特許第6117576号(P6117576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋鋼鈑株式会社の特許一覧

特許6117576フォトリフラクティブ材料組成物、フォトリフラクティブ基材およびホログラム記録媒体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117576
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】フォトリフラクティブ材料組成物、フォトリフラクティブ基材およびホログラム記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/361 20060101AFI20170410BHJP
   C09B 29/40 20060101ALI20170410BHJP
   G03H 1/02 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G02F1/361
   C09B29/40
   G03H1/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-52687(P2013-52687)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-238845(P2013-238845A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-92841(P2012-92841)
(32)【優先日】2012年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 さき子
(72)【発明者】
【氏名】雀部 博之
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−018113(JP,A)
【文献】 特開2005−263863(JP,A)
【文献】 特開平07−258563(JP,A)
【文献】 HERIOCKER,J.A. et al.,Photorefractive polymer composites fabricated by injection molding,APPLIED PHYSICS LETTERS,2002年12月12日,Vol.80,1156-1158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125,1/21−7/00
C09B 29/40
G03H 1/02
Scitation
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学色素、非光導電性な透明樹脂、および可塑剤を含有し、
前記非線形光学色素が、下記一般式(7)で表される化合物であることを特徴とするフォトリフラクティブ材料組成物。
【化11】
(上記一般式(7)において、Dは電子供与性基、A、A1およびA2はそれぞれ独立した電子受容性基、mは0〜18の整数、nは0〜18の整数である。)
【請求項2】
前記非線形光学色素の含有割合が10〜40重量%、前記透明樹脂の含有割合が20〜85重量%、前記可塑剤の含有割合が1〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載のフォトリフラクティブ材料組成物。
【請求項3】
前記透明樹脂が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリシクロオレフィン(COP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、およびポリメタクリル酸ブチル(PBMA)からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載のフォトリフラクティブ材料組成物。
【請求項4】
前記透明樹脂のSP値と、前記可塑剤のSP値との差が、3以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフォトリフラクティブ材料組成物。
【請求項5】
増感剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のフォトリフラクティブ材料組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のフォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られるフォトリフラクティブ基材。
【請求項7】
請求項に記載のフォトリフラクティブ基材を備えるホログラム記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録などの分野に用いられるフォトリフラクティブ材料組成物、ならびに、このフォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られるフォトリフラクティブ基材、およびホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリフラクティブ材料は2つの光をフォトリフラクティブ材料上で交差させ、照射光の干渉により生じた空間電界に対応して、屈折率が変化する材料である。
【0003】
そのため、フォトリフラクティブ材料のこのような特性を利用することにより信号光に対し非線形な信号処理を行う光変調素子への利用が可能である。すなわち、回折格子の形成を利用したホログラム記録媒体や、エネルギー移動を利用した光スイッチング素子として用いることができる。また、回折格子から発生する回折光は位相共役となっていることから、位相共役鏡としても用いることができる。
【0004】
このようなフォトリフラクティブ材料としては、従来より用いられている無機フォトリフラクティブ材料に代えて、非晶質の有機化合物を用いた、低コストで成型加工性に優れたフォトリフラクティブ材料(以下、有機フォトリフラクティブ材料という)の開発が求められている。このような有機フォトリフラクティブ材料として、たとえば、特許文献1には、有機光導電性化合物と、増感剤と、可塑剤と、電界応答光学機能化合物と、酸化防止剤からなるフォトリフラクティブ組成物が開示されている。しかしながら、回折応答速度が遅くいため、回折応答速度の改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−41324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ基板を与えることのできるフォトリフラクティブ材料組成物を提供することである。また、本発明は、このようなフォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られるフォトリフラクティブ基板およびホログラム記録媒体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、非線形光学色素、および非光導電性な透明樹脂を含有するフォトリフラクティブ材料組成物に、可塑剤を添加してなる組成物を用いることで、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ基板を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、非線形光学色素、非光導電性な透明樹脂、および可塑剤を含有し、前記非線形光学色素が、下記一般式(7)で表される化合物であることを特徴とするフォトリフラクティブ材料組成物が提供される。
【化10】
(上記一般式(7)において、Dは電子供与性基、A、A1およびA2はそれぞれ独立した電子受容性基、mは0〜18の整数、nは0〜18の整数である。)
【0009】
好ましくは、前記非線形光学色素の含有割合が10〜40重量%、前記透明樹脂の含有割合が20〜85重量%、前記可塑剤の含有割合が1〜60重量%である。
好ましくは、前記透明樹脂が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリシクロオレフィン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、およびポリメタクリル酸ブチル(PBMA)からなる群から選択される少なくとも一種である。
好ましくは、前記透明樹脂のSP値と、前記可塑剤のSP値との差が、3以下である。
【0010】
本発明のフォトリフラクティブ材料組成物は、好ましくは、増感剤をさらに含有する。
【0011】
また、本発明によれば、上記いずれかに記載のフォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られるフォトリフラクティブ基板、および該フォトリフラクティブ基板を備えるホログラム記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れたフォトリフラクティブ基材を与えることのできるフォトリフラクティブ材料組成物、ならびに、該フォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られるフォトリフラクティブ基材、およびホログラム記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフォトリフラクティブ材料組成物は、非線形光学色素、非光導電性な透明樹脂、および可塑剤を含有する組成物である。フォトリフラクティブ材料は光を照射すると空間電界が生じ、これに対応して屈折率が変化する材料である。
【0014】
非線形光学色素としては、非線形光学特性を有するものであればよく、特に限定されないが、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化2】
【0015】
上記一般式(1)において、Rは、炭素数6〜18の置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜18の置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、好ましくは、炭素数6〜12の置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜6の置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、Rが芳香族基である場合には、Rを構成する芳香環は、ヘテロ原子を含有していてもよい。
また、Rは、炭素数6〜18の置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜18の置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、好ましくは、炭素数6〜12の置換基を有していてもよい芳香族基、または炭素数2〜6の置換基を有していてもよい−N=N−と共役二重結合を形成する不飽和脂肪族基であり、Rが芳香族基である場合には、Rを構成する芳香環は、ヘテロ原子を含有していてもよい。なお、置換基としては、特に限定されないが、たとえば、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基などが挙げられる。
【0016】
また、上記一般式(1)において、Dは、電子供与性基であり、好ましくは、アミノ基、アルコキシ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つである。このような電子供与性基の具体例としては、−N(CH基、−NH基、−OCH基、−OH基などが挙げられ、これらのなかでも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、−N(CH基が特に好ましい。
【0017】
さらに、上記一般式(1)において、Aは、電子受容性基であり、その具体例としては、−NO基、−NO基、−CHO基、−CN基などが挙げられ、これらのなかでも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、−NO基が特に好ましい。
【0018】
また、上記一般式(1)において、mは0〜18の整数であり、好ましくは2〜6の整数である。なお、m=0の場合は、RとDとが直接結合した構造となる。上記一般式(1)において、nは0〜18の整数であり、好ましくは2〜6の整数であり、m=0の場合と同様に、n=0の場合は、RとAとが直接結合した構造となる。
【0019】
本発明においては、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、フォトリフラクティブ特性をより高めることができるという観点より、下記式(2)で表されるアゾベンゼン骨格を有するものがより好ましい。すなわち、下記一般式(3)〜(6)で表される化合物であることがより好ましい。なお、下記一般式(3)〜(6)において、A,D,m,nは、上記一般式(1)と同様であり、また、X,Yは、それぞれ、アゾベンゼン骨格を構成するベンゼン環と縮合環を形成する芳香環であり、X、Yを構成する芳香環は、それぞれ、ヘテロ原子を含有していてもよい。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0020】
なかでも、本発明においては、下記一般式(7)で表される化合物が特に好ましい。
【化8】
なお、上記一般式(7)において、A,D,m,nは、上記一般式(1)と同様である。また、式中A、A1、およびA2は、それぞれ独立した電子受容基である。
【0021】
フォトリフラクティブ材料組成物中における、非線形光学色素の含有割合は、好ましくは10〜40重量%であり、より好ましくは20〜35重量%、さらに好ましくは25〜30重量%である。非線形光学色素の含有割合が少なすぎも、また、多すぎても、得られるフォトリフラクティブ基材のフォトリフラクティブ特性が不十分となるおそれがある。
【0022】
非光導電性な透明樹脂としては、光導電的に不活性であり、透明性を有し、マトリックス樹脂として作用するものであれば何でもよいが、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリシクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、ポリメタクリル酸ブチル(PBMA)などが挙げられる。これらのなかでも、透明性が高いという点より、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が特に好ましく、ガラス転移温度が低いという点より、ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
【0023】
また、非光導電性な透明樹脂としては、重量平均分子量(Mw)が15,000〜1,000,000の範囲にあるものが好ましく、97,000〜1,000,000の範囲にあるものがより好ましく、350,000〜1,000,000の範囲にあるものがさらに好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、機械的強度が低下するおそれがある。一方、重量平均分子量が大きすぎると、高分子の合成が困難となる。
【0024】
フォトリフラクティブ材料組成物中における、非光導電性な透明樹脂の含有割合は、好ましくは20〜85重量%であり、より好ましくは60〜80重量%、さらに好ましくは65〜70重量%である。非光導電性な透明樹脂の含有割合が少なすぎると、得られるフォトリフラクティブ基材の機械的強度が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、十分な非線形光学効果が得られないおそれがある。
【0025】
可塑剤は、得られるフォトリフラクティブ基材のガラス転移温度Tgを低下させ、これにより、非線形光学色素の移動度を向上させることでき、その結果として、回折応答速度を向上させる作用を有する。可塑剤としては、特に限定されず、従来公知のものを制限なく用いることができるが、非光導電性な透明樹脂に対する相溶性の観点より、非光導電性な透明樹脂のSP値(溶解パラメータ)をSPとし、可塑剤のSP値をSPとした場合に、これらの差|SP−SP|が3以下であるものを用いることが好ましく、差|SP−SP|が2以下であるものを用いることがより好ましい。
【0026】
可塑剤の具体例としては、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)などのアジピン酸エステル類;アゼライン酸ジブトキシエチル、アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)などのアゼライン酸エステル類;クエン酸トリn-ブチルなどのクエン酸エステル類;テトラヒドロキシ無水フタル酸のエポキシ化物やテトラヒドロキシ無水フタル酸のエポキシ化不飽和油脂などのエポキシ誘導体;フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルなどのフタル酸エステル類;トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリイソオクチルなどのトリメリット酸エステル類;2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル類;ジエチレングリコールジアセテートなどのグリコールジアセテート類;エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどのアルキルフタリルアルキルグリコレート類;などが挙げられる。
【0027】
フォトリフラクティブ材料組成物中の可塑剤の含有割合は、好ましくは0.01〜65重量%であり、より好ましくは1〜60重量%、さらに好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは5〜50重量%である。可塑剤の含有割合を上記範囲とすることにより、可塑剤の添加効果、すなわち、回折応答速度の向上効果をより顕著なものとすることができる。
【0028】
また、本発明のフォトリフラクティブ材料組成物には、上述した各成分に加えて、酸化防止剤などの各種成分が配合されていてもよい。
【0029】
さらに、本発明のフォトリフラクティブ材料組成物には、必要に応じて、溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、上述したフォトリフラクティブ材料を溶解可能なものであれば制限なく用いることができるが、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。
【0030】
<フォトリフラクティブ基材>
本発明のフォトリフラクティブ基材は、上述した本発明のフォトリフラクティブ材料組成物を用いて得られ、通常は、フィルム状の形状を有するものである。
【0031】
本発明のフォトリフラクティブ基材は、たとえば、上述した本発明のフォトリフラクティブ材料組成物を用いてフィルムを作製し、得られたフィルムを熱プレスすることにより、製造することができる。
【0032】
本発明のフォトリフラクティブ材料組成物を用いてフィルムを作製する際には、フォトリフラクティブ材料組成物を、ガラス板などの基材上にスピンコートするスピンコート法、滴下などにより直接塗布して、目的の膜厚、形状に応じて溶液を流延するキャスト法などが挙げられる。なお、フィルムを作製する際には、溶媒を除去するために、必要に応じて30〜250℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。
【0033】
そして、本発明においては、このようにして得られたフィルムについて熱プレスを行う。熱プレスの温度は、フォトリフラクティブフィルムのガラス転移温度以上、非線形光学色素の分解温度以下の範囲であり、好ましくは、90〜320℃、より好ましくは160〜300℃、さらに好ましくは210〜260℃、熱プレスの時間は、好ましくは0.1〜60分、より好ましくは0.5〜30分、さらに好ましくは1〜3分である。また、熱プレスに用いる成形型として、フィルムに接する面の算術平均粗さRaが、0.3μm以下であるものを用いることが好ましく、0.06μm以下であるものを用いることがより好ましく、0.03μm以下であるものを用いることが特に好ましい。
【0034】
このようにして得られる本発明のフォトリフラクティブ基材は、透過率が高く、回折応答速度および回折効率に優れるものであり、このような特性を活かし、ホログラム記録媒体の他、高密度光データ記録、3Dディスプレイ、3Dプリンター、さらには光の波面や位相のマニュピレーション、パターン認識、光増幅、非線形光情報処理、光相関システム、光コンピュータなどの各種用途に好適に用いることができる。これらのなかでも、ホログラム記録媒体に備えられるフォトリフラクティブ基材として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0036】
<実施例1>
3−[(4−ニトロフェニル)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノール345mg、非光導電性な透明樹脂としてのポリメタクリル酸メチル(Sigma−Aldrich社製、重量平均分子量(Mw): 996,000、SP値:9.7)1500mgを、および溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド30ccを12時間混合し、次いで、得られた混合液に、可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレート(SP値:9.64)21mg添加することで、可塑剤の含有割合が1重量%(溶剤を除く重量比率)であるフォトリフラクティブ材料組成物を得た。
【0037】
次いで、得られたフォトリフラクティブ材料組成物を、ガラス基材上に、N雰囲気下、110℃、2時間の条件でキャスト成膜し、次いで、100℃、20時間の条件で減圧乾燥することにより、溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミドを除去することで、1cmφの大きさのフィルムを得た。
【0038】
次いで、上記にて得られたフィルムを、一対の成形型により、上下から熱プレスし、次いで、室温で冷却することにより、厚み203μmのフォトリフラクティブ基材サンプルを得た。なお、熱プレスの条件は、成形型温度:240℃、プレス圧:15MPaとした。
【0039】
ガラス転移温度(Tg)
上記にて得られたフォトリフラクティブ基材サンプルについて、示差走査熱量計(製品名「DSC8500」、PerkinElmer社製)を用いて、測定温度範囲10〜210℃にて、昇温速度10℃/分で昇温し、次いで、220℃に到達した後、降温速度10℃/分の条件で降温し、再度、昇温速度10℃/分で昇温した際におけるDSC曲線に基づいて、ガラス転移温度(Tg)を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
透過率
上記にて得られたフォトリフラクティブ基材サンプルの波長633nmの光の透過率を、グロスメーター(日本電色工業(株)製、グロスメーターVG2000)を用い、JIS K 7105に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0041】
回折効率
回折効率は、フォトリフラクティブ効果によって成形される回折格子に対し、光束を入射した場合に、透過する光と回折する光の強度の割合を示すものである。回折効率の測定は、上記にて得られたフォトリフラクティブ基材サンプルについて、4光波混合法によりHe−Neレーザー(375μW)を光源として、書込みおよび再生を行い、所定時間の測定の後、30秒後における、透過する光の強度(透過光強度)と回折する光の強度(回折光強度)を測定し、下記式にしたがって、回折効率(%)を求めた。結果を表1に示す。
回折効率(%)={回折光強度/(回折光強度+透過光強度)}×100
【0042】
応答時間(回折応答速度)
応答時間は、回折効率が30%となるまでの時間を測定することにより行った。具体的には、上記した回折効率の測定において、回折効率が30%となった時間を検出し、回折効率が1%となった時間を応答時間とした。なお、応答時間が短いほど、回折応答速度が速いと評価することができる。結果を表1に示す。
【0043】
<実施例2〜7>
非線形光学色素として、3−[(2,6,4−トリクロロ)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノールを用い、可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートの含有割合が、5重量%(実施例2)、10重量%(実施例3)、20重量%(実施例4)、40重量%(実施例5)、50重量%(実施例6)、および60重量%(実施例7)となるように調製した以外は、実施例1と同様にして、フォトリフラクティブ材料組成物およびフォトリフラクティブ基材を作製し、実施例1と同様に、透過率、回折効率、応答時間の評価を行った。結果を表2に示す。ガラス転移温度の測定は、10〜210℃(実施例2)、0〜200℃(実施例3)、−40〜170℃(実施例4、5、6、7)の測定温度範囲とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。なお、実施例2〜7においては、非光導電性な透明樹脂としてのポリメタクリル酸メチル、および可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートの配合割合のみを変更し、非線形光学色素としての3−[(2,6,4−トリクロロ)アゾ]−9H−カルバゾール−9−エタノールの配合割合については、いずれも実施例1と同様とした。
【0044】
<比較例1>
可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、フォトリフラクティブ材料組成物およびフォトリフラクティブ基材を作製し、実施例1と同様に、評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
<実施例8〜12>
非線形光学色素として、3−[(2,6−ジブロモ−4−シアノメチルエステルアゾ]−9H−カルバゾール−9−メタノールを用い、可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートの含有割合が、10重量%(実施例8)、20重量%(実施例9)、40重量%(実施例10)、50重量%(実施例11)、および60重量%(実施例12)となるように調製した以外は、実施例1と同様にして、フォトリフラクティブ材料組成物およびフォトリフラクティブ基材を作製し、実施例1と同様に、透過率、回折効率、応答時間の評価を行った。結果を表3に示す。ガラス転移温度の測定は、−40〜170℃(実施例8、9、10、11、12)の測定温度範囲とした以外は、実施例1と同様に測定を行った。なお、実施例5〜11においては、非光導電性な透明樹脂としてのポリメタクリル酸メチル、および可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートの配合割合のみを変更し、非線形光学色素としての3−[(2,6−ジブロモ−4−シアノメチルエステルアゾ]−9H−カルバゾール−9−メタノールの配合割合については、いずれも実施例1と同様とした。
【0046】
<比較例2>
可塑剤としてのブチルフタリルブチルグリコレートを配合しなかった以外は、実施例8と同様にして、フォトリフラクティブ材料組成物およびフォトリフラクティブ基材を作製し、実施例1と同様に、評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表1、2の結果より、非線形光学色素、および非光導電性な透明樹脂からなるフォトリフラクティブ材料組成物に、可塑剤を加えることにより、可塑剤を配合しない場合と比較して、透過率(透明性)を良好に保ちながら、回折効率と応答時間(応答速度)を向上させることができることが確認できる。