【実施例】
【0089】
実施例1
本発明のヒトmAbのスクリーニング、同定および使用の方法
材料
ヒトプロテインC、ウシトロンビンを前記のようにして調製した(Esmon et al., 1993。全体として参照により本明細書に組み入れられる)。組み換えAPC(Xigris)はEli Lillyからのものであった。Spectroxyme PCaはAmerican Diagnosticaからのものであった。1-パルミトイル-2-オレオイル−ホスファチジルコリン(PC)、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルセリン(PS)および1-パルミトイル-2-オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(PE)はAvanti Polar Lipids, Inc.からのものであった。ヒト内皮由来EA.hy926細胞を、10%ウシ胎児血清、L-グルタミンおよびHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)で補足したDMEM(ダルベッコ修飾イーグル培地)中に維持した。Molecular Probes社のフルオレセインEXタンパク質標識キットを用いて、製造者の取り扱い説明にしたがってフルオレセイン標識APC(FL-APC)を調製した。これらの実施例において、修飾語「活性化」なしの「プロテインC」は不活性化プロテインCを指す。
【0090】
マウス抗ヒトプロテインCおよびAPCモノクロナール抗体の産生
ヒトプロテインCまたはAPCに対するマウスモノクロナール抗体(mAb)を標準技術(Rezaie and Esmon, 1992)によって産生した。
【0091】
プロテインCまたはAPCに対して特異的なmAbのスクリーニング
EA.hy926細胞へのFL-APCの結合に対するmAbのブロッキング能力をFACSによってスクリーニングすることにより、ヒトプロテインC mAb1575および1580(HPC1575およびHPC1580)を得た。簡潔にいうと、EA.hy926細胞を、0.5%BSA、3mM CaCl
2および0.6mM MgCl
2を含有するHBSS(ハンクス液)緩衝液中、50nM FL-プロテインCおよび100nM様々な抗プロテインCモノクロナール抗体とともに、氷上で30分間インキュベートし、FACS分析に付した。プロテインCではなくAPCへのmAbの結合能力をELISAアッセイによってスクリーニングすることにより、ヒトAPC mAb1573(HAPC1573)を得た。簡潔にいうと、96穴MaxiSorpプレート(NUNC)を、15mM Na
2CO
3、35mM NaHCO
3、pH9.6緩衝液中、5μg/ml様々なmAbで、4℃で夜通しコートした。プレートを、1mM CaCl
2を含有するTTBS(0.05% Tween-20を含有するTBS)(TTBSカルシウム緩衝液)で洗浄し、TBS(20mMトリスHCl、150mM NaCl、pH7.5)中0.1%ゼラチンで1時間ブロックし、TTBSカルシウム緩衝液で再び洗浄し、TTBSカルシウム緩衝液中、100ng/mlプロテインCまたはAPCとともに1時間インキュベートした。TTBSカルシウム緩衝液で洗浄したのち、プレートを2μg/mlビオチン化HPC1580とともに1時間インキュベートし、TTBSカルシウム緩衝液で再び洗浄し、TTBSカルシウム緩衝液中、1μg/mlストレプトアビジン−アルカリホスファターゼコンジュゲートとともにさらに1時間インキュベートした。TTBSカルシウム緩衝液で最後に洗浄し、リン酸p-ニトロフェニル液体基質(Sigma)を加えたのち、405nmでの終点吸光度をVmaxマイクロプレートリーダ上で読み取った。
【0092】
血漿中APCのELISAアッセイ
このアッセイは、APCに対するmAbをスクリーニングするための前記ELISAアッセイを改変したものである。簡潔にいうと、プレートを5μg/ml HAPC1573でコートし、1×カゼインを含有するTBS(Vector Lab)でブロックし、TTBSカルシウム緩衝液で再び洗浄した。10mMベンズアミジン、1mM EDATおよび0.25×カゼイン緩衝液(希釈緩衝液)または1:4希釈ヒト血漿を含有するTTBS中、組み換えAPCを0〜8ng/mlでスパイクし、試料をプレート中で1時間インキュベートした。TTBSカルシウム緩衝液で洗浄したのち、プレートを、10mMベンズアミジン、5mM CaCl
2および0.25×カゼイン緩衝液を含有するTTBS中、1ug/mlビオチン化HPC1575とともに1時間インキュベートした。TTBSカルシウム緩衝液で洗浄したのち、プレートを、10mMベンズアミジン、5mM CaCl
2および0.25×カゼイン緩衝液を含有するTTBS中、0.5μg/mlストレプトアビジン−HRPとともにさらに1時間インキュベートし、TTBSカルシウム緩衝液で再び洗浄し、Ultra-TMB基質(Pierce)で発色させた。0.5M H
2SO
4を加えてHRP酵素反応を停止させたのち、OD405を読み取った。
【0093】
内皮におけるFL-APC結合に対するmAbの影響
EA.hy926細胞を、0.5% BSA、3mM CaCl2および0.6mM MgCl2を含有するHBSS緩衝液中、様々な濃度のHAPC1573またはHPC1575の非存在または存在において、50nM FL-APCとともに氷上で30分間インキュベートし、FACS分析に付した。
【0094】
血漿凝固アッセイにおけるAPC抗凝血活性に対するmAbの影響
ST4凝固計(Diagnostica Stago)を使用する修飾第Xa因子1ステージ凝固アッセイにおいて、血漿中のAPC抗凝血活性に対するmAbの影響を決定した。標準アッセイにおいて、ラッセルクサリヘビ蛇毒からの第X因子活性化酵素X-CPの調節量をヒト正常プール血漿に加えて、0.1% BSAを含有するTBS中、ホスホリド小胞(最終的に10μg/mlの40% PE、20% PSおよび40% PC、w/v)とCaCl
2(6.25mM)との混合物中の30s凝固時間を得た。CaCl
2添加によって凝血を開始させた。CaCl
2添加の前にAPC(最終200ng/ml)またはHAPC1573(最終20μg/ml)を加えた。
【0095】
色素産生性基質に対するAPCアミド溶解活性に対するmAbの影響
HBSS緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミン、3mM CaCl
2、0.6mM MgCl
2を含有するHBSS)中10nM APC50μlのアミド溶解活性を、66.7nM HPC1555またはHAPC1573の非存在または存在において、50mM HEPES、100mM NaCl、pH7.5緩衝液中0〜2mM連続希釈Spectrozyme PCa50μlを加えることによって測定した。
【0096】
ヒストン細胞毒性アッセイ
EA.hy926細胞を、Opti-MEM培地(Invitrogen)中、100nM APCおよび200nM HAPC1573の非存在または存在において、子ウシ胸腺ヒストンH3またはH4(Roche)とともに37℃で1時間インキュベートし、そして室温で5分後、10μg/mlヨウ化プロピジウム(PI)を加えた。細胞を洗浄し、EDTA/PBSで解離させ、PI陽性染色のためにフローサイトメトリーに付した。
【0097】
実施例2
本発明のヒトmAbのスクリーニング、同定および使用の結果
HAPC1573は内皮におけるAPC結合を増強する
HAPC1575が内皮におけるAPC結合に影響を有するかどうかを試験するため、本発明者らは、EA.hy926細胞をFL-APCとともにHAPC1573またはHAPC1575の非存在または存在においてインキュベートし、細胞におけるFL-APCの結合をフローサイトメトリーによって計測した。フローサイトメトリーのヒストグラムは、HAPC1573は内皮細胞におけるFL-APC結合を増強するが、HPC1575は細胞におけるFL-APCの結合を阻害するということを示した(
図2)。HAPC1573は内皮におけるAPC内在化を促進する。FL-APCは、APCのGlaドメインと細胞上のEPCRとの相互作用を介してEA.hy926細胞中に内在化され、この内在化は、EPCRブロック性Ab(JRK1494)またはGlaドメインブロック性Ab(HPC1575)のいずれかによってブロックされた(
図3)。HAPC1573は細胞へのFL-APC内在化を促進し、この効果は、EPCRブロック性Abによって完全にブロックされた(
図3)。
【0098】
HAPC1573は色素産生性基質に対するAPCアミド溶解活性を変化させる
HAPC1573はELISAプレート上および内皮細胞上でAPCを認識したため、本発明者らは、HAPC1573が色素産生性基質に対するAPCのアミド溶解活性に影響することができるかどうかを調べた。合成ペプチド基質は通常、分子量およそ数百ダルトンの小さな分子であり、血漿中のセリンプロテアーゼに対する大部分の抗体はこれらの小さな基質に対する酵素活性に対してほとんど影響を有しない。しかし、HAPC1573は、APCの、その色素産生性基質Spectrozyme PCaに対する運動パラメータを劇的に変化させた(
図4)。Spectrozyme PCaに対するAPCのkmは、Abの非存在またはHPC1555の存在における270nMと比較して、HAPC1573の存在においては15nMであった。Spectrozyme PCaに対するAPCのkcatは、Abの非存在またはHPC1555の存在における67と比較して、HAPC1573の存在においては18であった。HAPC1573の存在における小さなペプチド基質に対するAPCの甚大な変化は、このmAbがAPCの活性部位の近くのエピトープを認識し、Abと抗原との相互作用が、小さなペプチド基質に対するAPCの親和力を劇的に増大させるが、APC触媒部位からの産物のオフレートを低下させるということを示した。
【0099】
HAPC1573は血漿中でAPC抗凝血活性をブロックする
図5は、HAPC1573が、第Xa因子開始1ステージ血漿凝固アッセイにおけるAPCの延長効果をほぼ完全に消滅させたことを示して、HAPC1573とAPCとの相互作用が、APCが第Va因子を開裂することを阻止したことを示唆する。
【0100】
細胞外ヒストンを開裂するAPCに対するHAPC1573の影響
最近、本発明者らは、APCが細胞外ヒストンを開裂し、内皮をヒストンの細胞毒性から保護することができることを見いだした(原稿作成中)。HAPC1573は、色素産生性基質に対するAPCアミド溶解活性を変化させ、血漿中のAPC抗凝血活性をブロックするため、本発明者らは、このmAbが、細胞外ヒストンH3およびH4を開裂するAPCに影響し、かつ内皮におけるヒストンH3およびH4細胞毒性に対するAPC細胞保護に影響することができるかどうかを調べた。
【0101】
驚くことに、HAPC1573は、APCがヒストンH3およびH4を開裂することを阻害せず、実際には増大させた。(
図6)。一貫して、HAPC1573は、内皮におけるヒストンH3およびH4に対するAPC細胞保護活性を阻害せず、わずかに増大させた(
図7A〜B)。
【0102】
実施例3
本発明のヒトmAbのスクリーニング、同定および使用の説明
プロテインCは、内皮上のトロンボモジュリンと複合化したトロンビンによって活性化される。活性トロンビンのインビボで数秒の一過性寿命とは異なり、ヒトAPCは、その生成後、循環中で約20分の半減期を有する(Berg et al., 2003)。したがって、血漿中のAPCのレベルをうまく計測して、様々な病態生理学的条件下でのその制御を研究することができる。
【0103】
APCを計測するために現在利用可能な方法は、APCを捕獲する抗体を使用し、色素産生性基質によってAPC活性を計測する酵素捕獲アッセイに基づく。これらのアッセイで使用されるすべての抗体は、APCだけでなくその酵素原プロテインCをも認識し、プロテインC濃度は正常な循環中でAPCの約1000倍超であるため、これらの方法を使用するAPC計測は臨床的に妥当ではない。高速かつロバストなAPC計測法が診断および治療の両方で望ましい。上記結果は、mAbであるHAPC1573が、APCを認識するが、プロテインCを認識せず、血漿中のAPCレベルをインビボで計測するための好都合なELISA法の開発を実証するということを示す。通常、この方法を用いると、酵素捕獲アッセイの場合の19時間または数週間(Gruber and Griffen, 1992, Liaw et al., 2003)に比べて、APCを1ng/ml含有する血漿試料を計測するのに4時間未満しか要しない。
【0104】
最近の研究が、APCの抗凝血活性がその細胞保護機能にとって重要ではなく、PAR1に対するAPC開裂活性が、その抗アポトーシス効果にとって不可欠であるかもしれないということを示した(Mosnier et al., 2004)。しかし、APCの細胞保護効果は、EPCRを発現させる内皮細胞の中だけでなく、EPCRを細胞表面に発現させない他の細胞、たとえばニューロンおよびケラチノサイト上でも示されて(Guo et al., 2004, Berg et al., 2003)、PAR1媒介APCシグナル伝達以外の機構が存在することを示した。HAPC1573は、色素産生性ペプチド基質に対するAPC開裂活性を変化させ、また、血漿凝固アッセイにおいてAPC抗凝血活性をブロックして、このmAbがAPC活性部位の近くのエピトープを認識し、抗体抗原結合によってその触媒活性を変化させるということを示唆した。
【0105】
他方、HAPC1573は、APCが細胞外ヒストンを開裂することを阻害せず、実際には増強させ、内皮におけるヒストンに対するAPC細胞保護活性を増大させて、活性化第VおよびVIII因子を開裂するAPC抗凝血活性が、細胞外ヒストンを開裂することによるその細胞保護活性にとって必要ではないことを示した。細胞外ヒストンをその抗凝血活性から独立して開裂することは、APC制御炎症および細胞保護の分子機能の一つであるかもしれない。
【0106】
HAPC1573は、たとえば血友病A型患者の治療に使用することができる。APCは、第VIIIa因子および第Va因子の両方を開裂し、それにより、凝血をマイナスに制御する。血友病A型患者においては第VIII因子レベルが低く、APCによる第Va因子の不活性化が、おそらくは、これらの患者における止血および血栓症を制御するための主要な経路である。最近の臨床報告が、APC開裂に耐性である第V因子Laiden変異体が血友病A型患者にとってその出血症状に関して有益であることを実証した(van't Zant et al., 1997)。HAPC1573のようなmAbによって第Va因子に対するAPC抗凝血活性をインビボでブロックすることが、特に高レベルの第VIII因子阻害物質を有するせいで第VIII因子置換療法があまり効果的ではないであろう血友病A型患者にとって、血友病A型治療のための代替手法であるかもしれない。
【0107】
HAPC1573のもう一つの考えられる臨床用途は、ホメオスタシスが乱れ、過度な出血が起こりやすく、ホメオスタシスを回復するために外科的処置が遅れてしまう外傷患者の治療における用途である。HAPC1573による治療は、活性化プロテインCの細胞保護または抗炎症活性を除くことなく、凝血原状態を選択的に回復することができる。
【0108】
HAPC1573のもう一つの考えられる臨床用途は、敗血症治療におけるAPCとの組み合わせである。APCは、現在、重篤な敗血症のためのFDA認可されている唯一の薬である。患者におけるその出血性副作用はAPC抗凝血活性によるものである。HAPC1573は、APC細胞保護効果を維持し、さらには増強しながらも、APC抗凝血活性をブロックした。このmAb-APC複合体は、その出血性副作用に関して、APC単独よりも優れた治療薬であるかもしれない。
【0109】
実施例4
本発明のマウスモノクロナール抗体のスクリーニングおよび使用の方法
材料および方法
組み換えマウスプロテインC、APC、ラットmAb MPC1609およびMAPC1591を、標準的手法にしたがって当研究室で製造した。Molecular Probes社のフルオレセインEXタンパク質標識キットを用いて、製造者の取り扱い説明にしたがってフルオレセイン標識APC(FL-APC)を調製した。
【0110】
動物実験
この実験では、Oklahoma Medical Research FoundationのInstitutional Aminal Care and Use Committeesによって承認された実験動物プロトコルにしたがって、6〜12週齢オスBL6マウスを使用した。
【0111】
細胞培養
bEnd3細胞(マウス脳由来内皮細胞系)を、10%ウシ胎児血清およびL-グルタミンで補足したDMEM(ダルベッコ修飾イーグル培地)中で培養した。EA.hy926細胞(ヒト内皮細胞系)を、10%ウシ胎児血清、L-グルタミンおよびHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)で補足したDMEM中で培養した。
【0112】
内皮におけるFL-APC結合およびプロテインC活性化
bEnd3細胞を、0.5%BSA、3mM CaCl
2および0.6mM MgCl
2を含有するHBSS緩衝液中、125nM MPC1609またはMAPC1591の非存在または存在において、100nM FL-APCとともに氷上で15分間インキュベートし、FACS分析に付した。
【0113】
内皮細胞におけるプロテインC活性化に対するmAbの影響
24穴プレート中のbEnd3細胞をHBSS緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミン、3mM CaCl
2、0.6mM MgCl2を含有するHBSS)で一度洗浄し、0.1μMプロテインCを含有するHBSS緩衝液中、0.1μM MPC1609またはMAPC1591とともに5分間プレインキュベートした。0.2mlの合計量の5nMウシトロンビンの添加によって活性化反応を開始させた。37℃で15分後、ウシ抗トロンビンIII 50μl(1.67mg/ml)を反応物に添加することによって反応を停止させた。50μl上澄みを96穴マイクロプレートに移し、プロテインCの活性化速度を、100mM NaCl、50mM HEPES-NaOH、pH7.5緩衝液中、0.4mM Spectrozyme PCa基質50μlに対して405nmのVmaxで測定した。
【0114】
APC抗凝血活性アッセイ
ST4凝固計(Diagnostica Stago)を使用する修飾第Xa因子1ステージ凝固アッセイにおいて、血漿中のAPC抗凝血活性に対するmAbの影響を決定した。このアッセイにおいては、ラッセルクサリヘビ蛇毒からの第X因子活性化酵素X-CPの調節量を、血漿(50%マウス血漿および50%ヒト正常プール血漿)に加えて、0.1%BSAを含有する20mMトリスHCl、150mM NaCl緩衝液(pH7.5)中、リン脂質小胞(最終的に10μg/mlの40%ホスファチジルエタノールアミン、20%ホスファチジルセリンおよび40%ホスファチジルコリン、w/v)とCaCl
2(6.35nM)との混合物中の30s凝固時間を得た。CaCl
2添加によって凝固を開始させた。CaCl
2添加の前にAPC(最終200ng/ml)およびMPC1609(最終5μg/ml)またはMAPC1591(最終5μg/ml)を加えた。
【0115】
ヒストン細胞毒性アッセイ
EA.hy926細胞を、Opti-MEM培地(Invitrogen)中、100nM APCおよび200nM MAPC1591の非存在または存在において、50μg/ml子ウシ胸腺ヒストン(Sigma)とともに37℃で1時間インキュベートし、そして室温で5分後、10μg/mlヨウ化プロピジウム(PI)を加えた。細胞を洗浄し、PBS中0.526mM EDTAで解離させ、PI陽性染色のためにフローサイトメトリーに付した。
【0116】
IL-6、BUNおよびクレアチニンアッセイ
BUNおよびクレアチニンに関して、マウス血清をVitros 250 Chemistry Analyzer(Ortho-Clinical Diagnostics)上で分析した。Quantikine Colorimetric Sandwich ELISA(R&D Sytems)によって血清IL-6を計測した。
【0117】
実施例5
本発明のマウスモノクロナール抗体のスクリーニングおよび使用の結果
MPC1609は、プロテインCおよびAPCの両方に抗するものであり、内皮におけるプロテインCおよびAPC結合を阻害した(
図8A。データ示さず)。MAPC1591は、APCには抗したが、プロテインCには抗せず、内皮におけるAPC結合を増強した(
図8A。データ示さず)。内皮におけるプロテインC活性化は、MPC1609の存在において劇的に低下した(
図8B)。MAPC1591はまた、おそらくは細胞におけるAPC結合の増強のせいで、プロテインC活性化をいくらか低下させた(
図8B)。MPC1609およびMAPC1591は、いずれも、血漿凝固アッセイにおいてAPC抗凝血活性を完全に阻害した(
図8C)。これらのインビトロ実験に基づいて、本発明者らは、MPC1609が、内皮またはリン脂質におけるプロテインCまたはAPCの結合の原因であるプロテインCまたはAPCのGlaドメインを隠蔽することにより、内皮またはリン脂質におけるプロテインCおよびAPC結合を阻害すると結論づけた。MAPC1591は、APCの活性部位の周囲のエピトープとの相互作用を介してAPCを認識したが、プロテインCを認識せず、この相互作用が、おそらくはAPCが第Va因子を開裂することを防ぐことによってAPC抗凝血活性を阻害した。
【0118】
LPS誘発敗血症性ショックにおけるAPC保護効果の分子機構を探るため、本発明者らは、亜致死量のLPSをMPC1609またはMAPC1591とともにマウスに注射し、LPSおよびMPC1609を注射されたマウスはすべて48時間以内に死亡するが、LPSおよびMAPC1591を注射されたマウスはすべて生存するということを見いだした(
図9)。注入から18時間後、LPSおよびMPC1609を注射されたマウスは、低体温、末梢血中の高い好中球、低いリンパ球および低い血小板カウント値を含む重篤な敗血症性ショック症状を示した(
図10A。データ示さず)。これらのマウスにおいて血清IL-6レベルはきわめて高かったが(
図10B)、これらのマウスと、LPS+MAPC1591を注射されたマウスとの間で、心臓、肺、肝臓、脾臓、胸腺および末梢血におけるIL-6 mRNAレベルの有意な差は認められず(データ示さず)、IL-6の新規合成が、敗血症性ショックマウスにおける持続的に高めのIL-6レベルの主要原因ではないことを示唆した。LPSおよびMPC1609を注射されたマウスにおける血清BUNおよびクレアチニンレベルは他のマウスよりも高く(
図10C〜D)、これらのマウスにおいて急性腎不全が起こり、それがIL-6のクリアランスの遅れの原因であることを示した。興味深いことに、LPSおよびMAPC1591を注射されたマウスにおけるBUNおよびクレアチニンレベルは、LPSだけを注射されたマウスにおけるレベルよりも低く(
図10C)、LPS抗原投与下のインビボでの腎臓保護に関してはMAPC1591およびAPC複合体がAPCよりも有効であることを示唆した。
【0119】
細胞外ヒストンが活性化好中球およびマクロファージならびにアポトーシス細胞上で見いだされ(Brinkmann et al., 2004, Radic et al., 2004)、哺乳動物細胞に対して細胞毒性であった(Abakushin et al., 1999、Currie et al., 1997, Kleine et al., 1997)。APCはヒストンH3およびヒストンH4を開裂し、MAPC1591は、APCがこれらのヒストンを開裂することを阻害せず、実際には増強した(
図10A)。APCは内皮に対するヒストンの細胞毒性を低下させ、MAPC1591はこのAPC細胞保護活性を増強した(
図11B)。実際、細胞外ヒストンは、LPSおよびMPC1609注射後の敗血症マウス血清中には検出されたが、LPSまたはLPSおよびMAPC1591を注射されたマウスでは検出されず(
図11C)、不十分なプロテインC活性化と、循環中の細胞外ヒストンの存在と、敗血症性ショック下のマウスの致死率との間のインビボ相関が示された。これらのインビトロデータをインビボ観察結果と合わせて、本発明者らは、APCの細胞保護活性を、MAPC1591によるその抗凝血活性から区別し、抗凝血活性から独立したAPCによる細胞毒性ヒストンの開裂が、LPS誘発敗血症性ショックからマウスを保護するAPCの新たな分子機構を提供する。
【0120】
実施例6
本発明のマウスモノクロナール抗体のスクリーニングおよび使用の説明
プロテインC経路は凝血および炎症の制御において重要な役割を演じる(Esmon, 2006)。ヒトAPCが、重篤な敗血症における死亡率を有意に減らすことが実証され、重篤な敗血症の治療のための最初の薬として認められた(Bernard et al., 2001)。しかし、敗血症におけるAPC保護効果の分子機構は未だ理解が不十分である。突然変異誘発研究は、APCの抗凝血活性が、内皮細胞に対するAPC抗アポトーシス効果にとって重要でないことは明かであり(Mosnier et al., 2004)、APCシグナル伝達の抗炎症および抗アポトーシス効果が内皮細胞中でプロテアーゼ活性化受容体1(PAR-1)媒介的である(Reiwald et al., 2002)ことを示した。しかし、PAR-1欠乏マウスは、LPS抗原投与下、その野生型対照マウスに類似した表現型を有し、APCがインビボで炎症および細胞保護を制御するためにPAR-1が重要な役割を演じないことを示唆した(Pawlinski et al., 2004, Camerer 2006)。インビボで病態生理学的機能を制御するAPCの中心的役割を与えられて、本発明者らは、マウスプロテインCおよびマウスAPCに対する二つのmAbを生成し、それら二つのmAbを使用して、マウスにおけるLPS誘発敗血症性ショックにおける、十分に理解されていないAPC保護効果の機構を探った。
【0121】
本明細書で開示し、特許請求するすべての組成物および/または方法は、本開示を考慮すると、過度な実験を行うことなく成し、実行することができる。好ましい態様に関して本発明の組成物および方法を説明したが、当業者には、本発明の概念、真意および範囲を逸することなく、本明細書に記載される組成物および/または方法ならびに方法のステップまたはステップの順序に変更を加えることができることが明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連する特定の薬剤を本明細書に記載される薬剤に代えて用いても、同じまたは類似した結果が達成されるということが明らかであろう。当業者には明らかであるそのような同様な代用および改変はすべて、請求の範囲によって画定される発明の真意、範囲および概念に入るものとみなされる。
【0122】
参考文献
本出願を通して挙げられた参考文献は、以下の参考文献を含め、本明細書に述べられたものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に組み入れられる。