1への飛散距離を長くできないおそれがある。
また、研削ホイール5の回転数は、4500rpm以上5500rpm以下であることが好ましい。研削ホイール5の回転数が4500rpm未満であると、研削液の供給方向D1への飛散距離を長くできないおそれがある。
【0032】
研削時において、回転方向D2に回転している供給配管3に、研削液が供給されると、研削液は、供給配管3の回転によって遠心力を受けて、供給配管3の内壁面に押し付けられた状態で供給配管3の開口縁34に向かう。そして、開口縁34の一部が飛散孔42の対向面411側の開口423内に位置しているため、供給配管3の内壁面に押し付けられた研削液は、供給配管3中にとどまることなく、開口縁34および開口423を介して飛散孔42に入り込むことができる。研削液が開口縁34を通過するとき、研削液には、回転方向D2と略平行な開口縁34の接線方向への力が与えられる。そして、研削液は、開口縁34の接線方向への力と、供給方向D1への力との合力によって、凸部32の第2先端面33に対して斜めの方向に移動しながら、飛散板4の飛散孔42に入り込む。
【0033】
飛散孔42に入り込んだ研削液は、回転方向D2の後ろ側の第1壁面421と接触する。そして、第1壁面421の傾斜が回転方向D2の前方(
図3(B)中下方)に移動することによって、研削液には、供給方向D1への力が与えられると考えられる。したがって、第1壁面421を上述のように傾斜させない場合と比べて、研削液の供給方向D1への飛散距離が長くなり、砥石52の高さ寸法が高い研削ホイール5の使い始めの状態でも、ウェーハWに必要量の研削液が供給される。
また、研削液が飛散孔42に入り込むと、回転方向D2の前側の第2壁面422の傾斜によって、回転方向D2の後ろ側に案内される。そして、この回転方向D2の後ろ側に案内された研削液には、回転方向D2に移動する第1壁面421によって、上述のように供給方向D1への力が与えられると考えられる。したがって、第2壁面422を設けない場合と比べて、研削液の供給方向D1への飛散距離がさらに長くなる。
さらに、複数の飛散孔42が仮想円Pの円周上において等間隔に設けられているため、
図2に一点鎖線で示すような略円錐台状の飛散軌跡Tを描きながら、円周方向のどの方向についてもムラなく研削液が飛散する。
そして、飛散板4による飛散によって、必要量の研削液がムラなくウェーハWに供給され、研削ホイール5によって研削が行われる。
【0034】
なお、研削の状態の良否の評価としては、研削加工毎に測定した砥石52の摩耗量(砥石摩耗量)における、研削前後の砥石摩耗量の変化量を用いることができる。この変化量が、砥石寿命にわたって20%以内であることが好ましい。具体的には、砥石摩耗量は
1.5μm/枚以上1.8μm/枚以下であることが好ましい。
【0035】
また、研削したウェーハWの評価としては、ウェーハWの研削前後のBow(反りの向き、大きさ)の変化量を用いることができる。Bowの値は、表裏面の損傷やそれに付随する残留応力のバランスを示す指標となり、研削前後のBowの変化量が0に近づく程、表裏面の損傷状態、残留応力が等しい。即ち、表裏面の研削状態が等しいことを示す。
ここで、Bowとは、ウェーハ全体としての反りを表現する指標の1つであって、ウェーハの中心基準面からウェーハの中点における中心面までの変位により表すものであり、このときの中心基準面は中心面上の3点(Bow−3P)又はベストフィット(Bow−bf)基準により作られるものである。よって、Bow値にあってはプラス(+)で表されたものは凸型の反りを有するものとなり、マイナス(−)で表されたものは凹型の反りを有するものとなる。例えば、光学センサ式の平坦度測定器(LapmasterSFT社製Wafercom)などを使用して反り量を測定することができる。
そして、研削前のウェーハWのBowの値からの、研削後のBowの値の変化量が、−10μm以上+10μm以下であることが好ましい。
【0036】
[実施形態の作用効果]
上述したような本実施形態では、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)飛散板4の飛散孔42における回転方向D2の後ろ側に位置する第1壁面421を、対向面411側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部421Aが非対向面412側の回転方向の最も後ろ側に位置する壁面端部421Bより、回転方向D2の前方に位置するように傾斜させている。
このため、上述のように、第1壁面421が回転方向D2へ移動することによって、研削液に供給方向D1の力が与えられ、研削液の供給方向D1への飛散距離が長くなる。したがって、研削液の供給流量を調整することなく、第1壁面421を上述のように傾斜させるだけの簡単な構成で、研削液の供給方向D1への飛散距離を長くすることができる。
また、研削ホイール5の砥石52の高さ寸法が高い状態でも、ウェーハWに必要量の研削液を供給することができるため、ウェーハ1枚当たりの砥石摩耗量が増大してしまうことがない。したがって、研削ホイール5の寿命を延ばすことができる上、研削したウェーハWの品質も維持できる。
さらに、砥石52の高さ寸法が高い状態であっても、研削液の供給流量を制御せずに、研削液をウェーハWに確実に到達させることができるため、過剰な研削液を必要とせず、製造コストを低減できる。
そして、飛散させた研削液をウェーハWに直接到達させることができるので、ウェーハWの研削面を洗浄する効果も併せて得られる。
【0037】
(2)飛散板4の飛散孔42における回転方向D2の前側に位置する第2壁面422を、対向面411側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部422Aが非対向面412側の回転方向の最も前側に位置する壁面端部422Bより、回転方向D2の前方に位置するように傾斜させている。
このため、上述のように、研削液を第2壁面422の傾斜によって回転方向D2の後ろ側に案内することができ、排出方向への力が与えられる研削液の量を増やすことができ、研削液の排出方向への飛散距離をより長くすることができる。結果として、より多くの研削液をウェーハWの研削面に到達させることができ、より一層品質が安定した研削を実施できる。
【0038】
(3)複数の飛散孔42を、板状部材41の仮想円Pの円周上において等間隔に設けている。
このため、円周方向のどの方向についてもムラなく研削液を飛散させることができ、研削ムラを抑制できる。
【0039】
(4)飛散孔42を、対向面411側の開口423内に供給配管3の開口縁34の一部が位置するように設けている。
このため、供給配管3の回転により供給配管3の内壁面に押し付けられた研削液を、供給配管3中にとどまらせることなく、開口縁34および開口423を介して飛散孔42に入り込ませることができ、研削液の飛散量の低減を抑制できる。
【0040】
(5)飛散板4と、研削ホイール5とを別体で構成している。
このため、従来の両頭研削加工装置に飛散板4を設置するだけの簡単な構成で、上記の効果を奏することができる。また、飛散板4と研削ホイール5とのどちらか一方のみの交換やメンテナンスを、容易に行うことができる。
【0041】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良および設計の変更などが可能である。
すなわち、上記実施形態では、飛散板4と研削ホイール5とを別体で構成したが、
図4に示すように、一体としてもよい。
図4に示す研削ホイール6は、例えばダイヤモンドホイールである略円板状のホイールベース61と、砥石52とを備える。ホイールベース61の回転中心以外の4箇所には、飛散孔42が設けられている。飛散孔42は、上記実施形態の飛散板4に設けられたものと同じ形状を有している。
このような構成にすれば、上記実施形態と同様の作用効果に加え、研削ホイール6に飛散孔42を設けているため、交換やメンテナンスのときの取り外しや設置が容易になる。
【0042】
また、上記実施形態では、1本の配管から構成された供給配管3としたが、供給配管3を複数本設ける構成とし、供給配管3の本数を、飛散板4の飛散孔42の数に対応する数としてもよい。
さらに、飛散孔42の個数は、1〜3個であってもよいし、4個以上であってもよい。
また、4個の飛散孔42の形状は、互いに異なっていてもよいし、当該飛散孔42の中心軸に直交する断面が真円形ではなく、楕円形や多角形であってもよい。
さらに、飛散孔42の第2壁面422を対向面411に対して傾斜させずに、
図3(B)中二点鎖線で示すように、対向面411に直交させてもよ
い。
【0043】
さらに、上記実施形態では、研削装置を、鉛直方向に立てられたウェーハWの両側を同時に研削する両頭研削加工装置1として説明したが、水平方向に保持されたウェーハWの両側を同時に研削する水平式の両頭研削加工装置でもよい。また、ウェーハWの片面のみを研削する片面研削加工装置でもよ
い。
さらに、供給配管3を回転させずに、飛散板4および研削ホイール5のみを回転させてもよい。また、供給配管3と、飛散板4と、研削ホイール5との回転方向や回転速度は、異なっていてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
実施例1として、上記実施形態の飛散板4を備える両頭研削加工装置1を使用し、飛散板4で飛散させた研削液を用いてウェーハWを研削した。なお、研削条件は、砥石52のチップ522の高さ(チップ高さ)寸法を15mm、研削液供給流量を1.6L/min一定とした。
比較例1として、上記実施形態の両頭研削加工装置1から飛散板4を取り外し、供給配管3から供給される研削液を飛散板4で飛散させずに、上記実施例1と同様の研削条件によりウェーハWを研削した。
また、比較例2として、
図5に示す羽根車931と、供給配管3の開口縁34と略等しい形状の貫通孔932とを設けた飛散板93を、飛散板4の代わりに供給配管3に取り付け、研削液を飛散板93で飛散させて、上記実施例1と同様の研削条件によりウェーハWを研削した。
実施例1、比較例1,2で得られた、研削後のウェーハWの形状をBowにより測定した。また、実施例1、比較例1,2の条件で1枚のウェーハWの研削を終えた砥石52のチップ高さ寸法を測定し、砥石摩耗量を求めた。
実施例1では、砥石摩耗量が1.36μm、Bow−bfが6.14μmであった。これに対して、比較例1では砥石摩耗量が2.16μm、Bow−bfが−18.7μm、比較例2では砥石摩耗量が2.08μm、Bow−bfが−20.1μmであった。
実施例1では、砥石摩耗量が小さく、また研削後のウェーハWのBow値も10μm未満の結果になっており、ウェーハWの研削面に
研削液が必要量到達していることが裏付けられている。一方で、比較例1,2では、ウェーハWの研削面に、研削液が十分に供給されていないために、砥石摩耗量が大きくなり、研削後のウェーハWに反りが生じていることが推察される。
【0046】
<実施例2>
実施例2として、上記実施形態の飛散板4を備える両頭研削加工装置1を使用し、飛散板4で飛散させた研削液を用いて、複数枚のウェーハWの研削を行い、それぞれのチップ高さにおける摩耗レート(ウェーハ1枚あたりの摩耗量)を求めた。
比較例3として、
図5に示す飛散板93を飛散板4の代わりに取り付けたこと以外は、実施例2と同様にして、複数枚のウェーハWの研削を行い、それぞれのチップ高さにおける摩耗レートを求めた。
得られた結果に基づく摩耗レート比とチップ高さの関係を
図6に示す。なお、
図6の縦軸に示す摩耗レート比は、実施例2の摩耗レートに対する比較例3の摩耗レートである。
図6から明らかなように、チップ高さがHより小さい場合は、摩耗レート比はほぼ1であり、実施例2の摩耗レートと、比較例3の摩耗レートとが、ほぼ同一の摩耗レートであることが判る。一方で、チップ高さがHより大きくなるにつれて、摩耗レート比が1よりも高くなる傾向がみられた。
また、上記実施例1と比較例2との関係から、チップ高さ寸法が高い状態では、
図5に示す飛散板93を用いて研削すると、砥石摩耗量が増大することが確認されている。
このことから、比較例3ではチップの高さ寸法が高くなると、摩耗レートが増大する傾向がみられるのに対し、実施例2では、チップの高さ寸法が高くても、摩耗レートは大きな変動を生じていないことが判る。
【0047】
<実施例3>
図7に示すように、本発明の飛散板4による研削液の飛散状況を確認するために上記実施形態の飛散板4を備える両頭研削加工装置1を用い、研削ホイール5のチップ522から0.1mm離れた位置にガラス板7を配置した。配置したガラス板7は透明である。また、
図7の上方に示すように、ガラス板7は、
研削液の飛散状況が分かりやすくなるように、所定の間隔で目盛がふってあるものを使用した。このような構成により、上記実施形態と同様に両頭研削加工装置1を駆動したときに、飛散板4で飛散されてウェーハWに到達する研削液の飛散状況をガラス板7越しに確認することができる。
【0048】
飛散板4で飛散された研削液の飛散状況を、ガラス板7越しに確認したところ、
図8に示すような結果が得られた。なお、
図8の内側に位置する円C1は、
研削液が到達していない領域を示し、
図8の外側に位置する円C2は、研削時に、砥石52のチップ522とウェーハWとが接触する領域を示している。また、矢印はガラス板7に到達した研削液の進行方向を示している。
飛散板4から飛散した研削液は、
図8に示すように、円C1の外周付近でガラス板7と衝突し、ガラス板7に衝突した研削液は、矢印で示す旋回流を生じさせながら、回転中心から外側に向かって流れていることが確認できた。また、円C1に示す、研削液が到達していない領域は、円C2に示す、チップ522とウェーハWとが接触する領域よりも、より内側に位置している。この結果から、飛散させた研削液は、砥石52のチップ522とウェーハWとの接触領域に十分にいきわたっていることが確認できた。