【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは上記の課題に対策を施した。
【0029】
本発明は従来弾丸状であったチップ部(
図1の1)の形状を改め、
図2(C)の1に示すようにチップ部形状を薄いカップ状、および、
図8(Q)に示すような入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状とした。チップ部1は、弾丸状の形状全てにCu−W複合材料のような溶融、蒸発しにくい材用を使用する必要はなく、使用期間に表面およびその近傍にシャンク材料が露出していなければ十分である。この場合に必要となるチップ部1の厚さは、最低0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、最大でも3mm程度である。これらの厚さ、遮断器用接点の大きさや使用頻度によって若干は変化する。
【0030】
シャンク部に求められる特性は高い熱伝導性である。例えば純銅であれば熱伝導率は401(W・m/K)と極めて高い。シャンク部の熱伝導率は、アーク発生時のチップ表面の温度に影響を与える。
【0031】
アーク発生時に生じる熱は、チップ部表面からシャンク部に伝導して放熱する。チップ部は第一にアーク熱による蒸発が少ないタングステンを使用する必要があるために、純銅のような高熱伝導材料を用いることができない。
【0032】
チップ部表面の蒸発による消耗を抑えるためには、チップ部の熱をシャンクに効率よく逃がす必要がある。前述のようにチップ部の熱伝導率は、シャンクの熱伝導率よりも低いために、チップ表面からシャンク部までの長さを短く、つまりチップの厚さを薄くするほうが放熱上都合がよい。
【0033】
また、前述の様にチップ部1の材料はタングステンなどのレアメタルを使用する必要がある。レアメタルの使用は、性能を保てる限り少なくするほうが望ましい。
【0034】
本発明者らは、実際の使用時にアークが発生して高温状態になる部分、およびその近傍のみをCu−W複合材料、またはCu−WC複合材料のチップ部、残部を純銅またはクロム胴などの高銅合金(銅を96%以上含み他の合金系に属さない合金)のシャンク部2からなる遮断器用接点を提案する。
【0035】
前記Cu−W複合材料、Cu−WC複合材料には、さらに、アークの発生を拡散する役割を持つホウ素、ホウ酸、ホウ酸化物、希土類酸化物など添加物を加えることも可能である。特に適しているのは0.2〜8質量%のLaBO
3やSrB
2O
4のホウ酸化物である。同時に、鉄族金属を0.01〜0.5質量%添加すると、チップ部の気孔が生じにくくなる。鉄族金属はFe、Ni、Coのうちの1種以上をさす。
【0036】
薄いカップ状のチップ部分の厚さは
図2(C)に示すように一定でよいが、
図2(D)に示すように、必ずしも一定である必要は無い。例えば、アークが最も発生しやすい箇所と、先端略球状部から距離が離れた箇所についてはアークによる溶融、蒸発の量が異なるからである。そのために、カップ形状の先端略球状部から裾の部分に徐々に厚さを薄くした形状も適している。また、
図2(E)に示すように、チップ部1であるカップの裾の部分が、有意な段差を必ずしも有する必要はない。チップ部を入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状とした場合も同様である。この壺状の形状とは、食虫植物であるウツボカズラ状であり、
図1中接点Bのチップ部1の形状の表面およびその近傍の形状を指す。シャンク部からつながる壺の内部は、チップ部を除きシャンク部が占める形状である。
図8にチップ部(着色部1)の外観模式図(P)と、断面模式図(Q)を示す。
【0037】
本明細書および請求の範囲にてシャンク部とチップ部を「直接」接合と表記しているが、これは例えばろう材などの、チップ部ともシャンク部とも組成の違う層がその界面に存在せずに接合していることを示す。
【0038】
また、チップ部の組成は全体を均一としてもよいし、傾斜機能材料で構成することもできる。前述のように、チップ部表面はアークにより蒸発しにくい特性が必要であるが、内部は熱伝導率の高い材料が好ましい。
【0039】
チップ部表面をタングステン割合が大きいCu−W複合材料とし、内部に向かうほどCuの比率を高くする傾斜機能材料とすることで、チップ部からシャンク部への熱移動が速やかに行なえ、その結果チップ部表面のCu−W複合材料の蒸発が抑えられる。
【0040】
これらの現象は、チップ部の材質をCu−WC複合材料とした場合でも同様の傾向を示す。
【0041】
本発明に示すように、チップ部を薄いカップ形状とすることにより、チップ部表面の温度がどの程度下がるかについては、非常に高温かつ高圧下であるために、現実には測定が不可能である。
【0042】
そこで、FEM(有限要素法)による計算解析により、
図1の1に示すような弾丸状のチップ部の場合と、チップ部の厚さを変えてシミュレーションを行なった。
【0043】
計算に用いた主な値を以下に示す。
【0044】
チップ部:材質 Cu(50体積%)−W(50体積%)複合材料
熱伝導率:210(W/m・K)
形状:直径30(mm)、厚さX(mm)のカップ状
シャンク部:材質 純銅
熱伝導率:401(W/M・K)
チップ部への入熱量:1mm
2あたり100W
チップ部の厚さX(mm)を変化させ(x軸)、そのときのチップ表面温度T(℃)(y軸)を計算した結果、
図7に示すような関係が得られた。
【0045】
チップの厚さX=15(mm)の場合が従来技術に示される弾丸状のチップを示す。X=0の場合はチップ部がない場合を示す。
【0046】
従来技術に対して、チップ部の厚さが0.1〜3(mm)の場合には、チップ部表面温度が200〜1000℃程度下がることが確認できる。また0.3(mm)未満の場合はチップ表面の温度は確かに低いが、沸点が2560℃の銅がチップ部表面に多い(X=0の場合はすべて銅)であるために、蒸発による損耗が大きい。この現象はさらにチップ部の厚さを0.1(mm未満)とするとより顕著に現れる。また、X>3(mm)の場合は、従来技術とチップ部の表面温度が殆ど変わらずに、チップ部を薄くした効果が小さいと考えられる。
【0047】
上記には同じ大きさを持つ遮断器用接点の場合は、その蒸発量が抑えられ、寿命が延びることを示した。
【0048】
アークコンタクトは大電流を遮断するものほど大型の接点が必要となる。これは、大電流の遮断ほど接点の表面積を増やすことで蒸発量を押さえられるからである
本発明の遮断器用接点は、蒸発量を低減できるために、アークコンタクト、接点自体を従来用いられているものよりも小型化できるという特徴も有する。
【0049】
本発明の構造を有する遮断器用接点は以下に記載のいずれかの方法で製造が可能である。
【0050】
第1の方法は、チップ部1をCu−W複合材料から削り出し、埋設固着(銅によるCu−W複合材料の鋳包み)にて銅のシャンク部2と一体化する方法である。つまり、カップ状のチップ部を削りだすことが可能な大きさのCu−W複合材料を予め製造する工程、それを機械加工または電気加工によりカップ形状に加工する工程、カップ形状のCu−W複合材料をシャンク部分の銅で鋳包みする工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0051】
第2の方法は、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状の銅およびタングステンを溶射してカップ形状を形成する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0052】
第3の方法は、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を形成する工程、タングステンスケルトンに銅を溶浸する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0053】
第4の方法は、弾丸状の内面を持つ成形用型に粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトン層を形成する工程、タングステンスケルトン層に銅を溶浸しながら、溶浸余剰の銅でシャンクの形状を鋳造する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。この型は、1200℃程度(溶浸温度)で溶融せず、かつ、銅やタングステンと反応しにくい素材からなる。また、型は取出しなどの工程に有利な
図3(F)に示すような割型とすることがさらによい。
【0054】
これらいずれかの方法で、本発明の構造を有する遮断器用接点を効率よく製造できる。特に第2〜第4の方法は、使用するタングステン材料を大きく削減できる。また、シャンク部2とチップ部1の一体化のみを目的とする工程を経ずに製造できる。さらに、シャンク部2の加工はもちろん、切削効率に劣るCu−W複合材料製チップ部1の切削に係る経費が削減できる。この経費は、製造機械の占有時間、人件費、工具費用、使用電力などを含む。
【0055】
また、いずれの場合もチップ部を傾斜機能材料としたい場合には、溶射する組成を変化させることにより実現できる。CuとWを一つの溶射ノズルで溶射する場合には投入原料粉末の量を適時調整しながら溶射する。CuとWを別の溶射ノズルで溶射する場合には、それぞれの溶射量を調整することで組成を調整する。これらの手段によって、チップ部を傾斜機能材料とすることができる。
【0056】
さらに、チップ部の材質を単純なCu−W複合材料ではなく、これに添加物を加えることも可能である。アークの発生を拡散する役割を持つ酸化物、ホウ素、ホウ酸、ホウ酸化物などがこれにあたる。特に適しているのは0.2〜8質量%のLaBO
3やSrB
2O
4などのホウ酸化物である。同時に、鉄族金属を0.01〜0.5質量%添加してもよい。
【0057】
また、
図2〜
図6は
図1中の接点Aの形状を用いて説明したが、
図1中の接点B(入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状)の形状であっても同様に当てはまる。
【0058】
以上に示した方法は、チップの材質をCu−W複合材料に代えてCu−WC複合材料とした場合も前記工程中の「W」を「WC」と置き換えることにより可能である。