特許第6117178号(P6117178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許6117178熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法
<>
  • 特許6117178-熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法 図000007
  • 特許6117178-熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法 図000008
  • 特許6117178-熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法 図000009
  • 特許6117178-熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117178
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂成形体および当該熱伝導性樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20170410BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170410BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C08J5/00
   C08L101/00
   C08J3/20 BCER
   C08J3/20CEZ
   C08K3/00
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-503822(P2014-503822)
(86)(22)【出願日】2013年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2013055733
(87)【国際公開番号】WO2013133181
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-50320(P2012-50320)
(32)【優先日】2012年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 充
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−233608(JP,A)
【文献】 特開2004−051852(JP,A)
【文献】 特開2004−149722(JP,A)
【文献】 特開2008−075063(JP,A)
【文献】 特開2012−040811(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/132389(WO,A1)
【文献】 特開2013−028661(JP,A)
【文献】 特開2010−189523(JP,A)
【文献】 特開2010−189522(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/053843(WO,A1)
【文献】 特開2009−149831(JP,A)
【文献】 特開2013−155370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
C08J 3/20
C08K 3/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および板状、楕球状、または繊維状の無機充填剤を少なくとも含有する樹脂成形体であって、
前記無機充填剤は、単体での熱伝導率が2W/(m・K)以上の熱伝導性充填剤であり、
前記樹脂成形体の体積の50%以上が厚み1.5mm以下であり、
樹脂成形体中の体積50%以上の領域で、上記樹脂の樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向しており、
下記式(1)に基づき、広角X線散乱測定によって得られた半値幅Wから算出された樹脂分子鎖の配向度αが0.6以上1.0未満の範囲であることを特徴とする樹脂成形体。
配向度α=(360°−ΣW)/360° ...(1)
(ただし、Wは広角X線散乱測定における、樹脂分子鎖間の散乱ピークの方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。)
【請求項2】
前記樹脂が加熱時にスメクチック液晶相を示すことを特徴とする、請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂の数平均分子量が3000〜40000であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂が主として下記一般式(2)で示される単位の繰り返しからなる樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
−A−x−A−OCO(CHCOO− ...(2)
(式中、AおよびAは、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、脂環基および脂環式複素環基からなる群から選ばれる置換基を示す。xは、直接結合、−O−、−S−、−CH−CH−、−C=C−、−C=C(Me)−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−および−N(O)=N−からなる群から選ばれる2価の置換基を示す。mは2〜20の整数を示す。)
【請求項5】
前記樹脂の−A−x−A−が下記一般式(3)であることを特徴とする、請求項に記載の樹脂成形体。
【化1】
(式中、Rはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO、yは2〜4の整数、nは0〜4の整数を示す。)
【請求項6】
前記樹脂のmが4〜14の偶数から選ばれる少なくとも1種である請求項またはに記載の樹脂成形体。
【請求項7】
前記無機充填剤が、グラファイト、導電性金属粉、軟磁性フェライト、酸化亜鉛および金属シリコンからなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
前記無機充填剤が、タルク、窒化ホウ素、酸化アルミニウムおよびマイカからなる群より選ばれる1種以上の高熱伝導性無機化合物であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
前記無機充填剤が、炭素繊維、カーボンナノチューブおよびウォラストナイトからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
上記樹脂をせん断流動場に置くことで樹脂分子鎖を樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸を樹脂成形体の面内方向に配向させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
上記樹脂をスメクチック液晶状態でせん断流動場に置くことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
上記せん断流動場を射出成形によって作ることを特徴とする請求項10または11に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れる樹脂成形体および当該樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物をパソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、など種々の用途に使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がし辛いことが問題になることがある。このような課題を解決するため、熱伝導性充填剤を大量に樹脂中に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。熱伝導性充填剤としては、グラファイト、炭素繊維、アルミナ、窒化ホウ素、等の熱伝導性充填剤を、通常は30体積%以上、さらには50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合する必要がある。しかしながら、充填剤を大量に配合しても樹脂単体の熱伝導性が低いために、樹脂組成物の熱伝導率には限界があった。そこで樹脂単体の熱伝導性の向上が求められている。
【0003】
樹脂の高熱伝導化については特許文献1に記載の、熱液晶ポリエステルを流動場、せん断場、磁場、及び電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向させることで、熱液晶ポリエステルの配向方向に熱伝導性が高い樹脂成形体がある。該樹脂成形体について、所望の熱伝導率を得るには、磁場の場合、少なくとも3テスラ以上の磁束密度を必要とし、製造が困難である。また、この方法では板状、楕球上、または繊維状の熱伝導性充填剤も熱液晶ポリエステルと同方向に配向するため、その配向方向に垂直な方向には熱伝導率を高めることが困難である。
【0004】
その他、延伸、磁場配向など特殊な成形加工なしに、樹脂単体が高熱伝導性を有する樹脂についての研究報告はほとんどなく、数少ない例として特許文献2に挙げられる本研究者らによって見出された熱可塑性樹脂がある。特許文献2に記載の熱可塑性樹脂は、樹脂中のラメラ晶の割合を高めることで高い熱伝導性を示すことが記載されているが、製造方法、成形方法等によって熱伝導率が変化するという課題があり、最適な高次構造とその制御方法については未解明であった。
【0005】
分子または分子鎖が流動方向やせん断方向に対して垂直に配向する例として、非特許文献1または2にある通り、スメクチック液晶低分子化合物およびスメクチック液晶ポリマーが知られている。また、液晶ポリマーの一つである4,4’−ビフェノールと脂肪族ジカルボン酸とをモノマーとして重合されるスメクチック液晶ポリマーについて、これまで非特許文献4、5を初め、多数研究がなされ、高結晶性のポリマーとして報告されている。しかし、上記非特許文献1〜5にはその熱伝導性や熱伝導性充填剤を配合することについては一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2008−150525号公報」
【特許文献2】国際公開番号WO2010/050202号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Phiysical Review,45,994−1008(1992)
【非特許文献2】Macromolecules,37,2527−2531(2004).
【非特許文献3】Journal of Polymer Science Polymer Physics Edition, 21, 1119−1131(1983)
【非特許文献4】Macromolecules, 16, 1271−1279(1983)
【非特許文献5】Macromolecules, 17, 2288−2295(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱伝導性に優れる樹脂成形体および当該樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、樹脂および板状、楕球状、または繊維状の無機充填剤を少なくとも含有する樹脂成形体について、樹脂成形体中で樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向し得る方法を見出し、また、この結果、樹脂成形体の厚み方向、面内方向共に熱伝導率を向上できることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記1)を含む。
【0010】
1)樹脂および板状、楕球状、または繊維状の無機充填剤を少なくとも含有する樹脂成形体であって、樹脂成形体中の体積50%以上の領域で、上記樹脂の樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向しており、下記式(1)に基づき、広角X線散乱測定によって得られた半値幅Wから算出された樹脂分子鎖の配向度αが0.6以上1.0未満の範囲であることを特徴とする樹脂成形体。
配向度α=(360°−ΣW)/360° ...(1)
(ただし、Wは広角X線散乱測定における、樹脂分子鎖間の散乱ピークの方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱伝導性に優れた樹脂成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る樹脂成形体の広角X線散乱プロファイルを示す図である。
図2】実施例1に係る樹脂成形体の(ND、TD)パターンの方位角の強度分布を示す図である。
図3】比較例1に係る樹脂成形体の広角X線散乱プロファイルを示す図である。
図4】比較例2に係る樹脂成形体の広角X線散乱プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂成形体は樹脂および板状、楕球状、または繊維状の無機充填剤を少なくとも含有する樹脂成形体であって、樹脂成形体中の体積50%以上の領域で、上記樹脂の樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向しており、下記式(1)に基づき、広角X線散乱測定によって得られた半値幅Wから算出された樹脂分子鎖の配向度αが0.6以上1.0未満の範囲であることを特徴とする。
配向度α=(360°−ΣW)/360° ...(1)
(ただし、Wは広角X線散乱測定における、樹脂分子鎖間の散乱ピークの方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。)
樹脂分子鎖の厚み方向への配向およびその配向度αは、樹脂成形体の広角X線散乱測定(透過)によって確認され、求められる。配向度αを求めるには、まず樹脂成形体の測定したい部位をxyz空間に置いた際に、1mm径のX線ビームを測定部位の中心に対しx、y、zの3方向から照射して透過させる。樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向に配向している場合には、面内方向に対し平行にX線を照射した2つ測定結果で、2θ=20度付近において面内方向の方位角上に散乱ピークが観測される。一方、樹脂分子鎖が無配向状態の場合は方位角360度全体に亘りリングのように散乱ピークが観測される。この2θ=20度付近の位置に確認されるピークは、樹脂分子鎖間の距離を表す。この2θの値はポリマーの構造、樹脂組成物の原料配合の違いによって、15〜30度の範囲となる場合もある。この2θの値を固定して、さらに方位角方向に0度から360度までの強度を測定することにより、方位角方向の強度分布が得られる。この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅W)を求める。この半値幅Wを上記(1)式に代入することによって配向度αを算出する。(1)式のΣWとは、方位角方向の強度分布における複数のピークのそれぞれの半値幅Wの総和を意味する。本発明の樹脂成形体の樹脂分子鎖の厚み方向への配向度αは0.6以上1.0未満の範囲であり、好ましくは0.65以上1.0未満であり、より好ましくは0.7以上1.0未満である。配向度αが0.6未満の場合は樹脂成形体の熱伝導率が低くなる。
【0014】
本発明において「無機充填剤の長軸の配向方向」とは、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて樹脂成形体の面内方向の断面を観察し、見えている方向から無機充填剤断面の最も長い径(長径)を特定し、その特定された長径の方向をいう。さらに「無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向」していることは、グラファイトや窒化ホウ素のように結晶構造に周期的な層構造を有する無機充填剤を含有する樹脂成形体の場合は、上記の樹脂分子鎖の厚み方向の配向を確認した方法と同様、広角X線散乱測定(透過)によって、無機充填剤の面内方向への配向度として確認することができる。この場合の配向度も0.6以上1.0未満の範囲であり、好ましくは0.65以上1.0未満であり、より好ましくは0.7以上1.0未満である。X線散乱では明確に無機充填剤の配向を確認できない場合等には、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて樹脂成形体の面内方向の断面を観察し、任意の50個の無機充填剤について見えている方向から、長軸の樹脂成形体厚み方向に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60〜90度になる状態として「無機充填剤の長軸の配向」を定義する。樹脂成形体の厚み方向および面方向の熱伝導性を同時に向上させるために、上記の方法で確認される樹脂分子鎖と無機充填剤の垂直な配向関係は、樹脂成形体全体の体積の50%以上の部位で達成されることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の樹脂成形体は、体積の50%以上が厚み1.5mm以下であることが好ましい。これは樹脂成形体厚みを薄肉にすればするほど、上記の樹脂分子鎖と無機充填剤の配向を容易に実現できるためである。体積分率については50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が最も好ましい。樹脂成形体厚みについては1.5mm以下であることが好ましく、1.2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。1.5mmよりも樹脂成形体が厚くなると、樹脂成形体の厚み中心部(コア部)と表層部で樹脂分子鎖や無機充填剤の配向状態の違いが顕著に現れる場合がある。また、広角X線散乱測定におけるX線のビーム径が1mmであることも考慮すると、1mmよりも厚い樹脂成形体をX線にて評価する場合は、厚み中心部と表層部とで分けて別々に評価することが好ましい。この場合、厚み中心部と表層部との境界は、SEM観察にて上記の無機充填剤の長軸の樹脂成形体厚み方向に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60度を境に変化する境界とする。本発明の樹脂成形体は、以上のような樹脂分子鎖および無機充填剤の配向を評価した結果、樹脂成形体中の体積50%以上の領域で樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向していることを特徴とする。
【0016】
本発明の樹脂成形体中の樹脂は、分子または分子鎖を樹脂成形体の厚み方向に配向させることが容易であることから、加熱時にスメクチック液晶相を示すことが好ましい。液晶相を示す樹脂とは、樹脂が加熱された際に、ある温度から液晶相を示すものの総称である。液晶の種類として代表的なものにネマチック液晶とスメクチック液晶がある。ネマチック液晶は、構成分子が配向秩序を持つが、三次元的な位置秩序を持たない。一方、スメクチック液晶は、分子の並び方が分子軸に概ね並行に連なり、更に並行に連なった部分の重心が同一平面上にあるような層構造を有する。例えば、ネマチック液晶またはスメクチック液晶分子を液晶状態でせん断流動場に置いた際に、ネマチック液晶分子はせん断流動方向に配向し、スメクチック液晶分子はスメクチックの層構造がせん断流動方向に配向するため、分子は流動面に対し垂直方向に配向することが知られている。スメクチック液晶は直交偏光下の顕微鏡観察では短棒状(batonets)組織、モザイク組織、扇状組織等の特有のパターンを示すことが知られている。スメクチック液晶分子またはポリマーの熱物性としては、一般的に昇温過程において、固相からスメクチック液晶相への転移点(以下T)とスメクチック液晶相から等方相への転移点(以下T)を示す。物質によってはTより低い温度にてスメクチック液晶相からネマチック液晶相への転移点(以下T)を示す場合もある。これらの相転移点はDSC測定の昇温過程において吸熱ピークのピークトップとして確認できる。
【0017】
本発明の数平均分子量とは、高温GPC(Viscotek:350 HT−GPC System)にてカラム温度80℃、検出器を示差屈折計(RI)として測定した値であり、ポリスチレンを標準とし、p−クロロフェノールとトルエンとの体積比が3:8の混合溶媒に、本発明の樹脂を0.25重量%濃度となるように溶解して調製した溶液を用いて数平均分子量を測定する。
【0018】
本発明に係る樹脂の数平均分子量は3000〜40000であることが好ましく、上限を考慮すると3000〜30000であることがさらに好ましく、3000〜20000であることが特に好ましい。一方、下限を考慮すると、3000〜40000であることが好ましく、5000〜40000であることがさらに好ましく、7000〜40000であることが特に好ましい。さらに上限および下限を考慮すると、5000〜30000であることがさらに好ましく、7000〜20000であることが最も好ましい。数平均分子量が3000未満の場合は樹脂成形体としての機械強度が低くなる場合があり、40000より大きい場合は樹脂分子鎖の厚み方向への配向度が0.6未満になる場合がある。
【0019】
本発明の樹脂成形体中の樹脂は主として下記一般式(2)で示される単位の繰り返しからなる樹脂であることが好ましい。
−A−x−A−OCO(CHCOO− ...(2)
(式中、AおよびAは、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、脂環基および脂環式複素環基からなる群から選ばれる置換基を示す。xは、直接結合、−O−、−S−、−CH−CH−、−C=C−、−C=C(Me)−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−および−N(O)=N−からなる群から選ばれる2価の置換基を示す。mは2〜20の整数を示す。)
ここで主としてとは、樹脂分子鎖の主鎖中に含まれる一般式(2)に示す構造の量が、樹脂の全構成単位に対して50mol%以上であり、好ましくは70mol%以上であり、より好ましくは90mol%以上であり、最も好ましくは実質的に100mol%であることをいう。50mol%未満の場合は、分子構造の乱れから高熱伝導性を示さない場合がある。一般式(2)に示す樹脂の構造は、同一分子中に棒状で剛直なメソゲン基と柔軟性基を持つことが特徴であり、ここでは−A−x−A−がメソゲン基に相当し、−(CH−が柔軟性基に相当する。
【0020】
ここでA、Aは各々独立して、ベンゼン環を有する炭素数6〜12の炭化水素基、ナフタレン環を有する炭素数10〜20の炭化水素基、ビフェニル構造を有する炭素数12〜24の炭化水素基、ベンゼン環を3個以上有する炭素数12〜36の炭化水素基、縮合芳香族基を有する炭素数12〜36の炭化水素基、炭素数4〜36の脂環式複素環基から選択されるものであることが好ましい。
【0021】
、Aの具体例としては、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、シクロヘキシル、ピリジル、ピリミジル、チオフェニレン等が挙げられる。また、これらは無置換であってもよく、脂肪族炭化水素基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基などの置換基を有する誘導体であってもよい。xは結合子であり、直接結合、−O−、−S−、−CH−CH−、−C=C−、−C=C(Me)−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−および−N(O)=N−からなる群から選ばれる2価の置換基を示す。これらのうち、結合子に相当するxの主鎖の原子数が偶数であるものが好ましい。すなわち、直接結合、−CH−CH−、−C=C−、−C=C(Me)−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−または−N(O)=N−の群から選ばれる2価の置換基が好ましい。xの主鎖の原子数が奇数の場合、メソゲン基の分子幅の増加と、結合回転の自由度の増加による屈曲性のため、液晶相を示さない場合がある。
【0022】
このような好ましいメソゲン基の具体例として、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、スチルベン、ジフェニルエーテル、1,2−ジフェニルエチレン、ジフェニルアセチレン、フェニルベンゾエート、フェニルベンズアミド、アゾベンゼン、2−ナフトエート、フェニル−2−ナフトエートおよびこれらの誘導体等から水素を2個除去した構造を持つ2価の基が挙げられるがこれらに限るものではない。
【0023】
さらに液晶ポリマーのメソゲン基に相当する−A−x−A−が下記一般式(3)であることが好ましい。これらメソゲン基はその構造ゆえに剛直で配向性が高く、さらには入手または合成が容易である。
【0024】
【化1】
(式中、Rはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO、yは2〜4の整数、nは0〜4の整数を示す)。
【0025】
一般式(2)のmはより高い熱伝導率を発現し易いことから4〜14の偶数であることが好ましく、6〜12の偶数であることがより好ましく、中でも8、10、12のいずれかであることが好ましい。
【0026】
以上に示す構造の樹脂は、公知のいかなる方法で製造されても構わない。構造の制御が簡便であるという観点から、メソゲン基の両末端に水酸基を有する化合物と柔軟性基の両末端にカルボキシル基を有する化合物を反応させる製造方法が好ましい。この場合、樹脂は鎖状である。
【0027】
メソゲン基の両末端に水酸基を有する化合物と柔軟性基の両末端にカルボキシル基を有する化合物からなる樹脂の製造方法の一例としては、両末端に水酸基を有するメソゲン基を無水酢酸等の低級脂肪酸を用いてそれぞれ個別に、または一括して酢酸エステルとした後、別の反応槽または同一の反応槽で、柔軟性基の両末端にカルボキシル基を有する化合物と脱酢酸重縮合反応させる方法が挙げられる。重合反応は、実質的に溶媒の存在しない状態で、通常230〜350℃、好ましくは250〜330℃の温度で、窒素等の不活性ガスの存在下、常圧または減圧下に、0.5〜5時間行われる。反応温度が230℃より低いと反応の進行は遅く、350℃より高い場合は分解等の副反応が起こり易い。減圧下で反応させる場合は段階的に減圧度を高くすることが好ましい。急激に高真空度まで減圧した場合モノマーが揮発する場合がある。到達真空度は100Torr以下が好ましく、50Torr以下がより好ましく、10Torr以下が特に好ましい。真空度が100Torrを超える場合、重合反応に長時間を要する場合がある。多段階の反応温度を採用してもかまわないし、場合により昇温中または最高温度に達したらすぐに反応生成物を溶融状態で抜き出し、回収することもできる。
【0028】
重合工程にて用いられる低級脂肪酸の酸無水物としては、炭素数2〜5個の低級脂肪酸の酸無水物、たとえば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロム酢酸、無水ジブロム酢酸、無水トリブロム酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸等が挙げられるが、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリクロル酢酸が特に好適に用いられる。低級脂肪酸の酸無水物の使用量は、用いるメソゲン基が有する水酸基の合計に対し1.01〜1.50倍当量、好ましくは1.02〜1.2倍当量である。
【0029】
本発明における樹脂は、本発明の効果を失わない程度に他のモノマーを共重合して構わない。例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸またはカプロラクタム類、カプロラクトン類、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジアミン、脂環族ジカルボン酸、および脂環族ジオール、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールが挙げられる。本発明における他のモノマーの添加量は、通常50重量%未満であり、好ましくは30重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満である。
【0030】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−7−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0031】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、3,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4'’−ジカルボキシターフェニル、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(4−カルボキシフェノキシ)ブタン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、ビス(3−カルボキシフェニル)エーテルおよびビス(3−カルボキシフェニル)エタン等、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0032】
芳香族ジオールの具体例としては、例えばハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェノールエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンおよび2,2’−ジヒドロキシビナフチル等、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0033】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4−アミノフェノール、N−メチル−4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルエーテル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルメタン、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’−ジアミノビナフチル並びにこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0034】
芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、N−メチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4’−ジアミノビフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、4,4’−エチレンジアニリン、4,4’−ジアミノビフェノキシエタン、4,4’−ジアミノビフェニルメタン(メチレンジアニリン)、4,4’−ジアミノビフェニルエーテル(オキシジアニリン)、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸および7−アミノ−2−ナフトエ酸およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体などが挙げられる。
【0035】
カプロラクタム類の具体例としては、ε−カプロラクタムなどが、カプロラクトン類の具体例としては、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0036】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
【0037】
脂肪族ジアミンの具体例としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、および1,12−ドデカンジアミンなどが挙げられる。
【0038】
脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジオールおよび脂環族ジオールの具体例としては、ヘキサヒドロテレフタル酸、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコールなどの直鎖状または分鎖状脂肪族ジオールなど、およびそれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0039】
芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールの具体例としては、4−メルカプト安息香酸、2−メルカプト−6−ナフトエ酸、2−メルカプト−7−ナフトエ酸、ベンゼン−1,4−ジチオール、ベンゼン−1,3−ジチオール、2,6−ナフタレン−ジチオール、2,7−ナフタレン−ジチオール、4−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、6−メルカプト−2−ヒドロキシナフタレン、7−メルカプト−2−ヒドロキシナフタレンなど、ならびにそれらの反応性誘導体が挙げられる。
【0040】
本発明の樹脂成形体中の無機充填剤の使用量は、好ましくは樹脂と無機充填剤との体積比で90:10〜30:70であり、より好ましくは80:20〜40:60であり、特に好ましくは70:30〜50:50である。樹脂と無機充填剤との体積比が100:0〜90:10では熱伝導率が満足に得られないことがある。また、樹脂と無機充填剤との体積比が30:70〜0:100では機械物性が低下することがある。本発明に係る樹脂が、無機充填剤間の熱伝導パスとして機能するため、無機充填剤の使用量が樹脂と無機充填剤との体積比で90:10〜70:30と少量の場合でも、樹脂成形体は優れた熱伝導性を有し、さらに同時に無機充填剤の使用量が少量だけに密度を下げることができる。熱伝導率に優れ、かつ密度が小さいことは電気・電子工業分野、自動車分野、等さまざまな状況で放熱・伝熱用樹脂材料として用いる際に有利である。
【0041】
無機充填剤としては、公知の無機充填剤を広く使用できる。無機充填剤単体での熱伝導率は特に限定が無いが、好ましくは0.5W/(m・K)以上、より好ましくは1W/(m・K)以上のものである。得られる樹脂成形体が熱伝導性に優れるという観点からは、単体での熱伝導率が2W/(m・K)以上の熱伝導性充填剤であることが特に好ましい。
【0042】
熱伝導性充填剤としては、公知の充填剤を広く使用できる。熱伝導性充填剤単体での熱伝導率は好ましくは2W/(m・K)以上、さらに好ましくは10W/(m・K)以上、最も好ましくは20W/(m・K)以上、特に好ましくは30W/(m・K)以上のものが用いられる。熱伝導性充填剤単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/(m・K)以下、さらには2500W/(m・K)以下、のものが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の樹脂成形体を特に電気絶縁性が要求されない用途に用いる場合には、熱伝導性に優れることから板状、または楕球状の無機充填剤が、グラファイト、導電性金属粉、軟磁性フェライト、酸化亜鉛および金属シリコンからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることが好ましい。
【0044】
本発明の樹脂成形体を電気絶縁性が要求される用途に用いる場合には、無機充填剤のうち、電気絶縁性を示す化合物としては具体的には、タルク、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅、等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等の金属窒化物;炭化ケイ素等の金属炭化物;炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩;ダイヤモンド、等の絶縁性炭素材料;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、等の金属水酸化物;を例示することができる。中でも板状、または楕球状の無機充填剤として入手が容易なことからタルク、窒化ホウ素、酸化アルミニウムおよびマイカからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることが好ましい。
【0045】
さらに繊維状の無機充填剤を使用する場合、高熱伝導化に有効な炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブおよびウォラストナイトからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることが好ましい。
【0046】
これら無機充填剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、形状、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0047】
これら無機充填剤は、樹脂との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、等従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機充填剤の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0048】
本発明の樹脂成形体には、前記の無機充填剤に加えて、その目的に応じて公知の充填剤を広く使用できる。他の充填剤としては、例えば、ケイソウ土粉;焼成クレイ;微粉末シリカ;石英粉末;結晶シリカ;カオリン;三酸化アンチモン;二硫化モリブデン;ロックウール;セラミック繊維;アスベストなどの無機質繊維;およびガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスクロス、溶融シリカ等ガラス製充填剤が挙げられる。これら充填剤を用いることで、例えば、熱伝導性、機械強度、または耐摩耗性など樹脂組成物を応用する上で好ましい特性を向上させることが可能となる。さらに必要に応じて紙、パルプ、木料;ポリアミド繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などの合成繊維;ポリオレフィン粉末等の樹脂粉末;などの有機充填剤を併用して配合することができる。
【0049】
本発明の樹脂成形体には、上記樹脂や充填剤以外の添加剤として、さらに目的に応じて他のいかなる成分、例えば、補強剤、増粘剤、離型剤、カップリング剤、難燃剤、耐炎剤、顔料、着色剤、その他の助剤等を本発明の効果を失わない範囲で、添加することができる。これらの添加剤の使用量は、樹脂100重量部に対し、合計で0〜20重量部の範囲であることが好ましく、0.1〜15重量部の範囲であることがより好ましい。
【0050】
樹脂に対する配合物の配合方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
【0051】
本発明の樹脂成形体は、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、など種々の樹脂成形法により成形することが可能である。
【0052】
本発明の樹脂成形体の製造方法としては製造の簡便さから、せん断流動場により樹脂分子鎖を樹脂成形体の厚み方向に、また無機充填剤の長軸を樹脂成形体の面内方向に配向することが好ましい。せん断流動場により樹脂分子鎖を厚み方向に配向させるためには、樹脂をスメクチック液晶状態にしてせん断流動場に置くことが好ましい。せん断流動場を利用するには、簡便な方法として射出成形方法が挙げられる。射出成形とは、射出成形機に金型を取り付け、成形機にて溶融可塑化された樹脂組成物を高速で金型内に注入し、樹脂組成物を冷却固化させて取り出す成形方法である。具体的には樹脂をスメクチック液晶状態に加熱し、金型に射出する。ここで、樹脂分子鎖を高配向させるためには、金型温度はT−100℃以上であることが好ましく、T−80℃以上であることがより好ましく、T−50℃以上であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の樹脂成形体は、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。特に優れた成形加工性、高熱伝導性、という優れた特性を併せ持つことから、放熱・伝熱用樹脂材料として、非常に有用である。
【0054】
本発明の樹脂成形体は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。さらには発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、LED照明の放熱部材、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。また自動車や電車等におけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカー等の配電部品用樹脂、モーター等の封止用材料、としても非常に有用に用いることができる。
【0055】
上述のように、本発明は、下記1)の形態を含むが、2)〜13)形態も本発明に含まれる。
【0056】
1)樹脂および板状、楕球状、または繊維状の無機充填剤を少なくとも含有する樹脂成形体であって、樹脂成形体中の体積50%以上の領域で、上記樹脂の樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向しており、下記式(1)に基づき、広角X線散乱測定によって得られた半値幅Wから算出された樹脂分子鎖の配向度αが0.6以上1.0未満の範囲であることを特徴とする樹脂成形体。
配向度α=(360°−ΣW)/360° ...(1)
(ただし、Wは広角X線散乱測定における、樹脂分子鎖間の散乱ピークの方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。)
2)前記樹脂成形体の体積の50%以上が厚み1.5mm以下であることを特徴とする1)に記載の樹脂成形体。
【0057】
3)前記樹脂が加熱時にスメクチック液晶相を示すことを特徴とする、1)または2)に記載の樹脂成形体。
【0058】
4)前記樹脂の数平均分子量が3000〜40000であることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0059】
5)前記樹脂が主として下記一般式(2)で示される単位の繰り返しからなる樹脂であることを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の樹脂成形体。
−A−x−A−OCO(CHCOO− ...(2)
(式中、AおよびAは、各々独立して芳香族基、縮合芳香族基、脂環基および脂環式複素環基からなる群から選ばれる置換基を示す。xは、直接結合、−O−、−S−、−CH−CH−、−C=C−、−C=C(Me)−、−C≡C−、−CO−O−、−CO−NH−、−CH=N−、−CH=N−N=CH−、−N=N−および−N(O)=N−からなる群から選ばれる2価の置換基を示す。mは2〜20の整数を示す。)
6)前記樹脂の−A−x−A−が下記一般式(3)であることを特徴とする、5)に記載の樹脂成形体。
【0060】
【化2】
(式中、Rはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、F、Cl、Br、I、CN、またはNO、yは2〜4の整数、nは0〜4の整数を示す。)
7)前記樹脂のmが4〜14の偶数から選ばれる少なくとも1種である5)または6)に記載の樹脂成形体。
【0061】
8)前記無機充填剤が、グラファイト、導電性金属粉、軟磁性フェライト、酸化亜鉛および金属シリコンからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることを特徴とする、1)〜7)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0062】
9)前記無機充填剤が、タルク、窒化ホウ素、酸化アルミニウムおよびマイカからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることを特徴とする、1)〜7)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0063】
10)前記無機充填剤が、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブおよびウォラストナイトからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物であることを特徴とする、1)〜7)のいずれかに記載の樹脂成形体。
【0064】
11)1)〜10)のいずれかに記載の樹脂成形体の製造方法であって、
上記樹脂をせん断流動場に置くことで樹脂分子鎖を樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸を樹脂成形体の面内方向に配向させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【0065】
12)上記樹脂をスメクチック液晶状態でせん断流動場に置くことを特徴とする11)に記載の樹脂成形体の製造方法。
【0066】
13)上記せん断流動場を射出成形によって作ることを特徴とする11)または12)に記載の樹脂成形体の製造方法。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の樹脂成形体について、実施例および比較例を挙げさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、以下にあげる各試薬は特に特記しない限り和光純薬工業(株)製の試薬を用いた。
【0068】
[評価方法]
配向度α:広角X線散乱装置(リガク社製、広角X線散乱装置)を用いて、1mm径のX線ビームを樹脂成形体中心部の1mm角の部位に対し、3方向から照射した。得られた測定結果から下記式(1)によって配向度αを求めた。
【0069】
配向度α=(360°−ΣW)/360° ...(1)
(式中、Wは広角X線散乱測定における、樹脂分子鎖間の散乱ピークの方位角方向の0〜360°までの強度分布における半値幅を表す。)
数平均分子量:サンプルをp−クロロフェノール(東京化成工業)とトルエンの体積比3:8混合溶媒に0.25重量%濃度となるように溶解して試料を調製した。標準物質はポリスチレンとし、同様の試料溶液を調製した。高温GPC(Viscotek社製、350 HT−GPC System)にてカラム温度:80℃、流速1.00mL/min、の条件で測定した。検出器としては、示差屈折計(RI)を使用した。
【0070】
熱物性測定:示差走査熱量測定(DSC測定)にて、50℃から280℃の範囲で1度10℃/minで昇降温させ、2度目の10℃/minでの昇温時の吸熱ピークのピークトップから、ガラス転移点(T)、固相から液晶相への転移点(T)および液晶相から等方相への転移点(T)を求めた。
【0071】
樹脂成形体作成:幅10mm、長さ40mm、厚み1mmと厚みを適宜変えた板状の樹脂成形体を射出成形によって作成した。射出流動方向は板の長さ方向とした。
【0072】
熱伝導率:樹脂成形体表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン(株)社製ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、Xeフラッシュアナライザー(NETZSCH社製LFA447Nanoflash)にて樹脂成形体の厚み方向(以下ND方向)、射出流動方向(以下MD方向)、流動方向に垂直な方向(以下TD方向)の熱拡散率を測定した。樹脂成形体の密度を水中置換法にて、比熱をDSC法にて測定し、熱伝導率は下記式(4)にて計算した。
【0073】
熱伝導率=熱拡散率×密度×比熱 ...(4)
[実施例1]
還流冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌棒を備え付けた密閉型反応器に、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(450g)、ドデカン二酸、無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1.1:2.1の割合で仕込み、酢酸ナトリウムを触媒とし、常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させ、均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら2℃/minで260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌した。引き続きその温度を保ったまま、約40分かけて10Torrまで減圧した後、減圧状態を維持した。減圧開始から3時間後、窒素ガスで常圧に戻し、樹脂をステンレス板上に払い出した。分子構造を表1に示す。生成した樹脂の数平均分子量は9000であった。熱物性のTは200℃、Tは245℃であった。得られた樹脂、および板状無機充填剤として窒化ホウ素(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製、PT110)を60:40Vol%の比率で混合したものを準備した。これにフェノール系安定剤であるAO−60(ADEKA社製)を樹脂100重量部に対して0.2重量部加え、220℃に制御された二軸押出機にて配合し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形にて幅10mm、長さ40mm、厚み1mmの板状に成形した。射出成形時のシリンダー温度を樹脂がスメクチック液晶相となる240℃に、金型温度を170℃に、射出圧力を0.7MPaに設定した。広角X線散乱プロファイルを図1に、(ND、TD)パターンの方位角の強度分布を図2に、また、各種測定結果を表2に示す。図1の(ND、MD)および(ND、TD)パターンにおいて2θ=21°付近の4.2Åに相当する樹脂分子鎖間からの反射が赤道線上に現れ、かつ2θ=27°付近の3.3Åに相当する窒化ホウ素の(002)面からの反射が子午線上に現れていることから、樹脂分子鎖は樹脂成形体の厚み方向に、窒化ホウ素は樹脂成形体の面内方向に配向していることが分かる。窒化ホウ素の面内方向への配向度は0.83であった。
【0074】
[比較例1]
実施例1で使用した樹脂をポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバデュラン5008)に変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体を得て評価した。広角X線散乱プロファイルを図3に、また、各種測定結果を表2に示す。図3から、窒化ホウ素は実施例1と同様に樹脂成形体の面内方向に配向しているが、樹脂分子鎖は樹脂成形体中でランダムに配向していることが分かる。
【0075】
[比較例2]
実施例1で使用した樹脂をネマチック液晶ポリマー(上野製薬社製、UENOLCP8100)に変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体を得て評価した。広角X線散乱プロファイルを図4に、また、各種測定結果を表2に示す。図4から、窒化ホウ素は実施例1と同様に樹脂成形体の面内方向に配向し、樹脂分子鎖は樹脂成形体中でMDの方向に配向していることが分かる。表2から熱伝導率は樹脂分子鎖が配向しているMDの方向が最も向上し、特にNDの方向には向上は小さかった。
【0076】
[比較例3]
実施例1の射出成形時のシリンダー温度を、樹脂が等方相となる270℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。各種測定結果を表2に示す。樹脂分子鎖は樹脂成形体中でランダムに配向したが、窒化ホウ素の面内方向への配向度は0.83であった。
【0077】
[実施例2]
実施例1のドデカン二酸をテトラデカン二酸に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂を得た。樹脂の分子構造を表1に示す。生成した樹脂の数平均分子量は9500であった。熱物性のTは190℃、Tは235℃であった。また、実施例1と同様に窒化ホウ素を樹脂に配合し、射出成形により板状の樹脂成形体を得た。射出成形時のシリンダー温度は樹脂がスメクチック液晶相となる225℃、金型温度は160℃、射出圧力は0.7MPaに設定した。各種測定結果を表2に示す。
【0078】
[実施例3]
実施例1の樹脂と無機充填剤の配合比率を樹脂:窒化ホウ素:ガラス繊維(日本電気硝子(株)製T187H/PL)=60:30:10vol%にする以外は同様にして樹脂成形体を得た。窒化ホウ素およびガラス繊維の配向の確認は樹脂成形体の面内方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察した。任意の50個の窒化ホウ素またはガラス繊維について見えている方向から、長軸方向の樹脂成形体厚み方向に対する角度を測定し、その平均値は窒化ホウ素が78度、ガラス繊維が82度であり、それぞれの無機充填剤の長軸は樹脂成形体の面内方向に配向していることが認められた。各種測定結果を表2に示す。
【0079】
[実施例4]
実施例1の窒化ホウ素をグラファイト(中越黒鉛社製、CPB−80)に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。各種測定結果を表2に示す。広角X線散乱測定からグラファイトの面内方向への配向度は0.85であった。
【0080】
以上より、樹脂分子鎖が樹脂成形体の厚み方向、無機充填剤の長軸が樹脂成形体の面内方向に配向した際に、樹脂成形体の熱伝導性は厚み方向、面内方向共に優れることが分かる。このような樹脂成形体は電気・電子工業分野、自動車分野、等さまざまな状況で放熱・伝熱用樹脂材料として用いることが可能で、工業的に有用である。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
図1
図2
図3
図4