【文献】
J. Biol. Chem., 2001, Vol.276, No.46, pp.42707-42713
【文献】
Appl. Environ. Microbiol., 2006, Vol.72, No.2, pp.1218-1225
【文献】
Appl. Environ. Microbiol., 2011, Vol.77, No.12, pp.4189-4199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
培養培地が炭素源として、又は主要な若しくは唯一の炭素源としてマルトース若しくはグルコース又はマルトース及びグルコースの組合せを含む、請求項24に記載の方法。
該ストレス抵抗性又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性が、酸性条件に対する抵抗性、熱に対する抵抗性、塩に対する抵抗性、胆汁塩に対する抵抗性、乾燥、噴霧乾燥、凍結若しくはフリーズドライに対する抵抗性、及び浸透圧抵抗性を含む群から一つ若しくは複数選択される、請求項27に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確な指示のない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含む(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又は無制限であり、付加的な、記載されていない成員、要素又は方法工程を除外するものではない。本明細書中で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含む(comprised of)」という用語は、「からなる(consisting of)」、「なる(consists)」及び「からなる(consists of)」という用語、並びに「から本質的になる(consisting essentially of)」、「本質的になる(consistsessentially)」及び「から本質的になる(consists essentially of)」という用語を含むことを理解されたい。
【0039】
端点による数値範囲の記載は、それぞれの範囲内に含まれる全ての数及び分数、並びに記載された端点を含む。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語は、パラメータ、量、時間幅(temporal duration)等の測定可能な値を表す場合には、特定の値の、及び特定の値から±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下の変動を、開示する発明において実施するのにこのような変動が適切である限りにおいて、包含することを意味する。修飾語「約」又は「およそ」が表す値自体も、具体的にかつ好ましく開示されると理解すべきである。
【0041】
成員の群の1つ若しくは複数又は少なくとも1つの成員のような「1つ又は複数」又は「少なくとも1つ」という用語はそれ自体明らかであるが、更なる例示を用いると、この用語は、とりわけ上記成員のいずれか1つ又は上記成員のいずれか2つ以上、例えば上記成員のいずれか3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上又は7つ以上等、最大で上記成員の全てへの言及を包含する。
【0042】
本明細書で引用される全ての参考文献は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。特に、本明細書で具体的に言及される全ての参考文献の教示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0043】
別途定義されない限り、本発明の開示において使用される技術用語及び科学用語を包含する全ての用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解される意味を有する。更なる指標により、本発明の教示をよりよく理解するための用語の定義が包含される。
【0044】
以下の節では、本発明の種々の態様を更に詳細に規定する。そこで規定された各々の態様は、そうではないことが明確に示されていない限り、他の任意の態様(単数又は複数)と組み合わせてもよい。特に、好適又は有利であると示される任意の特徴を、好適又は有利であると示される他の任意の特徴(単数又は複数)と組み合わせてもよい。
【0045】
本明細書全体を通して、「一実施形態("oneembodiment" or "an embodiment")」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。このため、本明細書全体を通して様々な場所での「一実施形態では("in oneembodiment" or "in an embodiment")という表現の登場は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及するものではないが、そうであってもよい。さらに、本開示から当業者に明らかであり得るように、特定の特徴、構造又は特性を1つ又は複数の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせてもよい。さらに、当業者に理解され得るように、本明細書に記載の一部の実施形態は他の実施形態に含まれる一部の特徴を含むが他の特徴を含まず、異なる実施形態の特徴の組合せが本発明の範囲内に含まれ、種々の実施形態を形成することを意味する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも任意の組合せで用いることができる。
【0046】
本発明の以下の詳細な説明において、本発明の一部を形成し、本発明を実施することのできる具体的な実施形態の例示としてのみ示される添付の図面に言及する。他の実施形態を用いてもよく、本発明の範囲を逸脱することなく構造的又は論理的変化を加えることができることを理解されたい。したがって、以下の詳細な説明は限定的な意味に取られず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定される。
【0047】
組み換えDNA技術の一般原則を説明する標準的な参考資料は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1〜3巻、Sambrook et al.編、Cold Spring HarborLaboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;CurrentProtocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編、Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, 1992(定期的な改訂あり)("Ausubel et al. 1992");Innis etal., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、Academic Press: San Diego, 1990を含む。微生物学の一般原則は、例えば、Davis, B. D. et al., Microbiology、第3版、Harper& Row, publishers、Philadelphia, Pa (1980)中で説明される。
【0048】
トレハロース6−リン酸ホスホリラーゼ(TrePP)活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が本明細書で開示される。
【0049】
一態様では、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は薬剤として使用される、すなわち治療に使用される。更なる態様は、TrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含む薬剤を提供する。薬剤の製造へのTrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用も開示される。かかる薬剤は例えば医薬品配合物、栄養補助食品、プロバイオティクス、メディカルフード又は機能性食品として提供され得る。
【0050】
別の態様は、プロバイオティクス又は食品添加物、より具体的には非薬物的プロバイオティクス又は食品添加物としてのTrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用を提供する。関連の態様は、スターター培養物、好ましくは食品の調製用の、より具体的には非薬物的食品である食品の調製用のスターター培養物としてのTrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用を提供する。
【0051】
このため、更なる態様は、TrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含むプロバイオティクス又は食品添加物、より具体的には非薬物的プロバイオティクス又は食品添加物を提供する。関連の態様は、TrePP活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含むスターター培養物、好ましくは食品の調製用の、より具体的には非薬物的食品である食品の調製用のスターター培養物を提供する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「グラム陽性菌」という用語は当該技術分野で既知のその一般的な意味を有する。更なる指針を用いると、グラム陽性菌を、クリスタルバイオレット染料を保持するグラム染色によって同定することができる。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明によるグラム陽性菌は、対象とする被験体に投与した場合に害を及ぼさないか又は有害な影響をもたらさないという意味で非病原性である。
【0054】
本明細書で使用される場合、「乳酸菌」又は(or)「LAB」という用語は、対象とする被験体に投与した場合に害を及ぼさないか又は有害な影響をもたらさないという意味で非病原性であり、好ましくはラクトコッカス、ラクトバシラス、リューコノストック、ペディオコッカス、ストレプトコッカス、アエロコッカス、カルノバクテリウム、エンテロコッカス、オエノコッカス、スポロラクトバチルス、テトラジェノコッカス、バゴコッカス及びワイセラ(Weissella)の細菌属に属するグラム陽性菌に関する。より好ましくは、LABはラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)、ラクトコッカス・ピシウム(Lactococcuspiscium)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)及びラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis)、並びにそれらの任意の亜種及び株等であるが、これらに限定されないラクトコッカス種であり得る。最も好ましくは、ラクトコッカス種はラクトコッカス・ラクティス、並びにその任意の亜種及び株、例えば限定されるものではないが、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホルドニアエ(Lactococcus lactis ssp. hordniae)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種bv.ジアセチラクティス(Lactococcus lactis ssp. bv. diacetylactis)であり得る。更に好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスはラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス又はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス、より好ましくはラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスであってもよく、それらの任意の株、例えばラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスSK11、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスMG1363又はラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスIL1403を包含する。また好ましくは、LABはエンテロコッカス種、好ましくはエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcusfaecium)、並びにそれらの任意の亜種及び株、例えば限定されるものではないが、エンテロコッカス・フェシウムLMG15709株であり得る。
【0055】
ビフィズス菌はグラム陽性、非運動性の、多くの場合分岐した嫌気性の細菌属である。本明細書で使用されるビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B. adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム(B.angulatum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis)、ビフィドバクテリウム・アステロイデス(B. asteroides)、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・ボウム(B. boum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウム・ケリナム(B. choerinum)、ビフィドバクテリウム・コリネフォーム(B. coryneforme)、ビフィドバクテリウム・クニクリ(B. cuniculi)、ビフィドバクテリウム・デンティコレンス(B. denticolens)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(B. dentium)、ビフィドバクテリウム・ガリクム(B. gallicum)、ビフィドバクテリウム・ガリナラム(B. gallinarum)、ビフィドバクテリウム・インディカム(B. indicum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム・イノピナタム(B. inopinatum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(B. lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・マグナム(B. magnum)、ビフィドバクテリウム・メリシカム(B. merycicum)、ビフィドバクテリウム・ミニマム(B. minimum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(B. pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B.pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・プロルム(B. pullorum)、ビフィドバクテリウム・ルミナンティウム(B. ruminantium)、ビフィドバクテリウム・サーキュラーレ(B.saeculare)、ビフィドバクテリウム・ズブチル(B. subtile)、ビフィドバクテリウム・ズイス(B. suis)、ビフィドバクテリウム・サームアシドフィルム(B.thermacidophilum)、ビフィドバクテリウム・サーモフィルム(B. thermophilum)を含み得る。ビフィズス菌はビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ロンガムであるのが好ましい。ビフィズス菌の全ての亜種及び株も含まれることを理解されたい。
【0056】
本明細書で使用される場合、「トレハロース6−リン酸ホスホリラーゼ」、「trePP」又は「TrePP」という用語は、トレハロース6−リン酸をリン酸化する酵素、好ましくはグルコース−6−リン酸及びβ−D−グルコース−1−リン酸を生じるα,α−トレハロース−6−リン酸とリン酸との反応、好ましくは可逆反応又はその逆を触媒する酵素に関する。trePPの同義語は、例えばトレハロース−6−リン酸:リン酸β−D−グルコシルトランスフェラーゼ及びα,α−トレハロース−6−リン酸:リン酸β−D−グルコシルトランスフェラーゼであり得る。例としては、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスMG1363のtrePPの核酸配列及びタンパク質配列は、それぞれ配列番号1及び配列番号2(それぞれGenbankアクセッション番号NC_009004.1(領域449195〜451504)及びYP_001031805.1に対応する)によって表される。一実施形態では、本明細書で使用されるtrePPは、それぞれ配列番号1及び配列番号2の核酸配列若しくはアミノ酸配列を有するか、又は配列番号2をコードする核酸を有する遺伝子又はタンパク質に関する。更なる実施形態では、本明細書で使用されるtrePPは、それぞれ配列番号1及び配列番号2に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又はそれ以上の%で同一な核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子又はタンパク質に関する。別の実施形態では、本明細書で使用されるtrePPは、配列番号2に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又はそれ以上の%で同一なタンパク質をコードする。上記の配列が機能的なtrePPタンパク質に関するか又は機能的なtrePPタンパク質をコードするのが好ましい。別の実施形態では、本明細書で使用されるtrePPはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号1及び配列番号2のオーソログである。
【0057】
配列を比較する方法及び配列同一性を決定する方法は当該技術分野で既知である。例としては、配列同一性のパーセンテージは、2つの配列間で配列のアラインメント後に同一な核酸又はアミノ酸のパーセンテージを指す。アラインメント及び同一性のパーセンテージは、当該技術分野で既知の様々な異なるプログラム及びアルゴリズムを用いて行い、算出することができる。好ましいアラインメントアルゴリズムとしては、BLAST(Altschul, 1990;例えばNCBIのウェブサイトで利用可能である)及びClustal(Chenna, 2003に概説されている;例えばEBIのウェブサイトで利用可能である)が挙げられる。例えばTatusova and Madden 1999 (FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)によって記載される「Blast 2 sequences」アルゴリズム等のBLASTを使用し、例えば公表済みのデフォルト設定又は他の好適な設定(例えば、BLASTNアルゴリズムについては、ギャップ開始コスト(cost to open a gap)=5、ギャップ伸長コスト(cost to extend a gap)=2、ミスマッチペナルティ=−2、マッチ報酬(reward for a match)=1、ギャップx_ドロップオフ=50、期待値=10.0、ワードサイズ=28;又はBLASTPアルゴリズムについては、マトリックス=Blosum62、ギャップ開始コスト=11、ギャップ伸張コスト=1、期待値=10.0、ワードサイズ=3)を用いて2つの配列間の同一性のパーセンテージを算出するのが好ましい。
【0058】
trePPの活性は直接的又は間接的に測定することができる。活性を間接的に決定する一方法は遺伝子シークエンシングを用いるものである。このようにして、部分的又は完全な欠失、破壊又は不活性化突然変異を容易に同定することができる。活性を決定する直接的な方法は例えば、場合によっては事前の代謝標識と組み合わせた、基質消費又は反応生成物形成(例えば、基質のトレハロース6−リン酸又は反応生成物のグルコース−6−リン酸及びβ−D−グルコース−1−リン酸)を測定する、細胞抽出物を用いたアッセイに基づくものであり得る。例えば、基質及び生成物は、例えば非特許文献3に記載の高速アニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)によっても容易に決定することができる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「trePP活性を欠く」という用語は、trePP活性がない又は実質的にないことを意味する。更なる指針を用いると、trePP活性は野生型のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のtrePP活性の20%未満である。例えば、trePP活性は野生型trePP活性の15%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは1%未満である。前述したように、最も好ましくは、trePP活性は検出不能であるか、又は実質的若しくは完全に失われている。
【0060】
本明細書で使用される場合、「薬剤」という用語は、「薬物」、「治療剤」という用語、及び治療的又は予防的な効果を有する調製物を示すために医療分野で使用される他の用語も包含する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「治療する」又は「治療」という用語は、望ましくない生理的変化又は障害を予防するか又は遅らせる(減少させる)ことを目的とする治療的な治療及び予防的な(prophylactic or preventative)手段の両方を指す。本明細書で使用される「治療」、「治療する」等の用語は、発症した疾患若しくは病態の罹患後の改善若しくは除去、又はかかる疾患若しくは病態の特徴的な症状の緩和も含む。本明細書で使用される場合、これらの用語は、患者の状態に応じて、疾患若しくは病態又はそれと関連する症状の重症度を上記疾患又は病態に罹患する前に低減することを含む、疾患若しくは病態又は疾患若しくは病態と関連する症状の発症の予防も包含する。かかる罹患前の予防又は低減は、投与時に疾患又は病態に罹患していない患者への本発明の化合物又は組成物の投与を指す。「予防する」とは、例えば改善期間後の疾患若しくは病態又はそれと関連する症状の再発又は再燃の予防も包含する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「栄養補助食品」は概して、健康及び医学的な利益をもたらす食品又は食製品を包含する。栄養補助食品は食用であり、ヒトが直接食することができるが、好ましくは健康食品店で販売される種類の添加剤又は栄養補給剤の形態、例えば錠剤の形態で、又は食用固形物、より好ましくはシリアル、パン、豆腐、クッキー、アイスクリーム、ケーキ、ポテトチップス、プレッツェル、チーズ等の加工食品、並びに飲用液体、例えば牛乳、炭酸飲料、スポーツドリンク及びフルーツジュース等の飲料中の成分としてヒトに与えられる。栄養補助食品の製造にとりわけ好ましいプロセスは、天然由来の溶媒しか含まない。栄養補助食品は、好ましくは比較的高レベルの健康増進物質を含有し得る。栄養補助食品同士を混合して、健康増進効果を増大させることができる。
【0063】
栄養補助食品とは対照的に、いわゆる「メディカルフード」は一般に使用されることを意図されず、商店又はスーパーマーケットでは入手不可能なものである。メディカルフードは、疾患のリスクを低下させる低脂肪食品又は低塩食品等の健康食に含まれる食品ではなく、減量製品でもない。医師は、患者が疾患又は健康条件を管理するために特別な栄養素を必要とし、患者が医師の長期継続ケア下にある場合にメディカルフードを処方する。ラベルには製品が特定の医学的障害又は病態の管理への使用を意図することが記載されている。メディカルフードの一例は、慢性炎症状態の患者を標的とする栄養サポートを提供するように設計された栄養的に多様なメディカルフードである。この製品の活性化合物は例えば本明細書に記載の1つ又は複数の化合物である。機能性食品は、疾患のリスクを低下させる低脂肪食品若しくは低塩食品等の健康食に含まれる食品又は減量製品を包含し得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「プロバイオティクス」という用語は、腸カメラ内の微生物(微生物叢)の自然平衡の維持を助ける細菌を指す。また、正常なヒト消化管は有害な細菌の成長を低減し、健康な消化系を促進するプロバイオティクス細菌を含有する。腸内の最大のプロバイオティクス細菌群はLABである。本明細書で使用される場合、「プロバイオティック組成物」は、プロバイオティクスを含む組成物、好ましくは食用組成物である。本明細書で使用される「プロバイオティック組成物」という用語は、「健康補助食品」と同義で使用することができる。本明細書で規定されるプロバイオティック組成物は、腸内適用又は非経口適用用の医薬品配合物として使用することができるものであり、食品及び飲料の補助、並びにカプセル若しくは錠剤等の固体配合物、又は溶液若しくは懸濁液等の液体配合物とすることができる。かかる配合物としては、飲料(例えばActimel(商標)、Yakult(商標)、DanActive(商標)等)、ヨーグルト飲料、ヨーグルト、フレッシュチーズ、クリーム、サワークリーム等を挙げることができるが、これらに限定されない。したがって、プロバイオティクス又はプロバイオティック組成物は薬物的又は非薬物的に適用され得ることが理解されよう。
【0065】
「スターター培養物」という用語は、実際に発酵を行う微生物培養物を指す。これらのスターターは、通常は発酵に使用される微生物が良好にコロニー形成した穀類、種子又は液体栄養素等の培養媒体からなる。本明細書で使用される場合、「スターター培養物」という用語は、高密度スターター培養物を指すのが好ましい。したがって、スターター培養物は、任意に高密度培養物を得るための別個のスターター培地中で培養した後に有機材料の発酵を開始又は達成することが可能な生微生物を含む組成物を指し得る。代替的には、スターター培養物は乾燥、噴霧乾燥、凍結又はフリーズドライしてもよい。
【0066】
先述のように、本発明者らは驚くべきことに、単なるtrePPの欠如がグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌における細胞内トレハロース蓄積に十分であることを見出した。これとは対照的に、それぞれotsB及びotsA等の異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ及び/又は異種トレハロース6−リン酸シンターゼの存在が、細胞内トレハロース蓄積に必須であると以前は考えられていた。したがって、一実施形態では、本発明は機能的な異種otsB、好ましくは機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼを含有しない、本明細書に記載されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。更なる実施形態では、本明細書に記載されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、機能的な異種otsA、好ましくは機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを含有しない。また別の実施形態では、本明細書に記載されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は機能的な異種otsAを含有せず、機能的な異種otsBを含有しない。更なる実施形態では、本明細書に記載されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを含有せず、機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼを含有しない。また更なる実施形態では、本明細書に記載されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、トレハロース又はトレハロース6−リン酸の代謝(異化又は同化)に関与する機能的な異種遺伝子を含有しない。かかる遺伝子はトレハラーゼ、トレハロースホスホリラーゼ及びトレハロース6−リン酸ヒドロラーゼを包含するが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用される場合、「含有しない("does notcontain" or "not containing")」という用語は、特定の遺伝子産物を発現しない、すなわち機能的又は活性なタンパク質がグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において産生されないグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関するのが好ましい。
【0068】
本明細書で使用される場合、「トレハロース6−リン酸ホスファターゼ」という用語は、トレハロース6−リン酸を脱リン酸化する酵素、好ましくはトレハロース−6−リン酸のリン酸及びトレハロースを生じる反応を触媒する酵素に関する。トレハロース6−リン酸ホスファターゼは、リン酸モノエステルヒドロラーゼファミリーに属する。トレハロース6−リン酸ホスファターゼの同義語は、例えばα,α−トレハロース−6−リン酸ホスホヒドロラーゼ、トレハロース−6−リン酸ホスホヒドロラーゼ及びトレハロース6−ホスファターゼである。例としては、大腸菌(E. coli)のトレハロース6−リン酸ホスファターゼ(すなわちotsB)の核酸配列及びタンパク質配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号4(それぞれGenbankアクセッション番号X69160.1(ヌクレオチド位置675〜1475)及びP31678.2に対応する)によって表される。一実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸ホスファターゼは、それぞれ配列番号3及び配列番号4の核酸配列若しくはアミノ酸配列を有するか、又は配列番号4をコードする核酸を有する遺伝子又はタンパク質に関する。更なる実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸ホスファターゼは、それぞれ配列番号3及び配列番号4に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一な核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子又はタンパク質に関する。別の実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸ホスファターゼは、配列番号4に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一なタンパク質をコードする。上記の配列が機能的なトレハロース6−リン酸ホスファターゼタンパク質に関する又はそれをコードするのが好ましい。別の実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸ホスファターゼはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号3及び配列番号4のオーソログである。
【0069】
本明細書で使用される場合、「トレハロース6−リン酸シンターゼ」という用語は、トレハロース6−リン酸を脱リン酸化する酵素、好ましくはグルコース6−リン酸とUDP−グルコースとのトレハロース6−リン酸を生じる反応を触媒する酵素に関する。トレハロース6−リン酸シンターゼは、グリコシルトランスフェラーゼファミリーに属する。トレハロース6−リン酸シンターゼの同義語は、例えばトレハロースリン酸−ウリジン二リン酸グルコシルトランスフェラーゼ、ホスホトレハロース−ウリジン二リン酸トランスグルコシラーゼ、ウリジンジホスホグルコースリン酸グルコシルトランスフェラーゼ及びα,α−トレハロース−6−リン酸シンターゼである。例としては、大腸菌のトレハロース6−リン酸シンターゼ(すなわちotsA)の核酸配列及びタンパク質配列は、それぞれ配列番号5及び配列番号6(それぞれGenbankアクセッション番号X69160.1(ヌクレオチド位置1450〜2874)及びP31677.3に対応する)によって表される。一実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸シンターゼは、それぞれ配列番号5及び配列番号6の核酸配列若しくはアミノ酸配列を有するか、又は配列番号6をコードする核酸を有する遺伝子又はタンパク質に関する。更なる実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸シンターゼは、それぞれ配列番号5及び配列番号6に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一な核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子又はタンパク質に関する。別の実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸シンターゼは、配列番号6に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一なタンパク質をコードする。上記の配列が機能的なトレハロース6−リン酸シンターゼタンパク質に関する又はそれをコードするのが好ましい。別の実施形態では、本明細書で使用されるトレハロース6−リン酸シンターゼはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号5及び配列番号6のオーソログである。
【0070】
本明細書で使用される場合、機能的な異種トレハロース6−リン酸(phosphate)ホスファターゼ又はシンターゼ(又は任意の他のトレハロース関連の代謝酵素)の欠如は、任意又は実質的に任意の異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ又はシンターゼ活性の欠如に関することを理解されたい。かかる活性は本明細書の他の部分に記載されるように決定することができる。一実施形態では、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌はこれらの酵素を発現しない。
【0071】
本発明者らは、トレハロースが、これまで同定又は予期されていないトレハロース出口を介して細胞から或る程度漏出し、上清中で回収され得ることを見出した。驚くべきことに、本発明者らはptcCの破壊によってトレハロースの放出が回避されることを見出した。したがって、一実施形態では、本発明は、セロビオース特異的PTS系IICコンポーネント(ptcC)活性を欠く本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。
【0072】
本明細書で使用される「セロビオース特異的PTS系IICコンポーネント」又は「ptcC」は、ホスホトランスフェラーゼ系コンポーネントを指す。ホスホトランスフェラーゼ系は、細胞膜を介した転移と同時に起こるホスホエノールピルビン酸塩から流入糖基質へのホスホリル基の移動の触媒に関与する。ptcCはセロビオース特異的PTS系の膜貫通コンポーネントである。ptcCは、これまでトレハロース輸送に関連付けられておらず、ましてやグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌からのトレハロース漏出に関連付けられてもいなかった。例としては、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスMG1363のptcCの核酸配列及びタンパク質配列は、それぞれ配列番号7及び配列番号8(それぞれGenbankアクセッション番号NC_009004.1(領域430271〜431608)及びYP_001031790.1に対応する)によって表される。一実施形態では、本明細書で使用されるptcCは、それぞれ配列番号7及び配列番号8の核酸配列若しくはアミノ酸配列を有するか、又は配列番号8をコードする核酸を有する遺伝子又はタンパク質に関する。更なる実施形態では、本明細書で使用されるptcCは、それぞれ配列番号7及び配列番号8に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又はそれ以上の%で同一な核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子又はタンパク質に関する。別の実施形態では、本明細書で使用されるptcCは、配列番号8に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又はそれ以上の%で同一なタンパク質をコードする。上記の配列が機能的なptcCタンパク質に関する又はそれをコードするのが好ましい。別の実施形態では、本明細書で使用されるptcCはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号7及び配列番号8のオーソログである。
【0073】
本発明によるtrePP及び/又はptcC活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、分子生物学的方法を用いる当該技術分野で既知の任意の手段によって得るか、又は自然変異体、若しくはランダム化学的若しくは照射突然変異誘発によって得られる変異体のハイスループットスクリーニングによって得ることができる(trePP KOのハイスループットスクリーニングは、trePP欠損株のトレハロースでの成長の欠如を用いた方法、又はtrePPオーソログのハイスループットシークエンシング及びバイオインフォマティクス分析、又は他の方法によって行うことができる)(LABの組換え技法及び遺伝子操作に関するバックグラウンドについては、例えば"Genetics and Biotechnology of Lactic Acid Bacteria", eds.Gasson & de Vos, Blackie Academic & Professional, 1994及び"Genetics of Lactic Acid Bacteria", eds. Wood &Warner, Springer, 2003を参照されたい)。一実施形態では、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において、内因性TrePP及び/又はPtcCをコードする遺伝子、及び/又はtrePP及び/又はptcCが発現されるプロモーターは、機能的なtrePP及び/又はptcC遺伝子産物を産生することが不可能なように部分的又は完全に欠失、破壊又は不活性化されている。遺伝子破壊の技法は概して当該技術分野で既知である。例としては、内因性trePP及び/又はptcC遺伝子を、コード領域の完全若しくは部分的な除去(ノックアウト)又は代替的にはプロモーター領域の完全若しくは部分的な除去、若しくは突然変異誘発によって不活性化することができる。代替的には、trePP遺伝子及び/又はptcC遺伝子を挿入不活性化し(ノックイン)、それにより内因性コード配列を破壊してもよい。例えば、未成熟終止コドン又はフレームシフト突然変異を導入することができる。機能的なtrePPタンパク質及び/又はptcCタンパク質がそれ以上全く又は実質的に産生され得ない、すなわちtrePP及び/又はptcC活性が(実質的に)欠如している限り、trePP遺伝子及び/又はptcC遺伝子を、1つ又は複数のミスセンス突然変異又はナンセンス突然変異の導入によって突然変異させてもよい。自然突然変異も包含されることを理解されたい。
【0074】
本発明者らは、1つ又は複数のトレハローストランスポーターの過剰発現が、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌における細胞内トレハロース蓄積及び/又は保持を更に増大させることを更に見出した。したがって、一実施形態では、本発明は、トレハローストランスポーターをコードする1つ又は複数の遺伝子を過剰発現する、好ましくは構成的に過剰発現する本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。好ましい実施形態では、上記トレハローストランスポーターは、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の内因性トレハローストランスポーターである。更に好ましい実施形態では、トレハローストランスポーターはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のトレハロースオペロンに位置する内因性トレハローストランスポーターである。また別の実施形態では、トレハローストランスポーターは、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のトレハロースオペロン内に位置するホスホトランスフェラーゼ系(PTS)の内因性トレハローストランスポーターである。好ましい実施形態では、本明細書に記載の1つ又は複数のトレハローストランスポーターの過剰発現は、プロモーターがトランスポーター配列(複数の場合もあり)に操作可能に連結するように、1つ又は複数のトランスポーターの5’側にプロモーターを挿入することによって達成される。「操作可能に連結する」とは、そのように記載されるコンポーネントが、それらが対象とする様式で機能することを可能にする関係となる並置を指す。コード配列に「操作可能に連結する」プロモーター配列は、コード配列の発現がプロモーター配列に適合する条件下で達成されるように結合する。一実施形態では、上記プロモーターは強力プロモーターである。更なる実施形態では、上記プロモーターは構成的プロモーターである。また別の実施形態では、上記プロモーターは内因性グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のプロモーターである。好適なプロモーターは例えば国際公開第2008/084115号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に見ることができる。特に、国際公開第2008/084115号の表12に挙げられるプロモーターは、本明細書に記載のトランスポーターの過剰発現にとりわけ好適である。最も好ましくは、プロモーターはPhllA(すなわち、HU様DNA結合タンパク質のプロモーター)である。したがって、好ましい実施形態では、PhllAプロモーターはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のトレハロースオペロンに位置する内因性トレハローストランスポーター(複数の場合もあり)のコード領域の上流に挿入される。一実施形態では、PhllAプロモーターは、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスMG1363のPhllAプロモーターに対応する配列番号13の配列を有する。別の実施形態では、PhllAプロモーターは配列番号13に少なくとも75%同一な、例えば配列番号13に少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上同一な配列を有する。更なる実施形態では、PhllAはグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号13のオーソログである。
【0075】
例としては、本明細書で言及されるトレハローストランスポーターは、それぞれ配列番号9及び配列番号10(それぞれGenbankアクセッション番号NC_009004.1(領域446937〜447422)及びYP_001031803.1に対応する)、及び/又はそれぞれ配列番号11及び配列番号12(それぞれGenbankアクセッション番号NC_009004.1(領域447563〜449128)及びYP_001031804.1に対応する)のラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスMG1363の核酸配列及びアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、本明細書で使用される過剰発現されたトランスポーター(複数の場合もあり)は、それぞれ配列番号9及び配列番号10及び/又はそれぞれ配列番号11及び配列番号12の核酸配列又はアミノ酸配列を有するか、又は配列番号10及び/又は配列番号12をコードする核酸を有する遺伝子又はタンパク質に関する。更なる実施形態では、本明細書で使用される過剰発現されたトランスポーター(複数の場合もあり)は、それぞれ配列番号9及び配列番号10及び/又はそれぞれ配列番号11及び配列番号12に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一な核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子又はタンパク質に関する。別の実施形態では、本明細書で使用される過剰発現されたトランスポーター(複数の場合もあり)は、配列番号10及び/又は配列番号12に少なくとも75%同一な、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上の%で同一なタンパク質をコードする。好ましくは、上記の配列は、(a)機能的な過剰発現された、好ましくは構成的に過剰発現されたトランスポーター(複数の場合もあり)、タンパク質(複数の場合もあり)に関する又はそれをコードする。別の実施形態では、本明細書で使用される(構成的に)過剰発現されたトランスポーター(複数の場合もあり)は、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、配列番号9及び配列番号10及び/又は配列番号11及び配列番号12のオーソログ(複数の場合もあり)である。
【0076】
一実施形態では、本発明は、trePPを欠いており、以下の特性のいずれか一方又は好ましくは両方を更に示すグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する:(i)グラム陽性菌がptcC活性を欠いている;(ii)グラム陽性菌が1つ又は複数のトレハローストランスポーターを過剰発現、好ましくは構成的に過剰発現し、グラム陽性菌がotsB等の機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ及び/又はotsA等の機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを更に含有し、より好ましくはグラム陽性菌が少なくとも上記機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼを含有し、更により好ましくはグラム陽性菌が上記機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼを含有するが、上記機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを含有しない。これらのタンパク質は各々本明細書の他の部分に記載される。トレハロース6−リン酸ホスファターゼのゲノム組込みが特に好ましく、組込みは好ましくは欧州特許出願公開第11168495.7号及び同第11173588.2号に開示されている。これらの出願は二重シストロン発現系に関し、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。トレハロース6−リン酸ホスファターゼ、好ましくはotsBの好ましい位置は、本明細書で使用される場合、内因性usp45遺伝子の後の2番目のシストロンである。
【0077】
本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、様々な環境及び保存に関連する傷害又はストレスに対する耐性の増大、乾燥、噴霧乾燥、凍結又はフリーズドライへの抵抗性の増大、及び胃腸管での厳しい条件(例えば酸及び胆汁塩)に対する抵抗性の増大を示す。したがって、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、被験体への投与にとりわけ好適である一方で、胃腸管における生存率の増大を示す。したがって、これらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、タンパク質の被験体への送達に適用することができる。したがって、一実施形態では、本発明は1つ又は複数の異種遺伝子産物、好ましくは1つ又は複数の予防的及び/又は治療的な遺伝子産物及び/又は抗原を含有する、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。生物学的に活性なポリペプチドの送達は、例えば国際公開第97/14806号、国際公開第00/23471号、国際公開第01/02570号、国際公開第02/090551号、国際公開第2005/111194号、国際公開第2007/025977号、国際公開第2007/063075号、国際公開第2007/128757号、国際公開第2008/071751号、国際公開第2008/090223号、国際公開第2004/046346号及び国際公開第2010/034844号に記載されている。本明細書に記載の異種遺伝子は細菌ゲノムに組み込まれているのが好ましい。とりわけ好ましい組込み戦略は、欧州特許出願公開第11168495.7号及び同第11173588.2号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に開示されている。特に、異種遺伝子は天然(内因性)遺伝子座、好ましくはオペロン内の第2の(又は更なる)遺伝子としてポリシストロン性(例えば二シストロン性、三シストロン性又は多シストロン性)挿入することができる。このようにして、異種遺伝子は天然(内因性)プロモーターの制御下で発現される。
【0078】
本明細書で使用される場合、「抗原」という用語は概して、液性免疫応答及び/又は細胞性免疫応答を含む免疫応答を惹起し、免疫応答の産物、例えば抗体又はT細胞と結合することが可能な物質を指す。本明細書で対象とする抗原は、代替的には免疫寛容を誘導するようなもの、例えば自己抗原(自己抗原及び同種抗原を含む)又はアレルゲンであり得る。したがって、好ましい例では、抗原はそれを投与する被験体からの生理的応答を引き起こす、かかる被験体の機能的な免疫系を必要とする。本明細書で対象とする「抗原」は、健常個体においては免疫応答を誘発しないが、自己免疫疾患を患う、すなわち生物が自身の構成部分(分子下レベルまで下がった)を「自己」として認識することができず、自身の細胞及び組織に対する免疫応答を引き起こす個体では誘発し得る「自己抗原」も包含する。かかる異常な免疫応答に起因する任意の疾患は自己免疫疾患と呼ばれる。したがって、本明細書で対象とする「抗原」は、健常個体では免疫応答を誘発しないが、上記タンパク質が遺伝子欠損した個体では誘発し得る(生理的に活性な)タンパク質も包含する。加えて、本明細書で対象とする「抗原」は、健常個体では免疫応答を誘発しないが、アレルギー性疾患を患う個体では誘発し得るアレルゲンも包含する。
【0079】
本明細書で対象とする抗原は、ヒト又は動物の被験体における免疫応答が治療的に有用であり得る任意のポリペプチド、例えば病原体、例えばウイルス病原体、原核生物(例えば細菌)病原体又は真核生物病原体、非生理的タンパク質(例えば、がん組織に由来するタンパク質)、アレルゲン(例えば免疫寛容を引き起こす)等に由来し得る。抗原はタンパク質の代謝産物であってもよい。一例としては、抗原は多糖、脂質等であり得る。本明細書に記載の強力プロモーターは、上記多糖、脂質等を合成又は構築するのに必要とされる酵素の発現を誘導し得る。
【0080】
「予防的及び/又は治療的に活性な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質」という用語は概して、それを投与するヒト又は動物の被験体においてそれに対して免疫応答を引き起こさず(すなわち非ワクチン原性である)、予防的及び/又は治療的な効果を達成することが可能であるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を指す。したがって、かかるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の予防的及び/又は治療的な効果は、被験体において免疫原性抗原及び/又は免疫保護抗原として作用することによって予防的及び/又は治療的な効果をもたらすのではなく、自身の自然生物学的機能と直接的関連し、被験体の体内で特定の効果を達成することができると期待され得る。したがって、非ワクチン原性の予防的及び/又は治療的に活性なペプチド、ポリペプチド又はタンパク質は、その発現形態で生物学的に活性であるか、又は少なくとも発現宿主細胞から放出されて生物学的に活性な形態へと変換されるものとする。上記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質のかかる生物学的に活性な形態は、その天然構成に同じ又は極めて類似した二次立体構造及び好ましくは同様に三次立体構造を示し得るのが好ましい。
【0081】
予防的及び/又は治療的な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質は非毒性及び非病原性であるのも好ましい。好ましい実施形態では、予防的及び/又は治療的に活性な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質はヒト又は動物に由来し、好ましくはそれを投与するヒト又は動物の被験体と同じ分類群に対応し得る。
【0082】
好適な予防的及び/又は治療的に活性な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質の非限定的な例としては、局所的又は全身的に機能することが可能であり、例えば局所代謝又は全身代謝に影響を及ぼす内分泌活性を示すことが可能であり、及び/又は免疫造血(immunohaemopoietic)系に属する細胞の活性を調節することが可能であり、及び/又は体内の様々な正常細胞又は腫瘍性細胞の生存能力、成長及び分化に影響を及ぼすか、若しくは免疫調節若しくは傷害及び感染に対する急性免疫応答の誘導に影響を及ぼすことが可能であり、及び/又は標的細胞受容体に作用するケモカインによって媒介される細胞及び組織の感染に対する抵抗性、若しくは上皮細胞の増殖若しくは創傷治癒の促進を増進若しくは誘導することが可能であり、及び/又は体内の細胞による物質の発現若しくは産生を調節することが可能であるものが挙げられる。かかるペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の具体例としては、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管活性腸管ポリペプチド、サイトカイン、例えばIL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14〜IL−32のいずれか、特にIL−27、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRL、サイトカインのTNFファミリー、例えばTNFα、TNFα、CD40、CD27又はFASリガンド、サイトカインのIL−1ファミリー、サイトカインの線維芽細胞成長因子ファミリー、血小板由来成長因子ファミリー、形質転換成長因子ファミリー及び神経成長因子ファミリー、上皮成長因子ファミリー、インスリン関連サイトカイン等が挙げられるが、これらに限定されない。代替的には、予防的及び/又は治療的に活性なポリペプチドは、上で規定される予防的及び/又は治療的に活性なポリペプチドに対する受容体又は拮抗薬であり得る。代替的には、予防的及び/又は治療的に活性なポリペプチドは抗体、例えば中和抗体又はそのようなものであり得る。かかる好適なポリペプチドの更なる具体例は、例えば国際公開第96/11277号の14頁1行目〜30行目(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)、国際公開第97/14806号の12頁1行目〜13頁27行目(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)、又は米国特許第5,559,007号の第8欄31行目〜第9欄9行目(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に挙げられている。一例では、上記予防的及び/又は治療的に活性なペプチド、ポリペプチド又はタンパク質はIL−10、より好ましくはhIL−10、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、より好ましくはhGLP−1、グルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)、より好ましくはhGLP−2、トレフォイル因子(TFF、例えばTFF1、TFF2及び/又はTFF3)又はPYY、より好ましくはhPYYであり得る。
【0083】
言及したように、実施形態では、予防的及び/又は治療的に活性なポリペプチドは抗体、例えば中和抗体又はそのようなものであり得る。本明細書に記載の抗体はフルサイズ抗体若しくはFab等のその機能的なフラグメント、融合タンパク質又は多量体タンパク質であり得る。好ましい実施形態では、1つ又は複数の異種遺伝子が抗体又は機能的な抗体フラグメントをコードする。本明細書で使用される場合、「機能的な」という用語は、依然として対象の機能、すなわち抗原結合を発揮することができる抗体フラグメントを指す。本明細書で使用される「抗体」という用語は、従来の抗体、キメラ抗体、dAb、二重特異性抗体、三重特異性抗体、多重特異性抗体、二価抗体、三価抗体、多価抗体、VHH、ナノボディ、Fab、Fab’、F(ab’)
2、scFv、Fv、dAb、Fd、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、単一抗体可変領域を含むが、これらに限定されない。
【0084】
本文脈において、「抗体」という用語は、天然の又は部分的若しくは完全に操作した免疫グロブリンを記載するために用いられる。抗体は多数の方法で改変することができ、「抗体」という用語は、上に規定されるように、分子対の他の成員、すなわち標的分子に対して所要の結合特異性を有する結合ドメインを有する任意の特異的な結合分子又は物質を包含すると解釈されるものとする。このため、この用語は、天然の又は完全若しくは部分的に操作した免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含む、抗体フラグメント、誘導体、抗体の機能的な同等物及びホモログ、並びに一本鎖抗体、二官能性抗体、二価抗体、VHH、ナノボディ、Fab、Fab’、F(ab’)
2、scFv、Fv、dAb、Fd、ダイアボディ、トリアボディ及びラクダ抗体を包含する。したがって、別のポリペプチドに融合する免疫グロブリン結合ドメイン又は同等物を含むキメラ分子が含まれる。この用語は、抗体結合ドメイン、例えば抗体模倣体であるか又はそれに相同な結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質も包含する。抗体の例は、IgG(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4)、IgA、IgD、IgM及びIgEを含む免疫グロブリンアイソタイプ及びその同形サブクラスである。このため、当業者であれば、本発明が、抗原結合ドメインを含む抗体フラグメント、例えばVHH、ナノボディ、Fab、scFv、Fv、dAb、Fd、ダイアボディ及びトリアボディにも関することを理解するであろう。一実施形態では、本発明は、或る外因性遺伝子が抗体又はその機能的なフラグメントの軽鎖(V
L)をコードし、別の外因性遺伝子が抗体又はその機能的なフラグメントの重鎖(V
H)をコードし、より好ましくは機能的なフラグメントがFabである、本明細書に記載のグラム陽性菌又は組み換え核酸に関する。一実施形態では、V
Lをコードする外因性遺伝子又はその機能的なフラグメントは、V
Hをコードする外因性遺伝子又はその機能的なフラグメントの3’末端に転写結合する。
【0085】
一実施形態では、本明細書に記載の(中和)抗体は、サイトカイン又はケモカイン又は毒素等の標的分子の生物学的活性を少なくとも部分的又は完全に遮断、阻害又は中和する。本明細書で使用される場合、「中和する」又は「中和」という表現は、例えば実施例に詳述されるように、当該技術分野で既知の方法によってin vivo又はin vitroで測定される、サイトカイン又は毒素の生物学的活性の阻害又は低減を意味する。特に、阻害又は低減は、大腸炎(colitis)スコアを決定するか、又は組織又は血液サンプル中の標的分子を決定することによって測定することができる。本明細書で使用される場合、「中和する」又は「中和」という表現は、in vivo又はin vitroで測定される、サイトカイン又は毒素の生物学的活性の少なくとも10%以上、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、更により好ましくは100%の阻害又は低減を意味する。
【0086】
好ましくは、上記抗体又はその機能的なフラグメントは、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−12(又はそのサブユニットIL−12p35及びIL12p40)、IL−13、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、IL−21、IL−23(又はそのサブユニットIL−23p19)、IL−27、IL−32(及びそのスプライス変異体)、IFN(α、β、γ)及びTNFαのリストから選ばれるサイトカインの生物学的効果を阻害する。代替的には、これらのサイトカインは抗体ではない結合分子によって阻害され得る。上記結合分子がgp130等の可溶性サイトカイン受容体であるか、又は炎症シグナルを引き起こすことなく上記サイトカインの受容体、例えばIL−2R(CD25、CD122、CD132)、IL−12R(β1、β2)、IL15R、IL−17R、IL−23R又はIL−6Rと結合するのが好ましい。上記結合分子はMIF、MIP−1α、MCP−1、RANTES及びエオタキシンのリストから選ばれる中和ケモカインであるのが好ましい。上記結合分子はCD3/CD28、HVEM、B7.1/B7.2、CD40/CD40L(CD154)、ICOS/ICOSL、OX40/X40L、CD27/CD27L(CD70)、CD30/CD30L(CD153)及び41BB/41BBLのリストからの副刺激分子と結合することによって免疫活性化の遮断を解くのが好ましい。上記結合分子はI−CAM1、α4インテグリン及びα4β7インテグリンのリストからの接着分子と結合することによって炎症の遮断を解くのが好ましい。上記結合分子はCD3、CTLA4及び/又はPD1に対して副刺激効果及びアゴニスト効果を有するのが好ましい。上記結合分子はCD25、CD20、CD52、CD95、BAFF、APRIL及び/又はIgEを標的とすることによってT細胞活性又はB細胞活性を中和するのが好ましい。上記結合分子はMMPファミリーの酵素と結合することによって炎症の遮断を解くのが好ましい。上記結合分子は抗血管新生効果を示す、例えばαvβ3/α5β1及びIL−8活性を中和するのが好ましい。更に好ましい実施形態では、上記結合分子又は抗体(又は機能的なフラグメント)はTNFα、IL−12、IFNγ、IL−23又はIL−17の生物学的効果を中和することが可能である。
【0087】
本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において異種遺伝子として使用することができる抗体又は結合分子の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:
抗TNFα抗体、抗TNFα抗体フラグメント、抗TNFα単一抗体可変領域、可溶性TNF受容体、又はTNFαのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−12抗体、抗IL−12抗体フラグメント、抗IL−12単一抗体可変領域、可溶性IL−12受容体、IL−12又はIL−12 dAbのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−12p35抗体、抗IL−12p35抗体フラグメント、抗IL−12p35単一抗体可変領域、可溶性IL−12p35受容体、IL−12p35又はIL−12p35 dAbのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−12p40抗体、抗IL−12p40抗体フラグメント、抗IL−12p40単一抗体可変領域、可溶性IL−12p40受容体、IL−12p40又はIL−12p40 dAbのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−23抗体、抗IL−23抗体フラグメント、抗IL−23単一抗体可変領域、可溶性IL−23受容体、IL−23又はIL−23 dAbのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−23p19抗体、抗IL−23p19抗体フラグメント、抗IL−23p19単一抗体可変領域、可溶性IL−23p19受容体、IL−23p19又はIL−23p19 dAbのドミナントネガティブ変異体;
抗IFNγ抗体、抗IFNγ抗体フラグメント、抗IFNγ単一抗体可変領域、可溶性IFNγ受容体、又はIFNγのドミナントネガティブ変異体;
抗IL−17抗体、抗IL−17抗体フラグメント、抗IL−17単一抗体可変領域、可溶性IL−17受容体、IL−17又はIL−17 dAbのドミナントネガティブ変異体;及び、
抗MCP−1抗体、抗MCP−1抗体フラグメント、抗MCP−1単一抗体可変領域、可溶性IL−17受容体、MCP−1又はMCP−1 dAbのドミナントネガティブ変異体。
【0088】
好ましい実施形態では、上記抗体はFabフラグメント(抗原結合フラグメント)である。Fabフラグメントは当該技術分野で既知である。更なる指針を用いると、Fabフラグメントは抗原と結合する抗体上の領域である。Fabフラグメントは、重鎖及び軽鎖の各々の1つの定常領域と1つの可変領域とから構成される。
【0089】
一実施形態では、FabはcA2抗TNF Fab(重鎖及び軽鎖の可変領域のポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列は、それぞれ配列番号4及び配列番号5(重鎖)並びに配列番号2及び配列番号3(軽鎖)として米国特許第6,790,444号に開示されている)又はCDP870抗TNF Fab(重鎖及び軽鎖のポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列は、それぞれ配列番号114及び配列番号115(重鎖)並びに配列番号112及び配列番号113(軽鎖)として国際公開第01/94585号に開示されている)である。
【0090】
当業者であれば、抗体が、機能的な抗体フラグメント、特にFabフラグメントと同様に、ジスルフィド架橋によって共有結合し得る異なる個々のポリペプチドから構成されることを理解するであろう。特に、重鎖及び軽鎖は別個の個々のコード配列によってコードされる。
【0091】
したがって、一実施形態では、本明細書で開示される異種遺伝子は抗原及び/又は(中和)抗体、又はその機能的なフラグメント若しくは変異体、及び/又は予防的及び/又は治療的に活性なペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質をコードし、上記抗原はヒト又は動物の被験体において免疫応答、好ましくは防御免疫応答又は免疫寛容応答を引き起こすことが可能であり、及び/又は上記予防的及び/又は治療的に活性な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質はヒト又は動物の被験体において予防的及び/又は治療的な効果を生じることが可能である。
【0092】
一実施形態では、本発明は、保存のために配合される本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又は本明細書に記載のように使用されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌に関する。特に、一実施形態では、本発明は凍結、乾燥、フリーズドライ、噴霧乾燥される又は培地中で保存される本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。
【0093】
これまで説明したように、本発明は、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を含むか、又は本明細書に記載のように使用されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を含む組成物にも関する。かかる組成物は医薬品組成物であり得る。更なる実施形態では、本発明は治療に使用されるか、又は薬剤、栄養補助食品、メディカルフード、機能性食品、プロバイオティック組成物、食品添加物若しくはスターター培養物として使用される組成物又は医薬品組成物に関する。また別の実施形態では、本発明は薬剤、栄養補助食品、メディカルフード、機能性食品、プロバイオティクス、食品添加物、スターター培養物としての、又は薬剤、栄養補助食品、メディカルフード、機能性食品、プロバイオティック組成物、食品添加物、スターター培養物の調製へのかかる組成物又は医薬品組成物の使用に関する。
【0094】
本明細書で使用される場合、医薬品配合物、栄養補助食品、メディカルフード若しくは機能性食品、又はプロバイオティクス等の本明細書に記載の薬用組成物は、治療的に有効な量の本発明のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌と、薬学的に許容可能な担体、すなわち1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体物質及び/又は添加剤、例えば緩衝剤、担体、賦形剤、安定化剤等とを含むのが好ましい。本明細書で使用される「薬学的に許容可能」という用語は、医薬品組成物の他の成分に適合し、そのレシピエントに有害でない技術及び手段と一致する。
【0095】
一実施形態では、医薬品組成物は本明細書に記載の治療的に有効な量のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含む。「治療的に有効な量」という用語は被験体、例えばヒト又は動物において疾患又は障害を治療する、すなわち所望の局所的又は全身的な効果及び性能を得るのに効果的な治療物質又は組成物の量を指す。例としては、治療的に有効な量の細菌は、例えば単回投与又は反復投与において少なくとも1個の細菌、又は少なくとも10個の細菌、又は少なくとも10
2個の細菌、又は少なくとも10
3個の細菌、又は少なくとも10
4個の細菌、又は少なくとも10
5個の細菌、又は少なくとも10
6個の細菌、又は少なくとも10
7個の細菌、又は少なくとも10
8個の細菌、又は少なくとも10
9個若しくは少なくとも10
10個若しくは少なくとも10
11個若しくは少なくとも10
12個若しくは少なくとも10
13個若しくは少なくとも10
14個若しくは少なくとも10
15個個若しくはそれ以上の宿主細胞、例えば細菌を含み得る。本発明のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、単独で又は1つ若しくは複数の活性な化合物と組み合わせて投与することができる。この化合物は本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の投与の前、後又はそれと同時に投与することができる。
【0096】
本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又はこれらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を含む組成物は、単回用量が被験体、例えばヒト又は動物の患者に投与されるように単位投与形態、例えば錠剤、カプセル、浣腸剤又は定量エアロゾルで提供されるのが好ましい。
【0097】
活性成分は、所望の活性を示すのに十分な1日1回〜6回で投与され得る。これらの1日用量は1日1回の単回用量として与えるか、又は1日の同じ若しくは異なる時点に全体として特定の1日用量を与える2回以上のより少量の用量で与えることができる。好ましくは、活性成分は1日1回又は2回投与される。例えば、或る用量を朝に摂取し、或る用量をその日の遅い時間に摂取することができる。
【0098】
本発明の全ての態様において、1日維持用量を患者において臨床的に望ましい期間、例えば1日から最大数年まで(例えば哺乳動物の余寿命にわたって)、例えば約(2日間若しくは3日間若しくは5日間、1週間若しくは2週間、又は1ヶ月)以上及び/又は例えば最大約(5年間、1年間、6ヶ月、1ヶ月、1週間、又は3日間若しくは5日間)与えることができる。約3日間〜約5日間又は約1週間〜約1年間の1日維持用量の投与が典型的である。液体配合物の他の構成物質は保存料、無機塩、酸、塩基、緩衝剤、栄養素、ビタミン又は他の医薬品を含み得る。
【0099】
本明細書で教示されるヒト又は動物の被験体は、該ヒト又は動物に治療的に有効な量の本明細書で教示されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を投与することを含む療法又は治療を必要とするヒト又は動物を指し得る。動物は好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、更により好ましくは哺乳動物、例えば家畜、産業動物、動物園の動物、スポーツ用の動物、ペット及び実験動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛(cattle)、ウシ(cows);類人猿、サル、オランウータン及びチンパンジー等の霊長類;イヌ及びオオカミ等のイヌ科動物;ネコ、ライオン及びトラ等のネコ科動物;ウマ、ロバ及びシマウマ等のウマ科動物;ウシ、ブタ及びヒツジ等の食用動物;シカ及びキリン等の有蹄動物;マウス、ラット、ハムスター及びモルモット等の齧歯動物等であり得る。概して、「被験体」又は「患者」という用語は同義で用いることができ、とりわけ動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、更により好ましくは哺乳動物、更により好ましくは霊長類を指し、具体的にはヒト患者及び非ヒト動物、哺乳動物並びに霊長類を含む。好ましい患者はヒト被験体であり得る。
【0100】
予防的及び/又は治療的なペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を任意に発現する本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の送達によってヒト又は動物において治療可能な疾患のタイプの更なる非限定的な例としては、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(例えば、IL−1ra若しくはIL−10若しくはIL−27、又はトレフォイルペプチドを用いて治療可能);1型糖尿病、乾癬、関節リウマチ、エリテマトーデスを含むが、これらに限定されない自己免疫疾患(例えば、IL−1ra若しくはIL−10若しくはIL−27、又は関連自己抗原を用いて治療可能);喘息、食物アレルギーを含むが、これらに限定されないアレルギー性疾患(関連アレルゲンを用いて治療可能);セリアック病(グルテンアレルゲン及び/又はIL−27を用いて治療可能);アルツハイマー病、パーキンソン病及び筋萎縮性側索硬化症を含むが、これらに限定されない神経障害(例えば、脳由来(derived)神経向性因子及び毛様体神経向性因子を用いて治療可能);がん(例えばIL−1、コロニー刺激因子又はインターフェロン−Wを用いて治療可能);骨粗鬆症(例えば形質転換成長因子f3を用いて治療可能);糖尿病(例えばインスリンを用いて治療可能);心血管疾患(例えば組織プラスミノゲン活性化因子を用いて治療可能);アテローム性動脈硬化症(例えば、サイトカイン及びサイトカイン拮抗薬を用いて治療可能);血友病(例えば凝固因子を用いて治療可能);変性肝疾患(例えば、肝細胞増殖因子又はインターフェロンaを用いて治療可能);嚢胞性線維症等の肺疾患(例えばαアンチトリプシンを用いて治療可能);肥満;病原体感染、例えばウイルス感染又は細菌感染(上述の種々の組成物又は抗原を用いて治療可能)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、感染性疾患の治療に使用することもできる。一実施形態では、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって局所的に産生及び分泌される毒素中和抗体によるクロストリジウム関連疾患、好ましくはクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridiumdifficile)関連疾患(CDAD)に対する受動免疫を得ることができる。CDADは2つの外毒素、毒素A(エンテロトキシン;例えばDNA配列についてはGenbank NC_009089.1、領域:795843..803975、又はタンパク質配列についてはYP_001087137.1を参照されたい)及び毒素B(細胞毒素;例えばDNA配列についてはGenbank NC_009089.1、領域:787393..794493、又はタンパク質配列についてはYP_001087135.1を参照されたい)によって媒介される。どちらも腸上皮細胞の表面に結合する高分子量タンパク質であり、内在化し、細胞質rhoタンパク質のグルコシル化を触媒し、細胞死、炎症及び下痢をもたらす。それらはクロストリジウム・ディフィシレ(C. difficile)の病原性、コロニー形成、並びに好中球の走化性及び活性化の促進と関連付けられている。この細菌自体は侵襲性ではなく、組織損傷を引き起こさない。クロストリジウム・ディフィシレ毒素を抗体で中和することによって、病原体の病理学的機構が遮断され、その腸内で繁殖する能力を減少させることができ、微生物生態に対する影響を最小限に抑えることができ、正常な微生物叢の回復が可能となる。このアプローチの医学的利点は、より急速な回復、再発の減少、及び正常な腸内菌叢における抗生物質抵抗性の選択圧の軽減を含み得る。したがって、好ましい実施形態では、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌はクロストリジウム、好ましくはクロストリジウム・ディフィシレの毒素A及び/又は毒素Bに対する中和抗体を更に含有、発現、産生及び/又は分泌し、これらの毒素は各々上記の配列を有するのが好ましい。当業者であれば、本明細書の他の部分に記載されるように、完全長抗体に加えて、様々な機能的なフラグメント、又は改変抗体若しくは変異体抗体を使用することができることを理解するであろう。
【0102】
当業者であれば、本明細書で具体的に列挙される疾患が単に例示的なものであり、その列挙が本明細書で教示されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用をこれら特定の疾患に限定することを何ら意図するものではないことを理解するであろう。それどころか、本明細書で開示されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、列挙されるものだけでなく、ヒト及び動物の様々な更なる疾患又は病態にも治療的に関連し得る、対象の原則として任意の発現産物、好ましくはポリペプチドの発現に使用することができることが当業者には理解される。結果として、好適な発現産物、好ましくはポリペプチド、例えば抗原、及び/又は予防的及び/又は治療的に活性な遺伝子産物、ポリペプチド又はタンパク質を所与の病気について選んだ又は決定した後、当業者はその発現、単離及び/又は送達を本試薬の使用により達成することが可能であり得る。
【0103】
本発明のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、治療対象の疾患を有するヒト又は動物への投与のために医薬品配合物中に懸濁され得る。このような医薬品配合物としては、生宿主細胞及び投与に適した媒質が挙げられるが、これらに限定されない。組換え宿主細胞は、一般的賦形剤、例えばラクトース、他の糖類、アルカリ及び/又はアルカリ土類ステアリン酸塩、炭酸塩及び/又は硫酸塩(例えばステアリン酸マグネシウム、炭酸ナトリウム及び硫酸ナトリウム)、カオリン、シリカ、風味剤及び芳香剤の存在下で凍結乾燥され得る。
【0104】
そのように凍結乾燥された本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌はカプセル、錠剤、顆粒及び粉末の形態で調製することができ、各々経口経路で投与することができる。
【0105】
代替的には、いくつかのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、好適な媒質中の水性懸濁液として調製され得るか、又は凍結乾燥細菌は、使用直前に好適な媒質中に懸濁され得るが、このような媒質は、本明細書中で言及される賦形剤並びに他の賦形剤、例えばグルコース、グリシン及びサッカリン酸ナトリウムを含む。
【0106】
経口投与のために、耐酸性(gastroresistant:耐胃性)経口剤形が処方されるが、この剤形は、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の制御放出を提供して、それによりその中でコードされた所望のタンパク質の制御放出を提供する化合物も含み得る。例えば、経口剤形(錠剤、ペレット、顆粒、粉末を含む)は、胃中での溶解又は崩壊に耐性があるが、小腸中では耐性がない賦形剤(通常はポリマー、セルロース誘導体及び/又は親油性物質)の薄層で被覆されて、それにより小腸中での崩壊、溶解及び吸収に好都合であるよう胃を通過させ得る。
【0107】
経口剤形は、例えば制御放出、持続性放出、延長放出、持続性作用錠剤又はカプセルのように、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌はカプセル(任意でその治療的及び/又は予防的な(prophylactic)遺伝子産物)の徐放を可能にするよう設計され得る。これらの剤形は通常は、従来のそして既知の賦形剤、例えば親油性、高分子性、セルロース性、不溶性、膨潤性賦形剤を含有する。制御放出配合物は、小腸、結腸、生体付着又は舌下送達(すなわち、歯粘膜送達)、及び気管支送達を含む任意の他の送達部位にも用いられ得る。本発明の組成物が直腸又は膣投与されるべきものである場合、医薬品配合物としては座薬及びクリームが挙げられる。この場合、宿主細胞は、脂質も含む一般的賦形剤の混合物中に懸濁される。上記配合物の各々は当該技術分野でよく知られており、例えば以下の参考文献に記載されている:Hansel et al.(1990, Pharmaceutical dosageforms and drug delivery systems, 5th edition, William and Wilkins)、Chien 1992, Novel drug delivery system, 2nd edition, M. Dekker)、Prescott et al.(1989, Novel drug delivery,J. Wiley & Sons)、Cazzaniga et al.,(1994, Oral delayed release system for colonic specific delivery,Int. J. Pharm.i08:7')。
【0108】
好ましくは、浣腸剤配合物は、直腸投与に用いられ得る。「浣腸剤」という用語は、直腸使用を意図した液体製剤を包含するように用いられる。浣腸剤は、通常は単一用量容器で供給され、そして水、グリセロール若しくはマクロゴール又は他の好適な溶媒中に溶解又は分散された1つ又は複数の活性物質を含有する。
【0109】
本発明の好ましい実施形態は、生グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が非吸湿剤を用いて安定化されていることを特徴とする、本明細書に記載の安定化したフリーズドライ、乾燥又は噴霧乾燥された生グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含む腸溶性カプセルを提供する。本明細書で使用される場合、非吸湿剤は、医薬品組成物の配合に通常使用される任意の賦形剤を含むことを意図し、上記薬剤は周囲40%RHで約8wt%以下、好ましくは約7wt%以下、より好ましくは約6wt%以下、例えば約1wt%〜約5wt%、より具体的には2wt%以下の平衡水分取込みを示す。非吸湿剤はポリオール、例えばマンニトール、マルチトール、イソマルト(ポリオール糖)、又はリン酸塩、例えば無水リン酸二カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、又は例えばスクロース等の糖であり得る。
【0110】
上述の配合物に使用されるカプセルは、通常はゼラチンカプセル、デンプンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル等、特にHPMCカプセルからなる群から選択される。生菌の腸送達については、本発明の腸溶性カプセルは低pH(pH5.5まで)で安定であり、より高いpH(5.5を超えるpH)で加速された溶解プロファイルを有するものとする。最適な放出はカプセルが約6.8のpHで1時間以内に崩壊する(disintegrate)場合に実現される。このため、本発明の更なる実施形態では、カプセルは腸溶ポリマーでコーティングされ、5.5までのpHで安定であり、5.5を超えるpH、特に6.0を超えるpHで可溶性であり、より具体的には約6.8のpHで高速の溶解プロファイルを有する腸溶性カプセルが提供される。
【0111】
腸溶コーティングに使用される腸溶ポリマーは、通常は5.5を超えるpH、特に6.0を超えるpHで可溶性の成膜性ポリマー物質からなる。本発明の種々の実施形態に有用な成膜性ポリマーは、通常はセルロース誘導体、アクリル酸共重合体、マレイン酸共重合体、ポリビニル誘導体、セラック等からなる群、特にスチレン−アクリル酸共重合体、アクリル酸メチル−アクリル酸共重合体、アクリル酸メチル−メタクリル酸共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリル酸共重合体、Eudragit L100、Eudragit S又はEudragit S100(いずれも商品名であり、RoehmPharma(Germany)から市販されている)等のメタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、Eudragit L100−55(商品名、RoehmPharma(Germany)から市販されている)等のメタクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、アクリル酸メチル−メタクリル酸−アクリル酸オクチル共重合体等からなる群から選択されるアクリル酸共重合体から選択され、より具体的には成膜性ポリマーはメタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体からなる。
【0112】
また、異なる安定化化合物(抗凍結剤)の組合せが、乾燥、噴霧乾燥又はフリーズドライの前に細菌バイオマスに添加される。デンプン加水分解物及びグルタミン酸塩及び/又はポリオールを含むこの安定化化合物の組合せは、乾燥、噴霧乾燥又はフリーズドライされたグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の生存及び安定性の改善をもたらす。
【0113】
本明細書に記載の配合物及びカプセルは、薬剤、栄養補助食品、食品添加物、機能性食品、メディカルフード、スターター培養物及び/又はプロバイオティック組成物として使用することができる。
【0114】
このため、本発明によると、好ましい実施形態では、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又はこれらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を含む(医薬品)組成物は、特定の経路に適用可能な現行の技術水準の配合物のいずれか1つによって動物又はヒトに粘膜経路、例えば経口経路、経鼻経路、直腸経路、膣内経路又は気管支経路で投与することができる。投与されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の投与量は、細菌のタイプ及びそれによりコードされる遺伝子、治療する疾患のタイプ及び重症度、並びに使用される投与経路を含む様々な因子に応じて異なる。このため、本発明のあらゆる実施形態について正確な投与量を規定することはできないが、本発明に携わる当業者には容易に明らかである。いずれにせよ、投与量は、所定の数の細胞の投与後に、治療的及び/又は予防的なタンパク質の血清レベル濃度を既知の方法、例えばELISA又はBiacoreとして知られる方法(実施例を参照されたい)を用いて測定することによって個別的に決定することができる。送達された組み換えタンパク質の動態プロファイル及び半減期の分析によって、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の効果的な投与量範囲の決定に十分な情報が得られる。
【0115】
一実施形態では、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が抗原を発現する場合、本発明はワクチンも提供する。好ましくは、抗原はヒト又は動物において免疫応答を引き起こし、ワクチンとして使用することが可能であり得る。「ワクチン」という用語は、有効量で動物又はヒトの被験体に投与した場合に、ワクチンに含まれる免疫源に対する抗体を誘導することが可能であり、及び/又は被験体において防御免疫を引き起こす薬学的に許容可能な組成物とみなされる。本発明のワクチンは、抗原をコードする核酸又はベクターによって任意に形質転換された、本明細書で教示されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、更には任意に賦形剤を含み得る。かかるワクチンは、アジュバント、すなわち抗原に対する免疫応答を向上させる化合物又は組成物も含み得る。アジュバントとしては、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム等の鉱物ゲル、リゾレシチン等の界面活性物質、pluronicポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油又は炭化水素エマルション、並びにBCG(カルメット・ゲラン桿菌(bacille Calmetle-Guerin))及びコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)等の潜在的に有用な薬学的に許容可能なヒトアジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
一態様では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又は組成物、好ましくは治療的及び/又は予防的な医薬品組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む治療方法又は療法に関する。
【0117】
上記のように、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含む組成物はスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物であり得る。したがって、本発明は、一態様では、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含むスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物に関する。
【0118】
スターター培養物は例えば液体培養物、加圧液体培養物、例えば乾燥形態、フリーズドライ形態及び噴霧/流動層乾燥形態、又は凍結濃縮形態若しくはフリーズドライ濃縮形態を含む凍結形態又は乾燥形態であり得る。したがって、一実施形態では、本発明は乾燥、噴霧乾燥、凍結又はフリーズドライされた本明細書に記載のスターター培養物に関する。培養物は真空で又は例えばN
2、CO
2等の雰囲気下で包装することができる。例えば、スターター培養物を製造し、剛性、非柔軟性又は柔軟性の好適なプラスチック又は他の材料で作製され得る、好ましくは発熱物質を含まない密封容器に入れて発酵場所に分配することができ、発酵させる有機材料に添加するか、又は任意に別個のスターター培地中で初めに培養して高密度培養物を得ることができる。
【0119】
スターター培養物は、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に加えて、緩衝化剤及び成長刺激栄養素(例えば同化炭水化物又は窒素源)若しくは保存料(例えば凍結防止化合物)、又は必要に応じて粉乳若しくは糖等の他の担体も含有し得る。
【0120】
スターター培養物は純粋培養物であり得る、すなわち本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の或る単一の分離株のバイオマス、すなわち原則として1つの細胞に由来するクローンを含有し得る。別の実施形態では、スターター培養物は共培養物であり得る、すなわち本発明のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の2つ以上の株を含み、任意に細菌又は酵母等の付加的な微生物を更に含み得る。
【0121】
スターター培養物又は高密度培養物が、少なくとも10
2コロニー形成単位(CFU)の、例えば少なくとも10
3CFU/g、少なくとも10
4CFU/g、例えば少なくとも10
5CFU/g、少なくとも10
6CFU/g、例えば少なくとも10
7CFU/g、少なくとも10
8CFU/g、例えば少なくとも10
9CFU/g、少なくとも10
10CFU/g、例えば少なくとも10
11CFU/g、少なくとも10
12CFU/g又は少なくとも10
13CFU/gの本発明の1つ又は複数のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を含有することが好ましい場合もある。
【0122】
通常、スターター培養物又は高密度培養物は、少なくとも10
2(CFU)、例えば有機材料、培地又は基質1g当たり少なくとも10
3CFU、少なくとも10
4CFU、例えば少なくとも10
5CFU、少なくとも10
6CFU、例えば少なくとも10
7CFU、少なくとも10
8CFU、例えば少なくとも10
9CFU、少なくとも10
10CFU、例えば少なくとも10
11CFU、少なくとも10
12CFU又は少なくとも10
13CFUの本発明の1つ又は複数の細菌株(任意に1つ又は複数の酵母株)という1つ又は複数の細菌株(任意に1つ又は複数の酵母株)の生細胞の濃度でスターター培地、又は発酵させる有機材料若しくは基質に添加され得る。
【0123】
一実施形態では、本発明は、本明細書で規定される食品の調製用のスターター培養物に関するか、又はトレハロース6−リン酸ホスホリラーゼ(phosphorylase)(TrePP)活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を含む食品添加物若しくはプロバイオティック組成物に関する。好ましい実施形態では、本明細書の他の部分に記載されるように、内因性TrePPをコードする遺伝子は、機能的なtrePP遺伝子産物を産生することが不可能なように部分的又は完全に欠失、破壊又は不活性化されている。更なる実施形態では、スターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物中のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、本明細書の他の部分に記載されるように、機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ(例えばotsB)及び/又は機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼ(例えばotsA)を含有しない。また更なる実施形態では、本明細書に記載のスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物中のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、トレハロース又はトレハロース6−リン酸の代謝(異化又は同化)に関与する機能的な異種遺伝子を含有しない。かかる遺伝子はトレハラーゼ、トレハロースホスホリラーゼ及びトレハロース6−リン酸ヒドロラーゼを包含するが、これらに限定されない。
【0124】
別の実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌がセロビオース特異的PTS系IICコンポーネント(ptcC)活性を欠いている、本明細書で規定されるスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物に関する。好ましい実施形態では、本明細書の他の部分に記載されるように、内因性ptcCをコードする遺伝子は、機能的なptcC遺伝子産物を産生することが不可能なように部分的又は完全に欠失、破壊又は不活性化されている。
【0125】
更なる実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、本明細書の他の部分に記載されるように、トレハローストランスポーター、好ましくは内因性トレハローストランスポーターをコードする1つ又は複数の遺伝子を過剰発現、好ましくは構成的に過剰発現する、本明細書に記載のスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物に関する。
【0126】
また別の実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、本明細書の他の部分に記載されるように、1つ又は複数の異種遺伝子産物、好ましくは1つ又は複数の予防的及び/又は治療的な遺伝子産物を発現する、本明細書に記載のスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物に関する。
【0127】
一実施形態では、本明細書に記載のスターター培養物、プロバイオティック組成物又は食品添加物を乾燥、凍結、噴霧乾燥又はフリーズドライする。
【0128】
上で示したように、一態様では、本発明は、好ましくは食品添加物若しくはプロバイオティック組成物として使用される、又は食品の調製に使用されるスターター培養物の調製への本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用に関する。更なる態様では、本発明は食品添加物、プロバイオティック組成物としての又は食品の調製へのスターター培養物の使用に関する。
【0129】
本明細書で使用される場合、「食品添加物」という用語は、更に改変することなく、又は代替的には更なる改変、例えば食品若しくは飼料の完全若しくは部分的な発酵、若しくは食品若しくは飼料の1つ若しくは複数のコンポーネントの完全若しくは部分的な発酵の後に消費するのに適した、好ましくはヒト又は動物の食品又は飼料に添加することができる組成物中に配合されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を指す。例としては、限定されるものではないが、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又は本発明による組成物、例えば本明細書に記載のスターター培養物を、酪農業において特に培養酪農食品、培養乳製品又は培養牛乳製品としても知られる発酵牛乳製品の調製に使用することができる。発酵プロセスによって製品の保存期間が増加し、味が向上し、牛乳の消化率が改善される。本明細書で言及される食品の例には、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、バターミルク、乳酸菌牛乳等が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
一態様では、本発明は、本明細書で規定される薬剤、食品添加物、プロバイオティック組成物又はスターター培養物を調製する方法であって、該スターター培養物が好ましくは食品の調製用のスターター培養物であり、
i)本明細書で規定されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、該グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料を含む培地中で増殖させる工程と、
ii)そのようにして増殖させたグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、薬剤、食品添加物、プロバイオティック組成物又はスターター培養物のそれぞれに配合する工程と、
を含む、方法にも関する。
【0131】
グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を増殖させる方法、並びにグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な培地及び基質は、当該技術分野で既知である。一実施形態では、薬剤、食品添加物、プロバイオティック組成物又はスターター培養物としての配合は、液体培養物、加圧液体培養物、例えば乾燥形態、フリーズドライ形態及び噴霧/流動層乾燥形態、又は凍結濃縮形態若しくはフリーズドライ濃縮形態を含む凍結形態又は乾燥形態としての配合を含む。配合が乾燥、噴霧乾燥、凍結又はフリーズドライを含むのが好ましい。
【0132】
更なる態様では、本発明は、食品を調製する方法であって、本明細書で規定されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、本明細書で規定される食品添加物、本明細書で規定されるプロバイオティック組成物、又は本明細書で規定されるスターター培養物と、上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料とを混合する工程を含む、方法にも関する。基質材料は通常は炭素源、好ましくは炭水化物又は糖である。グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な炭水化物としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の単糖類又は二糖類が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、食品を調製する方法は、
i)本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、食品添加物、プロバイオティック組成物又はスターター培養物を準備する工程と、
ii)上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌によって発酵させることが可能である、基質材料、又は基質材料を含む組成物、好ましくは非毒性若しくは食用の組成物を準備する工程と、
iii)本明細書で規定されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、本明細書で規定される食品添加物、本明細書で規定されるプロバイオティック組成物又は本明細書で規定されるスターター培養物と、基質材料又は組成物とを混合する工程と、
iv)任意に上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を増殖させる、及び/又は上記基質材料若しくは組成物を上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌によって発酵させる工程と、
を含む。
【0133】
一態様では、本発明は、本明細書に記載の方法によって直接的若しくは間接的に得られる又は得ることができる食品にも関する。
【0134】
先述のように、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、トレハロースを細胞内に有利に蓄積させる。したがって、一態様では、本発明は、トレハロースが成長培地中に存在するか、又は外部から若しくは外生的に添加されたトレハロースであるようにグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌においてトレハロースを内因的に蓄積させる方法であって、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、該グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料を含む培地中で増殖させる工程を含む、方法にも関する。一実施形態では、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌においてトレハロースを内因的に蓄積させる方法は、
i)本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又はスターター培養物を準備する工程と、
ii)上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌によって発酵させることが可能である、基質材料、又は基質材料を含む組成物、好ましくは非毒性若しくは食用の組成物を準備する工程と、
iii)本明細書で規定されるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌、又は本明細書で規定されるスターター培養物と、基質材料又は組成物とを混合する工程と、
iv)任意に上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌を増殖させる、及び/又は上記基質材料若しくは組成物を上記グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)若しくはビフィズス菌によって発酵させる工程と、
を含む。
【0135】
本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、改善されたストレスに対する抵抗性、並びに改善された製造特性、加工特性及び/又は保存特性を有利に示す。したがって、一態様では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のストレス抵抗性又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性を改善する方法であって、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、TrePP活性を欠くように改変することを含む、方法に関する。一実施形態では、内因性TrePPをコードする遺伝子は、機能的なtrePP遺伝子産物を産生することが不可能なように部分的又は完全に欠失、破壊又は不活性化されている。ストレス抵抗性又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性が酸性条件に対する抵抗性、胆汁塩に対する抵抗性、熱に対する抵抗性、塩に対する抵抗性、乾燥、噴霧乾燥、凍結又はフリーズドライに対する抵抗性、及び浸透圧抵抗性を含む群から選択される1つ又は複数のストレス抵抗性又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性であるのが好ましい。
【0136】
一実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、本明細書の他の部分に記載されるように、機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ(例えばotsB)及び/又は機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼ(例えばotsA)を含有しない、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。また更なる実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、トレハロース又はトレハロース6−リン酸の代謝(異化又は同化)に関与する機能的な異種遺伝子を含有しない、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。かかる遺伝子はトレハラーゼ、トレハロースホスホリラーゼ及びトレハロース6−リン酸ヒドロラーゼを包含するが、これらに限定されない。
【0137】
別の実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、セロビオース特異的PTS系IICコンポーネント(ptcC)活性を欠いている本明細書に記載される方法のいずれかに関する。好ましい実施形態では、本明細書の他の部分に記載されるように、内因性ptcCをコードする遺伝子は、機能的なptcC遺伝子産物を産生することが不可能なように部分的又は完全に欠失、破壊又は不活性化されている。
【0138】
更なる実施形態では、本明細書の他の部分に記載されるように、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、トレハローストランスポーター、好ましくは内因性トレハローストランスポーターをコードする1つ又は複数の遺伝子を過剰発現する、好ましくは構成的に過剰発現する、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。
【0139】
また別の実施形態では、本明細書の他の部分に記載されるように、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、1つ又は複数の異種遺伝子産物、好ましくは1つ又は複数の予防的及び/又は治療的な遺伝子産物を発現する、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。
【0140】
一実施形態では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌、薬剤、食品添加物、プロバイオティック組成物又はスターター培養物を乾燥、凍結、噴霧乾燥又はフリーズドライする工程を更に含む、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。
【0141】
本発明者らは驚くべきことに、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌が、外部から添加されるトレハロースを添加することなくトレハロースを細胞内に蓄積させることが可能であることを見出した。有利には、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、任意にトレハロースが外部から添加されない培地中であっても増殖させ、トレハロースを内部に蓄積させることができる。したがって、一実施形態では、本発明は、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、トレハロースを欠く若しくは実質的に欠く培地、又は外部から若しくは外生的に添加されるトレハロースを欠く若しくは実質的に欠く培地中で維持又は増殖させる工程を含む、本明細書に記載される方法に関する。有利には、かかる培地は、限定されるものではないがマルトース及び/又はグルコース等の別の発酵性炭素源を含み得る。
【0142】
したがって、一実施形態では、本発明は、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、該グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料を含む培地中で維持又は増殖させ、該基質材料がトレハロースをほとんど含まない(例えば準最適量)、含まない又は実質的に含まない、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。代替的には、本発明は、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、該グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料を含む培地中で維持又は増殖させ、該基質材料がマルトースを含む、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。好ましい実施形態では、本発明は、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を、該グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌によって発酵させることが可能な基質材料を含む培地中で維持又は増殖させ、該基質材料がマルトースを含み、該基質材料がトレハロースをほとんど含まない(例えば準最適量)、含まない又は実質的に含まない、本明細書に記載される方法のいずれかに関する。
【0143】
本明細書で使用される場合、トレハロースを含まない若しくは実質的に含まない、又は外部から添加された若しくは外因性トレハロースを含まない培地は、トレハロースを含有しないか、又は少量のトレハロースしか含有しない培地を指す。かかる培地中のトレハロースの量又は濃度は、細菌が唯一の炭素源として使用することが可能となる程低いことが好ましい。一実施形態では、培地は100mM未満、好ましくは50mM未満、より好ましくは25mM未満、例えば15mM未満、10mM未満、5mM未満、2mM未満又は1mM未満のトレハロースを含有する。更なる実施形態では、培地は2w/w%未満又は2v/w%未満のトレハロース、好ましくは1w/w%未満又は1v/w%未満のトレハロース、より好ましくは0.5w/w%未満又は0.5v/w%未満のトレハロース、例えば0.3w/w%若しくはv/w%未満、0.2w/w%若しくはv/w%未満、0.1w/w%若しくはv/w%未満、0.05w/w%若しくはv/w%未満、又は0.01w/w%若しくはv/w%未満のトレハロースを含有する。別の実施形態では、培地は炭素源又は発酵性炭水化物の総量の20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、例えば3%未満、2%未満又は1%未満のトレハロースを含有する。
【0144】
更なる態様では、本発明は、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において細胞内トレハロースを蓄積させる、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用に関する。好ましい実施形態では、本発明は、トレハロースの非存在下又は実質的に非存在下でグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において細胞内トレハロースを蓄積させる、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用に関する。別の実施形態では、本発明は、好ましくはマルトースを唯一又は実質的に唯一の炭素源として維持又は増殖させた場合にグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌において細胞内トレハロースを蓄積させる、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用に関する。
【0145】
上記のように、本発明によるグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌は、改善された様々な環境ストレスに対する抵抗性、並びに改善された製造特性、加工特性及び/又は保存特性を示す。したがって、一態様では、本発明はグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌においてストレス抵抗性を改善する、又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性を改善する、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌の使用に関する。更なる態様では、本発明は、グラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌においてストレス抵抗性を改善する、又は製造特性、加工特性及び/又は保存特性を改善する方法であって、本明細書に記載のグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌を生成することを含む、方法に関する。
【0146】
一実施形態では、ストレス抵抗性は酸性条件に対する抵抗性、胆汁塩に対する抵抗性、熱抵抗性、塩に対する抵抗性、低温抵抗性、浸透圧抵抗性を含む群から選択され、好ましくは酸性条件又は胆汁塩に対する抵抗性、より好ましくは胆汁塩に対する抵抗性から選択される。別の実施形態では、製造特性、加工特性及び/又は保存特性は、培地中での乾燥、凍結、フリーズドライ、噴霧乾燥又は保存、好ましくは凍結又はフリーズドライ、より好ましくはフリーズドライを含む群から選択される。
【0147】
別の態様では、本発明は、TrePP活性を欠き、以下の特性のいずれか一方又は好ましくは両方を更に示すグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する:(i)グラム陽性菌がptcC活性を欠いている;(ii)グラム陽性菌が1つ又は複数のトレハローストランスポーターを過剰発現、好ましくは構成的に過剰発現する。一実施形態では、本発明は、TrePP活性を欠き、ptcC活性を欠くグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。別の実施形態では、本発明は、TrePP活性を欠き、1つ又は複数のトレハローストランスポーターを(構成的に)過剰発現するグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。また別の実施形態では、本発明は、TrePP活性を欠き、ptcC活性を欠き、1つ又は複数のトレハローストランスポーターを(構成的に)過剰発現するグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌に関する。更なる実施形態では、本発明は、機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ及び/又は機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを含有しない、これらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のいずれかに関する。別の実施形態では、本発明は、機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ及び/又は機能的な異種トレハロース6−リン酸シンターゼを含有する、これらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のいずれかに関する。更なる実施形態では、本発明は、1つ又は複数の異種遺伝子産物、好ましくは予防的及び/又は治療的な遺伝子産物を含有し、好ましくは機能的な異種トレハロース6−リン酸ホスファターゼ及び/又は機能的な異種トレハロース6−シンターゼを含有しない、これらのグラム陽性菌、好ましくは乳酸菌(LAB)又はビフィズス菌のいずれかに関する。
【0148】
本発明の態様及び実施形態は以下の非限定的な実施例によって更に支持される。
【実施例】
【0149】
表1は、表2に与えられる
図4で使用される株以外の本明細書に記載の株における遺伝子改変の概要を示す。
【0150】
【表1】
【0151】
本明細書に記載の株における遺伝子改変の概要。a)トレハロースオペロンの構造:天然トレハロースオペロンプロモーター(Ptre)がトレハロースPTSトランスポーターに先行するか否か(Ptre>>PTS)及びtrePPが欠失している(KO)か否か(野生型;wt);b)ptcC遺伝子の構造:野生型(wt)、終止コドンの挿入又は遺伝子欠失による不活性化(KO);c)欠如(−)又はthyAプロモーターに続くthyA遺伝子座に挿入される(PthyA>>otsB)、若しくはusp45遺伝子に続く2番目のシストロンとして挿入される(usp45>>otsB)、機能的に不活性な(突然変異)otsB若しくは野生型otsBの存在;d)thyA遺伝子の構造:野生型(wt)又は遺伝子欠失若しくはカーゴ遺伝子の挿入(遺伝子置換)による不活性化(KO);e)欠如(−)又はhllAプロモーターの制御下でthyA遺伝子座に挿入される(PhllA>>)若しくはusp45遺伝子若しくはgapB遺伝子の下流に挿入される(usp45>>;gapB>>)、uidA、hIL−10又は抗TNF CDP870カーゴ遺伝子の性質及び構造。全ての株がラクトコッカス・ラクティスMG1363に由来する。
【0152】
【表2】
【0153】
トレハロース出口を同定するために構築した株の概要。trePPが欠損し、トレハロース蓄積を可能にする株を構築し、ラクトコッカス・ラクティスCOG機能別カテゴリー「炭水化物の輸送及び代謝(Carbohydrate transport and metabolism)」(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/cogtik.cgi?gi=20494&cog=G)(それから遺伝子及びタンパク質の命名を採用した)から選択した遺伝子を不活性化する。不活性化遺伝子の遺伝子ID及び不活性化タンパク質産物を示す。
【0154】
遺伝子不活性化を、インフレーム終止コドンをそれぞれの標的遺伝子に導入するオリゴヌクレオチド指向組換え(recombineering)によって行った。全ての株がラクトコッカス・ラクティスMG1363に由来する。
【0155】
実施例1:trePP不活性化後の細胞内トレハロース蓄積
実験
株を50mlのGM17T+500mMトレハロース中、30℃で一晩(A)又は24時間(B)成長させ、細胞を遠心分離によって採集し、トレハロース含量を決定した。細胞ペレット(湿重量)の重量決定後に、10ml相当量の一晩培養物を0.25M炭酸緩衝剤で3回洗浄した。細胞を、溶解基質B及びMP Fasprep−24デバイス(MP Biomedicals)を6m/sで40秒間用いて1mlの0.25M炭酸緩衝剤に溶解した。溶解細胞の上清を遠心分離によって分離し、99℃で30分間加熱した。細胞残屑を遠心分離によって除去し、トレハロースアッセイキット(K−TREH 010/10、Megazyme(Ireland))を用いて上清をトレハロース濃度についてアッセイした。簡潔に述べると、サンプル中のトレハロースをトレハラーゼによってD−グルコースへと加水分解し、放出されたD−グルコースを、アデノシン−5’二リン酸(ADP)の同時形成とともに、酵素ヘキソキナーゼ及びアデノシン−5’三リン酸(ATP)によってグルコース−6−リン酸へとリン酸化した。酵素グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼの存在下で、グルコース−6−リン酸をニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)によってグルコン酸−6−リン酸へと酸化し、還元型ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を形成した。この反応において形成されたNADPHの量はD−グルコースの量、したがってトレハロースの量と化学量論的である。NADPHは340nmでの吸光度の増加によって測定される(トレハロース(trehalose)添加前のOD340と比較する)。トレハロース値をトレハロース標準の段階希釈物を用いて算出し、細胞ペレットの湿重量(ww)1g当たりのmgとして表した。
【0156】
結果
細胞内トレハロース蓄積は、
図1に示されるようにtrePP不活性化後、otsB発現後又はそれらの組合せで可能である。
図1(A)はtrePP野生型株(sAGX0037及びsAGX0137)がトレハロースを蓄積させないことを示す。sAGX0147をもたらすsAGX0137(非機能的な突然変異otsBを含有する)におけるtrePPの不活性化は、トレハロースの蓄積を可能にする。sAGX0139をもたらす野生型otsB sAGX0037の挿入は、トレハロースの蓄積を可能にする。otsB及びtrePP KOの組合せは、トレハロース蓄積の適度な増加をもたらし(sAGX0148)、これはラクトコッカス・ラクティスのトレハロースオペロン(sAGX0167)の両方のホスホトランスフェラーゼ系(PTS)遺伝子の前に強力な構成的PhllAプロモーター(国際公開第2008/084115号に開示される)を挿入することによって大幅に増強される。
図1(B)はtrePP野生型株sAGX0085がトレハロースを蓄積させることができないことを示す。trePP KO(sAGX0169)の不活性化のみがトレハロースの蓄積を可能にする。
【0157】
図1から、trePP野生型株がトレハロースを蓄積させないことが明らかである。trePPの遺伝子破壊(遺伝子欠失だけでなく点突然変異も)は、外因性トレハロースの細胞内蓄積を可能にする。sAGX0147株では、非機能的なotsB突然変異遺伝子が存在するが、sAGX0169株、sAGX0309株及びsAGX0319株はotsB遺伝子を保有(carry)しない。sAGX0169株は、thyA遺伝子座に存在するhTFF1カーゴ遺伝子を除いて、trePPの破壊以外の他の遺伝子変化を保有しない。trePP KO株におけるトレハロース蓄積は、従来技術によれば、これがトレハロース−6−リン酸ホスファターゼ(otsB又は類似物)によって決定的に決まると考えられることから予想外である。かかる機能はラクトコッカス・ラクティスにおいては記載されておらず、トレハロース−6−リン酸を不活性な細胞内トレハロースへと変換することによってラクトコッカス・ラクティスによるトレハロースの代謝に対抗し得ることから、存在が期待されていない。今回、予想外にもこの機能がラクトコッカス・ラクティスにおいて存在することが観察される。trePP KOは、本明細書で行ったように遺伝子欠失によって、又は終止コドン若しくはフレームシフト突然変異若しくはプロモーター突然変異の確立、若しくは自然の非機能的なtrePP突然変異の同定によって行うことができる。otsBがそれ自体で(sAGX0139)、又はtrePP KOと組み合わせて(sAGX0148)、又は更にはラクトコッカス・ラクティスのトレハロースオペロンのホスホトランスフェラーゼ系(PTS)遺伝子の両方の前に位置する、強力な構成的プロモーターPhllAの挿入(PhllA>>trePTC)と更に組み合わせて(sAGX0167)存在する場合にトレハロース蓄積は可能である。本明細書で使用される場合、otsBの好ましい位置は、欧州特許出願公開第11168495.7号及び同第11173588.2号に記載されるような構成における固有のusp45遺伝子後の2番目のシストロンである(usp45>>rpmD>>otsB、rpmDはrpmDに先行する遺伝子間領域である)。
【0158】
実施例2:外因性トレハロースの蓄積は胆汁溶解に対する保護をもたらす
実験
株を50mlのGM17T又はGM17T+500mMトレハロース中、30℃で一晩成長させ、細胞を遠心分離によって採集し、25mlの0.9% NaClに再懸濁した。サンプルを採取し、適切な希釈物(初期)をプレーティングすることによってCFUを決定した。T0で、0.9%NaCl中の25mlの1%oxgalを添加し、細胞懸濁液を37℃で8時間インキュベートした。サンプルをT0、1時間、2時間、4時間、6時間及び8時間で採取した。適切な希釈物をプレーティングすることによってCFUを決定し(
図2A)、基本的に実施例1に記載のようにトレハロース含量を決定した(
図2B)。
【0159】
結果
細胞内トレハロースは胆汁溶解を防ぎ、細胞内トレハロースの喪失は胆汁溶解に対する抵抗性の低下と同時に起こる。したがって、トレハロースの漏出は、胆汁における長期安定性に問題である。
【0160】
ラクトコッカス・ラクティス細胞における外因性トレハロースの蓄積が胆汁溶解に対する保護をもたらすことを
図2に示す。細胞内トレハロースの放出は、トレハロースの経時的な保護効果を制限する。トレハロースを蓄積した、すなわち
図2Bに記載のように500mMトレハロース中で成長したラクトコッカス・ラクティス細胞(sAGX0167+トレハロース、sAGX0309+トレハロース及びsAGX0319+トレハロース)は、細胞内トレハロースを有しないラクトコッカス・ラクティス細胞(sAGX0167、トレハロースなしで前培養した)と比較した場合に、細胞内トレハロース濃度に比例して経時的に胆汁溶解に対する実質的な保護を示す。0.5%oxgal中での生存の低下(
図2A)は、細胞内トレハロースの放出と同時に起こる(
図2B)。
【0161】
実施例3:外因性トレハロースの蓄積は胆汁溶解に対する保護をもたらす
実験
細胞を遠心分離によって採集し、1×M9塩溶液に再懸濁した。サンプルを採取し、トレハロース濃度を、基本的に実施例1に記載のようにT0、1時間、2時間及び4時間で決定した。データは全てのptcC wt株について典型的なものである。
【0162】
結果
蓄積の後、トレハロースはこれまで同定及び予期されていないトレハロース出口を介して細胞から或る程度漏出し、上清中で回収され得る。
【0163】
図3Aは、トレハロースがデノボ合成及びその後の成長培地からの取込み(sAGX0167を、
図1に記載のように500mMトレハロース中で成長させた)によって細胞内に蓄積し得ることを示す。デノボ合成されたトレハロース及び外生的に蓄積したトレハロースの両方が細胞から放出される。
図3Bは、細胞内トレハロースの喪失が培養上清中に存在するトレハロースの増加をもたらす(ここでは、細胞内及び細胞外のトレハロース濃度間の比較を可能にする10mlの培養物当たりのトレハロースのmg量として表す)ことを示す。
【0164】
実施例4:表2に記載の様々な株におけるトレハロースの蓄積及び放出
実験
表2に記載の株を、100mM(
図4A)又は500mM(
図4B)のトレハロースを添加したGM17中で成長させた。細胞を採集し、M9緩衝剤(Difco)に再懸濁した。細胞内トレハロース含量を、基本的に実施例1に記載のようにT0、2時間、4時間及び8時間で決定した。sAGX0248(ptcC KO)を除く全ての株が、
図3に記載のように類似のトレハロース放出を示す。
【0165】
結果
20個のラクトコッカス・ラクティスMG1363オリゴ糖(oligosaccharide)トランスポーターを、COGデータベース(炭水化物の輸送及び代謝のセクション)から選択し、それらの遺伝子をtrePP KOバックグラウンドにおけるオリゴヌクレオチド指向組換え(sAGX0272;トレハロース蓄積に必要とされる)によって破壊した(表2;
図4)。ptcCの破壊のみがトレハロースの放出を回避する。
【0166】
表2に挙げられる遺伝子のいずれがトレハロース放出に関与するかを予測することはできない。トレハロースオペロン内に存在するPTSトランスポーター遺伝子(llmg_0453;llmg_0454)のいずれか1つの破壊は、トレハロースの取込み又は放出に対して影響を有しない。ptcC遺伝子(セロビオース特異的PTS系IICコンポーネントをコードする)の破壊は、蓄積トレハロースの漏出を解消するため、PtcCがトレハロース出口であり、このタンパク質がトレハロースの漏出を引き起こす。celB(セロビオース特異的PTS系IICコンポーネント)の破壊は、トレハロースの取込み又は放出に対して影響を有しない。trePP KOバックグラウンドでのptcCの破壊は、トレハロースの全放出を防ぐ。
【0167】
実施例5:表2に記載の様々な株におけるトレハロースの蓄積及び放出
実験
株をGM17T+500mMトレハロース中、30℃で一晩成長させ、細胞を遠心分離によって採集し、等量の1×M9(
図5A)又は0.9%NaCl中の0.5%Oxgal(
図5B)に再懸濁し、37℃で24時間インキュベートした。サンプルをT0、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間及び24時間で採取した。細胞内トレハロース含量を実施例1に記載のように決定した。
【0168】
結果
ptcC KO(終止コドン挿入及び遺伝子欠失)とPhllA>>trePTC(トレハローストランスポーターの構成的高発現)との組合せは、高いトレハロース取込み及び完全な細胞内保持を可能にする。
【0169】
図5は、ptcCの不活性化が細胞内トレハロースの放出を防ぐ(M9塩中、パネルA)又は遅らせる(0.5%oxgal中、パネルB)ことを示す。ラクトコッカス・ラクティスのトレハロースオペロンの両方のPTS遺伝子の前に強力な構成的PhllAプロモーター(国際公開第2008/084115号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に開示される)が存在することにより、外因性トレハロースを蓄積させる能力が参照株の能力にまで回復する(
図4も参照されたい)。
【0170】
実施例6:外因性トレハロースの蓄積は胆汁溶解に対する保護をもたらす
実験
株をGM17T+500mMトレハロース中、30℃で一晩成長させ、細胞を遠心分離によって採集し、半量の0.9%NaClに再懸濁した。サンプルを採取し、適切な希釈物(初期)をプレーティングすることによってCFUを決定した。T0で、0.9%NaCl中の半量の1%oxgalを添加し、37℃で8時間インキュベートした。サンプルをT0、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間及び24時間で採取した。トレハロース含量を決定し(
図6A、基本的に実施例1と同様)、適切な希釈物をプレーティングする(0〜8時間のみ)ことによってCFUを決定し、初期T0値に対する%としてプロットした(
図6B)。
【0171】
結果
細胞内トレハロースを保持する能力の向上は、胆汁抵抗性の改善をもたらす。
【0172】
図6は、ラクトコッカス・ラクティス細胞における外因性トレハロースの蓄積が胆汁溶解に対する保護をもたらすことを示す。細胞内トレハロースの放出(A)は、0.5%oxgalにおける生存の低下(B)と同時に起こる。ptcCの不活性化は経時的な細胞内トレハロースの存在を延長し、結果的にoxgalに対する経時的な抵抗性も改善する。
【0173】
実施例7:trePP KO株はグルコース又はマルトースを細胞内トレハロースへと変換することが可能である。マルトースはtrePP KO株におけるトレハロース取込みを刺激する
実験
株を指定の培地で一晩成長させた。トレハロースを基本的に実施例1に記載のように決定した。
【0174】
結果
trePP KO株は、トレハロースの蓄積にグルコース又はマルトース等の炭素源を利用する能力を獲得した。トレハロースがMM17Tにおいて、すなわちマルトースを単一の炭素源として細胞内に蓄積することができることから、このことは従来技術には記載されていない。
【0175】
図7は、trePP KO株(ptcC wt及びptcC KOの両方)がグルコース又はマルトースを細胞内トレハロースへと変換することが可能であることを示す(第1欄及び第2欄、第5欄〜第8欄)。マルトースは、trePP KO株において成長培地からの細胞外トレハロースの取込み及び蓄積を向上させる(第9欄及び第10欄)。
【0176】
trePP KO株は、以下のものを用いて成長させた場合にトレハロースを蓄積させる:
1.炭素源としてのグルコース(GM17T;第1欄及び第2欄)
2.炭素源としてのグルコース及び細胞外トレハロース(GM17T+500mMトレハロース;第3欄及び第4欄)
3.炭素源としてのマルトース(MM17T;第5欄及び第6欄)
4.炭素源としてのグルコース及びマルトース(GM M17T;第7欄及び第8欄)
5.炭素源としてのマルトース及び細胞外トレハロース(MM17T+500mMトレハロース;第9欄及び第10欄)
【0177】
実施例8:凍結乾燥(lyophilization)後の生存
実験
表3A:成長を最適化した200Lの培養物(動物タンパク質を含まない発酵培地)を、限外濾過及び透析濾過、並びに濃縮抗凍結剤ミックス(国際公開第2010/124855号に記載)への再懸濁によって10倍濃縮した。1ml当たりのCFUカウントを細菌懸濁液について決定した。懸濁液を大量に分析トレイに調合し、トレイを秤量し、凍結乾燥した。生存能力の評価については、凍結乾燥した適切な重量分を適量の精製水で再構成し、1ml当たりのCFUカウントを決定した。生存能力(%)を凍結乾燥前後のCFUの比率から決定した。
【0178】
表3B:20Lの一晩培養物(GM17T+500mMトレハロース)を、遠心分離及び濃縮抗凍結剤ミックス(国際公開第2010/124855号に記載)への再懸濁によって100倍濃縮した。1ml当たりのCFUカウントを細菌懸濁液について決定した。懸濁液を大量にバイアル(2.5mlの充填量)に凍結乾燥した。生存能力の評価については、凍結乾燥した2.5ml容バイアルを2.5mlの精製水で再構成し、1ml当たりのCFUカウントを決定した。生存能力(%)を凍結乾燥前後のCFUの比率から決定した。2つの独立した製造バッチ(sAGX0167及びsAGX0309)から、凍結乾燥後に100%を超える生存が得られる。
【0179】
(A)及び(B)の両方の凍結乾燥粉末に好適な賦形剤を更に配合し、CFU/gを標準化した。sAGX0037、sAGX0167及びsAGX0309を、最低でも1.2×10
11CFU/カプセルでHPMCカプセルに充填した。カプセルをセルロース膜でまとめ、小腸及び結腸への標的化送達のために腸溶コーティング膜としてメタクリル酸−アクリル酸エチル共重合体でコーティングした。
【0180】
トレハロースは基本的に実施例1に記載のように決定した。
【0181】
結果
表3に示されるように、トレハロースを蓄積させることができる株は、大幅に向上したフリーズドライ中に受ける乾燥ストレスに対する抵抗性を示す。
【0182】
【表3】
【0183】
実施例9:ブタの腸における腸通過時の生存
実験
雌ブタ(150kgを超える)の近位十二指腸及び近位結腸にカニューレを外科的に取り付けした。十二指腸カニューレに、カプセル化したフリーズドライsAGX0037及びsAGX0167を挿入した。投与後0時間、2時間、4時間、6時間、8時間及び10時間の時点で結腸カニューレから結腸内容物をサンプリングした。サンプル中の生ラクトコッカス・ラクティス(CFUカウント)と全ラクトコッカス・ラクティス(生及び死;Q−PCR分析)との比率から生存能力(%)を決定した。数値は表4に示す。
【0184】
結果
トレハロースを蓄積させることができる株は、大腸系(ブタ)において飼養状態又は絶食状態とは無関係に大幅に向上した生存を示す。
【0185】
表4及び
図8は、フリーズドライしたカプセル化sAGX0037(表4A)と比較した場合に、フリーズドライしたカプセル化sAGX0167(細胞内トレハロース蓄積のために事前に成長させた;表4B)が、ブタを24時間絶食させた場合(
図8A)及び不断給餌(
図8B)の両方でブタの腸における腸通過時の生存の向上を示すことを示す。
【0186】
【表4】
【0187】
実施例10:トレハロースはバイオマス産生後に蓄積することができる
実験
指定の株をGM17T中で一晩成長させ(30℃で16時間)、遠心分離(4000rpmで15分間)によって採集した。細菌ペレットを新たなGM17T+500mMトレハロースに再懸濁し、インキュベートした。細胞内トレハロース含量を実施例1に記載のようにT=0時間、1時間、2時間及び4時間で決定した。
【0188】
結果
図9Aに示されるように、細菌を経時的にインキュベートした場合に、トレハロースはバイオマス産生後に蓄積することができる。
図9Bに示されるように、これはtrePP KO株においてのみ達成することができ(他に対してsAGX0090)、更なる遺伝子の挿入又は欠失を要求しない(sAGX0169)。otsBの付加的な存在(sAGX0167、sAGX0346、sAGX0354、sAGX0360)はトレハロース蓄積を刺激する。
【0189】
実施例11:マルトースは細胞内トレハロースの蓄積を刺激することができる
実験
指定の株をGM17T±500mMトレハロース、GM17T+0.5%マルトース(GMM17T)+500mMトレハロース又はM17T+0.5%マルトース(MM17T)+500mMトレハロース中で一晩成長させ(一晩;30℃で16時間)、遠心分離(4000rpmで15分間)によって採集した。細胞内トレハロース含量を実施例1に記載のように決定した。
【0190】
結果
図10に示されるように、マルトースは一晩成長させた培養物において細胞内トレハロースの蓄積を刺激する。
【0191】
実施例12:マルトースはバイオマス産生中又はバイオマス産生後に細胞内トレハロースへと変換されることができる
実験
指定の株をGM17T中で一晩成長させ(一晩、30℃で16時間)、細胞を遠心分離(4000rpmで15分間)によって採集し、M17T+0.5%マルトース(MM17T)に再懸濁し、8時間インキュベートした(8時間超、MM17T)。代替的には、指定の株をMM17T中で一晩成長させた。細胞内トレハロース含量を実施例1に記載のように決定した。
【0192】
結果
図11に示されるように、マルトースはバイオマス産生中又はバイオマス産生後に細胞内トレハロースへと変換されることができる。
【0193】
略語
【表5】