(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
欠陥検査装置の検出感度を上げるためには、検査光として用いているレーザ光の出力を上げることが有利であるが、レーザ光の出力を上げすぎると、レジスト膜への影響が従来より懸念されていた。本発明者らの検討によれば、高出力のレーザ光をレジスト膜付きマスクブランクに照射すると、例えばレジスト膜が昇華したり、目視でも確認できるような変色が発生し、このようなマスクブランクを用いて転写用マスクを製造した場合、パターン線幅の減少が確認された。
【0006】
そこで、このような不具合を防止するため、従来は、例えばレーザの照射条件を振り、レジスト膜の変色等を目視検査して、レジスト膜への影響が問題ないと判断されるレーザ照射条件を選定し、欠陥検査に適用していた。また、このような目視による評価に加え、レーザ照射後のレジスト膜を現像処理して、レーザ処理条件による現像処理後のレジスト膜厚への影響を確認することも行っていた。
【0007】
しかし、上述した従来のレジスト膜の変色等を目視検査する方法では、あくまでも主観的な評価であり、客観的な数値化ができなかった。また、レーザ照射後のレジスト膜を現像処理し、レーザ処理条件による現像処理後のレジスト膜厚への影響を確認する方法では、数値化は可能であるものの、現像処理が必要であり、手間と時間を要する評価方法であった。
【0008】
検査光として用いるレーザ光照射によるレジスト膜への影響は、膜内に落とされるエネルギーに比例すると考えられるが、このエネルギーは入射光と反射光の重ね合わせによる定在波としてみられる。この定在波は、レジスト膜の膜厚、マスクブランクの膜構成、界面の反射率などのより変化してしまう。そのため、検査光に用いるレーザ光照射によるレジスト膜への影響を確認する際、厳密には、レジスト膜付きマスクブランクを構成する各膜種、膜厚の組合わせにて評価を行う必要がある。従って、1つのレジスト膜種に対しても、その下地の薄膜の膜構成、膜種に応じた多くの評価が必要になり、また近年、マスクブランクの膜構成や膜種も多くなってきているため、従来の評価方法では対応が困難になりつつあり、レーザ光照射によるレジスト膜への影響を客観的に、かつ迅速に評価できる方法が要望されている。
【0009】
そこで本発明は、マスクブランクの欠陥検査において、検査光に用いるレーザ光照射によるレジスト膜への影響を客観的に、且つ迅速に評価でき、より具体的には検査に用いるレーザ光の出力の許容値を決定することができるマスクブランクの欠陥検査方法を提供することを第1の目的とする。
【0010】
また、本発明は、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程を有し、マスクブランクの欠陥検査において用いるレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制できるマスクブランクの製造方法、及び該マスクブランクを用いる転写用マスクの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を続け、検査光に用いるレーザ光の出力を変えたときのレジスト膜への影響を検討した結果、現像処理後のパターン線幅への影響と、未現像でのレジスト膜厚への影響とが対応するとの知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
レーザ光を検査光として用いるマスクブランクの欠陥検査方法であって、前記マスクブランクは、基板上に転写パターンとなる薄膜と、該薄膜の表面に形成されたレジスト膜とを有し、前記レーザ光の照射による前記レジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定して、前記レーザ光の出力の許容値を決定し、決定された前記レーザ光の出力の許容値の範囲内で欠陥検査を行うことを特徴とするマスクブランクの欠陥検査方法である。
【0013】
構成1の発明によれば、現像などのプロセスが必要なく、検査光に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定することで、レーザ光の出力によるレジスト膜への影響を迅速に評価することができる。そして、レーザ光の出力の許容値を決定することにより、レーザ光の出力によるレジスト膜への影響を数値化して、客観的に評価することが可能になる。つまり、構成1の発明によれば、欠陥検査に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定して、レジスト膜への影響を迅速に且つ客観的に評価することで、レーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができ、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおけるパターン線幅の減少などの問題が生じるのを防止できる。
【0014】
(構成2)
欠陥検査を行うマスクブランクとは別の同一構成の予備用マスクブランクを準備し、前記レーザ光の出力を変えて前記予備用マスクブランクを照射し、前記レーザ光の出力と、前記レーザ光の照射前後の前記レジスト膜の膜厚差との対応関係から、前記レーザ光の照射による前記レジスト膜の膜厚変化を生じる前記レーザ光の出力を求め、求めたレーザ光の出力を基に前記レーザ光の出力の許容値を決定することを特徴とする構成1に記載のマスクブランクの欠陥検査方法である。
【0015】
構成2の発明によれば、予め欠陥検査を行うマスクブランクとは別の同一構成の予備用マスクブランクを準備し、欠陥検査に用いるレーザ光の出力を種々変更して前記予備用マスクブランクを照射し、レーザ光の出力と、レーザ光の照射前後のレジスト膜の膜厚差との対応関係を求める。そして、求めた対応関係から、レーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を生じるレーザ光の出力を求め、この求めたレーザ光の出力を基に実際の検査に用いるレーザ光の出力の許容値を決定することができる。たとえば、上記のように求めたレジスト膜の膜厚変化を生じるレーザ光の出力を、検査に用いるレーザ光の出力の許容値の上限とすることができる。
【0016】
(構成3)
前記検査光として用いるレーザ光の波長が、488nm〜532nmの範囲であることを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランクの欠陥検査方法である。
構成3にあるように、検査光として用いるレーザ光の波長は、使用されるレジストの感光に寄与しない波長領域であって、欠陥検出精度の向上の観点から、例えば488nm〜532nmの範囲であることが好適である。
【0017】
(構成4)
基板上に転写パターンとなる薄膜を形成し、さらに該薄膜の表面にレジスト膜を形成する工程と、構成1乃至3のいずれかに記載のマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程とを有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
構成4にあるように、基板上に転写パターンとなる薄膜を形成し、さらに該薄膜の表面にレジスト膜を形成する工程と、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程とを有するマスクブランクの製造方法によれば、欠陥検査に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜への影響を迅速に且つ客観的に評価することで、レーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができる。
【0018】
(構成5)
前記レジスト膜の膜厚は、150nm以下であることを特徴とする構成4に記載のマスクブランクの製造方法である。
微細パターン形成の観点からレジスト膜の薄膜化が望ましいが、特に薄膜のレジスト膜における膜厚変化を偏光解析法によれば高精度で測定することが可能であるため、本発明は、レジスト膜の膜厚が、例えば150nm以下であるようなマスクブランクの製造方法に好適である。
【0019】
(構成6)
前記薄膜は、遮光膜、位相シフト膜、エッチングマスク膜、吸収体膜のうち少なくとも一つの膜を含むことを特徴とする構成4又は5に記載のマスクブランクの製造方法である。
構成6にあるように、本発明のマスクブランクにおける薄膜は、遮光膜、位相シフト膜、エッチングマスク膜、吸収体膜のうち少なくとも一つの膜を含むことが好適である。
【0020】
(構成7)
構成4乃至6のいずれかに記載の製造方法により得られたマスクブランクの前記薄膜をパターニングして転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
構成7にあるように、本発明により得られるマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、マスクブランクの欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制できるので、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおけるパターン線幅の減少などの問題が生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法によれば、欠陥検査に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜への影響を迅速に且つ客観的に評価することができ、その評価に基づきレーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係るマスクブランクの製造方法によれば、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程を有することにより、マスクブランクの欠陥検査において用いるレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができる。
また、本発明により得られるマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、マスクブランクの欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制できるので、製造される転写用マスクにおいてパターン線幅の減少などの問題が生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
[マスクブランクの欠陥検査方法]
まず、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法について説明する。
本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法は、上記構成1にあるように、レーザ光を検査光として用いるマスクブランクの欠陥検査方法であって、前記マスクブランクは、基板上に転写パターンとなる薄膜と、該薄膜の表面に形成されたレジスト膜とを有し、前記レーザ光の照射による前記レジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定して、前記レーザ光の出力の許容値を決定し、決定された前記レーザ光の出力の許容値の範囲内で欠陥検査を行うことを特徴とするものである。
【0025】
本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法において、特に特徴的な構成は、検査光として用いるレーザ光の照射による前記レジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定することにより、欠陥検査の際の前記レーザ光の出力の許容値を決定できることである。このような方法によれば、従来行われていた現像などのプロセスが必要なく、検査光に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定することで、レーザ光の出力によるレジスト膜への影響を迅速且つ客観的に評価することができ、レーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができる。
【0026】
本発明のかかる特徴的な構成は、本発明者らが、検査光に用いるレーザ光の出力を変えたときのレジスト膜への影響を検討した結果、現像処理後のパターン線幅への影響と、未現像でのレジスト膜厚への影響とが対応するとの知見を得たことに基づく。
【0027】
図3は、後述の本発明の実施例におけるレーザ出力と、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差との関係を示す図であり、
図4は、同じく本発明の実施例におけるレーザ出力と、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差との関係を示す図である。
【0028】
後述の実施例においてテスト条件等はより詳しく説明するが、基板(合成石英ガラス基板)上に、MoSiNを主成分とする遮光膜とCrNを主成分とするエッチングマスク膜の積層膜からなる薄膜を形成し、さらに該薄膜の表面に、膜厚120nmの電子線描画用ポジ型レジスト膜を形成したレジスト膜付きマスクブランクを準備した。このマスクブランクのレジスト膜に対し、例えばマスクブランク欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M6640シリーズ)の検査光に用いられているレーザ光(波長532nm)を、その出力を変えながら照射し、レーザ照射前とレーザ照射後の各レジスト膜厚を偏光解析法(エリプソメトリ方式)による膜厚計((株)フォトニックラティス製 ME−210)にて測定した。偏光解析法(エリプソメトリ方式)による膜厚計は、エリプソメトリ(物質の表面より反射する光の偏光状態の変化を解析する手法)を用い、薄膜の厚さを高速、高精度、高再現性で測定でき、且つ微小領域の測定も可能な膜厚計である。そして、上記のレーザ出力と、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差との関係を示したものが
図3である。
【0029】
一方、上記レジスト膜付きマスクブランクとは別の同一構成のマスクブランクを準備した。このマスクブランクのレジスト膜に対し、上記と同じマスクブランク欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M6640シリーズ)の検査光に用いられているレーザ光(波長532nm)を、その出力を変えながら照射した。そして、レーザ非照射領域とレーザ照射領域の各々領域に、電子線描画装置を用いて所定のラインアンドスペースパターンを描画し、描画後、所定の現像処理を行い、得られたレジストパターン線幅を測定した。そして、上記のレーザ出力と、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差との関係を示したものが
図4である。
【0030】
図3の結果から、レジスト膜厚への影響は、レーザ出力が270mW程度から確認され、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差が大きくなる。一方、
図4の結果から、パターン線幅への影響についても、レーザ出力が270mW程度から確認され、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差が大きくなる。つまり、
図3及び
図4の結果から、レーザ出力に対する、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差との関係と、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差との関係が対応していることがわかる。この結果から、検査光に用いるレーザ光の出力を変えたときのレジスト膜への影響を評価するにあたり、上記の
図4のようなパターン描画・現像処理を含む手法をわざわざとらなくても、
図3のようなレーザ照射前後のレジスト膜厚変化を偏光解析法により測定することで、実際のパターン線幅への影響を簡易、迅速に、しかも客観的に確認することが可能であることがわかる。
【0031】
本発明では、上記のとおり、検査光に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定して、欠陥検査の際のレーザ光の出力の許容値を決定するが、具体的には、以下に説明する方法が好ましい。
【0032】
予め欠陥検査を行うマスクブランクとは別の同一構成の予備用マスクブランクを準備する。
次に、欠陥検査に用いるレーザ光の出力を種々変更して上記予備用マスクブランクを照射する。そして、レーザ照射前後のレジスト膜厚変化を、偏光解析法を用いる膜厚計で測定する。
得られた測定結果から、レーザ光の出力と、レーザ光の照射前後のレジスト膜の膜厚差との対応関係を求める。つまり、上述の
図3に示す対応関係である。
【0033】
次いで、求めた対応関係から、レーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を生じるレーザ光の出力を求め、この求めたレーザ光の出力を基に実際の検査に用いるレーザ光の出力の許容値を決定することができる。たとえば、上述の
図3を参照すると、レーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化が大きくなるレーザ光の出力は、約270mWである。
【0034】
よって、上記のようにして求めたレジスト膜の膜厚変化を生じるレーザ光の出力を、実際の欠陥検査に用いるレーザ光の出力の許容値の上限とすることができる。勿論、
図3の対応関係はあくまでも一例であり、マスクブランクの構成、具体的にはレジスト膜の膜種や膜厚、レジスト膜の下地の転写パターン形成用薄膜の膜構成、膜種等によって上記の対応関係は種々異なる場合がある。一方、実際の欠陥検査に用いるレーザ光の出力の許容値の下限については、特に制約される必要はない。
【0035】
また、検査光として用いられるレーザ光の波長は、使用されるレジストの感光に寄与しない波長領域が用いられるが、欠陥検出精度の向上の観点から、例えば488nm〜532nmの範囲であることが好適である。
【0036】
以上説明したように、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法によれば、現像などのプロセスが必要なく、検査光に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定することで、レーザ光の出力によるレジスト膜への影響を迅速に評価することができる。そして、この評価結果(
図3の対応関係)に基づきレーザ光の出力の許容値を決定することにより、レーザ光の出力によるレジスト膜への影響を数値化して、客観的に評価することが可能になる。つまり、本発明によれば、欠陥検査に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化を偏光解析法により測定して、レジスト膜への影響を迅速に且つ客観的に評価することで、レーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、実際の欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することができる。さらには、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおけるパターン線幅の減少などの問題が生じるのを防止できる。
【0037】
[マスクブランクの製造方法]
本発明は、上記マスクブランクの欠陥検査方法を適用するマスクブランクの製造方法についても提供する。
すなわち、基板上に転写パターンとなる薄膜を形成し、さらに該薄膜の表面にレジスト膜を形成する工程と、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程とを有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0038】
図1は、マスクブランクの一構成例を示しており、基板1の主表面上に、転写パターンとなる薄膜2を形成し、さらに該薄膜2の表面にレジスト膜3を形成したマスクブランク10である。
上記基板1としては、マスクブランク10がバイナリマスクブランクや位相シフト型マスクブランク等の透過型マスクブランクの場合、例えば合成石英ガラス基板を用いるのが好適である。この合成石英ガラス基板は、ArFエキシマレーザー(波長193nm)又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、近年の半導体装置の回路パターンの微細化、高解像度化に対応できるマスクブランク用基板として好適である。
また、マスクブランク10がEUV露光用等の反射型マスクブランクの場合、低熱膨張の特性を有するものであればよく、SiO
2−TiO
2系ガラス(2元系(SiO
2−TiO
2)及び3元系(SiO
2−TiO
2−SnO
2等))や、例えば、SiO
2−Al
2O
3−Li
2O系の結晶化ガラスの基板を用いるのが好適である。
また、マスクブランク10がナノインプリントプレート用マスクブランクの場合、機械的特性、加工性能の観点から合成石英ガラス基板を用いるのが好適である。
【0039】
上記透過型マスクブランクは、上記基板1の主表面上に、薄膜2として遮光膜を形成することによりバイナリマスクブランクが得られる。また、上記基板1の主表面上に、薄膜2として位相シフト膜、あるいは位相シフト膜及び遮光膜を形成することにより、位相シフト型マスクブランクが得られる。また、基板彫り込み型のレベンソン位相シフト型マスクブランクにおいては、基板1の主表面上に、薄膜2として遮光膜を形成することにより得られる。また、クロムレスタイプの位相シフト型マスクブランクや、ナノインプリントプレート用マスクブランクにおいては、基板1の主表面上に、薄膜2としてエッチングマスク膜を形成することにより得られる。
上記遮光膜は、単層でも複数層(例えば遮光層と反射防止層との積層構造)としてもよい。また、遮光膜を遮光層と反射防止層との積層構造とする場合、この遮光層を複数層からなる構造としてもよい。また、上記位相シフト膜、エッチングマスク膜、吸収体膜についても、単層でも複数層としてもよい。
【0040】
透過型マスクブランクとしては、例えば、クロム(Cr)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、タンタル(Ta)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、ケイ素(Si)を含有する材料、あるいは遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている位相シフト膜を備える位相シフト型マスクブランクなどが挙げられる。
【0041】
上記クロム(Cr)を含有する材料としては、クロム単体、クロム系材料(CrO,CrN,CrC,CrON,CrCN,CrOC,CrOCN等)が挙げられる。
上記タンタル(Ta)を含有する材料としては、タンタル単体のほかに、タンタルと他の金属元素(例えば、Hf、Zr等)との化合物、タンタルにさらに窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、TaN、TaO,TaC,TaB,TaON,TaCN,TaBN,TaCO,TaBO,TaBC,TaCON,TaBON,TaBCN,TaBCONを含む材料などが挙げられる。
【0042】
上記ケイ素(Si)を含有する材料としては、ケイ素に、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、ケイ素の窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物(酸化窒化物)、炭酸化物(炭化酸化物)、あるいは炭酸窒化物(炭化酸化窒化物)を含む材料が好適である。
【0043】
また、上記遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料のほかに、遷移金属及びケイ素に、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。具体的には、遷移金属シリサイド、または遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
【0044】
さらに上記バイナリマスクブランクや位相シフト型マスクブランクにおいて、遮光膜上に、エッチングマスク膜を備えても構わない。エッチングマスク膜の材料は、遮光膜をパターニングする際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料から選択される。遮光膜の材料がクロム(Cr)を含有する材料の場合、エッチングマスク膜の材料としては、例えば上記ケイ素(Si)を含有する材料が選択される。また、遮光膜の材料がケイ素(Si)を含有する材料や、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料の場合、エッチングマスク膜の材料としては、例えば上記クロム(Cr)を含有する材料が選択される。
【0045】
また、反射型マスクブランクとしては、基板1上に、EUV光に対して反射する多層反射膜、さらに、転写用マスクの製造工程におけるドライエッチングやウェット洗浄から多層反射膜を保護するため、保護膜が形成された多層反射膜付き基板として、上記多層反射膜や保護膜上に吸収体膜を備える反射型マスクブランクが挙げられる。
EUV光の領域で使用される多層反射膜としては、Mo/Si周期多層膜のほかに、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層反射膜が挙げられる。
また、上記保護膜の材料としては、例えば、Ru、Ru−(Nb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo)、Si−(Ru、Rh、Cr、B)、Si、Zr、Nb、La、B等の材料から選択される。これらのうち、Ruを含む材料を適用すると、多層反射膜の反射率特性がより良好となる。
【0046】
また、上記吸収体膜の材料としては、例えば、Ta単体、Taを主成分とする材料が用いられる。Taを主成分とする材料は、通常、Taの合金である。このような吸収体膜の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主成分とする材料としては、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、更にOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料などを用いることができる。また例えば、TaにB、Si、Ge等を加えることにより、アモルファス構造が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。さらに、TaにN、Oを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。また、多層反射膜が形成されている側と反対側の基板1上には、裏面導電膜を形成することができる。
【0047】
なお、上記遮光膜等の薄膜を形成するための成膜方法は特に制約されない。例えばスパッタリング法、イオンビームデボジション(IBD)法、CVD法などが好ましく挙げられる。
【0048】
また、上記レジスト膜3としては、近年の半導体装置の回路パターンの微細化、高解像度化に対応できるようにするため、電子線描画用レジスト膜を用いることが好ましい。特に化学増幅型のレジスト膜が好適である。レジスト膜はポジ型でもネガ型でも構わない。上記レジスト膜3の形成方法は、例えばスピンコート法を用いて塗布形成することが好ましい。
【0049】
また、上記レジスト膜3の膜厚は、150nm以下であることが望ましい。すなわち、微細パターン形成の観点からレジスト膜の薄膜化が望ましく、特に薄膜のレジスト膜における膜厚変化を偏光解析法によれば高精度で測定することが可能であるため、本発明は、レジスト膜の膜厚が、例えば150nm以下であるようなマスクブランクの製造方法に好適である。
【0050】
以上の構成にかかるマスクブランク10の欠陥検査工程の詳細に関しては、前述したとおりであるので、ここでは説明を省く。
本発明にかかるマスクブランクの製造方法によれば、基板上に転写パターンとなる薄膜を形成し、さらに該薄膜の表面にレジスト膜を形成する工程と、本発明に係るマスクブランクの欠陥検査方法による欠陥検査工程とを有することにより、欠陥検査に用いるレーザ光の照射によるレジスト膜への影響を迅速に且つ客観的に評価することができ、レーザ光の出力の許容値を決定することができる。そして、この決定されたレーザ光の出力の許容値の範囲内でマスクブランクの欠陥検査を行うことにより、欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制することが可能である。
【0051】
また、上記の検査に用いるレーザ光の出力の許容値(特に上限値)データは、前記レーザ光の波長、
図3と同様の対応関係などの情報とともに適当な記録媒体(例えば2次元バーコードなど)に保存する工程を有してもよい。このレーザ光出力の許容値等のデータ付きでマスクブランクを提供することにより、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおけるパターン線幅の減少などの問題が生じないことを保証することができる。
【0052】
[転写用マスクの製造方法]
本発明は、上記構成のマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして転写パターンを形成するマスクの製造方法についても提供する。
マスクブランクにおける転写パターンとなる薄膜をパターニングする方法としては、精度の高いフォトリソグラフィ法が最も好適である。
図2は、その製造工程を示す断面図である。
まず、上記構成にかかるマスクブランク10のレジスト膜3に対して、電子線描画装置により所望のパターン描画を行う(
図2(a)参照)。描画後、所定の現像処理を行って、レジストパターン3aを形成する(
図2(b)参照)。
【0053】
次に、上記レジストパターン3aをマスクとして、薄膜2をエッチング(例えばドライエッチング)して、薄膜パターン2aを形成する(
図2(c)参照)。
次いで、残存するレジストパターン3aを除去することにより、基板1上に薄膜パターン2aが形成された転写用マスク20が得られる(
図2(d)参照)。
【0054】
例えば、上述のバイナリマスクブランクにおける遮光膜をパターニングすることにより、遮光膜パターンを備えるバイナリマスクが得られる。また、上述の基板の主表面に、位相シフト膜、あるいは位相シフト膜及び遮光膜を備える構造の位相シフト型マスクブランクにおいても、転写パターンとなる薄膜をパターニングすることにより、位相シフト型マスクが得られる。また、基板彫り込み型のレベンソン位相シフト型マスクブランク、クロムレスタイプの位相シフト型マスクブランク、ナノインプリント用マスクブランクにおける遮光膜やエッチングマスク膜をパターニングした後、遮光膜パターンやエッチングマスク膜パターンをマスクにして、基板を所定の深さエッチング・除去することにより基板彫り込み型のレベンソン位相シフト型マスク、クロムレスタイプの位相シフト型マスク、ナノインプリントプレートが得られる。
また、上述の反射型マスクブランクにおける吸収体膜をパターニングすることにより、吸収体膜パターンを備える反射型マスクが得られる。
【0055】
本発明の転写用マスクの製造方法においては、マスクブランクの欠陥検査の際のレーザ光照射によるレジスト膜への影響を抑制できるので、このマスクブランクを用いて製造される転写用マスクにおいてパターン線幅の減少などの問題が生じるのを防止することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、ArFエキシマレーザー(波長193nm)露光用マスクブランクの製造方法および欠陥検査方法について説明する。
本実施例においては、サイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板の主表面上に、以下のようにしてMoSiNを主成分とする膜とCrNを主成分とするエッチングマスク膜の積層膜を形成した。
【0057】
ターゲットにMoSi(Mo:Si=13:87原子%比)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N
2)ガスとの混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSiN膜(下層(遮光層))を膜厚47nm、MoSiN膜(上層(反射防止層))を4nmの積層構造からなる遮光膜を形成した。
続いて、Crターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N
2)ガスとの混合ガス雰囲気で、CrN膜からなるエッチングマスク膜を膜厚5nm形成した。
【0058】
次に、上記CrN膜上に電子線描画用化学増幅型ポジ型レジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)をスピンコーティング法により塗布、ベーキングして、120nm厚のレジスト膜を形成した。
以上のようにしてArFエキシマレーザー(波長193nm)用バイナリマスクブランク(予備用)を作製した。なお、ArFエキシマレーザーに対するMoSiN膜とCrN膜の積層膜の光学濃度は3.0、表面反射率は20%であった。
【0059】
このバイナリマスクブランクのレジスト膜に対し、マスクブランク欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M6640シリーズ)の検査光に用いられているレーザ光(波長532nm)を、その出力を30〜600mWの範囲で適宜変えながら照射した。なお、レーザ照射は、5mm角26.4mmピッチとした。各照射領域におけるレーザ照射前とレーザ照射後の各レジスト膜厚を偏光解析法(エリプソメトリ方式)による膜厚計((株)フォトニックラティス製 ME−210)にて測定した。そして、上記のレーザ出力と、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差との関係を
図3に示す。
【0060】
一方、上記マスクブランクとは別の同一構成の予備用バイナリマスクブランクを準備した。このマスクブランクのレジスト膜に対し、上記と同じマスクブランク欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M6640シリーズ)の検査光に用いられているレーザ光(波長532nm)を、その出力を120〜900mWの範囲で適宜変えながら照射した。なお、レーザ照射は、5mm角26.4ピッチとした。そして、レーザ非照射領域とレーザ照射領域の各々領域に、電子線描画装置を用いて所定のラインアンドスペース(130nmL/S)パターンを描画し、描画後、所定の現像処理を行った。得られた各領域のレジストパターン線幅を半導体フォトマスク用線幅測定電子顕微鏡(アドバンテスト社製 E3620)にて測定した。そして、上記のレーザ出力と、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差との関係を
図4に示す。
【0061】
図3の結果から、レーザ出力が270mW程度からレーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差が大きくなり、レジスト膜厚への影響が確認された。一方、
図4の結果から、レーザ出力が270mW程度からレーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差が大きくなり、パターン線幅への影響が確認された。
図3及び
図4の結果から、レーザ出力に対する、レーザ照射前後のレジスト膜の膜厚差との関係と、レーザ非照射領域と照射領域のパターン線幅差との関係が対応していることがわかった。つまり、この結果から、検査光に用いるレーザ光の出力を変えたときのレジスト膜への影響を評価するにあたり、
図3のようなレーザ照射前後のレジスト膜厚変化を偏光解析法により測定することで、実際のパターン線幅への影響を簡易、迅速に、しかも客観的に確認することが可能であることがわかった。
【0062】
次いで、
図3の対応関係から、レーザ光の照射によるレジスト膜の膜厚変化が大きくなり、レーザ照射によるレジスト膜への影響が現れるレーザ光の出力は、約270mWであると判断し、実際の欠陥検査に用いるレーザ光の出力の許容値の上限と決定した。
そこで、本実施例では、マスクブランク欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M6640シリーズ)を用い、その検査光に用いられているレーザ光(波長532nm)の出力を270mW未満に調整して、上記予備用マスクブランクと同一構成のレジスト膜付きバイナリマスクブランク(検査用)に対して、欠陥検査を行った。
【0063】
欠陥検査の結果、問題となる欠陥は検出されなかったため、このバイナリマスクブランクを用いてバイナリマスクを作製した。
まず、上述のマスクブランクのレジスト膜に対して電子線により所望のマスクパターンを描画し、描画後、所定の現像処理を行い、レジストパターンを形成した。
【0064】
このレジストパターンをマスクとし、塩素と酸素の混合ガスによりエッチングマスク膜のCrN膜をエッチングして、エッチングマスク膜パターンを形成し、引き続いてアッシングによりレジストパターンを除去した。その後、エッチングマスク膜パターンをマスクとし、フッ素系ガスにより遮光膜のMoSiN膜をエッチングし遮光膜パターンを形成した。その後、エッチングマスク膜を、塩素と酸素の混合ガスにより除去して、基板上に遮光膜パターンが形成されたバイナリマスクを作製した。
得られたバイナリマスクについて、パターン線幅の検査を行った結果、所望の設計値通りに仕上がっていた。