(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱コイルは内側と外側との間に隙間を設けた二分割コイルで形成されるとともに、前記二分割コイルの内側と外側との間に前記鍋底接触温度検知手段は配置され、前記赤外線検知手段は内側コイルの内部に配置される請求項2、および請求項2に従属する請求項3〜5の何れか1項に記載の誘導加熱調理器。
前記鍋載置部材が取り付けられた状態、かつ、前記赤外線温度検知手段が所定温度以上の状態から所定値以上の出力低下がない状態、かつ、鍋の有無及び鍋の材質を判定する鍋判定手段、前記天板温度検知手段又は前記加熱コイルの値が変動している場合は、再度前記鍋判定手段の出力値が変動前と同等の値になると変動前に投入していた電力と同等の電力を投入する請求項12に記載の誘導加熱調理器。
前記突起部に着脱自在に取り付けられ、前記突起部よりも垂直方向に高い位置で被加熱物を保持する鍋載置部材を備えた請求項1又は請求項3から10の何れか1項に記載の誘導加熱調理器。
加熱開始からの前記天板温度検知手段の温度変化に基づいて、鍋載置部材を使用する旨及び使用しない旨を報知する報知手段を備えた請求項11から18の何れか1項に記載の誘導加熱調理器。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の構成図である。以下、図を用いて、本実施の形態について本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1において、誘導加熱調理器の本体1の上面に天板2が水平に配置され、該天板2上に被加熱物である鍋3が載置される。前記天板2の上面には鍋3の横滑り防止や天板表面保護のために上面塗装4が施され、また、下面には意匠性や耐熱保護の為、下面塗装5が施されている。当該塗装に使用される塗料は高耐熱性を有するSi系やセラミックス系のものを用いている。前記天板2は、耐熱性の高い結晶化ガラス製の厚さ約4mmのもので構成されおり、上面に載置部(以下、加熱口6と記載する)が描かれ、該加熱口6上に被加熱物である鍋3が載置される。
【0018】
前記加熱口6の下方の本体内の上部には、加熱口6に対向する位置に、環状に形成された加熱コイル7が各々配置されている。前記加熱コイル7は内側加熱コイル7aとその外側に配置された外側加熱コイル7bとで構成され、コイル支持台8の上に設置されている。天板下面と加熱コイル7とのギャップは、コイル支持台8の外周縁部に取り付けられた緩衝材からなるコイル支持部材8aにより、略一定に保持されている。
【0019】
前記内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとの隙間の位置には、天板下面に密着して天板温度を検出するサーミスタによる接触式温度センサ9(天板温度検出手段を構成する)が配置されている。その接触式温度センサ9の直上の位置の天板上面に、耐熱性の高い塗料等を突起状に塗布もしくは貼り付けることで突起部10を形成している。この突起部10と天板2の一部が鍋底の多少の反りに対して後述のように接触式温度センサ9と鍋底間の熱結合を安定的に保持し、鍋底接触温度検知手段11を構成する。
【0020】
本実施の形態に係る誘導加熱調理器は、操作部12からの加熱開始の指示入力により誘導加熱調理器全体を制御する制御手段13が動作状態を表示部14に表示するとともに、インバータ15を制御して加熱コイル7に高周波電流を供給し、天板2上に載置された鍋3を誘導加熱し、その温度を突起部10および接触式温度センサ9等からなる鍋底接触温度検知手段11で検知して、加熱制御を行う。
【0021】
図2は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の上面図である。
図2に示すように、天板2の前面側には、各加熱口6に対応した操作部12が設けられており、その近傍には各操作部に対応した表示部14が設けられている。操作部12は各加熱口6の通電状態の設定や火力設定、メニュー設定等を行う。また、表示部14は、各加熱口の火力表示を複数個のLEDランプ等で行う火力表示部14aと、LCD等で構成され調理メニューや加熱モード等を表示する状態表示部14bから構成される。
図3に、一加熱口に対応する操作部12および火力表示部14aの一例を示す。火力設定は火力設定キー12aを操作することにより行い、メニュー設定は調理メニューキー12bを操作することにより行う。調理メニューキー12bは、自動調理の「予熱」や、「揚げもの」、「煮込み」等を設定するためのものである。状態表示部14bには、調理メニューキー12bで設定された調理メニュー等が表示される。また、状態表示部14bには調理メニューキー12bの予熱キーの操作により設定された予熱メニューにおいて、鍋を予熱してその温度が適温に達した時に使用者に食材の投入タイミングを知らせることができるように「予熱中」や、「保温中」の表示を行うことができる。
【0022】
また、本体の上面後部左右には上方に向けて開口した吸気口16が設けられており、本体1の上面後部中央には排気口17が設けられている。本体内の基板ケース(図示なし)内には、前記吸気口16より外気を本体内に吸引するため本体内の冷却ファン(図示なし)を備える。基板ケース内には、制御手段13を構成する制御部を含む電子回路を組み込んだ制御基板や加熱コイルに高周波電流を供給するインバータ15の回路を組み込んだインバータ基板が配設され、基板ケースの上面には冷却口が設けられている。冷却ファンにより吸気口16から本体内に吸引された冷却風は、基板ケース内の制御基板やインバータ基板を冷却する。その後、基板ケースの上面の冷却口から吹き出して加熱コイル7を冷却し、排気口17より本体外に排出される。
【0023】
本体の前面には、魚やピザ等を焼くグリル加熱手段(図示無し)が設けられている。該グリル加熱手段は、前面が開口した箱型をしていて、内部の調理庫内にシーズヒータ等の発熱体と内部の温度を検出するサーミスタ(いずれも図示せず)が設けられ、載置された魚やピザ等の食材を加熱調理する。
【0024】
図4は実施の形態1に係る誘導加熱調理器における加熱コイルと接触式温度センサの配置図、
図5は実施の形態1に係る誘導加熱調理器における加熱コイルと突起部の配置図である。本実施の形態では、加熱口毎に突起部10を3個有し、その全ての直下に接触式温度センサ9を備えて、3個の鍋底接触温度検出手段11を構成している。
【0025】
前記加熱コイル7には表皮効果を抑制するためリッツ線を採用しており、インバータ15により数十kHzの高周波で数百Vの電圧が印加され、鍋3に対して高周波磁界を印加して渦電流を発生させ、鍋自体を自己発熱させて加熱する。加熱コイル7は環状の内側加熱コイル7aと、その外側に環状の隙間を設けて配置された環状の外側加熱コイル7bとで構成されているが、内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとに隙間を設ける理由は、内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとで発生する磁束を分散させて鍋3の温度を均一化するためである。なお、加熱コイル7は円形に巻回されているため、同心円上での加熱分布は略同等となる。
【0026】
図6は、鍋種・鍋径による反り量の例を示す図であり、鍋底の反りによる鍋底中心部のギャップが3mmである鍋に対し、接触式温度センサ9が配置された位置で天板と鍋底との距離を示している。なお、
図6ではギャップを強調して表示しており、実寸法とは異なるものとなっている。前記突起部10の高さは、鍋やフライパンが反っていても確実に突起部10の上端と鍋底とが当接し、熱的に結合するように設計することを要する。例えば、加熱コイル7の中心から外側加熱コイル7bと内側加熱コイル7aとの隙間である40mmの位置に天板温度検知手段である接触式温度センサ9および突起部10を配置した場合、図に示すように、鍋底中心部が3mm反った径の異なる鍋やフライパンにおいて、突起部10と加熱口中心からの距離40mmの位置の鍋底が接触するには、天板上面塗装上端部から1.5mm〜3mmの高さを有する必要がある。
図6の例によれば、2.2mm以上の高さを有することで、突起部上端と鍋底面とが当接し、熱的に結合される。
【0027】
なお、本実施の形態では、使用対象とする鍋3を鍋底中心のギャップ(反り)が3mm以下、鍋径12cm〜26cm、接触式温度センサ9の配置位置を鍋載置部(加熱口)中心から40mmの位置として、突起部10の高さを2.2mm以上としたが、突起部10の高さは使用可能とする鍋の鍋底反り量(鍋底中心部ギャップ)や鍋の大きさ、鍋底接触温度検知手段11の配置等により、適宜調整して設定するものとする。
【0028】
図7は、実施の形態1の誘導加熱調理器の加熱部の断面を示す図であり、突起部10の有無による天板温度検知手段である接触式温度センサ9と鍋底の熱的な結合状態の差異を説明するための図である。
図7(a)に示すように、突起部10のない従来の天板2では反りを有する鍋の温度検知を行う場合、鍋底と天板の間には空気層を介することになるので、鍋底から発せられた熱が天板に伝わるには接触している箇所からの横方向の熱伝導と輻射による伝達のみとなるため、大幅な時間遅れが発生していた。一方、
図7(b)に示すように天板温度検知手段である接触式温度センサ9の直上に突起部10を配置した場合は、鍋底と接触式温度センサ9とが空気層を介することなく、突起部10と天板2を介して最短距離で熱的に結合されることになる。突起部10と天板2や塗装膜による時間遅れは発生するが、従来の空気層(熱伝導率:低)を介する場合と比較して大きく改善しており、熱伝導率がよいSi系の塗料を突起部に用いることでさらに突起部10による時間遅れは改善される。また、天板2や突起部10の熱伝導率や投入電力量毎に予め得られている補正係数で補正することで時間遅れによる検出温度誤差は低減することが可能である。
【0029】
図8は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の制御手段における鍋ずれ検出機能のフローチャートである。本機能は、鍋底接触温度検知手段11で検知した鍋底温度により、鍋3の載置位置のずれや小さすぎる鍋、鍋底の反りが大きすぎる鍋を検出するものである。以下、フローチャートに基づき説明する。
【0030】
加熱開始SW(3kWキー等の火力設定キー12b)がオンすると(ステップS1101)、3個の鍋底接触温度検知手段11の出力(THn_1、 THn_2、 THn_3)を取得し(ステップS1102)、その検出値に異常がないか判断する(ステップS1103)。異常が無ければインバータ15を駆動して加熱コイル7に高周波電流を流し始める(ステップS1104)。そして、鍋底接触温度検知手段11で温度検出を行い、その最大温度(THn_Max)と最小温度(THn_Min)を得て(ステップS1105)、その差異が50℃超か判定する(ステップS1106)。その結果、50℃以下であれば加熱を継続し(ステップS1107) 、ステップS1105へ戻る。
【0031】
ステップS1103で鍋底接触温度検知手段11の検出値が異常であった場合や、ステップS1106で検出温度の差異が50℃超となった場合には、使用者に鍋ずれや鍋径が小さ過ぎる等の不都合がある旨を表示部等で報知し(ステップS1108)、再度、鍋底接触温度検知手段11で温度検出を行ってそのばらつきを判定し、差異が50℃以下であればステップS1105へ戻り(ステップS1109)、差異が50℃超であれば加熱を停止する(ステップS1110)。
【0032】
本実施の形態に係る誘導加熱調理器では、加熱口6に設ける突起部10を3個としたので、使用対象範囲内の鍋が加熱口中心に載置されることにより、突起部10の3点で鍋底が支えられることとなる。少なくとも1か所の突起部10の下方に接触式温度センサ9が配置されて鍋底接触温度検知手段11が構成されれば当該突起部上端と鍋底が当接するので、鍋底と接触式温度センサ9が空気層を介さず熱的に結合するので、比較的良好な状態で温度検出ができ、比較的時間遅れが小さく、ばらつきも小さい安定かつ正確な鍋温度を検出できる。したがって、調理する際に良好な加熱制御を行うことができる。
【0033】
また、鍋3を突起部10のみで支持することになり、鍋底と天板2との接触面積が限りなく小さくなるため、加熱効率が格段に向上する。これは誘導加熱により鍋底が加熱された際に、通常は熱が天板と鍋底とが接触している箇所から天板へ流れ込んでいたが、接触面積を縮小することにより鍋底と天板との間には空気層が形成されて天板へ伝導する熱量が減少し、鍋底の発熱分はほぼ鍋内部の被加熱物へ伝わることになるためである。
【0034】
また、同時に調理時の天板温度上昇を低く抑えられることから調理終了後の天板冷却が素早く行えることに加え、天板への食材などの焦げ付きを大幅に抑えることが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態に係る誘導加熱調理器では、3個の突起部の下方全てに天板接触式温度センサを配置したので、3個の鍋底接触温度検出手段11を構成し、鍋底の温度検出を精度よく行うことができる。さらに、
図8に示すように3個の検出温度の差が大きい場合には、鍋の載置位置に大きなずれが生じたり、鍋底の反りが許容範囲を超えるものであったり、あるいは鍋径が小さかったために何れかの突起部に鍋底が当接せず、検出温度差が大きくなったものであり、かかる不適正鍋や鍋載置位置の不良を検出することができる。
【0036】
なお、本実施の形態では、鍋ずれや鍋径不足等で適正に鍋温度を検出できない状態であることを、鍋底接触温度検知手段11の検出温度のばらつきが50℃超であるか否かで判断しているが、その閾値は、実験で定めることとしてもよく、また、加熱出力等に応じて閾値を調整することとしてもよい。
【0037】
また、鍋内の被調理物が噴きこぼれた場合に、鍋底が突起部により支えられて生じた鍋底と天板の隙間に噴きこぼれたお湯等の液体が流れ込み、接触式温度センサ9で検出する天板温度の低下を検知することにより、噴きこぼれを検出することができる。
【0038】
また、突起部10を天板上面塗料と同一の材料で印刷もしくは貼り付けて形成すれば、共通の材料を使用することができるので、材料の調達が容易である。また、天板上面の塗装と同一の生産設備での製造を可能とできる場合があり、コストの抑制を図り易い。また、天板の塗装と突起部の材質が同じであれば、色目を合わすことができるなど、意匠上のメリットもある。
【0039】
また、突起部10を天板上面塗料とは異なる天板塗料より軟質のSiを含む材料で印刷もしくは貼り付けて形成すれば、突起部10の硬度を低くすることができ、鍋底を傷つけず、鍋底との密着性が上がり、鍋3が滑るのを防ぐことができる。特に、貼り付けタイプであれば、突起部10が摩耗した場合であっても、その交換が容易である。
【0040】
実施の形態2.
図9は、実施の形態2に係る誘導加熱調理器の構成図であり、
図10は、実施の形態2に係る誘導加熱調理器の上面図である。以下、
図9および
図10を用いて、本実施の形態について発明を詳細に説明する。なお、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の
図1および
図2と同一部分あるいは相当部分については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0041】
図において、天板2の加熱口6には、鍋3から放射される赤外線を天板2の下方に位置する赤外線センサ18で検出するため、透過窓19が設けられている。天板の透過窓以外の部分には、上面・下面に塗装を施すことで天板上方から加熱コイル線が見えるなどの意匠上の不具合を防ぎつつ、この透過窓19の部分には、鍋3から放射される赤外線放射エネルギーの減衰を少なくするために、天板2の上面塗装4を行わず、天板2の下面塗装5についても、文字や絵、着色等を全面に施さないか、天板2に用いている結晶化ガラスの透過率の高い波長帯域を透過する赤外波長透過塗料を用いている。
【0042】
赤外線センサ18(赤外線検知手段を構成する)は、熱型検出素子を使用した方式のセンサと該センサから出力される電圧信号を増幅する増幅回路から成り、内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bの隙間の下方に設けられている。前記赤外線センサ18は、鍋3の底面から放射される赤外線放射エネルギーを天板2に設けた透過窓19を介して受光し、その受光した赤外線放射エネルギーに応じた検出信号を赤外線温度検知手段20に出力する。
【0043】
前記赤外線センサ18は、その受光面に、赤外線の視野角を制限する集光レンズや、ZnSやSiO、Geなどからなるフィルターを備えている。赤外線センサの視野角は、集光レンズを凸形状として視野を絞ることにより、
図9に示すように天板2の下面の位置で透過窓19の範囲の直径10〜15mmの温度検出スポットとして、加熱コイル7やコイル支持台8、透過窓外に施された下面塗装部から放射される赤外線放射エネルギーを受光しないようにしている。なお、天板2の透過窓以外の部分には天板上面・下面に塗装を施すことで天板上方から加熱コイル線が見えるなどの意匠上の不具合を防ぎ、かつ、赤外線センサから所定の検出出力レベルの信号が得られるように、透過窓19の範囲に施す塗料の塗布量は抑制している。
【0044】
赤外線温度検知手段20は、前記赤外線センサ18の検出信号に基づき、接触式温度センサ9で検出した天板温度等も利用して鍋底温度を検知する。したがって、鍋底の温度変化に伴う赤外線放射量の変化に迅速に応答した温度検出を行うことができる。なお、誘導加熱調理器全体を制御する制御手段13には、操作部12のメニュー設定手段や火力設定手段の出力、天板温度を検知する接触式温度センサ9や赤外線温度検知手段20の出力が入力され、表示部14への火力表示やメニュー表示、インバータ15への制御信号を出力する。
【0045】
図11は、実施の形態2に係る誘導加熱調理器(
図10)の左側の加熱コイル7a・7bと赤外線センサ18および接触式温度センサ9a・9b・9cの配置図であり、
図12は実施の形態2に係る誘導加熱調理器(
図10)の左側の加熱コイルの赤外線センサ18および接触式温度センサ9a・9b・9cと突起部10a・10b・10cの配置図である。右側の加熱コイルについては、
図11および
図12に示した配置と左右反転した配置であり、また、後方中央加熱口の加熱コイルについては左側あるいは右側加熱コイルと同様の配置であり、説明を省略する。
【0046】
本実施の形態では、
図11に示すように、内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとの環状の隙間であって加熱コイル中心を中心とする同心円上の位置に、天板の下面に密着させたサーミスタで構成された接触式温度センサ9(9a・9b・9c)と赤外線センサ18とを90度ずつの等間隔を保持して配置している。一方、
図12において、天板上面の各加熱口に配置される突起部10(10a・10b・10c)は、それぞれ3個配置されている。そのうち、2個の突起部10a・10bは前記接触式温度センサ9a・9bの直上に設けられ、2個の鍋底接触温度検出手段を構成する。他の突起部10cは赤外線センサと他の接触式温度センサ9cとの略中間位置に設けられ、他の接触式温度センサ9cの直上位置では鍋底が天板から離れる。したがって、突起部10cとずれた位置にある接触式温度センサ9cでは鍋底の熱の影響を直接的には受けていない天板の温度を検出することができる。なお、加熱コイル7は環状に巻回されているため、鍋3が加熱口6の中心に載置されれば加熱コイル中心から見て同心円上では同等の加熱度合いとなることから、前記接触式温度センサ9cの検知温度と赤外線センサ18の位置の天板温度を略同等と推定し、赤外線センサ18に入射する天板2から放射される赤外線エネルギーを推定して補正を行うことができるので、正確な赤外線温度を検出することができる。
【0047】
図13は、天板および赤外線センサのフィルターの透過特性(天板:一点鎖線、フィルター:実線)を示す図であり、
図14は、天板の放射特性を示す図である。前記赤外線センサ18のフィルターは前記集光レンズの上面もしくは下面の少なくとも一方に、ZnS、SiO、Geの薄膜を蒸着して形成したもので、前記薄膜の膜厚や量により4μm以上の赤外線をカットし、天板の透過率の高い波長帯域に赤外線透過特性(50%以上の透過率を有するバンドパスフィルター)を有する(
図13)。天板の放射特性は、キルヒホッフの法則[吸収率(α)+透過率(τ)+反射率(ρ)=1]より示され、天板の透過特性(
図13)より天板の透過率τが示されており、また、天板は3.0~4.5μmの領域では反射よりも大部分が吸収となっている。このため、上述のキルヒホッフの法則より、吸収率(α)=放射率(ε)で表され、
図14のように放射特性が表される。
【0048】
図に示すように、天板は3.0~4.5μmの透過率の最も高いところで60%となっており、また、40%程度は天板からの放射エネルギーを検出することとなる。ただし、3.0~4.5μm以外の特に天板放射特性の影響の大きい波長領域(4.5〜10μm)はほぼ透過しない為、前述のバンドパスフィルターにて遮蔽される効果がある。
図13の3.0〜4.5μmの範囲の透過特性をみて分かるとおり、3.6μmを中心に前後の波長領域では透過特性が変化している。また、一例として、バンドパスフィルターの透過特性を
図13に天板の透過特性と並べて表示する。バンドパスフィルターは3.4〜4.2μmの範囲に最大90%程度の透過率を有するフィルターとなっている。
【0049】
天板が加熱され、天板から放射される赤外線放射エネルギーが増大した場合にも、前記集光レンズで透過窓19に視野角を制限し、前記バンドパス特性のフィルターにより天板から放射される赤外線放射エネルギーの影響を抑え、鍋の底面から放射される赤外線放射エネルギーの割合を大きくすることでS/N特性を改善し、赤外線センサからの検出信号から精度を向上させた温度検出が可能となる。
【0050】
ただし、前記バンドパスフィルターを用いると、鍋温度80℃程度から鍋から放射され天板を透過する赤外線エネルギーは検出され、鍋の温度が高くなるにつれて検出値は指数的に増加するが、前述したとおり、天板の透過率が100%でない領域に対してバンドパスを用いているため、天板からの放射赤外線エネルギーも検出している。そのため、天板の透過特性が波長ごとに異なる透過率を有する事から、鍋からの放射赤外線エネルギー量と天板から放射される放射赤外線エネルギー量の比率は鍋底の温度と天板との温度条件により変化する問題がある。
【0051】
しかし、バンドパスフィルターを設けない場合は、例えばシリコンを集光部に設け、シリコンの赤外領域での透過特性は8μmよりも短い波長領域までは図示しないが約50~60%であり、この結果、天板からの赤外線エネルギーの割合が、鍋から放射され天板を透過して検出される赤外線エネルギーの割合に比較し、非常に大きくなってしまう為、精度良く検出することは困難である。
【0052】
また、バンドパスフィルターに天板と同一材料を用いることで、天板を透過した鍋からの赤外線エネルギーを検出が可能となるが、前述の通り、天板材質の特性上、赤外領域での吸収率が高く、フィルター自身が天板や内部の加熱コイルが放射する赤外線により加熱されてしまい、フィルター自身から放射される赤外線が影響してしまうため、フィルター温度に温度検知手段を設けるなどして放射分を相殺させるなどの対策が必要である。
【0053】
鍋の温度と天板の温度条件とにより放射される赤外線エネルギー量の比率が変化してくることは上述の通りであるが、鍋底の放射率による影響も大きな変動要因となっている。特に本実施の形態のような誘導加熱調理器には様々な放射率の鍋が載置されるため、放射率εは0.1〜0.95まで様々な条件を想定しなくてはならない。この放射率の推定方法の説明は後述するが、天板上に載置されている鍋の温度を推定するためには、天板上に載置されている鍋底の温度と天板温度との温度差の推定を行う事と、天板上に載置されている鍋の底面放射率を推定することで精度の高い鍋底温度の検知が可能となる。
【0054】
ここでまず、天板上に載置されている鍋の温度と天板温度との温度差を推定する方法の説明を行う。本発明では天板上方に配置された突起部を介して鍋底と天板接触式温度センサが熱的に接続されているため、どんな形状の鍋でも天板上に載置されている鍋底温度と天板温度との時間遅れ量の推定が容易となる。一例としては3kWで加熱した場合と500Wで加熱を行った時とを比較すると、高いWで加熱を行った方が鍋底温度と天板接触式温度センサ出力温度との乖離が大きくなる。これは誘導加熱による加熱が鍋底を直接加熱する加熱方式の為、投入電力が大きい方が鍋底温度は急峻に立ち上がり、天板接触式温度センサの出力は突起部と天板などの時間遅れによる差が大きくなるためであり500Wで加熱を行った場合の鍋底温度と天板温度との乖離量とは異なる。このため、揚げ物調理などの自動調理ニューでは立ち上がり時を1.5kWで所定時間固定するなど投入電力を固定することで、時間遅れ量が推定できる為、天板接触式温度センサの出力値の補正によりが正確な鍋底温度の検知が可能となる。このように、突起部を備えることにより鍋反りによる影響を受けない為、従来よりも正確な鍋底温度が推定可能となる。
【0055】
上記により鍋底温度が推定可能となると、赤外線センサとの出力温度傾きの相関で鍋底の放射率が推定可能となる。加熱開始から一定時間経過後の天板接触式温度センサによる鍋底検出温度と赤外線センサ出力温度を比較して赤外線センサ出力温度が低ければ放射率が小さい鏡面の鍋、赤外線センサ出力が高ければ放射率が大きい非鏡面の鍋であると推定が出来る。
但し、加熱初期に一定の火力を投入し、所定時間後の天板サーミスタの温度上昇値の大きさが所定温度以上上がらない場合は突起部と鍋底が接していない状態であるとして、火力制限を設けて動作させるか、鍋の反りが所定値以上であるか鍋がずれているとして火力を止める、もしくは火力を低減し、報知部により使用者に報知する。
【0056】
上記で得られた放射率を用いて鍋底の温度を推定することになるが、推定方法は赤外線センサ出力温度をステファンボルツマンの式に当てはめて赤外線放射エネルギーに変換し、当該エネルギー量に赤外線補正係数を掛け合わせた値から突起部と天板接触式温度センサが熱的に接続されているセンサの出力温度を用いて、赤外線センサ出力温度同様に天板から放射される赤外線放射エネルギー量に変換し赤外線センサに用いられているバンドパスフィルターと天板の透過特性・放射特性を鑑みた割合を元に補正し、当該補正した天板接触式温度センサ出力温度をエネルギーに変換した値で減算し、得られた結果を温度換算し鍋底温度として加熱制御を行う。
【0057】
また、赤外線センサ出力温度や天板接触式温度センサ出力温度をエネルギーに変換するには前述のステファンボルツマンの計算が必要となり4乗の計算を制御部で行う事になる。当該計算を制御部マイコン(図示なし)で行うのには負荷が高い場合は、各接触式温度センサを以下のような一次式で表すことも可能である。
【0058】
鍋温度推定値 Tn=α×TP−β×TH ・・(1)
TP:赤外線温度検知手段出力値
TH:天板サーミスタ温度出力値
α:第一の補正係数
β:第二の補正係数
但し、第一の補正係数、第二の補正係数は実験より得られた所定温度での相対比となっているため天板接触式温度センサ出力温度もしくは赤外線センサ出力温度を参照し補正係数を増減させることで精度が向上すると考えられる。但し、定常温度における補正係数で予熱を行えば、補正係数の切替えをせずに設定温度に到達することが出来る。定常温度までは検知温度とは温度差が発生するが設定温度付近では検知温度と鍋温度とが一致するため目的とする温度となり、当該精度の高い温度域で一定制御を行う為、調理モードに用いる場合は固定の補正係数でも十分な精度を有している。
【0059】
以上のように天板上に突起部を有することで鍋底と天板接触式温度センサが熱的に接続され、浮きや反りのある鍋の温度検知精度が向上し、合わせて赤外線センサによる鍋温度推定精度も向上する。
【0060】
ここで、本実施の形態における鍋温度の検出方法を、揚げ物調理を例に説明を行う。
図15に揚げ物予熱制御処理のフローチャート、
図16に揚げ物予熱制御での鍋の放射率判定テーブル、
図17に揚げ物予測制御での鍋温度推定値補正値テーブルを示す。加熱口には油が充てんされた鍋が載置されているものとし、以下、揚げ物予熱制御処理を
図15に基づき説明する。
【0061】
操作部12の調理メニューキーの予熱キーが押下されると制御部13は揚げ物モードを開始し(ステップS101)、インバータ15を駆動して加熱コイル7に50秒間1kWを投入する(ステップS102、ステップS103)。50秒間1kWを投入すると突起部10と突起部下部に設けられた接触式温度センサ9で形成される鍋底接触温度検知手段11の出力をT_thとして加熱開始前から加熱開始50秒後のT_thの温度変化量を算出し、△T_thを求める(ステップS104)。当該△T_thが所定温度(例えば35℃)以上であれば突起部上面に鍋底が接触して載置されている通常載置モードで動作し(ステップS105)、そうでなければ突起部上面に鍋底が接触していない3mm以上の反りを有する鍋か、突起部10の径よりも小さい小鍋である旨を使用者に表示部等から報知し加熱を停止する。(ステップS111~ステップS113)。
【0062】
通常載置モードで動作させた場合は、赤外線センサ18の開始時と開始後50秒時の出力温度差(ΔT_ir)を算出し、前記の鍋底接触温度検知手段11の出力の変化量△T_thと合わせて判定Table1(
図16)をもとに鍋の放射率を判定する。判定は放射率と鍋底温度上昇(鍋厚、油量より変動)を合せた判定結果を抽出する(ステップS106)。
図16において、鍋底接触温度検知手段11の検出温度変化量△T_thが小さいほど油量が多く、逆に大きいほど油量が少ないと判定し、鍋底接触温度検知手段11の検出温度変化量△T_thに対して赤外線温度検出手段20の検出温度変化量△T_irが大きい場合には鍋の放射率が高く、逆に小さい場合には鍋の放射率が低いと判定する。鍋底温度とこの判定結果を元にして上記鍋温度推定値に代入する第一の補正係数と第二の補正係数を予め記憶部に設定しているTable2(
図17)より導出し、鍋温度推定式に代入演算を行う(ステップS107、ステップS108)。なお、鍋温度推定式の補正係数βについては、負荷(加熱出力)の大きさ応じて調整することにより推定精度を向上させることができる。当該鍋温度推定値Tnが使用者が設定した設定温度に至ったかどうか判定し(ステップS109)、設定温度未満であれば加熱を行い(ステップS110)、設定値に至った場合は予熱終了報知を使用者に報知する(ステップS114)。
【0063】
予熱終了後はTnが設定温度となる様に加熱制御を行い、使用者が食材などの負荷を投入しても負荷投入による温度変動を検知し、設定温度にて維持する加熱制御を実行継続する。
【0064】
また、麺茹で調理や煮物調理を行っている際には、調理物がふきこぼれることがあるが、当該ふきこぼれが発生すると従来は鍋底の外周部に調理物や水が溜まり広がっていくが、突起部を有することで鍋底と天板間に通常は隙間があり、ふきこぼれが発生すると水が鍋底内側に入り込んでいき赤外線センサもしくは天板接触式温度センサ出力の低下を検知することでふきこぼれを検出することが出来る。噴きこぼれ検知方法について、
図18に示す煮込み制御処理のフローチャートに基づき、説明を行う。
【0065】
操作部の調理メニューキーの煮込みキーが押下される(ステップS201)と制御部は煮込みモードを開始する(ステップS202)。次いで、鍋底接触温度検知手段の出力(THn_4、 THn_5)を取得し(ステップS203)、さらに赤外線温度検知手段の出力(Tir_1)を取得して(ステップS204)、それらの検出値が異常値でないか判定する(ステップS205)。検出値が異常値でなければ、制御部はインバータを駆動して加熱コイルへの高周波電流の投入を開始し(ステップS206)、何れかの鍋底接触温度検知手段の出力が90℃を超えるまで加熱を継続する(ステップS207・ステップS208)。その後、赤外線温度検出手段の出力の1秒毎の変化量が例えば5℃以上変化したか否か判定する(ステップS209)。変化量が5℃未満の場合には加熱を継続し(ステップS210 )、5℃以上変化した場合には、鍋内の水分が蒸発して空炊き・焦げ付き状態となって過熱したか、あるいは、噴きこぼれにより生じた水が、突起部を有することで生じる鍋底と天板間の隙間の赤外線センサ上に侵入して、その検出温度が急低下したものと判断し、加熱を停止する(ステップS211)。
【0066】
なお、上記制御では、赤外線温度検知手段による検出温度の変化により噴きこぼれを検知する例を示したが、
図19に構成を示す噴きこぼれ検知用フォトリフレクタを用いて噴きこぼれ検知を行ってもよい。前記フォトリフレクタは、天板を介して鍋底に発光ダイオード21を光源として照射し、その反射光をフォトトランジスタ22で受光するもので、水が流れ込んでくると反射光は屈折・散乱することにより検出出力が変化するため、噴きこぼれを検知することができる。なお、噴きこぼれ検知用フォトリフレクタは、加熱開始時に天板を介して鍋底に発光ダイオード21を光源として照射し、その反射光をフォトトランジスタ22で受光して鍋底の反射率を判別する手段と兼ねるものであってもよい。
【0067】
本実施の形態においては、鍋底接触温度検知手段11により正確かつ安定した鍋の温度検知ができるとともに、赤外線センサ18を用いることで鍋温度の変動に対する反応が早い温度検知が可能となり、調理性能や安全性を格段に向上させた誘導加熱調理器を得ることができる。また、赤外線センサ18の視野角を絞るとともにフィルターにより検出波長を制限しているので、赤外線センサ18に入射する赤外線エネルギーの内、鍋底から放射される赤外線エネルギーの比率を高くすることができ、その検出温度の精度を改善することができる。また、接触式温度センサ9cで検出した天板温度や鍋底反射率(放射率)を利用することにより、赤外線センサ19による鍋温度検出の精度を向上させることができる。
【0068】
また、本実施の形態においても、加熱口6に突起部10を3点以上設けることにより、鍋を突起部10のみで支持することができ、鍋底と天板2との接触面積が限りなく小さくなるため、加熱効率も格段に向上することができる。接触面積縮小により鍋底と天板との間には空気層が形成され、鍋底の発熱分はほぼ鍋内部の被加熱物へ伝わることになるためである。
【0069】
さらに、上述のように天板と鍋底との接触面積が小さくなり天板へ流れ込む熱量が小さくなることから天板自体の温度上昇が抑えられる為、前述の天板下面からの赤外線放射エネルギーが小さくなり、前記天板から放射される赤外線放射エネルギーが減少し、鍋底からの赤外線放射分(S)と天板からの赤外線放射分(N)との割合(S/N)が向上し、鍋底温度検知精度は向上する。
【0070】
また、同時に調理時の天板温度上昇を低く抑えられることから調理終了後の天板冷却が素早く行えることに加え、天板への食材などの焦げ付きを大幅に抑えることが可能となる。
【0071】
また、突起部10の下方に天板2の接触式温度センサ9を配置した鍋底接触温度検知手段11を1つの加熱口に2か所以上設けた場合、当該接触式温度センサ9の出力温度差によりサーミスタの故障や鍋ずれ検知の異常を検出する。また、この場合は赤外線センサ18の出力補正に用いる出力温度は複数の平均値を用いてもよいし、最も高い温度を出力する値を用いてもよいし、複数の内上位2つの値を平均したものを用いても良い。
【0072】
なお、本実施の形態では、接触式温度センサ9は3個の例を示したが、3個に限定されることはなく、1個又は2個であっても、3個以上であってもよい。また、本実施の形態では、接触式温度センサ9を赤外線センサ18と同心円上の間隔を置いた位置に配置したが、少なくとも1個は、赤外線センサ18の近傍に設ける構成とすれば、より正確に赤外線センサ18に天板2から放射される赤外線エネルギーを推定できるので、より正確な赤外線温度を検出することができる。
【0073】
実施の形態3.
図20は、実施の形態3に係る誘導加熱調理器の上面図で、突起部10と天板温度検知手段を組み合わせた鍋底接触温度検知手段11を4個設けた例を示している。突起部10の数を増やすと、その上に載置する鍋3を安定して突起部10上に保持することができるようになるが、鍋底の反りが小さい場合であっても全ての突起部10の先端が鍋底と接触するとは限らず、隙間が生じるものもある。4個以上の鍋底接触温度検知手段11を設けた場合には、その検出温度が高い3個の接触温度検知手段11を用いて鍋底温度を検出し、また、鍋ずれや適正鍋の判定を行うこととすればよい。
【0074】
実施の形態4.
図21は、実施の形態4に係る誘導加熱調理器の加熱部断面を示す図である。上記実施の形態1乃至2においては、天板2の加熱口6に設けた突起部10はSi系もしくはセラミックス系の塗料を印刷もしくは貼り付けることで上面塗装4と同様の色調を有することで一体となったデザイン性を有するもの等であったが、本実施の形態の当該突起部はベース部分10aを非磁性金属材料で形成し、その上部にSi系ゴムを取り付け、天板上面に貼り付けて構成している。なお、前記突起部上部10bのゴムは交換可能として摩耗状態に応じて交換可能なようにしている。
【0075】
ベース部分10aを非磁性金属材料で形成することで塗料よりも熱伝導性高く時間遅れを小さくすることが可能となる。また、上部10bにSi系ゴムを取り付けることにより突起部に柔軟性を持たせ、当該突起部と鍋との接触面積を大きくして、鍋の傷つきや鍋が滑るのを抑えることができる。さらに上部ゴムを交換可能としたので、メンテナンス性が向上し、突起部の性能の回復・保持を図ることができる。
【0076】
実施の形態5.
実施の形態1乃至実施の形態2では突起部10、接触式温度センサ9等から構成される鍋底接触温度検知手段11を外側加熱コイル7bと内側加熱コイル7aとの隙間に配置したが、
図22に示すように、同心円上に鍋底接触温度検知手段11を配置し、内側加熱コイル7aの内部に赤外線センサ18を配置し、その直上に透過窓19を配置してもよい。加熱分布は天板温度を検出する接触式温度センサ9の位置と赤外線センサ18の位置とで異なるが、赤外線センサ18の出力値は3~4.2μmの波長を透過するフィルターを設けることにより
図23に示す大気透過率が高い帯域を検知しており、距離による依存性が低く、赤外線センサ18の直上の鍋底までの距離が離れたとしても減衰影響を受けない為、鍋の形状にとらわれず加熱分布の影響を考慮した補正を行う事で精度よく鍋底温度の推定が可能となる。
【0077】
実施の形態6.
次に、実施の形態1から5で説明した平底鍋及び上方へ反りのある平底鍋のみならず、中華鍋のように下方向に凸状に反っているいわゆる丸底鍋にも対応できる誘導加熱調理器について説明する。
本実施の形態では誘導加熱調理器の例として天板上に突起部を有したIHクッキングヒータを例に説明を行う。なお、実施の形態1から5と重複する箇所については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
図24は本実施の形態に係る誘導加熱調理器の上面図である。
図24に示すように、本実施の形態に係る誘導加熱調理器の左側の加熱口6には、突起部よりも垂直方向に高い位置で鍋を保持する鍋載置部材23が設けられている。鍋載置部材23は天板2上の4つの突起部10に後述する突起嵌合部をはめあわせることで着脱自在に固定される。なお、鍋載置部材23は右側の加熱口6に設けても良いし、突起部10を形成すれば中央の加熱口6に設けても良い。また、鍋載置部材23を複数加熱口に対して設けても良い。また、
図24では加熱口1つあたりの突起部の数は4つだが、加熱口1つあたりの突起部の数は3つでも良いし4つ以上でも良い。
【0079】
次に、鍋載置部材23の構造について説明する。
図25は鍋載置部材23の上面図である。また、
図26は鍋載置部材23の側面断面図である。また、
図27は、突起部10に鍋載置部材23を嵌合させた状態で中華鍋を載置した誘導加熱調理器の加熱部の断面を示す図である。
図25及び
図26で示すように、鍋載置部材23は、上面視で加熱コイル7もしくは加熱口6の中心と同心円をなすように円環状に形成され、上面で被加熱物である鍋を載置する鍋受け部24と、鍋受け部24の下方に形成された凹部形状の突起嵌合部26と、鍋受け部24で鍋底からの熱を受けて下方の天板上の突起へ伝熱する伝熱部25を有する。そして、
図27に示すように、天板上に突起として形成されている突起部10と鍋載置部材23の突起嵌合部26とを嵌合させることで、上方で鍋ふりを行い振動が与えられた際にも鍋載置部材23は移動することなく、天板下方に具備した接触式温度センサ9による正確な温度検出が可能となる。また、突起部10と突起嵌合部26とではめあわせているだけのため着脱も容易である。なお、本実施の形態では嵌合の場合のみ記載したが、着脱可能であり突起部10と鍋受け部24が熱的に接続されるのであればその接続機構は問わない。
【0080】
ここで、鍋載置部材23の材質について言及すると、鍋載置部材23は300℃程度まで上昇する鍋と直接接触する為、耐熱が高いことと、天板上面の突起部へ熱を伝達する為、熱伝導率が高い必要があり、Siもしくは金属より形成される。また、金属の中でも誘導加熱により加熱されにくいアルミや銅といった磁性の小さい金属を用いる事が望ましい。
【0081】
次に、本実施の形態の誘導加熱調理器の動作について説明する。
はじめに、中華鍋などの丸底鍋を加熱する際にはあらかじめ使用者が鍋載置部材23を天板上に設置する。その後鍋載置部材上に丸底鍋を載置し、操作部12を介して加熱開始の制御が実行される。なお、鍋底接触温度検知手段11で検知した鍋底温度により、鍋3の載置位置のずれや小さすぎる鍋、鍋底の反りが大きすぎる鍋を検出する鍋ずれ検出については実施の形態1から5と同様であるためその説明を省略する。
【0082】
ここで、鍋載置部材23を天板上に設置した場合に、鍋載置部材23の有無により天板下面に具備されている接触式温度センサ9へ到達する熱量は変わる。つまり鍋載置部材23の伝熱部材質にもよるが、鍋載置部材23を使用する際には伝熱部25の熱容量分を補正する必要がある。補正は火力により鍋底の加熱速度が変化する為、火力が大きくなるほど大きい値を補正係数として与える必要がある。
【0083】
補正の方法としては、使用者が鍋載置部材23を使用する際は操作部12に鍋載置部材23を使用している事を入力するキーを設ける(図示なし)もしくは、立ち上がりの同一電力での接触式温度センサ9の温度上昇速度や、誘導加熱調理器や換気扇に設けたカメラによる画像認識で自動で切り替えることなどが挙げられる。当該補正を加えることで鍋載置部材23を用いた場合でも、鍋載置部材23を用いない場合と同様に温度精度を正確に得ることができる。
【0084】
図28は鍋載置部材23の使用なしで上方へ反りのある平底鍋を加熱した際の温度上昇と、同一の加熱条件で鍋載置部材23あり/なしで丸底鍋を加熱した際の接触式温度センサ9の温度上昇とを示したグラフである。
図28のグラフから、鍋載置部材23がない場合、丸底鍋のように鍋底の反りが大きく鍋載置部材23にも接触しない鍋の温度上昇に関しては突起部10上面から鍋底までに空気層が形成され、接触式温度センサ9の出力が上昇しないことがわかる。一方、鍋載置部材23を使用すると、鍋載置部材23の使用なしで上方へ反りのある平底鍋を加熱した場合に比較して接触式温度センサ9の温度は遅れるが、同一条件で加熱した平底鍋の結果に追従するように温度上昇していることがわかる。なお、
図28からわかるように、検知温度の勾配から鍋載置部材23の使用なしで上方へ反りのある平底鍋を加熱した場合と鍋載置部材23あり/なしで丸底鍋を加熱した場合とがわかるため、加熱開始からの所定時間での接触式温度センサ9の温度変化に基づいて鍋載置部材23を使用する旨及び使用しない旨を報知しても良い。これにより、使用者による鍋載置部材23の誤使用を防ぐことができる。
【0085】
以上のように、本実施の形態に係る誘導加熱調理器によれば、実施の形態1から5で得られる効果に加え、従来は、食材の滑りがよく、受熱面積も広くなる為一般には熱源が放射状に広がるガス調理器具で使用されていた中華鍋のような底面が半球形状である丸底鍋の加熱も可能な誘導加熱調理器を提供することができる。誘導加熱調理器で中華鍋を使用できることの効果としては、例えばガス調理器具では火炎の使用による上昇気流の発生にて室内温度が上がってしまうことや、ガス噴出口の清掃が困難な面を改善できる事等が挙げられる。
【0086】
また、従来の中華鍋を使用できる誘導加熱調理器としては、天板2を下方にへこませて中華鍋の形状に合わせたもの等いずれも中華鍋専用の形状に天板2を加工したものであった。そのため通常の鍋やフライパンなどに対しては使用が困難、かつ温度検知精度も低下するというデメリットがあったが、本実施の形態に係る誘導加熱調理器では、そのデメリットなしに平底鍋と丸底鍋の両方を加熱することができる。また、鍋載置部材23を外すと天板上には3mm程度の突起部10しかないため、天板上の清掃性を損なうこともない。また、突起部10を設けることで当該突起部10と鍋底とが接合するのみである為、鍋底から天板2への熱の伝導が抑えられ誘導加熱による鍋底を加熱する効率は向上する。また、同時に天板2への熱伝導が抑えられることで調理後の天板温度が低くなり使用者がやけどをするリスクが小さくなるという効果も奏する。
【0087】
また、本実施の形態に係る誘導加熱調理器は、鍋載置部材23の有無に応じて補正係数を変更することで、より精度の高い温度検知を行うことができる。つまり、鍋載置部材23の有無に応じて天板温度検知手段である接触式温度センサ9の設定値、又は加熱手段である加熱コイル7の出力値を変更することができるようになるので、より安全性の高い誘導加熱調理器を提供することができる。
【0088】
また、鍋載置部材23の鍋受け部24の形状を円形状とすることで、特に中華鍋のような一般的には上面視円形をしていて、側面視で下半分が半球形状をしているような鍋を用いた場合でも、鍋が左右にずれても確実に鍋載置部材23と接触することができる。また、IHクッキングヒータの加熱コイル7もしくは加熱口6は円形状である場合が一般的であり、加熱分布を考慮すると加熱コイル7もしくは加熱口6の中心と同心円をなすように鍋載置部材23の鍋受け部が形成されている事で温度ムラを抑える事が可能となる。
【0089】
また、伝熱部25には熱伝導率が高ければ補正も小さくて済むことから金属を用い、更に突起嵌合部26から伝熱部25、鍋受け部24にかけてSiや金属からなる熱伝導率の高い材料を組み合わせて使用する事で、高伝熱性に加えて清掃面や表面の劣化、天板との接合部、鍋底との接合部には衝撃を吸収できる効果を奏する。ただし、当該材料に限らず上記の効果を奏する材料であればこの限りではない。なお、天板上面塗料を天板ガラスと同等の結晶化ガラスと無機顔料(金属酸化物)を含むものとすることで、鍋載置部材23の着脱を繰り返しても塗料が剥離することを抑制することができる。特に突起部10は嵌合による着脱の場合塗料が剥離しやすいため、突起部10の塗料を天板ガラスと同等の結晶化ガラスと無機顔料を含むものとすることによる剥離抑制の効果は大きい。
【0090】
実施の形態7.
本実施の形態では、実施の形態6に記載したIHクッキングヒータの天板下面に天板温度検知センサと合わせて鍋底から放射され、天板2を透過する赤外線を検出する赤外線検知手段である赤外線センサ18を具備した誘導加熱装置に関して、調理中に鍋ふりをしても高速で電力復帰できる鍋載置部材23を提供する。
本実施の形態では誘導加熱調理器の例として天板上に突起部10を有したIHクッキングヒータを例に説明を行う。なお、実施の形態1から6と重複する箇所については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0091】
図29は本実施の形態に係る誘導加熱調理器の上面図である。また、
図30は鍋載置部材23の上面図である。また、
図31は、突起部に鍋載置部材23を嵌合させた状態で中華鍋を載置した誘導加熱調理器の加熱部の断面を示す図である。なお
図31中に点線で示したのは赤外線検知視野である。
本実施の形態に係る誘導加熱調理器は
図31に示すように加熱口6の下方に設けている加熱コイル7の内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとを分割した分割コイルを用いており、当該分割コイルの内側加熱コイル7aと外側加熱コイル7bとの隙間に接触式温度センサ9と赤外線センサ18を設けた構造となっている。ただし、赤外線センサ18及び他の突起部10が加熱コイル7又は加熱口6と同心円状にあれば、加熱コイル7が完全に分割された状態になっていなくても良い。また、
図29では加熱口1つあたりの突起部の数は4つだが、加熱口1つあたりの突起部の数は3つでも良いし4つ以上でも良い。また赤外線センサ18が複数あっても良い。
【0092】
鍋載置部材23は前述の通り接触式温度センサ9に突起部10を形成し、当該突起部10と接合するように鍋載置手段23の突起嵌合部26が配置され、その上方に鍋受け部24が加熱口6と同心円をなすように形成される。鍋載置手段23の赤外線センサ18の視野上で鍋受け部24に遮蔽されてしまう箇所には切り欠きが形成、もしくは
図31に示すように円筒状に貫通させて開口が設けられ、赤外線を透過する部分を有している。これにより、常に赤外線センサ18から鍋底までの距離が一定となる条件で鍋底部の温度検出が可能な構造となり、安定した鍋底の赤外線エネルギーを受光できる。
【0093】
次に、本実施の形態の誘導加熱調理器の動作について説明する。なお、鍋ずれ検出や鍋載置部材23の有無による補正係数の選択は実施の形態1から6と同様のため、その説明を省略する。
赤外線検知手段である赤外線センサ18で受光した赤外線エネルギーを本体演算部に設けた赤外線温度検知手段20にて温度換算し、天板温度検知手段11の出力と演算し加熱制御を行う。前述のように当該温度換算は鍋載置部材23の使用有無により補正量が異なってくる。
【0094】
図32は本実施の形態に係る誘導加熱調理器の時間に対する赤外線温度検知手段20の出力値と電力の変化を示したグラフである。
従来では赤外線温度検知手段20の出力を用いることで、調理中に鍋ふりをすると鍋が離れることでインピーダンスが低下し、機器として電流を流す方向になるが、再度鍋を戻された際に過電流が流れてしまい機器を故障させてしまう為、通常は保護の為に鍋ふり等のインピーダンスの低下があった場合は出力を停止させ、再度鍋が載置された後に鍋判定を行い適切な電流を通電している。しかし本実施の形態では、インピーダンスの低下、天板温度検知手段の変化情報と併せて
図32に示すように赤外線温度検知手段20の出力値が所定値A以上変化しなかった場合は鍋載置部材近傍に鍋がある状態で鍋ふり等の行為が行われているとして、前記所定値A以上変化せず、再度載置された事を検出したら材質判定をしない、もしくは鍋判別処理を早めて鍋ふり前に投入していた火力を復帰させる。
【0095】
以上のように、本実施の形態に係る誘導加熱調理器によれば、実施の形態1から6で得られる効果に加また、鍋ふり時の高速復帰など誘導加熱調理機では困難であった動作も赤外線温度検知手段出力と組み合わせることで可能となり、調理性能を向上した誘導加熱調理器を提供することができる。