(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117597
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】合成繊維パウダーの製造方法および合成繊維パウダーおよび水分散体
(51)【国際特許分類】
D06H 7/02 20060101AFI20170410BHJP
C08J 3/12 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
D06H7/02
!C08J3/12 ZCFD
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-77675(P2013-77675)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-201846(P2014-201846A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 健治
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−002007(JP,A)
【文献】
特開平09−137389(JP,A)
【文献】
特開平06−272176(JP,A)
【文献】
特開2005−113291(JP,A)
【文献】
特開2006−188790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06H 7/02
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系ポリマーからなり単繊維径Dが20〜100μmの範囲内であるマルチフィラメントを束ねて総繊度10万dtex以上のトウとした後、含水させ、氷結させた後、単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが1〜30の範囲内となるようカットすることを特徴とする合成繊維パウダーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された製造方法により得られた合成繊維パウダー。
【請求項3】
請求項2に記載の合成繊維パウダーを含む水分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる合成繊維パウダーを得ることができる合成繊維パウダーの製造方法および該製造方法により得られた合成繊維パウダーおよび水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂パウダーとしては、合成樹脂チップを各種ミルやホモジナイザー等の粉砕設備を用いて得られたものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、従来の方法で得られたものは、加工プロセスの問題から、均一なものが得られ難く、均一なものを得るためには、分級等を行う必要があり収率が低下するという問題があった。また、従来の方法で得られたものは粉砕を行うため、パウダーの表面状態が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−71799号公報
【特許文献2】特開2009−144104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる合成繊維パウダーを得ることができる合成繊維パウダーの製造方法および該製造方法により得られた合成繊維パウダーおよび水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなるマルチフィラメントを特定の寸法にカットすることにより、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる合成繊維パウダーが得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「
ポリエステル系ポリマーからな
り単繊維径Dが20〜100μmの範囲内であるマルチフィラメントを
束ねて総繊度10万dtex以上のトウとした後、含水させ、氷結させた後、単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが1〜30の範囲内となるようカットすることを特徴とする合成繊維パウダーの製造方法。」が提供される。
また、本発明によれば、前記の製造方法により得られた合成繊維パウダーが提供される。また、前記合成繊維パウダーを含む水分散体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる合成樹脂パウダーを得ることができる合成繊維パウダーの製造方法および該製造方法により得られた合成繊維パウダーおよび水分散体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明において、マルチフィラメントを形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーとしては特に限定されないが、品質の安定性、物性、価格などの点からポリエステル系ポリマーやポリオレフィン系ポリマーが好ましい。
【0009】
前記ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらに第3成分を含んだものなどが例示される。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルであってもよい。
【0010】
一方、ポリオレフィン系ポリマーとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどが例示される。
前記繊維形成性熱可塑性ポリマーには、必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0011】
前記マルチフィラメントにおいて、単繊維径は特に限定されず、例えばナノファイバーと称される単繊維径が10〜1000nmの超極細繊維でもよいが、20〜100μm(より好ましくは30〜80μm、特に好ましくは40〜60μm)であることが好ましい。該単繊維径が20μmよりも小さいと、カット工程の安定性が低下しサイズが均一な合成繊維パウダーが得られないおそれがある。逆に、該単繊維径が100μmよりも大きいと繊維の製造工程において冷却が困難になったり、得られる合成繊維パウダーの実用性が損なわれるおそれがある。
【0012】
また、前記マルチフィラメントにおいて、単繊維の横断面形状としては特に限定されず、丸断面、中空断面、異型断面(扁平、十字、多孔、多フィンなど)などが例示される。なかでも、加工性、生産の安定性の点で丸断面が好ましい。
前記マルチフィラメントの製造方法は特に限定されず、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーを用いて常法により紡糸、延伸したものでよい。
【0013】
本発明において、前記マルチフィラメントを、マルチフィラメントを構成する単繊維の単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが1〜30(好ましくは1〜10)の範囲内となるようカットする。
その際、前記マルチフィラメントを束ねて総繊度10万dtex以上(より好ましくは100万〜900万dtex)のトウとした後にカットすると、生産性がよく好ましい。
【0014】
前記マルチフィラメント(トウ)をカットする方法としては、繊維長に応じて適宜選定することができる。例えば、繊維長が3mm以上であればECカッター(刃のついたローターに繊維を巻きつけてカットする。)を用いたカット方法、繊維長が0.4mm以上3mm未満であればギロチンカッター(集束させたトウをフィードローラーを用いて刃先まで送り出し、ギロチンカットする。)を用いたカット方法、繊維長が0.4mm未満であれば、冷凍カッター(繊維をかせにとり、水を含水させて氷結した後カットする。)を用いたカット方法が好ましい。なかでも、単繊維の単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが小さい場合、品質の安定性の点で冷凍カッターを用いたカット方法が好ましい。
【0015】
かくして得られた合成繊維パウダーは、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる。
また、本発明によれば、前記の合成繊維パウダーを含む水分散体が提供される。かかる水分散体は前記の合成繊維パウダーを含んでいるので水に対する分散性に優れ、例えば、フィルム等に塗工し、スペーサーや機能剤凝集抑制剤などの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)単繊維径の測定
走査型電子顕微鏡SEMで、倍率20〜500倍で繊維断面写真を撮影し、測定した。SEMの測長機能を活用して測定した。
(2)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、繊維を基盤上に寝かせた状態とし20〜500倍で測定した。SEMの測長機能を活用して測定した。
【0017】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートを用いて常法により紡糸、延伸することによりポリエチレンテレフタレート繊維からなるマルチフィラメント(単繊維径Dが30μmである。)を得た。
次いで、該マルチフィラメントをかせ取りして、総繊度500万dtexのトウを作製した後、ギロチンカッターを用いて繊維長400μmにカットを実施し、合成繊維パウダー(L/D=13)を得た。得られた合成繊維パウダーは、表面状態がよく、かつサイズが均一であった。また、該合成繊維パウダーを用いて水分散体を得たところ、水に対する分散性にも優れるものであった。
【0018】
[実施例2]
実施例1と同じトウを用い、ギロチンカッターを用いて繊維長700μmにカットを実施し、合成繊維パウダー(L/D=23)を得た。得られた合成繊維パウダーは、表面状態がよく、かつサイズが均一であった。また、該合成繊維パウダーを用いて水分散体を得たところ、水に対する分散性にも優れるものであった。
【0019】
[実施例3]
ポリエチレンテレフタレートを用いて常法により紡糸、延伸することによりポリエチレンテレフタレート繊維からなるマルチフィラメント(単繊維径Dが20μmである。)を得た。
次いで、該マルチフィラメントをかせ取りして、総繊度500万dtexのトウを作製した後、含水させて氷結させた後、カッターを用いて繊維長100μmにカットを実施し合成繊維パウダー(L/D=5)を得た。得られた合成繊維パウダーは、表面状態がよく、かつサイズが均一であった。また、該合成繊維パウダーを用いて水分散体を得たところ、水に対する分散性にも優れるものであった。
【0020】
[比較例1]
実施例1と同じトウを用い、ギロチンカッターを用いて繊維長1000μmにカットを実施し、合成繊維パウダー(L/D=33)を得た。得られた合成繊維パウダーは、繊維同士が絡みやすく、均一分散させるためには、機械的なシェアが必要であった。
【0021】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、表面状態がよく、かつサイズが均一であり、水に対する分散性にも優れる合成繊維パウダーを得ることができる合成繊維パウダーの製造方法および該製造方法により得られた合成繊維パウダーおよび水分散体が提供され、その工業的価値は極めて大である。