(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本技術を実施するための形態(以下、実施の形態と称する)について説明する。説明は以下の順序により行う。
1.第1の実施の形態(窒素の量から膜厚を求める例)
2.第2の実施の形態(水素および窒素の量から膜厚を求める例)
3.第3の実施の形態(水素および窒素の量から膜厚および形状を求める例)
4.第4の実施の形態(開口率、水素および窒素の量から膜厚を求める例)
5.第5の実施の形態(窒素の量から膜厚を求めて加工を行う例)
【0022】
<1.第1の実施の形態>
[シミュレータの構成例]
図1は、第1の実施の形態におけるシミュレータ100の一構成例を示すブロック図である。このシミュレータ100は、ドライエッチングにおけるエッチング特性(エッチングレート、ポリマー膜厚、ダメージ)を推定する装置であり、入力部110、エッチング特性演算部150および出力部170を備える。エッチング特性演算部150は、フラックス演算部151、ダングリングボンド率演算部152、エッチングレート演算部153、アウトフラックス演算部154、ポリマー膜厚演算部155、およびダメージ演算部156を備える。なお、シミュレータ100は、特許請求の範囲に記載の情報処理装置の一例である。
【0023】
シミュレータ100において、OS(Operation System)は、Windows(登録商標)、Linux(登録商標)、Unix(登録商標)、Macintosh(登録商標)のいずれでもよい。また、プログラミング言語は、C/C++(登録商標)や、Fortran、JAVA(登録商標)などのいずれでもよい。
【0024】
入力部110は、GUI(Graphical User Interface)などを介して、エッチング特性の推定に必要な入力データをエッチング特性演算部150に入力するものである。入力データとして、例えば、エッチングガスの種類、そのエッチングガスの流量、エッチングガスの圧力、印加パワー、および、エッチング時間などの加工初期条件が入力される。
【0025】
フラックス演算部151は、被加工物内の窒素と反応する、エッチングガス内の水素の量を必要に応じて演算するものである。ただし、CF系ガスなど、水素を含まないエッチングガスを用いる場合には、水素のフラックス量の演算は不要である。
【0026】
ダングリングボンド率演算部152は、ダングリングボンド率を演算するものである。ここで、ダングリングボンド率は、被加工物の面積に対する、被加工物がエッチングガスと反応する面積の比率であり、反応面積率とも呼ばれる。また、被加工物はSi
3N
4などの窒素化合物を含み、エッチングガスは、例えば、CF系のガスである。ダングリングボンド率は、例えば、次の各式により求められる。
【数1】
【0027】
式1において、σ
SiNは、Si
3N
4の面密度であり、Y
iSiNは、エッチングガスのイオン化により生じたイオンとSi
3N
4の反応確率である。面密度の単位は、例えば、cm
-2である。V
netは、イオンのある深さでのエネルギーである。また、θ(j,t)は、j番目のスラブの時間tにおけるダングリングボンド率である。tの単位は、例えば、秒である。ここで、スラブは、被加工物を複数の板状の層に分割するスラブモデルにおける、それぞれの層を示す。この式1におけるΓ
DBERは、次の式により求められる。
【数2】
【0028】
式2において、ρ
SiNは、Si
3N
4の膜密度である。膜密度の単位は、例えば、グラム毎立法センチメートル(g/cm
-3)である。ER(j,t)は、j番目のスラブの時間tにおけるエッチングレートである。エッチングレートの単位は、例えば、センチメートル毎秒(cm/s)である。なお、シミュレータ100は、被加工物を複数のスラブに分割して、スラブごとにダングリングボンド率およびエッチングレートを算出しているが、被加工物を複数のスラブに分割しない構成であってもよい。また、式1におけるY
iSiNは、たとえば、次の式により求められる。
Y
iSiN(V
net)=8.5×0.0073×
exp{0.0023×(E−ΔE)}×1.3 ・・・式3
【0029】
式3において、Eは、イオンエネルギーである。式4において、Tは、被加工物およびエッチングガスの一次反応により生じたポリマー層(保護膜層)の膜厚である。時間tが「0」である初期状態においてはポリマー層は形成されていないため、「0」などの初期値が膜厚Tに設定される。t>0の期間においては、膜厚Tには、ポリマー膜厚演算部155により演算された値が設定される。膜厚の単位は、例えば、センチメートル(cm)である。この式3におけるΔEは、たとえば、次の式により求められる。Tpは、ポリマー膜表面からスラブまでの深さである。
ΔE=48+142×Tp ・・・式4
【0030】
ダングリングボンド率演算部152は、演算したダングリングボンド率をエッチングレート演算部153およびアウトフラックス演算部154に供給する。
【0031】
エッチングレート演算部153は、エッチングレートを演算して、その推定値を求めるものである。エッチングレートを算出するために、次の式により、Si
3N
4と反応するフッ素のフラックスΓ
F*が求められる。
Γ
F*=(1−Y
HF)Γ
F ・・・式5
上式において、Y
HFは、水素とフッ素との反応確率である。また、Γ
Fは、加工表面に入射するフッ素のフラックスである。
【0032】
また、たとえば、次の式により、フッ素とSi
3N
4との反応確率Y
FSiNが求められる。Eは加工表面に入射するイオンの持つエネルギーである。
Y
FSiN(V
net)=0.0073×exp{0.0023×(E−ΔE)}
×1.3 ・・・式6
【0033】
式5および式6により求めたY
FSiNおよびΓ
F*と、ダングリングボンド率演算部152により演算されたダングリングボンド率とに基づいて、j番目のスラブのエッチングレートが、例えば、次の式により算出される。
【数3】
上式において、β
1は、反応生成物CF
B1のインデックスである。
【0034】
式7により求めた各スラブのエッチングレートER(j,t)から、次の式により、被加工物全体のエッチングレートが演算される。
【数4】
【0035】
エッチングレート演算部153は、算出した1つ前の時間ステップt-1のエッチングレートを時間tのアウトフラックスとしてアウトフラックス演算部154およびダメージ演算部156に供給する。
【0036】
アウトフラックス演算部154は、ポリマー層内の炭素と反応する窒素の量を演算するものである。この窒素が炭素と二次的に反応してC
2N
2が生成され、そのC
2N
2が揮発する。このため、反応する窒素の量は、揮発して被加工物の外部へ出力されるアウトフラックスとして扱われる。アウトフラックスは、エッチングレート演算部153からのエッチングレートとダングリングボンド率演算部152により演算されたダングリングボンド率とに基づいて、例えば、次の式により演算される。
【数5】
上式において、Γ
NERは、被加工物から放出されるアウトフラックスである。また、Γ
H**は、被加工物内の窒素と反応する、エッチングガス内の水素の量である。CF系ガスなど、水素を含まないエッチングガスを用いる場合には、Γ
H**に「0」が設定される。
【0037】
アウトフラックス演算部154は、算出したアウトフラックスをポリマー膜厚演算部155へ供給する。なお、アウトフラックス演算部154は、特許請求の範囲に記載のフラックス演算部の一例である。
【0038】
ポリマー膜厚演算部155は、ポリマー膜の膜厚を演算するものである。CF系ガスなどの水素を含まないエッチングガスを使用する場合、ポリマー膜厚Tは、アウトフラックスに基づいて例えば、次の式により求められる。
【数6】
【0039】
上式において、d/dtは、時間微分を示す。また、ρ
pは、ポリマー膜の膜密度である。Y
CCは、ポリマー膜中の炭素とエッチングガス中の炭素との反応確率であり、Γ
Cは、加工表面に入射する炭素のフラックスである。Y
OC1は、ポリマー膜中の炭素とエッチングガス内の酸素との反応確率であり、Γ
Oは、加工表面に入射する酸素のフラックスである。Y
FCは、エッチングガス中のフッ素とポリマー膜中の炭素との反応確率である。Y
iCは、入射してきたイオンとポリマー膜の炭素との反応確率であり、Γ
iは、入射イオンのフラックスである。γ
1は、0より大きく、1以下のシミュレーションの入力パラメータである。この係数γ
1が小さいほど、ポリマー膜質の変化により、入射粒子と炭素との反応確率が低く、ポリマー層から揮発量を除去する除去率が低いことを示す。Y
CNは、ポリマー膜中のCH結合と、アウトフラックスの窒素との反応確率である。
【0040】
式10の右辺の第1項は、エッチングにより生成されるポリマー層の堆積量を示し、第2項は、酸素やフッ素と反応して揮発するポリマー層を減少させることを示す。また、第3項は、ポリマー膜中の炭素が窒素と反応してポリマー層を減少させることを示す。左辺は、第1項の堆積量から、第2項および第3項の揮発量を除去した値であり、堆積するポリマーの量を示す。なお、ポリマー膜厚演算部155は、特許請求の範囲に記載の保護膜層演算部の一例である。
【0041】
CF系ガスを用いる場合には、ポリマー膜中の炭素とエッチングの際に生じる2次的な窒素とが反応してポリマー膜中に揮発しにくいシアン(CN)が形成され、ポリマーの膜質が変化する。このため、高いエネルギーを持つイオンが照射される(言い換えると、反応の閾値が低い)場合に、ポリマー膜中の炭素がC
2N
2として気相中に放出され、ポリマー膜厚が減少する。式10の第3項が、この減少分を示す。
【0042】
ポリマー膜厚演算部155は、算出したポリマー膜厚を出力部170およびダングリングボンド率演算部152に供給する。
【0043】
ダメージ演算部156では、特許文献1に記述にされているダメージ計算方法に従ってダメージ(結晶欠陥)が計算される。なお、ダメージ演算部156は、特許請求の範囲に記載の結晶欠陥演算部の一例である。
【0044】
出力部170は、シミュレーション結果を出力するものである。例えば、時間ごとのポリマー膜厚、エッチングレート、ダメージなどがシミュレーション結果として出力される。なお、このシミュレーション結果は、GUIにより可視化してもよい。シミュレーション結果の出力や可視化は、演算の全てが完了したときに行ってもよいし、演算中にリアルタイムに行ってもよい。
【0045】
図2は、第1の実施の形態における表面反応モデルを説明するための図である。エッチングガス中のCHxFyと、窒化ケイ素(SiN)を含む被加工物内の反応層とが反応して二フッ化ケイ素(SiF
2)、四フッ化ケイ素(SiF
4)やフッ化水素(HF)が生成される。ここで、CHxFyは、CF系ガスまたはCHF系ガスを示す。また、エッチングガスおよび反応層の一次反応により、炭素を含むポリマー層が堆積する。そして、このポリマー層とエッチングガスとの二次反応により二フッ化炭素(CF
2)が生成される。
【0046】
また、ポリマー層とエッチングガス中の酸素との二次反応により炭化水素(CH)、または、シアン化水素(HCN)、あるいは、二窒化炭素(C
2N
2)が生成される。また、ポリマー層と酸素との反応により一酸化炭素(CO)も生成される。
【0047】
図3は、第1の実施の形態におけるポリマー層の表面反応モデルを説明するための図である。CF系ガスを用いる場合には、エッチングにより炭素を含むポリマー層が生成される。そして、そのポリマー層とエッチングガス中の炭素とが反応して、二窒化炭素(C
2N
2)が生成される。同図に示すように、CF系ガスを用いる場合には、水素の反応を考慮する必要がないため、式9においてΓ
H**に「0」が設定される。
【0048】
[シミュレータの動作例]
図4は、第1の実施の形態におけるシミュレータ100の動作の一例を示すフローチャートである。この動作は、例えば、シミュレーションを行うための所定のアプリケーションが実行されたときに開始する。
【0049】
シミュレータ100に加工初期条件などの入力データが入力される(ステップS902)。シミュレータ100は、被加工物のエッチング特性演算処理を実行する(ステップS920)。そして、シミュレータ100は、シミュレーション結果を出力する(ステップS907)。
【0050】
図5は、第1の実施の形態におけるエッチング特性演算処理の一例を示すフローチャートである。シミュレータ100は、時間tに初期値(例えば、「0」)を設定する(ステップS921)。シミュレータ100は、ダングリングボンド率を計算し(ステップS923)、エッチングレートを計算する(ステップS924)。また、エッチングレートとダングリングボンド率に基づいてダメージを計算する(ステップS925)。そして、シミュレータ100は、ダングリングボンド率およびエッチングレートからアウトフラックスを計算する(ステップS926)。また、シミュレータ100は、そのアウトフラックスからポリマー膜厚を計算する(ステップS928)。
【0051】
シミュレータ100は、tを一定時間増加し(ステップS929)、tが予め設定された終了時間になったか否かを判断する(ステップS930)。tが終了時間でなければ(ステップS930:No)、シミュレータ100は、ステップS923に戻る。一方、tが終了時間であれば(ステップS930:Yes)、シミュレータ100は、エッチング特性演算処理を終了する。
【0052】
図6は、第1の実施の形態における計算結果の一例を示すグラフである。同図におけるaの縦軸は、エッチングレートを示し、横軸は、C
4H
8のエッチングガスの流量を示す。実線は、計算により得られたエッチングレートの軌跡を示し、点線は、同じ条件で実際にエッチングを行って計測した実測値の軌跡を示す。
【0053】
計算においては、次のプロセス・装置条件が入力された。
装置タイプ:CCP(Conductively Coupled Plasma)型
印加周波数(上/下):27/0.8メガヘルツ(MHz)
ガス系、流量:C
4H
8/O
2/Ar、5乃至40/8/400sccm
圧力:30ミリトール(mTorr)
イオンエネルギー:1450V
エッチング時間:30秒(s)
【0054】
これらの条件の下で、OES(Optical Emission Spectroscopy)やQMS(Quadrupole Mass Spectroscopy)のプラズマモニタリングデータからフラックスが計算される。なお、プラズマモニタリングデータは、IRLAS(Infrared-diode Laser Absorption Spectroscopy)のデータをさらに含んでもよい。また、装置タイプは、ICP(Inductively Coupled Plasma)型やECR(Electron Cyclotron Resonance)型、その他のプラズマ発生機構でも構わない。また、フラックスは、プラズマシミュレーションやプロセスパラメータ(流量、圧力、ガス種、パワー)に依存した応答曲面関数などから導出しても構わない。
【0055】
ダングリングボンド率およびエッチングレートは、例えば、0.01秒ごとに計算された。また、各スラブの厚さを0.5ナノメートル(nm)として、反応層において、例えば、14層のスラブ(すなわち、厚さ7ナノメートル)まで計算が行われた。また、係数γ
1を0.85としてポリマー膜厚の計算が行われた。これらの計算を、エッチング終了時間まで繰り返すことにより、時間ごとのエッチングレートが求められる。
図6のaに示すように、計算結果は、実測値の傾向を再現することができている。
【0056】
また、
図6におけるbの縦軸は、窒化ケイ素と二酸化ケイ素とのエッチングレートの選択比を示し、横軸は、C
4H
8のエッチングガスの流量を示す。実線は、計算により得られた選択比の軌跡を示し、点線は、同じ条件で実際にエッチングを行って計測した実測値の軌跡を示す。同図のbに示すように、選択比についても再現することができている。
【0057】
このように、本技術の第1の実施の形態によれば、ポリマー層と反応する窒素の量を求め、その窒素の量から求めた揮発量をポリマー層から除去して膜厚を求めるため、窒素を含む被加工物のエッチングにおけるエッチング特性を正確に求めることができる。
【0058】
<2.第2の実施の形態>
上述の第1の実施の形態では、水素を含まないエッチングガスを用いることを想定していたが、CHF系ガスなど、水素を含むエッチングガスを用いることもできる。第2の実施の形態のシミュレータ100は、水素を含むエッチングガスによるエッチングにおけるエッチング特性を推定する点において第1の実施の形態と異なる。
【0059】
図7は、第2の実施の形態におけるシミュレータ100の一構成例を示すブロック図である。第2の実施の形態では水素を含むCHF系などのエッチングガスが用いられる。また、第2の実施の形態のフラックス演算部151は、水素のフラックスを演算する点において第1の実施の形態と異なる。
【0060】
フラックス演算部151は、エッチングガス内の水素のうち、ポリマー層と反応する水素のフラックスΓ
H***(N, O, Fとの反応で残った水素フラックス)を演算する。このフラックスΓ
H***は、例えば、次の各式により求められる。
Γ
H***=(1−Y
NH)Γ
H** ・・・式11
Γ
H**=(1−Y
HO)Γ
H* ・・・式12
Γ
H*=(1−Y
HF)Γ
H ・・・式13
【0061】
式11において、Y
NHは、窒素と水素との反応確率である。式12において、Y
HOは、水素と酸素との反応確率である。式13において、Y
HFは、水素とフッ素との反応確率である。また、Γ
Hは、加工表面に入射する水素のフラックスである。
【0062】
フラックス演算部151は、演算したΓ
H***をポリマー膜厚演算部155に供給し、Γ
H**をアウトフラックス演算部154に供給する。
【0063】
第2の実施の形態のアウトフラックス演算部154は、フラックス演算部151からのΓ
H**に基づいて式9によりアウトフラックスを演算する。また、第2の実施の形態のポリマー膜厚演算部155は、水素のフラックスΓ
H***と、アウトフラックスΓ
NERとを比較し、その比較結果に基づいてポリマー膜厚を演算する点において第1の実施の形態と異なる。
【0064】
Γ
H***/Γ
NERの値が「0」である場合、すなわちエッチングガスが水素を含まない場合には、第1の実施の形態と同様に式10からポリマー膜厚が求められる。
【0065】
また、Γ
H***/Γ
NERの値が「0」より大きく、「1」以下である場合、すなわちエッチングガスが水素を含み、水素のフラックスがアウトフラックス以下の場合、例えば、次の式によりポリマー膜厚が求められる。
【数7】
【0066】
式14において、Y
HCNは、ポリマー膜中のCH結合と窒素との反応確率であり、Y
CNは、ポリマー膜中の炭素と窒素との反応確率である。γ
2は、0より大きく、1以下のシミュレーションのパラメータである。この係数γ
2が小さいほど、ポリマー層から揮発量を除去する除去率が低いことを示す。
【0067】
水素のフラックスが窒素のアウトフラックス以下の場合、水素はポリマー膜表面でフッ素と反応してフッ化水素として揮発する。さらに残った水素は、入射される酸素と反応して水酸化物(OH)として揮発する。残った水素のフラックスは式11のΓ
H**に相当する。この水素が窒素と一部反応し、最後に残った水素がポリマー膜中の炭素と活性なC−H結合を形成し、そこに窒素が作用することで、反応確率Y
HCNでシアン化水素(HCN)が形成されて揮発する。この揮発量が式14の右辺の第3項に相当する。
【0068】
さらに残った水素は、最後にポリマー中の炭素と反応して炭化水素(CH)として揮発する。この揮発量が式13の右辺の第4項に相当する。一方、残った窒素は、ポリマー中の炭素と反応して二窒化炭素(C
2N
2)となって揮発する。この揮発量が、式14の右辺の第5項に相当する。
【0069】
また、Γ
H***/Γ
NERの値が「1」より大きい場合、すなわちエッチングガスが水素を含み、水素のフラックスが窒素のアウトフラックスより多い場合、例えば、次の式によりポリマー膜厚が求められる。
【数8】
【0070】
式15において、γ
3は、0より大きく、1以下の係数である。この係数γ
3が小さいほど、ポリマー層から揮発量を除去する除去率が低いことを示す。
【0071】
水素のフラックスがアウトフラックスより多い場合、水素は、ポリマー膜表面でフッ素と反応してフッ化水素として揮発する。さらに残った水素は、入射される酸素と反応して水酸化物(OH)として揮発する。残った水素のフラックスは式11のΓ
H**に相当する。この水素が窒素と一部反応し、最後に残った水素がポリマー膜中の炭素と活性なC−H結合を形成する。そこに窒素が作用することで反応確率Y
HCNでシアン化水素(HCN)が形成されて揮発する。この揮発量が式14の右辺の第3項に相当する。その反応で残った窒素は、ポリマー膜中の炭素と反応して二窒化炭素(C
2N
2)となって揮発する。この揮発量が、式13の右辺の第5項に相当する。一方、残った水素は、最後にポリマー膜中の炭素と反応して炭化水素(CH)として揮発する。この揮発量が、式14の右辺の第4項に相当する。
【0072】
このように、ポリマー膜厚演算部155は、水素のフラックスとアウトフラックスとの比率に応じて、ポリマー膜厚を計算する式を切り替える。これにより、水素のフラックスとアウトフラックスとの比率が時間の経過に伴って変動する場合であっても、正確なポリマー膜厚を演算することができる。これにより、シミュレータ100は、高い精度でエッチング特性を演算することができる。
【0073】
なお、水素のフラックスとアウトフラックスとの比率により、計算式を切り替えているが、この構成に限定されない。例えば、これらのフラックスの差分を求め、その差分に応じて計算式を切り替える構成であってもよい。
【0074】
図8は、第2の実施の形態におけるポリマー膜の表面反応モデルを説明するための図である。同図におけるaは、水素のフラックスがアウトフラックス以下の場合の表面反応モデルを説明するための図である。CHF系ガスを用いる場合には、エッチングにより炭素を含むポリマー層が生成される。そして、エッチングガス中の水素とポリマー層とが反応してシアン化水素(HCN)が生成される。また、ポリマー層とエッチングガス中の炭素とが反応して、二窒化炭素(C
2N
2)が生成される。さらに、エッチングガス中の水素とポリマー層とが反応して炭化水素(CH)が生成される。水素のフラックスがアウトフラックス以下の場合、シアン化水素(HCN)の揮発量が特に多くなる。
【0075】
図8におけるbは、水素のフラックスが窒素のアウトフラックスより多い場合の表面反応モデルを説明するための図である。この場合にも、炭素を含むポリマー層が生成され、シアン化水素(HCN)、二窒化炭素(C
2N
2)および炭化水素(CH)が生成される。これらのうち、炭化水素(CH)の揮発量が特に多くなる。
【0076】
図9は、第2の実施の形態におけるエッチング特性演算処理の一例を示すフローチャートである。第2の実施の形態のエッチング特性演算処理は、ステップS922およびS927をさらに実行する点において第1の実施の形態と異なる。
【0077】
シミュレータ100は、tの初期化(ステップS921)の後、水素のフラックスΓ
H***を計算する(ステップS922)。シミュレータ100は、ステップS923乃至S926を実行し、水素のフラックスΓ
H***とアウトフラックスとを比較する(ステップS927)。そして、シミュレータ100は、その比較結果に応じた計算式により、ポリマー膜厚を計算する(ステップS928)。
【0078】
シミュレータ100は、tを一定時間増加し(ステップS929)、tが終了時間になったか否かを判断する(ステップS930)。tが終了時間でなければ(ステップS930:No)、シミュレータ100は、ステップS922に戻る。一方、tが終了時間であれば(ステップS930:Yes)、シミュレータ100は、エッチング特性演算処理を終了する。
【0079】
図10は、第2の実施の形態における計算結果の一例を示すグラフである。同図における縦軸は、エッチングレートを示し、横軸は、CHF系のガスであるCH
2F
2のエッチングガスの流量を示す。実線は、計算により得られたエッチングレートの軌跡を示し、点線は、同じ条件で実際にエッチングを行って計測した実測値の軌跡を示す。
【0080】
計算においては、次のプロセス・装置条件が入力された。
装置タイプ:CCP型
印加周波数(上/下):60/2メガヘルツ(MHz)
ガス系、流量:CH
2F
2/O
2/Ar、40乃至80/30/300sccm
圧力:20ミリトール(mTorr)
イオンエネルギー:350V
エッチング時間:20秒(s)
【0081】
CH
2F
2の流量が60sccm以下の範囲では、H(水素)のフラックスはアウトフラックス以下であった。このため、式14によりポリマー膜厚が演算され、エッチングレートが求められた。一方、CH
2F
2流量が60sccmを超える範囲では、Hのフラックスはアウトフラックスより大きくなった。このため、式15に切り替えてポリマー膜厚が演算され、エッチングレートが求められた。Hのフラックスがアウトフラックスより大きくなる範囲では、ポリマー膜表面でのCH結合が増加することにより、フッ素や酸素と炭素との反応確率が低下する。この効果を考慮して、γ
3にγ
2より小さな値を設定して演算が行われた。このように計算式を切り替えることにより、
図10に例示するように、実際のエッチング特性の変動傾向を再現することができる。
【0082】
なお、シミュレータ100は、CHF系ガスによりSi
3N
4膜のエッチングにおいてエッチング特性を求めている。しかし、エッチングガス、ポリマー層および被加工物に少なくとも炭素、水素および窒素が含まれるのであれば、エッチングガスおよび被加工物の組合せは限定されない。例えば、シミュレータ100は、N
2/H
2ガスによる有機膜や、誘電率の低い(いわゆる、Low−k)膜のエッチングにおいてエッチング特性を求めてもよい。具体的には、例えば、次のプロセス・装置条件が入力される。
装置タイプ:CCP型
印加周波数(上/下):60/27メガヘルツ(MHz)
ガス系、流量:H
2/N
2、200/300sccm
圧力:40ミリトール(mTorr)
ソース/バイアス電力:500/200ワット(W)
イオンエネルギー:600V
エッチング時間:20秒(s)
【0083】
このように、第2の実施の形態によれば、水素の量と窒素の量とを比較して、その比較結果に基づいてポリマー膜厚を求めるため、水素の量と窒素の量との比率が変動する場合であってもポリマー膜厚を正確に求めることができる。これにより、正確なエッチング特性を求めることができる。
【0084】
<3.第3の実施の形態>
上述の第2の実施の形態では、ポリマー膜厚、エッチングレート、ダメージを求めていたが、そのエッチングレートから、エッチング後の被加工物の形状を求めることもできる。第3の実施の形態のシミュレータ100は、エッチング後の被加工物の形状をさらに求める点において第2の実施の形態と異なる。
【0085】
図11は、第3の実施の形態におけるシミュレータ100の一構成例を示すブロック図である。第3の実施の形態のシミュレータ100は、形状演算部160およびダメージ配分演算部165をさらに備える点において第2の実施の形態と異なる。
【0086】
形状演算部160は、エッチングレートに基づいてエッチング後の被加工物の形状を演算により推定するものである。形状は、例えば、非加工物を、立方体状の多数のボクセルに分割して、ボクセル単位で形状の進展を演算するボクセル法により求められる。この形状演算部160は、演算結果をダメージ配分演算部165に供給する。ダメージ配分演算部165は、例えば、特願2013−014556号に記載された方法により、ダメージ配分の演算を行うものである。ダメージ配分演算部165は、演算結果をエッチング特性演算部150および出力部170に供給する。なお、ダメージ演算部156および形状演算部160は、特許請求の範囲に記載の加工形状・結晶欠陥演算部の一例である。
【0087】
なお、シミュレータ100は、ボクセル法により形状を推定しているが、この構成に限定されない。シミュレータ100は、ボクセル法の代わりに、例えば、ストリング法やレベルセット法などにより形状を推定してもよい。計算の次元は、2次元、3次元を問わない。
【0088】
図12は、第3の実施の形態におけるシミュレータ100の動作の一例を示すフローチャートである。第3の実施の形態のシミュレータ100の動作は、エッチング特性演算処理(ステップS920)の代わりに形状・ダメージ演算処理(ステップS930)を実行する点において第2の実施の形態と異なる。
【0089】
図13は、第3の実施の形態における形状・ダメージ演算処理の一例を示すフローチャートである。この形状・ダメージ演算処理は、ステップS931とステップ932をさらに実行する点以外は、第2の実施の形態のダメージ演算処理と同様である。
【0090】
シミュレータ100は、ポリマー膜厚の計算(ステップS928)の後、被加工物の形状を計算し(ステップS931)、ダメージを分配し(ステップS932)、tを一定時間増加する(ステップS929)。
【0091】
図14は、第3の実施の形態におけるトランジスタのサイドウォールエッチング前後の被加工物の断面図の一例である。同図におけるaは、エッチング前の断面図であり、同図におけるbは、エッチング後の断面図である。
【0092】
ボクセルサイズは、例えば、1ナノメートル(nm)である。また、ポリシリコンのトランジスタが被加工物として用いられた。幅60ナノメートル、高さ150ナノメートルのゲートを加工後、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を堆積し、その窒化ケイ素膜のエッチバック工程を想定し、サイドウォール加工後の形状とその際生じるダメージの分布の計算が行われた。加工装置はCCPエッチング装置であり、プロセス条件は下記である。また、サイドウォールパターン周辺の開口率は100%である。ここで、開口率は、被加工物の表面積に対する、エッチングが施される面積の比率である。
ガス系、流量:CF
4/O
2/CHF
3、200/5/100sccm
ソース/バイアス電力:700/400ワット(W)
圧力:40ミリトール(mTorr)
下部電極温度:40℃
【0093】
パターン直上でのフラックスの計算には、特開2013−115354号公報に記載の、プラズマ/壁相互作用を取り扱ったプラズマシミュレーションが用いられた。なお、プラズマモニタリング等の実測値や応答曲面関数を用いても構わない。
【0094】
さらに、ミリメートルオーダーのターゲット周辺のチップレベルの開口率依存を加味してエッチングによる反応生成物のパターンへの再堆積効果も入れて半径20ミリメートルでパターンに入射するフラックスの算出が行われた。エッチレート導出後の形状進展に用いる法線に関しては、たとえば、特開2014−29982号公報に記載の方法を用いて、フラックスベクトルから導出された。この表面反応モデルにてエッチレートとダメージを計算し、エッチレートに対応した領域内で法線方向のボクセルが除去され、さらにダメージ量を周囲に分配してエッチングが終了するまで繰り返し形状の進展が行われた。その結果、
図14におけるbに示す形状・ダメージ分布が得られた。
【0095】
なお、適用パターンはサイドウォールに限定されない。マスクやレンズ等様々なパターン加工に適用できる。また、
図14では、シミュレータ100は、2次元の形状を計算しているが、3次元の形状を計算してもよい。
【0096】
このように、第3の実施の形態によれば、シミュレータ100は、エッチングレートからエッチング後の被加工物の形状とダメージを推定するため、エッチングにより加工を行う際に、所望のスペック内で正確に加工を行うことができる。
【0097】
<4.第4の実施の形態>
上述の第3の実施の形態では、シミュレータ100は、エッチングガスの密度や、イオンエネルギー分布および開口率などを一定としてエッチングレート等を推定していたが、これらをさらに推定してもよい。第4の実施の形態のシミュレータ100は、エッチングガスの密度や、イオンエネルギー分布および開口率などをさらに推定する点において第3の実施の形態と異なる。
【0098】
図15は、第4の実施の形態におけるシミュレータ100の一構成例を示すブロック図である。第4の実施の形態のシミュレータ100は、プラズマ状態演算部120、シース加速演算部130および開口率演算部140をさらに備える点において第3の実施の形態と異なる。
【0099】
この第4の実施の形態では、レシピ情報、装置情報、計算用パラメータ、GDS(Graphic Data System)データ、膜厚情報などが入力データとして入力される。
【0100】
プラズマ状態演算部120は、プラズマの状態を示すパラメータ(ガス密度など)を演算するものである。このプラズマ状態演算部120は、初期条件を基にバルクプラズマ中での各ガス種(イオンやラジカルなど)の密度を計算して計算結果をシース加速演算部130に供給する。ガス密度の演算は、例えば、特許5397215号に記載の手順により行われる。
【0101】
シース加速演算部130は、イオンのエネルギー分布やイオン入射角度を演算するものである。このシース加速演算部130は、ガス密度、ガス圧力、印加パワーに基づいて、バルクプラズマで生成されたイオンのシース内加速された終状としてのイオンのエネルギー分布と、パターンへの入射角度分布とを演算する。これらの演算は、例えば、M.J.Kushner, Distribution of ion energies incident on electrodes in capacitively coupled discharges, J.Appl.Phys.に記載の手順により行われる。
【0102】
イオンのエネルギー分布は、例えば、イオンエネルギー分布関数(IEDF:Ion Energy Distribution Function)により表される。また、イオンの入射角は、イオン入射角度分布関数(IADF:ion angular distribution function)により表される。これらの分布関数に対しては実測等から得られるデータベースを用いてもよい。シース加速演算部130は、演算結果をエッチング特性演算部150へ供給する。
【0103】
開口率演算部140は、開口率を演算するものである。この開口率演算部140は、GDSデータ、膜厚情報、などから、ウェハ開口率やセミローカル開口率を演算する。ここで、ウェハ開口率は、ウェハを被加工物とする際の、ウェハ全体の開口率である。また、セミローカル開口率は、ウェハに形成されるチップレベルの開口率である。これらの開口率の演算は、例えば、特許第5440021号に記載の手順により行われる。開口率演算部140は、計算結果をエッチング特性演算部150へ供給する。
【0104】
この第4の実施の形態のエッチング特性演算部150は、開口率に基づいてアウトフラックスや入射フラックスなどの各種のフラックスを演算する。また、第4の実施の形態のエッチング特性演算部150は、シース加速演算部130の演算結果に基づいて、ダングリングボンド率やエッチングレートを演算する。
【0105】
図16は、第4の実施の形態におけるシミュレータ100の動作の一例を示すフローチャートである。第4の実施の形態のシミュレータ100の動作は、ステップS903乃至S905と、S906と、S908とをさらに実行する点において第1の実施の形態と異なる。
【0106】
加工初期条件の入力(ステップS902)の後、シミュレータ100は、プラズマ状態を演算し(ステップS903)、シース加速演算を行う(ステップS904)。そして、シミュレータ100は、開口率を演算し(ステップS905)、形状・ダメージ演算処理を実行する(ステップS930)。
【0107】
そして、シミュレータ100は、形状やダメージの演算結果と要求されるスペックとを比較し、スペックとの差が所定の許容範囲内であるか否かを判断する(ステップS906)。スペックとの差が許容範囲内でない場合(ステップS906:No)、シミュレータ100は、ダミーパターンの配置などを行って開口率を変更し(ステップS908)、ステップS903に戻る。一方、スペックとの差が許容範囲内である場合(ステップS906:Yes)、シミュレータ100は、シミュレーション結果を出力し(ステップS907)、動作を終了する。
【0108】
このシミュレータ100は、例えば、半導体デバイスのレイアウト設計などに用いられる。例えば、トランジスタサイドウォールの幅の所望スペックが60ナノメール±10%である場合を想定する。この場合、
図16のステップS908においてターゲット加工の周辺にレジストマスクで覆われたダミーパターンが配置される。ダミーパターンの配置によって、チップ内開口率を小さく(または、大きく)すると、マスクからの反応生成物がパターンへ再入射する量が増加(または、減少)する。この結果、サイドウォール幅が大きく(または、小さく)なり、所望スペックに近づく。
【0109】
なお、プロセス設計やOPC(Optical Proximity Correction)設計に関しても、補正要因をダミーパターンの配置から、プロセス条件やマスク形状へ変更することで、同様の方法で実施可能である。
【0110】
このように、第4の実施の形態によれば、ガス密度、イオンエネルギー分布、イオン入射角度および開口率をさらに演算して、それらの演算結果からエッチング特性を推定するため、高い精度で推定を行うことができる。
【0111】
<5.第5の実施の形態>
上述の第4の実施の形態では、エッチング特性の推定を行っていたが、その推定結果を用いて被加工物の加工を行ってもよい。第5の実施の形態は、エッチングレート等の推定結果を使用して被加工物の加工をさらに行う点において第4の実施の形態と異なる。
【0112】
図17は、第5の実施の形態における製造システムの一例を示す全体図である。この製造システムは、半導体デバイスを製造するものであり、シミュレータ100、加工チャンバー200、制御装置300を備える。また、製造システムは、FDC(Fault Detection & Classification)・EES(Equipment Engineering System)システム400を備える。なお、シミュレータ100、加工チャンバー200および制御装置300を含む装置は、特許請求の範囲に記載の加工装置の一例である。
【0113】
加工チャンバー200は、半導体ウェハなどの被加工物を加工するものである。この加工チャンバー200として、例えば、CCP型の装置が用いられる。加工チャンバー200には、シミュレーションに必要な入力データを取得するためのOES、QMS、IRLAS、および、エネルギースペクトルアナライザーなどが実装され、これらによって加工中常時プラズマがモニタリングされている。サンプリング速度はたとえば0.1秒( s)である。加工中に、これらによって取得される情報が、加工条件とともにシミュレータ100に送信される。なお、加工チャンバー200は、特許請求の範囲に記載の加工部の一例である。
【0114】
この第5の実施の形態のシミュレータ100は、上述の第4の実施の形態と同様の構成を備える。このシミュレータ100は、加工チャンバー200からのデータに基づいて、ガス密度、ガスフラックス、イオンのエネルギー分布や入射角度分布を計算する。計算時間が実加工時間よりも十分小さければすべてリアクターシミュレーションによって求めても良い。さらに、シミュレータ100は、GDSおよび膜厚情報を用いて開口率を演算し、その開口率のフラックスへの寄与を加味して、形状やダメージを演算する。開口率およびフラックスは、一般に互いに線形関係を持つ。
【0115】
形状やダメージの演算結果が所望のスペックから外れた場合には、シミュレータ100は、ガス流量、ガス圧力、印加パワー、ウェハ温度の順にプロセスパラメータを変更して、再計算することにより、所望スペックを満たすことができる補正条件を見つけ出す。所望のスペックとして、例えば、サイドウォールの幅60ナノメートル(nm)が設定される。この場合、例えば、所望幅の±10%の許容範囲を外れるか否かが判断される。ダメージ量については、例えば、所望量の50%の許容範囲を外れるか否かが判断される。
【0116】
なお、プラズマを生成する装置であれば、ICP(Inductively Coupled Plasma)型、ECR(Electron Cyclotron Resonance)型など、CCP型以外の装置を加工チャンバー200として用いてもよい。
【0117】
シミュレータ100は、補正条件を見つけた場合に、制御装置300に、その条件を送信する。一方、補正条件が見つからなかった場合にシミュレータ100は、アラート信号を生成してFDC・EESシステム400に送信する。
【0118】
なお、計算時間が実加工時間以上である場合には、シミュレータ100は、加工中に形状やダメージを計算するのでなく、加工前に予め形状およびダメージを計算してデータベースなどに保存しておく構成であってもよい。この場合、加工チャンバー200は、そのデータベースを利用して加工を行えばよい。
【0119】
制御装置300は、加工チャンバー200を制御するものである。この制御装置300は、シミュレータ100が求めた補正条件に基づいて、加工チャンバー200のプロセスパラメータを変更する。なお、制御装置300は、特許請求の範囲に記載の制御部の一例である。
【0120】
FDC・EESシステム400は、半導体デバイスの品質管理などを行うものである。このFDC・EESシステム400は、アラート信号をシミュレータ100から受信すると、製造システム全体を停止させる。
【0121】
このような製造システムにより、例えば、イメージセンサ、駆動回路および信号処理回路などが製造される。また、これらのデバイスから、撮像装置などの電子機器が製造される。
【0122】
図18は、第5の実施の形態における製造システムの動作の一例を示すフローチャートである。まず、搬送ロボットないしは作業員により加工チャンバー200にウェハロットがセットされ(ステップS901)、作業員などによる直接入力、ないしは、装置機能によりより自動で加工初期条件(プロセスレシピ)が入力される(ステップS902)。
【0123】
ここで、加工工程は、例えば、膜厚150ナノメートルのポリシリコンにおけるゲートのサイドウォール加工である。また、加工初期条件として、例えば、次の条件が入力される。
ウェハ開口率:45%
SiNエッチング:メインエッチングステップ
CF
4ガス:200sccm
O
2ガス:5sccm
CHF
3ガス:100sccm
ソース電力:700ワット(W)
バイアス電力:400ワット(W)
圧力:40ミリトール(mTorr)
SiNエッチング:オーバーエッチングステップ
CF
3ガス:150sccm
O
2ガス:100sccm
Arガス:500sccm
ソース電力:500ワット(W)
バイアス電力:300ワット(W)
圧力:50ミリトール(mTorr)
【0124】
シミュレータ100は、形状・ダメージ演算処理(ステップS930)を実行する。そして、シミュレータ100は、演算結果と、所望スペックとを比較して、プロセスの補正が必要か否かを判断する(ステップS911)。プロセスの補正が必要であれば(ステップS911:Yes)、制御装置300は、プロセスを補正する(ステップS912)。
【0125】
一方、プロセスの補正が必要でなければ(ステップS911:Yes)、シミュレータ100は、現在の時間がエッチングの終了時間であるか否かを判断する(ステップS913)。終了時間でなければ(ステップS913:No)、シミュレータ100は、ステップS930に戻る。終了時間であれば(ステップS913:Yes)、シミュレータ100は、動作を停止する。
【0126】
また、加工チャンバー200は、チャンバー内でエッチングを行い(ステップS914)、現在の時間がエッチングの終了時間であるか否かを判断する(ステップS915)。終了時間でなければ(ステップS914:No)、加工チャンバー200は、ステップS914に戻る。終了時間であれば(ステップS914:Yes)、加工チャンバー200は、エッチングの動作を停止する。
【0127】
シミュレータ100および加工チャンバー200の動作停止後、搬送ロボットないしは作業員により、ウェハロットが回収される(ステップS916)。ステップS916の後、製造動作は終了する。
【0128】
なお、製造システムは、プラズマエッチングにより加工を行っているが、プラズマを用いる半導体の加工であれば、プラズマエッチングに限定されない。製造システムは、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)やPVD(Physical Vapor Deposition)により加工を行ってもよい。
【0129】
このように、第5の実施の形態によれば、製造システムがエッチング特性の推定結果に基づいて被加工物のエッチングを行うため、高い精度で被加工部を加工することができる。
【0130】
なお、上述の実施の形態は本技術を具現化するための一例を示したものであり、実施の形態における事項と、特許請求の範囲における発明特定事項とはそれぞれ対応関係を有する。同様に、特許請求の範囲における発明特定事項と、これと同一名称を付した本技術の実施の形態における事項とはそれぞれ対応関係を有する。ただし、本技術は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施の形態に種々の変形を施すことにより具現化することができる。
【0131】
また、上述の実施の形態において説明した処理手順は、これら一連の手順を有する方法として捉えてもよく、また、これら一連の手順をコンピュータに実行させるためのプログラム乃至そのプログラムを記憶する記録媒体として捉えてもよい。この記録媒体として、例えば、CD(Compact Disc)、MD(MiniDisc)、DVD(Digital Versatile Disc)、メモリカード、ブルーレイディスク(Blu-ray(登録商標)Disc)等を用いることができる。
【0132】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【0133】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)情報処理装置が、被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて複数のフラックスを演算するフラックス演算手順と、
前記情報処理装置が、前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算手順と
を具備するエッチング特性推定方法。
(2)前記複数のフラックスは、前記加工表面へ入射する入射フラックスと前記被加工物のエッチングにより放出されるアウトフラックスとを含む
前記(1)記載のエッチング特性推定方法。
(3)前記複数のフラックスは、窒素および水素のフラックスを少なくとも含む
前記(2)記載のエッチング特性推定方法
(4)前記情報処理装置は、前記保護膜層演算手順において、前記比較結果に応じて少なくとも3つの異なる項のいずれかに前記除去項を切り替える
前記(2)または(3)記載のエッチング特性推定方法。
(5)前記情報処理装置は、前記保護膜層演算手順において、前記複数のフラックスの差または比に応じて前記除去項を切り替える
前記(1)から(4)のいずれかに記載のエッチング特性推定方法。
(6)前記情報処理装置が、前記保護膜層の厚さに基づいて結晶欠陥を演算する結晶欠陥演算手順をさらに具備する
前記(1)から(5)のいずれかに記載のエッチング特性推定方法。
(7)前記情報処理装置が、前記結晶欠陥の演算結果に基づいて前記被加工物の形状を演算する形状演算手順をさらに具備する
前記(6)記載のエッチング特性推定方法。
(8)前記情報処理装置が、前記被加工物に対するエッチングに用いられるプラズマの密度を演算するプラズマ状態演算手順をさらに具備する
前記(1)から(8)のいずれかに記載のエッチング特性推定方法。
(9)情報処理装置が、被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて複数のフラックスを演算するフラックス演算手順と、
前記情報処理装置が、前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算手順と
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(10)被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて複数のフラックスを演算するフラックス演算部と、
前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算部と
を具備する情報処理装置。
(11)情報処理装置が、被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて複数のフラックスを演算するフラックス演算手順と、
前記情報処理装置が、前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算手順と、
前記情報処理装置が、前記保護膜の厚さに基づいて前記被加工物の加工形状および結晶欠陥の少なくとも一方の変動を演算する加工形状・結晶欠陥演算手順と、
前記情報処理装置が、前記加工形状・結晶欠陥演算手順における演算結果に基づいて半導体デバイスの加工プロセス、OPC(Optical Proximity Correction)設計、および、レイアウト設計の少なくとも1つを行う設計手順と
を具備する設計方法。
(12)被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて、複数のフラックスを演算するフラックス演算部と、
前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算部と、
前記被加工物の加工条件に従って前記被加工物の加工を行う加工部と、
前記被加工物に対するエッチングに用いられるプラズマの密度を前記加工条件に基づいて演算するプラズマ状態演算部と、
前記プラズマ状態演算部の演算結果と前記保護膜層の厚さとに基づいて前記被加工物の加工形状および結晶欠陥の少なくとも一方の変動を演算する加工形状・結晶欠陥演算部と、
前記加工形状・結晶欠陥演算部の演算結果に基づいて前記加工条件を変更する制御部と、
を具備する加工装置。
(13)情報処理装置が、被加工物の加工表面が保護膜層および反応層を含む表面反応モデルにおいて、複数のフラックスを演算するフラックス演算部と、
前記情報処理装置が、前記保護膜層の除去を記述する除去項に基づいてエッチング後の前記保護膜層の厚さを演算する演算式において前記複数のフラックスの比較結果に応じて前記除去項を切り替えて前記保護膜層の厚さを演算する保護膜層演算部と、
加工部が、前記被加工物の加工条件に従って前記被加工物の加工を行う加工手順と、
前記情報処理装置が、前記被加工物に対するエッチングに用いられるプラズマの密度を前記加工条件に基づいて演算するプラズマ状態演算手順と、
前記情報処理装置が、前記プラズマ状態演算部の演算結果と前記保護膜層の厚さとに基づいて前記被加工物の加工形状および結晶欠陥の少なくとも一方の変動を演算する加工形状・結晶欠陥演算手順と、
制御部が、前記加工形状・結晶欠陥演算手順の演算結果に基づいて前記加工条件を変更する制御手順と
を具備する製造方法。