【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。実施例1〜10は、種々のプロセス条件下での連続的プロセスによる、VAMとメチルアクリレートとのコポリマーの製造について説明している。
【0032】
重合は、還流冷却器、機械的攪拌機、および供給ラインを備えた、直列2つの2リットルのジャケット付きガラス反応器を使用して行った。反応器1に、ビニルアセテート(VAM)、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート(Trigonox EH
P)開始剤を含有するメタノール、およびメチルアクリレートを、それぞれ計量ポンプを使用して別々の供給ラインとして連続的に供給した。正確な供給速度を確実に得るために、各供給物をバランス上に配置し、経時的な重量差を測定することによって供給速度をチェックした。メチルアクリレートをさらに第2の反応器に連続的に供給して、組成ドリフトを最小限に抑えた〔反応器1(PK1)と反応器2(PK2)の間のスプリットは70:30であった〕。表1に、各試験に対する供給速度と開始剤濃度を示す。反応器1の温度は60℃、反応器2の温度は64℃であった。滞留時間は、それぞれの反応器において96分であった。反応器2から出てくるポリマー溶液をOldershaw(登録商標)カラムに送って、メタノール蒸気を使用して残留ビニルアセテートを除去した。重合を確実にラインアウトするために、各試験を12時間実施した。
【0033】
【表1】
【0034】
表2は、実施例においてメチルアクリレートとビニルアセテートとの重合から得られた結果を、15%メタノール溶液の粘度によって示されるポリマーの相対分子量、反応器2における固体の実際の百分率、および実際の固体%と理論的固体%(括弧外の数値)から算出される転化率(括弧内の数値)を含めて示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2は、ビニルアセテートとメチルアクリレートのポリマーへの全体的な転化率を示す。これらの理論的固体レベル(モノマーからコポリマーへの転化に直接関係する)を基準として、転化率は45.93〜58.23%の範囲であった。残留メチルアクリレート(50ppm〜100ppm)はGC分析によって測定した。
【0037】
VAM/MAコポリマーの鹸化は、反応器2からの流出液からVAMをストリッピングするのに使用されるOldershaw(登録商標)カラムから得られるペーストを、50重量%NaOH水溶液で種々の苛性モル比(CMR)値にて処理することによって行い、固体含量が35重量%となるよう、さらにメタノールで希釈した。実施例1〜10は、実施例3のVAM/MAコポリマーに対してなされる鹸化条件を変えることの影響を表わしており、結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
苛性モル比(CMR)は、ポリマーが100%PVAcであると仮定して算出した。CMRの算出において少量のco−MAは無視した。
前述のように、50%NaOHをペーストに加えるときには、50%NaOHを充分なMeOHで希釈して固体含量が35%になるよう希釈した。NaOH/MeOHを、室温にて手でペースト中に混合した(10〜20分のミキシング)。40℃での鹸化により、約1分のミキシング後にゲル化した。次いでペーストを、上記の表に示す時間と温度にて反応させた。実施例1〜10に記載の手順に類似の鹸化手順を、実施例1〜10のポリマーに対して施した。
【0040】
表4は、重合メチルアクリレート、重合VAM(PVAc)、および重合ビニルアルコール(PVOH)のモル%、C
13NMRによって示される加水分解度、4%水溶液の粘度によって示される相対分子量、ならびに滴定によって示される加水分解度を含めた、表1と2の各実施例に対する鹸化ポリマーの組成と特性を示す。
【0041】
【表4】
【0042】
C
13NMR分光法を使用して、コポリマーの組成とコポリマー中のMAのランダム性を決定することができる。MAの供給速度が、コポリマー中へのMA組み込みを制御する上での唯一の変数である。これとは別に、後述する溶解度試験やGPEC分析に基づいて、該コポリマーが実質的にランダムであるかどうかを決定することができる。
【0043】
形成されるコポリマーのランダム性をGPEC分析によって測定した。得られた結果を
図1〜3に示す。GPECは、溶媒と非溶媒との混合物を使用することによってポリマー中の化学組成分布を測定するのに使用できる手法であり、Coolsらによる「“Determination of the Chemical Composition Distribution of Copolymers of Styrene and
Butadiene by Gradient Polymer Elution Chromatography”,
Journal of Chromatograph A,736(Elsevier Science B.V.,1996),pp.125−130」(該文献の開示内容を参照により本明細書に含める)に説明されている。本発明のコポリマーに対し、以下の条件、材料、および装置を使用した:カラム:Agilent PLRP−S 1000A 5μm 50×4.6mm。移動相:1)5%アセトニトリルと95%水でスタートする;2)6分かけて60%アセトニトリルと40%水の
勾配にし、この比率を7.5分保持する;3)12分かけて5%アセトニトリルと95%水の勾配にする;4)22分までカラム5%アセトニトリルと95%水で状態調節し、試験を停止する。温度:65℃。流量:1ml/分。注入体積:2
μl。検出器:ELSD。サンプル濃度:5mg/ml。
【0044】
図1〜3のそれぞれに示されているポリマー組成は、極性ピークをカラムからのポリマー溶出液として示している。ピークが近いほど、コポリマーの組成における組成ドリフトは小さくなる。100:0スプリット比のモノマーを加えた場合(
図3)、顕著な組成ドリフトを示す別個のピークが見られるだけでなく、別個のポリマーブロックやホモポリマー等が形成されていることを示すより多くのピークが見られる。
図2の50:50スプリット比のポリマーは、形成されるポリマーの組成が、100:0スプリット比付加の場合より均一になる(組成ドリフトがより小さくなる)が、
図1の70:30スプリット比付加ポリマーは、組成ドリフトが実質的に認められないことを示す単峰性のクロマトグラムを有する。
【0045】
表1〜4のデータから、本発明の連続的プロセスを使用することで、VOHとMAとのコポリマーを、比較的高いMA組み込み量、高い転化率と生産性、高い加水分解度、および組成ドリフトの実質的な非存在にて得ることができる、ということがわかる。
【0046】
さらに一般的には、本発明は、ビニルアセテートとアクリレートもしくはアクリレート誘導体とのコポリマーを製造するための連続的プロセスを含む。アクリレートモノマーもしくはアクリレート誘導体モノマーおよびこれらを組み込んだコポリマーを、ここでは便宜上、それぞれアクリレートコモノマーおよびアクリレートコポリマーと呼ぶ。したがって本発明によれば、(a)ビニルアセテートとより高反応性のアクリレートコモノマーを含む反応混合物を反応ゾーンに連続的に供給する工程、ここでビニルアセテートコモノマーとアクリレートコモノマーを少なくともある程度消費させて中間反応混合物を形成させる;(b)この中間反応混合物に、より高反応性のアクリレートコモノマーを高含量にて含んだストリームを連続的に供給し、この追加のアクリレートコモノマーと中間反応混合物とを共重合させてビニルアセテート/アクリレートコポリマー生成物を形成させる工程;および(c)ビニルアセテート/アクリレートコポリマー生成物を連続的に回収する工程;を含む、ビニルアセテート/アクリレートコポリマーを製造するための連続的プロセスが提供される。
【0047】
本発明によって製造されるPVOHからフィルムを作製した。典型的な実験では、コポリマーの水溶液を調製し(4〜10%固体)、ガラス板上にキャストした。この溶液を室温で一晩乾燥してから、ガラス板から剥がした。得られたフィルムを22℃、50%相対湿度にて24時間状態調節してから、特性を測定した。このようにして作製したフィルムの特性を、改良された水溶解度を含めて表5に示す。
【0048】
フィルムの溶解度特性は、米国特許第7,745,517号明細書(該明細書の全開示内容を参照により本明細書に含める)に記載のスライドフレーム試験によって測定することができ、試験方法は下記のとおりである。7%水溶液をガラス板上にキャストし、重力によって平らにし、約6〜15%の含水率になるまで乾燥する(2〜7日かかることがある)ことによって、配合物からフィルムを作製する。このペーストにある量の溶液を加えて、約76μmのターゲット厚さを有するフィルムを得る。フィルムの2.3×3.4cmサンプルをスライドフレームに据え付け、400mlの水を入れた500mlビーカー中に配置する。このビーカーをマグネチックスターラー上に置き、電磁撹拌バーにより400rpm(コントロールノブで設定)にて、渦がつくり出されるように水を撹拌する。水の温度を21℃±1℃に保持する。プラットホームで支持されたクランプを使用して、撹拌水がフィルムを押すように、フレームをビーカー中に固定する。フィルムは、ふくら
み始めるか又は波状になり始める。フィルムバルーンが破裂するときの崩壊時間を記録する。崩壊後、フレームが水中に残り、フィルムの残留ストリングとフィルム粒子がフレーム上に残らなくなるときの合計時間(崩壊時間を含めて)としての溶解時間を記録する。
【0049】
【表5】
【0050】
したがって本発明は、MAコモノマーの全部を同じ反応器に供給するのではなく、MAコモノマーを2つの部分に分けて2つの反応器に供給することによって改良された水溶解度を有するPVOHを製造する方法を説明している。比較のため、全てのモノマーと開始剤を1つの反応器に加えることによるコポリマーの製造を試みた。必要とされる全てのモノマーを第1の反応器だけに加えることによってコポリマーを製造すると、
図6に示すように、不溶性であるか又は溶解性が著しく低下したPVOHが得られた。これは、コポリマー中にメチルアクリレートブロック及び/又はメチルアクリレートホモポリマーが形成されることによるものと考えられる。表6において、フィルムが3分以上の経過にて崩壊しない、あるいは10分超の溶出時間を有する場合でも、フィルムは上記の溶解試験に合格しないと考えられる。
【0051】
【表6】
【0052】
代替実施態様
種々の態様にて、本発明はさらに、以下のような代替実施態様を含む:
代替実施態様No.1は、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAを共重合さ
せることによる、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)〔たとえば、メチルアクリレート(“MA”)〕とのコポリマーの製造方法であり、該製造方法は、(a)第1の反応ゾーン中に、必要なVAM量の実質的に主要な量および必要なAA量の第1の部分、ラジカル生成重合開始剤、ならびに2種のモノマーと開始剤と該2種のモノマーの共重合から得られるコポリマーに対する溶媒を、撹拌しながら連続的に供給して第1の反応マスを形成させる工程;(b)該第1の反応マスを、該第1の反応ゾーン中に、該第1の反応ゾーンに供給されるAAの主要割合が重合するに足る滞留時間にわたって重合条件下にて保持する工程;(c)該第1の反応ゾーンからの該第1の反応マスを、AAの第2の部分と共に第2の反応ゾーンに連続的に供給する工程;(d)第1の反応マスを第2の反応ゾーン中に、MAの主要割合が重合して第2の反応マスを形成するに足る滞留時間にわたって保持する工程;(e)該第2の反応マスを第2の反応ゾーンから連続的に取り出す工程;(f)第2の反応マスからVAMとAAとのコポリマーを分離する工程;および(g)該コポリマー中のアセテート基の主要割合を加水分解及び/又はアルコール分解によって鹸化して、VOHとAAとのコポリマーを形成させる工程;を含み、ここでAAの該第1の部分とMAの該第2の部分とを合わせたものがAAの全必要量となる。
【0053】
代替実施態様No.2は、必要なVAMの100%を工程(a)において供給するという場合の、代替実施態様No.1の方法である。
代替実施態様No.3は、必要なVAMの少なくとも80%を工程(a)において供給するという場合の、代替実施態様No.1〜2のいずれかに従った方法である。
【0054】
代替実施態様No.4は、必要なVAMの少なくとも90%を工程(a)において供給するという場合の、代替実施態様No.1〜3のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.5は、該溶媒がメタノール、エタノール、またはプロパノールである場合の、代替実施態様No.1〜4のいずれかに従った方法である。
【0055】
代替実施態様No.6は、該溶媒がメタノールである場合の、代替実施態様No.1〜5のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.7は、MAの第1の部分とMAの第2の部分との比率が約50:50〜約80:20の範囲であるという場合の、代替実施態様No.1〜6のいずれかに従った方法である。
【0056】
代替実施態様No.8は、MAの第1の部分とMAの第2の部分との比率が約60:40〜約75:25の範囲であるという場合の、代替実施態様No.1〜7のいずれかに従った方法である。
【0057】
代替実施態様No.9は、第1の反応ゾーンに供給される該溶媒の量が、供給されるVAMの重量を基準として約10〜約40重量%であるという場合の、代替実施態様No.1〜8のいずれかに従った方法である。
【0058】
代替実施態様No.10は、第1と第2の反応ゾーンに供給される成分の、第1と第2の反応ゾーン中の平均滞留時間が約30〜約120分であるという場合の、代替実施態様No.1〜9のいずれかに従った方法である。
【0059】
代替実施態様No.11は、該平均滞留時間が約45〜約70分であるという場合の、代替実施態様No.1〜10のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.12は、該第1と第2の反応ゾーン中の反応温度が約55〜約85℃であるという場合の、代替実施態様No.1〜11のいずれかに従った方法である。
【0060】
代替実施態様No.13は、該反応温度が約60〜約80℃であるという場合の、代替実施態様No.1〜12のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.14は、それぞれの反応ゾーンにおける平均反応圧力が約1〜約30psigである場合の、代替実施態様No.1〜13のいずれかに従った方法である。
【0061】
代替実施態様No.15は、該反応圧力が約3〜約15psigである場合の、代替実施態様No.1〜14のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.16は、第1と第2の反応ゾーンにおける滞留時間と温度が、系に供給される実質的に全てのMAの重合をもたらすという場合の、代替実施態様No.1〜15のいずれかに従った方法である。
【0062】
代替実施態様No.17は、該第2の反応ゾーンからの溶出液が、約35〜約85%の実測ポリマー固体含量と該実測ポリマー固体含量から算出される転化率を有し、系に加えられるモノマーの量に等しい理論的ポリマー固体含量が約45〜約60%であるという場合の、代替実施態様No.1〜16のいずれかに従った方法である。
【0063】
代替実施態様No.18は、第2の反応ゾーンから得られるVAM/MAコポリマーの相対分子量が、コポリマーの15重量%メタノール溶液にて約35〜約80cpsの粘度によって示される場合の、代替実施態様No.1〜17のいずれかに従った方法である。
【0064】
代替実施態様No.19は、該転化率が約40〜約60%である場合の、代替実施態様No.1〜18のいずれかに従った方法である。
代替実施態様No.20は、VOHとMAとの鹸化コポリマーが、約1〜約8モル%の重合MA、約85〜約98モル%の重合VOH(PVOH)、C
13NMRによって示される約70〜少なくとも99%の加水分解度、およびVOHコポリマーの4%水溶液にて約15〜約30cpsの粘度で示される相対分子量を有するという場合の、代替実施態様No.1〜19のいずれかに従った方法である。
【0065】
代替実施態様No.21は、代替実施態様No.1〜20のいずれかによって製造されるPVOHである。
代替実施態様No.22は、(a)第1の反応ゾーン中に、必要なVAM量の実質的に主要な量および必要なAA量の第1の部分、ラジカル生成重合開始剤、ならびに2種のモノマーと開始剤と該2種のモノマーの共重合から得られるコポリマーに対する溶媒を、撹拌しながら連続的に供給して第1の反応マスを形成させる工程;(b)該第1の反応マスを、該第1の反応ゾーン中に、該第1の反応ゾーンに供給されるAAの主要割合が重合するに足る滞留時間にわたって重合条件下にて保持する工程;(c)該第1の反応ゾーンからの該第1の反応マスを、AAの第2の部分と共に第2の反応ゾーンに連続的に供給する工程;(d)第1の反応マスを第2の反応ゾーン中に、MAの主要割合が重合して第2の反応マスを形成するに足る滞留時間にわたって保持する工程;(e)該第2の反応マスを第2の反応ゾーンから連続的に取り出す工程;および(f)第2の反応マスからVAMとAAとのコポリマーを分離する工程;を含む方法よって製造されるビニルアセテートとアルキルアクリレートとのコポリマーであり、ここでAAの該第1の部分とMAの該第2の部分とを合わせたものがAAの全必要量となる。
【0066】
代替実施態様No.23は、MAの第1の部分とMAの第2の部分との比が、約50:50〜約80:20の範囲である場合の、代替実施態様No.22のコポリマーである。
代替実施態様No.24は、MAの第1の部分とMAの第2の部分との比が、約60:40〜約75:25の範囲である場合の、代替実施態様No.23のコポリマーである。
【0067】
本発明を詳細に説明してきたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲での改良は、当業者に
は容易に明らかであろう。上記の説明、当業界の関連した知見、および背景技術と詳細な説明に関連した上記文献(これら文献の開示内容を参照により本明細書に含める)を考慮すると、さらなる説明は不必要であると考えられる。さらに、理解しておかねばならないことは、本発明の態様と種々の実施態様の部分を、全部または一部において合わせたり、交換したりすることができる、という点である。さらに、当業者にとっては言うまでもないことであるが、上記の説明は単に例として挙げただけであって、本発明を限定することを意図していない。