(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
[0002] 電気活性要素は、電気的エネルギを印加することによって屈折力を変化させることができるデバイスである。電気活性要素は、2枚の基板から構築することができる。2枚の基板の間に電気活性材料を配置することができる。基板は、電気活性材料が確実に基板内に収容されて漏れ出せないような形状及びサイズとすることができる。基板の各表面上に、電気活性材料と接触する1つ以上の電極を配置することができる。電気活性材料は、電極の各々に1つ以上の電圧を印加するためのコントローラを含むことができる。電気活性要素は、コントローラに動作可能に接続された電力供給を含むことができる。電極によって電気活性材料に電気的エネルギが印加されると、電気活性材料の屈折率が変化し、これによって、例えば焦点距離又は回折効率のような電気活性要素の光学特性を変化させることができる。
【0003】
[0003] 電気活性要素は、ベースレンズと光学的に連通することができる。電気活性要素を、ベースレンズ内に埋め込むか又はベースレンズの表面に取り付けることで、電気活性レンズを形成することができる。ベースレンズは、光学基板又は従来の光学レンズとすればよい。光学基板は、レンズブランクとすることができる。レンズブランクは、レンズに整形することができる光学材料で作成されたデバイスである。レンズブランクは「フィニッシュト(finished)」とすることができる。これは、レンズブランクの外面が双方とも屈折力を有する外面に整形されていることを意味する。フィニッシュトレンズブランクの屈折力は、ゼロ又は度のない屈折力を含むいかなる屈折力とすることも可能である。レンズブランクは「セミフィニッシュト(semi-finished)」とすることも可能である。これは、レンズブランクの片面のみが屈折力を有する加工済み(finished)外面に整形されていることを意味する。レンズブランクは「未加工(unfinished)」とすることも可能である。これは、レンズブランクの外面が双方とも屈折力を有する表面に整形されていないことを意味する。未加工又はセミフィニッシュトのレンズブランクの未加工表面は、フリーフォーミング(free-forming)として知られる製造プロセスによって、又はもっと伝統的な表面加工及び研磨によって加工することができる。フィニッシュトレンズブランクの周縁部には、眼鏡フレームに収まるような整形、エッジング、又は変更は施されていない。
【0004】
[0004] また、電気活性要素を、従来の光学レンズ内に埋め込むか又は従来の光学レンズの表面に取り付けることで、電気活性レンズを形成することも可能である。従来の光学レンズは、光を集めるか又は発散させるいずれかのデバイス又はデバイスの一部である。レンズは屈折性又は回折性とすることができる。レンズは、一方又は双方の表面を凹状、凸状、又は平面状とすることができる。レンズは、球形、円筒形、プリズム形、又はそれらの組み合わせとすることができる。レンズは、光学ガラス、プラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス及び樹脂の複合物、又は異なる光学グレードの樹脂もしくはプラスチックの複合物で作成することができる。レンズは、光学要素、光学プリフォーム、光学ウェハ、フィニッシュトレンズブランク、又は光学部品と称することができる。光学業界内では、(度のない又は屈折力なしのものとして知られる)屈折力がゼロのデバイスであっても、これをレンズと称する場合があることを注記しておく。従来の光学レンズは、単焦点レンズ又は多焦点レンズ、例えば累進屈折力レンズ(Progressive Addition Lens)又は2焦点もしくは3焦点レンズ等とすればよい。
【0005】
[0005] 電気活性要素は、電気活性レンズの全視認領域又はその一部のみに配置することができる。電気活性レンズを眼鏡フレームに合うようにエッジングすることを可能とするため、電気活性要素は、光学基板又は従来の光学レンズの周縁部から離間させることができる。電気活性要素は、レンズの上部、中央部、又は下部の近くに配置することができる。電気活性要素は、それ自体で光を集束することができ、光学基板又は従来の光学レンズと組み合わせる必要はないことに留意すべきである。
【0006】
[0006] 電気活性要素は、第1の屈折力と第2の屈折力との間で切り換えることができる。電気活性要素は、不活性化状態において第1の屈折力を有すると共に、活性化状態において第2の屈折力を有することができる。電気活性要素の電極に印加される1つ以上の電圧が第1の所定の閾値未満である場合、電気活性要素は不活性化状態となり得る。電気活性要素の電極に印加される1つ以上の電圧が第2の所定の閾値を超えている場合、電気活性要素は活性化状態となり得る。あるいは、電気活性要素は、第1の屈折力と第2の屈折力との間で連続的な又は実質的に連続的な屈折力の変化を与えることができるように、その屈折力を「調整(tune)」することができる。このような実施形態では、電気活性要素は、不活性化状態において第1の屈折力を有し、活性化状態において、第1の屈折力よりも所定量だけ大きい第3の屈折力と第2の屈折力との間の屈折力を有することができる。
【0007】
[0007] 電気活性レンズを用いて、眼の従来の異常又は従来にない異常を矯正することができる。矯正は、電気活性要素によって、光学基板又は従来の光学レンズによって、又はこれら2つの組み合わせによって行うことができる。眼の従来の異常には、近視、遠視、老眼、及び乱視等の低次収差が含まれる。眼の従来でない誤差には、眼の層(ocular layer)の不規則性によって生じ得る高次収差が含まれる。
【0008】
[0008] 電気活性要素は液晶を含むことができる。液晶は電気活性レンズに特に適している。その理由は、液晶を通る電界を発生させることで液晶の屈折率を変更可能であるからである。最後に、ディスプレイ用途向けのいくつかの市販の液晶の動作電圧は、典型的に5ボルト未満である。更に、いくつかの液晶のバルク抵抗率は10
11Ωcm以上のオーダーであり、これによって電力消費が低減する。
【0009】
[0009] 眼科用途向けの電気活性レンズ技術の開発では、成功のために重要ないくつかの技術要件がある。そのような要件の1つは、故障が発生した場合に電気活性レンズのユーザを危険な状況に置いてはならないことである。このような要件はフェールセーフ動作として知られている。例えば、ユーザが、老眼の矯正用に設計された電気活性眼鏡レンズを有する場合がある。老眼は、加齢に伴って人の眼の水晶体の調節が低下していくことである。この調節の低下によって、まず近距離の物体に焦点を合わせることができなくなり、後には中間距離の物体に焦点を合わせることができなくなる。ユーザの電気活性眼鏡レンズにおいて、従来の光学部品は、ユーザの遠距離の屈折異常がある場合にこれを矯正することができる。電気活性要素は、活性化されると、ユーザの近距離及び/又は中間距離の屈折異常を矯正するために追加の屈折力を与えることができる。ユーザが運転等の遠距離の作業に従事している場合、電気活性要素は不活性化されるので、ユーザに適正な遠距離矯正が行われる。ユーザが読書又はコンピュータ画面を見る等の近距離又は中間距離の作業に従事している場合、電気活性要素は活性化されるので、ユーザに適正な近距離矯正が行われる。もしもユーザが車を運転している最中に電気活性眼鏡レンズの電源又はコントローラが故障した場合には、ユーザに適正な遠距離矯正が行われるように、電気活性要素をデフォルトで不活性化状態に設定可能であることが非常に重要である。
【0010】
[0010] 電気活性レンズ技術の第2の要件は、電気活性レンズが、集束しようとする光の偏光に不感受性(insensitive)でなければならないことである。光は、光波の伝搬方向に垂直に振動する電磁界ベクトルから成る横波である。所与のフィールドベクトルが時間と共にたどる経路(ほとんどの光学部品では電界ベクトルのみを考慮する)は、偏光状態と考えることができる(線形の経路では直線偏光、円形の経路では円偏光等)。ほとんどの照明源(例えば太陽、白熱灯、及び蛍光灯)から発した光は、非偏光、又は電界ベクトルの方向が時間と共にランダムに振動するランダム偏光と言うことができる。ランダムな振動にもかかわらず、いずれかの所与の時点で電界ベクトルは、完全に偏光した光で発生し得るように、2つの直交ベクトル成分に分かれる場合がある。当技術分野において周知のように、これらのベクトル成分は一例として、それら自身が直線偏光して、デカルト式(Cartesian sense)に直交するか、又は、円偏光して、右回り及び左回りに伝搬する点で直交することがある。他の例においては、電界ベクトルが、楕円偏光(円形偏光はその特別な形態である)の2つの直交成分に分かれる場合もある。
【0011】
[0011] 有効な電気活性レンズ技術は、光の偏光に不感受性でなければならない。すなわち、いかなる偏光状態の光でも集束することができなければならない。しかしながら、ほとんどの液晶材料は複屈折性(屈折率の異方性を示す)であり、そのため高度に偏光感受性(sensitive)である。異なる偏光状態の光波が複屈折媒体中を伝わると、それらの伝達方向に応じて異なる屈折率となり得る。液晶ディスプレイの用途では、偏光感受性の問題に対処するため、ダイクロイック偏光フィルムを用いて、直線偏光のみがディスプレイに入射することを可能とする。上述のように、ランダム偏光の光波は、時間と共にランダムに振動する電界ベクトルを有する。マリュスの法則によれば、直線偏光子を通過する光波の強度はcos
2(θ)に比例する。ここでθは、光波の偏光方向(電界ベクトルの方向)と直線偏光子の方向との間の角度である。入射する光波はランダムに偏光しているので、ランダムに全てのθを含む。従って、直線偏光子を通過する光波の強度はcos
2(θ)の平均値であり、50%である。このため、偏光フィルムを用いると、ランダムに偏光している入射光の50%を遮断することになり、全ての入射光を集束することが重要である電気活性レンズには魅力のない選択肢である。
【0012】
[0012] 偏光感受性は、主として利用する特定の液晶の光学特性に応じて、異なる方法で対処される。ネマチック液晶は光学的に一軸性であり、光学特性に関して単一の対称軸を有する。この軸は「ディレクタ(director)」として知られている。ディレクタの向きはネマチック液晶層のバルク全体に渡って様々であるが、配向層を用いることで、配向方向と呼ばれる単一方向を概ね指し示すようにすることができる。配向層は薄膜であり、一例に過ぎないが100ナノメートル未満の厚さとし、ポリイミド材料から構築することができる。この薄膜は、液晶と直接接触する基板の表面に塗布される。電気活性要素を組み立てる前に、ベルベット等の布で薄膜を一方向(配向方向)に磨く。磨いたポリイミド層に液晶分子が接触すると、液晶分子は選択的に基板の面内に横たわり、ポリイミド層がこすられた方向に(すなわち基板の表面に対して平行に)配向される。あるいは、配向層を感光性材料で構築することができる。これは、直線偏光のUV光に露光されると、磨いた配向層を用いた場合と同じ結果を生じる。このため、電界が存在しない場合、液晶分子のディレクタは配向方向と同じ方向を指し示す。電界が存在する場合、液晶分子は電界の方向を向く。電気活性要素では、電界は配向層に対して垂直である。このため、電界が充分に強い場合、液晶分子のディレクタは配向方向に対して垂直になる。電界が充分に強くない場合、液晶分子のディレクタは、配向方向と配向方向に垂直な方向との間のどこかの方向を指し示す。
【0013】
[0013] 一軸光学材料は、2つの固有の屈折率、すなわち常屈折率(n
o)及び異常屈折率(n
e)を有する。一軸光学材料の複屈折Δnは、Δn=n
e−n
oと定義される。液晶のディレクタに平行な方向に伝わる光波は、光波の偏光状態とは無関係に常屈折率(n
o)を有する。これは、当技術分野において周知のように、光波が、電界(屈折率のために位相遅延となる波の部分)が伝搬方向に垂直な方向に振動する横波であるからである。しかしながら、他のいずれかの経路に沿って伝わる光波は、n
oの値とn
eの値との間の屈折率を有する。この屈折率の正確な値は、光波の偏光状態及び材料を通る経路に依存する。上述のように、一軸材料が配向層と接触していて電界が印加されていない場合、一軸材料のディレクタは配向方向と同じ方向である。従って、一軸材料層に対して垂直な方向に伝わる(このためディレクタと平行に偏光している)入射光波は、入射光波の偏光状態に応じて、n
oの値とn
eの値との間の屈折率を有する。電界が強くなると、材料のディレクタは、配向方向と配向方向に垂直な方向との間のどこかを指し示し始める。一軸材料層に対して垂直な方向に伝わる入射光波は、もはや材料のディレクタに対して平行に偏光しておらず、ディレクタに垂直でもない。従って、この光波はその偏光状態に応じて異なる屈折率を有する。電界が充分に強い場合、液晶分子のディレクタは配向方向に垂直となる。この場合、入射光波はディレクタ及び印加電界に平行な方向に伝わると共に、入射光波はディレクタ及び印加電界に垂直な方向に偏光される。この状況では、光波はその偏光状態とは無関係に常屈折率(n
o)を有する。
【0014】
[0014] 電気活性レンズは、レンズの集束力(focusing power)を変化させる能力を有する。レンズの集束力の変化は、電気活性要素の電気活性材料の屈折率を変えることによって達成される。しかしながら、一軸材料の屈折率を、n
oとn
eとの間の意図する屈折率に変化させることは、偏光感受性である。上述のように、全ての非偏光光波は直線偏光であると考えることができ、偏光の変化の方向は時間と共にランダムに変化する。このため、ランダムに偏光した光の50%のみが直線偏光子を通過するのと同じ理由で、入射するランダム偏光の光のうち、意図する屈折率となるのは50%のみである。従って、非偏光の周囲光が存在する状態で動作する電気活性レンズが単一のネマチック液晶層から構築されている場合、これは入射光の半分しか集束しない。この結果、着用者の視力が許容できないほど大幅に低下してしまう。
【0015】
[0015] 全ての入射光を集束するネマチック液晶を用いた偏光不感受性電気活性レンズでは、通例、連続的に配置した2つの液晶層であって、これらの層の配向方向が相互に直交するように構成したものを用いる必要がある。偏光した光は2つの直交成分に分けられるので、配向方向を直交した向きにすることで、どんな偏光の光の直交成分でも、第1の液晶層又は第2の液晶層のいずれかによって適正に集束することが保証される。この手法の欠点は、レンズを製造し動作させるための要件(例えば材料、電気的接続、及び電力消費)が事実上2倍になることである。
【0016】
[0016] 電気活性レンズ技術の第3の要件は、電力消費をできる限り小さくしなければならないことである。上述のように、2つのネマチック液晶層の使用は、電力要件が事実上2倍になるので、魅力的な選択肢ではない。同様に、Nishioka等により米国特許第7,009,757号に記載されたような、単一の偏光不感受性ポリマー分散液晶層は、眼鏡レンズの用途では動作電圧が極めて高いので望ましくない。
【0017】
[0017] 電気活性レンズ技術の第4の要件は、レンズ当たりの電気的接続の数を最少に抑えなければならないことである。理想的には、電気的接続の数は2に制限されるべきである。すなわち、1つはゼロ電圧基準(一般的には「接地」と称される)を与えるため、もう1つはゼロDCバイアス時間変動電圧(すなわち、DCオフセットが存在しないように、時間平均電圧がゼロである)を与えるためのものである。これは、単一の偏光不感受性ポリマー分散液晶層によって達成可能であるが、この液晶の動作に必要な電圧のために、眼鏡レンズでこの技術を用いることは不可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[0042] いくつかの実施形態では、液晶材料は偏光不感受性であり、低い動作電圧要求を有する。いくつかの実施形態では、本発明の液晶材料は電気活性要素に含ませることができる。いくつかの実施形態では、本発明の電気活性要素は、550nm未満の波長、好ましくは青色光スペクトル内において、液晶の平均屈折率に等しい屈折率を有する基板を含む。本発明の電気活性要素は、フェールセーフとすることができ、動作のために必要な電気的接続は2つのみであり得る。いくつかの実施形態では、本発明の電気活性要素は、静的電気活性レンズに含むことができる。静的電気活性レンズは、近視、遠視、乱視、老眼、及び高次収差等の眼の屈折異常を少なくとも部分的に矯正することができる。電気活性要素は、上述の屈折異常のいずれか又は全てを少なくとも部分的に矯正することができる。いくつかの実施形態では、電気活性レンズは1個の眼鏡に組み込むことができる。
【0032】
[0043] いくつかの実施形態では、液晶材料はコレステリック液晶の一種である。以下で説明するように、コレステリック液晶材料はネマチック液晶ホストを含むことができる。コレステリック液晶材料は、ネマチック液晶と同様に、光学的に一軸性であり、従って複屈折性である(すなわちそれらは、常(n
o)屈折率及び異常(n
e)屈折率の値によって特徴付けられる)。しかしながら、コレステリック液晶では、ディレクタは材料の厚さ方向に渡ってらせん状に回転する。ディレクタのらせん状の回転は、回転軸、掌性(handedness)(右又は左のいずれか)、及び「ツイストピッチ」pによって特徴付けられる。ツイストピッチは、ディレクタが360度回転し終わるまでの回転軸に沿った長さとして定義される。ツイストピッチと同等の波長を有し、液晶のディレクタに垂直な方向に伝わる(従ってディレクタに平行な方向に偏光している)光波は、「平均」屈折率値n
avgとなる。ここでn
avg=(n
o+n
e)/2である。n
avgの値は入射光波の偏光状態に対して実質的に一定であるので、コレステリック液晶材料は偏光不感受性である。配向層に垂直な方向に印加した電界が存在する状態では、材料のディレクタのほとんどは電界と一列に並び、これによってディレクタのらせん形は効果的にほどかれる。このため、ディレクタの回転軸に沿って伝わる光波は、平均値(n
avg)と常値(n
o)との間で屈折率の値が連続的な偏光不感受性の変化を受ける。電界が充分に強い場合、コレステリック液晶材料のディレクタは印加電界と実質的に平行となり、コレステリック液晶材料層に垂直な方向に伝わる光波は常値(n
o)の屈折率となる。
【0033】
[0044] コレステリック液晶材料が配向層に接触していて、電界が印加されていない場合、配向層とコレステリック液晶材料との間の界面における材料のディレクタは、配向方向と同じ方向になる。従って、コレステリック液晶材料層に垂直かつ回転軸に平行な方向に伝わる入射光波は、入射光波の偏光状態とは無関係に、n
avgと同等の屈折率となる。電界が強くなると、材料のディレクタは、配向方向と配向方向に垂直な方向との間のどこかを指し示し始め、入射光波は、その偏光状態とは無関係に、平均値(n
avg)と常値(n
o)との間の屈折率となる。電界が充分に強い場合、液晶分子のディレクタは配向方向に垂直となる。この場合、コレステリック液晶材料層に垂直かつ回転軸に平行に伝わる入射光波は、その偏光状態とは無関係に、常屈折率(n
o)となる。
【0034】
[0045]
図1は、電気活性要素110が電気活性レンズ100内に埋め込まれている実施形態を示す。電気活性要素はコレステリック液晶材料を含むことができる。電気活性レンズは、従来の光学レンズ又は光学基板から形成することができる。
【0035】
[0046]
図2a〜
図2bは、電気活性要素110の実施形態の詳細図を示す。電気活性要素は、間にコレステリック液晶材料130を有する2枚以上の光学的に透過性の基板120から構築することができる。基板は、コレステリック液晶材料の薄い層を閉じ込めるように形成することができる。層の厚さは、例えば100μm未満とすることができるが、10μm未満であると好ましい。
図2aでは基板を実質的に平坦かつ平行に示し、
図2bでは基板を実質的に湾曲していて平行なものとして示す。基板は、電気活性レンズの曲率に合致するように湾曲させることができる。基板は、既知の実質的に等しい屈折率(n
sub)を有する。基板は、コレステリック液晶材料に接触している側に、光学的に透過性の電極140又は150をコーティングすることができる。光学的に透過性の電極は、液晶に電界を印加するために用いられ、例えば既知の透過性の伝導性酸化物(ITO等)又は伝導性有機材料(PEDOT:PSS又はカーボンナノチューブ)のいずれかから成ることができる。光学的に透過性の電極層の厚さは、例えば1μmとすることができるが、0.1μmであると好ましい。基板の最大横寸法は、例えば10mmから80mmのオーダーとすることができる。しかしながら、基板は、コンタクトレンズ又は眼内レンズ等の眼鏡レンズ以外の眼科用途では、もっと小さくすることも可能である。基板のサイズ及び構成は、電気活性眼鏡レンズの周縁部を、特定の眼鏡レンズフレームに収まるようにカットすること(エッジング)を可能とし、同時にコレステリック液晶材料を前記基板の間に確実に閉じ込めることができるようなものである。
【0036】
[0047] いくつかの実施形態では、電気活性要素は、従来の光学レンズ又は光学基板とは物理的に別個の基板から組み立てることができる。これらの実施形態では、基板の厚さは、例えば100μmより大きいが1mm未満であり、好ましくは250μmのオーダーとすることができる。他の実施形態では、基板の一方がフィニッシュト眼鏡レンズの部分を形成することができ、このため一方の基板を他方よりも実質的に厚くすることができる。これらの実施形態では、例えば、フィニッシュト電気活性眼鏡レンズの一部を形成する基板は、1mmから12mmのオーダーの厚さとすることができる。他方の基板の厚さは、100μmより大きいが1mm未満とし、好ましくは250μmのオーダーとすることができる。
【0037】
[0048]
図3が示す実施形態では、電気活性要素220が、概ね平滑な表面を有する第1の基板220とパターニングされた表面トポグラフィを有する第2の基板230との間に位置付けたコレステリック液晶材料210を含む。コレステリック液晶材料に対向する2枚の基板の表面は各々、単一の光学的に透過性の電極240及び250がコーティングされている。第2の基板のパターニングされた表面は、所定の深さdを有する表面レリーフ光学部品である。パターニングされた表面は、屈折性(表面レリーフ屈折光学部品)又は回折性(表面レリーフ回折光学部品)とすればよいが、屈折性の方が好ましい。表面レリーフは、多数の幾何学的形状に製造することができるが、
図3では、老眼すなわち+0.00Dから+3.00D以上を矯正するのに適した加入屈折率を有する表面レリーフ屈折光学部品である。
【0038】
[0049] 電気活性要素に、第1の所定の閾値より低い第1の電圧が印加された場合、この要素は、実質的に屈折力を与えない不活性化状態となることができる。換言すると、第1の所定の閾値より低い電圧が印加された場合(又は実質的に電圧が全く供給されない場合)、コレステリック液晶材料は、基板の屈折率(n
sub)と実質的に同じ屈折率(n
avg)を有することができる。この場合、電気活性要素の屈折率は、その厚さに渡って実質的に一定であり、屈折力の変化はない。充分な電圧が印加され、これにより生じた電界と平行にコレステリック液晶材料のディレクタが配向された場合(電圧は第2の所定の閾値より高い)、電気活性要素は、光学加入屈折率を与える活性化状態となることができる。換言すると、第2の所定の閾値より高い電圧が印加された場合、コレステリック液晶材料は、基板の屈折率とは異なる屈折率(n
o)を有することができる。この屈折率の差(n
oとn
subとの差)により、液晶の厚さに渡って光学位相遅延が発生する。この位相遅延は、d(n
sub−n
o)に等しい。最大の回折効率(すなわち屈折要素を用いて集束される入射光の割合)のためには、波長λの全ての入射光が焦点において建設的に干渉する必要がある。λは、電気活性要素が集束させるように設計された光の波長である。これを実現するため、焦点で集束される光は同相でなければならない。各屈折ゾーンでの位相遅れが全波長(λ)の整数の倍数である場合、全ての光は焦点において同相であり、電気活性要素は高い回折効率を有する。このため、d(n
sub−n
o)=λの場合、波長λの入射光は高い回折効率で集束される。
【0039】
[0050] 電気活性要素が屈折によって屈折力を生成する本発明の実施形態(例えば表面レリーフ光学部品を用いる)では、まず、活性化状態における所望の屈折力を決定する。次いで、曲率半径Rを、式R=(n
sub−n
o)/(所望の屈折力)を満足させるように選択する。複屈折材料と光学的に連通している屈折光学部品は、光の直交偏光成分について異なる屈折率を有する。この結果、2つの異なる焦点距離がもたらされる。焦点距離の一方は設計上の焦点距離であり、他方の焦点距離は所望でない焦点距離である。屈折光学部品の集束効率は、所望の焦点距離に屈折される入射光の割合として求めることができる。
【0040】
分散の類似性に基づいた材料選択
[0051] コレステリック液晶材料は、本質的にコレステリック性(すなわちキラルもしくはツイスト)であるか、又はネマチック液晶をキラルツイスト剤と混合することにより形成される。後者の手法を用いる場合、得られたコレステリック液晶材料は、その形成に用いられたネマチック液晶と同一の特性の多くを有する。例えば、得られたコレステリック液晶材料は、同一の屈折率分散を有する。また、得られたコレステリック液晶材料は、その形成に用いられたネマチック液晶と同一の常屈折率及び異常屈折率を有する(が、これはもはやコレステリック性であるので、屈折率の事実上の変化はn
oとn
subとの間である)。いくつかの実施形態では、コレストリック液晶よりも多くのネマチック材料が商業的供給源から入手可能であり、従って後者の手法の方が設計の柔軟性が高くなるので、後者の手法が好ましい。
【0041】
[0052] ネマチック液晶の選択は、3つの主な要件によって支配される。液晶のスイッチング時間が厚さに関して少なくとも2次であることは周知である。従って第1の要件は、液晶が、可能な最小のdの値について、上述の高回折効率に関する条件d(n
sub−n
o)=λを満足させることである(同様に、屈折性の動的電気活性光学部品の場合は、液晶層の中央部又は縁部のいずれかの厚さを最小に抑えるために、屈折表面について可能な最大の曲率半径Rを用いる必要がある)。これは、できる限り大きい複屈折(Δn=n
e−n
o)の液晶を要求する。コレステリック液晶は、ネマチック液晶に比べて、屈折率に関するダイナミックレンジが小さい(n
avg−n
o<n
e−n
o)。このため必然的に、高回折効率の条件を満足させるためにdの値を大きくする必要がある。従って、第2の要件は、ネマチック液晶ができる限り大きい複屈折を有することである。第3の要件は、不活性化状態において液晶が、できる限り基板の屈折率分散と厳密に一致する屈折率分散(波長λの関数としての屈折率)を有することである。このため、n
avgの分散は、できる限りn
subの分散と厳密に一致しなければならない。これが当てはまらない場合、不活性化状態において、広範囲の波長に渡ってn
avgは実質的にn
subと等しくなく、多少の望ましくない集束が生じる。
【0042】
[0053] 本発明の実施形態では、市販のネマチック液晶BL037(Merck製)が、極めて大きい複屈折(n
e=1.8080、n
o=1.5260、Δn=0.2820)を有するので、これを使用可能である。あるいは、ネマチック液晶BL036、BL038、BL087、BL093、BL111、TL213、TL216、E7、E63、ML−6621−000、MLC−6621−100、ZLI−5049−000、及びZLI−5049−100(これらは全てMerck製)を使用可能である。しかしながら、本発明の実施形態において使用可能な全てのネマチック液晶を列挙することは不可能であることは理解されよう。従って、本発明の実施形態では、約0.20よりも大きい複屈折Δnを有するならば、いかなるネマチック液晶でも使用可能である。
【0043】
[0054] このネマチック液晶に対してキラルツイスト剤を加えて、コレステリック液晶材料とする。キラルドーパントは、ネマチック液晶に誘発する掌性(左又は右)によって、及び、ヘリカルツイストパワー(helical twisting power)により定量化されるツイスト強度によって適切に選択される(qualify)。ヘリカルツイストパワーは、100/(P*C)と定義される。ここでPは、キラルドーパントにより誘発される、(ミクロン単位で測定された、液晶が360度回転し終わるまでの)ツイストピッチであり、Cは、キラルドーパントの混合物中の重量パーセントである。ツイストピッチは、左回りの場合は負で示され、右回りの場合は正で示されることに留意すべきである。また、キラル剤は、Merckから入手可能であり、右回りツイストを誘発するための材料(CB15、ZLI−3786、ZLI−4572、MLC−6248)及び左回りツイストを誘発するための材料(C15、ZLI−811、ZLI−4571、MLS−6247)を含む。表1は、上述の液晶のためのヘリカルツイストパワーの典型的な値を示す。しかしながら、示した値は、採用する特定のキラルドーパント及びこれを混合するネマチック液晶の双方に依存するので、典型的な値である。本発明の実施形態において使用可能な全てのキラルドーパントを列挙することは不可能であることは理解されよう。従って、いくつかの実施形態では、約1.1を超える大きさ(絶対値)のヘリカルツイストパワーを有するならば、いかなるキラルドーパントも使用可能である。あるいは、約1.8を超える大きさ(絶対値)のヘリカルツイストパワーを有するならば、いかなるキラルドーパントでも使用可能である。あるいは、約5.9を超える大きさ(絶対値)のヘリカルツイストパワーを有するならば、いかなるキラルドーパントも使用可能である。あるいは、約8.1を超える大きさ(絶対値)のヘリカルツイストパワーを有するならば、いかなるキラルドーパントも使用可能である。
【表1】
【0044】
[0055] 材料ZLI−4571は、濃度を上げてBL037に溶解することで、誘発するコレステリック液晶材料のツイストピッチpの値を小さくすることができる。上述のキラル剤のいずれも使用可能であるが、いくつかの実施形態では、キラルZLI−4571が他の材料よりも低濃度で小さいpの値を誘発するので好適であり得ることに留意すべきである。
【0045】
[0056] いったんコレステリック液晶材料が選択された後、基板材料の選択は、n
avbの値によって決定される。ネマチック液晶BL037では、n
avb=1.6670である。この値に厳密に一致する屈折率を有する光学材料には、A09(n
sub=1.66、Brewer Science製)、MR−10(n
sub=1.67、Mitsui製)、及びRadel R−5000 NT(n
sub=1.675、Solvay製)が含まれる。Brewer scienceからの材料A09は、n
subの値が広範囲の波長に渡ってBL037のn
subの値と厳密に一致するので、すなわちこれら2つの材料の屈折率分散が同様であるので、好適な選択肢である。
図4は、可視スペクトルにおけるBL037及びA09の平均屈折率(n
avg)の分散を示す。
【0046】
[0057] コレステリック液晶材料及び基板材料を選択したら、コレステリック液晶材料の表面レリーフ光学構造の深さ(又はゾーン高d)を選択しなければならない。n
sub及びn
oは既知であるので、ゾーン高は、意図する動作波長λにおいて高回折効率の条件d(n
sub−n
o)=λを満足させるように選択する。意図する動作波長は通常550nmであり、これは最大の人の明所視応答の波長である。このステップは、電気活性要素の活性化状態の回折効率を決定する。これは、明確な視覚を保証するためにできる限り大きくするべきである(好ましくは90%超)。式d(n
sub−n
o)=λで示されるものとはわずかに異なるゾーン高によって、より高い回折効率を達成可能であることに留意すべきである。より高い回折効率は、上述の式で決定した値の10%内のゾーン高を求めることで、実験的に決定することができる。一例に過ぎないが、表面レリーフ回折光学部品が材料A09から製造され、コレステリック液晶材料がBL037から作成される場合、理想的なゾーン高は約4.0μmである。
【0047】
[0058] コレステリック液晶材料のツイストピッチは、残留の不活性化状態回折効率(すなわち不活性化状態における残留集束)を決定する。この値は、できる限り低くするべきであり、例えば約10%未満であるが、好ましくは約5%未満である。活性化状態及び不活性化状態における電気活性要素の回折効率又は集束効率は、実験的に決定される。所与のツイストピッチを達成するのに必要なキラル剤の量は、ネマチック液晶と既知の濃度のキラル剤との様々な混合物を発生させることで、容易に実験的に求められる。コレステリックのツイストピッチの決定は、くさび形セルを用いて達成可能である。くさび形セルの使用は、当技術分野において周知の技法である。この場合、コレステリック液晶層は、配向層でコーティングされた2枚の非平行な基板の間に挟まれ、基板間の角度及び距離は既知である。くさび形セルでは、コレステリック液晶は、セルの厚さが変わるにつれてドメインの不連続点を示す。不連続点間の距離は、セルの厚さがコレステリック液晶のツイストピッチの4分の1変化する距離に相当する。不連続点間の距離の測定値、及び2枚の基板間の既知の角度を用いると、コレステリック液晶のツイストピッチを決定するには単に三角法を用いればいいことになる。
【0048】
[0059] 回折効率は、特定の回折次数で現れる入射光の割合である。いくつかの実施形態による電気活性要素では、回折効率は、設計された焦点距離で集束される入射光の割合である。回折効率の測定を行うには、回折要素に光を通過させ、各回折次数のパワーの量を(光電子屈折力計を用いてワット単位で)測定し、全ての回折次数のパワーを合計し、次いで、設計された焦点距離に対応する回折次数のパワーを合計パワーで除算する。この測定を要素の下流で行うので、全ての伝送損失が明らかになる。これは、レンズ面積、位置、及び波長の関数として実行可能であり、従って回折光学部品を詳細に特徴付けることができるので、特に有用な方法である。回折効率は一般に、活性化状態においてできる限り高く(90%超)、不活性化状態においてできる限り低く(10%未満、好ましくは5%未満)するべきである。
【0049】
[0060] 屈折電気活性要素では、直交偏光成分間の屈折率の差によって、わずかに異なる2つの焦点距離が生じる。その一方は設計された焦点距離に相当し、他方は望ましくない焦点距離に相当する。このような場合、設計された焦点距離に屈折される入射光の割合として定義される集束効率を規定することができる。集束効率の測定を行うには、屈折要素に光を通過させ、各焦点距離のパワーを個別に(光電子屈折力計を用いてワット単位で)測定し、次いで、設計された焦点距離のパワーを合計パワーで除算する。パワーは、偏光子を用いて各焦点距離で個別に測定するので、他の焦点距離からの光を遮断することができる。集束効率は一般に、活性化状態においてできる限り高く(90%超)、不活性化状態においてできる限り低く(10%未満、好ましくは5%未満)あるべきである。
【0050】
[0061] 上述のように、コレステリック液晶材料は、ネマチック液晶及びキラルドーピング剤から生成することができる。所与の量のネマチック液晶の質量を測定し、この液晶の質量及びキラルドーパントの所望の重量パーセントに基づいて、キラルドーパントの適切な質量を決定する。換言すると、6%のキラル剤が望ましい場合、94グラムのネマチック液晶を6グラムのキラルドーピング剤と組み合わせればよい。所望のキラルドーパント質量を液晶に加え、混合機械によって、又は磁気撹拌棒を加えて混合物を磁気撹拌板上に置くことで、物理的に混合することができる。
【0051】
[0062] いくつかの実施形態では、
図5に示すように、電気活性要素300は2枚の基板310を含み、これらは、実質的に一定の厚さが間に存在するように配置されている。これらの基板間にコレステリック液晶材料320を配置することができる。このような実施形態では、表面レリーフ光学部品は含まれないことに留意すべきである。表面レリーフ光学部品が存在しない場合、パターニングされた又は画素化された(pixilated)電極330を、別の単一の電極340と組み合わせて用いる。パターニングされた又は画素化された電極に、異なる大きさの複数の電圧を印加することができる。これらの電極は、電極に電圧が印加された場合にコレステリック液晶材料層内で得られる偏光不感受性屈折率プロファイルの作用で、回折又は屈折によって光を集束するように構成することができる。
【0052】
[0063] パターニングされた電極は、電気活性要素において用いられる電極であり、電極に適切な電圧が印加されると、電極のサイズ、形状、及び配置とは無関係に、液晶によって生成される屈折力が回折により生じるようになっている。例えば、同心円状のリング形電極を用いることによって、液晶内で屈折光学効果を動的に生成することができる。画素化電極は、電気活性要素において用いられる電極であり、電極のサイズ、形状、及び配置とは無関係に、個別にアドレス指定可能である。更に、電極が個別にアドレス指定可能であるので、電極にはどのような任意のパターンの電極でも印加することができる。例えば画素化電極は、デカルトアレイ(Cartesian array)に配置された正方形もしくは矩形、又は六角形アレイに配置された六角形とすることができる。画素化電極は、グリッドに収まる規則的な形状とする必要はない。例えば画素化電極は、全てのリングが個別にアドレス指定可能である場合、同心円状リングとすることができる。同心円状の画素化電極は、個別にアドレス指定して回折光学効果を生成することができる。
【0053】
[0064] いくつかの実施形態では、電気活性要素を、(例えば成形又は成型(casting)によって)屈折眼鏡レンズ又は光学基板内に植え込んで電気活性レンズを形成することができる。眼鏡レンズ又は光学基板は、電気活性要素の基板と実質的に同じ屈折率を有することで、加工済みの電気活性レンズにおいて電気活性要素の縁部を目に見えなくすることができる。電気活性要素基板がA09(n
sub=1.66、Brewer Science製)から製造されるいくつかの実施形態では、市販の眼科レンズ樹脂MR−10(n=1.67、Mitsui製)が適切な選択肢であろう。あるいは、他の材料を用いることも可能である。所望の場合、屈折眼鏡レンズ又は光学基板の屈折率分散を、電気活性要素の基板の屈折率分散に一致させることができる。
【0054】
[0065] いくつかの実施形態では、電気活性要素を小型化して、電気活性コンタクトレンズ、電気活性角膜インレー(in-lay)、電気活性角膜オンレー(on-lay)、又は電気活性眼内レンズ内で利用することができる。電気活性要素は、累進屈折力レンズ又は2焦点もしくは3焦点等の他のいずれかの多焦点レンズと組み合わせることも可能である。電気活性要素は、単焦点レンズと組み合わせてもよい。
【0055】
[0066] いくつかの実施形態では、以下の順序で、屈折電気活性要素の材料選択及びこれらの材料の特性の選択を示す。1)高い複屈折を有するネマチック液晶を選択する。2)pの小さい値を誘発するのに必要な濃度に基づいてキラルツイスト剤を選択する。3)広範囲の波長に渡ってネマチック液晶の平均屈折率(n
avg)に一致する屈折率(n
sub)を有する電気活性基板材料(すなわち2つの材料の屈折率分散が実質的に等しい)を選択する。4)動作波長λを選択する。5)d(n
sub−n
o)=λを満足させることに基づいてゾーン高dを選択する。6)不活性化状態における低回折効率及び低動作電圧を生じる所望のpを達成するためにネマチック液晶に加えるキラルドーピング剤の重量パーセントを実験的に決定する。
【0056】
[0067] いくつかの実施形態では、以下の順序で、屈折電気活性要素の材料選択及びこれらの材料の特性の選択を示す。1)高い複屈折を有するネマチック液晶を選択する。2)pの小さい値を誘発するのに必要な濃度に基づいてキラルツイスト剤を選択する。3)広範囲の波長に渡ってネマチック液晶の平均屈折率(n
avg)に一致する屈折率(n
sub)を有する電気活性基板材料(すなわち2つの材料の屈折率分散が実質的に等しい)を選択する。4)動作波長λを選択する。5)R(n
sub−n
o)/(所望の屈折力)を満足させることに基づいて曲率半径Rを選択する。6)不活性化状態における低集束効率及び低動作電圧を生じる所望のpを達成するためにネマチック液晶に加えるキラルドーピング剤の重量パーセントを実験的に決定する。
【0057】
[0068] これらのステップは順序通りでなく実行可能であることは理解されよう。例えば、基板の前にネマチック液晶を選択するのは、はるかに多くの基板材料が市販されているからである。このため、所与の基板材料に一致する屈折率及び屈折率分散特性を有するネマチック液晶を見つけるよりも、所与のネマチック液晶に一致する屈折率及び屈折率分散特性を有する基板材料を見つける方が容易である。しかしながら所望の場合には、ネマチック液晶の前に基板材料を選択することも可能である。
【0058】
クロスオーバ波長に基づいた材料選択
[0069] いくつかの実施形態では、基板及び液晶の材料は同様の屈折率分散を有さず、材料はクロスオーバ波長に基づいて選択することができる。本明細書で用いる場合、クロスオーバ波長は、基板のn
sub及び液晶のn
avgが等しい波長である。液晶のn
avgは、不活性化状態における液晶の屈折率である。いくつかの実施形態では、上述した、(引用によりその全体が本願にも含まれる)米国特許第7,728,949号における方法は、フェールセーフ動作が可能である動的眼鏡レンズの電気活性光学部品を生成する光学材料を選択するため、クロスオーバ波長を550nmである場合がある。いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長550nmにおいて、基板のn
sub及び液晶のn
avgは1.66±0.03とすることができる。いくつかの実施形態では、波長550nmにおける1.66±0.03の屈折率は、眼科レンズに適切な光学材料としては高く、波長の関数としての屈折率分散の差は顕著であり、材料ごとに変動し得る。
【0059】
[0070] 一例として、
図6は、基板材料MR−10(Mitsui製)の波長に依存する屈折率分散を示す。
図6からわかるように、屈折率分散は、400nmから700nmの波長では約0.05である。n
subは、550nmの波長では約1.67である。
図7は、高複屈折ネマチックホストを有し、550nmの波長でn
avgが約1.67である液晶の、常屈折率、異常屈折率、及び平均(又は平均値(mean))の屈折率の分散を示す。平均値屈折率及び平均屈折率という用語は交換可能に用いられる。
図7からわかるように、400nmから700nmの波長では、n
avgの分散は約0.12である。
図8に示すように、MR−10の屈折率分散を液晶の平均屈折率の分散に重ねると、これらの屈折率は550nmの波長において約1.67の一致屈折率を有することがわかる(人の明所視のピークは550nmで生じる)。このため、クロスオーバ波長は550nmである。
【0060】
[0071]
図6〜
図8からわかるように、MR−10基板の屈折率分散(約0.05)及び仮説の液晶の平均屈折率分散(約0.12)は大きく異なり、これらの材料から製造される電気活性レンズの機能に影響を及ぼす場合がある。例えば、MR−10回折基板と、
図7に示したものと同様のn
avgを有するネマチック液晶ホストから配合された偏光不感受性コレステリック液晶と、を用いて電気活性レンズを製造した場合、レンズの不活性化状態はゴースト像を有することがある。いくつかの実施形態では、一次回折(設計上の焦点距離)の不活性化状態の回折効率は、可視スペクトル(450nm〜495nm)の青色領域で高く、ゴースト像を生じる可能性がある。ゴースト像は、レンズ着用者の気を散らし、視力を低下させる恐れがある。いくつかの実施形態では、ゴースト像の発生を回避するか又は最小限に抑えるため、ゼロ次以外の全ての回折次数の回折効率は不活性化状態においてゼロである。
【0061】
[0072] いくつかの実施形態では、例えば
図3の電気活性レンズのような電気活性レンズを有するデバイスは、材料の選択に基づいてゴースト像を回避するか又は最小限に抑えるように構築することができる。上述のように、電気活性レンズは活性化状態及び不活性化状態を有し得る。
【0062】
[0073] 電気活性レンズは、
図3の基板230のような回折レリーフ表面を備えた基板を有することができる。いくつかの実施形態では、基板は、550nmの波長において、屈折率が1.64以上、1.65以上、1.66以上、1.67以上、1.68以上、1.69以上、1.7以上、又は1.64から1.7までの範囲内である材料から作成することができる。いくつかの実施形態では、基板は、波長の第1の関数である屈折率を有することができる。このような基板の例は、すでに示しており、例えばMitsuiから入手可能であるMR−10を含む。
【0063】
[0074] また、電気活性レンズは、基板と光学的に連通している電気活性材料を有することができる。電気活性材料は、
図3の液晶210等の液晶とすればよい。液晶は、上述のようなネマチック液晶ホストを有することができる。いくつかの実施形態では、電気活性レンズの不活性化状態においてネマチック液晶ホストは、550nmの波長において、平均屈折率(n
avg)が1.62以上、1.63以上、1.64以上、1.65以上、1.66以上、1.67以上、1.68以上、又は1.62から1.68までの範囲内であり得る。このようなネマチック液晶ホストの一例は、例えばMerckから入手可能であるMDA−98−1602を含む。いくつかの実施形態では、ネマチック液晶ホストは、波長の第2の関数である平均屈折率を有することができる。いくつかの実施形態では、ネマチック液晶ホストの平均屈折率は、基板の屈折率とは異なる波長の関数を有する。いくつかの実施形態では、液晶は、上述のようなネマチック液晶ホストを有するコレステリック液晶材料とすることができる。コレステリック液晶材料は、偏光不感受性コレステリック液晶材料とすればよい。
【0064】
[0075] いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長が550nm未満、好ましくは青色光領域(450nmから495nm)内である場合、不活性化状態における一次回折効率は低下し、これによって着用者の視力に対するゴースト像の影響が軽減する。いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長は、550nm以下、545nm以下、540nm以下、535nm以下、530nm以下、525nm以下、520nm以下、515nm以下、510nm以下、505nm以下、500nm以下、495nm以下、490nm以下、485nm以下、480nm以下、475nm以下、470nm以下、465nm以下、460nm以下、455nm以下、450nm以下、又は450nmから550nm未満までの範囲内とすることができる。
【0065】
[0076]
図6、
図9、及び
図10は、青色領域内にクロスオーバ波長を有する例示的な液晶(MDA−98−1602)及び基板(MR−10)の対を示す。
図9は、高複屈折ネマチック液晶ホストMDA−98−1602(Merckから入手可能である)の常屈折率、異常屈折率、及び平均屈折率の分散を示す。
図6に基板MR−10の分散を示す。
図10は、MR−10の屈折率分散に液晶の平均屈折率分散を重ねて示す。クロスオーバ波長は約470nmで生じている。このように、MR−10回折基板及びMDA−98−1602ネマチックホストから配合された偏光不感受性コレステリック液晶を用いて製造した電気活性レンズでは、青色領域において一次不活性化状態回折効率が低くなり、このため着用者の視力に対するゴースト像の影響が軽減する。
【0066】
[0077] いくつかの実施形態では、500nm未満のクロスオーバ波長を有する材料選択によって、400nmから700nmまでの波長範囲に渡って基板と液晶との間の最大屈折率差を小さくすることができる。例えば
図11は、MR−10と
図10に示すような470nmのクロスオーバ波長を有するMDA−98−1602との組み合わせ、及び、MR−10と
図8に示すような550nmのクロスオーバ波長を有する
図7の仮想の液晶との組み合わせ、に関する屈折率の差(n
avg−n
sub)を示す。
【0067】
[0078] いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長未満の波長ではn
avgがn
subより大きく、クロスオーバ波長を超える波長ではn
avgがn
subより小さく、又は、クロスオーバ波長未満の波長でn
avgがn
subより大きいと共にクロスオーバ波長を超える波長ではn
avgがn
subより小さいことがある。例えば
図10は、クロスオーバ波長未満の波長でn
avgがn
subより大きく、クロスオーバ波長を超える波長ではn
avgがn
subより小さいことを示す。
【0068】
[0079] いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長における活性化状態の電気活性レンズの一次回折効率は、明確な視覚を保証するため、約90%より大きく、好ましくは約95%より大きくすることができる。いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長における不活性化状態の電気活性レンズの一次回折効率は、できる限り低く、例えば10%未満であるが、好ましくは約5%未満とすることができる。
【0069】
[0080] いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長が先に挙げた範囲内であることに加えて、基板材料は、ネマチック液晶ホストよりも高いアッベ数を有することができる。アッベ数は、屈折率に関する材料の分散(すなわち波長による屈折率の変動)の尺度である。アッベ数が高いことは、材料の分散が小さいことを示す。以下の式1は、アッベ数V
Dを定義するものである。
V
D=(n
D−1)/(n
F−n
c) (1)
ここで、n
D、n
F、及びn
Cは、フラウンホーファーDスペクトル線、Fスペクトル線、及びCスペクトル線の波長(それぞれ589.3nm、486.1nm、及び656.3nm)における材料の屈折率である。例えば
図10は、400nmから700nmまでの範囲内での基板MR−10の分散(約0.05)が、ネマチック液晶ホストMDA−98−1602(約0.114)よりも低いことを示す。従って、基板MR−10はネマチック液晶ホストMDA−98−1602よりもアッベ数が大きい。
【0070】
[0081] いくつかの実施形態では、n
sub、n
avg、又はそれら双方は、400nmから700nmまでの波長範囲に渡って低下して、400nmから700nmまでの波長範囲において、n
sub、n
avg、又はそれら双方が、400nmで最高値となり、700nmで最低値となる。いくつかの実施形態では、基板及びネマチック液晶ホストの材料は、液晶の平均屈折率(n
avg)及び基板の屈折率(n
sub)の総分散の差に基づいて選択することができる。換言すると、n
avg及びn
subの総分散の差は、n
avgの総分散からn
subの総分散をマイナスした値に等しい。n
subの総分散は、400nmにおけるn
subから700nmにおけるn
subをマイナスした値に等しい。同様に、n
avgの総分散は、400nmにおけるn
avgから700nmにおけるn
avgをマイナスした値に等しい。いくつかの実施形態では、n
avg及びn
subの総分散の差は、少なくとも0.04、少なくとも0.045、少なくとも0.05、少なくとも0.055、少なくとも0.06、少なくとも0.065、又は少なくとも0.07である。
【0071】
[0082] いくつかの実施形態では、デバイスは、回折レリーフ表面を備えた基板及びこの基板と光学的に連通している電気活性材料を有する電気活性レンズを含む。電気活性レンズは、活性化状態及び不活性化状態を有することができる。基板は、波長の第1の関数である屈折率を有することができる。電気活性材料は、波長の第1の関数とは異なる波長の第2の関数である不活性化状態の屈折率を有するネマチック液晶ホストを含むことができる。いくつかの実施形態では、青色光スペクトル内のクロスオーバ波長において、基板の屈折率及び不活性化状態における電気活性材料の屈折率は等しい。いくつかの実施形態では、基板はネマチック液晶ホストよりもアッベ数が大きく、クロスオーバ波長は550ナノメートル未満である。いくつかの実施形態では、基板の屈折率及び不活性化状態における電気活性材料の屈折率は、400ナノメートルから700ナノメートルまでに渡って低下する。いくつかの実施形態では、400ナノメートルから700ナノメートルまでの不活性化状態における電気活性材料の屈折率の変化と、400ナノメートルから700ナノメートルまでの基板の屈折率の変化との差は、少なくとも0.05である。
【0072】
[0083] いくつかの実施形態は、先に挙げた4つの要件を全て満足させる。すなわち、電気活性要素はフェールセーフである。これは、不活性化状態において回折効率又は集束効率が低いために、不活性状態では実質的に屈折率が与えられないからである。更に、電気活性要素は、偏光不感受性であり、従って全ての入射光を集束することができるコレステリック液晶材料を含む。電気活性レンズは、活性化状態において動作するのに約5ボルトしか必要とせず(いくつかの実施形態では、せいぜい約10ボルトから約15ボルトまでが必要であるが、どの場合でも必要なのは20ボルト以下である)、従って電力要件が低い(典型的に1ミリワット未満)。最後に、
図2a、
図2b、及び
図3に示した実施形態のように2つの連続的な電極を有する電気活性レンズのいくつかの実施形態では、必要な電気的接続は2つだけである。また、いくつかの実施形態では、クロスオーバ波長は550nm未満、好ましくは青色光スペクトル内である。
【0073】
[0084] 概要及び要約の項でなく、発明を実施するための形態の項が、特許請求の範囲の解釈に用いるように意図されることは認められよう。概要及び要約の項は、本発明者(複数の発明者)によって想定されるような本発明の1つ以上ではあるが全てではない例示的な実施形態を記載することができ、従って、本発明又は添付の特許請求の範囲を限定することは意図されない。
【0074】
[0085] 特定の実施形態の前述の説明によって本発明の全体的な性質が充分に明らかになるので、他の者は、必要以上の実験を行うことなく、本発明の全体的な概念から逸脱することなく、当技術分野の技能内の知識を適用することで、そのような特定の実施形態を、様々な用途に合うように容易に変更及び/又は適合することができる。従って、そのような適合及び変更は、本明細書に提示した教示及び案内に基づいて、開示した実施形態の均等物の意味及び範囲内であることが意図される。本明細書における言葉遣い又は用語は、限定でなく説明の目的のためのものであり、本明細書の言葉遣い又は用語はその教示及び案内に照らし合わせて当業者によって解釈されるものとする。