(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載の加飾樹脂成形品であって、前記複数の凸部には、前記微小凹凸部の回折面角度、全反射面角度及び溝角度の少なくとも一つが異なる凸部が存在することを特徴とする加飾樹脂成形品。
請求項1から4の何れか1項に記載の加飾樹脂成形品であって、前記微小凹凸部の中に平坦状の透明部分を配置し、その透明部分の形状が文字、図形、記号となっており、前記透明部分によって文字、図形、記号を表示する、又は、
前記微小凹凸部の形状が文字、図形、記号となっており、前記微小凹凸部における全反射によって文字、図形、記号を表示する、ことを特徴とする加飾樹脂成形品。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ狭く限定されるわけではない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る加飾樹脂成形品(以下「本成形品」という。)1の概略を示す図であり、
図2は、本成形品1の板状部分の概略断面を示す図である。
【0019】
より具体的に説明すると、本成形品1は、単一の材料から構成された光透過性のある板状部分を有する金属色様の外観が得られる樹脂成形品であって、平坦面21が形成された第一の面2と、複数の凸部31が形成された第二の面3と、を備えている。
【0020】
また、本成形品1において、凸部31は更に、微小凹凸部41が形成された第一の傾斜面4と、平坦面51が形成された第二の傾斜面5と、を備えている。
【0021】
そして、本成形品1は、第一の面2側から進入してきた光の少なくとも一部を、第一の傾斜面4の微小凹凸部41によって第二の傾斜面5の平坦面51側に全反射させるとともに回折及び干渉し、第二の傾斜面5の平坦面51により所定の範囲の波長を選択的に反射させて第一の面2から光を放出させることで金属色様とともに少なくとも一色の色彩が得られるようになっている。なおここで「金属色様」とは、本成形品1を観測した者(以下「観測者」という。)が、金属によるコーティングがなされているかのように見える状態のことをいう。
【0022】
本成形品1において、主要な部材である樹脂は、透過性を有し、所望の形状に加工、成形できる高分子材料である。本成形品1において用いることのできる樹脂としては、後述するように、所望の屈折率を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂を例示することができる。また、樹脂は、無色透明、無色半透明、有色透明、有色半透明のいずれかであっても構わない。
【0023】
また本成形品1は単一の材料で構成されている。単一の材料で構成することによって、複雑な工程を設けることなく、所望の金属色様とともに、少なくとも一色の色彩を有する外観を得ることができるようになる。
【0024】
本成形品1の板状部分では、上記のとおり第二の面3に複数の凸部31が形成されている。本成形品1の板状部分は、必ずしも平行平板状である必要はなく、前記第一の面または前記第二の面の少なくとも一方の面が曲面であってもよい。この場合、例えば、
図3で示すように、化粧品や飲料の容器等のキャップや、棒状部材が付された車等の機械装置に付されるエンブレム等の静的な部品や、時計の針等の動的な部品等、様々な用途に用いることができる。
【0025】
また本成形品1において、樹脂は光透過性を備えている。ここで「光透過性」とは、入射された光の少なくとも一部を透過する性質をいう。この限りにおいて限定されるわけではないが、具体的には、樹脂の板状部分であって、凹部近傍ではあるが凸部が形成されていない部分における光(633nm)の透過率が0%より高く60%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以上50%以下である。0%より高くすることによって、樹脂内部で光が伝播、反射、回折及び干渉することが可能となって観測者に金属色様の外観を認識させるとともに少なくとも一色の色彩を得ることが可能となり、5%以上とすることでこの効果が顕著となる。一方、光の透過率を60%以下とすることで金属色様の度合いを高くし美観を維持することが可能となり、50%以下とすることでこの効果が顕著となる。
【0026】
また本成形品1では、上記のとおり平坦面21が形成された第一の面2を備えている。本成形品1では、第一の面2から光が入射され、樹脂内を伝播し、少なくとも一部の光が回折、干渉及び全反射され、再びこの第一の面2から光が放出され、観測者の目に入ることで所望の金属色を呈しているとともに少なくとも一色の色彩を認識させることが可能となる。ここで「平坦面」は、第二の面の凸部等と異なり、光を散乱させてしまうような凹凸を有しておらず、鏡面程度の滑らかさを有している面をいう。
【0027】
また本成形品1では、上記のとおり、複数の凸部31が形成された第二の面3を備えている。本成形品1は、複数の凸部31を備えることで、凹凸が規則的に繰り返され、そのそれぞれ光が回折、干渉及び反射されることで光量を確保し、強い金属色様とともに少なくとも一色の色彩を得ることが可能となる。
本成形品1では、微小凹凸部の中に平坦状の透明部分を配置し、その透明部分の形状を文字、図形、記号とし、その透明部分によって文字、図形、記号を表示することもできる。又、微小凹凸部の形状を文字、図形、記号とし、微小凹凸部における全反射によって文字、図形、記号を表示することもできる。
【0028】
なお、複数の凸部は規則的な構造を備えている限りにおいて形状は限定されず、例えば
図4で示すように、直線的な凸部が略平行に配置された構造であってもよく、
図5で示すように、円状の凸部が同心円的に配置された構造であってもよい。
【0029】
また本成形品1において、凸部31は、上記の図で示すように、更に第一の傾斜面4と第二の傾斜面5を備えており、第一の傾斜面4には微小凹凸部41が形成され、第二の傾斜面5には平坦面51が形成されている。
【0030】
本成形品1において、凸部31の第二の面5には、平坦面51が形成されている。ここで「平坦面」とは、上記第一の面2における平坦面21と同様である。
【0031】
また本成形品において、凸部31の第一の面4には、微小な凹凸部41が形成されている。本成形品1では、微小凹凸部41を備えることで、特定の波長範囲で回折及び干渉を起こすとともに全反射し、金属色様とともに、少なくとも一色の色彩を得ることが可能となる。
【0032】
本成形品における微小凹凸部41は、上記の機能を有することができる限りにおいて様々な形状を採用することができるが、全反射部分を備えこれが周期的に配置された構造を備えていることが好ましく、より具体的には鋸歯状の回折格子となっていることが好ましい。この詳細な断面について
図6に示すとともに、本成形品が発揮する機能の原理について説明する。なお、本図では、説明を簡単にする観点から、樹脂の板状部分における平坦面21に平行な面を水平面Hと定義し、この水平面Hに対し垂直な方向を観測者が本成形品1を見る角度(光が入射する角度)として説明していく。ただし、本成形品の機能を発揮できる限りにおいて幾何学的構造は適宜調整可能であることはいうまでもない。
【0033】
本
図6で示すように、第一の傾斜面4における微小凹凸部41は鋸歯状となっており、基本となる全反射部分Rを備えている一方、この全反射部分Rが周期的なピッチdで設けられるよう形成されている。なお本成形品1において、第一の傾斜面4の微小凹凸部41の頂点を結んで形成される面を回折面Dと定義する。また、本成形品1において、水平面Hと回折面Dとのなす角度、即ち回析面角度をθ
dと定義し、水平面Hと全反射部分Rの角度、即ち溝角度をθ
rと定義し、水平面Hと第二の傾斜面5における平坦面51のなす角度、即ち全反射面角度をθ
tと定義する。また、樹脂の屈折率をn
1、この外側の屈折率をn
2と定義する。なおn
1>n
2とする。
【0034】
本成形品1では、観測者が本成形品1を見る場合の角度は上記のとおり水平面Hに対し垂直な方向であるとしているため、まず、入射した光(入射光)は、水平面Hに対し垂直な方向から入射される。この光は可視領域の光であって、異なる波長の光を含むいわゆる白色光と考える。
【0035】
そしてまず入射光は、本製品1内部を伝播し、第一の傾斜面4における凸部31に到達する。そして入射光は、凸部31における全反射部分Rによって全反射し、第二の傾斜面5の平坦面51側に方向が変換される。なお、この全反射部分Rにおける溝角度θ
rは、下記の式(1)を満たす。
【数1】
【0036】
そして、この反射によって、入射光は第二の傾斜面5の平坦面51に向かって伝播し、平坦面51によって再び全反射し、第一の面2側に全反射される。この場合において、回折面角度θ
dは以下の式(2)を満たす。ただしこの場合において、平坦面51に対する法線と平坦面51に入射する光のなす角度をγとおく。
【数2】
【0037】
一方、上記角度γは、第一の傾斜面4の全反射による全反射後の角度であるため計算することが可能である。すなわち角度γは、下記式で表現され、結果上記式(2)は下記のように表される。
【数3】
【0038】
そして、この結果、入射した光は2度の全反射を経由して、再び第一の面2から放出される。なおこの結果において求められる出射角度は出来る限り水平面Hに対して垂直な方向であることが好ましく、実際としては垂直から5〜10度以内の範囲で出射されるようにパラメータを調整することで所望の状態を達成できる。
【0039】
一方、入射光は、本成形品1内部を伝播し、凸部31の第一の傾斜面4における微小凹凸部41に到達すると、入射光は、微小凹凸部41の回折構造によって波長に応じた回折及び干渉も受け、波長ごとに異なる回折角βで凸部31内を伝播する。なおこの場合において、回折角βは、微小凹凸部41における上記ピッチd、入射光の回折面Dに対する入射角α(回折面Dの垂線と入射光とのなす角)を用いて下記関係式を満たす。
【数4】
【0040】
本
図6の例では、例えば赤色の波長領域の光は比較的大きな回折角で、青色の回折光は比較的小さな回折角で、緑色の回折光はこれらの間の角度で回折及び干渉する。
【0041】
そして、本成形品1では、回折及び干渉した光は、第二の傾斜面5における平坦面51に入射されることとなるが、大きく回折及び干渉した光、上記の例では例えば赤色の波長範囲にある光が全反射角度を満たさない配置となっているため、第一の面2ではなく、凸部31の第二の傾斜面5の外側に屈折しながら放出される。この結果、全反射条件を満たす波長の光、上記の例でいえば緑色の波長範囲にある光と、青色の波長範囲にある光のみが全反射し、第一の面2から放出されることとなる。この結果、観測者は赤色の波長範囲にある光が除外された結果の光を観測することができるようになる。
【0042】
より具体的に検討すると、入射光角度α、回折面角度θ
d、全反射面角度θ
tの関係は、下記の式で表される。
【数5】
【0043】
そして、上記式に従い、本成形品1及びの第二の面3が接する媒体の屈折率n1、及びピッチd、回折面角度θ
d、全反射面角度θ
tを調整することで、所望の波長領域では全反射されて第一の面から入射されてもほぼ全て第一の面から放出させることができる一方、所望の波長領域以外の光は、第一の面から入射されても第一の面からではなくその大部分が第二の面から放出されてしまうため、放出されず、結果として所望の色合いを調整することが可能となる。特に、本成形品では、全反射と共に回折及び干渉による光の選択を行っており、全反射の光が強い分、回折光及び強い干渉光を得ることができる。なお、上記のように、青みがかった金属色様の外観を得る場合、緑の中心波長を550nmとして下記の式条件式(6)を得ることができる。
【数6】
【0044】
なお、本成形品1において凸部31及び微小凹凸部41のサイズとしては、上記の所望の範囲に収めることができる限りにおいて限定されず適宜調整可能であることはいうまでもないが、例えば、凸部31の幅としては、光を十分に回折、干渉及び反射させることができる範囲として、例えば、10μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上100μm以下である。凸部の幅を200μm以下とすることで、観測者の目の分解能以下の範囲となり、一本の溝として認識しにくくすることができ、100μm以下とすることでこの効果が顕著となる。一方、凸部の幅を10μ以上とすることで微小凹凸部のピッチを十分に確保することができるようになる。
【0045】
また本成形品における凸部41の高さとしても、光を十分に回折、干渉及び反射させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記凸部31の幅と同様の理由により、例えば10μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上100μm以下である。
【0046】
また、本成形品1において微小凹凸部41のピッチdとしては、上記回折の条件を満たす範囲であれば適宜調整可能であり、例えば0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0047】
なお、本図では、説明を簡単にする観点から、一つの微小凹凸部を用いて説明を行っているが、同様なことが各微小凹凸部において行われる。そして、各微小凹凸部においてこれらの角度は適宜調整可能である。すなわち、複数の微小凹凸部のうち少なくとも一つは、微小凹凸部の回折面角度、全反射面角度及び溝角度の少なくともいずれかが、他の凹凸溝部のそれと異なっていてもよい。具体的には、ある領域における微小凹凸部と他の領域における微小凹凸部とで上記角度を変化させることで、領域毎に観測者が視認することができる色合いを変え、カラー表示を行わせることが可能となる。この場合のイメージ図を
図7に示しておく。
【0048】
また本成形品1は、上記のように、必要に応じて、第一の面及び第二の面の第一の傾斜面の少なくともいずれかに保護膜又は反射防止膜等を設ける構成とすることも好ましい。第一の面に保護膜又は反射防止膜等を形成した例を
図8に、第二の面の第一の傾斜面に保護膜又は反射防止膜等を形成した例を
図9に示しておく。
【0049】
また本製品1において、凸部31の形状は、第一の傾斜面及び第二の傾斜面を有している限りにおいて限定されず、上記の例で示すように頂点が鋭利な三角形に近い形状であってもよいが、例えば
図10で示すように頂点が平坦な台形に近い形状であってもよい。また、複数の凸部31同士は、隙間なく隣接していてもよいが、ある程度の隙間をあけて配置することも可能である。
【0050】
また本成形品1において、微小凹凸部41の全反射部分Rは平坦な面であることが好ましいが、例えば凹曲面であっても、凸曲面であってもよい。なお、平坦な面である場合は、上記した第一の面の平坦面と同程度とすることが好ましい。なお凹曲面の場合の一例を
図11に示しておく。
【0051】
以上、本実施形態により、工程の複雑化及びコストアップを抑えつつ様々な色相を呈する金属色様の外観が得られる加飾樹脂成形品となる。より具体的には、第二の面における凸部の一方に更に回折及び干渉が可能な微小凹凸部を設けることで、全反射を行う一方、特定の波長範囲の一次回折光について回折及び干渉後に全反射させ、回折及び干渉の結果角度の変わった光の一部を全反射ではなく第二の面側に屈折させて放出させることで、観測者に特定の色合いとなった金属色様の外観を認識させることができる。この結果、いわゆる多色表示が可能となり、商品としての付加価値が極めて高くなる。
【0052】
以上の記載から明らかであるように、本成形品では、凸部において金属色様と共に色彩を得ることができるため、この部分を文字、図形及び記号(以下「文字等」という。)の形状にすることで文字等として表示することが可能であり、一方、所定の領域にこの凸部を設ける一方、一部この凸部を設けない平坦な部分を文字等の形状としておくことで、いわゆる白抜きの文字等表現を行うことができるようになることはいうまでもない。
【解決手段】単一の材料から構成され光透過性のある板状部分を有し平坦面を有する第一の面2と、複数の凸部41が形成されている第二の面3とを備え、樹脂成形品1を外部から第一の面2に向かって見たときに金属色様の外観が得られる加飾樹脂成形品において、個々の凸部31を、微小凹凸部を有する第一の傾斜面4と平坦な面を有する第二の傾斜面5とを備えた構成とし、第一の面2側から進入してきた光の少なくとも一部を第一の傾斜面4の微小凹凸部41によって第二の傾斜面の平坦面51側に向かって全反射させると共に回折及び干渉させ、第二の傾斜面5の平坦面51により所定の波長の可視光を第一の面に向かって選択的に反射させることにより金属色様と共に少なくとも一色の色彩を得る。