(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半芳香族ポリアミド樹脂(A)とホスホニトリル酸フェニルエステル(B)からなる混合物(X)を70質量%以上含有するポリアミド系樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)がテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分(a−1)と、1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを主成分とするジアミン成分(a−2)とから構成され、かつ、前記混合物(X)中における前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)と前記ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)の質量比が(A):(B)=80:20〜99:1である、ポリアミド系樹脂組成物。
結晶融解エンタルピーΔHm(C)が5J/g未満である非晶性ポリアミド樹脂(C)を5質量%以上、30質量%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド系樹脂組成物。
前記ポリアミド系樹脂組成物の結晶融解エンタルピーΔHm(Y)が30J/g以上、60J/g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド系樹脂組成物。
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)と、前記混合物(X)のガラス転移温度Tg(X)の差Tg(A)−Tg(X)が5℃未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリアミド系樹脂組成物、及びそれを成形してなるフィルム、射出成形体の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[半芳香族ポリアミド樹脂(A)]
本発明に用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分(a−1)と、1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを主成分とするジアミン成分(a−2)を重合して得られるポリアミド樹脂である。
【0014】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分(a−1)は、テレフタル酸を主成分とすることが重要である。すなわち、ジカルボン酸成分(a−1)のうち50モル%を超える成分がテレフタル酸であることが重要であり、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、とりわけジカルボン酸成分(a−1)の全て(100モル%)がテレフタル酸であることが好ましい。
ジカルボン酸成分(a−1)が、テレフタル酸を主成分とすることにより、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性や低吸水性に優れる。
なお、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸や脂肪族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸から誘導されるジカルボン酸成分等を例示することができる。
【0015】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミン成分(a−2)は、1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを主成分とすることが重要である。すなわち、ジアミン成分(a−2)のうち50モル%を超える成分が1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンであることが重要であり、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、とりわけジアミン成分(a−2)の全て(100モル%)が1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンであることが好ましい。
ジアミン成分(a−2)が、1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを主成分とすることにより、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性や低吸水性、成形性に優れる。
なお、1,9−ノナンジアミン及び/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外のジアミン成分としては、他の脂肪族ジアミン成分やキシリレンジアミン等の芳香族ジアミン成分を例示することができる。
【0016】
前記ジアミン成分(a−2)は、1,9−ノナンジアミンのみを主成分としても良く、2−メチル−1,8−オクタンジアミンのみを主成分としても良く、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを併せて主成分としても良いが、本発明のポリアミド系樹脂組成物の機械強度や低吸水性、耐薬品性、透明性を向上する観点から、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共に含有することが好ましい。
2−メチル−1,8−オクタンジアミンは、主鎖から分岐した置換基(メチル基)を有するため半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化を遅らせる効果があり、また、溶融状態での分子鎖の絡み合いが強くなることから溶融粘度を増大させる効果がある。すなわち、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のジアミン成分(a−2)に2−メチル−1,8−オクタンジアミンを導入することによって、成形性及び二次加工性をより向上することができる。
【0017】
前記ジアミン成分(a−2)中に1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共に含有する場合、両者のモル比は、1,9−ノナンジアミン:2−メチル−1,8−オクタンジアミン=50:50〜99:1の範囲であることが好ましい。中でも50:50〜90:10の範囲であることがより好ましく、50:50〜80:20の範囲であることがさらに好ましい。
2−メチル−1,8−オクタンジアミンの前記モル比が1以上であれば、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化度及び結晶化速度を低減することができ、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性に優れる上、フィルムの延伸等の二次加工性にも優れる。また、押出成形時の球晶の成長が抑制されるため、透明性にも優れる。
また、2−メチル−1,8−オクタンジアミンの前記モル比が50以下であれば、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化度が低くなりすぎることがなく、結晶融解温度が好適に維持され、耐熱性に優れる上、機械強度や低吸水性、耐薬品性にも優れる。
【0018】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)は100℃以上、200℃以下であることが好ましく、110℃以上、190℃以下であることがより好ましく、120℃以上、180℃以下であることがさらに好ましい。
ガラス転移温度Tg(A)が100℃以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性、寸法安定性に優れる。一方、ガラス転移温度Tg(A)が200℃以下であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性、靱性に優れる。
なお、ガラス転移温度Tg(A)は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0019】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶融解温度Tm(A)は、260℃以上、320℃以下であることが好ましく、260℃以上、315℃以下であることがより好ましく、265℃以上、310℃以下であることがさらに好ましい。
結晶融解温度Tm(A)が260℃以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物をプリント基板等の電子部材用途で使用する際に、半田リフロー工程等の高温工程で融解するおそれが小さく、耐熱性に優れる。一方、結晶融解温度Tm(A)が320℃以下であれば、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の成形可能な温度と分解温度が近接することがなく、本発明のポリアミド系樹脂組成物を成形する際に、炭化物やゲル化物を生じるおそれが小さい。
なお、結晶融解温度Tm(A)は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0020】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶融解エンタルピーΔHm(A)は、30J/g以上、60J/g以下であることが好ましく、35J/g以上、55J/g以下であることがより好ましく、40J/g以上、50J/g以下であることがさらに好ましい。
結晶融解エンタルピーΔHm(A)が30J/g以上であれば、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化度が低くなりすぎることがなく、結晶融解温度が好適に維持され、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性に優れる上、機械強度や低吸水性、耐薬品性にも優れる。一方、結晶融解エンタルピーΔHm(A)が60J/g以下であれば、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化度が高くなりすぎることがなく、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性に優れる。
なお、結晶融解エンタルピーΔHm(A)は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0021】
[ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)]
本発明のポリアミド系樹脂組成物は、難燃剤としてホスホニトリル酸フェニルエステル(B)を含有することが重要である。ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)を含有することにより、ポリアミド系樹脂組成物の耐熱性を損なうことなく難燃性を付与することができる。
ホスホニトリル酸フェニルエステル以外の難燃剤、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル等のリン系化合物を使用する場合には、半芳香族ポリアミド樹脂(A)が可塑化されることによる耐熱性の低下を生じる。
【0022】
なお、本発明に用いるホスホニトリル酸フェニルエステル(B)としては特に制限されず、公知の各種化合物を使用することが可能であり、商業的に入手可能なホスホニトリル酸フェニルエステル(B)としては、(株)伏見製薬所製の商品名「ラビトル FP−100」などを好ましく例示することができる。
【0023】
[混合物(X)]
本発明のポリアミド系樹脂組成物に用いる混合物(X)は前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)と前記ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)からなり、かつ、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)と前記ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)の質量比が(A):(B)=80:20〜99:1であることが重要である。
【0024】
すなわち、前記混合物(X)中における前記ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)の比率は、1質量%以上、20質量%以下であることが重要であり、3質量%以上、15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上、10質量%以下であることがさらに好ましい。
混合物(X)中におけるホスホニトリル酸フェニルエステル(B)の比率が1質量%以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が難燃性に優れ、厚みの薄いフィルム用途においても好適に使用できる。一方、ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)の比率が20質量%以下であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が可塑化されるおそれが小さく、耐熱性と成形性に優れるだけでなく、ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)が該樹脂組成物を成形してなる成形体の表面にブリードアウトするおそれも小さく、透明性などの外観に優れる。
【0025】
本発明においては、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)と、前記混合物(X)のガラス転移温度Tg(X)の差Tg(A)−Tg(X)が5℃未満であることが好ましく、3℃未満であることがより好ましく、1℃未満であることがさらに好ましい。
Tg(A)−Tg(X)が5℃未満であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物がホスホニトリル酸フェニルエステル(B)添加による可塑化効果を受けることなく、該樹脂組成物を成形してなる成形体について、耐熱性を維持したまま難燃性を付与することができる。
【0026】
前記混合物(X)の結晶融解エンタルピーΔHm(X)は、30J/g以上、60J/g以下であることが好ましく、35J/g以上、55J/g以下であることがより好ましく、40J/g以上、50J/g以下であることがさらに好ましい。
結晶融解エンタルピーΔHm(X)が30J/g以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性に優れる上、機械強度や低吸水性、耐薬品性にも優れる。一方、60J/g以下であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性に優れる。
【0027】
本発明のポリアミド系樹脂組成物は、前記混合物(X)を70質量%以上含有することが重要であり、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上がなおさら好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上がとりわけ好ましい。
前記混合物(X)を70質量%以上含有することにより、本発明のポリアミド系樹脂組成物が難燃性、耐熱性、機械強度、低吸水性、耐薬品性、成形性に優れる。
【0028】
[非晶性ポリアミド樹脂(C)]
本発明のポリアミド系樹脂組成物には、非晶性ポリアミド樹脂(C)を含有しても良い。なお、本発明において、非晶性ポリアミド樹脂(C)とは、結晶融解エンタルピーΔHm(C)が5J/g未満のポリアミド樹脂をいう。
【0029】
結晶融解エンタルピーΔHm(C)が5J/g未満の非晶性ポリアミド樹脂(C)を含有することによって、本発明のポリアミド系樹脂組成物の結晶化度を低く維持することが可能となる。すなわち、球晶の成長を抑制して本発明のポリアミド系樹脂組成物の透明性を向上し、成形性や二次加工性を付与することができる。
【0030】
前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を構成するジカルボン成分は特に限定されず、芳香族ジカルボン酸、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸から誘導されるジカルボン酸のいずれでもよい。
また、前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を構成するジアミン成分は特に限定されず、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンのいずれでもよい。
なお、前記非晶性ポリアミド樹脂(C)の結晶融解エンタルピーΔHm(C)を5J/g未満とする観点から、前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を構成するジカルボン酸成分とジアミン成分のいずれか、又は両方について、その分子構造が嵩高いことが好ましい。
【0031】
かかる非晶性ポリアミド樹脂(C)の具体例としては、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)、またはこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
前記非晶性ポリアミド樹脂(C)のガラス転移温度Tg(C)は100℃以上、200℃以下であることが好ましく、110℃以上、190℃以下であることがより好ましく、120℃以上、180℃以下であることがさらに好ましい。
ガラス転移温度Tg(C)が100℃以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性、寸法安定性に優れる。一方、ガラス転移温度Tg(C)が200℃以下であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性、靱性に優れる。
【0033】
本発明のポリアミド系樹脂組成物に前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を含有する場合、該樹脂組成物中に5質量%以上、30質量%以下含有することが好ましい。より好ましくは5質量%以上、25質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上、20質量%以下である。
前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を5質量%以上含有することにより、本発明のポリアミド系樹脂組成物が透明性や成形性、二次加工性に優れる。一方、前記非晶性ポリアミド樹脂(C)を30質量%以下含有することにより、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性、寸法安定性に優れる。
【0034】
[その他の成分]
本発明のポリアミド系樹脂組成物には、前記混合物(X)及び前記非晶性ポリアミド樹脂(C)のほか、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶化促進剤、顔料、染料などの各種添加剤を含有することができる。
【0035】
[ポリアミド系樹脂組成物]
本発明のポリアミド系樹脂組成物は、そのガラス転移温度Tg(Y)が単一であることが好ましい。ここで、樹脂組成物のガラス転移温度が単一であるとは、樹脂組成物について歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7244−10の動的粘弾性測定)により測定される損失正接(tanδ)の主分散のピークが1つ存在する、言い換えれば損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するという意味である。
【0036】
一般的にポリマーブレンドのガラス転移温度が単一であるということは、混合する樹脂が分子レベルで相溶した状態にあることを意味し、相溶している系と認めることができる。
本発明のポリアミド系樹脂組成物を構成する半芳香族ポリアミド樹脂(A)とホスホニトリル酸フェニルエステル(B)、さらに非晶性ポリアミド樹脂(C)やその他の熱可塑性樹脂が相溶系であり、その結果、本発明のポリアミド系樹脂組成物のガラス転移温度Tg(Y)が単一であることにより、ポリアミド系樹脂組成物が透明性、機械特性、成形性にさらに優れるものとなる。
【0037】
本発明のポリアミド系樹脂組成物の結晶融解エンタルピーΔHm(Y)は、30J/g以上、60J/g以下であることが好ましく、35J/g以上、55J/g以下であることがより好ましく、40J/g以上、50J/g以下であることがさらに好ましい。
結晶融解エンタルピーΔHm(Y)が30J/g以上であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が耐熱性に優れる上、機械強度や低吸水性、耐薬品性にも優れる。一方、60J/g以下であれば、本発明のポリアミド系樹脂組成物が成形性に優れる。
【0038】
[フィルム]
本発明のポリアミド系樹脂組成物は、これを成形することによって、フィルムを作製することができる。以下に、本発明のフィルムを成形する方法について説明する。
【0039】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明において「フィルム」は「シート」を含むものとする。
【0040】
本発明のポリアミド系樹脂組成物を成形してなるフィルムの製造方法は特に限定されることなく、公知の製造方法を採用することができるが、中でも押出成形法により製造することが好ましい。
具体的には、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)、前記ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)、及び、必要に応じて前記非晶性ポリアミド樹脂(C)、その他の樹脂や添加剤等の原料を直接混合し、押出機に投入して成形するか、または、前記原料を二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製した後、このペレットを押出機に投入して成形する方法を挙げることができる。
いずれの方法においても、半芳香族ポリアミド樹脂(A)、ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)、及び、非晶性ポリアミド樹脂(C)の加水分解による分子量の低下を考慮する必要があり、均一に混合させるためには後者を選択するのが好ましい。そこで、以下後者の製造方法について説明する。
【0041】
まず、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)、ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)、及び、必要に応じて前記非晶性ポリアミド樹脂(C)、その他の樹脂や添加剤を十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製する。この際、各原料の組成比や配合割合によって粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。
【0042】
上記方法にて作製したペレットは、十分に乾燥させて水分を除去した後、押出機に投入してフィルムの成形に供することができる。フィルムの成形方法としては、一般的なTダイキャスト法のほか、チューブラー法、インフレーション法などを採用することができる。なお、押出成形でない方法として、カレンダー法やプレス法なども採用することができる。
【0043】
また、本発明のポリアミド系樹脂組成物を成形してなるフィルムは、少なくとも一軸方向に延伸されていても良く、延伸する場合は二軸延伸されていることが好ましい。
少なくとも一軸方向に延伸されていることによって、本発明のフィルムが機械強度、耐熱性、寸法安定性、透明性に優れる。
【0044】
具体的には、前記の方法で作製した未延伸フィルムを、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)、およびこれと直角な方向(横方向、TD)で、少なくとも一方向に、好ましくは縦横二軸方向に延伸する。
二軸延伸の方法としては、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれを用いてもよい。一般に、逐次二軸延伸は設備が簡便で、生産性が高いという利点があるが、結晶性樹脂の場合、縦方向に延伸した際に配向結晶化が進んでしまい、その後の横方向への延伸が困難となる場合があるため、結晶化速度が速い樹脂にはあまり向かないという欠点がある。一方、同時二軸延伸は縦横方向に均一に延伸されたフィルムが得られるが、設備が大型化しコストがかかるという欠点がある。樹脂の特性を鑑みてどちらかを選択する必要があるが、本発明のポリアミド系樹脂組成物からなるフィルムは、どちらの延伸法を用いても問題なく延伸が可能である。
【0045】
上記方法により延伸された本発明のフィルムは、引き続き熱固定を施すことが好ましい。熱固定を施すことにより、本発明のフィルムに常温における寸法安定性を付与することができる。この場合の熱固定温度は、好ましくは、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶融解温度Tm(A)−40℃以上、Tm(A)−10℃以下の範囲、より好ましくは、Tm(A)−30℃以上、Tm(A)−10℃以下の範囲である。熱固定温度が上記範囲内にあれば、フィルムの熱固定が十分に行われ、延伸時の応力が緩和され、十分な寸法安定性と機械強度を持ったフィルムが得られる。
【0046】
[射出成形体]
本発明のポリアミド系樹脂組成物はまた、これを成形することによって、射出成形体を作製することができる。該射出成形体の製造方法は特に限定されることなく、公知の製造方法を採用することができる。この時、射出成形体の製造に用いる本発明のポリアミド系樹脂組成物の製造についても、前記フィルムの製造方法の場合と同様の方法を採用することができる。
【0047】
[用途]
本発明のポリアミド系樹脂組成物を成形してなるフィルムや射出成形体は、電気・電子部品や自動車用部品、日用品、食品包装、又は、医薬品包装等に広く使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す結果は以下の方法で評価を行った。
【0049】
(1)難燃性
実施例及び比較例で作製した未延伸フィルムについて、長さ200mm×幅50mm×厚さ0.1mmの試験片を用いて、Underwriters Laboratories社の安全標準UL94垂直燃焼試験の手順に基づき、n=5にてキャストフィルムの燃焼試験を実施した。UL94垂直燃焼試験(UL94V)の判定基準に基づき、難燃性をV−0、V−1、V−2、不適合のいずれかで評価した。難燃性がV−0〜V−2であるものを合格とした。
【0050】
(2)ヘーズ(曇価)
実施例及び比較例で作製した未延伸フィルムについて、JIS K7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を測定し、ヘーズを以下の式で算出した。厚み100μmでのヘーズが4%以下であるものを合格とした。
[ヘーズ]=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
【0051】
(3)結晶融解温度Tm及び結晶融解エンタルピーΔHm
実施例及び比較例で使用した各種材料、及び、作製した未延伸フィルムについて、JIS K7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計(DSC)測定を用い、昇温過程における結晶融解温度Tmと結晶融解エンタルピーΔHmを測定した。
作製した未延伸フィルムについてはΔHm(Y)の値が30J/g以上、60J/g以下の範囲に入っているものを合格とした。
【0052】
(4)加熱収縮率
実施例及び比較例で作製した二軸延伸フィルムを熱風循環式オーブンを用いて設定温度200℃で30分間加熱し、加熱後の収縮率をMD、TDについて測定した。MD、TD共に収縮率が1%以下のものを合格、MD、TDの少なくとも一方の熱収縮率が1%より大きいものを不合格とした。
【0053】
(5)ガラス転移温度Tg
実施例及び比較例で使用した各種材料、及び、作製した未延伸フィルムについて、粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7244−10の動的粘弾性測定)を行った。そして損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度Tgとした。
【0054】
<半芳香族ポリアミド樹脂(A)>
(A)−1:PA9T((株)クラレ製、商品名:Genestar TS−296、ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジアミン成分:1,9−ノナンジアミン/2−メチル−1,8−オクタンジアミン=50モル%/50モル%、結晶融解温度:267℃、ガラス転移温度:128℃、結晶融解エンタルピー:46J/g)
(A)−2:PA10T(ダイセル・エボニック(株)製、商品名Vestamid HT plus M3000、ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジアミン成分:1,10−デカンジアミン=100モル%、結晶融解温度:293℃、ガラス転移温度:130℃、結晶融解エンタルピー:62J/g)
【0055】
<ホスホニトリル酸フェニルエステル(B)>
(B)−1:ホスファゼン誘導体((株)伏見製薬所製、商品名:ラビトル FP−110)
【0056】
<非晶性ポリアミド樹脂(C)>
(C)−1:非晶性ポリアミド樹脂(ダイセル・エボニック(株)製、商品名トロガミド T−5000、ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジアミン成分:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン=40モル%/60モル%、ガラス転移温度:162℃、結晶融解エンタルピー:0J/g)
【0057】
(実施例1)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした後、Φ25mm同方向二軸押出機を用いて280℃で混練し、Tダイより押出した。次いで約30℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み100μmの未延伸フィルムを作製した。得られた未延伸フィルムについて、難燃性、ヘーズ、結晶融解エンタルピー、ガラス転移温度の評価を行った。
その後、得られた未延伸フィルムを130℃の条件下でロール式延伸機にて縦方向に3倍延伸し、次いで、この縦延伸フィルムの端部をテンタークリップで保持し、テンターオーブン内で130℃の条件下で横方向に3倍に延伸した後、250℃で熱固定を行った。得られた二軸延伸フィルムについて加熱収縮率の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比75:5:20の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比99:1の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比99.7:0.3の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
(A)−1を(A)−2に変更した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
(A)−1、(B)−1、及び、(C)−1を混合質量比55:5:40の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法でフィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
(B)−1の代わりに縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製、商品名:PX−200、(N)−1とする)を用いた以外は実施例1と同様の方法でフィルムの製作、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の実施例1〜3より、本発明のポリアミド系樹脂組成物は、優れた難燃性、透明性、耐熱性、寸法安定性、成形性、二次加工性(延伸性)を有することがわかる。
一方、比較例1においては、ホスホニトリル酸フェニルエステルが所定量より少ないため、難燃性が不足していた。
比較例2においては、使用した半芳香族ポリアミド樹脂が所定のジアミン成分を含まず、結晶性が高すぎて未延伸フィルム作製時に既に結晶化が進行しており、透明性(ヘーズ)が悪化していた上、その状態で延伸を施したため、寸法安定性(加熱収縮率)も悪化していた。
比較例3においては、混合物(X)の含有比率が所定量より少ないため、結晶性が低下し、耐熱性が不足して加熱収縮率が悪化していた。
比較例4においては、ホスホニトリル酸フェニルエステルの代わりに縮合リン酸エステルを使用したため、樹脂組成物が可塑化して混合物(X)のガラス転移温度Tg(X)(=Tg(Y))が半芳香族ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)より5℃以上低下し、耐熱性が不足して加熱収縮率が悪化していた。