特許第6117219号(P6117219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6117219陰イオン交換クロマトグラフィによるタンパク質の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117219
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】陰イオン交換クロマトグラフィによるタンパク質の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20170410BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20170410BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   C07K1/18
   !C07K14/47
   !C07K14/745
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-535103(P2014-535103)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公表番号】特表2014-528966(P2014-528966A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】EP2012070259
(87)【国際公開番号】WO2013053888
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】61/547,513
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515351758
【氏名又は名称】バクスアルタ ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】315010787
【氏名又は名称】バクスアルタ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥール・ミッテラー
(72)【発明者】
【氏名】マインハルト・ハッスラッハー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・フィードラー
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−525381(JP,A)
【文献】 特表平11−506603(JP,A)
【文献】 特表2008−514216(JP,A)
【文献】 特開平02−200180(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/026020(WO,A1)
【文献】 特表2014−530230(JP,A)
【文献】 特表2013−525411(JP,A)
【文献】 Journal of Chromatography B,2003年,Vol.790,p.183-197
【文献】 ACS Symposium Series,1998年,Vol.698,Chapter 8, pp.93-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/18
C07K 14/745−755
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む二価カチオン結合タンパク質の精製方法:
(a)第1陰イオン交換樹脂物質に、二価カチオンの非存在下またはその低濃度下でローディング緩衝液中の二価カチオン結合タンパク質をロードし、所望により二価カチオンの非存在下、ロードした陰イオン交換樹脂物質を洗浄用緩衝液で洗浄し、ここで前記低濃度は最大限1000μMの濃度の二価カチオン濃度を表す、
(b)二価カチオン結合タンパク質を対アニオンを含む溶離剤で溶出して二価カチオン結合タンパク質含有溶出液を得、
(c)工程(b)で得た溶出液に少なくとも1の二価カチオンを添加してpHを増加させ、
(d)第2陰イオン交換樹脂物質に工程(c)で得た添加溶出液をロードし、
(e)二価カチオン結合タンパク質を含むフロースルーを回収する。
【請求項2】
工程(c)において該添加溶出液のpHを少なくとも0.5pH単位増加させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(b)の溶離剤が、工程(a)のローディング緩衝液、および洗浄工程を行う場合は工程(a)の洗浄用緩衝液の伝導度より高い伝導度を有し、工程(c)の該添加溶出液が工程(b)の溶離剤の伝導度より低い伝導度を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(c)の少なくとも1の二価カチオンが、Ca2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、およびCu2+、またはその組み合わせからなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1および第2陰イオン交換樹脂物質が、それぞれ独立してジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)、トリメチルアミノエチル(TMAE)、ポリエチレンイミン(PEI)、第4級アミノアルキル、第4級アミノエタン(QAE)、および第4級アンモニウム(Q)からなる群から選ばれる正荷電基を有する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
第1および第2陰イオン交換樹脂物質が、リガンドとして、それぞれ独立してアミノヘキシル、ベンズアミジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選ばれる1級アミンを保持する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
二価カチオン結合タンパク質が、カルシウム結合タンパク質である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
二価カチオン結合タンパク質がビタミンK依存性タンパク質である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
二価カチオン結合タンパク質が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS、アネキシン、およびカルモジュリンからなる群から選ばれる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
二価カチオン結合タンパク質が、第IX因子、第VII因子、およびアネキシンVからなる群から選ばれる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ローディング工程(a)中のローディング緩衝液のpH、および/または所望の洗浄工程(a)に用いる洗浄用緩衝液のpHが<pH7.4である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ローディング工程(a)中のローディング緩衝液のpH、および/または所望の洗浄工程(a)に用いる洗浄用緩衝液のpHがpH5.5〜pH7.0である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ローディング工程(a)中のローディング緩衝液のpH、および/または所望の洗浄工程(a)に用いる洗浄用緩衝液のpHがpH6.0〜pH7.0である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
ローディング工程(a)中のローディング緩衝液のpH、および/または所望の洗浄工程(a)に用いる洗浄用緩衝液のpHがpH6.5〜pH7.0である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂物質を用いる高収量および高純度の二価カチオン結合タンパク質の二段階精製方法、該方法により得ることができる二価カチオン結合タンパク質、および該方法を実施するための手段を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
今までのところ、多くの哺乳類タンパク質は、例えば該タンパク質をコードするDNAで細胞をトランスフェクトし、該タンパク質を発現させるのに好ましい条件下で組換え細胞を増殖させることにより宿主細胞中で生産される。該細胞によって細胞培養液中に分泌されるかまたは該細胞の内部に存在するタンパク質は、クロマトグラフィ技術、例えばイオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなどを用いて培養液や他の成分から分離することができる。さらに医薬的に応用するために精製は特に重要である。しかしながら、同時に、目的タンパク質の完全な精製後にタンパク質の生物活性が保存されていなければならない。
【0003】
二価カチオンにより陰イオン交換樹脂からカルシウム結合タンパク質を溶出する概念は、ほぼ30年前に初めて報告された。ウシ第VII因子をウシ血漿から単離するのに成功したが、ヒト第VII因子の精製は依然として問題があり、製造された物質は部分精製物のみであるか、少量過ぎて活性で特徴付けられる検出可能なタンパク質は得られなかった。当業者は、二価カチオン、すなわちクエン酸バリウムにタンパク質を吸着させ、次いで陰イオン交換クロマトグラフィにより該タンパク質を分離することによりヒト血漿から充分量(収率約30%)のヒト第VII因子の単離に成功した。さらに、常套的イオン交換樹脂、例えば陰イオン交換樹脂、および二価カチオン、例えばカルシウムイオン(Ca2+)、バリウムイオン(Ba2+)、およびストロンチウムイオン(Sr2+)を用いることにより種々の比活性のビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞培養の培地からビタミンK依存性タンパク質を回収し、精製するための方法が利用可能であった。
【0004】
さらに、溶液中の第IX因子(FIX)を精製するための方法であって、陰イオン交換樹脂にFIX含有溶液を適用し、陰イオン交換樹脂を該樹脂からFIXを溶出するのに必要な伝導度より低い伝導度を有する溶液で洗浄し、次いで二価カチオンを含む第1溶離剤を用いて陰イオン交換樹脂からFIXを溶出し、第1溶出液を得る工程を含む方法が利用可能であった。次に、第1溶出液をヘパリンまたはヘパリン様樹脂に適用して第2溶出液を得、該第2溶出液をヒドロキシアパタイトに適用して第3溶出液を得、洗浄工程では高伝導度の洗浄剤を利用する。
【0005】
第IX因子(FIX)は、ペプチダーゼファミリーS1に属する凝固系のビタミンK依存性セリンプロテアーゼである。FIXは、第Xla因子または第VIIa因子により活性化されなければ不活性である。その活性化には、カルシウムおよび膜リン脂質が必要である。FIXの欠損は劣性遺伝血液疾患であるB型血友病を引き起こすが、これは翻訳後修飾(すなわち、リン酸化および硫酸化)FIXの投与により成功裏に治療することができる。
【0006】
さらに、第VII因子(FVII)は、凝固プロセスを組織因子(TF)により開始する凝固カスケードに重要な役割をはたすビタミンK依存性セリンプロテアーゼである。血管が損傷すると、TFは、血液および循環FVIIに暴露する。FVIIは、TFと結合するとトロンビン、第Xa因子、第IXa因子、第XIIa因子、およびFVIIa-TF複合体(その基質はFXおよびFIXである)により活性化されてFVIIaとなる。さらに、アネキシンVは、カルシウム依存性にホスファチジルセリンと結合し、膜結合二次元結晶格子を形成する能力を有するアネキシングループの細胞タンパク質である。アネキシンVは、血液凝固、アポトーシス、食作用、および細胞膜由来微小粒子の形成に役割を果たしうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の基本的課題は、二価カチオン結合タンパク質を高収量および高純度で精製する改良された方法を提供することである。上記技術的問題の解決は特許請求の範囲で特徴付けられる態様により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要約)
本発明は、以下の工程を含む二価カチオン結合タンパク質の精製方法に関する:
(a)第1陰イオン交換樹脂物質に、二価カチオンの非存在下でローディング緩衝液中の二価カチオン結合タンパク質をロードし、所望により二価カチオンの非存在下、ロードした陰イオン交換樹脂物質を洗浄用緩衝液で洗浄し、
(b)二価カチオン結合タンパク質を対アニオンを含む溶離剤で溶出して二価カチオン結合タンパク質含有溶出液を得、
(c)工程(b)で得た溶出液に少なくとも1の二価カチオンを添加してpHを増加させ、
(d)第2陰イオン交換樹脂物質に工程(c)で得た添加溶出液をロードし、
(e)二価カチオン結合タンパク質を含むフロースルーを回収する。
2.工程(c)において該添加溶出液のpHを少なくとも0.5pH単位増加させる項目1記載の方法。
3.工程(b)の溶離剤の溶離剤が、工程(a)のローディング緩衝液、および洗浄工程を行う場合は工程(a)の洗浄用緩衝液の伝導度より高い伝導度を有し、工程(c)の該添加溶出液が工程(b)の溶離剤の伝導度より低い伝導度を有する項目1または2記載の方法。
4.工程(c)の少なくとも1の二価カチオンが、Ca2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、およびCu2+、またはその組み合わせからなる群から選ばれる項目1〜3のいずれかに記載の方法。
5.第1および第2陰イオン交換樹脂物質が、それぞれ独立してジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)、トリメチルアミノエチル(TMAE)、ポリエチレンイミン(PEI)、第4級アミノアルキル、第4級アミノエタン(QAE)、および第4級アンモニウム(Q)からなる群から選ばれる正荷電基を有する項目1〜4のいずれかに記載の方法。
6.第1および第2陰イオン交換樹脂物質が、リガンドとして、それぞれ独立してアミノヘキシル、ベンズアミジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選ばれる1級アミンを保持する項目1〜5のいずれかに記載の方法。
7.二価カチオン結合タンパク質が、カルシウム結合タンパク質である項目1〜6のいずれかに記載の方法。
8.二価カチオン結合タンパク質がビタミンK依存性タンパク質である項目1〜7のいずれかに記載の方法。
9.二価カチオン結合タンパク質が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS、アネキシン、およびカルモジュリンからなる群から選ばれ、特に好ましくは第IX因子、第VII因子、およびアネキシンVからなる群から選ばれる項目1〜8のいずれかに記載の方法。
該二価カチオン結合タンパク質は、天然供給源、例えば血漿由来であるか、組換えにより生成することができる。
10.ローディング工程(a)中のローディング緩衝液のpH、および/または所望の洗浄工程(a)に用いる洗浄用緩衝液のpHがpH7.4、好ましくはpH5.5〜pH7.0、より好ましくはpH6.0〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.5〜pH7.0である項目1〜9のいずれかに記載の方法。
11.項目1〜10のいずれかに記載の方法により得ることができる精製された二価カチオン結合タンパク質。
12.項目1〜10のいずれかに記載の方法を実施する手段を含むキット。
【0009】
したがって、本発明は、上記方法により得られる精製された二価カチオン結合タンパク質、および上記方法を実施する手段を含むキットにも関する。
(発明の詳細な説明)
【0010】
ある局面において、本発明は、以下の工程を含む二価カチオン結合タンパク質の精製方法に関する:
(a)第1陰イオン交換樹脂物質に二価カチオンの非存在下またはその低濃度下で二価カチオン結合タンパク質をロードし、所望により二価カチオンの非存在下、ロードした陰イオン交換樹脂物質を洗浄用緩衝液で洗浄し、
(b)二価カチオン結合タンパク質を対アニオン含有溶離剤で溶出して二価カチオン結合タンパク質含有溶出液を得、
(c)工程(b)で得た溶出液に少なくとも1の二価カチオンを添加してpHを増加させ、
(d)第2陰イオン交換樹脂物質に工程(c)で得た添加溶出液をロードし、
(e)二価カチオン結合タンパク質を含むフロースルーを回収する。
【0011】
本明細書で用いている用語「二価カチオンの非存在下」は、緩衝液中に遊離二価カチオンが存在しないことを表すが、タンパク質と結合するか、キレート剤(例えばEDTA)とまたはそれにより錯体を形成する二価カチオンは存在しうる。この文脈において「その低濃度下で」は、μMの範囲、特に最大限1000μM、好ましくは最大限800μM、より好ましくは最大限500μMの濃度の二価カチオン濃度を表す。この適用において、用語「二価カチオンの非存在下」は、上記「その低濃度下で」の定義も含むことを意味する。
【0012】
二価カチオンの非存在下の、ローディング緩衝液中の二価カチオン結合タンパク質の第1陰イオン交換樹脂物質へのローディングは当該分野で知られたあらゆる方法により実施することができる。特に、該二価カチオン結合タンパク質を該陰イオン交換樹脂物質にローディングするのに適した条件は当業者によく知られている。生成物の結合を可能にするローディング緩衝液の伝導度の特定の条件は、用いる陰イオン交換樹脂物質およびタンパク質の具体的特性(例えばリガンド密度、リガンド提示など)に依存する。二価カチオンは、通常強酸性の(すなわち負に荷電した)領域のタンパク質と結合する。負の荷電は、二価カチオンが結合すると隠される。しかしながら、陰イオン交換物質に二価カチオン非存在下で二価カチオン結合タンパク質をローディングすることにより、例えば、キレート剤(例えばEDTA)により結合した二価カチオンを除去することにより、該タンパク質は、陰イオン交換リガンドとの強い結合を可能にする表面に強く負に荷電したパッチを有する。タンパク質を陰イオン交換樹脂物質上にローディングするための条件として、さらに常に該対イオン(例えばCl-)の濃度とpH間のバランスが必要である。対イオンの化学も溶出挙動に影響を与え、例えばCl-は1個の負の荷電を保持し、中性pHのホスフェートは、2個の負の荷電を保持する。後者は伝導度が低くてもCl-と比べて高い溶出力を有しうる。
【0013】
本明細書で用いる該溶液および緩衝液の塩濃度は、洗浄用緩衝液については典型的には20〜200mM(NaCl)、好ましくは100〜150mM(NaCl)である。溶出用緩衝液の好ましい塩濃度は300〜400mM(NaCl)であるが、カラム平衡化用緩衝液は好ましくはロードと同じ伝導度および/またはNaCl濃度であろう。
【0014】
さらに、二価カチオン結合タンパク質が陰イオン交換物質と結合する条件をもたらす、本発明の方法の工程(a)における、二価カチオン結合タンパク質の陰イオン交換物質へのローディングのための適切なローディング緩衝液は当該分野でよく知られている。例えば、該ローディング緩衝液のpHは、pH7.4、好ましくはpH7.0、より好ましくはpH6.5、最も好ましくはpH6.0でありうる。好ましくは、ローディング緩衝液のpHは、5.5より低くなく、好ましくはpH5.5〜H7.0、より好ましくはpH6.0〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.5〜pH7.0である。
【0015】
ロードは、さらなるローディング緩衝液を含むか含まない、実質的に炭酸塩で緩衝されている、二価カチオン結合タンパク質含有細胞培養上清でありうる。
【0016】
第2陰イオン交換工程用のローディング緩衝液は、上記の第1陰イオン交換工程用のものと同じでよい。本発明が提供する2つの陰イオン交換工程間の違いは、基本的に以下の通りである:
a)第1陰イオン交換カラムに、出発物質(すなわち、好ましい態様では細胞培養物質)をロードする。これは夾雑物の多い出発物質である。第2陰イオン交換カラムに、すでにある程度精製された物質(溶出(および添加)工程後に得られた物質である)をロードする。
b)第1陰イオン交換工程は、二価カチオンの非存在下で実施するが、第2陰イオン交換工程を実施する場合は、ロード物質に二価カチオンを添加している。
c)第2陰イオン交換における該ロードの伝導度は、好ましい態様において、第1陰イオン交換カラムの溶出工程の伝導度より低くなるように選択する。
d)次に、第1陰イオン交換工程を生成物結合モードで実施し、第2陰イオン交換工程を生成物非結合モードで実施する。
【0017】
当業者が容易に決定することができる、二価カチオン結合タンパク質の陰イオン交換樹脂物質への結合に適したあらゆる塩濃度が含まれうる。好ましい態様において、ローディング緩衝液は、キレート剤、例えばEDTA、好ましくは2mM EDTAを含みうる。本発明の方法において陰イオン交換樹脂物質に適用することができる二価カチオン結合タンパク質含有ローディング緩衝液は、例えば20mM MESおよび2mM EDTAを含みうる。
【0018】
本発明の方法は、所望により、二価カチオンの非存在下、ロードした陰イオン交換樹脂物質を洗浄用緩衝液で洗浄する工程を含む。この洗浄工程は当該分野で知られたあらゆる方法で行うことができる。二価カチオン結合タンパク質を実質的に溶出することなく陰イオン交換物質の不純物を洗浄除去するための適切な洗浄用緩衝液は当該分野でよく知られている。例えば、洗浄用緩衝液は、pHpH7.4、好ましくはpH7.0、より好ましくはpH6.5、最も好ましくはpH6.0である。好ましくは、該pHは、5.5以上であり、好ましくはpH5.5〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.0〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.5〜pH7.0である。
【0019】
当業者が容易に決定することができる有意な量の二価カチオン結合タンパク質を溶出することなく陰イオン交換樹脂物質を洗浄するのに適したあらゆる塩濃度を含むことができる。例えば、洗浄用緩衝液は、適切な緩衝剤、例えばトリスまたはMES、好ましくは20mM MESなどを含みうる。さらに、キレート剤、例えばEDTA、好ましくは2mM EDTAなどを含みうる。さらに、洗浄用緩衝液の伝導度を調節するための適切な塩、例えばNaClなどを含むことができ、これは以下の濃度で存在しうる:200mM、好ましくは100mM〜200mM、より好ましくは150mM〜200mM、より好ましくは170mM〜190mM、および最も好ましくは175mM〜185mM。本発明の別の好ましい態様において、洗浄用緩衝液は100〜200mM NaClを含む。塩濃度の絶対値は、精製する二価カチオン結合タンパク質に依存し、最適な純度を得るために二価カチオン結合タンパク質が低い塩濃度を必要とするかまたは高い塩濃度を必要とするかを決定することは当業者の知識の範囲内である。
【0020】
二価カチオン結合タンパク質の対イオン含有溶離剤による溶出は、当該分野で知られたあらゆる方法で実施することができる。具体的には、適切な対イオンを含む適切な溶離剤は当該分野でよく知られている。好ましい対イオンには、Cl-、ブロミド、ボーレイト、スルホン酸、およびアセテートが含まれ、Cl-が特に好ましい。好ましい態様において、溶離剤のpHは、工程(a)のローディング緩衝液のpHと同じである。例えば、溶離剤は、pHpH7.4、好ましくはpH7.0、より好ましくはpH6.5、および最も好ましくはpH6.0、好ましくはpH5.5以上、より好ましくはpH5.5〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.0〜pH7.0、さらにより好ましくはpH6.5〜pH7.0でありうる。
【0021】
当業者が容易に測定することができる有意な量の不純物を溶出せずに、第1陰イオン交換樹脂物質から二価カチオン結合タンパク質を溶出するのに適したあらゆる塩濃度を含むことができる。例えば、典型的には5〜50mMの範囲の濃度の適切な緩衝剤、例えば、MES、好ましくは20mM MES、トリス、HEPES、トリス/酢酸塩、ヒスチジン、Gly-Gly、MOPS、またはトリシンなどを含むことができる。下記は、特に好ましい緩衝剤のリストである。
トリス:(pH=8,06±1,0の緩衝剤)
MES:(pH=6,2±1,0の緩衝剤)
HEPES:(pH7,7±1,0の緩衝剤)
MOPS:(pH=7,3±1,0の緩衝剤)
トリシン:(pH=8,3±1,0の緩衝剤)
ヒスチジン:(pH=7,6±1,0の緩衝剤)
Gly-Gly:(pH=7,4±1,0の緩衝剤)
Bis-トリス:(pH=6,35±1,0の緩衝剤)
ACES:(pH=7,0±1,0の緩衝剤)(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)
ADA:(pH=7,0±1,0の緩衝剤)(N-(2-アセトアミド)-イミド2酢酸)
洗浄用緩衝液の伝導度を調節するのに適した塩、例えば濃度100〜200mMで存在しうるNaClなども含みうる。塩濃度の絶対値は、精製する二価カチオン結合タンパク質に依存し、最適な純度を得るために二価カチオン結合タンパク質がより低いまたは高い塩濃度を必要とするかを決定することは当業者の知識内である。本発明の方法に適用することができる溶離剤は、例えば20mM MESおよび350mM NaClを含み、pH6.0でありうる。
【0022】
本発明の方法によれば、工程(b)において得られる溶出液に、工程(c)の少なくとも1の二価カチオンを添加する。好ましい態様において、該溶出液に、Ca2+、Be2+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、Sr2+、Zn2+、Co2+、Ni2+、およびCu2+、またはその組み合わせからなる群から選ばれる二価カチオンを添加する。該カチオンは、好ましくは濃度1mM〜20mM、より好ましくは濃度1mM〜10mM、最も好ましくは濃度2mMの該添加溶出液中に存在する。該カチオンは陰イオンを有する適切な塩の形の溶出液中に存在する。適切な陰イオンは、当業者に知られており、例えば硫酸、リン酸、炭酸、およびホウ酸ベースの陰イオン、またはその組み合わせを含む。二価カチオンを含む塩は、濃度1mM〜20mM、好ましくは2mMで溶出液中に存在しうる。好ましい態様において、該塩はCaCl2である。特に好ましい態様において、該溶出液は2mM CaCl2を含む。
【0023】
本発明の方法によれば、工程(b)で得られる該添加溶出液のpHは工程(c)で増加する。好ましい態様において、該添加溶出液のpHは、少なくとも0.5pH単位、好ましくは少なくとも1.0pH単位、より好ましくは少なくとも1.5pH単位、最も好ましくは少なくとも2.0pH単位増加する。好ましくは、該添加溶出液のpHは、6.5より高く、好ましくは7.0より高く、より好ましくはpH7.4、より好ましくは8.0であるが、pH9.0以下である。ただし、工程(c)の該添加溶出液のpHは、工程(b)の溶離剤のpHより高い。
【0024】
本発明の方法の好ましい態様において、工程(b)の溶離剤は、工程(a)のローディング緩衝液の伝導度より高い伝導度を有し、洗浄工程を行う場合は、工程(a)の洗浄用緩衝液、および工程(c)の該添加溶出液は、工程(b)の溶離剤の伝導度より低い伝導度を有する。特に、工程(a)のローディング緩衝液、および洗浄工程を行う場合は、工程(a)の洗浄用緩衝液は、8〜18mS/cmの伝導度(室温)を有しうる。さらに、工程(b)の溶出用緩衝液は25〜35mS/cmの伝導度(室温)を有しうる。最終的に、工程(c)の該添加溶出液は、c:<18mS/cmの伝導度(室温)を有しうる。
【0025】
本明細書で用いている用語「陰イオン交換樹脂物質」は、特定の制限を明確に示さない。本発明によれば、第1および第2樹脂には、当該分野で知られた陰イオン交換クロマトグラフィに適したあらゆる物質、例えばアガロースベースのクロマトグラフィ物質、例えばセファロース、例えばFast Flow(ファストフロー)またはカプト、ポリマー合成物質、例えばポリメタクリレート(例えばToyopearls)、ポリスチレン/ジビニルベンゼン、例えば、Poros、Source、またはセルロースが含まれる。本発明の具体例において、第1および第2陰イオン交換樹脂物質は、多糖鎖が架橋して三次元ネットワークを形成する修飾アガロースベースのセファロースである。好ましい態様において、第1および第2陰イオン交換樹脂物質には、限定されるものではないが、リガンドとして1級アミンを有する樹脂、例えば、アミノヘキシルセファロース、ベンズアミジンセファロース、リジンセファロース、またはアルギニンセファロースが含まれる。別の好ましい態様において、第1および第2陰イオン交換樹脂物質には、限定されるものではないが、中性pHで正荷電部分を有する樹脂、例えば、アルキルアミノエタン、例えば、ジエチルアミノエタン(DEAE)、ジメチルアミノエタン(DMAE)、またはトリメチルアミノエチル(TMAE)、ポリエチレンイミン(PEl)、第4級アミノアルキル、第4級アミノエタン(QAE)、第4級アンモニウム(Q)などが含まれる。特に好ましい態様において、該陰イオン交換樹脂物質は、Q-Sepharose Fast Flow(Q-セファロースファストフロー)(Q-Sepharose FF)である。本発明の方法では、第1および第2陰イオン交換樹脂物質は同じでも異なってもよい。
【0026】
本発明の二価カチオン結合タンパク質は、あらゆる二価カチオン結合タンパク質、例えば、カルシウム結合タンパク質および/またはビタミンK依存性タンパク質などでありうる。好ましい態様において、該二価カチオン結合タンパク質は、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC、プロテインS、アネキシン、およびカルモジュリンからなる群から選ばれ、特に好ましくは第IX因子(FIX)、第VII因子(FVII)、およびアネキシンVからなる群から選ばれる。
【0027】
該二価カチオン結合タンパク質は、当業者に知られた方法を用いて得ることができ、例えば、CHO細胞を用いた血漿由来タンパク質、トランスジェニック生成タンパク質、または組換え生成タンパク質などが含まれる。細胞培養からタンパク質を抽出するための分泌および非分泌的方法は当業者によく知られている。これには、以下のための当該分野で知られたあらゆる方法が含まれよう:(i)遺伝子操作、例えばRNAの逆転写および/またはDNAの増幅による組換えDNAの製造、(ii)トランスフェクション、例えばエレクトロポーレーションまたはマイクロインジェクションによる原核細胞または真核細胞への組換えDNAの導入、(iii)例えば連続方法やバッチ法による該形質転換細胞の培養、(iv)例えば構成的または誘導的二価カチオン結合タンパク質発現、および(v)例えば、粗二価カチオン結合タンパク質を得るための、例えば細胞培養からのまたは形質転換細胞の収集による該タンパク質の単離。さらに、二価カチオン結合タンパク質をコードする組換えDNA(例えばプラスミド)は、組換えDNAで成功裏にトランスフェクションされた細胞を選択するための選択可能マーカーをコードするDNA配列も含みうる。
【0028】
該タンパク質は、不純物を減らすために、例えば、ゲル電気泳動、クロマトグラフィ、ゲルろ過、遠心分離、ろ過、沈殿、結晶化、または当該分野で知られた他のあらゆる方法により予備精製してよい。本明細書で用いている用語「不純物」は、二価カチオン結合タンパク質の生成に起因するあらゆる不純物を含み、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)不純物、核酸不純物、ポリペプチド不純物、緩衝剤および塩不純物、細胞培養液由来の不純物、生成物関連不純物(例えば二量体または断片)、およびそれらの混合物を含みうる。
【0029】
好ましい態様において、本発明の方法により精製された二価カチオン結合タンパク質は、総宿主細胞タンパク質不純物に対して、タンパク質の少なくとも95%w/w、より好ましくは少なくとも98%w/w、より好ましくは少なくとも99%w/w、および最も好ましくは少なくとも99.5%w/w 二価カチオン結合タンパク質の純度を有する。したがって、好ましい態様において、精製二価カチオン結合タンパク質中の不純物の含有量は、5%w/w未満、より好ましくは2%w/w未満、より好ましくは1%w/w未満、および最も好ましくは0.5%w/w未満である。不純物のパーセンテージ値は、生成物、すなわち精製二価カチオン結合タンパク質のw/wを表し、例えばHPLCまたはELISAにより測定することができる。
【0030】
さらに、本発明の別の局面において、精製二価カチオン結合タンパク質は、本発明の方法、および本発明の方法を実施するための方法を実施するための手段を含むキットにより得ることができる。特に、本発明のキットは、本発明に従って陰イオン交換樹脂物質を用いる二価カチオン結合タンパク質を精製するのに適したローディング緩衝液および/または溶離剤および/または洗浄用緩衝液および/または二価カチオンの溶液を含みうる。好ましい態様において、該ローディング緩衝液、該洗浄用緩衝液、および/または該溶離剤は上記のものである。さらに、本発明のキットは、適切な陰イオン交換樹脂物質を含みうる。
【0031】
本発明は、さらに二価カチオン結合タンパク質を精製するための上記の本発明の方法および/または本発明のキットの使用に関する。
【0032】
本発明は、生成物を高収率で得ると同時にその製造法に関連する不純物を顕著に減らすことができる、陰イオン交換樹脂物質を用いる二価カチオン結合タンパク質の効率的精製方法を提供する。
【0033】
特に、本発明の方法は以下の原理に基づく。一般的には、タンパク質の陰イオン交換樹脂物質の結合は、より低伝導度とより高pH値で増加する。反対に、タンパク質の陰イオン交換樹脂物質への結合は、より高伝導度とより低pH値で減少する。本発明の方法において、該二価カチオン結合タンパク質は、二価カチオン結合タンパク質が第1陰イオン交換物質に結合することができ、該二価カチオン結合タンパク質の構造的完全性や活性に有害でない低pHでロードおよび/または洗浄するのが好ましい。そのような条件では多くのタンパク質不純物、特に該二価カチオン結合タンパク質より等電点(pI)が高いものは、第1陰イオン交換樹脂物質と結合せず、第1陰イオン交換樹脂物質への不純物の結合は顕著に減少する。これらの条件下で第1陰イオン交換樹脂物質と結合するタンパク質不純物、すなわち、低pIを有するタンパク質不純物は、溶出中に二価カチオン結合タンパク質と一緒に溶出されるかもしれない。しかしながら、該添加溶出液のpHの増加は、すべてのタンパク質の、第2陰イオン交換樹脂物質とのより強い結合をもたらす。本発明の方法では、該添加溶出液中に存在する二価カチオンにより、二価カチオン結合タンパク質のみが第2陰イオン交換物質と結合しない。この文脈で、上記のように、一般的にタンパク質は、より高pH値で陰イオン交換樹脂物質とより強く結合するので、陰イオン交換樹脂物質のローディング前のpHの増加は、ネガティブクロマトグラフィ、すなわち、精製するタンパク質がフロースルーに予期されるクロマトグラフィでは非常に特殊であることに注目すべきである。第1陰イオン交換樹脂物質からの溶出液に少なくとも1の二価カチオンを添加することにより、本発明の方法は、驚くべきことに好都合に、陰イオン交換クロマトグラフィによる二価カチオン結合タンパク質の高純度を達成する。
【0034】
特に、本発明は、第2陰イオン交換樹脂物質のローディング前にpHを増加させることにより精製されるタンパク質の表面荷電を好都合に修飾する。第2陰イオン交換樹脂物質をローディングするためのpHの増加は、不純物を第2陰イオン交換樹脂物質と強制的に結合させるが、二価カチオンの添加により精製するタンパク質の結合を阻害する。本発明では、上記条件は、高純度および高収率の二価カチオン結合タンパク質をもたらす。本発明の方法は、例えば、低下したpHで陰イオン交換樹脂物質にタンパク質溶液をローディングし、生成物を溶出し、該溶出液に少なくとも1の二価カチオンを添加し、該添加溶出液を第2陰イオン交換樹脂物質にローディングする前にpHを増加させ、フロースルーを回収することにより生成物関連ポリペプチド不純物の有意な減少をもたらすことができる。
【0035】
本発明の範囲と精神から逸脱しない、本発明の記載した方法および生成物の種々の修飾および変更は、当業者に明らかであろう。本発明の特に好ましい態様について記載するが、本発明はそのような態様に不当に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
下記実施例は当業者に手引きとして提供される。本実施例は、単に本発明の態様を理解し、実施するのに有用な具体的方法論を提供するものであり、本発明を限定するものではない。
実施例1:組換え第IX因子(rFIX)の精製
【0037】
rFIX、ビタミンK依存性タンパク質を、ケモスタット法により遺伝子修飾CHO細胞株を既知組成培地で発酵することにより製造した。細胞培養上清に含まれる生成物を深層ろ過および0.2μMフィルターによるろ過により浄化した。次に、浄化した回収物に2mM EDTAを添加し、次いで、MES含有緩衝液でpHを6.0に調整した。次に、この浄化および調整済み回収物中の得られたrFIXをQ-Sepharose Fast Flowを用いる二段階クロマトグラフィ精製法により精製した。
【0038】
Q-Sepharose Fast Flow(イオン交換法、pH=6.0)を用いる第1精製
該樹脂を最初に平衡化用緩衝液(20mM MES、2mM EDTA、pH=6.0)で平衡化し、次いで調整済みrFIX含有ロードを樹脂に適用した。洗浄用緩衝液(20mM MES、2mM EDTA、180mM NaCl、pH=6.0)で洗浄後、生成物を溶出用緩衝液(20mM MES、350mM NaCl、pH=6.0)で溶出した。生成物の収量と不純物の除去率のまとめをイオン交換捕捉工程の典型的成績について表1に示す。
【0039】
表1:Q-Sepharose Fast Flow(イオン交換法)を用いる第1陰イオン交換精製:収率と純度

【0040】
Q-Sepharose Fast Flow(カルシウムろ過法、pH=7.6)を用いる第2精製
Q-Sepharose Fast Flowを用いる第1精製工程から得られる溶出液プールに約8mM Ca2+を添加し、トリス緩衝液で希釈して伝導度約12 mS/cm(室温)とし、pHを7.6に調整した。樹脂を最初に平衡化用緩衝液(20mMトリス、10mM CaCl2、90mM NaCl、pH=7.8)で平衡化し、調整済み生成物含有溶液をカラムにポンプで流した。クロマトグラフィ条件は、大部分のCHO宿主細胞タンパク質不純物および不活性生成物種は陰イオン交換樹脂と結合するが、生成物は結合しないように設定した。高活性および高精製生成物は、Q-Sepharose Fast Flowを用いる第2陰イオン交換工程のカラムフロースルー分画中に含まれる。結合した不純物は、1M NaClで樹脂から除去される。生成物の収量と不純物の除去率のまとめを表2に示す。
【0041】
表2:Q-Sepharose Fast Flow(Caろ過法)を用いる第2陰イオン交換精製:収率および純度
【0042】
結果は、非結合分画中に含まれる生成物の純度が>99%、比活性が175単位/mgであることを示す。これらのデータは、pH=7.6でCaろ過モード(非生成物結合)で操作した第2陰イオン交換精製工程は、方法関連不純物(CHO HCP)および生成物関連不純物(不活性rFIX種)の除去について有意な除去能を示し、CHO減少係数は40であり、FIX比活性の増加はほぼ4倍であった。
【0043】
両クロマトグラフィ工程、pH=6.0の第1陰イオン交換精製工程(イオン交換法)および第2陰イオン交換精製工程(カルシウムろ過法、非生成物結合、pH=7.6)の組み合わせは、イオン交換クロマトグラフィでは通常得ることができない376のCHO HCP除去率をもたらす。第2陰イオン交換精製工程(非結合法)後のrFIXの純度は>99%であった。
実施例2:Poros Qを用いる2段階イオン交換法を用いるFVIIの精製
【0044】
rFVII、ビタミンK依存性タンパク質を、ケモスタット法で、遺伝子修飾CHO細胞株を既成組成培地中で発酵させることにより生成した。細胞培養上清含有生成物を深層ろ過および0.2μMフィルターろ過により浄化した。次に、浄化した回収物に10mM EDTAを添加し、次いでMES含有緩衝液でpHを6.0に調整した。次に、この浄化および調整済み回収物中に含まれるFVIIをPoros Qを用いる2段階クロマトグラフィ精製法で精製した。
1) Poros Qを用いる第1精製(イオン交換法、pH=6,0)
【0045】
最初に該樹脂を8カラム容量の1M NaClで活性化し、樹脂リガンドを塩素イオンで飽和させた。次に、該樹脂を8カラム容量の平衡化用緩衝液(20mM MES、2mM EDTA、pH=6.0)で平衡化し、次いで線形流速60cm/hで調整済みFVII含有回収物をローディングした。ローディング終了後、カラムを5カラム容量の洗浄用緩衝液1(20mM MES、2mM EDTA、pH=6.0)および10カラム容量の洗浄用緩衝液(20mM MES、2mM EDTA、180mM NaCl、pH=6.0)で洗浄した。結合したFVIIを、イオン交換法(緩衝液:20mM MES、2mM EDTA、350mM NaCl、pH=6.0)にて線形流速30cm/hで8CVの溶出緩衝液で溶出した。生成物収量と不純物の除去率のまとめを表3に示す。約96%のCHO宿主細胞タンパク質がこの工程で除去され、減少係数は23であった。
2)Poros Qによる第2精製(カルシウムろ過法、pH=>7.6、室温(RT))。
【0046】
Poros Qの第1精製工程で得られた溶出液プールに約8mM Ca2+を添加し、トリス緩衝液で希釈して伝導度約12mS/cm(RT)とし、次いでpHを>7.6に調整した。(希釈用緩衝液、1:20mMトリス、10mM CaCl2、0,1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT、希釈用緩衝液2(平衡化用緩衝液):20mMトリス、10mM CaCl2、90mM NaCl、0.1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT)。
【0047】
該樹脂を、最初に10CVの平衡化用緩衝液(20mMトリス、10mM CaCl2、90mM NaCl、0,1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT)で平衡化し、次いで、カルシウム添加FVII溶液を該カラムにポンプで流した。クロマトグラフィ条件を、大部分のCHO宿主細胞タンパク質不純物および不活性生成物種は陰イオン交換Poros Q樹脂と結合するが、生成物は結合しないように設定した。精製された活性生成物は、Poros Qを用いる第2陰イオン交換工程のカラムフロースルー分画中に含まれる。結合した不純物を1M NaClで樹脂から除去した。生成物の収量と不純物の除去率のまとめを表4に示す。ロード分画の分析データは、イオン交換ラン1の溶出液プールから得た(表3参照)。結果は、非結合分画に含まれる生成物の純度が>95%であり比活性が3228単位FVII/mg FVII Agであることを示す。これらのデータは、>7.6のCaろ過法(非生成物結合)で操作した第2陰イオン交換精製工程が、CHO減少係数>27と方法関連不純物(CHO宿主細胞タンパク質)の除去に顕著な成績を上げたことを示す。約99.9%のCHO宿主細胞タンパク質を該2段階精製法により除去し、総CHO HCP減少係数は>725であった。
要約
【0048】
両クロマトグラフィ工程、すなわち、pH=6.0の第1陰イオン交換精製工程(イオン交換法)およびPoros Qを用いる第2陰イオン交換精製工程(カルシウムろ過法、非生成物結合、pH=>7.6)の組み合わせは、通常アフィニティクロマトグラフィでのみ得られ、イオン交換クロマトグラフィでは得ることができない>725のCHO HCP除去率をもたらした。第2陰イオン交換精製工程(非結合法)後のrFVIIの純度は>95%であった。データは、該2段階精製法はFVII(ビタミンK依存性タンパク質)にも適用および適合し、代替Q-樹脂を用いて実施することができることを示す。
【0049】
表3:Poros Qを用いる第1陰イオン交換精製(イオン交換法):収率および不純物バランス
【0050】
ロード物質は、2mM EDTAを添加し、pHを6.0に調整したFVII産生CHO細胞株の浄化細胞培養上清であった。精製実験は、pH=6.0のMES緩衝液を用いて実施し、溶出液を塩素対イオンにより誘導した。FV11:C: FVII色素生成アッセイ。
【0051】
表4:Poros Qを用いる第2陰イオン交換精製(Caろ過法):収率および不純物バランス
【0052】
ロード物質は、8mMカルシウムを添加し、pH=>7.6に調整した第1陰イオン交換精製工程の溶出液プールであった。精製実験はpH>7.6のトリス緩衝液を用いて行い、非結合分画中に生成物を得た。
FVII:C: FVII色素生成アッセイ。
実施例3:Q-Sepharose Fast Flowを用いる2段階イオン交換法によるFVIIの精製
【0053】
rFVII、ビタミンK依存性タンパク質を、ケモスタット法で、遺伝子修飾CHO細胞株を既成組成培地中で発酵させることにより生成した。細胞培養上清含有生成物を深層ろ過および0.2μMフィルターろ過により浄化した。次に、浄化した回収物に10mM EDTAを添加し、次いでMES含有緩衝液でpHを6.0に調整した。次に、この浄化および調整済み回収物中に含まれるFVIIをQ-Sepharose Fast Flowを用いる2段階クロマトグラフィ精製法で精製した。
1) Q-Sepharose Fast Flowを用いる第1精製(イオン交換法、pH=6,0)
【0054】
最初に該樹脂を8カラム容量の1M NaClで活性化し、樹脂リガンドを塩素イオンで飽和させた。次に、該樹脂を8カラム容量の平衡化用緩衝液(20mM MES、2mM EDTA、pH=6.0)で平衡化し、次いで線形流速60cm/hで調整済みFVII含有回収物をローディングした。ローディング終了後、カラムを5カラム容量の洗浄用緩衝液1(20mM MES、2mM EDTA、pH=6.0)および10カラム容量の洗浄用緩衝液2(20mM MES、2mM EDTA、180mM NaCl、pH=6.0)で洗浄した。結合したFVIIを、イオン交換法(緩衝液:20mM MES、2mM EDTA、350mM NaCl、pH=6.0)にて線形流速30cm/hで8CVの溶出緩衝液で溶出した。生成物の収量と不純物の除去率のまとめを表5に示す(FVII抗原および活性の収率、63〜67%の範囲)。約87%の宿主細胞タンパク質が除去され、減少係数は7.8であった。
2)Poros Qによる第2精製(カルシウムろ過法、pH=>7.6、室温(RT))。
【0055】
Q-Sepharose Fast Flowの第1精製工程で得られた溶出液プールに約8mM Ca2+を添加し、トリス緩衝液で希釈して伝導度約12mS/cm(RT)とし、次いでpHを>7.6に調整した。(希釈用緩衝液、1:20mMトリス、10mM CaCl2、0,1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT、希釈用緩衝液2(平衡化用緩衝液):20mMトリス、10mM CaCl2、90mM NaCl、0.1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT)。
【0056】
該樹脂を、最初に10CVの平衡化用緩衝液(20mMトリス、10mM CaCl2、90mM NaCl、0,1%ポリソルベート80、pH=7.8 RT)で平衡化し、次いで、カルシウム添加FVII溶液を該カラムにポンプで線形流速60cm/hで流した。クロマトグラフィ条件を、大部分のCHO宿主細胞タンパク質不純物は陰イオン交換Q-Sepharose Fast Flow樹脂と結合するが、生成物は結合しないように設定した。精製された活性生成物は、Q-Sepharose Fast Flowを用いる第2陰イオン交換工程のカラムフロースルー分画中に含まれる。結合した不純物を1M NaClで樹脂から除去した。生成物の収量と不純物の除去率のまとめを表6に示す。ロード分画の分析データは、イオン交換ラン1の溶出液プールから得た(表5参照)。
【0057】
結果は、非結合分画に含まれる生成物の純度が99%であり比活性が2040単位FVII/mg FVII Agであることを示す。これらのデータは、pH=>7.6のCaろ過法(非生成物結合)で操作した第2陰イオン交換精製工程が、CHO減少係数50と方法関連不純物(CHO宿主細胞タンパク質)の除去に顕著な成績を上げたことを示す。約99.7%のCHO宿主細胞タンパク質を該2段階精製法により除去し、総CHO HCP減少係数は395であった。
要約実施例3
【0058】
両クロマトグラフィ工程、すなわち、pH=6.0の第1陰イオン交換精製工程(イオン交換法)およびQ-Sepharose Fast Flowを用いる第2陰イオン交換精製工程(カルシウムろ過法、非生成物結合、pH=>7.6)の組み合わせは、通常アフィニティクロマトグラフィでのみ得られ、イオン交換クロマトグラフィでは得ることができない395のCHO HCP除去率をもたらした。第2陰イオン交換精製工程(非結合法)後のrFVIIの純度は99%であった。データは、該2段階精製法はFVIIにも適用および適合しうることを示す。
【0059】
表5:Q-Sepharose Fast Flowを用いる第1陰イオン交換精製(イオン交換モード):収率および不純物バランス
【0060】
ロード物質は、2mM EDTAを添加し、pHを6.0に調整したFVII産生CHO細胞株の浄化細胞培養上清であった。精製実験は、pH=6.0のMES緩衝液を用いて実施し、溶出液を塩素対イオンにより誘導した。FV11:C: FVII色素生成アッセイ。
【0061】
表6:Q-Sepharose Fast Flowを用いる第2陰イオン交換精製(Caろ過法):収率および不純物バランス
【0062】
ロード物質は、8mMカルシウムを添加し、pH=>7.6に調整した第1陰イオン交換精製工程の溶出液プールであった。精製実験はpH>7.6のトリス緩衝液を用いて行い、非結合分画中に生成物を得た。
FVII:C: FVII色素生成アッセイ。