特許第6117813号(P6117813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6117813球状黒鉛鋳鉄及びそれを用いたベーンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117813
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄及びそれを用いたベーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/10 20060101AFI20170410BHJP
   C22C 37/04 20060101ALI20170410BHJP
   C21D 5/00 20060101ALI20170410BHJP
   C21D 1/20 20060101ALI20170410BHJP
   C21C 1/10 20060101ALI20170410BHJP
   C21D 1/607 20060101ALI20170410BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20170410BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20170410BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20170410BHJP
   C22C 30/00 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   C22C33/10
   C22C37/04 B
   C21D5/00 T
   C21D5/00 K
   C21D1/20
   C21C1/10 103
   C21D1/607
   F04C18/356 P
   F04C29/00 B
   F04C29/00 C
   B22D27/20 C
   !C22C30/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-540964(P2014-540964)
(86)(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公表番号】特表2015-504482(P2015-504482A)
(43)【公表日】2015年2月12日
(86)【国際出願番号】KR2012009574
(87)【国際公開番号】WO2013073820
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2014年7月10日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0118383
(32)【優先日】2011年11月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502032105
【氏名又は名称】エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】パク チェボン
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−036754(JP,A)
【文献】 特開2004−099923(JP,A)
【文献】 国際公開第97/032049(WO,A1)
【文献】 特開昭59−157221(JP,A)
【文献】 特開平02−030732(JP,A)
【文献】 特開昭61−003866(JP,A)
【文献】 特開平08−333650(JP,A)
【文献】 特開平06−322475(JP,A)
【文献】 特開2008−303434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/00−37/10
C21D 1/00−11/00
B22D 27/20
C21C 1/10
F04C 18/356
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C):3.4〜3.9重量%、ケイ素(Si):2.0〜3.0重量%、マンガン(Mn):0.3〜1.0重量%、クロム(Cr):0.1〜1.0重量%、チタン(Ti):0.04〜0.15重量%、リン(P)<0.08重量%、硫黄(S)<0.025重量%、マグネシウム(Mg):0.03〜0.05重量%、希土類:0.02〜0.04重量%を含み、残部が鉄(Fe)及び不純物からなる溶湯を製造する溶融段階と、
前記溶湯を取り出し、前記溶湯に球状化剤と接種剤を投与する球状化処理及び接種段階と、
鋳造工程で前記溶湯を鋳型に注入する注入段階と、
鋳造工程で前記鋳型を冷却し、球状黒鉛及び15〜35体積%の炭化物を含む半製品を得る冷却段階と、
研磨工程で前記冷却された半製品を所定形状に研磨する研磨段階と、
前記研磨された製品を熱処理し、オーステナイト基地組織をベイナイト基地組織に変態させる熱処理段階と、を含む、圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項2】
前記球状化剤は、Mg、Ca及び希土類(RE)を含み、前記溶湯の質量の1.0〜1.8%の量で添加されることを特徴とする請求項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理段階は、
前記研磨された半製品を880〜950℃に加熱する段階と、
前記半製品を当該温度で30〜90分間維持する段階と、
前記半製品を200〜260℃の温度の液体中で1〜3時間維持する段階と、
前記半製品を常温まで冷却する段階と、を含むことを特徴とする請求項又はに記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項4】
前記液体は、重量比でKNONaNOを1:1に混合した硝酸塩溶液であることを特徴とする請求項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理済みの半製品を精密研磨する精密研磨段階をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理済みの半製品の表面に厚さ0.005〜0.015mmの浸硫層を形成する浸硫段階をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項7】
前記ベーンは、0.2〜0.8重量%のモリブデン(Mo)を含むことを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項8】
前記ベーンは、0.05〜0.5重量%のタングステン(W)をさらに含むことを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【請求項9】
前記ベーンは、0.05〜0.5重量%のホウ素(B)をさらに含むことを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状黒鉛鋳鉄及びそれを用いたロータリ圧縮機用ベーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮機は、シェルの内部空間に駆動力を発生する駆動モータと当該駆動モータに結合されて動作することで冷媒を圧縮する圧縮ユニットとを含む。このような圧縮機は、冷媒を圧縮する方式によって様々なタイプに分類されるが、例えばロータリ圧縮機の場合、圧縮ユニットは、圧縮空間を形成するシリンダと、シリンダの圧縮空間を吸入室と吐出室とに区画するベーンと、ベーンを支持すると共にシリンダと共に圧縮空間を形成する複数のベアリング部材と、シリンダ内で回転可能に取り付けられるローリングピストンとからなる。
【0003】
ベーンは、シリンダに形成されたベーンスロットの内部に挿入され、端部がローリングピストンの外周部に固定されて圧縮空間を2つに分け、圧縮過程でベーンスロットの内部でスライド移動し続ける。この過程で高温高圧の冷媒に接触し続けるだけでなく、冷媒が漏れないようにローリングピストン及びベアリングに密着した状態を維持しなければならないので、ベーンは高強度及び高耐摩耗性を有しなければならない。
【0004】
特に、オゾン層の破壊により使用が中止されたCFCに代わるHFCなどの新冷媒の場合、CFCに比べて潤滑性能が低いだけでなく、エネルギー消費量の削減のためのインバータの使用などにより、ベーンには従来に比べて高い耐摩耗性が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような条件を満たすために、現在、ベーンは、高速度鋼又はステンレス鋼を所定形状に加工し、その後表面処理などの後加工を施すことで製造されている。しかし、このようなベーンは、高価な希土類金属であるGr、W、Mo、V、Coなどの含有量が多すぎ、鍛造により所定形状に加工するので生産性が低くコストが高いという問題があった。特に、前述したような耐摩耗性の向上のためにベーンは高い硬度を有するが、これは鍛造による加工工程を難しくする要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであり、本発明の技術的課題は、ベーンの材料としての強度及び耐摩耗性に対する要求を満たしながらも、生産性を向上させて製造コストを低減することのできる球状黒鉛鋳鉄を提供することにある。
【0007】
本発明の他の技術的課題は、前記のようなベーンを製造する製造方法を提供することにある。
【0008】
上記技術的課題を解決するために、本発明の一態様によれば、炭素(C):3.4〜3.9重量%、ケイ素(Si):2.0〜3.0重量%、マンガン(Mn):0.3〜1.0重量%、クロム(Cr):0.1〜1.0重量%、チタン(Ti):0.04〜0.15重量%、リン(P)<0.08重量%、硫黄(S)<0.025重量%、マグネシウム(Mg):0.03〜0.05重量%、希土類:0.02〜0.04重量%を含み、残部が鉄(Fe)及び不純物からなり、ベイナイト基地組織、球状黒鉛及び15〜35体積%の炭化物を含む、球状黒鉛鋳鉄が提供される。
【0009】
また、前記球状黒鉛鋳鉄は、溶解炉から取り出された溶湯状態で球状化剤と接種剤が添加されるようにしてもよい。ここで、前記球状化剤は、前記溶湯の質量の1.0〜1.8%の量で添加されるようにしてもよい。
【0010】
一方、前記球状黒鉛鋳鉄は、熱処理によりオーステナイト基地組織を前記ベイナイト基地組織に変態させたものであってもよい。
【0011】
ここで、前記熱処理は、オーステンパ処理であってもよく、具体的には、880〜950℃に加熱し、当該温度を30〜90分間維持し、200〜260℃の温度の液体中で1〜3時間維持し、その後空気中で常温まで冷却することにより行ってもよい。この場合、前記液体は、重量比でKNO3とNaNO3を1:1に混合した硝酸塩溶液であってもよい。
【0012】
一方、前記球状黒鉛鋳鉄は、前記ベイナイト基地組織に変態した球状黒鉛鋳鉄が浸硫処理され、厚さ0.005〜0.0015mmの浸硫層をさらに含んでもよい。
【0013】
前記球状黒鉛鋳鉄は、0.2〜0.8重量%のモリブデン(Mo)をさらに含んでもよい。
【0014】
前記球状黒鉛鋳鉄は、0.05〜0.5重量%のタングステン(W)をさらに含んでもよい。
【0015】
前記球状黒鉛鋳鉄は、0.01〜0.3重量%のホウ素(B)をさらに含んでもよい。
【0016】
本発明の他の態様によれば、炭素(C):3.4〜3.9重量%、ケイ素(Si):2.0〜3.0重量%、マンガン(Mn):0.3〜1.0重量%、クロム(Cr):0.1〜1.0重量%、チタン(Ti):0.04〜0.15重量%、リン(P)<0.08重量%、硫黄(S)<0.025重量%、マグネシウム(Mg):0.03〜0.05重量%、希土類:0.02〜0.04重量%を含み、残部が鉄(Fe)及び不純物からなる溶湯を製造する溶融段階と、前記溶湯を鋳型に注入して冷却し、球状黒鉛及び15〜35体積%の炭化物を含む半製品を得る鋳造段階と、前記冷却された半製品を所定形状に研磨する研磨段階と、前記研磨された製品を熱処理し、オーステナイト基地組織をベイナイト基地組織に変態させる熱処理段階とを含む、圧縮機用ベーンの製造方法が提供される。
【0017】
ここで、前記圧縮機用ベーンの製造方法は、前記溶湯を取り出して前記溶湯に球状化剤を投与する球状化処理段階をさらに含んでもよい。
【0018】
また、前記熱処理段階は、前記研磨された半製品を880〜950℃に加熱し、当該温度を30〜90分間維持する段階と、前記半製品を200〜260℃の温度の液体中で1〜3時間維持する段階と、前記半製品を空気中で常温まで冷却する段階とを含んでもよい。この場合、前記液体は、重量比でKNO3とNaNO3を1:1に混合した硝酸塩溶液であってもよい。
【0019】
前記圧縮機用ベーンの製造方法は、前記熱処理済みの半製品を精密研磨する精密研磨段階をさらに含んでもよい。
【0020】
前記圧縮機用ベーンの製造方法は、前記熱処理済みの半製品の表面に厚さ0.005〜0.0015mmの浸硫層を形成する浸硫段階をさらに含んでもよい。
【0021】
前記ベーンは、0.2〜0.8重量%のモリブデン(Mo)をさらに含んでもよい。
【0022】
前記ベーンは、0.05〜0.5重量%のタングステン(W)をさらに含んでもよい。
【0023】
前記ベーンは、0.01〜0.3重量%のホウ素(B)をさらに含んでもよい。
【0024】
本発明のさらに他の態様によれば、前述した球状黒鉛鋳鉄を用いて製造された圧縮機用ベーンが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施形態によれば、ベイナイト基地組織に球状黒鉛と15〜35体積%の炭化物が分布するが、炭化物の硬度が高いことから耐摩耗性が向上して衝撃に強く、球状黒鉛の潤滑性により耐摩耗性がさらに向上する。また、浸硫層の存在により、球状黒鉛の潤滑特性及び耐摩耗性が向上し、新冷媒を用いる場合も圧縮機を安定して駆動できるようにする。
【0026】
さらに、高価又は希土類元素の含有量が非常に少ないので、原材料コストを大幅に低減することができる。さらに、鍛造工程でベーンを製造していた従来とは異なり、後加工を必要とせず、同時に多数生産できる鋳造工程でベーンを製造することにより、ベーンの加工が容易になり、その精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態による球状黒鉛鋳鉄の引張強度をテストするための試料を概略的に示す正面図である。
図2】本発明の実施例1による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図3】本発明の実施例2による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図4】本発明の実施例3による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図5】本発明の実施例4による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図6】本発明の実施例5による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図7】本発明の実施例6による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図8】本発明の実施例7による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図9】本発明の実施例8による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
図10】本発明の実施例9による球状黒鉛鋳鉄の表面構造を撮影した拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0029】
一般に、鋳鉄は、硬度が高く、耐摩耗性に優れ、切削性が良好な特性を有するが、引張強度が低く脆性が高いことから、高圧力雰囲気にさらされる部材としてはあまり用いられていなかった。特に、前述した圧縮機のベーンの場合、高圧力雰囲気にさらされるだけでなく、圧縮された冷媒が漏れないようにするために隣接する部品に密着してスライドするので、従来に比べてより高い耐摩耗性が要求される。本発明においては、鋳鉄に含まれる様々な元素を適正含有量で混合することにより、高い引張強度及び耐摩耗性を有して様々な用途に用いることのできる、球状黒鉛鋳鉄を提供する。以下、各元素について説明する。ここで、特に断らない限り、各含有量は重量比である。
【0030】
(1)炭素(C):3.4〜3.9%
鋳鉄の内部に存在する炭素は、黒鉛として存在したり、Fe3Cで表される炭化物(又はカーバイド)の形で存在する。よって、炭素の含有量が少ない場合、ほとんどの炭素が炭化物の形で存在し、球状黒鉛組織が得られにくいので、炭素を3.4%以上添加し、全体として均一な球状黒鉛組織が得られるようにする。一方、炭素の含有量が多いほど、凝固点が低くなるので鋳造性の改善には役立つが、黒鉛析出量が多すぎることから、脆性を高め、引張強度によくない影響を及ぼす。つまり、炭素飽和度(Sc)が約0.8〜0.9の場合に最大の引張強度を有するので、炭素の最大限度を3.9%とし、良好な引張強度が得られるようにする。
【0031】
(2)ケイ素(Si):2.0〜3.0%
ケイ素は、黒鉛化促進元素であって、炭化物を分解して黒鉛として析出させる役割を果たす。すなわち、ケイ素の添加は、炭素量を増加させるのと同様の効果を発揮する。また、ケイ素は、鋳鉄中に存在する微細な黒鉛組織を片状黒鉛組織に成長させる役割を果たす。このように成長した片状黒鉛組織は、マグネシウムや球状化剤などにより球状黒鉛として生成される。特に、ケイ素の含有量が増加するにつれてベイナイト基地組織の機械的性能が向上する。つまり、ケイ素は、多量に添加された場合、ベイナイト基地組織を強化して引張強度を向上させる役割も兼ねるが、これはケイ素の含有量が3.0%以下の場合に顕著である。これは、ケイ素の含有量が増加するにつれて、黒鉛の直径が小さくなり、フェライト量が増加し、ベイナイトへの変態を促すからである。
【0032】
すなわち、Si/Cが大きくなると、黒鉛の量が減少し、高ケイ素による基地組織強化効果により引張強度が向上するが、これは溶湯に接種を行った場合に顕著である。
【0033】
しかし、ケイ素の含有量が3.0%を超えると、その効果が飽和する。また、ケイ素の含有量が多すぎると、炭化物の含有量を減少させて材料の硬度及び耐摩耗性を低下させ、材料の溶解が困難になるだけでなく、後続の冷却過程でオーステナイト構造がマルテンサイト構造に転換され、脆性が高くなるという問題がある。さらに、ケイ素の含有量が多いほど、熱伝導性が低下し、冷却又は加熱中に温度分布が不均一になり、残留応力が大きくなる。よって、ケイ素の含有量は2.0〜3.0%とする。
【0034】
(3)マンガン(Mn):0.3〜1.0%
マンガンは、炭素の黒鉛化を阻害する白銑化促進元素であって、結合炭素(すなわち、セメンタイト)を安定化させる役割を果たす。また、マンガンは、フェライトの析出を阻害してパーライトを微細化するので、鋳鉄の基地組織をパーライト化する場合に有用である。特に、マンガンは、鋳鉄中の硫黄と結合して硫化マンガンを生成し、その硫化マンガンは、溶湯の表面に浮上してスラグとして除去されるか、又は凝固した後に非金属介在物として鋳鉄中に残って硫化鉄が生成されることを防止する。つまり、マンガンは、硫黄の害を中和する元素としても作用する。パーライト化の促進及び硫黄成分の除去のために、マンガンは0.3〜1.0%の量で含有する。
【0035】
(4)クロム(Cr):0.1〜1.0%
クロムは、黒鉛化阻害元素であって、多量に添加されると、白銑化させることになり、硬度を過度に向上させて加工性を低下させる原因となる。それに対して、クロムは、炭化物を安定化させる作用をし、耐熱性の向上にも役立つ。よって、クロムは、0.1〜1.0%の量で添加することにより、機械的性能と耐熱性を向上させるようにする。また、クロムは、焼入れ性を向上させ、共析変態時にパーライト鋳鉄を安定させる役割もする。
【0036】
(5)モリブデン(Mo):0.2〜0.8%
モリブデンは、0.8%以下で含有される場合、炭化物を安定させ、パーライト及び黒鉛を微細化する作用をする。モリブデンが添加される場合、リン(P)の含有量を少なくしなければならない。そうしなければ、4次元のP−Mo共晶を形成し、脆弱性を高める。一方、モリブデンは、断面組織の均一性を改善し、強度、硬度、衝撃強度、疲労強度、高温(550℃以下)性能を向上させ、収縮を減少させ、熱処理性を改善し、焼入れ性を向上させる役割を果たす。これらの点に鑑み、モリブデンの含有量は0.2〜0.8%とする。
【0037】
(6)ホウ素(B):0.05〜0.5%
ホウ素は、黒鉛を微細化するが、黒鉛の量を減少させて炭化物の生成を促進する役割を果たす。特に、ホウ素炭化物は網状に形成されるが、ホウ素の含有量が少ない場合は、断続した形状の網を形成し、ホウ素の含有量が多すぎる場合は、連続した形状の網を形成して機械的性能を低下させるので、ホウ素は0.05〜0.5%の量で含有する。
【0038】
ここで、Si/B<80であれば、断続した形状の網を形成し、80<Si/B<130であれば、少量のホウ素炭化物を形成し、Si/B>130であれば、連続した形状の網を形成する。よって、ホウ素の含有量は、ケイ素の含有量に関連して、Si/B<80となるように調整することが好ましい。
【0039】
(7)チタン(Ti):0.04〜0.15%
チタンは、黒鉛を微細化し、パーライトの生成を促進し、パーライトの高温安定性を向上させる。また、チタンは、溶湯に対する脱酸、脱窒作用が強い。従って、チタンを添加すると黒鉛化が促進される。チタンは、黒鉛のサイズを小さくするので、引張強度を向上させ、チル化を防止し、耐摩耗性を良好にする。このために、チタンは0.04〜0.15%の量で含有する。
【0040】
(8)タングステン(W):0.05〜0.5%
タングステンは、溶融点の高い金属であって、周期表の第6周期に属する。タングステンは、銀白色の金属であり、鋼と類似した外観を有する。一方、タングステン炭化物は、硬度が非常に高く、耐摩耗性及び難溶融性を有する。よって、球状黒鉛鋳鉄中にタングステンを適切に入れてタングステン炭化物を形成し、それにより硬度の向上を図ることができる。また、タングステンは、パーライトの生成を促進する元素であり、0.05〜0.5%の量で含有する。
【0041】
(9)希土類(RE):0.02〜0.04%
希土類は、球状化剤として機能し、0.02〜0.04%の量で含有する。
【0042】
(10)リン(P):0.3%以下
リンは、リン化鉄(Fe3P)の化合物を形成し、フェライト、炭化鉄と共に3元共晶ステダイトとして存在する。リン化鉄は、過冷しやすく、鋳物中で偏析を起こしやすい。従って、リンの含有量が増加するにつれて、脆性が高くなり、引張強度が急速に低下する。よって、リンの含有量は0.3%以下とする。
【0043】
(11)硫黄(S):0.1%以下
硫黄は、添加量が多くなるほど、溶湯の流動性を低下させ、収縮量を増加させ、収縮孔や亀裂の発生の原因となることもある。従って、できるだけ含有量を少なくすることが好ましい。ただし、0.1%以下で含有される場合は、それらの悪影響が大きく生じないので、前記含有量となるように管理する。
【0044】
前記のような特性を有する元素を混合することにより、本発明による球状黒鉛鋳鉄を生産することができ、それは圧縮機のベーンの製造に用いることができる。以下、球状黒鉛鋳鉄からなる圧縮機用ベーンを生産する製造工程について説明する。
【0045】
(1)製錬
前述した元素を適正比率で選択して原料を調製し、その原料を中周波誘導炉(middle frequency induction furnace)に入れて全て溶解されるように加熱し、その後製錬する。ここで、炉から溶湯を取り出す温度は約1500〜1550℃である。
【0046】
(2)球状化処理及び接種
製錬過程で製錬された溶湯に黒鉛の球状化のための球状化剤及び接種剤を接種する。ここで、球状化剤としては、黒鉛の球状化を促進することが知られている元素であるMg、Ca及び希土類(RE)を含むものを用いることができ、具体的には、Mg:5.5〜6.5%、Si:44〜48%、Ca:0.5〜2.5%、AL<1.5%、RE:0.8〜1.5%、MgO<0.7%などの成分を有するものを溶湯の質量に対して1.0〜1.8%の量で添加する。
【0047】
一方、接種は、黒鉛核を多く形成して黒鉛化を促進し、黒鉛の分布を均一化して強度を増加させるのに役立ち、接種剤としては、バリウムシリコン鉄合金(FeSi72Ba2)を用い、その添加量は溶湯の質量の0.4〜1.0%である。
【0048】
(3)鋳造
接種過程で接種処理された溶湯を、所望の形状のキャビティを有するように予め製作された鋳型に注入する。ここで、鋳造は、レジンコーテッドサンドを用いるシェルモールド鋳造法(Shell Mold Process)又はインベストメント鋳造法(Investment Mold Process)を用いて行う。冷却されたベーン半製品は、球状黒鉛と炭化物を含有し、炭化物の含有量はベーン全体積の15%〜35%である。一例として、いわゆる炭化鉄と呼ばれるFe3Cなどが含まれる。
【0049】
(4)研磨
鋳造過程で得られたベーン半製品を研磨し、所望の形態を有するように加工する。
【0050】
(5)熱処理
熱処理過程は、オーステナイト基地組織をベイナイト化するためのオーステンパ処理の一種であり、オーステンパ処理は、オーステナイト状態でMs点以上の温度に維持し、その後塩浴で焼入れ処理し、空冷する過程である。ここで、焼入れとは、過冷オーステナイトがベイナイトへの変態を完了するまで恒温に維持することを意味する。
【0051】
具体的には、空気の温度を制御する電気抵抗炉を用いて、研磨されたパーライト基地組織を有するベーン半製品を880〜950℃に加熱した状態で30〜90分間維持し、その後迅速に200〜260℃の温度の硝酸塩溶液に入れて1〜3時間維持し、その後取り出して空気中で常温まで冷却する。このような熱処理により、オーステナイト基地組織がベイナイト基地組織に変態し、それにより、靱性と耐衝撃性を大きく向上させることができる。つまり、熱処理が完了すると、ベイナイト基地組織、炭化物及び球状黒鉛を含有するベーンが得られる。
【0052】
ここで、硝酸塩溶液としては、重量比でKNO3とNaNO3を1:1に混合したものを用いる。硝酸塩溶液は、焼入れ媒質であって、一般的な焼入れオイルと比較して利点を有する。利点は次の通りである。
・硝酸塩溶液焼入れ過程中に蒸気膜段階がなく、高温域の冷却速度が非常に速いので、厚いワークピースが良好な焼入れ組織を有するようにすることができる。
・低温域等温過程で、硝酸塩溶液の冷却速度が0に近いので、焼入れ変形が非常に小さい。
・硝酸塩の冷却速度を水含有量の調節により調整することができて(熱いオイルの冷却速度とオイルの冷却速度の4倍との間にある)非常に便利である。
・ワークピースの表面が応力圧迫状態を示し、ワークピースのクラックを減少させる傾向があり、ワークピースの寿命を延ばす。
・焼入れ後、ワークピースが均一な金属光沢の薄い藍色であり、洗浄後にチャネリング又はピーニングを必要とせず、腐食防止性能が高い。
【0053】
(6)精密研磨及びポリッシング
熱処理して得られた炭化物の球状黒鉛鋳鉄のベーンが精密研磨及びポリッシング加工により最終の形状及び求められる表面品質を有するように加工する。
【0054】
(7)浸硫
精密研磨及びポリッシング過程で得られた球状黒鉛鋳鉄のベーンを浸硫処理し、ベーンの表面に厚さ0.005〜0.015mmの浸硫層を形成する。浸硫層は、ベーンの内部に存在する球状黒鉛と共に作用し、ベーン自体が有する潤滑性及び耐摩耗性をさらに向上させる。ここで、浸硫層は、必須のものではないが、新冷媒のように高圧縮比で運転される場合、耐摩耗性及び潤滑性の改善に有利である。
【実施例1】
【0055】
実施例1は下記の過程により製造された。
【0056】
元素の質量百分率でC:3.4%、Si:2.0%、Mn:0.3%、Cr:0.1%、Ti:0.04%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.03%、RE:0.02%及び残部としてのFeで原料を調製し、調製された原料を中周波誘導炉に入れて原料が全て溶解されるように昇温することで球状黒鉛鋳鉄の溶湯を製錬した。炉から取り出す温度は1500℃であった。
【0057】
前記過程で製錬されて炉から取り出された球状黒鉛鋳鉄の溶湯に対して球状化処理と接種処理を行ったが、球状化剤は、希土シリコン鉄マグネシウム合金FeSiMg6RE1であってその添加量は原液の質量の1.0%であり、接種剤は、バリウムシリコン鉄合金FeSi72Ba2であってその添加量は原液の質量の0.4%であった。
【0058】
前記過程で接種処理された球状黒鉛鋳鉄の溶湯をシェルモールド鋳造法又はインベストメント鋳造法により鋳造し、片状黒鉛及び炭化物を含有するパーライト鋳鉄ベーンが得られたが、この場合、炭化物の含有量はベーン全体積の15%であった。
【0059】
前記過程で得られたベーンを研磨し、所望の形態を有するように加工した。
【0060】
次いで、ベーンを880℃に加熱し、当該温度を30分間維持し、その後200℃の温度の硝酸塩溶液に入れて1時間維持し、その後取り出して常温まで冷却することにより、基地組織をベイナイトに変態させた。ここで、当該組織は、ベイナイト、炭化物、球状黒鉛及び微量のマルテンサイトを含んでいた。このようにして得られたベーン半製品に対して、精密研磨及びポリッシングを行い、その後浸硫処理を施すことにより、ベーンの表面に厚さ0.005mmの浸硫層を形成した。
【実施例2】
【0061】
実施例2においては、元素の質量百分率でC:3.7%、Si:2.5%、Mn:0.6%、Cr:0.5%、Mo:0.4%、W:0.25%、B:0.05%、Ti:0.09%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.04%、RE:0.03%及び残部としてのFeを含む原料を溶解し、1525℃の温度で溶湯を取り出し、その後溶湯に球状化剤と接種剤を注入した。この場合、球状化剤は、希土シリコン鉄マグネシウム合金FeSiMg6RE1であってその添加量は原液の質量の1.4%であり、接種剤は、バリウムシリコン鉄合金FeSi72Ba2であってその添加量は原液の質量の0.7%であった。その後、溶湯をシェルモールド鋳造法又はインベストメント鋳造法により鋳造し、体積比で25%の炭化物を含むベーン半製品を得た。
【0062】
ベーン半製品を研磨し、915℃に加熱し、当該温度を1時間維持し、その後230℃の温度の硝酸塩溶液に入れて1〜3時間維持し、その後空気中で室温まで冷却することにより、ベイナイト球状黒鉛鋳鉄のベーンを得た。ベーンに対して、精密研磨及びポリッシングを行い、その後浸硫処理を施すことにより、ベーンの表面に厚さ0.008mmの浸硫層を形成した。
【実施例3】
【0063】
実施例3においては、元素の質量百分率でC:3.9%、Si:3.0%、Mn:1.0%、Cr:1.0%、Mn:0.8%、W:0.5%、B:0.1%、Ti:0.15%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.05%、RE:0.04%及び残部としてのFeを含む原料を溶解し、1550℃の温度で取り出し、その後球状化剤としてFeSiMg6RE1を1.8%、接種剤としてFeSi72Ba2を溶湯の質量の1.0%の量で添加する。その後、溶湯をシェルモールド鋳造法又はインベストメント鋳造法により鋳造し、体積比で35%の炭化物を含むベーンを鋳造し、所定形状に研磨した。
【0064】
研磨されたベーンを950℃に加熱して1.5時間維持し、その後260℃の温度の硝酸塩溶液に入れて3時間維持し、その後空気中で常温まで冷却することにより、ベイナイト基地組織、炭化物及び球状黒鉛を含有するベーンを得た。次いで、精密研磨及びポリッシングンにより最終の形状を得て、その後浸硫処理によりベーンの表面に厚さ0.015mmの浸硫層を形成した。
【実施例4】
【0065】
実施例4においては、元素の質量百分率でC:3.5%、Si:2.2%、Mn:0.4%、Cr:0.3%、Mo:0.2%、Ti:0.06%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.035%、RE:0.025%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1510℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0066】
実施例5においては、元素の質量百分率でC:3.6%、Si:2.3%、Mn:0.5%、Cr:0.4%、W:0.3%、Ti:0.07%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.036%、RE:0.026%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1520℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例2と同様である。
【実施例6】
【0067】
実施例6においては、元素の質量百分率でC:3.7%、Si:2.4%、Mn:0.7%、Cr:0.6%、B:0.3%、Ti:0.08%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.042%、RE:0.032%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1530℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例3と同様である。
【実施例7】
【0068】
実施例7においては、元素の質量百分率でC:3.8%、Si:2.6%、Mn:0.8%、Cr:0.7%、Mo:0.2%、W:0.5%、Ti:0.04%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.036%、RE:0.035%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1540℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例1と同様である。
【実施例8】
【0069】
実施例8においては、元素の質量百分率でC:3.5%、Si:3.0%、Mn:0.3%、Cr:0.9%、Mo:0.8%、B:0.01%、Ti:0.08%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.03%、RE:0.04%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1550℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例2と同様である。
【実施例9】
【0070】
実施例9においては、元素の質量百分率でC:3.9%、Si:2.0%、Mn:1.0%、Cr:0.1%、W:0.05%、B:0.1%、Ti:0.15%、P<0.08%、S<0.025%、Mg:0.05%、RE:0.02%及び残部としてのFeを含む原料を溶融し、1510℃の温度で溶湯を取り出した。その他の過程は実施例3と同様である。
【0071】
以上の実施例をまとめると下記表1の通りである。
【表1】
【0072】
上記実施例において、鋳造が終了した状態の試料を採取してその表面を研磨し、HB−3000型硬度計を用いて実施例毎に5つのポイントで硬度テストを行い、顕微鏡を用いて形成されたリセスの直径を測定し、それに基づいて硬度を計算し、その後5つのポイントの平均値を試料の硬度とした。
【0073】
また、熱処理済みの試料に対しても、HR−150A型ロックウェル硬度計を用いて硬度テストを行った。テスト位置は、鋳造液注入口付近の上下2点、鋳造液注入口から離れた地点の上下2点、及びそれらの間の1点とし、計5つのポイントでテストを行った。
【0074】
さらに、各実施例と同じ材質で図1に示す形態のテスト試料を製作し、引張強度を測定した。下記表2はテスト結果を示す。
【表2】
【0075】
上記表2に示すように、本発明の全ての実施例は、ロックウェル硬度を基準に60以上の硬度を有するので、圧縮機のベーンとして十分な硬度を有することが分かる。また、このような高硬度特性は、球状黒鉛自体が有する潤滑性と相まって耐摩耗性を大幅に向上させる。
【0076】
下記表3は上記実施例の切削加工性及び研磨加工性のテスト結果をまとめたものである。
【表3】
【0077】
切削加工性の観点から、本発明による球状黒鉛鋳鉄の場合、従来の高速度鋼を100%として60%に相当する切削負荷を示しており、高速度鋼に比べて容易に切削を行えることが分かる。また、工具1個当たり、高速度鋼の場合、100個のベーンを切削加工することができるのに対し、本発明による球状黒鉛鋳鉄の場合、その3倍である300個のベーンを切削加工することができる。従って、工具の頻繁な交換を防止することができるだけでなく、切削加工にかかる時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【0078】
また、研磨加工性の観点から、本発明による球状黒鉛鋳鉄の場合、研磨負荷が高速度鋼の75%に相当し、研磨石のドレッシング1回当たり800個のベーンを研磨加工することができ、高速度鋼に比べて研磨性能を大幅に向上させることが分かる。
【0079】
さらに、従来の高速度鋼を用いたベーンは、鋳造法を用いるのではなく鍛造法を用いるので、生産性が低いという問題があるが、本発明は、鋳造法を用いることにより、高速度鋼と同程度の耐摩耗性を有しながらも、相対的に優れた加工性を有するので、生産性を向上させることができ、加工コストを大幅に削減することができる。
【0080】
本発明の特性から外れない限り、本発明は様々な形態で実現することができ、前述した実施形態は前述したいかなる詳細な記載内容によっても限定されず、特に断らない限り、添付された請求の範囲に定義された範囲内で広く解釈されるべきであり、請求の範囲内で行われるあらゆる変更及び変形、あるいはその均等物も添付された請求の範囲に含まれる。
図1
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