【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の内容に制限されるものではない。
【0035】
(実施例1)
4インチ(100mm)基板用の炭化珪素(SiC)単結晶インゴットから、約400μmの厚さでスライスし、粗削りとダイヤモンド砥粒による通常研磨を実施した4H型のポリタイプを有するSiC単結晶基板を複数用意し、それぞれのSi面を成長面として、以下のようにして熱CVD法によりSiC単結晶薄膜のエピタキシャル成長を実施した。なお、これらのSiC単結晶基板のオフ角はいずれも4°である。
【0036】
エピタキシャル成長には、
図1、
図2に示したような縦型配列構造を有する基板処理装置1を使用した。ここで、成長室2は黒鉛製坩堝から形成されており、その外側を誘導加熱ヒーター7が取り囲んだ状態で容器(筐体)8に収容されている。この成長室2内には合計20個の基板ホルダー3が成長室の縦方向に等間隔の隙間をおいて重ねられるようにして備え付けられており、各SiC基板ホルダー3には、それぞれSiC単結晶基板10の成長面(Si面)が鉛直方向下向きになるようにして配置される。また、成長室2内には、縦方向に沿って合計6本のカーボン製ガス導入管(内径10mm×長さ500mm)が配設されており、基板ホルダー3に配置されたSiC基板10の外周に沿って順にi)炭素材料ガス導入管5、ii)珪素材料ガス導入管4、iii)炭素材料ガス導入管5、iv)ドーピングガス導入管6、v)珪素材料ガス導入管4、vi)炭素材料ガス導入管5として使用した。これらの各ガス導入管4,5,6には、SiC基板10間に形成される各隙間に対応する位置にそれぞれ約φ1〜3.5mm程度のガス吹出し口4a,5a,6aを備えている。そして、成長室2の下方にはガス排出管(図示外)が設けられており、成長室2内に供給された各ガスは、このガス排出管に接続された真空ポンプ9を通じて容器外に排出される。
【0037】
上記の基板処理装置1を使用してSiC単結晶薄膜を成長させるにあたり、先ず、真空ポンプ9によって成長室2内を真空排気した後、炭素材料ガス導入管5を使って水素ガスを毎分200cm
3導入しながら圧力を8000Paに調整した。その後、圧力を一定に保ちながら、成長室2の温度を1550℃まで上げた。しかる後、導入水素ガスを毎分250リットルまで増加させると同時に真空排気を行い、成長室2内の圧力を1000Paとした。その状態を3分間保持した後、SiCl
4ガスを珪素源とし、かつ、キャリアガスとしてアルゴンを混合した珪素材料ガスをii)及びv)の珪素材料ガス導入管4を通じて導入し、また、C
3H
8ガスを炭素源とし、かつ、キャリアガスとして水素ガスを混合した炭素材料ガスをi)、iii)及びvi)の炭素材料ガス導入管5を通じて導入し、更に、窒素ガスにアルゴン(キャリアガス)を混合したドーピングガスをiv)のドーピングガス導入管6を通じて導入して、エピタキシャル成長を開始した。
【0038】
ここで、珪素材料ガスはSiCl
4ガスの濃度が2体積%となるようにし(SiCl
4流量:300cm
3/min)、2本の珪素材料ガス導入管4を通じて成長室2内に供給される珪素材料ガスの合計流量は毎分15,000cm
3であった。また、炭素材料ガスはC
3H
8ガスの濃度が0.04体積%となるようにし(C
3H
8流量:90cm
3/min)、3本の炭素材料ガス導入管5を通じて成長室2内に供給される炭素材料ガスの合計流量は毎分225,000cm
3であった。更に、ドーピングガスは窒素(N
2)ガスの濃度が1体積%となるようにし、1本のドーピングガス導入管6を通じて成長室2内に供給されるドーピングガスの流量は毎分2,000cm
3であった。そして、エピタキシャル成長時間は2時間とし、その間の各ガスの供給量や成長室内の温度及び圧力は一定に保持した。なお、この実施例1のエピタキシャル成長におけるC/Si比は0.9である。
【0039】
エピタキシャル成長終了後、得られた全20枚のエピタキシャルSiCウエハについて、それぞれ成長したSiC単結晶薄膜の膜厚をFT−IR方式の専用膜厚計により測定したところ、膜厚の平均値は10.5μmであった。また、成長室内で最下段に位置する基板ホルダー3をスロット1(slot 1)とし、最上段に位置する基板ホルダー3をスロット20(slot 20)として(つまり、ガス導入管の上流側から下流側に向けて基板ホルダー3を連番のスロット番号で特定して)、次のようにしてウエハ間におけるSiC単結晶薄膜のドーピング密度のばらつきを評価すると共に、同一ウエハ内でのSiC単結晶薄膜におけるドーピング密度の面内ばらつきを評価した。
【0040】
先ず、得られた全てのエピタキシャルSiCウエハについて、CV測定器(水銀プローブC-V測定装置:フォーディメンジョン社製CVmap92A)を使ってそれぞれのSiC単結晶薄膜におけるドーピング密度を測定した。スロット番号とそれに対応するエピタキシャルSiCウエハでのドーピング密度(/cm
3)の関係を
図3に示す。この
図3のグラフから分かるように、スロット番号による基板ホルダー3の位置によらずに、均一なドーピング密度が得られていることが確認された。
【0041】
また、スロット16の基板ホルダー3で得られたエピタキシャルSiCウエハについて、水銀プローブ法によりSiC単結晶薄膜のドーピング密度を測定した。測定は、
図6に示したように、エピタキシャルSiCウエハの円周を8等分する4本の直径とエピタキシャルSiCウエハの中心点を中心にした3つの同心円(半径r=15mm、30mm、45mm)とが交わる点、及びエピタキシャルSiCウエハの中心点の合計25点で行い、それぞれの測定点での窒素(N)濃度(ドーピング密度)を求めた。結果を表1に示す。これらから得られた結果について、ウエハの面内ばらつき(標準偏差/平均値)を求めたところ、7%と良好な結果であることを確認した。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例2〜15)
表2に示したように、珪素源ガス及び炭素源ガスの種類とその濃度を変更すると共に、珪素材料ガス、炭素材料ガス、及びドーピングガスの流量、並びに成長温度を変える以外は実施例1と同様にして、縦型配列構造を有した基板処理装置1を用いてエピタキシャルSiCウエハを製造した。
【0044】
エピタキシャル成長終了後、最下段(スロット1)の基板ホルダー3で得られたエピタキシャルSiCウエハと最上段(スロット20)の基板ホルダー3で得られたエピタキシャルSiCウエハとについて、それぞれ実施例1と同様にしてSiC単結晶薄膜のドーピング密度を測定した。そして、最上段(スロット20)のドーピング密度が最下段(スロット1)のそれの何倍に相当するかを指標にし、1.1倍未満なら◎、1.1以上1.3倍未満なら○、1.3倍以上1.5倍未満なら△、1.5倍以上なら×として、ウエハ間のドーピング密度のばらつきを4段階で評価した。結果を表2に示す。
【0045】
また、スロット16の基板ホルダー3で得られたエピタキシャルSiCウエハについて、実施例1と同様にして、合計25の測定点で窒素(N)濃度(ドーピング密度)を測定し、標準偏差/平均値を指標にして、5%未満であれば◎、5%以上10%未満であれば○、10%以上20%未満であれば△、20%以上であれば×として、同一ウエハ内での面内のドーピング密度のばらつきを4段階で評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から分かるように、本発明によれば、ウエハ間におけるSiC単結晶薄膜のドーピング密度のばらつきと共に、同一ウエハ内でのSiC単結晶薄膜におけるドーピング密度の面内ばらつきが抑えられることが確認できる。
【0048】
(比較例1)
実施例1〜15で用いた基板処理装置1における6本のカーボン製ガス導入管のうち、ドーピングガスを専用で導入するiv)のドーピングガス導入管6は使用せずに、i)、iii)及びvi)の炭素材料ガス導入管5を使って、窒素を混合した炭素材料ガスを成長室内に導入した。また、珪素材料ガスについては、ii)珪素材料ガス導入管4、及びv)珪素材料ガス導入管4を使って成長室内に導入した。
【0049】
ここで、珪素材料ガスのキャリアガスにはアルゴンを使用し、SiCl
4ガスの濃度が2体積%となるようにして(SiCl
4流量:300cm
3/min)、2本の珪素材料ガス導入管4を通じて成長室2内に供給される珪素材料ガスの合計流量は毎分15,000cm
3とした。また、炭素材料ガスのキャリアガスには水素ガスを使用し、C
3H
8ガスの濃度が0.04体積%となるようにして(C
3H
8流量:90cm
3/min)、3本の炭素材料ガス導入管5を通じて成長室2内に供給される炭素材料ガスの合計流量は毎分225,000cm
3とした。更には、この炭素材料ガスに窒素を毎分4cm
3の流量で混合するようにした。そして、成長温度1550℃にて2時間のエピタキシャル成長を行うようにし、これら以外は実施例1と同様にして、縦型配列構造を有した基板処理装置1を用いてエピタキシャルSiCウエハを製造した。得られた全20枚のエピタキシャルSiCウエハでのSiC単結晶薄膜の平均膜厚は10.6μmであった。また、この比較例1のエピタキシャル成長におけるC/Si比は0.9である。
【0050】
得られた全てのエピタキシャルSiCウエハについて、実施例1と同様にCV測定器を使ってそれぞれのSiC単結晶薄膜におけるドーピング密度を測定した。スロット番号とそれに対応するエピタキシャルSiCウエハでのドーピング密度(/cm
3)の関係を
図4に示す。この
図4のグラフから分かるように、実施例1の場合(
図3)に比べてドーピング密度のばらつきが多く、特にスロット番号が大きいものほどドーピング密度が相対的に高くなることが確認された。
【0051】
(比較例2)
実施例1〜15で用いた基板処理装置1における6本のカーボン製ガス導入管のうち、ドーピングガスを専用で導入するiv)のドーピングガス導入管6は使用せずに、ii)及びv)の珪素材料ガス導入管4を使って、窒素を混合した窒素材料ガス成長室内に導入した。また、炭素材料ガスについては、i)、iii)及びvi)の炭素材料ガス導入管5を使って成長室内に導入した。
【0052】
ここで、炭素材料ガスのキャリアガスには水素ガスを使用し、C
3H
8ガスの濃度が0.04体積%となるようにして(C
3H
8流量:90cm
3/min)、3本の炭素材料ガス導入管5を通じて成長室2内に供給される炭素材料ガスの合計流量は毎分225,000cm
3とした。また、珪素材料ガスのキャリアガスにはアルゴンを使用し、SiCl
4ガスの濃度が2体積%となるようにして(SiCl
4流量:300cm
3/min)、2本の珪素材料ガス導入管4を通じて成長室2内に供給される珪素材料ガスの合計流量は毎分15,000cm
3とした。更には、この珪素材料ガスに窒素を毎分4cm
3の流量で混合するようにした。そして、成長温度1550℃にて2時間のエピタキシャル成長を行うようにし、これら以外は実施例1と同様にして、縦型配列構造を有した基板処理装置1を用いてエピタキシャルSiCウエハを製造した。得られた全20枚のエピタキシャルSiCウエハでのSiC単結晶薄膜の平均膜厚は10.4μmであった。また、この比較例1のエピタキシャル成長におけるC/Si比は0.9である。
【0053】
得られた全てのエピタキシャルSiCウエハについて、実施例1と同様にCV測定器を使ってそれぞれのSiC単結晶薄膜におけるドーピング密度を測定した。スロット番号とそれに対応するエピタキシャルSiCウエハでのドーピング密度(/cm
3)の関係を
図5に示す。この
図5のグラフから分かるように、実施例1の場合(
図3)に比べてドーピング密度のばらつきが多く、特にスロット番号が大きいものほどドーピング密度が相対的に高くなることが確認された。
【0054】
(比較例3)
アルゴンガスを混ぜることなく、窒素ガスを毎分20cm
3の流量でiv)のドーピングガス導入管6を通じて成長室内に導入するようにした以外は実施例1と同様にして、エピタキシャルSiCウエハを製造した。得られた全20枚のエピタキシャルSiCウエハでのSiC単結晶薄膜の平均膜厚は10.5μmであった。また、この比較例1のエピタキシャル成長におけるC/Si比は0.9である。
【0055】
このうち、スロット16の基板ホルダー3で得られたエピタキシャルSiCウエハについて、実施例1と同様にして、合計25の測定点で窒素(N)濃度(ドーピング密度)を測定したところ、標準偏差/平均値は25%であり、面内でのドーピング密度のばらつきが極めて大きいことが分かった。