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特許6117301クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117301
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/16 20060101AFI20170410BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20170410BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   F16J9/16
   F16J9/26 D
   F02F5/00 A
   F02F5/00 B
   F02F5/00 L
   F02F5/00 F
   F02F5/00 K
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-173504(P2015-173504)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-61439(P2016-61439A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年7月11日
(31)【優先権主張番号】PA 2014 00533
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】クヴィストゴー ピーダスン アーネ
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭09−004258(JP,Y1)
【文献】 特開2011−017336(JP,A)
【文献】 特開2001−295927(JP,A)
【文献】 特開2005−030567(JP,A)
【文献】 特開2012−145189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00−10/04
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のための、平たいトップピストンリング(4)であって、前記トップピストンリングは、ピストンリングパックの他のピストンリングと共に、前記内燃機関のピストン(1)の側壁の対応するリング溝において、前記ピストン(1)の上側の燃焼室(2)の圧力に抗して密封性を提供するために使用され、前記トップピストンリングは:
上側リング面(16)、下側リング面(17)、外周リング面(11)、内周リング面(12)を有する、平たいリング本体と、合い口部を形成する第1の係合端部(8)及び第2の係合端部(9)とを備え、前記第1及び前記第2の係合端部(8,9)は、前記トップピストンリング(4)が拡大したり縮小したりすることを可能にし、
前記第1の係合端部(8)は、円周方向に延びる指部(23)を有し、
前記第2の係合端部(9)は、円周方向に延びる凹部(28)であって、前記指部を摺動可能及び密封性を提供するように受け入れるような形状及び大きさを有する凹部(28)を有し、
前記凹部(28)は、円周方向において基端部(46)と遠端部(47)とに分けられ、ただし該基端部(46)は該遠端部(47)より前記リング本体に近い部分であり、
前記指部(23)は、円周方向において基端部(44)と遠端部(45)とに分けられ、ただし該基端部(44)は該遠端部(45)より前記リング本体に近い部分であり、
前記凹部(28)の前記基端部(46)は、前記外周リング面(11)と前記下側リング面(17)とに対して開いており、
前記凹部(28)の前記遠端部(47)は、前記外周リング面(11)と前記下側リング面(17)と前記上側リング面(16)とに対して開いており、
前記指部(23)の前記基端部(44)は、前記外周リング面(11)及び前記下側リング面(17)と面が揃うようにされており、
前記指部(23)の前記基端部(44)の少なくとも径方向外側の部分が、前記上側リング面(16)と面が揃うようにされており、
前記指部(23)の前記遠端部(45)は、前記外周リング面(11)及び前記下側リング面(17)と面が揃うようにされており、
前記トップピストンリングの前記外周面とシリンダライナとの間の圧力が、前記合い口部において、前記合い口部以外の部分よりも低くなるように、前記リング本体は完全な円形ではなく、
前記燃焼室から該トップピストンリングの下側へ制御された量のガスが流れることを可能にする、少なくとも2つの漏出用の溝を備え、
溶射コーティング又は電解コーティングが施されたものである、
トップピストンリング。
【請求項2】
前記指部(23)の前記基端部(44)には、鉛直方向の壁部(25)が設けられ、前記鉛直方向の壁部(25)は、前記外周リング面(11)と同一面上の面と、前記上側リング面(16)と同一面上の面とを有する、請求項1に記載のトップピストンリング。
【請求項3】
前記第2の係合端部(9)は、前記鉛直方向の壁部(25)を受け入れるための凹部(26)を有する、請求項2に記載のトップピストンリング。
【請求項4】
前記第2の係合端部(9)の前記円周方向に延びる凹部(28)は、鉛直方向の壁部(42)と、第1の水平方向の壁部(36)と、第2の水平方向の壁部(34)によって画定され、前記第1の水平方向の壁部(36)は、前記円周方向に延びる凹部(28)の前記基端部(46)において前記外周リング面(11)と同じ広がりを有し、前記第2の水平方向の壁部(34)は、前記円周方向に延びる凹部(28)の前記遠端部(47)において前記外周リング面(11)より狭い広がりを有し、それによって、前記指部(23)の前記基端部(44)の前記鉛直方向の壁部(25)を少なくとも一部受け入れるための前記凹部(26)を形成する、請求項2または3に記載のトップピストンリング。
【請求項5】
前記指部(23)の前記基端部(44)の前記鉛直方向の壁部(25)を受け入れるための前記凹部(26)は、前記外周リング面(11)と前記上側リング面(16)とに対して開いている、請求項4に記載のトップピストンリング。
【請求項6】
前記凹部の前記基端部(46)は、前記外周リング面(11)及び前記下側リング面(17)のみに対して開いている、請求項1からのいずれかに記載のトップピストンリング。
【請求項7】
前記指部(23)の前記遠端部(45)は、前記外周リング面(11)及び前記下側リング面(17)のみに対して面が揃うようにされて、請求項1からのいずれかに記載のトップピストンリング。
【請求項8】
焼き戻し硬化鋳造物である、請求項1から7のいずれかに記載のトップピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリングに関し、特に、ガスタイトリングを形成するための合い口部及び係合端部を有するトップピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンは、典型的には、船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。通常、これらのエンジンは、重油等の安価な燃料や、ガスで運転される。
【0003】
エンジンのピストンにはリングパックが設けられる。リングパックは燃焼圧力を外に漏らさないようにし、それによって、燃焼ガスが掃気用のスペースに漏れていかないようにする。またピストンリングは、潤滑油の油膜を一様に分布させる働きも有する。リングパックのピストンリングは、およそ秒速10mもの速度で往復運動をするピストンから、圧縮空気や燃焼ガスが漏れないようにしなければならない。シリンダ内の圧力はおよそ250気圧にもなり、温度を400度にも達する。このような仕事を僅か数滴の潤滑油で行わなければならず、さらに期待される寿命は数千時間にもなる。従って、ピストンリングに対する主要な要望は、高い耐摩耗性及び耐腐食性を有し、高温環境における柔軟性の減少が少ないことである。
【0004】
重油で運転される場合に生成される燃焼ガスは侵食性が強いため、シリンダライナの内壁は、特別なシリンダ潤滑油で潤滑される。この潤滑油は、燃焼ガスの中の侵食性の強い成分からシリンダライナの内壁を保護する。ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンのピストンの直径は、25cmから108cmにもなる。潤滑を必要とするその他の要素の大きさもかなりのものとなる。従って、この形式のエンジンのためのリングパックは、小型の4ストロークディーゼルエンジンのためのリングパックとは異なる点がある。
【0005】
クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンのリングパックは、通常四つのピストンリングを有する。トップピストンリングはCPRリングである。すなわち、トップピストンリング又はピストンの溝は、圧力を逃がすための溝を有し、それによって、正確に定められ制御された高温ガスの流れが、燃焼室からトップピストンリングの下側に流れることを可能にしている。これは、トップリングをまたがる圧力低下の度合いを下げ、リングパックを構成する他のリングに負荷を分散させるためである。
【0006】
WO02/070926は、合い口部を有するトップピストンリングを開示している。合い口部は、リング本体の係合端部によって形成されている。一方の端部は、トップピストンリングの外周面及び下面と面が揃う指部を有している。もう一方の端部は、トップピストンリングの外周面及び下面に開口する凹部を有している。指部は凹部に摺動可能に係合する。しかし、係合した状態でも、ピストンの溝とピストンリングとの間の背部空間に燃焼ガスが自由に行き来できる通路が形成されてしまい、ガスタイト構造を達成することができない。燃焼ガスの流れは合い口部に集中するため、指部の温度が上がってしまう。指部は、シリンダライナに接触している接触面において、最も温度が低くなっている。この温度勾配は、指部を変形させ、指部の先端とシリンダライナとの間で強い接触を発生させてしまう。過剰な摩耗と指部の不具合は、トップピストンリングに不具合を生じさせてしまう。
【特許文献1】WO02/070926
【発明の開示】
【0007】
このような背景の下、本発明の目的は、上述の問題を解決するか、又は少なくとも緩和するピストンリングを提供することである。
【0008】
この目的は、次のようなピストンリングを提供することによって達成される。このピストンリングは、クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のためのトップピストンリングであって、前記トップピストンリングは、ピストンリングパックの他のピストンリングと共に、前記内燃機関のピストンの側壁の対応するリング溝において、前記ピストンの上側の燃焼室の圧力に抗して密封性を提供するために使用される。
前記トップピストンリングは、上側リング面、下側リング面、外周リング面、内周リング面を有するリング本体と、合い口部を形成する第1の係合端部及び第2の係合端部とを備え、
前記第1及び前記第2の係合端部は、前記トップピストンリングが拡大したり縮小したりすることを可能にし、
前記第1の係合端部は円周方向に延びる指部を有し、
前記第2の係合端部は、円周方向に延びる凹部であって、前記指部を摺動可能及び密封性を提供するように受け入れるような形状及び大きさを有する凹部を有し、
前記凹部は、円周方向において基端部と遠端部とに分けられ、ただし該基端部は該遠端部より前記リング本体に近い部分であり、
前記指部も、円周方向において基端部と遠端部とに分けられ、ただし該基端部は該遠端部より前記リング本体に近い部分であり、
前記凹部の前記基端部は、前記外周リング面と前記下側リング面とに対して開いており、
前記凹部の前記遠端部は、前記外周リング面と前記下側リング面と前記上側リング面とに対して開いており、
前記指部の前記基端部は、前記外周リング面及び前記下側リング面と面が揃うようにされており、
前記指部の前記基端部の少なくとも径方向外側の部分が、前記上側リング面と面が揃うようにされており、
前記指部の前記遠端部は、前記外周リング面及び前記下側リング面と面が揃うようにされている。
【0009】
トップピストンリングの上面と面が揃う、鉛直方向の壁部又は肩部を第1の係合端部の指部に設け、他方の係合端部に対応する凹部を設けることにより、合い口部付近のガスの流れを制限することが可能になる。従って、ガスの流れや、加えられる熱が、トップピストンリングの全周に亘って分散される。これは、合い口部が過熱することを防ぐ。
【0010】
上記トップピストンリングの第1の可能な実装形態では、前記指部の前記基端部には、鉛直方向の壁部が設けられ、前記鉛直方向の壁部は、前記外周リング面と同一面上の面と、前記上側リング面と同一面上の面とを有する。
【0011】
上記トップピストンリングの第2の可能な実装形態では、前記第2の係合端部に、肩部を受容するための凹部が設けられる。
【0012】
上記トップピストンリングの第3の可能な実装形態では、前記第2の係合端部の前記円周方向に延びる凹部は、鉛直方向の壁部と、第1の水平方向の壁部と、第2の水平方向の壁部によって画定され、前記第1の水平方向の壁部は、前記円周方向に延びる凹部の前記基端部において前記外周リング面と同じ広がりを有し、前記第2の水平方向の壁部は、前記円周方向に延びる凹部の前記遠端部において前記外周リング面より狭い広がりを有し、それによって、前記指部の前記基端部の前記鉛直方向の壁部を少なくとも一部受け入れるための前記凹部を形成する。
【0013】
上記トップピストンリングの第4の可能な実装形態では、前記凹部は、内周面及び外周面に開口する。
【0014】
上記トップピストンリングの第5の可能な実装形態では、前記トップピストンリングの前記外周面とシリンダライナとの間の圧力が、前記合い口部において、前記合い口部以外の部分よりも低くなるように、前記リング本体が完全な円形ではない。
【0015】
上記トップピストンリングの第6の可能な実装形態では、上記トップピストンリングは焼き戻し硬化鋳造物である。
【0016】
上記トップピストンリングの第7の可能な実装形態では、上記トップピストンリングには、溶射コーティング又は電解コーティングが施される。
【0017】
上記トップピストンリングの第8の可能な実装形態では、上記トップピストンリングには、前記燃焼室から該トップピストンリングの下側へ制御された量のガスが流れることを可能にする、少なくとも2つの漏出用の溝が設けられる。
【0018】
上記トップピストンリングの第9の可能な実装形態では、前記第2の係合端部から前記凹部へと、水平方向の壁部が突出する。この水平方向の壁部は、前記第2の係合端部の先端部を強くし安定させる働きを有する。
【0019】
上記トップピストンリングの第10の可能な実装形態では、前記凹部の前記基端部は、前記外周リング面及び前記下側リング面にのみ開口する。
【0020】
上記トップピストンリングの第11の可能な実装形態では、前記指部の前記遠端部は、前記外周リング面及び前記下側リング面とのみ、面が揃っている。
【0021】
本明細書の開示に従う機関や方法の目的や特徴、利点、性質は、以下の詳細説明により、更に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本明細書の以下の詳細説明部分においては、図面に示される例示的な実施形態を参照して発明がより詳細に説明される。
図1】シリンダライナに装入されたピストンの一部の断面を表したものである。4本のピストンリングを有するリングパックが描かれている。
図2】シリンダライナに装入されたピストンの一部の断面を、倍率を上げて表したものである。5本のピストンリングを有するリングパックが描かれている。
図3】負荷条件下におけるピストンリングの上面図である。
図4図3を横から見た図である。
図5図3のリングにおける圧力逃がし溝付近の側面図である。
図6図3のリングにおける圧力逃がし溝付近の上面図である。
図7】本発明のある実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
図8】本発明のある実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
図9】本発明のある実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。一方の係合端部を詳しく描いている。
図10】本発明のある実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。他方の係合端部を詳しく描いている。
図11】本発明のある実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
図12】本発明の別の実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
図13】本発明の別の実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
図14】本発明の別の実施形態に従うトップピストンリングの斜視図である。合い口部を中心に描いている。
【好適な実施形態の詳細説明】
【0023】
図1及び2には、ピストン1が描かれている。その円筒状の側壁には、いくつかのリング溝3が設けられ、一番上の溝3にはトップピストンリング(トップリング)4が装着され、その下の溝3にはトップリング4以外のピストンリングが装着されている。一つのピストン1に取り付けられるトップリング4とその下の複数のピストンリング6は、合わせてリングパックと呼ばれ、協働して動作する。ピストン1と、シリンダライナ7及びシリンダカバー5は、一緒に、クロスヘッド型ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気エンジンの燃焼室2を画定する。(図1のシリンダカバー5には排気弁が描かれていないが、通常通り排気弁は存在するものと理解されたい。)
【0024】
ピストンリング4,6は、燃焼室2のガス圧がピストン1の下部空間に漏出することを防止する。
【0025】
図3及び4は、合い口部を有するトップピストンリング4の例示的実施形態を描いたものである。合い口部はガスの流れを十分に遮断するように構成される。トップリング4は環状の部材であり、また合い口部を有する。この合い口部は、トップリング4が使用により摩耗するにつれ、係合端部8,9が互いに離れることを可能にし、従ってトップリング4がリング溝3に装着された状態で、その直径を拡大することを可能にする。
【0026】
図5及び6に描かれるように、ある実施形態において、ピストンリングの側壁11には、四つの圧力逃がし溝15が設けられる。これらの溝は、トップリング4の面に対して斜めに角度を付けて設けられる。圧力逃がし溝は、定められた量のガスがトップリング4の上面から下面に流れることを可能にする。それぞれの溝15を通じて、一様且つ制限されたガスの流れが存在することができる。
【0027】
リング溝3の外側のリムが破線10で示されている。トップリング4の外周面11は、これらの図には図示されていないシリンダライナに接触する。
【0028】
実施形態によっては、圧力逃がし溝はトップリング4に設けられない。その代わり、圧力逃がし構造が、例えば、ピストンに設けられる溝によって提供されてもよい(図示していない)。また、実施形態によっては、トップリング4は、決められた漏出が存在しないような状況でも正しく働くようにされてもよい。すなわち、トップピストン4が、ピストン1の動作中の圧力差に完全に耐えるようなガスタイトリングとして構成されるような実施形態もありうる。
【0029】
図7から11に描かれるように、トップリング4の一方の係合端部8は、トップリング4の円周に沿うように延設される指部23を有する。またトップリング4の他方の係合端部9は、指部23に対応する凹部28を有する。凹部28もトップリング4の円周に沿うように延設される。指部23は凹部28の中へ突出するように設けられる。トップリング4の円周に沿うように延設される凹部28の形状及び大きさは、指部23を摺動可能に受け入れ、また受け入れた状態で密封性が提供されるように、定められる。
【0030】
トップリング4の径方向において、指部23の寸法は、トップリング4の寸法よりも小さい。またトップリング4の径方向において、凹部28は、指部23の内側に隣接する鉛直方向の壁部42によって、トップリング4の内側で画定されている。
【0031】
トップリング4の軸方向においても、指部23の寸法は、トップリング4の寸法よりも小さい。またトップリング4の軸方向において、凹部28は、水平方向の壁部36によってその上端が画定される。水平方向の壁部36の下面は指部23の上面に隣接する。指部23は、その幅及び高さ方向において、凹部28を埋めることができる。このため、燃焼ガスがピストン1の下の空間に流れることを防ぐことができる。これは、指部23の末端部29と凹部28の末端部33との間が(円周方向に)離れていても同様である。
【0032】
凹部28は、円周方向に、基端部46と遠端部47とに分けることができる。基端部46はトップリング4の本体に近い部分である。
【0033】
同様に、指部23は、円周方向に、基端部44と遠端部45とに分けることができる。基端部44はトップリング4の本体に近い部分である。
【0034】
凹部28の基端部46は、トップリングの外周面11と下面17とに対して開いている。凹部28の基端部46は、鉛直方向の壁部42と水平方向の壁部36によって画定されている。凹部28の円周方向は、端壁33によって画定されている。
【0035】
図7から11に描かれる実施形態においては、凹部28は、円周上に遠端部である47において、凹部26によって延長される。凹部26は、トップリングの外周面11と上面16とに対して開いており、また凹部28につながっている。従って、凹部28の遠端部47は、トップリングの外周面11、下面17、および上面16に対して開いている。凹部28の遠端部47において、水平方向の壁部34は、鉛直方向の壁部42から突出し、凹部26まで延びている。水平方向の壁部34は、第2の係合端部9の先端部を強くし安定させる働きを有する。このように、凹部28は鉛直方向の壁部42と、水平方向の壁部34,36によって画定される。水平方向の壁部36は、凹部28の基端部46においてトップリングの外周面11と同じひろがりを有する。一方、水平方向の壁部34は、凹部28の遠端部47において、トップリングの外周面11より狭い幅しか有さない。これは凹部26を形成するためである。凹部26には、鉛直方向の壁25が、少なくとも一部受け入れられる。
【0036】
指部23の基端部44の径方向の広がりの外周部の少なくとも一部において、指部23の基端部44の軸方向の高さはピストンリングの高さと等しい。従って、指部23の基端部44は、ピストンリングの外周面11及び下面17と面が揃うことになり、また、少なくとも一部で上面16と面が揃う。上面16と面が揃う部分は直立する壁部25になっている。直立した壁部25は、幅及び高さ方向において凹部26を埋める、追加の指部を形成する。従って、合い口部を通じてガスが流れることを防ぐ追加のバリアを形成する。凹部26により形成される、鉛直方向の壁部25の径方向内側の面27と、当該面27に隣接する壁部34の壁面との重なり合いにより、特に、合い口部を通じてトップリング4の内側に入り込む流れが妨げられる。
【0037】
指部23の遠端部45の面は、トップリングの外周面11及び下面17と同一平面上にあると考えてよい。従って、指部23の遠端部45の高さ及び幅は、トップリング本体の高さ及び幅よりも小さい。指部23の遠端部の内壁及び上壁は、第2の係合端部9の水平壁36及び鉛直壁42と、密封性を提供するように、及び摺動可能に、係合する(または接触する)。
【0038】
突出する指部23は、軸方向の高さがリング本体と同じである基端部44と、軸方向の高さがリング本体より低い遠端部45とを有する。このような指部を一方の端部に有し、他方の端部9に対応する凹部を有する合い口部は、実質的にガスタイト構造を実現し、係合端部上の負荷耐性を強化する。
【0039】
図12から14は、トップリング4の別の実施形態を描いている。これらの実施形態も、図7から11に示した実施形態と基本的には同一であるが、第1の係合端部8の指部23の基端部44が、その径方向の広がりの全体に亘って、リング本体と等しい高さを有する点が異なる。このため、直立した壁部25ではなく、肩部25を形成する。また、凹部26は、肩部25を受け入れるために、幅が広くなっている。
【0040】
一般的に、リングパックの全てのピストンリング4,6は、円形には製造されない。そのような形状の必要とされる理由は、ピストンリングが円筒状のシリンダライナ7に装着されたときに、規定された正確な圧力を、円周全体に亘って及ぼすことができるようにするためである。この圧力は、理想的には、円周全体に亘って等しく分散することができる。しかし、ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のピストン1で使用されるトップピストン4には、一般的に、ネガティブな楕円形状が与えられる。これは、円周上の圧力が、合い口部で低くなるようにするためである。それによって、運転中に合い口部に印加される圧力が強くなり過ぎないようにする。
【0041】
ある実施形態において、トップリング4は、最も上のリング溝で使用されるために、バーミキュラ黒鉛を入れて焼き戻し硬化鋳造物として形成される。一方、他のリング溝に嵌められるピストンリングは、ラメラ黒鉛を入れた非硬化合金鋳造物として形成される。
【0042】
ある実施形態において、トップリング4には、溶射コーティング又は電解コーティングが施される。ある実施形態において、トップリング4の(外周面の)形状は、非対称的な凸状の滑走面を呈する。
【0043】
ある実施形態において、リングパックは次のピストンリングを含む。
・ トップリング: 非対称的な樽型形状を有し、二層コーティングが施され、側面にクロムコーティングが施される。
・ セカンドリング: 非対称的な樽型形状を有し、流し込みコーティング(running-in coating)が施され、側面にクロムコーティングが施される。
・ サードリング: 非対称的な樽型形状を有し、流し込みコーティングが施される。
・ 第4リング: 非対称的な樽型形状を有し、二層コーティングが施される。
【0044】
別の実施形態において、リングパックは次のピストンリングを含む。
・ トップリング: 非対称的な樽型形状を有し、側面にクロム・コバルトコーティングが施される。
・ トップリング以外のリング: 非対称的な樽型形状を有し、クロム・コバルトコーティングが施される。
【0045】
特許請求の範囲において使用される「備える」「有する」「含む」との語句は、その他の要素やステップが含まれることを除外しない。特許請求の範囲において単数で記載されている要素であっても、それが複数供えられることを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの手段の機能は、単一のプロセッサ又は他のユニットによって遂行されてもよい。
【0046】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0047】
例示のために本発明を詳細に説明してきたが、これらの詳細説明は例示の目的のためだけに提供されたものであって、本発明の範囲を逸脱せずに当業者により様々な変形がなされうる。
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