特許第6118040号(P6118040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118040
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】遮断器用接点とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/12 20060101AFI20170410BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20170410BHJP
   H01H 1/021 20060101ALI20170410BHJP
   H01H 33/65 20090101ALI20170410BHJP
   H01H 33/664 20060101ALI20170410BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20170410BHJP
   C22C 32/00 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   H01H33/12
   H01H11/04 B
   H01H1/021 101
   H01H33/65 A
   H01H33/664 B
   C22C27/04 101
   !C22C32/00 W
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-141381(P2012-141381)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-7041(P2014-7041A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】三島 彰
(72)【発明者】
【氏名】毛利 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寧記
(72)【発明者】
【氏名】案浦 康徳
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特許第172517(JP,C2)
【文献】 特開昭61−195511(JP,A)
【文献】 特開2005−197098(JP,A)
【文献】 特開2012−216368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/00 − 9/52
H01H 33/00 −33/668
H01H 1/021
H01H 11/04
C22C 27/04
C22C 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断器用接点部材であって、
遮断器開閉の際にアークが発生するチップ部と、
チップ部への導電通路でありチップ部を保持するシャンク部を有し、
前記チップ部はCu−W複合材料を主とし、ホウ素、ホウ酸、希土類酸化物、ホウ酸化物、鉄族金属のうち1種または2種以上を含む材料のいずれかからなり、
前記シャンク部は純銅または高銅合金のいずれかからなり、
前記シャンク部の先端に前記チップ部が直接接合しており、
前記チップ部の形状がカップ状または壺状の膜形状を有している遮断器用接点部材。
【請求項2】
前記カップ状または壺状のチップ部の最大厚さが0.3〜3mmの範囲にある請求項1に記載の遮断器用接点部材。
【請求項3】
遮断器開閉の際にアークが発生するチップ部と、
チップ部への導電通路でありチップ部を保持するシャンク部を有し、
前記シャンク部の先端に前記チップ部が直接接合しており、
前記チップ部はCu−W複合材料を主とする材料からなり、
前記シャンク部は純銅または高銅合金のいずれかからなり、
前記シャンク部の先端に前記チップ部に直接接合しており、前記チップ部の形状がカップ状または壺状の膜形状を有する遮断器用接点部材の製造方法であって、
遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部を製造する工程と、
前記シャンク部上にカップ形状または壺状の多孔質層を
タングステンのみ、
または、タングステンに加えてホウ素、ホウ酸、希土類酸化物、ホウ酸化物、鉄族金属のいずれか1種以上を溶射法にて形成する工程と、
前記多孔質に銅または高銅合金を溶浸する工程
とを含む遮断器用接点部材の製造方法。
【請求項4】
遮断器開閉の際にアークが発生するチップ部と、
チップ部への導電通路でありチップ部を保持するシャンク部を有し、
前記シャンク部の先端に前記チップ部が一体的に接合しており、
前記チップ部はCu−W複合材料を主とする材料からなり、
前記シャンク部は純銅または高銅合金のいずれかからなり、
前記シャンク部の先端に前記チップ部が一体的に直接接合しており、前記チップ部の形状がカップ状または壺状の膜形状を有する遮断器用接点部材の製造方法であって、
遮断器接点用部材形状の内面を持つ成形用型の先端部に
タングステンのみ、
または、タングステンに加えてホウ素、ホウ酸、希土類酸化物、ホウ酸化物、鉄族金属のいずれか1種以上
を溶射して多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層に純銅または高銅合金を溶浸し、かつ、溶浸残部の純銅または高銅合金でシャンクの形状を鋳造する工程、
とを含む遮断器用接点部材の製造方法。
【請求項5】
前記Cu−W複合材料を主とする材料が、ホウ素、ホウ酸、希土類酸化物、ホウ酸化物、鉄族金属のうち1種または2種以上を含む材料である、請求項3または請求項4のいずれか1項に記載の遮断器用接点部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断器に使用する電気接点材料に関する。また、その製造方法に関する。前記遮断器用接点は電気回路の遮断器に使用する。
【背景技術】
【0002】
送配電や受配電網などの高圧大電流回路に使用する遮断器には、WとCuの複合材料、WCとCuの複合材料を用いた電気接点などが数多くの提案されている。
【0003】
大電流の開閉時には、開閉する二つの電気接点間にアーク(電弧)が生じる。
【0004】
そのために、特に大電流を開閉する装置は、電気接点を大きく2対備えている。うち1対は主な導電経路であるメインコンタクト、もう1対はアーク処理を行なうアークコンタクト(アーク接点ともいう)として役割分担をしている。導通時に、電流は主としてメインコンタクトを通して流れるが、遮断の際にはメインコンタクトはアークコンタクトより先だって遮断し、アークコンタクトのみに通電する状態とする。この状態から通電を遮断する際にアークコンタクトの両接点間にアークが発生する。電流接続の際はこの逆の過程とし、やはりアークはアークコンタクト間に発生する。こうすることで、メインコンタクトにはアークが発生せず、アークの発生はアークコンタクトのみに起る。このような構造とすることにより、アークコンタクトを比較的取替え容易な構造とし、一方メインコンタクトはアークの影響を考えず導電性を追及した材質を選定することができる。
【0005】
いったん接点の開閉により生じたアークは、消弧までには時間がかかる。アークの両端となる接点部分は、消弧までの間に連続的に高熱にさらされる。この現象は、装置内をアークが消失しやすい雰囲気(例えばSFガス中)で満たしても解決されていない。
【0006】
アークコンタクトに用いる接点材料は良導体の必要がある。それに加えて、電気接点はアークによって溶融・蒸発しにくい材料を用いる必要がある。単一素材を用いての前記問題の解決は難しい。そこで、良導体と高融点・高沸点の材料を組み合わせたCu−W材料、Cu−WC材料がその用途に主に用いられている。
【0007】
これらの遮断器用のアークコンタクト用の第1の接点は、図1Aに示すような、柱状部の端部に略半球状の先端部を有する構造のものが多い。この接点は、図1Bに示すような、入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状の先端部を複数もち、長さ方向に複数のスリットを有する構造を有する第2の接点と対になる。第2の接点Bは設けたスリットにより、円筒の側面は径方向に開閉が可能である。いずれも先端および近傍には、アークが集中しやすいとがった部分や、段差部分やエッジが表面に現れないように滑らかな面で構成されている。
【0008】
通電している状態では、前記第1の接点Aの少なくとも先端部が、前記第2の接点B中に挿入されている。第2の接点のカップ側面は、挿入された接点先端により弾性変形で広がった状態である。
【0009】
この状態から、前記第1の接点Aを引き抜くことにより電流を遮断する。なお、この際には既にメインコンタクト6は開離している(既に遮断している)。このとき、第1の接点と第2の接点間には連続してアークが発生する。アークは、両接点に高熱を与え、接点表面の物質を溶融、蒸発させる。この際に、特定の箇所のみに溶解、蒸発が発生すると、接点は形状を保持できずに、使用できなくなる。
【0010】
第1の接点Aは柱状部の端部に略半球部を、第2の接点Bはスリットにより分けられた複数の先端が丸められた棒状の先端部を有することにより、特定の箇所のみの溶解、蒸発を防ぐ。なるべく多くの箇所からランダムにアークを発生させることで、接点の損傷を小さく、分散できる。このことは接点の寿命向上に寄与する。
【0011】
以上に柱状部の端部に略半球状の先端部を有する接点を「第1の接点」、円筒状の形状で、長さ方向に複数のスリットを有する接点を「第2の接点」として説明したが、電流の向きに対してはいずれも陽極および陰極となることもある。また、電流遮断の際に動く側を可動接点、動かない側を固定接点と呼ぶこともあるが、いずれが第1の接点、第2の接点となってもかまわない。
【0012】
第1の接点のアーク発生は、略半球状の先端部、および、前記先端部と連続する柱状部に集中する。アークの分布は、略半球状の先端部を中心として、図1Aの1に示すように棒状の先端に略半球部を有する弾丸状の範囲となる。また図1Bの1のように入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状の範囲となる。接点のアークに晒される部分に求められる主な特性は耐熱性であり、それ以外の部分は低い電気抵抗率である。以下、このアークが集中する部分を「チップ部」(1)、それ以外の部分を「シャンク部」(2)と表記する。
【0013】
そのために、第1の接点は図1に示すように、アークに集中して晒されるチップ部はCu−W複合材料で、そうでないシャンク部は銅および銅合金で製作する。
【0014】
Cu−W複合材料はWの働きで溶融、蒸発が極めて少ない。銅および銅合金は、電気抵抗率が極めて低い上に、安価である。
【0015】
チップ部1とシャンク部2は別の材質であるために、通常はそれぞれを独立して製造し、その後に一体化する。
【0016】
一体化の方法は、一例として両者を摩擦圧接、鋳包み接合、ろう付による一体化等が挙げられる。
【0017】
現在の問題点としては、以下のことが挙げられる。
【0018】
まず、チップ部1はCu−W複合材料等からなるが、それらはレアメタルであるタングステンを使っており、使用量は少ないほうがよい。また、タングステンのスケルトン(連続した開気孔を有する多孔質焼結体)製造、銅の溶浸の工程を有しており、その後にシャンク部との一体化、一体化後の切削加工が必要であり、製造費用が高いという問題もある。
【0019】
よって、タングステンの使用量を削減し、チップ部表面の熱を効率よく拡散し、さらに製造を簡易化する技術が要求されている。
【0020】
以上はシャンク部2が銅、チップ部1がCu−W複合材料の場合について説明した。このシャンク部の銅を純銅、銅合金や高銅合金(銅を96%以上含み、他の合金系に属さない銅材料)などとした場合も同様である。また、チップ部のCu−W複合材料をCu−WC複合材料とした場合も同様の問題を有する。
【0021】
引用文献1には代表的な遮断器用接点が示されている。この文献に記載のように、最もアークが発生して高熱に晒される接点部分にはCu、Ag、Auから選ばれる高導電材と、W、Mo、Crの耐弧成分とを組み合わせた材料が使用されている。
【0022】
引用文献2には銅とタングステンからなるチップ部の先端付近にスリットを設け、そのスリットに銅などのチップ部材料よりも熱伝導率の高い導電部材を充填する技術が示されている。この方法は、チップ部表面から繋がる高い熱伝導率の材料のために、チップ部表面付近の温度を下げる効果が期待できる。一方で、この方法はタングステンの使用量を減らすことができない上に、銅のような高い熱伝導率を有する材料が直接アークに晒されるために、早期にスリット部が蒸発して使用できないという問題点を有する。
【0023】
引用文献3にはチップ部を傾斜材料とする技術が示されている。チップ部表面に近い部分を耐アーク性の高い材料、シャンク部に近い部分をシャンク部の材質と同様とし、その間を傾斜材料とする構造が開示されている。この構造とすることにより、チップ部表面の蒸発量は抑えることができ、熱伝導率を従来の遮断器用接点よりも上げることができる。
しかしながら、この構造は直接アークが接触しないチップ部の内部にも耐弧成分を多く含む部分が生じ、タングステンの使用量の削減には効果がない。また、シャンクと近い部分は表面にも殆どシャンク部と変わらない組成が露出するために、チップ部先端以外にも予測できない消耗が起りやすい。さらに、傾斜材料とする構造を示しているが、その構造を実現するための製造手段については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2002−161327号公報
【特許文献2】特開2008−204787号公報
【特許文献3】特開平05−002950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の課題は、遮断器用接点の消耗および蒸発を抑制して、長寿命および交換頻度の低減を実現することである。
【0026】
また、本発明の課題は、タングステンなどのレアメタルの使用量を減らすことである。
【0027】
また、本発明の課題は、遮断器用接点の構造および製造方法を簡易化することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは上記の課題に対策を施した。
【0029】
本発明は従来弾丸状であったチップ部(図1の1)の形状を改め、図2(C)の1に示すようにチップ部形状を薄いカップ状、および、図8(Q)に示すような入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状とした。チップ部1は、弾丸状の形状全てにCu−W複合材料のような溶融、蒸発しにくい材用を使用する必要はなく、使用期間に表面およびその近傍にシャンク材料が露出していなければ十分である。この場合に必要となるチップ部1の厚さは、最低0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、最大でも3mm程度である。これらの厚さ、遮断器用接点の大きさや使用頻度によって若干は変化する。
【0030】
シャンク部に求められる特性は高い熱伝導性である。例えば純銅であれば熱伝導率は401(W・m/K)と極めて高い。シャンク部の熱伝導率は、アーク発生時のチップ表面の温度に影響を与える。
【0031】
アーク発生時に生じる熱は、チップ部表面からシャンク部に伝導して放熱する。チップ部は第一にアーク熱による蒸発が少ないタングステンを使用する必要があるために、純銅のような高熱伝導材料を用いることができない。
【0032】
チップ部表面の蒸発による消耗を抑えるためには、チップ部の熱をシャンクに効率よく逃がす必要がある。前述のようにチップ部の熱伝導率は、シャンクの熱伝導率よりも低いために、チップ表面からシャンク部までの長さを短く、つまりチップの厚さを薄くするほうが放熱上都合がよい。
【0033】
また、前述の様にチップ部1の材料はタングステンなどのレアメタルを使用する必要がある。レアメタルの使用は、性能を保てる限り少なくするほうが望ましい。
【0034】
本発明者らは、実際の使用時にアークが発生して高温状態になる部分、およびその近傍のみをCu−W複合材料、またはCu−WC複合材料のチップ部、残部を純銅またはクロム胴などの高銅合金(銅を96%以上含み他の合金系に属さない合金)のシャンク部2からなる遮断器用接点を提案する。
【0035】
前記Cu−W複合材料、Cu−WC複合材料には、さらに、アークの発生を拡散する役割を持つホウ素、ホウ酸、ホウ酸化物、希土類酸化物など添加物を加えることも可能である。特に適しているのは0.2〜8質量%のLaBOやSrBのホウ酸化物である。同時に、鉄族金属を0.01〜0.5質量%添加すると、チップ部の気孔が生じにくくなる。鉄族金属はFe、Ni、Coのうちの1種以上をさす。
【0036】
薄いカップ状のチップ部分の厚さは図2(C)に示すように一定でよいが、図2(D)に示すように、必ずしも一定である必要は無い。例えば、アークが最も発生しやすい箇所と、先端略球状部から距離が離れた箇所についてはアークによる溶融、蒸発の量が異なるからである。そのために、カップ形状の先端略球状部から裾の部分に徐々に厚さを薄くした形状も適している。また、図2(E)に示すように、チップ部1であるカップの裾の部分が、有意な段差を必ずしも有する必要はない。チップ部を入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状とした場合も同様である。この壺状の形状とは、食虫植物であるウツボカズラ状であり、図1中接点Bのチップ部1の形状の表面およびその近傍の形状を指す。シャンク部からつながる壺の内部は、チップ部を除きシャンク部が占める形状である。図8にチップ部(着色部1)の外観模式図(P)と、断面模式図(Q)を示す。
【0037】
本明細書および請求の範囲にてシャンク部とチップ部を「直接」接合と表記しているが、これは例えばろう材などの、チップ部ともシャンク部とも組成の違う層がその界面に存在せずに接合していることを示す。
【0038】
また、チップ部の組成は全体を均一としてもよいし、傾斜機能材料で構成することもできる。前述のように、チップ部表面はアークにより蒸発しにくい特性が必要であるが、内部は熱伝導率の高い材料が好ましい。
【0039】
チップ部表面をタングステン割合が大きいCu−W複合材料とし、内部に向かうほどCuの比率を高くする傾斜機能材料とすることで、チップ部からシャンク部への熱移動が速やかに行なえ、その結果チップ部表面のCu−W複合材料の蒸発が抑えられる。
【0040】
これらの現象は、チップ部の材質をCu−WC複合材料とした場合でも同様の傾向を示す。
【0041】
本発明に示すように、チップ部を薄いカップ形状とすることにより、チップ部表面の温度がどの程度下がるかについては、非常に高温かつ高圧下であるために、現実には測定が不可能である。
【0042】
そこで、FEM(有限要素法)による計算解析により、図1の1に示すような弾丸状のチップ部の場合と、チップ部の厚さを変えてシミュレーションを行なった。
【0043】
計算に用いた主な値を以下に示す。
【0044】
チップ部:材質 Cu(50体積%)−W(50体積%)複合材料
熱伝導率:210(W/m・K)
形状:直径30(mm)、厚さX(mm)のカップ状
シャンク部:材質 純銅
熱伝導率:401(W/M・K)
チップ部への入熱量:1mmあたり100W
チップ部の厚さX(mm)を変化させ(x軸)、そのときのチップ表面温度T(℃)(y軸)を計算した結果、図7に示すような関係が得られた。
【0045】
チップの厚さX=15(mm)の場合が従来技術に示される弾丸状のチップを示す。X=0の場合はチップ部がない場合を示す。
【0046】
従来技術に対して、チップ部の厚さが0.1〜3(mm)の場合には、チップ部表面温度が200〜1000℃程度下がることが確認できる。また0.3(mm)未満の場合はチップ表面の温度は確かに低いが、沸点が2560℃の銅がチップ部表面に多い(X=0の場合はすべて銅)であるために、蒸発による損耗が大きい。この現象はさらにチップ部の厚さを0.1(mm未満)とするとより顕著に現れる。また、X>3(mm)の場合は、従来技術とチップ部の表面温度が殆ど変わらずに、チップ部を薄くした効果が小さいと考えられる。
【0047】
上記には同じ大きさを持つ遮断器用接点の場合は、その蒸発量が抑えられ、寿命が延びることを示した。
【0048】
アークコンタクトは大電流を遮断するものほど大型の接点が必要となる。これは、大電流の遮断ほど接点の表面積を増やすことで蒸発量を押さえられるからである
本発明の遮断器用接点は、蒸発量を低減できるために、アークコンタクト、接点自体を従来用いられているものよりも小型化できるという特徴も有する。
【0049】
本発明の構造を有する遮断器用接点は以下に記載のいずれかの方法で製造が可能である。
【0050】
第1の方法は、チップ部1をCu−W複合材料から削り出し、埋設固着(銅によるCu−W複合材料の鋳包み)にて銅のシャンク部2と一体化する方法である。つまり、カップ状のチップ部を削りだすことが可能な大きさのCu−W複合材料を予め製造する工程、それを機械加工または電気加工によりカップ形状に加工する工程、カップ形状のCu−W複合材料をシャンク部分の銅で鋳包みする工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0051】
第2の方法は、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状の銅およびタングステンを溶射してカップ形状を形成する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0052】
第3の方法は、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を形成する工程、タングステンスケルトンに銅を溶浸する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0053】
第4の方法は、弾丸状の内面を持つ成形用型に粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトン層を形成する工程、タングステンスケルトン層に銅を溶浸しながら、溶浸余剰の銅でシャンクの形状を鋳造する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。この型は、1200℃程度(溶浸温度)で溶融せず、かつ、銅やタングステンと反応しにくい素材からなる。また、型は取出しなどの工程に有利な図3(F)に示すような割型とすることがさらによい。
【0054】
これらいずれかの方法で、本発明の構造を有する遮断器用接点を効率よく製造できる。特に第2〜第4の方法は、使用するタングステン材料を大きく削減できる。また、シャンク部2とチップ部1の一体化のみを目的とする工程を経ずに製造できる。さらに、シャンク部2の加工はもちろん、切削効率に劣るCu−W複合材料製チップ部1の切削に係る経費が削減できる。この経費は、製造機械の占有時間、人件費、工具費用、使用電力などを含む。
【0055】
また、いずれの場合もチップ部を傾斜機能材料としたい場合には、溶射する組成を変化させることにより実現できる。CuとWを一つの溶射ノズルで溶射する場合には投入原料粉末の量を適時調整しながら溶射する。CuとWを別の溶射ノズルで溶射する場合には、それぞれの溶射量を調整することで組成を調整する。これらの手段によって、チップ部を傾斜機能材料とすることができる。
【0056】
さらに、チップ部の材質を単純なCu−W複合材料ではなく、これに添加物を加えることも可能である。アークの発生を拡散する役割を持つ酸化物、ホウ素、ホウ酸、ホウ酸化物などがこれにあたる。特に適しているのは0.2〜8質量%のLaBOやSrBなどのホウ酸化物である。同時に、鉄族金属を0.01〜0.5質量%添加してもよい。
【0057】
また、図2図6図1中の接点Aの形状を用いて説明したが、図1中の接点B(入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状)の形状であっても同様に当てはまる。
【0058】
以上に示した方法は、チップの材質をCu−W複合材料に代えてCu−WC複合材料とした場合も前記工程中の「W」を「WC」と置き換えることにより可能である。
【発明の効果】
【0059】
本発明の遮断器用接点は、カップ形状を有するチップ部の厚さ、言い換えれば、チップ部の表面からシャンク部までの距離を、従来の遮断器用接点と比較して極めて小さくしたものである。チップ部の厚さが薄いために、熱伝導性のよいシャンク部とアークが発生するチップ部の表面とが極めて近い。そのために、チップ部の熱がシャンク部に向かって放出されやすく、チップ部表面の温度が抑えられ、チップ部表面の蒸発が抑制できる。また、チップ部とシャンク部は直接接合しているために、両者間の熱移動は容易である。
【0060】
本発明の遮断器用接点の製造方法は、レアメタルであるタングステン材料の使用量を大きく削減できる。シャンクとチップの一体化のみを目的とする工程を経ずに製造できる。シャンクの加工、切削効率に劣るCu−W複合材料、Cu−WC複合材料のチップ部分の整形に係る経費が削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】一般的な遮断器の模式図
図2】本発明の遮断器用接点の模式図(C)およそ均一の厚みのチップ部を持つ遮断器用接点(D)先端部ほどチップ部の厚い遮断器用接点(E)シャンク部との有意な段差を有さないチップ部を持つ遮断器用接点
図3】成形用型にタングステンスケルトンを溶射する模式図(P)、およびそれにCuを溶浸及びシャンクを形成する模式図(Q)
図4】遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部(H)およびカップ状のCu−W溶射膜を形成する模式図
図5】遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部にタングステンスケルトンを溶射した模式図(J)および、タングステンスケルトンにCuを溶浸した模式図(K)
図6】Cu−W複合材料チップ部(加工前)(L)、加工後(M)、Cu鋳包みによる一体化(N)
図7】チップ部の厚さとチップ表面温度の相関シミュレーション結果
図8】壺状のチップ部の模式図
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明に示す遮断器用接点は、以下のいずれかの方法で製造できる。
【0063】
第1の方法は、図6(L)〜(N)に示すように、チップ部をCu−W複合材料から削り出し、埋設固着にて銅のシャンク部と一体化する方法である。つまり、カップ状のチップ部を削りだすことが可能な大きさのCu−W複合材料を予め製造する工程(L)、それを機械加工または電気加工によりカップ形状に加工する工程(M)、カップ形状のCu−W複合材料をシャンク部分の銅で鋳包みする工程(L)、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0064】
まずチップ部であるCu−W複合材料を製造する。プレス成形で、50〜400MPa程度の圧力で、タングステン粉末をプレスする。得られたプレス体を真空または還元雰囲気中、900〜1200℃にて焼結する。この焼結は、粒子同士がネッキングを開始した程度の状態まで行ない、得られるのはタングステンスケルトンである。タングステンスケルトンは、連続した開気孔を有している。
【0065】
つぎに、真空または還元雰囲気中で、タングステンスケルトンに銅を溶浸する。このときの温度は銅の融点以上である1086℃以上である。溶浸によりCu−W複合材料を得る。得られたCu−W複合材料は、チップ部に用いるカップ以上の大きさが必要である(L)。
【0066】
次に、得られたCu−W複合材料を、カップ状のチップ形状に整形する。整形は機械的な切削加工、研削加工、電気加工、表面研磨などで行なう。以上に示した工程で、カップ状のチップ部を得る(M)。
【0067】
次に、遮断器用接点形状の空洞部を有するカーボン型を使用する。カーボン型は、下部方向に向かって遮断器用接点の略半球状のチップ部分用とし、そこに得られたカップ状のチップ部を挿入する。空洞部およびその上部に銅の板材などを十分な量設置し、真空中または還元雰囲気中で溶浸を行なう。温度が銅の融点を超えると、銅板は融け、一部はタングステンスケルトン中に溶浸し、それ以外の部分は空洞部に溜まる。冷却後には、タングステンスケルトン部分はCu−W複合材料となり、前記それ以外の部分はシャンク部となり、両者は一体となっている。これが鋳包み工程である。この方法で遮断器用接点の素材を得られる。鋳包み加工のほかには、摩擦圧接法による一体化も用いることができる(N)。
【0068】
最後に素材から、不要な銅を除去し、仕上げ加工することにより遮断器用接点を得る。
【0069】
第2の方法は、図4に示すように、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程(H)、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状の銅およびタングステンを溶射してカップ形状を形成する工程(I)、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0070】
まず、銅の棒材を加工して、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅を得る(H)。
【0071】
次に、タングステンと銅とを同時に、チップ部に該当するシャンクの部分に溶射を行う(I)。溶射は、フレーム溶射、電気式溶射、コールドスプレーのいずれかの方法を選択する。この溶射で、必要とする厚さのCu−W複合材料層を形成する。この方法で、カップ状のチップ部をシャンク部の先端に薄く形成できる。銅とタングステンの体積比は30:70〜70:30が適当である。
【0072】
この際に、溶射条件によってはチップ部中に気孔が存在する場合がある。気孔が残存するとアークによる熱衝撃によって割れが生じるという不具合を起こす。また、気孔の部分は熱伝導率が極めて悪化する。よって、この気孔は可能な限り排除する必要がある。
【0073】
このためには、溶射後に非酸化雰囲気中で銅の融点以上に昇温し、熱処理を行なえばよい。熱処理により気孔部分には銅が充填され、気孔をなくすことができる。
【0074】
最後にチップ部から、不要なCu−W複合材料を除去し、仕上げ加工することにより遮断器用接点を得る。
【0075】
第3の方法は、図4、5に示すように、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造する工程、チップに該当する部分に溶射法にて粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を形成する工程、タングステンスケルトンに銅を溶浸する工程、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。
【0076】
まず、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅は、棒状の銅から切削加工などで得ることができる(図4の(H))。
【0077】
次に、チップに該当する部分に溶射法にてタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を形成する。これを図5(J)に示す。この際は、タングステンスケルトンを連続した開気孔が残る状態で、かつ、タングステンの粒子同士がネッキングした状態で形成する必要がある。タングステンスケルトンの気孔率は30〜70%が適当である。
【0078】
このタングステンスケルトンに銅を溶浸する。溶浸は、温度が融点以上に上がった銅がタングステンスケルトンに接触する状態で行なう。その温度は1200℃以上が、雰囲気は還元雰囲気または真空中が適している。こうして、(K)に示すように銅のシャンク部と一体となったCu−W複合材料のチップ部が得られる。
【0079】
最後にチップ部から、不要な銅を除去し、仕上げ加工することにより遮断器用接点を得る。
【0080】
第4の方法は、図3に示すように、弾丸状の内面を持つ型にタングステンを溶射してタングステンスケルトン層を形成する工程(P)、タングステンスケルトン層に銅を溶浸ながら溶浸しない部分の銅でシャンクの形状を鋳造する工程(Q)、最終形状に整形する加工工程、を含む方法である。この型は、1200℃程度(溶浸温度)で溶融せず、かつ、銅やタングステンと反応しにくい素材からなる。
【0081】
まず、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムなどの酸化物セラミックスの様な、銅やタングステンと真空中または還元雰囲気1200℃程度にて反応しにくい材質で、弾丸状の内面を持つ型を製作する。
【0082】
この型に、タングステンを溶射し、図3(P)に示すような弾丸形の形状のタングステンスケルトンを得る。溶射の方法は第3の方法と同様である。こうして、型の内面にカップ状のタングステンスケルトンを形成する。
【0083】
つぎに、このタングステンスケルトンに銅を溶浸する。溶浸は、温度が融点以上に上がった銅がタングステンスケルトンに接触する状態で行なう。その温度は1200℃以上が、雰囲気は真空中または還元雰囲気が適している。こうして、銅のシャンク部と一体となったCu−W複合材料のチップ部が得られる(Q)。得られた一体物を型から取り出す。型は取出しなどの工程に有利な図3に示すような割型とすることがさらによい。
【0084】
最後にチップ部から、不要な銅を除去し、仕上げ加工することにより遮断器用接点を得る。
【0085】
以上は、図2図6図1中の接点Aの形状を用いて説明したが、図1中の接点B(入り口の部分がやや細く、奥がやや太い壺状)の形状であっても全く同様に当てはまる。
【0086】
また、上記いずれの方法においても、シャンク部の強度を確保するために、鍛造や熱処理などによる強化処理を行なってもよい。
【0087】
さらに、第2〜第4の方法において、チップ部にCuとW以外の成分を添加する場合には、タングステンまたは銅の溶射粉末中に酸化ホウ素、ホウ化物、希土類酸化物、ホウ酸化物、鉄族金属の粉末を混合すればよい。
【0088】
以上に示した方法は、チップの材質をCu−W複合材料に代えてCu−WC複合材料とした場合も同様である。
【0089】
以下実施例にて、より詳細に本発明を説明する。
【実施例】
【0090】
実施例1(第1の方法)
チップ部を含む弾丸状のCu−W複合材料を製造し、その複合材料を切削加工してカップ状のチップ部を削りだし、削りだしたチップを埋設固着にてCuのシャンクと一体化する方法を述べる。
【0091】
まず、タングステン粉末をプレス成形する。タングステンの粉末に対して3重量%のセチルアルコールを加え、プレス体は円柱状とした。プレス圧力は100MPaとした。
【0092】
得られたプレス体を水素雰囲気中で予備焼結した。予備焼結の温度は1000℃とした。予備焼結により、プレス体は連続した開気孔を有する多孔質体(スケルトン)となった。タングステンの粒子は隣接する粒子とネッキングを起こしており、かつ、連続した開気孔を有する状態であった。
【0093】
次に、前記多孔質体にCuを溶浸した。溶浸は、炉中で多孔質体上に板状のCuを乗せて行った。温度はCuの融点1200℃、雰囲気は水素雰囲気とした。溶浸後に冷却することで、円柱状のCu−W複合材料を得た。
【0094】
得られた円柱状のCu−W複合材料を、旋盤にて切削加工して弾丸状の複合材料を得た。この部分がチップ部分となる。
【0095】
次に、得られた前記弾丸状のCu−W複合材料をシャンク部となるCuにて鋳包みした。円柱状の隙間を持つカーボンの割型底部にCu−W複合材料を、その上部にCu板を乗せ、1200℃にてCuを溶融後に冷却し、Cu−W複合材料と一体化した。
【0096】
一体化後に、機械加工にて所望の形状に切削加工して、遮断器用接点形状とした。
【0097】
以上の手段にてチップとシャンクが一体である遮断器用接点を得た。
得られた遮断器用接点は、遮断時にアークが発生する表層部およびその近傍のみがCu−Wからなる。それ以外の部分は熱伝導の高いCu材料からなるために、Cu−W部分表面の温度上昇が抑制される。そのために、Cu−W部分のアークによる溶融や蒸発が従来の遮断器よりも少なくできた。
【0098】
実施例2(第2の方法)
遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造し、チップに該当する部分に溶射法にてそれぞれ粉末状の50体積%の純銅、50体積%のタングステン、純銅とタングステンの合計質量に対して1質量%のSrB、0.05質量%のCoを溶射してカップ形状を形成し、シャンク部を形成するCuで埋設固着して得る遮断器用接点の製造方法を述べる。
【0099】
まず、銅の棒材を加工して、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅を得る(図4(H))。遮断器用接点の最大径は42mmで、チップ部形状に該当する部分は半径で2mmこれよりも小さい。同様に先端の略半球部も2mm小さい。
【0100】
次に、タングステンと銅とを同時に、チップ部に該当するシャンクの部分に溶射を行う。この模式図を図4(I)に示す。溶射は、高速フレーム溶射(JIS Z 3001)にて前記タングステン、銅、SrB、Coの混合粉末を溶射した。この溶射で、必要とする厚さのCu−W複合材料層を約2.5mm形成する。銅とタングステンの体積比は50:50である。
【0101】
次に、チップ部から不要な溶射物を除去するため、旋盤で仕上げ加工して遮断器用接点を得た。
【0102】
得られた遮断器用接点は、従来の遮断器用接点と比較して、アーク発生時のチップ部表面の温度を低下できた。そのために、遮断時のアーク熱によるCu−W複合材料の蒸発を従来の遮断器用接点(弾丸状のCu−W複合材料チップ部を有する)と比較して約58%に抑えることができた。そのために、遮断器の交換頻度も下げることが可能である。
【0103】
また、この方法は高価なタングステンの使用量が従来の遮断器用電極と比較して極めて少なかった。加工がCuよりも困難であるCu−W複合材料の部分が小さいために、加工費用も削減できた。さらに、炉に投入する回数が1回でよいので、製造時間を短縮できる上に、炉の使用にかかる費用も削減できた。
【0104】
この第2の方法において、溶射条件によってはチップ部中に気孔が存在する場合がある。気孔が残存すると熱伝導率の低下、クラック発生が容易になるという不具合を起こすために望ましくない。
この場合は、溶射後に非酸化雰囲気中で銅の融点以上に昇温することにより、気孔部分に銅が充填し、気孔をなくすことができる。その結果、気孔を有さない遮断器用接点を得られる。
【0105】
実施例3(第3の方法)
この実施例には、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部の銅をまず製造し、チップに該当する部分に溶射法にてタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を形成し、そのタングステンスケルトンにクロム銅を溶浸することにより遮断器用接点を得る方法を示す。
【0106】
まず、遮断器用接点からチップ部形状を欠いたシャンク部のクロム銅は、棒状のクロム銅素材から切削加工で得た。遮断器用接点の最大径は40mmで、チップ部形状に該当する部分は半径で2mmこれよりも小さい径を有する。
【0107】
次に、チップに該当する部分に粉末式フレーム溶射法にて粉末状のタングステンを溶射してタングステンスケルトンのカップ形状を、厚さ約1mmに形成した(図5(J))。この際は、タングステンスケルトンを連続した開気孔が残る状態で、かつ、タングステンの粒子同士がネッキングした状態であった。タングステンスケルトンの気孔率は約40%であった。
【0108】
このカップ形状のタングステンスケルトンにクロム銅を溶浸した。溶浸は水素雰囲気中、1200℃にて行なった。その結果、カップ状のタングステンの開気孔中にCuが充填された。こうして、図5(K)に示すようにクロム銅のシャンク部と一体となったCu−W複合材料チップを得た。
【0109】
続いてチップ部から、不要なクロム銅を除去し、旋盤にて仕上げ加工することにより遮断器用接点を得た。
【0110】
得られた遮断器用接点は、従来の遮断器用接点と比較して、アーク発生時のチップ部表面の温度を低下できた。そのために、遮断時のアーク熱によるCu−W複合材料の蒸発を従来の遮断器用接点(弾丸状のCu−W複合材料チップ部を有する)と比較して約60%に抑えることができた。そのために、遮断器の交換頻度も下げることが可能である。
また、この方法は高価なタングステンの使用料が従来の遮断器用電極と比較して極めて少なかった。加工がCuよりも困難であるCu−W複合材料の部分が小さいために、加工費用も削減できた。さらに、炉に投入する回数が1回でよいので、製造時間を短縮できる上に、炉の使用にかかる費用も削減できた。
【0111】
(実施例4)第4の方法
この実施例には、弾丸状の内面を持つ型にタングステンカーバイド(WC)を溶射してタングステンカーバイドスケルトン層を形成し、タングステンカーバイドスケルトン層に銅を溶浸ながら溶浸余剰の銅でシャンクの形状を鋳造し、最終形状に整形することによる遮断器用接点を得る方法を示す。
【0112】
まず、弾丸状の内面を持つ型を準備した。この型は、1200℃程度(溶浸温度)で溶融せず、かつ、銅やタングステンカーバイドと反応しにくい素材である酸化ジルコニウムを選択した。型は取出しなどの工程に有利ように、図3(F)に示すような割型とした。この型の内面側先端部にタングステンカーバイドスケルトン層を溶射した。溶射は、粉末式フレーム溶射法にてタングステンカーバイド粉末を溶射し、タングステンカーバイドスケルトンのカップ形状を、厚さ約3mmに形成した。次に、カップの閉じた部分を下方にし、割型の内部に塊状のCuを設置して、水素雰囲気中にてCuをタングステンカーバイドスケルトンに溶浸および鋳包みした。Cuは毛細管現象によりタングステンカーバイドスケルトン部に優先的に溶浸しCu−W複合材料のチップを形成し、連続して得られる残部はシャンク部となる。こうしてCuのシャンク部と一体となったCu−WC複合材料チップを得た。
【0113】
続いてチップ部から、不要なCuを除去し、旋盤にて仕上げ加工することにより遮断器用接点を得た。
【0114】
得られた遮断器用接点は、従来の遮断器用接点と比較して、アーク発生時のチップ部表面の温度を低下できた。そのために、遮断時のアーク熱によるCu−WC複合材料の蒸発を従来の遮断器用接点(弾丸状のCu−WC複合材料チップ部を有する)と比較して約58%に抑えることができた。そのために、遮断器の交換頻度も下げることが可能である。
【0115】
また、この方法はレアメタルを使用したあるタングステンカーバイドの使用料が従来の遮断器用電極と比較して極めて少なかった。加工がCuよりも困難であるCu−WC複合材料の部分が小さいために、加工費用も削減できた。さらに、炉に投入する回数が1回でよいので、製造時間を短縮できた。
【0116】
また、以上には遮断器用接点の図2の(C)に示すような形状にについて述べたが、形状が異なるだけで壺状の接点についても全く同様の効果があり、同様の方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0117】
1 チップ部
2 シャンク部
3 形成用型
8 開閉機構
4 シャンク形成用空隙
5 タングステンスケルトン
6 メインコンタクト
7 Cu−W複合材料
10 遮断器
A 遮断器用接点(第1の接点)
B 遮断器用接点(第2の接点)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8