(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117250
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】コラーゲン被覆組織ベース膜及び方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/24 20060101AFI20170410BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L27/36 410
【請求項の数】18
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-559897(P2014-559897)
(86)(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公表番号】特表2015-508696(P2015-508696A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】US2013023758
(87)【国際公開番号】WO2013130209
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】13/408,319
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514219592
【氏名又は名称】コラーゲン マトリックス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】COLLAGEN MATRIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】リー、シュー−トゥン
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/082138(WO,A1)
【文献】
特表2001−519210(JP,A)
【文献】
特表2006−505333(JP,A)
【文献】
特開平05−260950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/24
A61L 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漿膜とコラーゲン被覆とを含む組織ベースの被覆膜であって、前記漿膜は、線維状表面と滑らかな表面とを有し、前記コラーゲン被覆は、5μm〜100μmの厚さで前記線維状表面上に存在し、前記コラーゲン被覆された線維状表面は滑らかであり、前記コラーゲン被覆された線維状表面と前記滑らかな表面との両方が細胞及び組織に対する接着を阻害する、ことを特徴とする組織ベース被覆膜。
【請求項2】
前記漿膜が心膜、腹膜、羊膜、小腸粘膜下組織、胸膜、又は鞘膜であることを特徴とする請求項1に記載の組織ベース被覆膜。
【請求項3】
コラーゲンが線維形成コラーゲンであることを特徴とする請求項1に記載の組織ベース被覆膜。
【請求項4】
前記線維形成コラーゲンがI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、又はこれらの組合せであることを特徴とする請求項3に記載の組織ベース被覆膜。
【請求項5】
前記線維形成コラーゲンがI型コラーゲンであることを特徴とする請求項4に記載の組織ベース被覆膜。
【請求項6】
前記漿膜が心膜又は腹膜であることを特徴とする請求項5に記載の組織ベース被覆膜。
【請求項7】
コラーゲン被覆生体適合性漿膜を製造するための方法であって、
接着性線維を除去すべく漿膜の線維側を擦り取り、
前記漿膜に対し、細胞、脂質、抽出可能な血液及び非コラーゲン性分子を除去する処理を行い、
前記処理を経た漿膜を凍結乾燥させ、
前記漿膜の線維側を圧縮し、
前記漿膜の線維側をコラーゲンで被覆し、
前記コラーゲンで被覆された漿膜を架橋剤に暴露することにより架橋を実施すること
を備え、
前記コラーゲン被覆は5μm〜100μmの厚さであり、コラーゲン被覆された前記漿膜の線維側は滑らかであり、前記コラーゲン被覆は細胞及び組織に対する接着を阻害することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記擦り取りの前に前記漿膜を脱水剤ですすぐことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脱水剤がアルコールであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記漿膜が心膜、腹膜、羊膜、小腸粘膜下組織、胸膜、又は鞘膜であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記コラーゲンが線維形成コラーゲンであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記線維形成コラーゲンがI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、又はこれらの組合せであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記線維形成コラーゲンがI型コラーゲンであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆することが、前記漿膜の線維側に前記コラーゲンを噴霧することにより行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記被覆することが、前記漿膜の線維側に前記コラーゲンを刷毛塗りすることにより行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記被覆することが、前記漿膜の線維側を前記コラーゲン中に浸漬することにより行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記漿膜が心膜又は腹膜であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記コラーゲンがI型コラーゲンであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコラーゲン被覆組織ベース膜に関する。
【背景技術】
【0002】
生体適合膜は、異なるいくつもの方法により製造することができる。特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されているように、コラーゲン豊富な組織(例えば、腱及び真皮)から抽出した精製コラーゲン線維を用いて膜を再形成する方法がある。別の方法では、特許文献4及び特許文献5に記載されているように、出発材料として組織由来の膜(例えば、心膜、腹膜、及び小腸粘膜下組織)を使用する。
【0003】
心膜及び腹膜などの組織由来膜は通常2つの側面を有する。内臓及び体液と接触する側面は臓側板(visceral layer)又は漿膜層(serous layer)と呼ばれ、腹壁又は心臓壁と接触する側面は壁側板(parietal layer)と呼ばれる。臓側板は、滑らかであり、隣接する体組織に接着しないが、壁側板はそれに隣接する組織と一体化する。組織ベース膜を体から取り出すためには、壁側板をそれに隣接する体壁組織から機械的に分離しなければならない。体壁の一体化軟組織から剥離された組織ベース膜の壁側板は線維状物質で覆われる。壁側板のこの線維で覆われた表面は接着性であり、細胞接着及び組織成長に都合がよい。動物から単離された膜の壁側板上の線維状物質は、走査型電子顕微鏡検査などの顕微鏡検査により容易に識別することができる。
【0004】
生体適合膜は医科手術及び歯科手術でよく用いられる。時には、周囲組織への接着が一切起こらないように、両側ともに接着性でない膜を用いる必要がある。例えば、非接着性膜は、剥離した硬膜の外科的修復、及び組織修復誘導法を必要とする歯科手術に使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6391333号明細書
【特許文献2】米国特許第6599524号明細書
【特許文献3】米国特許第7807192号明細書
【特許文献4】米国特許第5837278号明細書
【特許文献5】米国特許第5993844号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞が膜に接着することが望ましくない状況に用いることができる組織ベースの生体適合膜が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な目的は、組織修復及び再生用途のために両側が最小限に低接着性である組織ベースの生体適合性膜を手術分野に提供することである。
そこで、本発明の一態様は、コラーゲン層で被覆された線維状表面と、被覆されていない滑らかな表面とを有する漿膜を含み、被覆された線維状表面と被覆されていない滑らかな表面の両方が細胞及び組織に接着しにくい組織ベース被覆膜に関する。漿膜は、例えば、心膜、腹膜、羊膜、小腸粘膜下組織、胸膜、又は鞘膜であり得る。別の好ましい実施形態では、漿膜は心膜又は腹膜である。別の好ましい実施形態では、漿膜の線維状表面は線維形成コラーゲンで被覆される。線維形成コラーゲンはI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、又はこれら3つのタイプの2つ以上の組合せであり得る。
【0008】
本発明の別の態様は、コラーゲン被覆生体適合性漿膜を製造する方法に関する。この方法は、接着性線維を除去すべく漿膜の線維側を擦り取ることを含む。次に、擦り取り処理後の漿膜に対し、細胞、脂質、抽出可能な血液及び非コラーゲン性分子を除去する処理を行い、続いて、処理済み漿膜を凍結乾燥させる。処理済み漿膜の線維側を圧縮した後、コラーゲンで被覆する。最後に、コラーゲン被覆漿膜を架橋剤に暴露することにより、架橋を実施する。一実施形態では、膜の線維側に接着する線維の除去をいっそう効率的にするために、擦り取りの前に、脱水剤で漿膜をすすぐ。脱水剤は、アセトン又はアルコールなどの小有機分子であり得る。別の実施形態では、処理済み漿膜の線維側を線維形成コラーゲンで被覆するが、このコラーゲンは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、又はこれらの組合せであり得る。このコラーゲンは、I型コラーゲンであるのが好ましい。コラーゲンは、噴霧、刷毛塗り、又は浸漬により、処理済み漿膜の線維側に被覆することができる。好ましくは、コラーゲンを漿膜の線維側に噴霧する。
【0009】
上述の方法により製造したコラーゲン被覆生体適合性漿膜も提供される。
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を以下の説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、この説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、組織接着を最小限にするために両側が滑らかな膜をもたらす、組織ベース被覆膜を製造する方法に関する。
滑らかな組織ベース被覆膜を製造する方法は、以下の6つの基本ステップを含む。第1に、単離された組織ベース膜の線維側を、例えば壁側を擦り取ることにより、接着性線維を除去する。第2に、組織ベース膜を酵素及び化学薬品で処理することにより、細胞、脂質並びに抽出可能な血液及び非コラーゲン性分子を除去する。第3に、処理済み組織ベース膜を凍結乾燥させる。第4に、組織ベース膜の線維側を圧縮する。第5に、組織ベース膜の圧縮した線維側をコラーゲンで被覆する。最後に、コラーゲン被覆組織ベース膜を架橋剤に暴露する。
【0011】
例えば、供給業者により提供されるウシ又はブタの腹膜や心膜等の組織ベース膜は、隣接組織からの組織ベース膜の機械的分離により得られたものであるが、一般に、膜の壁側板に接着する線維を含む。
【0012】
体における膜の位置及び採取方法によって接着性線維の量は変動する。接着性線維の除去は、潜在的な表面の不規則性を最低限にするために重要である。本出願人は、低分子量有機化合物又はアルコールなどの脱水剤で膜をすすぐことにより、接着性線維の除去を容易にし得ることを開示するが、これは、部分的脱水が線維を硬くし、擦り取り又は他の機械的手段による線維の除去を容易にするためである。例えば、膜をアセトン、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールですすぐことができる。
【0013】
組織ベース膜に対する処理の次のステップは、酵素と化学薬品の併用によって、緩く結合したタンパク質、細胞屑、DNA材料、血液結合タンパク質、水溶性分子、及び脂質を可能な限り多く除去することである。連続的な化学処理と、酵素による処理とからなる一連の処理を実施して、組織から非コラーゲン性部分を、細胞からDNA分子を、また組織から細胞核を除去すると共に、組織由来の不要な潜在的に有害なウイルスを不活性化する。このステップを実施するのに用いられる化学薬品及び酵素は、0.1〜3%オクチルフェノールエトキシレート(TRITON X−100(商標)、2〜8時間の処理)、DNAse(2〜18時間の処理)、1M NaOH(5〜10時間の処理)、0.5M HCl(5〜10時間の処理)、1M NaCl(24〜48時間の処理)、イソプロピルアルコール(24〜72時間の処理)、及び水(5〜24時間の処理)を含む。
【0014】
上に挙げた酵素及び化学薬品処理は、非コラーゲン性タンパク質、脂質、及び細胞関連分子のほとんどを組織から除去するけれども、その組織の天然構造並びに関連する取扱い性及び機械的性質は維持される。
【0015】
次に、清浄な処理済み膜を、特許文献1(その内容は、参照として全部を本明細書に組み込む)に開示されているような当該技術分野では公知の条件下で凍結乾燥させる。典型的には、薄膜の場合、300Torr未満(約39996.7Pa)の減圧下で24〜48時間にわたり−20℃で膜をインキュベートした後、20℃で8〜24時間にわたり乾燥させることにより、凍結乾燥を行う。
【0016】
上記の処理後、凍結乾燥した膜の壁側、すなわち線維側はまだ粗い。線維側を平滑にするためにコラーゲンで被覆する。その膜には、被覆のための準備が2段階で行われる。第1に、湿度室内でのインキュベーションにより膜を軟化させる。後の処理のために膜を軟化させるのに、通常は90%超の相対湿度に膜を1〜4時間にわたり暴露すれば十分である。第2に、膜の線維側にローラをかけることにより、軟化した膜を圧縮する。ローラは、膜の線維側にまだ接着している全ての表面線維を完全に平坦かつ滑らかにするのに十分な重量を有する。例えば、ローラの重量は、2〜8kgであり得る。
【0017】
膜に対する被覆は、pH2.3〜2.5の酸性分散コラーゲン線維(例えば、乳酸中に分散した)、又はpH11〜12のアルカリ性分散コラーゲン線維(例えば、NaOH中に分散した)を表面に噴霧することにより行うことができる。任意の市販の噴霧器(例えば、バジャー・エアブラシ・モデル(Badger Airbrush Model)150)を用いて、分散コラーゲン線維を膜の線維側に噴霧することができる。噴霧は、0.1〜1.0mmのノズルサイズを用いて、10〜60psiで実施することができる。噴霧溶液のコラーゲン線維の濃度は、約0.05%〜約0.1%(w/v)の範囲であり、これによって、コラーゲンが霧状に噴霧され、微小な不規則性は存在する可能性はあるにしても、膜表面を均質に被覆するようにする。単層又は多層のコラーゲン被覆をこの噴霧技術により実施することができる。典型的に、コラーゲン被覆の厚さは、5〜50μmの範囲である。
【0018】
あるいは、刷毛を用いて、線維状表面を酸性分散コラーゲンで被覆することもできる。刷毛塗りに用いるコラーゲンの濃度は、噴霧に用いる濃度より有意に高く、約0.1%〜約0.9%(w/v)の範囲である。ブラシを用いて実施するコラーゲン被覆は、噴霧により得られるものより有意に厚く、約50μm〜約100μmの範囲である。
【0019】
さらに、膜の線維状表面を被覆するために、膜をコラーゲン分散液に浸漬してもよい。
使用するコラーゲン被覆技術に関係なく、被覆膜は、コラーゲンを膜表面と強力に一体化するように、乾燥させる。
【0020】
被覆膜は、当該技術分野では公知の架橋剤を用いて架橋させることができる。架橋は、架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド)を含む溶液中で、又は被覆膜を架橋剤の蒸気(例えば、ホルムアルデヒド蒸気)に暴露することにより、実施することができる。溶液中での架橋の程度は、架橋剤の濃度、溶液の温度、及び架橋の時間に応じて変動する。例えば、架橋は、被覆膜を0.5%ホルムアルデヒド溶液に室温で5時間暴露することにより行うことができる。架橋条件は、膜の特性に有意に影響を与え得る。例えば、架橋剤の濃度が高く、架橋時間が長い場合には、in vivo再吸収速度が遅い、より低適合性の膜が得られることになる。これに対し、より高い適合性の膜を製造するためには、低濃度の架橋剤が好ましい。同じ原則が蒸気架橋にも当てはまり、この場合、架橋剤の蒸気圧が低い方が、より適合性の膜を生成する。残留架橋剤の量をヒトへの移植に許容可能なレベルまで低減するために、架橋した膜をすすぐか、又は空気にさらすことができる。
【0021】
これ以上詳述せずとも、以上の説明によって本発明は適切に実施可能になったと考えられる。従って、以下に示す3つの実施例は、あくまで例示として解釈すべきであり、残りの本開示を何ら限定するものではない。
【0022】
実施例1:コラーゲン被覆ウシ心膜
精製された腱コラーゲンの製造
ウシ屈筋腱の脂肪及び筋膜を注意深く除去し、腱を水で洗浄した。洗浄済み腱を凍結させ、スライサーで0.5mmの切片にスライスすることにより粉砕した。まず、切片化した腱を室温の精製水中で24時間抽出した。水を傾瀉した後、0.5M Na
2SO
4中の0.2M HClの溶液を添加し、腱切片を室温で24時間抽出した。この酸性溶液を、3M NaOHを添加してpHを約7に上昇させることにより中和した。この第1中和塩溶液中で18時間腱切片を抽出した後、傾瀉により溶液を除去した。次に、酸で抽出した腱を、1M Na
2SO
4中の0.75M NaOHで、室温で24時間抽出した。この塩基溶液を、3M HClを添加して約7のpHまで中和した。この第2中和塩溶液中で18時間腱切片を抽出した後、傾瀉により溶液を除去した。上述した2回の中和塩抽出後、あらゆる残留塩を除去するために、腱切片を精製水で4回すすいだ。抽出し、すすいだ腱を99%イソプロパノールで8時間室温にて脱脂した。イソプロパノールを傾瀉し、等量の99%イソプロパノールを再度添加することにより、室温で18時間腱切片をさらに抽出した。
【0023】
上に記載した全ての抽出ステップは、定速撹拌下で実施した。さらに、イソプロパノール抽出を除く全ての抽出は、処理済み腱グラム当たり5mlの抽出溶液を用いて実施した。イソプロパノール抽出は、処理済み腱グラム当たり3mlのイソプロパノールを用いて実施した。
【0024】
次に、脱脂した腱を清浄なエアフード下で乾燥させた。主に精製済み線維性コラーゲンからなる処理済み腱材料を後の使用のために、室温にて乾燥状態で保存した。
酸性分散コラーゲン線維の製造
1リットルの0.07M 乳酸中1gの精製線維性コラーゲンを4℃の冷蔵庫内で一晩膨潤させることにより、0.1%(w/v)酸性コラーゲン分散液を調製した。次に、膨潤した線維を、シルバーソン(Silverson)ホモジナイザーを用いて60秒均質化した後、50メッシュステンレス鋼フィルターを通して濾過した。次に、酸性分散液を後の使用のために冷蔵庫内に保存した。
【0025】
ウシ心膜の精製
生のウシ心膜組織から脂肪及び外性組織を機械的に除去し、水で洗浄した。初めに、事前に洗浄したウシ心膜を精製水で2時間室温にて洗浄した。水を傾瀉し、0.1%TRIRON X−100(商標)/DNaseを添加した後、心膜を室温で2時間抽出した。用いたDNaseの量は、膜cm
2当たり4単位の活性であった。溶液を傾瀉してから、ウシ心膜を精製水で2時間すすいだ。次に、洗浄剤/酵素抽出ウシ心膜を99%イソプロパノールと一緒に、室温で6、18及び24時間にわたり3回インキュベートすることにより脱脂した。次に、脱脂したウシ心膜を0.5M Na
2SO
4中の0.5M HCl中で、室温にて6時間にわたり抽出した。3M NaOHを、pHが約7になるまで添加することにより、上記の酸性溶液を中和した。次いで、ウシ心膜を上記の中和塩溶液中で18時間にわたり抽出した後、溶液を傾瀉した。次に、酸で抽出したウシ心膜を、1.2M Na
2SO
4中の1M NaOHで、室温にて6時間さらに抽出した。この塩基性溶液を、pHが約7になるまで3M HClを添加することにより中和した。次いで、ウシ心膜をこの中和塩溶液中で18時間にわたり抽出した後、溶液を傾瀉した。塩抽出後、ウシ心膜を精製水で4回洗浄することにより、精製ウシ心膜に付随する残留塩を除去した。全ての抽出ステップは、定速撹拌下で実施した。
【0026】
イソプロパノール抽出を除く全ての抽出は、処理済みウシ心膜cm
2当たり3mlの抽出溶液を用いて実施した。イソプロパノール抽出は、処理済みウシ心膜cm
2当たり2.7mlのイソプロパノールを用いて実施した。
【0027】
次に、精製済みウシ心膜を凍結乾燥させて、後の使用まで保存した。
酸性分散コラーゲンでの精製済みウシ心膜の被覆
凍結乾燥した精製済みウシ心膜を、相対湿度90〜100%の加湿タンクにおいて約30〜60分にわたり加湿した。軽い圧力下でローラを用い、膜の線維状(壁側)側を単一の均一方向に圧縮することにより、線維をその方向に沿って平板化した。ローラの重量は4kgであり、ローラの重量だけによって軽い圧力を付与した。膜を清浄なエアフード内に配置して、最低15分乾燥させた。次に、膜を保持フレーム内に配置し、エアブラシガン(Badger Airbrush Model 150)を用いて、0.1%(w/v)酸性コラーゲン分散液を膜に30秒噴霧した。コラーゲン分散液は、0.3mmノズルを介して40psiで噴霧した。次に、噴霧した膜をガラス皿に載せ、3時間にわたり0.001%グルタルアルデヒド溶液で軽度に架橋させた。架橋した膜を精製水ですすいだ後、再度凍結乾燥させた。
【0028】
コラーゲン被覆ウシ心膜の特性決定
走査型電子顕微鏡(JEOL社 Model JSM6100)を用い、50xの倍率で、コラーゲン被覆サンプル及び非被覆サンプルについて走査型電子顕微鏡検査(SEM)を実施した。粘着性カーボンテープを用いて、サンプルをアルミニウムプランシェットに取り付けた。電子ビーム伝導を改善し、サンプル荷電を防止するために、約500オングストロームの純金をサンプルにスパッタリングした。
【0029】
ウシ心膜の線維側(壁側)は、膜の表面のランダムに向いた線維のために、SEMで視覚化すると、粗い外観を有している。前述した手順に従い、ウシ心膜の壁側の表面をコラーゲンで被覆すると、SEMにより滑らかな表面が認められる。ウシ心膜の滑らかな(臓側)非被覆側は、被覆した線維側と似た外観をしている。
【0030】
実施例2:コラーゲン被覆ブタ腹膜
ブタ腹膜組織から脂肪及び外性組織を機械的に除去し、水で洗浄した。初めに、事前に洗浄したブタ腹膜を精製水で2時間室温にて洗浄した。水を傾瀉し、3%TRIRON X−100(商標)を上記の腹膜に添加した後、室温で7時間にわたりインキュベートした。TRIRON X−100(商標)溶液を傾瀉した後、腹膜をDNase溶液中で18時間にわたりインキュベートした。用いたDNaseの量は、膜cm
2当たり8単位の活性であった。洗浄剤及び酵素で抽出したブタ腹膜を99%イソプロパノールと一緒に、室温で3、3、18、24時間にわたって3回インキュベートすることにより脱脂した。脱脂したブタ腹膜を0.5M Na
2SO
4中の0.5M HCl中で、室温にて6時間にわたり抽出した。上記の酸性溶液を、3M NaOHを用いて約7のpHに中和した。ブタ腹膜を上記の中和塩溶液中で18時間にわたりさらに抽出した後、溶液を傾瀉した。次に、酸で抽出したブタ腹膜を、1.2M Na
2SO
4中の1M NaOHで、室温にて6時間さらに抽出した。この塩基性溶液を、3M HClを用いて約7のpHに中和した。ブタ腹膜をこの中和塩溶液中で18時間にわたり抽出した後、溶液を傾瀉した。塩抽出後、ブタ腹膜を精製水で4回洗浄することにより、精製ブタ腹膜に付随する残留塩を除去した。
【0031】
イソプロパノール抽出を除く全ての抽出は、処理済みウシ心膜cm
2当たり3mlの抽出溶液を用いて実施した。処理済みブタ腹膜cm
2当たり2.7mlのイソプロパノールを用いてイソプロパノール抽出を実施した。
【0032】
精製済みブタ腹膜を凍結乾燥させて、後の使用まで保存した。
ウシ心膜について既述したのと同様に、精製済みブタ腹膜を酸性分散コラーゲンで被覆した。
【0033】
実施例3:アルカリ性分散コラーゲン線維によるウシ心膜の被覆
1リットルの0.01M NaOH中、前述のように精製した線維性コラーゲン1gを4℃の冷蔵庫内で一晩膨潤させることにより、0.1%(w/v)アルカリ性コラーゲン分散液を調製した。次に、膨潤した線維を、シルバーソンホモジナイザーを用いて90秒均質化した後、50メッシュステンレス鋼フィルターを通して濾過した。次に、アルカリ性分散液を後の使用のために冷蔵庫内で保存した。
【0034】
ウシ心膜は前述のように精製する。アルカリ性分散コラーゲン線維は、酸性分散コラーゲン線維について既述したのと同様に精製済み膜に被覆する。
実施例4:アルカリ性分散コラーゲン線維によるブタ腹膜の被覆
1リットルの0.01M NaOH中、前述のように精製した線維性コラーゲン1gを4℃の冷蔵庫内で一晩膨潤させることにより、0.1%(w/v)アルカリ性コラーゲン分散液を調製した。次に、膨潤した線維を、シルバーソンホモジナイザーを用いて90秒均質化した後、50メッシュステンレス鋼フィルターを通して濾過した。次に、アルカリ性分散液を後の使用のために冷蔵庫内で保存した。
【0035】
ブタ腹膜は既述のように精製する。アルカリ性分散コラーゲン線維は、酸性分散コラーゲン線維について既述したのと同様に精製済み膜に被覆する。
その他の実施形態
本明細書に開示する特徴は全て、任意の組合せで組み合わせてもよい。本明細書に開示する各特徴は、同じ、同等、又は類似の目的にかなう別の特徴によって置き換えることができる。従って、別途明示しない限り、開示した各特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の一例に過ぎない。上の説明から、当業者は本発明の本質的特徴を容易に認識することができ、本発明の思想及び範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途及び条件に適合させるように、本発明の様々な変更及び改変を実施することができる。従って、他の実施形態も以下に示す特許請求の範囲に含まれる。