特許第6117600号(P6117600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6117600オーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117600
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】オーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム
(51)【国際特許分類】
   G11B 33/08 20060101AFI20170410BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20170410BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20170410BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G11B33/08 D
   F16F1/12 H
   F16F1/12 G
   F16F15/06 D
   H04R1/00 318A
【請求項の数】16
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-85892(P2013-85892)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-209398(P2014-209398A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】丸山 照雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 興三
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏喜
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−156802(JP,A)
【文献】 特開2005−147253(JP,A)
【文献】 米国特許第05905804(US,A)
【文献】 特表昭62−502001(JP,A)
【文献】 特開2008−199093(JP,A)
【文献】 特開2012−129575(JP,A)
【文献】 特開2002−343070(JP,A)
【文献】 特開平07−302981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 33/08
F16F 1/12
F16F 15/06
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材と、前記共振部材の内部に配置されており、前記オーディオ機器の荷重を支持する弾性部材で構成された荷重支持部と、この荷重支持部の床面側を支持する下部支持部材から構成されるオーディオ用インシュレータであり、前記共振部材の上部には前記オーディオ機器が配置されるものであって、
前記荷重支持部と前記共振部材の間に介在し、前記荷重支持部によって前記共振部材側へ押圧される中間部材と、
前記共振部材と前記中間部材との間に介在し、前記共振部材及び前記中間部材に点接触させた複数個の球状部材と、
一端が前記共振部材に固定され、前記オーディオ機器が前記共振部材の上部に配置されていない無負荷状態において他端が前記下部支持部材に掛かり留まり、前記下部支持部材から前記共振部材の離脱を防止するように構成された締結手段と、を備え、
前記球状部材が、前記無負荷状態において前記荷重支持部によって前記共振部材側へ押圧される前記中間部材により前記共振部材に対して押圧されるように構成されていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項2】
前記荷重支持部は、フローティング式インシュレータの要素部材であるスプリング、空気圧シリンダ、又は、磁性体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項3】
前記共振部材が、前記複数の球状部材と点接触する接触面であるテーパ部を具備することを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項4】
前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けられたスペーサ部と、このスペーサ部、又は、前記共振部材と点接触する前記複数個の球状部材が前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けられていることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項5】
前記共振部材は、前記荷重支持部を収納する筒型形状であり、内部底面側に前記テーパ部が形成されていることを特徴とする請求項記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項6】
前記中間部材と前記共振部材の間に複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させて、前記中間部材と前記共振部材の間を点接触させたことを特徴とする請求項記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項7】
前記共振部材と前記スペーサ部の間に複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させて、前記共振部材と前記スペーサ部の間を点接触で密着させたことを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項8】
前記複数個の球状部材は円周方向に概略3等分された角度で1個ずつ配置されていることを特徴とする請求項6、又は、7記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項9】
前記球状部材を上下で挟み込む2つの接触面の少なくとも一方はテーパ形状であることを特徴とする請求項6、又は、7記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項10】
前記締結手段が、前記中間部材を貫通して設けられたことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項11】
前記共振部材の内面、もしくは外面は軸方向に少なくとも3段以上の段差形状で形成されていることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項12】
請求項1記載のオーディオ用インシュレータと、
前記オーディオ用インシュレータに搭載されたスピーカーから構成されるオーディ・システムであって、
前記オーディオ用インシュレータと前記スピーカーの間に、前記スピーカー側の振動が前記共振部材に、及び、前記共振部材の振動が前記スピーカー側に伝達させる振動伝達部材が前記スピーカーに装着、もしくは、前記スピーカーと一体化して設けられていることを特徴とするオーディオ・システム。
【請求項13】
前記振動伝達部材は前記スピーカーの底面部、又は、この底面部と底面部以外の外表面部に設けられていることを特徴とする請求項12記載のオーディオ・システム。
【請求項14】
前記共振部材に搭載される前記スピーカーをメイン・スピーカーとした場合、
前記共振部材は前記メイン・スピーカーを補助する高音用サブ・スピーカーの振動板としての役割を担うことを特徴とする請求項12記載のオーディオ・システム。
【請求項15】
前記共振部材の高さがリスナーの耳の高さに近くなるように、スピーカー・スタンド、もしくは、このスピーカー・スタンドに相当する部材の上に前記共振部材が設置されていることを特徴とする請求項12記載のオーディオ・システム。
【請求項16】
オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材と、前記共振部材の内部に配置されており、前記オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と、この荷重支持部の床面側を支持する下部支持部材から構成されるオーディオ用インシュレータであって、
前記共振部材の上部には前記オーディオ機器が配置され、前記共振部材と前記オーディオ機器側の間間は点接触、あるいは、線接触させた複数個の球状部材が介在して装着されており、
前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けられたスペーサ部と、このスペーサ部、又は、前記共振部材と点接触する前記複数個の球状部材が前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けられていることを特徴とするオーディオ用インシュレータ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音質向上を目的として、スピーカー、アンプ、CDプレイヤー、アナログプレイヤー等に用いられるオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオの分野においては、原音に限りなく近い音の追及が、オーディオ機器である、アンプ、スピーカー、CDプレイヤー、ケーブルなどの各コンポーネンツにおいてなされてきた。アナログからデジタルの時代に移行し、様々な革新的技術が投入されたにもかかわらず、録音から再生に至る過程の技術にはまだ限界があって、人間の聴覚が知覚する程には、原音を忠実に再現できないのが現状である。オーディオ機器が原音(たとえばオーケストラの生演奏の音)に追従できない要因の一つに、振動がオーディオ機器に与える影響がある。周知のように、オーディオ機器は自ら振動を発生するとともに、外部から様々な振動の影響を受けている。アンプの場合は電源トランスの交流基本信号とその高調波成分による「うなり」が発生する。CDプレイヤーの場合はディスクを回すモーターが振動源となる。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。原音に複雑に重畳された外乱振動は、再びスピーカー本体を振動させる。この時発生する混変調歪(Inter-modulation distortion)がオーディオ機器の音質を劣化させるという仮説が提唱されているが、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が、再生音の品位を低下させる重要な要因であるという点は、間違いのない事実であると思われる。
【0003】
オーディオ機器の音質を改善する手段のひとつとして、インシュレータがある。アナログ時代、ハウリングを抑止するために、インシュレータは主にアナログプレイヤーと床面との間に設置され、振動の伝達を遮断する手段として必須のものであった。アナログからCDプレイヤーに移行して、インシュレータはハウリング防止対策ではなく、オーディオ機器の音質を改善し、リスナーの好みの音に調整するチューニング手段として用いられるようになった。インシュレータの適用により、音質が変ることは良く知られているが、その効果をもたらすメカニズムについては、理論的に十分解明されているとは言えず、経験的、試行錯誤的に開発されたものが多い。過去、インシュレータとして用いられているものに、次の二つのタイプがある。
【0004】
(1)フローティング方式インシュレータ
このタイプのインシュレータは、振動の遮断(シャットアウト)を目的としたもので、剛性の小さい緩衝体が用いられる。緩衝体として、ゴム材を用いたもの、スプリングコイルを用いるもの、空気を封じ込めたエアーフローティング・ボード、磁力の反発力を利用したものなどがある。
【0005】
(2)硬質材料によるインシュレータ
インシュレータのもうひとつのタイプは硬質材を用いるものである。近年、前述した緩衝体に代わり、オーディオ機器が発生する振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことを目的とした硬質材、たとえば、木材、樹脂、金属、セラミック、石英、珊瑚等を用いたものが考案され商品化されている。硬質式インシュレータの場合は、良質な音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニング手段として用いられる。たとえば、
(i)金属系材料
真鍮:キラリとした明るいブリリアントな響き
銅:重厚感があってパワフル
銀:芯のとおりが良く、音の立ち上がり・立ち下がりが素早い
金:ふくよかさで艶やか
(ii)木材系材料
アフリカ黒檀:固いが刺激的ではない音(楽器に使用される)
縞黒檀:アフリカ黒檀より柔らかい
桜:柔らかく芳純
上記(i) (ii)は、オーディオ機器の特性、あるいは再生する音楽ジャンルなどに合せて、リスナーの好みに合せて選択される。
【0006】
前述したフローティング方式と硬質材料式の両方の特徴を併せもつオーディオ用インシュレータが、本発明者の提案によって、特開2012-48808号(特許文献1)に開示(図25)されている。図25(a)は図25(b)のA-A断面図、図25(b)は正面断面図である。800はインシュレータ本体、801は上部スリーブ(風鈴部材)、802は下部スリーブ、803は下部スリーブ802の中央部に突設して形成された筒部、804は筒部803の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。上部スリーブ801は下部スリーブ802上部に配置され、上記両スリーブの内部に弾性部材であるスプリングコイル805が設けられている。806は上部スリーブ801の上端面でオーディオ機器(図示せず)を搭載する機器搭載部、807はインシュレータ設置面(床面)である。すなわち、上部スリーブ内部はスプリング構造部を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。上記インシュレータは、下記(1)(2)を「同時に併せ持つ」ことを特徴とするものである。
【0007】
(1)低周波可聴域での振動の完全遮断効果
搭載物の質量とばね剛性で決まる2次振動系の周波数特性により、可聴域における低周波振動のほぼ完全な遮断作用が得られる。この振動遮断効果によりオーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が再生音に与える影響(たとえば、混変調歪の発生)を回避できる。
【0008】
(2)従来硬質材料式インシュレータを超える高周波振動のアシスト効果
オーディオ機器を振動発生源として、オーディオ機器から伝搬される主振動の主
伝播経路をΦZとする。このΦZから分岐した共振部材(上部スリーブ801)の振動系ΦRは、前記ΦZに対して、並列に形成されている。スピーカーのボイスコイル反力によって、上部スリーブ801には高周波域における様々な振動モードが励起される。これらの共振モードに加えて、余韻・ゆらぎなどを有する風鈴の音響振動特性が音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上効果をもたらすのである。
【0009】
すなわち上記インシュレータは、従来のフローティング方式インシュレータと硬質材料式インシュレータの両方の長所を併せもつと共に、従来硬質材料式インシュレータをはるかに上回る音響特性の向上が図れる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-48808号
【特許文献2】特開2011-27249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さて、床面に設置したオーディオ機器に衝撃的な外乱荷重が加わったときに、オーディオ機器の水平方向の移動と転倒とをどうやって防止するかは実用上極めて重要な課題である。高価なオーディオ機器と周辺に配置された家具を損傷させるだけではなく、荷重が50〜100Kg、あるいはそれ以上の大型スピーカーでは人身事故にも繋がりかねない危険を有する。オーディオ機器の音質向上を図るために、オーディオ機器底面と床面の間にインシュレータを設置した場合、インシュレータには上記危険を回避する方策が要望される。
【0012】
図25で示した既提案インシュレータの場合、スプリングコイル805を内部に収納するために、インシュレータの高さは高くならざるを得ない。上記方式に限らず、ワイヤとU字状ばねによる方式(特許文献2)、あるいは、空気ばね、磁石などで構成されるフローティング方式は、硬質材料式と比べて、インシュレータの高さは構造上高くならざるを得ない。既提案インシュレータにおいて、スプリングコイル805の剛性を高くする程、オーディオ機器は剛体で支持された状態に近くなり、オーディオ機器の設置安定性を向上させることができる。但し、本研究の結果、詳細は後述するが、スプリングコイル805の剛性が高い程、たとえば、外径と高さが同一の条件では、スプリングコイル805の線径が大きい程、上部スリーブ801がスプリングコイル805から受ける振動減衰作用が増加することが分った。その理由は、スプリングコイル805の剛性が高い程、上部スリーブ801(風鈴)の支持条件は、弾性支持から剛体支持へ移り変わると共に、上部スリーブ801とスプリングコイル805の接触面の面積が増大するからである。すなわち、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上をもたらす風鈴効果は、スプリングコイル805の剛性が高い程低減する。すなわち、
(i)風鈴効果による音響特性の向上
(ii)インシュレータで支持されたオーディオ機器の設置安定性
上記(i)(ii)は相反する課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
具体的に、請求項1の発明は、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材と、前記共振部材の内部に配置されており、前記オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と、この荷重支持部の床面側を支持する下部支持部材から構成されるオーディオ用インシュレータであって、前記共振部材の上部には前記オーディオ機器が配置され、前記共振部材と前記オーディオ機器側の間、又は、前記共振部材と前記荷重支持部の間は点接触、あるいは、線接触させた複数個の部分接触部材が介在して装着されているものである。
【0014】
すなわち、本発明においては、共振部材のオーディオ機器側との支持条件、又は、前記共振部材の荷重支持部側(たとえばスプリングコイル)との支持条件を、複数個の部分接触部材を介在させて、すなわち、複数の離れた箇所で、「面接触→点接触、あるいは線接触」させることにより、オーディオ機器の設置安定性を維持した状態で、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させて、音響特性を向上させることができる。
【0015】
具体的に、請求項2の発明は、前記荷重支持部は、フローティング式インシュレータの要素部材であるスプリング、空気圧シリンダ、磁性体など、又は、スパイク式インシュレータの要素部材である円錐形状のスパイク、スパイク受け部など、硬質式インシュレータ要素部材である木材、樹脂、金属、セラミックなどから構成したものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させて、音響特性を向上させる効果は、フローティング式、スパイク式、硬質式を問わず、様々な形態のインシュレータに適用できる。
【0016】
具体的に、請求項3の発明は、前記荷重支持部と前記共振部材の間に介在する中間部材と、この中間部材、又は、前記共振部材と点接触、あるいは、線接触する複数個の部分接触部材を前記中間部材と前記共振部材の間に設けたものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材と荷重支持部の間に中間部材を介在させて、この中間部材と共振部材の間を「面接触→点接触、あるいは線接触」にすることにより、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させ、音響特性を向上させることができる。
【0017】
具体的に、請求項4の発明は、前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けられたスペーサ部と、このスペーサ部、又は前記共振部材と点接触する前記複数個の部分接触部材を前記共振部材と前記オーディオ機器の間に設けたものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材と前記オーディオ機器の間にスペーサ部を介在させて、このスペーサ部と共振部材の間を「面接触→点接触」にすることにより、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させ、音響特性を向上させることができる。
【0018】
具体的に、請求項5の発明は、前記共振部材は、前記荷重支持部を収納する筒型形状にしたものである。
すなわち、本発明においては、共振部材を筒型形状にすることで、風鈴の共振特性を持たせることができる。風鈴が糸で吊り下げられて妙なる音色を奏でることができるように、風鈴の支持条件を「面接触→点接触、あるいは線接触」にすることにより、その音響特性の向上が図れる。
【0019】
具体的に、請求項6の発明は、前記中間部材と前記共振部材の間に複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させて、前記中間部材と前記共振部材の間を点接触させたものである。
すなわち、本発明においては、前記中間部材と前記共振部材の狭い間隙部に部分接触部材である複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させることにより、前記共振部材の設置安定性を維持したままで、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させることができる。
【0020】
具体的に、請求項7の発明は、前記共振部材と前記スペーサ部の間に部分接触部材である複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させて、前記共振部材と前記スペーサ部の間を点接触で密着させたものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材と前記スペーサ部の間に複数個の球状部材を円周方向に分割して介在させることにより、前記共振部材の設置安定性を維持したままで、前記共振部材に働く振動減衰作用を低減させることができる。
【0021】
具体的に、請求項8の発明は、前記複数個の球状部材は円周方向に概略3等分された角度で1個づつ配置したものである。
すなわち、本発明においては、前記複数個の球状部材は円周方向に概略3等分された角度で3個配置される。この3個という数字は最低限必要で、かつ最適な支持軸数である。その理由は、2個以下では安定して支持できず、4個以上になると支持条件が不整定となり、振動伝達経路における非接触支持部分(ガタ)の存在により、歪の発生をもたらすからである。
【0022】
具体的に、請求項9の発明は、前記球状部材を上下で挟み込む2つの接触面の少なくとも一方はテーパ形状にしたものである。
すなわち、本発明においては、前記球状部材と前記テーパ部の接触点に軸方向荷重が加わったとき、前記共振部材には半径方向の分力が働く。前記球状部材は、円周方向に分割されて複数個配置されているため、各分力が相殺されることで共振部材には前記下部支持部材の中心軸に対して、同一の軸芯位置を保つようなセンタリング機能(復元力)が働くのである。
【0023】
具体的に、請求項10の発明は、前記中間部材を貫通して設けられた前記共振部材と前記下部支持部材の締結手段により、前記共振部材と前記下部支持部材の離脱を防止したものである。
すなわち、本発明においては、前記中間部材に貫通部を設けて、この貫通部を利用して前記共振部材と前記下部支持部材をボルト締結する。この構造により、前記荷重支持部(たとえば、スップリングコイル)と前記共振部材間の点接触の状態を維持したままで、前記共振部材と前記下部支持部材の相対的な移動と離脱を規制できる。
【0024】
具体的に、請求項11の発明は、オーディオ機器が発生する振動によって共振する概略円筒形状の共振部材と、前記共振部材の内部に配置されており、前記オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と、この荷重支持部の床面側を支持する下部支持部材から構成されるオーディオ用インシュレータであって、前記共振部材の内面、もしくは外面は軸方向に少なくとも3段以上の段差形状で形成したものである。
すなわち、本発明においては、共振部材の内面もしくは外面に複数段差のある形状にすることで、共振部材に多くの共振モードを持たせて、クセのない自然な音(風鈴効果)が得られるようにしたものである。また、風鈴の1次の共振点を十分に高くした場合でも、前記共振部材が単純な円筒形状の場合と比較して、「有効周波数帯域」でより多くの共振点の数を持たせることができる。
【0025】
具体的に、請求項12の発明は、スピーカーが発生する振動によって共振する共振部材を構成要素として有するインシュレータと、このインシュレータに搭載されたスピーカーから構成されるオーディ・システムであって、前記インシュレータと前記スピーカーの間に、前記スピーカー側の振動が前記共振部材に、及び、前記共振部材の振動が前記スピーカー側に伝達させる振動伝達部材が前記スピーカーに装着、もしくは、前記スピーカーと一体化して設けられ設けられたオーディオ・システムを構成するものである。
すなわち、本発明においては、スピーカーによって励起された前記インシュレータの共振は、前記スピーカーに装着された前記振動伝達部材によって、前記スピーカーから前記共振部材へ、かつ、この共振部材から前記スピーカーへ伝搬される。その結果、前記インシュレータの共振による高音域のアシスト作用は、前記振動伝達部材を装着しない場合と比較して、飛躍的に増強される。
【0026】
具体的に、請求項13の発明は、前記振動伝達部材は前記スピーカーの底面部、又は、この底面部と底面部以外の外表面部に設けられているものである。
すなわち、本発明においては、前記振動伝達シートは、共振部材と密着するスピーカー本体の底面部への装着は必須として、フロント側、リア側、側面部、天井部のすべてでなくてもよく、選択的にいずれかに装着しても高音域のアシスト作用を得ることができる。
【0027】
具体的に、請求項14の発明は、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材と、この共振部材の上部に搭載されるメイン・スピーカーと、前記共振部材の内部に配置された前記スピーカーの荷重を支持する荷重支持部と、この荷重支持部の床面側を支持する下部支持部材から構成されるオーディオ・システムにおいて、前記共振部材は前記メイン・スピーカーを補助する高音用サブ・スピーカーの振動板としての役割を担うように構成したものである。
すなわち、本発明においては、メイン・スピーカーの下に設置する共振部材は前記メイン・スピーカーの高周波域の音響特性をアシストするだけではなく、共振部材自身が高音用サブ・スピーカーとして、音圧を発生する振動板となる。本実施例を適用すれば、パワーアンプとスピーカーの間に設けるアッテネーター(トランス等を含む電気回路で構成)が不要である。回路特性で周波数特性が変わるアッテネーターと比べて、より自然な高音域の特性を得ることができる。
【0028】
具体的に、請求項15の発明は、前記共振部材の高さがリスナーの耳の高さに近くなるように、スピーカー・スタンド、もしくは、このスピーカー・スタンドに相当する部材の上に前記共振部材を設置したものである。
すなわち、本発明においては、前記メイン・スピーカーの下に設置する高音用サブ・スピーカーとしての共振部材の高さを、リスナーの耳の高さに近くなるように設置することで、より効果的に音響特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
前記共振部材と前記オーディオ機器の間、又は前記共振部材と前記荷重支持部の間に、点接触、あるいは線接触で密着する複数個の部材を介在させる。その結果、共振部材に働く振動減衰作用が低減し、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性を大幅に向上させることができる。たとえば、荷重支持部にスプリングコイルを用いた場合、風鈴効果を損なうことなく、スプリングコイルの剛性を高くすることができて、オーディオ機器の設置安定性を向上できる。また、前記共振部材の共振周波数の選択自由度が増して、様々な特性を有するスピーカーに対して、又は、リスナーの好みに合わせて、本インシュレータの効果的な適用が可能となる。その効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態1に係るオーディオ用インシュレータを示す図で、図1(a)は上面図、図1(b)は正面断面図。
図2図2(a)は図1(b)のAA断面図、図2(b)は図1(b)のBB断面図。
図3図1(b)の球状部材近傍の部分拡大図。
図4】本発明の実施形態1のインシュレータ上部にオーディオ機器が搭載されていない無負荷の状態を示す正面断面図。
図5図5(a)は本発明実施形態1のインシュレータにおいて、上部スリーブにインパルス加振を与えたときの音圧の過渡応答特性を示すグラフ、図5(b)は従来インシュレータを対象にして、図5(a)と同一条件における音圧のインパルス過渡応答特性を示すグラフ。
図6】本発明の実施形態2に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図7】本発明の実施形態3に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図7(a)は図7(b)のAA断面図、図7(b)は図7(a)のBB断面図。
図8】本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図8(a)は図8(b)のAA矢視図、図8(b)は正面断面図。
図9】本発明の実施形態5に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図9(a)はインシュレータ本体部の上面図、図9(b)は正面断面図(一部は図9(a)のAA断面図)。
図10】上述した実施形態5に係るもので、図10(a)は前記インシュレータ本体部と勘合するスペーサ本体の上面図、図10(b)は正面断面図。
図11】上述した実施形態5に係るもので、図11(a)は、スピーカー本体部の底面にスペーサ部が装着されている状態を示す図、図11(b)はスペーサ部に装着する前のインシュレータ本体部を示す図、図11(c)はスペーサ部にインシュレータ本体部が装着完了した状態を示す図、図11(d)は図11(c)のDD拡大図。
図12】本発明の実施形態6に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図13】本発明の実施形態7に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図13(a)は上面図、図13(b)は正面断面図、図13(c)は図13(b)のAA断面図。
図14】本発明の実施形態8に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図15】本発明の実施形態9に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図16】本発明の実施形態10に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図17】本発明の実施形態11に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図18】本発明の実施形態12に係るオーディオ・システムで、図18(a)は正面図、図18(b)は側面断面図である。
図19】本発明の実施形態13に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図20】本発明の実施形態14に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図。
図21図21(a)は本開発インシュレータで支持されたスピーカー・システムを示す正面断面図、図21(b)はスピーカー・システムを単純化した1次元解析モデルを示す正面断面図。
図22図21(b)における共振部材を分布定数モデルに置き換えたモデル図。
図23】周波数に対する平板変位x1の解析結果のグラフ。
図24】平板から1m離れた位置における、周波数に対する音圧レベルを求めた解析結果で、図24(a)は、共振部材の粘性係数R2=0.077Ns/m 、図24(b)は、粘性係数がR2 =0.0257Ns/m のグラフ。
図25】既提案オーディオ用インシュレータを示すもので、図25(a)は上面図、図25(b)は正面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態1に係るオーディオ用インシュレータであり、上部にスピーカーを設置した状態を示すものである。図1(a)は上面図、図1(b)は正面断面図、図2(a)は図1(b)のAA断面図、図2(b)は図1(b)のBB断面図、図3図1(b)の後述する球状部材16bの部分拡大図である。図4はインシュレータ上部にオーディオ機器が搭載されていない無負荷の状態を示す図である。
【0032】
11は上部スリーブ(共振部材)、12は下部スリーブ(下部支持部材)、13は下部スリーブ12の中央部に設置されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。本実施形態1では、上部スリーブ11と下部スリーブ12は音響用材料として良好な特性を有する真鍮を用いた。
上部スリーブ11は、後述する各実施例も同様であるが、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材である。本実施形態では、共振部材の共振現象を利用して、オーディオ機器の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に構成している。上部スリーブ11は下部スリーブ12上部に配置され、両スリーブ11、12の内部に弾性部材であるスプリングコイル14が設けられている。サージング防止部材13は、スプリングコイル14の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。15は中間スペーサ(中間部材)、16a、16b、16cは球状部材(点接触する部分接触部材)である。17a、17b、17cは前記中間スペーサの上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部、18a、18b、18cは組み立て時の前記球状部材の離脱を防止するための外壁部である。19は上部スリーブ11の内面底部の形成されたテーパ部であり、常時前記球状部材と点接触している。
以下示す他の実施形態も同様であるが、前記球状部材のように、2つの部材間に介在して、いずれかの部材と点接触、あるいは線接触する機構要素を「部分接触部材」と呼ぶことにする。
【0033】
20、21はスプリングコイル14を装着した状態で、中間スペーサ15と下部スリーブ12の軸芯が一致した状態を保つための両部材に形成された位置決め部である。22は上部スリーブ11と下部スリーブ12の離脱を防止するための締結ボルト(締結手段)、23はこの締結ボルトの頭部、24は前記締結ボルトと前記締結ボルトの頭部を収納する下部スリーブ12に形成された筒部、25は上部スリーブ11に形成された締結ボルト22の締結部、26は中間スペーサ15の中央部に形成された前記締結ボルトを貫通させる貫通部、27は前記上部スリーブの開口端である。28は上部スリーブ11の上端面でオーディオ機器29を搭載する機器搭載部、30はインシュレータ設置面(床面)である。中間スペーサ15に前記締結ボルトの貫通部26を設けて、上部スリーブ11と下部スリーブ12を締結することにより、上部スリーブ11と下部スリーブ12の離脱を防止することができる。すなわち、前記上部スリーブ内部は前記スプリングコイル、前記サージング防止部材、前記中間スペーサ、前記球状部材を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。風鈴が糸で吊り下げられて妙なる音色を奏でることができるように、上部スリーブ11の上端部は完全固定ではなく、X軸、Y軸、Z軸方向は3個の前記球状部材と中間スペーサ15を介在して、スプリングコイル14により弾性支持されている。図4において、想像線で囲まれた部分31は搭載物の荷重を支持する箇所で、スプリングコイルなどから構成されるこの部分を荷重支持部と総称することにする。本実施形態では、この荷重支持部にはスプリングコイルを用いたが、後述する実施形態も含めて、前記荷重支持部は、フローティング式インシュレータの要素部材であるスプリング、空気圧シリンダ、磁性体など、又はスパイク式インシュレータの要素部材である円錐形状のスパイク、スパイク受け部など、硬質式インシュレータ要素部材である木材、樹脂、金属、セラミックなどが適用できる。
【0034】
上部スリーブ11の上面に設置されるスピーカーのボイスコイル反力は、図1a、図1bに示すように、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向から本インシュレータを加振する。すなわち、各軸はfx、fy、fzの加振力成分を有し、ベクトルで表現すれば、F=fx・i+fY・j+fz・kである。前記球状部材と前記中間スペーサを介在して、スプリングコイル14で支持された上部スリーブ11には、前記加振力Fによって、高周波数における様々な振動モードが励起される。これらの共振モードに加えて、余韻・ゆらぎなどを有する風鈴(上部スリーブ11)の音響振動特性が音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上効果(風鈴効果)をもたらすのである。
【0035】
さて、特開2012-48808号(特許文献1)に開示(図25)されている従来提案のオーディオ用インシュレータでは、スプリングコイルの上端面に直接上部スリーブが装着されている。オーディオ機器を振動発生源として、オーディオ機器から伝搬される主振動の主伝播経路をΦZとする。すなわち、従来提案における主伝播経路をΦZは、「オーディオ機器(図示せず)→上部スリーブ801→スプリングコイル805→床面807」である。このΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有する共振部材(上部スリーブ801)は、上記ΦZに対して並列に配置されている。上部スリーブ801の底面はスプリングコイル805上面の円形全周面で密着しており、上部スリーブ801はスプリングコイルから大きな振動減衰作用を受ける。
【0036】
本発明の実施例における主伝播経路をΦZは、図1(b)において、「オーディオ機器29→上部スリーブのテーパ部19→球状部材16→中間スペーサ15→スプリングコイル14→床面30」である。但し、「上部スリーブのテーパ部19→球状部材16」の振動伝達経路は点接触であり、上部スリーブの底面がスプリングコイル上面の円形全周面と密着していた従来例(図25)と比べて、上部スリーブ11がスプリングコイル14から受ける振動減衰作用は大幅に低減する。
球状部材16の下部は窪み部17に収納されて半径方向(求心方向)の移動は規制されている。また窪み部17が形成された中間スペーサ15は、スプリングコイル14と固定されている。球状部材16とテーパ部19の接触点に軸方向荷重が加わったとき、上部スリーブ11には半径方向の分力が働く。本実施形態では、前記球状部材は円周方向に3等分されて軸対称配置されているため、各接触点における半径方向の3つの分力は軸対称である。各分力が総和された結果、上部スリーブ11には、スプリングコイルの中心位置(すなわち、インシュレータ本体の中心軸位置)を保つようなセンタリング機能(復元力)が働くのである。
本実施形態では、前記球状部材の外周面に接触するようにテーパ部19の角度を設定した。このテーパ部の角度を前記球状部材の内周面に接触するように設定しても、上部スリーブ11には同様にセンタリング機能を働かすことができる。この場合は、前記球状部材の半径方向(遠心方向)移動は外壁部18によって規制することができる。(図示せず)
上部スリーブ11に上記センタリング機能を働かせるためには、前記球状部材を円周方向で等分割配置させる必要はなく、また同一円の円周上でなくてもよい。要は各球状部材の水平方向分力が概略相殺されるように、複数個(3個以上)の球状部材を配置すればよい。
【0037】
実施形態1では、各球状部材(16a、16b、16c)は円周方向に3等分されて設置されており、上部スリーブ11の軸方向位置と軸方向の復元力も軸対称である。図4の無負荷の状態において、上部スリーブ11と下部スリーブ12は締結ボルト22によって与圧をかけた状態で締結されている。そのため、球状部材16はいかなる場合でも窪み部17から離脱することはない。
【0038】
上部スリーブ11は3個の球状部材(16a、16b、16c)で支持しているが、3個以上ならば、上部スリーブ11に加わるX、Y、Z方向の荷重に対して、かつXθ、Yθ方向のモーメント荷重に対して上部スリーブ11を安定して支持できる。本実施形態インシュレータにおいては、この3個という数字は最低限必要で、かつ、最適な支持軸数であることが分った。その理由は、2個以下では安定して支持できず、4個以上になると支持条件が不整定となり、振動伝達経路における非接触支持部分(ガタ)の存在により、音響特性上の歪の発生をもたらす可能性が生じるからである。
【0039】
図5(a)は本発明実施形態1のインシュレータにおいて、上部スリーブ11の側面にインパルス加振を与えたときの音圧の過渡応答特性を示すものである。音圧を測定する集音マイクはインシュレータ本体から250mmの位置に設置した。図5(b)は、従来インシュレータ(図25)を対象にして、上記同一条件における音圧のインパルス過渡応答特性を示すものである。本発明実施形態1に適用した上部スリーブ11と従来インシュレータ(図25)に適用した上部スリーブ801は同一材料である。また前記スプリングコイル、前記サージング防止部材、前記下部スリーブなどは、すべて同一仕様である。図5(a)と図5(b)の実験結果の比較から、本発明実施形態1における上部スリーブ11の振動減衰時間は、従来インシュレータと比較して大幅に伸びることが検証された。バネと質量とダンパーで構成される振動系において、ダンパーの減衰作用が小さい程、共振点のピーク値は高くなる。この点については、[補足1]で理論的に検証する。したがって本発明の適用により、下記の効果が得られる。
すなわち、同一の剛性を有するスプリングコイルを使用した場合、上部スリーブの支持条件を「面接触→点接触」に変えることより、上部スリーブに働く振動減衰作用が低減し、音響特性を向上させる風鈴効果は大幅に向上する。
さらに、上部スリーブ(共振部材)に働く振動減衰作用が低減することを利用して、以下示す効果(1)(2)が得られる。
【0040】
(1)オーディオ機器の設置安定性向上
本研究によれば、図25の既提案インシュレ−タにおいて、スプリングコイルの剛性が高い程、たとえば、外径と高さの同一条件では、スプリングコイルの線径が大きい程、上部スリーブ801がスプリングコイル805から受ける振動減衰作用が増加することが分った。その理由は、前述したように、スプリングコイル805の剛性が高い程、上部スリーブ801(風鈴)の支持条件は、弾性支持から剛体支持へ移り変わると共に、上部スリーブ801とスプリングコイル805の接触面の面積が増大するからである。すなわち、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などの音響特性向上をもたらす風鈴効果は、スプリングコイルの剛性が高い程低減する。一方、音質向上を図るために、スピーカーと床面の間にインシュレータを設置したオーディオ・システムにおいて、スピーカーに地震波などによる衝撃的な外乱荷重が加わったときに、スピーカーの転倒をいかにして防止するかは実用上極めて重要な課題である。但し、スプリングコイルを用いたフローティング式インシュレータの場合、スプリングコイルの剛性を高くする程、スピーカーは剛体で支持された状態に近くなり、スピーカーの設置安定性は向上する。すなわち、
(i)風鈴効果による音響特性の向上
(ii)インシュレータで支持されたオーディオ機器の設置安定性
上記(i)(ii)は相反する課題であった。本発明を適用すれば、スプリングコイルの剛性を高くしても、上部スリーブがスプリングコイルから受ける振動減衰作用を低減できる。その結果、風鈴効果を同一に維持したままで、スピーカーの設置安定性を向上できる。
【0041】
(2)風鈴の共振周波数の選択自由度向上
風鈴効果をもたらす風鈴(上部スリーブ)の共振周波数(1次〜n次)は、オーディオ機器(たとえば、スピーカー)の特性に合わせて選択する。高周波領域における多くの共振モード(倍音)の存在は、ステレオ再生における音像の定位感(フォーカス感)、分解能等を大きく向上させる。また、より多くの共振モードを有する程クセのない自然な音が得られる。石英、チタンなど高価で難加工性の複数部材を積層することで、多様な周波数特性を得るように構成された硬質インシュレータと異なり、本インシュレータでは風鈴部材の形状を変えることにより、共振周波数の数と分布は自在に設定できる。たとえば、周波数15000〜20000Hzは人の可聴域を超える場合が多いが、楽器の倍音成分が可聴域以上にある場合でも、再生音のクオリティーに少なからぬ影響を与えることが知られている。したがって、15000〜20000Hzの範囲、あるいは、20000Hz以上に存在する共振ピークは、ステレオ再生における音像の定位感、分解能等の音響特性の向上に有効と考えてよい。但し周波数が高くなる程、風鈴の振動は減衰し易い。上部スリーブ(風鈴)に働く振動減衰作用を大幅に低減できる本実施例を適用することにより、1次〜n次の共振周波数の選択自由度を増すことができる。
【0042】
上記(1)(2)の効果は、オーディオ・システムに要求される条件に合わせて選択すれ
ば良い。また、部分接触部材である球状部材16a、16b、16cは、真鍮、鋼、セラミクス、石英、樹脂など様々な固有音響インピーダンスの異なる素材を選択できる。これらの素材の選択により、上部スリーブに働く振動減衰作用(風鈴効果)の微調整も可能である。たとえば、風鈴効果を向上させるのではなく、逆に振動減衰作用を増長させて、風鈴効果を抑制する作用を持たせることも可能である。
【0043】
本実施形態では、前記各球状部材と上部スリーブ11の内面底部に形成されたテーパ部19は、前記上部スリーブの内周面に近いところに設けた。後述する各実施例も同様であるが、前記各球状部材とその対抗面の前記テーパ部を前記上部スリーブの軸芯に近接したところに設ければ、前記上部スリーブの支持条件は1点支持に近くなる。その結果、前記上部スリーブが前記スプリングコイル側から受ける振動減衰作用をさらに低減できる。(図示せず)
【0044】
[第2実施形態]
図6は、本発明の実施形態2に係るオーディオ用インシュレータを示すものである。
実施形態1同様に、音響特性を向上、又は、インシュレータに搭載されたオーディオ機器の設置安定性を向上させるために、スプリングコイルの上端面と上部スリーブ間に汎用の部分接触部材である玉軸受を装着して、上部スリーブに働く振動減衰作用の低減を図ったものである。111は上部スリーブ(共振部材)、112は下部スリーブ(下部支持部材)、113はサージング防止部材(振動発生防止手段)、114は弾性部材であるスプリングコイル(荷重支持部)、115は中間スペーサ(中間部材)、116は軸受部(想像線で示す)、117は前記中間スペーサの上面に形成された前記軸受部を収納する中間スペーサ側窪み部、118、119はスプリングコイル114を装着した状態で、下部スリーブ112と中間スペーサ115の軸芯が一致した状態を保つための位置決め部である。120は上部スリーブ111の底面に形成された前記軸受部を収納する上部スリーブ側窪み部である。121は前記上部スリーブの開口端、122は前記上部スリーブの上端面でオーディオ機器(図示せず)を搭載する機器搭載部、123はインシュレータ設置面(床面)である。
【0045】
玉軸受部116に適用するころがり軸受は、ラジアル方向とスラスト方向を支持できるならばどの様な形態でもよく、たとえば、汎用の標準化された玉軸受が適用できるため、加工部品数の削減とインシュレータ構造の簡素化をおおいに図ることができる。
【0046】
[第3実施形態] 図7は、本発明の実施形態3に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図7(a)は図7(b)のAA断面図、図7(b)は図7(a)のBB断面図である。実施形態1、2同様に、音響特性を向上させる風鈴効果の向上、又は、オーディオ機器の設置安定性を向上させるために、中間スペーサとスプリングコイルの固定方法に工夫を施したものである。すなわち、スラスト方向は球状部材、ラジアル方向は3角柱によって共に点接触により両部材は固定されている。
【0047】
151は上部スリーブ(共振部材)、152は下部スリーブ(下部支持部材)、153はサージング防止部材(振動発生防止手段)、154は弾性部材であるスプリングコイル(荷重支持部)、155は部分接触部材である中間スペーサ(中間部材)である。156は前記中間スペーサの3角柱部、157は前記中間スペーサの円柱部、158は前記上部スリーブに形成された前記中間スペーサの円柱部157を収納する窪み部である。前記中間スペーサの3角柱部156は、スプリングコイル154の内面と円周上3点で点接触している。159a、159b、159cは前記中間スペーサの円柱部157の底面に圧入された部分接触部材である球状部材であり、スプリングコイル154の上面と円周上3点で点接触している。160はスプリングコイル154の下端部の位置決め部である。スプリングコイル154の上端部の位置決めは、3角柱部156の頂点161a、161b、161cとスプリングコイル154の内面との3点接触によりなされる。162は前記上部スリーブの開口端、163は前記上部スリーブの上端面でオーディオ機器(図示せず)を搭載する機器搭載部、164はインシュレータ設置面(床面)である。
【0048】
本実施形態3では、前記スプリングコイルと前記上部スリーブ間に装着する中間スペーサの軸方向厚みを薄くできるため、インシュレータ本体の高さを小さくできる。
【0049】
[第4実施形態]
図8は、本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、図8(a)は図8(b)のAA矢視図、図8(b)は正面断面図である。音響特性を向上させる風鈴効果を向上させるために、「上部スリーブ底面とスプリングコイル間の点接触による振動減衰作用の低減」だけではなく、「上部スリーブ上面とオーディオ機器間の点接触による振動減衰作用の低減」を図ったものである。
【0050】
201は上部スリーブであり、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材である。202は下部スリーブ(下部支持部材)、203はスプリングコイルなどで構成される荷重支持部(2点鎖線で示す)である。この荷重支持部203は、たとえば、図2に示す荷重支持部31を構成する部品の集合体等が適用できる。204はオーディオ機器であるスピーカー、205は前記スピーカーの底面に固定されたスパイク支持部(スペーサ部)、206a、206b、206cはこのスパイク支持部に設けられたスパイク(点接触する部分接触部材)、207a、207b、207cは前記スパイク支持部と前記スピーカーを締結するボルト、208a、208b、208cは上部スリーブ201上面に形成されたスパイク受け部である。前記3個のスパイク、及び前記スパイク受け部は、円周上で等分角に配置されている。「スピーカー204→スパイク206→スパイク受け部208」の経路を経て伝搬された振動は、前記上部スリーブ(風鈴)を加振して、高周波振動を励起させる。上部スリーブに働く振動減衰作用は、次の2つの条件の影響を受ける。
【0051】
(i)上部スリーブ底面と荷重支持部203(たとえば、スプリングコイル)間の接触状態
(ii)前記上部スリーブ上面とオーディオ機器204との接触状態
上記(i)については、実施形態1〜3でその方策と効果を説明済である。本実施例では、上記(ii)に注目したもので、スピーカー側の振動は、3個のスパイクを介在しても、十分に上部スリーブに伝搬される。また、逆に上部スリーブ側の振動(風鈴の共振)は、3個のスパイクを介在しても、十分にスピーカー側に伝搬される。一方、上部スリーブに働く振動減衰作用は、3個のスパイクを介在することで大いに低減される。
【0052】
スピーカー側と上部スリーブ間にスパイクを介在することにより、高周波の振動伝達ゲインは低減するが、それ以上に上部スリーブに働く振動減衰作用を抑制する効果の方が大きい。すなわち、2つの物質間の振動伝搬作用は点接触でも支障はないが、各物質に働く振動減衰作用は両物質間の接触面積の大きさが大きい程大きいという点を利用したものである。上記(i) (ii)を組み合わせれば振動減衰作用の低減効果はベストであるが、上記(ii)だけでも十分な効果が得られる。
【0053】
本実施形態4では、前記スパイク支持部と前記スピーカーを締結するために、複数個のボルトを用いたが、スピーカーに予め設けられている支持部用(スパイク、コロ等)のねじ部(スピーカー底面に3〜4箇所)を利用してもよい。
【0054】
本実施形態の配置とは逆に、スパイク支持部205を前記上部スリーブに装着し、スパイク(206a〜206c)を逆スパイクの配置にして、スピーカー204の底面に設けられたスパイク受け部に前記スパイクの先端が密着する構成でもよい。また、先端が針状のスパイクの代わりに、頭部がたとえば球面形状のボルトをスパイク支持部205に締結するような構成でもよい。(図示せず)
【0055】
[第5実施形態]
図9図11は、本発明の実施形態5に係るオーディオ用インシュレータを示すもので、風鈴効果を向上させるために、「上部スリーブ上面とオーディオ機器間の面接触による振動減衰作用の低減」を図ると共に、前記インシュレータと前記オーディオ機器を着脱可能に一体化することにより、前記インシュレータで支持された前記オーディオ機器の設置安定性の向上を図ったものである。
【0056】
図9(a)はインシュレータ本体部の上面図、図9(b)は正面断面図(一部は図9(a)のAA断面図)である。図10(a)は前記インシュレータ本体部と勘合するスペーサ本体の上面図、図10(b)は正面断面図である。本実施形態5は、たとえば、地震波による水平方向、垂直方向の両方に大きな加速度が加わることで、スピーカー本体の一部、あるいは全体が床面から浮上した場合でも、インシュレータとスピーカーは離脱しない構造にできる。図9(a)、図9(b)において、401はインシュレータ本体部、402は上部スリーブであり、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材である。403は下部スリーブ(下部支持部材)、404は上部スリーブ402の上端面中央に形成された凸部である。上部スリーブ402に加わるオーディオ機器の荷重をスプリングコイルで支持する場合は、実施形態1〜3で示したように、前記スプリングコイルは上部スリーブ402に収納されるように構成される。本実施形態は前記スプリングコイルを含む各種フローティング方式、及び硬質材料方式の様々な形態のインシュレータに適用できる(荷重支持部は図示せず)。
【0057】
405aと405bは、前記凸部側面の前記外周部上端面側に形成された溝部で、それぞれ左右対称に形成されている。また、406a、406bは溝部を形成しない開口部である。407a、407b、407cは部分接触部材である球状部材(点接触部材)、408a、408b、408cは前記凸部の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。
【0058】
図10(a)、図10(b)において、409はスペーサ部(勘合部材)、410はインシュレータ本体部に形成された凸部404と着脱可能に形成された凹部、411はボルト、412はボルトの頭部、413はネジ部である。414a、414bは、凹部410の下端面において、左右対称に形成された突出部、415は凹部410の内面に形成されたテーパ部である。
【0059】
図11は、スピーカーに固定したスペーサ部にインシュレータ本体部を装着する手順を示す図である。図11(a)は、スピーカー本体部416の底面にスペーサ部409がボルト411により装着されている状態を示している。図11(b)に示すように、スペーサ部409にインシュレータ本体部401を軸方向に挿入し、挿入後90度回転させることで、インシュレータ本体部401はスペーサ部409に対して離脱不可の状態で勘合される。このとき、開口部406a、406b(図9(a)の凸部404の溝部を形成しない箇所)が、スペーサ部409の突出部414a、414bに対して、一致した角度となるように位置決めして、インシュレータ本体部401をスペーサ部409に挿入する。図11(c)に、スペーサ部409にインシュレータ本体部401が装着完了した状態を示す。図11(d)は図11(c)のDD拡大図である。図11(d)に示すように、本実施例では前記上部スリーブの上端面外周部417とスペーサ部409の間にΔH1の軸方向隙間、前記凸部の側面とスペーサ部409の間にΔH2の半径方向隙間を持たせている。このΔH1とΔH2の隙間を与えることで、前記上部スリーブは球状部材407a、407b、407cを介在して、点接触でスペーサ部409と勘合する。すなわち、第4実施形態同様に、前記上部スリーブ上面とオーディオ機器との接触が、前記上部スリーブにもたらす振動減衰作用を低減できる。
【0060】
[第6実施形態]
図12は、本発明の実施形態6に係るオーディオ用インシュレータを示すものである。風鈴効果を向上させるために、実施形態5同様に、「上部スリーブ上面とオーディオ機器間の面接触による振動減衰作用の低減」を図ると共に、上部スリーブに加わるオーディオ機器の荷重をスパイク方式インシュレータで支持したものである。また、本実施例は、実施形態5同様に、インシュレータとスピーカーは離脱しない一体化構造にできる。
【0061】
451はインシュレータ本体部、452は上部スリーブ(共振部材)、453は下部ベース(下部支持部材)、454は上部スリーブ452の上端面中央に形成された凸部である。455a、455bは前記凸部側面の前記外周部上端面側に形成された溝部で、それぞれ左右対称に形成されている。前記凸部側面に形成された溝部を有しない開口部も、実施形態5同様に左右対称に形成されている(図示せず)。456a、456bは部分接触部材である球状部材(点接触部材)、457a、457bは前記凸部の上面に形成された前記球状部材を収納する窪み部である。458はスペーサ部(勘合部材)、459は凸部454と着脱可能に形成された空隙部である。460はボルト、461はボルトの頭部、462はネジ部であり、前記スペーサ部はオーディオ機器底面にボルト460を利用して固定される。
【0062】
463a、463bは、スペーサ部458の下端面において、左右対称に形成された突出部、464はスペーサ部458の内面に形成されたテーパ部である。実施形態5同様に、スペーサ部458にインシュレータ本体部451を軸方向に挿入し、挿入後90度回転させることで、インシュレータ本体部451はスペーサ部458に対して離脱不可の状態で勘合される。また実施形態5同様に、前記上部スリーブと前記スペーサ部は球状部材456a、456b、456c(456cは図示せず)を介在して、点接触でのみスペーサ部458と勘合する。そのため、前記上部スリーブ上面とオーディオ機器との接触が、前記上部スリーブにもたらす振動減衰作用を低減できる。
【0063】
465はオーディオ機器、466はスパイク部(荷重支持部)であり、467はこのスパイクねじ部、468はスパイク円筒部、469はスパイク円錐部である。スパイク部466は、ねじ部467により上部スリーブ452底面に固定される。スパイク円錐部の先端は下部ベース453のスパイク受部に収納される。本構成において、スパイク部466と一体化した前記上部スリーブ(風鈴)は、上部は前記球状部材により3点接触でスペーサ部458と接触し、下部は1点接触により前記下部ベース(床面)と接触する。したがって、前記上部スリーブは振動減衰作用をもたらす面接触の箇所を有しない。
【0064】
実施形態1〜3では、オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部(図4の鎖線31)にスプリングコイルを用いた場合を示した。スプリングコイル方式を含むフローティング方式の場合は、低周波数域(たとえば、数Hz〜数十Hz)における床面とオーディオ機器間の振動遮断が図れる。しかし、スパイク方式を含む硬質インシュレータの場合は、低周波数域での振動遮断は図れない。しかしオーディオ機器が再生する音楽のジャンルによっては、たとえば、ロック音楽にように、床面を鳴らすことで低音域の音響効果を得る場合は、硬質インシュレータの方が有利な場合もある。この場合でも、本実施形態6の適用により、高音域での風鈴効果を得ることができる。
【0065】
本実施形態6では円錐形状のスパイクを適用したが、円錐形の先端がオーディオ機器側に形成した逆スパイク形状でもよい。あるいは円錐形状ではなく、球体などでもよい。あるいは、木材、樹脂、金属、セラミック等で構成される硬質インシュレータなども適用できる。下部ベース453と、前記上部スリ−ブのスパイクねじ部467に相当する箇所を剛体軸で連結すれば、上部スリーブと下部ベースは一体化構造になるため、インシュレータ本体として取り扱いが容易となる。この方法により、ベース、コントラバスなどの楽器下端部に装着されたエンドピンを支持する楽器用インシュレータとしても適用できる。この場合、図12のボルト460を利用して、エンドピンを支持する受け皿を設置すればよい。
【0066】
[第7実施形態]
図13は、本発明の実施形態7に係るオーディオ用インシュレータを示すものである。上部スリーブを弾性体(スプリングコイル)ではなく剛体軸で支持すると共に、この剛体軸と前記上部スリーブ内面を点接触で密着させることにより、上部スリーブに働く振動減衰作用の低減を図ったものである。
【0067】
図13(a)は上面図、図13(b)は正面断面図、図13(c)は図13 (b)のAA断面図である。701は上部スリーブであり、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材である。702は中心軸(荷重支持部)である。本実施例では、上部スリーブ701は音響用材料として良好な特性を有する真鍮を用いた。上部スリーブ701は中心軸を収納するように設けられている。703は前記中心軸の上部円柱部(中間部材)、704a、704b、704cは部分接触部材である球状部材である。705a、705b、705cは前記上部円柱部に形成された前記球状部材を収納する窪み部、706a、706b、706cは組み立て時の前記球状部材の離脱を防止するための外壁部である。707は上部スリーブ701の内面底部の形成されたテーパ部であり、常時前記球状部材に点接触している。708は上部スリーブ701と中心軸702の離脱を防止するための締結ボルト、709はこの締結ボルトの頭部、710は前記締結ボルトと前記締結ボルトの頭部を収納する前記中心軸に形成された筒部、711は上部スリーブ701に形成された締結ボルト708の締結部、712は中心軸702の中央部に形成された前記締結ボルトを貫通させる貫通部である。713は上部スリーブ701の上端面でオーディオ機器714を搭載する機器搭載部、715はインシュレータ設置面(床面)である。716は中心軸702の下部ベース(下部支持部材)、717は前記下部ベースの外周面と上部スリーブ701の内周面との間隙部である。この間隙部は本インシュレータにオーディオ機器が搭載された状態で、半径方向の狭い隙間ΔH2を保っている。また前記中心軸の筒部710内に収納された前記ボルトの頭部709と前記中心軸の間は、オーディオ機器が搭載された状態で、軸方向の狭い隙間ΔH1を保っている。すなわち、前記上部スリーブの内部は前記中心軸、前記球状部材を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。上部スリーブ701の上端部は、前記中心軸の上部円柱部703に対して、3個の前記球状部材により、3点のみの点接触で支持されている。
【0068】
本発明の実施形態7における主伝播経路をΦZは、図13bにおいて、「オーディオ機器714→上部スリーブのテーパ部707→球状部材704→中心軸702→床面715」である。但し、「上部スリーブのテーパ部707→球状部材704」の振動伝達経路は点接触である。すなわち、上部スリーブの底面を剛体と面で密着する場合と比べて、上部スリーブが前記中心軸から受ける振動減衰作用は大幅に低減する。球状部材704の上部には、テーパ部707との接触面に加わる外力によって、中心に向かう半径方向分力が働く。また、球状部材704の下部は窪み部705に収納されて半径方向の移動は規制されている。したがって、上部スリーブ701には、中心位置を保つようなセンタリング機能(復元力)が働く。実施例では、各球状部材は円周方向に3等分されて設置されており、上部スリーブに働く軸方向・半径方向の復元力も軸対象である。
【0069】
前記上部スリーブは前記中心軸に対して、軸方向はΔH1、半径方向はΔH2の隙間を常に保っているために、両部材はいかなる場合でも分離することは無い。また前記球状部材が前記窪み部から離脱しない範囲で前記軸方向隙間ΔH1、半径方向隙間ΔH2が設定されている。前記上部スリーブは3個の球状部材で支持しているが、この3個という数字は最低限必要で、かつ本実施例インシュレータにおいては最適な支持軸数であることが分った。その理由は、2個以下では安定して支持できず、4個以上になると支持条件が不整定となり、振動伝達経路における非接触支持部分(ガタ)の存在により、音響特性上の歪の発生をもたらす可能性が生じるからである。この点は、前述した実施形態1の場合と同様である。
【0070】
本実施形態7の場合も、前述した実施形態6に係るオーディオ用インシュレータ同様に低周波数域での振動遮断は図れない。しかし、たとえば、ロック音楽にように、床面を鳴らすことで低音域の音響効果を得る場合は、高音域での風鈴効果を利用して音響特性の向上を図ることができる。また、ベース、コントラバス、チェロなどの楽器下端部に装着されたエンドピンを支持する楽器用インシュレータとしても適用できる。
【0071】
[第8実施形態]
図14は、本発明の実施形態8に係るオーディオ用インシュレータの上部スリーブ形状を示すものである。前述したように、高周波領域における多くの共振モードの存在は、ステレオ再生における音像の定位感(フォーカス感)、分解能などの音響特性を大きく向上させる。本実施例は、上部スリーブの内面を複数段差のある形状にすることで、上部スリーブに多くの共振モードを持たせて、クセのない自然な音(風鈴効果)が得られるようにしたものである。501は上部スリーブであり、オーディオ機器が発生する振動によって共振する共振部材である。502は下部スリーブ(下部支持部材)、503は荷重支持部(想像線)、504は本インシュレータに搭載されるオーディオ機器である。前記上部スリーブの内面は、円筒部材の内径が前記上部スリーブの底面に向かって、505a、505b、505c、505dに示すように、断続的に小さくなるように形成されている。この段差形状は、前記上部スリーブの上端を加工機のチャックで把持すれば、旋盤加工により容易に形成できる。
【0072】
風鈴(上部スリーブ)の1次の共振周波数をf1に設定する。この1次の共振周波数f1は風鈴の形状と材質で決まるものである。また、風鈴の共振現象が聴感上の音響効果として得られる共振周波数の上限値をfmaxとして、f1 とfmax の周波数範囲を風鈴効果の「有効周波数帯域」と仮定する。「有効周波数帯域」にある共振モードの数は、共振周波数の設定値f1 が大きい程少なくなる。たとえば、風鈴効果を顕著に際だたせるために、f1 を3〜4KHzに設定した場合と、より自然な音を求めるために、f1 >1万Hzに設定した場合を比較すれば、明らかに後者の方が共振モードの数は少なくなる。しかし本実施例を適用すれば、風鈴の1次の共振点を十分に高くした場合(たとえば、f1 =1.4〜1.6万Hz)でも、上スリーブが単純な円筒形状の場合と比較して、「有効周波数帯域」でより多くの共振点の数を持たせることができる。
【0073】
但し、共振周波数が高くなる程、振動減衰の影響を受けやすくなり、風鈴効果は低
減する。そのため、「上部スリーブの振動減衰作用を低減させる」前述した各実施例と、本実施例と組み合わせれば、高い周波数領域においても十分な風鈴効果が得られる。上部スリーブに形成する段差形状の段数は、実施形態9で後述する上部スリーブの外表面に段差形状を形成する場合も同様に、軸方向で3段以上形成すれば聴感上充分に効果的であることが、試聴実験の結果分かった。
【0074】
[第9実施形態]
図15は、本発明の実施形態9に係るオーディオ用インシュレータの上部スリーブ形
状を示すものである。551は上部スリーブ(共振部材)、552は下部スリーブ(下部支持部材)、553は荷重支持部(想像線)、554は本インシュレータに搭載されるオーディオ機器である。前記上部スリーブの形状は、円筒部材の外径が前記上部スリーブの下面から上面に向かって、555a、555b、555c、555dに示すように、断続的に大きくなるように形成されている。本実施例の音響効果は実施形態8と同様である。本実施例は前記上部スリーブの内周部556と前記下部スリーブの外周部557間の隙間部558を狭い間隙を維持した状態で、前記上部スリーブと前記下部スリーブの軸方向相対位置を十分に大きく得ることができる。この軸方向相対位置は本インシュレータの搭載荷重によって変化するため、本実施形態では搭載荷重の大きな変化に対応できる。荷重支持部553にスプリングコイルなどを用いたとき、隙間部558は床面に対する前記上部スリーブの傾斜を規制するのに有効である。
【0075】
[第10実施形態]
図16は、本発明の実施形態10に係るオーディオ用インシュレータを示すものである。前述した実施形態1〜3は、風鈴効果を向上させるために、スプリングコイルの上端面と上部スリーブ間に球状部材を介在させて、点接触で密着させることにより、上部スリーブに働く振動減衰作用の低減を図ったものであった。この効果は、風鈴効果を利用しにくいインシュレータ(吸振器)にも適用可能である。
【0076】
601は上部スリーブ(上部支持部材)、602は下部スリーブ(下部支持部材)、603は円筒形状をした粘弾性ゴム、604は前記粘弾性ゴムの内部に一体化成型により植え込まれたスプリングコイル(バネ材)である。前記粘弾性ゴムと前記スプリングコイルにより、オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部を構成している。605は中間スペーサ(中間部材)、606は軸受部(点接触する部分接触部材)、607は前記中間スペーサの上面に形成された前記軸受部の下端部を収納する窪み部A、608は前記上部スリーブの底面に形成された前記軸受部の上端部を収納する窪み部Bである。前記中間スペーサは円筒形状をした前期粘弾性ゴムの内周部に収納するように装着されている。609は前記上部スリーブの開口端、610は前記上部スリーブの上端面でオーディオ機器611を搭載する機器搭載部、612はインシュレータ設置面(床面)である。軸受部606に適用するころがり軸受は、ラジアル方向とスラスト方向を支持できるならばどの様な形態でもよく、たとえば、汎用の標準化された玉軸受を適用してもよい。あるいは、実施形態1で示したような3個の球状部材を用いた構成でもよい。
【0077】
前記スプリングコイルと一体化した前記粘弾性ゴムによる吸振器は、振動減衰パーツ(たとえば、商品名:スプリングパット)として、工業分野で実用化されているものである。この振動減衰パーツをオーディオ用インシュレータとして適用したとき、低周波領域の振動減衰作用は十分に得られるが、前記粘弾性ゴムの過剰な制振作用により、音に生気を与える高周波数成分まで減衰してしまうため、音の輪郭が曖昧となり、音質に混濁感が生じるという欠点があった。本実施例では、前記粘弾性ゴムの上端面と前記上部スリーブ間に球状部材(前記軸受部)を介在させて、点接触で密着させることにより、前記上部スリーブに働く前記粘弾性ゴム側からの振動減衰作用の影響を低減することができる。粘弾性ゴムと一体化されるバネ材は、スプリングコイルでなくてもよく、どの様な形状の機械バネでも本発明に適用できる。前記上部スリーブに用いる材料は樹脂などでもよく、この場合はスリーブ(円筒)形状でなく、平板形状でもよい。但し、風鈴効果を十分に得るならば、スリーブ形状にして、金属、ガラスなどの材料を用いればよい。
【0078】
[第11実施形態]
図17は、本発明の実施形態11に係るオーディオ用インシュレータを示すものであ
る。実施形態1〜3では、スプリングコイルの上端面と上部スリーブ間は複数個の球状部材を介在させたが、本実施例ではスパイク式インシュレータを介在させることで、
上部スリーブに働く振動減衰作用の一層の低減を図ったものである。
【0079】
651は上部スリーブ(共振部材)、652は下部スリーブ(下部支持部材)、653はサージング防止部材(振動発生防止手段)、654は弾性部材であるスプリングコイル(荷重支持部)、655は中間スペーサ(中間部材)である。656はスパイク式インシュレータ、657はこのスパイク式インシュレータの円錐部(点接触する部分接触部材)、658は円筒部、659はネジ部である。前記スパイク式インシュレータは上部スリーブ651底面にネジ部659を利用して装着されている。660は中間スペーサの底面に形成されたスパイク受け部である。661は前記上部スリーブの上端面でオーディオ機器(図示せず)を搭載する機器搭載部、662はインシュレータ設置面(床面)である。
【0080】
本実施形態11では、前記上部スリーブとスプリングコイル間は、前記スパイク式インシュレータ円錐部の先端と前記スパイク受け部の1点でのみ接触している。そのため、前記上部スリーブが前記スプリングコイルから受ける振動減衰作用は、前述した実施例における多点支持の場合と比較して一層低減する。但し、前記上部スリーブは前記スプリングコイルに対して、回転方向は拘束されておらず、前記上部スリーブにモーメント荷重が加わったとき、本インシュレータ単独では前記上部スリーブは不安定である。そのため、前記上部スリーブの振動減衰作用が大幅に低減できることを利用して、(i)前記スプリングコイルの剛性を十分に大きくする、(ii)前記スプリングコイルの軸方向長さを短く設定する、(iii)前記スプリングコイルに搭載される部材(前記上部スリ−ブと前記スパイク式インシュレータ)の重心位置を低くするために、スパイク円錐部657の先端部をスプリングコイル654の内部でかつ低い位置に設定する。そのために、中間スペーサ655を凹型形状にする。上記方策により、適用するスピーカーの形態によっては、実用上支障の無い設置安定性が得られた。
【0081】
[第12実施形態]
図18は、本発明の実施形態12に係るオーディオ・システムを示すものである。すなわち、振動の共振現象を利用して、スピーカーの再生音の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に構成されたインシュレータと、このインシュレータに搭載されたスピーカーから構成されるオーディ・システムにおいて、
(1)スピーカーの高周波振動を共振部材(風鈴)に伝達させる
(2)共振部材の高周波振動をスピーカー・エンクロージャー(キャビネット)に伝達さ
せる。
【0082】
上記(1)(2)の作用を、スピーカーの底面にインシュレータを設置するだけの従来方法と比べて、一層増強させる構造を示すものである。本実施形態において、インシュレータの上部スリーブに風鈴部材を用いた場合は、「Wind Bell Booster(仮称)」とも言うべき構造である。図18(a)は正面図、図18(b)は側面断面図である。301はダイナミック・スピーカー、302は磁石、303はボイスコイル、304は振動コーン、305はエッジ、306はスピーカー・キャビネットである。307は風鈴効果伝達ユニット(以下、振動伝達部材である伝達ユニット)、308は前記伝達ユニットの底面部、309はフロント部である。実施例では、スピーカー・キャビネット306は木質の素材であるが、伝達ユニットには真鍮を用いた。フロント部309は、スピーカー301の前記エッジの外径に相当する箇所がくり抜かれた形で構成されている。310は前記スピーカー・キャビネットのフロント側、311はこのフロント側310と前記伝達ユニットのフロント部309との間に設けられた緩衝材である。312a〜312dはオーディオ用インシュレータ、313a〜313dは前記インシュレータを構成する上部スリーブ(共振部材)である。前記上部スリーブは、前述した各実施例同様に、共振部材の共振現象を利用して、スピーカーの再生音の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に構成されたものである。314a〜314dは下部スリーブ(下部支持部材)、(312d、313d、314dは図示せず)、315は床面である。スピーカー・キャビネット306は前記伝達ユニットの底面部308の上に搭載され、かつこの伝達ユニット307は前記インシュレータの上に搭載されている。
【0083】
ボイスコイル303の反力は、矢印316のごとくスピーカー・キャビネット306を振動させ、かつこの振動は矢印317b、矢印317cのごとく前記インシュレータ側に伝搬されて、各前記上部スリーブ(風鈴)の共振を励起させる。この風鈴の共振は、再び矢印317b、矢印317cのごとく前記伝達ユニット側に伝搬されて、さらに矢印318のごとく前記伝達ユニットのフロント部309へ伝搬される。その結果、風鈴の共振による高音域のアシスト作用は、前記伝達ユニットを装着しない場合と比較して、飛躍的に増強される。実施例では、前記伝達ユニットに振動減衰の小さな金属(真鍮)を用いたため、前記上部スリーブに働く振動減衰作用は大きく低減する。319a〜319dは前記伝達ユニットの底面部308の上に形成された凸部であり、この凸部の上部に前記スピーカー・キャビネットが搭載される。また、前記各凸部の真下に前記各インシュレータが設置される。(319dは図示せず)
【0084】
320は前記伝達ユニットの底面部308と前記スピーカー・キャビネット底面間の空隙部である。321はダイナミック・スピーカー301の同軸上で、前記スピーカー・キャビネットのフロント側310と前記伝達ユニットのフロント部309の間に設けられた振動伝達シートである。322a〜322dは前記伝達ユニットのフロント部309と底面部308を着脱可能に締結するボルトである。ダイナミック・スピーカー301のボイスコイル反力による振動は、前記スピーカー・キャビネットのフロント側310→振動伝達シート321→前記伝達ユニットのフロント部309を経て各インシュレータの上部スリーブ313a〜313d(共振部材)に伝搬される。前記伝達ユニットをスピーカー301に対して着脱可能にすれば、緩衝材311、振動伝達シート321を前記伝達ユニットのフロント部309に装着した状態で、前記伝達ユニットのフロント部309と前記スピーカー・キャビネットのフロント側310を直接接触させないように空隙を設けることができる。かつ、この空隙の大きさを調節できる。
【0085】
オーディオ用インシュレータにスプリング方式を用いて、かつスプリングコイル上端面と前記上部スリーブの底面の間を、実施形態1〜3で示したような点接触支持構造にすれば、前記上部スリーブの振動減衰作用はさらに低減して、一層の風鈴効果が得られる。
【0086】
風鈴の共振による高音域のアシスト作用が過剰すぎる場合は、風鈴の一次の共振周波数を、たとえば、1万〜1.2万Hz以上に設定すれば、一般人の可聴限界に近づくため違和感は軽減する。この場合、前記上部スリ−ブ(共振部材)を、たとえば、第8〜9実施形態で示したような形状にして、高周波で多くの共振点を有するようにすれば、聴感上より自然な音響効果が得られる。前述したように、可聴域以上にある楽器の倍音成分は、再生音のクオリティーに少なからぬ影響を与えることが知られている。したがって、高周波数域に存在する多くの共振ピークは、ステレオ再生における音像の定位感、分解能などをおおいに向上させる。
【0087】
前記スピーカー・キャビネットが高周波振動を十分に伝播できる素材を用いているならば、前記伝達ユニットのフロント部309を取り外して、底面部308だけを用いてもよい。フロント部309を装着するか否かは、スピーカーの特性、音楽のジャンル、リスナーの好みに合わせて選択すれば良い。本実施形態では、風鈴の共振現象を利用したインシュレータを適用した場合を示したが、この方式以外で共振現象を利用したインシュレータならば、本実施形態の基本構造が適用できる。たとえば、木材、樹脂、金属、セラミック、石英、珊瑚等を用いた従来硬質材料式インシュレータが適用できる。元来、オーディオ用インシュレータは、再生音の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に作られているため、その作用を増強する効果を有する本実施形態は、オーディオ用インシュレータの「性能評価装置」としても適用できる。
【0088】
[第13実施形態]
図19は、本発明の実施形態13に係るオーディオ・システムを示すもので、実施形態12同様に、(1)スピーカー・エンクロージャー(キャビネット)の高周波振動を共振部材に効率的に伝達させる、(2)共振部材の高周波振動をスピーカー・エンクロージャーに効率的に伝達させる、上記(1)(2)を同時に実現させるスピーカー構造を示すものである。351はダイナミック・スピーカー、352は磁石、353はボイスコイル、354は振動コーン、355はエッジ、356はスピーカー・キャビネットである。357は前記スピーカー・キャビネットの外壁面に設けられた振動伝達シート(振動伝達部材)、358は前記スピーカー・キャビネットの底面部、359はフロント部、360はリア部である。361a〜361bはオーディオ用インシュレータ、362a〜362bは前記インシュレータを構成する上部スリーブ(共振部材)、363a〜363bは下部スリーブ(下部支持部材)、364は床面である。スピーカー・キャビネット356は、振動伝達シート357を介在して、前記オーディオ用インシュレータの上に搭載されている。
【0089】
ボイスコイル353の反力は、矢印365のごとくスピーカー・キャビネット356を振動させ、かつこの振動は矢印366a、矢印366bのごとく前記インシュレータ側に伝搬されて、各上部スリーブ(風鈴)の共振を励起させる。この風鈴の共振は、再び矢印366a、矢印366bのごとく前記スピーカー・キャビネット側に伝搬されて、さらに矢印367のごとく、前記振動伝達シートが装着されたスピーカー本体の各外表面部へ伝搬される。ここで、スピーカー本体の外表面部とは、スピーカー本体のフロント側(振動コーン354のある側)、リア側(前記フロント側の反対側)、側面部、底面部、天井部を示す。
【0090】
その結果、風鈴の共振による高音域のアシスト作用は、前記伝達ユニットを装着しない場合と比較して、飛躍的に増強される。前記振動伝達シートは、風鈴と密着するスピーカー本体の底面部への装着は必須として、フロント側、リア側、側面部、天井部のすべてでなくてもよく、選択的にいずれかに装着してもよい。試聴実験の結果では、スピーカー本体の底面部だけに設けても十分な効果が得られた。スピーカー・キャビネット356は木質系の素材でもよいが、前記振動伝達シートに用いる材料としては、木質系の素材と比べて振動減衰が小さく、固有音響インピーダンスの大きな材料を用いればよい。この場合、前記上部スリーブのスピーカー側接触面に働く振動減衰作用は大きく低減する。オーディオ用インシュレータにスプリング方式を用いて、かつスプリングコイル上端面と前記上部スリーブの底面の間を、実施形態1〜3で示したような点接触支持構造にすれば、前記上部スリーブの振動減衰作用はさらに低減して、一層の風鈴効果が得られる。前記振動伝達シートは、スピーカー本体の外壁部全体に設ける必要はなく、スピーカーの形状、要求される音響特性などに合わせて様々な形状の選択ができる。
【0091】
[第14実施形態]
図20は、本発明の実施形態14に係るオーディオ・システムを示すもので、インシュレータの構成部品である上部スリーブ(共振部材)を高音用スピーカーの振動板として利用する構造を示すものである。
【0092】
751はスピーカー(メイン・スピーカー)、752は上部スリーブ(高音用サブ・スピーカーの振動板)、753は下部スリーブ、754は荷重支持部(想像線で示す)、755a、755bは前記上部スリーブと前記スピーカーを固定するボルト、756はスピーカースタンドの上部ベース部、757は支柱、758は下部ベース部である。上部スリーブ752の上面は凸形状で形成されており、759は中央部、760は外周部である。
荷重支持部754には、フローティング方式インシュレータとして用いられるスプリングコイル、永久磁石、ワイヤとU字状ばねによる方式などが適用できる。あるいは、硬質式インシュレータとして用いられる様々な音響素材、スパイク式、実施形態7で示した剛体の支柱などが適用できる。この荷重支持部754と前記上部スリーブ底面の間を、たとえば、実施形態1〜3で示したような点接触支持構造にすれば、前記上部スリーブが前記荷重支持部から受ける振動減衰作用が低減して、大きな風鈴効果が得られる。前記上部スリーブの共振による振動は、前記上部スリーブに搭載された前記スピーカー本体を振動させることで高周波域の音響特性をアシストする。同時に前記上部スリーブ自身も、矢印761のごとく、音圧の発生源となる。したがって、本インシュレータはスピーカー751の高周波域の音響特性をアシストするだけではなく、インシュレータ自身が高音用サブ・スピーカー「Wind Bell Speaker(仮称)」としての役割を担うのである。この場合、前記上部スリーブ(共振部材)はサブ・スピーカーの振動板となる。本実施形態では、サブ・スピーカーとして十分な出力を得るために、前記上部スリーブの外径を十分に大きく設定した。さらに、高音用スピーカーとして、たとえば、実施形態8で示したように、前記上部スリーブの内面762を複数段差のある形状にすることで、前記上部スリーブに多くの共振モードを持たせて、クセのない自然な音が得られる。高音用スピーカーとしての有効な周波数帯域は、前記上部スリーブ単体の1次の共振周波数f1 を設定すればよく、通常、前記上部スリーブの厚みが大きい程、また前記上部スリーブの軸方向長さが短い程、共振周波数f1 は高くなる。
本実施例を適用すれば、パワーアンプとスピーカーの間に設けるアッテネーター(トランス等を含む電気回路で構成)が不要である。回路特性で周波数特性が変わるアッテネーターと比べて、より自然な高音域の特性を得ることができる。
【0093】
前記荷重支持部にスプリングコイルを適用する場合、小型スピーカーで設置面積が十分に小さければ、スプリングコイル一個だけでスピーカーを支持できる。この場合、実施形態1〜3で示したような点接触支持構造にすれば、スプリングコイルのバネ剛性を高くできるため、設置安定性は向上する。前記荷重支持部にスプリングコイルを複数個、たとえば、正三角形の頂点に位置する箇所にスプリングコイルを3個設ければ、設置安定性はさらに向上する。(図示せず)
【0094】
本実施形態14では、前記上部スリーブの中央部759とスピーカー751はボルト755a、755bで締結しているが、前述した実施形態4、5に示すように、前記上部スリーブと前記スピーカー間を点接触で支持するようにすれば、前記上部スリーブが前記スピーカー側から受ける振動減衰作用が低減して、風鈴効果を向上させることができる。(図示せず)
【0095】
本実施形態14では、上部スリーブ752と下部スリーブ753をから構成されるインシュレータを1セットでスピーカー751を支持したが、複数セットで支持しても高音用スピーカーとしての機能は得ることができる。また、本インシュレータを高音用スピーカーとして効果的に適用するためには、前記高音用スピーカー(音圧の発生源である上部スリーブ752)がリスナーの耳の高さに近くなるように設置すればよい。すなわち、前記スピーカー・スタンド(部材756、757、758から構成)に相当する機材の上に本インシュレータを設置すればよい。あるいは、前記スピーカー・スタンドの代わりに、低音用スピーカー(サブウーハー)を配置してもよい。
【0096】
前記荷重支持部を実施形態7で示したような剛体軸による支持構造にすれば、高い位置に配置されたスピーカー751の設置安定性は向上する。この場合、音楽のジャンル、リスナーの好みにもよるが、スピーカーと床面間の振動遮断が好ましい場合は、床面763と下部ベース部758の間に、フローティング式のインシュレータ764a〜764d(764c、764dは図示せず)を設置すればよい。この構成により、1.共振部材752による風鈴効果(又は、この風鈴効果に加えて高音用サブ・スピーカーとしての効果)、2.フローティング式インシュレータによる低域の振動遮断、3.高い位置に配置されたスピーカー751の設置安定性向上、上記3つを同時に満足させることができる。フローティング式インシュレータとしては、たとえば、実施形態10で示した「前記粘弾性ゴムの内部に一体化成型した吸振器」を適用できる。上記組み合わせは、高音用サブ・スピーカーとしての効果を必要としない場合、すなわち、インシュレータとして風鈴効果のみを利用する場合でも有効である。
【0097】
[補足1]
さて前述した本発明の実施形態の説明において、振動の共振現象を利用して、スピーカーの再生音の高周波域での音響特性を調整(改善)することを目的に構成されたインシュレータを例に挙げて説明した。以下、前記共振部材(風鈴)に働く振動減衰作用を低減した場合、音響特性を向上させることができる原理について、単純化した理論解析モデルを用いて補足説明する。
【0098】
(1)解析モデル
図21(a)は本開発インシュレータで支持されたスピーカー・システムを示すもので、901はダイナミック・スピーカー、902はスピーカー・キャビネット、903a〜903dはオーディオ・インシュレータ、904a、904bは上部スリーブ(共振部材)、905a、905bは下部スリーブ、906は床面である(インシュレータ903c、903dは図示せず)。前記オーディオ・インシュレータは、床面906の4箇所で前記スピーカー・キャビネットを支持している。
【0099】
図21(b)は本開発インシュレータで支持されたスピーカー・システムを単純化した1次元解析モデルを示すもので、1個のインシュレータで質量m1のスピーカー本体を支持した場合を想定している。911はダイナミック・スピーカー、912はスピーカー・キャビネットである。鎖線で囲まれた部分AAがスプリングコイル913であり、たとえば、実施形態1における荷重支持部(図4の31)に相当する。スプリングコイル913は、バネ定数K1のバネと粘性係数R1のダンパーから構成される。914は共振部材(風鈴)である上部スリーブ(図4の11)に相当する。
【0100】
図22は、図21(b)における共振部材(風鈴)914を分布定数モデルに置き換えたものである。スピーカー本体を質量m1の平板951と仮定して、バネ定数K1のバネと粘性係数R1のダンパーにより支持されているものとする。共振部材は質量m2,m3・・・mn、バネ定数K2,K3・・・Knのバネ、粘性係数R2,R3・・・Rnのダンパーから構成される集中定数モデルが無限個並列接続されたものと等価である。
【0101】
(2)基礎式の導出
ここで、鎖線BBで示す共振部材の1次の集中定数モデル(m2,K2,R2)のみに注目して、基礎式を導出する。
(2-1)スピーカーのボイスコイル反力に対する平板変位
【0102】
スピーカーのボイスコイル反力が平板に加える力をf、共振部材側が平板に加える反力をfとして、力のつり合い条件を求める。
【数1】
共振部材の質量mに働く力の釣り合いを求めると
【数2】
共振部材側が平板に加える反力f
【数3】
式(1)〜(3)から、xを消去してラプラス変換すると
【数4】
さらに上式を整理して、ボイスコイル反力に対する平板変位の伝達関数は
【数5】
式(4)の分母:
【数6】
【0103】
(2-2)音源から距離Lにおける音圧レベル
平板951を無限大平面バッフルに設置されたスピーカーと仮定する。
このスピーカーから発生した音波は、点音源から2π空間に拡散するとする。
空気密度をρ、面積Aの平板の速度をV2、振動周波数をf、音源からの距離Lにおける音圧は
【数7】
また、得られた音圧pから、基準音圧p=20×10−6Paとして、音圧レベルP=20log(p/p)を求める。
【0104】
(3)共振部材の減衰係数が音圧レベルに与える影響を求める解析
(3-1)周波数に対する平板の変位
図23は、周波数に対する平板変位x1の解析結果を示すものである。前記平板には、f1=1Nの変動荷重が加わるものとする。ここで、平板の質量m1=3Kg、スプリングコイルのバネ定数K1=2.40×104N/m、スプリングコイルの粘性係数R1=3.85Ns/mとする。また、共振部材の1次の集中定数モデルにおいて、質量m2=0.01Kg、バネ定数K2=9.869×106 N/m、粘性係数R2=0.077Ns/mと仮定する。すなわち、3Kgの平板に10g(約10円玉2個分)の重りが、バネとダンパーを介して釣り下がっていると考えればよい。上記質量m2とバネ定数K2で決まる1次の固有振動数はf1=5000Hzである。
図23において、低周波域f0=15Hzにおける共振ピークは、スプリングコイルのバネ定数K1と平板の質量m1から決まる共振点である。また、f1=5000Hzにおける共振ピークは、共振部材のバネ定数K2と質量m2から決まる共振点である。すなわち、共振点f1において、平板は1Nの変動荷重により、0.01μm程度の振幅で変位することが分る。
【0105】
(3-2)周波数に対する音圧レベル
図24のグラフは、平板から1m離れた位置における、周波数に対する音圧レベルを求めた解析結果である。図24(a)は、共振部材の粘性係数R2=0.077Ns/m、図24(b)は、粘性係数が1/3の場合でR2=0.0257Ns/mの場合を示す。図24(a)と図24(b)の比較において、共振部材の粘性係数R2を1/3に低減することにより、f1=5000Hzにおける音圧レベルの共振ピーク値は、P=67dB→80dBに増加することが分る。
高周波数域において、平板の微小な変位が大きな音圧となる理由は、式(5)に示すように、音圧は周波数の2乗に比例するからである。上記解析結果は、1次の集中定数モデルのみに注目した場合であるが、共振部材の粘性係数R2が音圧レベルに与える影響は、2〜n次の集中定数モデルの場合も同様である。すなわち、共振部材によってアシスト(増強)される音圧のピーク値は、共振部材(風鈴)に働く振動減衰作用が低減する程、高くなる。この結果は、前述した本発明の各実施形態において、共振部材に働く振動減衰作用を低減させて、音響特性を向上させる効果の有効性を検証するものである。
【0106】
[補足2]
本実施形態における「点接触」とは次のようなものである。2つの部材が接触している場合、接触面積→0(無限小)は現実には存在せず、必ず有限の面積を有する。共振部材の受ける振動減衰作用を低減させるためには、接触面積が無限小である必要はなく、接触面積は適度に小さければよい。したがって、2つの部材間に点接触部材(たとえば球状部材)を介在させたとき、
(1)前記点接触部材とその対抗面との接触面積をA
(2)前記点接触部材を介在させないとき、2つの部材間の接触面積をB
としたとき、B>>Aならば点接触とみなすことにする。たとえば、実施形態1において、球状部材(ボール)の代わりに円筒形状のコロを用いても良い。この場合は、「点接触→線接触」になる。たとえば、実施形態4において、先端が針状のスパイクの代わりに、円錐形状部材、又は、細径の円柱などを用いても良い。したがって、円筒形状のコロ、円錐形状の部材、細径の円柱などは、いずれも共振部材の受ける振動減衰作用を低減させる点接触部材・線接触部材である。この点接触部材・線接触部材は独立した部材ではなく、上記2つの部材のいずれかの表面に形成されていてもよい。
【0107】
たとえば、実施形態1では、前記上部スリーブと前記中間スペーサ間を点接触させるために球状部材(ボール)を適用した。この球状部材を用いる代わりに、たとえば、スパイクを用いても良い。この場合、円周方向で複数個の突出したスパイク円錐部が形成された中間スペーサを用いればよい。すなわち、スパイク円錐部の頂点が、上部スリーブの内面に収納される構造となる。あるいは、スプリングコイル側にスパイク円錐部の頂点を有する別部材を、上部スリーブの内面に装着してもよい。この場合、スパイク受けはスプリングコイル側に設ければよい。但し、上記いずれの場合も、スパイク先端とその対抗面を点接触した場合では、前記上部スリーブに働く外力に対して、XY方向の位置を規制できない。そのため、スパイク先端の対抗面側は、スパイクの頂点部の一部が線接触で、あるいは微小な接触面積で収納される凹部を形成すればよい。(図示せず)
【0108】
前述した実施形態では、本発明のインシュレータをスピーカーに適用する場合を示したが、オーディオ機器であるCDプレイヤー、アナログプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、PCオーディオ用のパソコン、又は、これらのオーディオ用コンポーネンツを収納するオーディオラック(棚)、又は様々な楽器(たとえば、アコースティック楽器)、ピアノ、ベース、チェロ、コントラバスなど楽器のいずれにでも適用できる。本発明におけるオーディオ機器とは、これらの音響用基材、楽器も含むものとする。
【0109】
たとえば、実施形態1〜3では、弾性部材として外径が軸方向で均一なスプリングコイルを用いた。スプリングコイル以外には、前述したように、マグネットの反発力を利用したもの、ワイヤとU字状ばねによるもの、エアー式などのフローティング方式のインシュレータも適用できる。具体的には、たとえば、図4のスプリングコイル14、サージング防止部材13などを上述したフローティング方式を構成する部材に置き換えればよい。スプリングコイルを適用する場合は、前述した実施形態の形状に限定されるものではない。たとえば、円錐コイルばね、皿バネ、又はこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、オーディオ用インシュレータとして要求される形状、寸法などを考慮して選択すればよい。各実施形態のインシュレータは、上部スリーブが下部スリーブを包み込むような構成であった。この構成ではなく、逆に下部スリーブが上部スリーブを包み込むような構成でもよい。
【0110】
上部スリーブ(共振部材)に用いることのできる材料として、銅合金、鉄合金、金、銀、マグネシウム、アルミニウム、天然水晶、チタン、石英、ローズウッド材、ケヤキ材、大理石、ハイカーボン鋳鉄、強化ガラスなど、あらゆる材料が適用できる。上記材料をスリーブ形状(風鈴)にしたときに、その共振特性と過渡応答特性(余韻、ゆらぎ)などが、適用するオーディオ機器の特性、又はリスナーの好みに合うように、材料と工法(切削、鋳造など)を選択すればよい。たとえば、ガラス材を用いて上部スリーブを構成する場合は、構造面から補強するために、オーディオ機器が搭載される上部は金属系材料で構成して、側面部(スリーブの部分)はガラス材を用いるなどの複合構造でもよい。(図示せず)
【符号の説明】
【0111】
11・・・共振部材
29・・・オーディオ機器
14・・・荷重支持部
16b・・・部分接触部材
図1
図2
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図4
図5
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