(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の信号処理系は、前記第2のヘッドアンプから出力されるデータに処理を施して外部へ出力する再生信号処理回路と、前記外部からの指示と前記第1のヘッドアンプから出力されるサーボ情報とに基づいて、前記磁気ヘッドの目標アドレスへのシークまたは前記磁気ヘッドのトラッキングを行わせるための制御信号を生成する制御回路を更に有する
ことを特徴とする請求項1または2記載の磁気記憶装置。
磁気ヘッドにより、データが記録再生される上層記録層と、前記上層記録層より高い保磁力を有すると共に前記上層記録層より前記磁気ヘッドからの距離が離れておりサーボ情報が記録されている下層記録層を有する磁気記録媒体から信号を再生し、
前記サーボ情報と前記データは互いに異なる記録周波数で前記下層記録層及び前記上層記録層に記録されており、
第1のヘッドアンプ及び第2のヘッドアンプにより、前記磁気ヘッドからの再生信号を並行して処理し、前記第1のヘッドアンプで前記再生信号中のサーボ情報を増幅すると共に前記第2のヘッドアンプで前記再生信号中のデータを増幅し、
前記第1のヘッドアンプ及び前記第2のヘッドアンプとでは、処理を施す周波数帯域が互いに異なる
ことを特徴とする情報再生方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
磁気記録媒体の記録密度向上のためにヘッドの磁気記録媒体からの浮上量を減少させると、ヘッドが磁気記録媒体の表面と接触する可能性が増加するため、接触によりヘッドが磁気記録媒体に記録されているサーボ情報を正常に再生できなくなったり、ヘッド及び磁気記録媒体の少なくとも一方が接触により破損したりして、磁気記憶装置の信頼性が低下する場合がある。
【0010】
一方、耐タンパ性及び耐衝撃性向上のため、上層記録層と下層記録層を有する磁性層のうち、保磁力の高い方の下層記録層のサーボ信号領域にサーボ信号を記録する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、磁性層の上層記録層にデータを記録し、下層記録層にサーボ信号を記録した場合、磁気記録媒体から同時に再生された信号からデータ及びサーボ信号を分離する信号処理系についての提案はされていない。
【0011】
そこで、本発明の一実施形態における磁気記憶装置及び情報再生方法では、磁気記録媒体の異なる記録層に記録された信号を磁気ヘッドで同時に再生し、再生信号を並行して第1のヘッドアンプ及び第2のヘッドアンプで処理することで、再生信号から分離されたサーボ情報を第1のヘッドアンプから出力し、再生信号から分離されたデータを第2のヘッドアンプから出力する。
【0012】
以下に、本発明の各実施形態における磁気記憶装置及び情報再生方法を図面と共に説明する。
【0013】
(磁気記録媒体)
図1は、本発明の一実施形態における磁気記録媒体の一例の一部を示す断面図である。
図1における各層の膜厚は、実際の寸法に比例した縮尺で図示したものではない。磁気ディスク1は、磁気記録媒体の一例である。
【0014】
磁気ディスク1は、
図1に示すように、例えば非磁性基板11の上に、軟磁性下地層12、第1の配向制御層13、第2の配向制御層14、下層記録層15−1、非磁性層16、上層記録層15−2、保護層17を順次積層し、保護層17上に潤滑膜18を設けた構造を有する。この例では、非磁性層16を挟む上層記録層15−2及び下層記録層15−1が垂直磁性層15を形成する。
【0015】
非磁性基板11は、CoまたはFeが主成分の軟磁性下地層12と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食する可能性がある。このような腐食を防止する観点からは、非磁性基板11と軟磁性下地層12の間に密着層(図示せず)を設けることが好ましい。なお、密着層は、例えばCr、Cr合金、Ti、Ti合金などで形成可能である。また、密着層の膜厚は、例えば2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0016】
軟磁性下地層12は、後述する磁気記憶装置の磁気ヘッドから発生する磁束の非磁性基板11の基板面に対する垂直方向成分を大きくし、情報が記録される垂直磁性層15の磁化の方向をより強固に基板面と垂直な方向に固定するために設けられる。このような軟磁性下地層12の作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著となる。
【0017】
軟磁性下地層12は、例えばFe、または、Ni、Coなどを含む軟磁性材料で形成可能である。軟磁性材料は、例えばCoFeTaZr、CoFeZrNbなどのCoFe系合金、FeCo、FeCoVなどのFeCo系合金、FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなどのFeNi系合金、FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなどのFeAl系合金、FeCr、FeCrTi、FeCrCuなどのFeCr系合金、FeTa、FeTaC、FeTaNなどのFeTa系合金、FeMgOなどのFeMg系合金、FeZrNなどのFeZr系合金、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを含む。
【0018】
軟磁性下地層12は、例えば2層の軟磁性膜(図示せず)から構成されており、2層の軟磁性膜の間にはRu膜(図示せず)を設けることが好ましい。Ru膜の膜厚を0.4〜1.0nm、または、1.6〜2.6nmの範囲で調整することで、2層の軟磁性膜が反強磁性結合(AFC:Anti-Ferromagnetically-Coupled)構造を形成し、所謂スパイクノイズを抑制することができる。
【0019】
また、第1の配向制御層13と垂直磁性層15の間には、第2の配向制御層14を設けることが好ましい。この場合、第1の配向制御層13の直上にある垂直磁性層15の初期部には、結晶成長の乱れが生じ易く、この結晶成長の乱れがノイズの原因となり得る。この垂直磁性層15の初期部の結晶成長が乱れた部分を第2の配向制御層14で補償することで、ノイズの発生を抑制できる。
【0020】
第2の配向制御層14を形成する材料は特に限定されないが、六方最密充填(hcp:hexagonal close-packed)構造、面心立方格子(fcc:face-centered cubic)構造、またはアモルファス(amorphous)構造を有するものを用いることが好ましい。第2の配向制御層14は、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金などで形成することが好ましく、RuまたはRuを主成分とする合金で形成することが更に好ましい。また、第2の配向制御層14の膜厚は、例えば5nm以上、且つ、30nm以下とすることが好ましい。
【0021】
垂直磁性層15を形成する下層記録層15−1及び上層記録層15−2は、例えばCoを主成分とし、酸化物を含む材料で形成可能であり、酸化物は例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどであることが好ましい。酸化物は、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などであることが更に好ましい。また、上層記録層15−2は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物で形成することが好ましい。上層記録層15−2は、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などで形成することが更に好ましい。
【0022】
垂直磁性層15の便宜上非磁性層16を含む厚みは、例えば5nm〜20nmの範囲とすることが好ましい。垂直磁性層15の厚みが上記範囲の下限未満であると、十分な再生出力が得られず、熱揺らぎ特性も低下する可能性がある。また、垂直磁性層15の厚さが上記範囲の上限を超えると、垂直磁性層15中の磁性粒子の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、信号対雑音比(S/N比(Signal-to-Noise Ratio))や記録特性(OW:Over-Write特性)で表される記録再生特性が悪化する可能性がある。
【0023】
また、垂直磁性層15の上層記録層15−1及び下層記録層15−2間の非磁性層16は、例えばRu、Re、Cu、CoCrなどで形成可能である。
【0024】
保護層17は、垂直磁性層15の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気ディスク1と接触したときに媒体表面の損傷または磁気ヘッド自体の損傷を防ぐために設けられ、公知の材料で形成可能である。保護層17は、例えばC、SiO
2、ZrO
2を含む材料で形成可能である。保護層17の膜厚は、例えば1nm〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気ディスク1との距離を小さくできるので、高記録密度を実現する観点から好ましい。
【0025】
潤滑膜18は、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤で形成することが好ましい。
【0026】
図2は、下層記録層15−1を示す平面図であり、
図3は、上層記録層15−2を示す平面図である。
図2に示すように、下層記録層15−1には、サーボ情報が、情報(サーボ情報以外のデータ)が記録される上層記録層15−2に形成されるトラック方向に沿ったサーボ情報領域40に連続的に記録されていても良い。磁気ディスク1の場合、トラック方向は、同心円状トラックが延在する円周方向であっても、螺旋状トラックが延在する螺旋方向であっても良い。
図2に示す例では、便宜上トラックが磁気ディスク1の中心、即ち、開口1Aの中心と同心円状形成されるものとする。一方、
図3に示すように、情報(以下、データとも言う)は、開口1Aを除く上層記録層15−2の略全領域で形成されたデータ領域41に対して記録再生が可能である。
図2及び
図3における開口1Aと磁気ディスク1全体の大きさは、実際の寸法に比例した縮尺で図示したものではない。上層記録層15−2にはサーボ情報が記録されないので、上層記録層15−2の大部分を情報が記録再生されるデータ領域41として使用でき、磁気ディスク1の記録密度を向上することができる。
【0027】
磁気ヘッドは、下層記録層15−1に記録されたサーボ情報を再生するので、サーボ情報が下層記録層15−1にトラック方向に沿って連続的に記録されている場合、連続的に再生できる。サーボ情報が下層記録層15−1にトラック方向に沿って連続的に記録されている場合、サーボ情報が記録層に断続的に設けられたサーボ情報領域のみに記録されている場合と比較すると、磁気ヘッドはサーボ情報を連続的に再生できるので、再生されたサーボ情報に基づく磁気ヘッドの目標アドレスへのシークやトラッキングなどをより高精度に行うことができ、サーボ情報の再生時にエラー(例えば、リードエラー)が発生した場合でもシーク動作やトラッキング動作をより高速に収束させることができる。
【0028】
図4は、サーボ情報の一例を示す図である。
図4に示すように、サーボ情報領域40は、サーボ情報部40−1,40−2,40−3,...,40−N(Nは2以上の自然数)を有する。なお、磁気ヘッドは、
図4における左右方向に浮上走行し、サーボ情報を再生する(即ち、読み込む)。各サーボ情報部40−i(i=1〜N)は、バースト情報領域43、アドレス情報領域44、及びプリアンブル情報領域45を含む。バースト情報領域43には、磁気ヘッドをトラックの中央に位置付けさせるトラッキングのためのバースト情報の一例であるバーストパターン43aが形成されている。バーストパターン43aは、例えば隣接するトラック間に設けられた細かなドット状の形状とされている。アドレス情報領域44には、上層記録層15−2のデータ領域41の番地を示すトラック情報及びセクタ情報を含むアドレス情報の一例であるアドレスパターン44aが形成されている。アドレスパターン44aは、上層記録層15−2に形成されるトラックと直交する方向に延在する例えば不規則な線状の形状を有する。プリアンブル情報領域45には、個々のサーボ情報部40−1〜40−Nの識別に用いられるプリアンブル情報の一例であるプリアンブルパターン45aが形成されている。プリアンブルパターン45aは、磁気記録されるプリアンブル情報領域45を形成し、トラックと直交する方向に延在する例えば長さの揃った線状の形状を有する。
【0029】
後述するように、磁気ディスク1の外周と内周間で移動する磁気ヘッドが、下層記録層15−1のプリアンブル情報領域45のプリアンブル情報を再生しアドレス情報を再生する準備をし、下層記録層15−1のサーボ情報領域40において、上層記録層15−2のデータ領域41のアドレス情報を再生し、同一円周上(即ち、同一トラック方向上)に設けられた下層記録層15−1のバースト情報領域43のバースト情報を再生してトラック位置の微調整を行い、その後、上層記録層15−2のデータ領域41に対してデータの記録再生を行う。
【0030】
磁気ディスク1の垂直磁性層15は、上層記録層15−2及び下層記録層15−1を有する2層構造を有し、保磁力が高い方の下層記録層15−1にサーボ情報を記録し、保磁力が低い方の上層記録層15−2はデータを記録する。サーボ情報が記録される下層記録層15−1のサーボ情報領域40と、データが記録される上層記録層15−2のデータ領域41は、磁気ディスク1の平面図上で重なる。これにより、データを記録する上層記録層15−2のデータ領域41が磁気ディスク1の略全面に広がり、磁気ディスク1の面記録密度(または、単位面積当たりの記録容量)を高めることが可能となる。また、磁気ディスク1の保磁力の高い方の下層記録層15−2へのサーボ情報の記録は、例えば専用のサーボトラックライタ(STW:Servo Track Writer)で行われるため、サーボ情報の記録信号強度は安定なものとなる。
【0031】
図5は、サーボ情報が断続的に記録されている磁気記録媒体の比較例を示す平面図である。
図5に示す磁気ディスク101では、同一の記録面内に、サーボ情報が記録されたサーボ情報領域110と、データの記録再生が行われるデータ領域111とが別々の領域に設けられている。サーボ情報領域110は、磁気ディスク101の中心から略放射状に延び、データ領域111は隣接するサーボ情報領域110間に設けられている。例えば
図5中、磁気ヘッドの浮上走行方向(即ち、トラック方向)で見ると、□で囲んだ1つのトラックに沿った領域が、データ領域111、サーボ情報領域110、及びデータ領域111を有する。サーボ情報領域110に記録されるサーボ情報は、
図4に示す1つのサーボ情報部と同様であるが、
図5の場合はプリアンブル情報領域にトラック内でデータ領域111からサーボ情報領域110に移る箇所の識別に用いられるプリアンブル情報の一例であるプリアンブルパターンが形成されている。
【0032】
磁気ディスク101のサーボ情報領域110及びデータ領域111は、同一磁気記録層に設けられていても、サーボ情報領域110が2層構造の垂直磁性層の下層記録層に設けられ、データ領域111が2層構造の垂直磁性層の上層記録層に設けられていても良い。いずれにしても、
図5を
図2及び
図3の組合せと比較することでもわかるように、磁気ディスク101のデータ領域111は断続的に設けられるので、磁気ディスク1と比べると面記録密度が低い。また、
図5のサーボ情報は、トラック方向に沿って連続的に記録されていないので、このサーボ情報に基づいて磁気ヘッドの目標アドレスへのシークやトラッキングなどを制御した場合は断続的な制御となり、上記実施形態のように磁気ヘッドの目標アドレスへのシークやトラッキングなどを連続的に制御することはできない。従って、比較例の場合、上記実施形態のように磁気ヘッドのシークやトラッキングなどを高精度に行うことは難しく、サーボ情報の再生時にエラー(例えば、リードエラー)が発生した場合にシーク動作やトラッキング動作を高速に収束させることも難しい。
【0033】
(磁気記憶装置)
図6は、本発明の一実施形態における磁気記憶装置の一例の一部を示す斜視図である。
図6に示すハードディスク装置(HDD)51は、磁気記憶装置の一例である。この例では、HDD51は磁気ディスク1にデータを記録再生可能な構成を有するが、データを記録する構成を有しても、データを再生する構成を有しても良い。また、磁気ディスク1は、HDD51の一部を形成しても良い。
【0034】
図6に示すHDD51は、ハウジング(または、筐体)52を有する。ハウジング52内には、磁気ディスク1、磁気ディスク1を回転駆動させる媒体駆動部81、磁気ディスク1に記録されたサーボ情報及びデータを再生すると共にデータを磁気ディスク1に記録する機能を有する磁気ヘッド82、磁気ヘッド82を磁気ディスク1に対して相対移動させるヘッド駆動部83、及び信号処理部84を有する。磁気ヘッド82が磁気ディスク1を走査する際、下層記録層15−1は、上層記録層15−2より磁気ヘッド82からの距離が離れている。つまり、磁気ヘッド82は、磁気ディスク1の下層記録層15−1よりも上層記録層15−2の方に近い配置を有する。
【0035】
磁気ヘッド82には、再生素子としてトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用したTMR素子などを有し、高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。ヘッド駆動部83は、磁気ヘッド82を磁気ディスク1の外周と内周間で移動するヘッド駆動用ボイスコイルモータ(VCM:Voice Coil Motor)などのヘッド移動機構を含む。このようなヘッド駆動部83自体は周知であるため、ヘッド駆動部83の構造の図示及び説明は省略する。
【0036】
信号処理部84は、記録信号処理回路と再生信号処理回路を有する。記録信号処理回路は、外部から入力されたデータを磁気ディスク1を記録するのに適した信号に処理した記録信号を磁気ヘッド82に供給する。一方、再生信号処理回路は、磁気ヘッド82が磁気ディスク1から再生した信号(即ち、データ及びサーボ情報)をヘッドアンプ部を介して入力し、データを外部に出力するのに適した信号に処理した再生信号を外部へ出力する。ヘッドアンプ部は、磁気ヘッド82が磁気ディスク1から再生した信号をデータ及びサーボ情報に分離する分離手段の一例である。
【0037】
図7は、磁気記憶装置の一部を示すブロック図である。
図7に示すように、HDD51は、磁気ヘッド82、ヘッドアンプ部183、ヘッド駆動用VCM184、信号処理部84、及び制御回路187を有する。磁気ヘッド82は、磁気ディスク1に記録されたサーボ情報及びデータを再生する再生ヘッド82−1と、データを磁気ディスク1に記録する記録ヘッド82−2を有する。ヘッドアンプ部183は、第1のヘッドアンプの一例であるサーボ情報用ヘッドアンプ183−1と、第2のヘッドアンプの一例である記録再生情報用ヘッドアンプ183−2を有する。
図6に示すヘッド駆動部83は、ヘッド駆動用VCM184を含む。
図6に示す信号処理部84は、再生信号処理回路185及び記録信号処理回路186を有する。ヘッドアンプ部183、再生信号処理回路185、及び制御回路187は、磁気ヘッド82の再生ヘッド82−1からの信号を処理する第1の信号処理系の一例を形成する。一方、記録信号処理回路186は、磁気ヘッド82の記録ヘッド82−2への信号を処理する第2の信号処理系の一例を形成する。
【0038】
HDDなどに用いられる磁気ディスクでは、サーボ情報の記録は1回限りであり、例えばHDDの製造者が専用のSTWを用いて行うのが一般的である。このようなSTW自体は周知である。この例では、このようなSTWを用いて磁気ディスク1の保磁力の高い方の下層記録層15−1にサーボ情報が記録されているものとする。データは、下層記録層15−1と比べて保磁力の低い方の上層記録層15−2に対して記録され、再生されるものとする。データの上層記録層15−2への記録は、HDDの製造者に加え、HDDのユーザで行える。上層記録層15−2へのデータの記録には、書き込み力が比較的低く、下層記録層15−1にデータを記録することがなく、上層記録層15−2のみにデータを記録可能な記録ヘッド82−2を使用する。このような記録ヘッド82−2は、一般的なHDDに内蔵されている磁気ヘッドと同様である。
【0039】
下層記録層15−1に記録されたサーボ情報と上層記録層15−2に記録されたデータは、磁気ディスク1の平面図上で重なるので、再生ヘッド82−1は、サーボ情報とデータの両方を同時に再生する。サーボ情報とデータとで記録周波数が互いに異なるように記録を行うことで、再生ヘッド82−1が磁気ディスク1から再生した信号からサーボ情報とデータを分離手段で分離することができる。
図7に示す例では、ヘッドアンプ部183が分離手段の一例を形成している。ヘッドアンプ部183は、信号処理を施す周波数帯域が互いに異なるサーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2を有する。従って、再生ヘッド82−1が磁気ディスク1から再生した信号を並行してサーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2で処理することで、サーボ情報とデータの周波数帯域が互いに異なることから再生信号から分離されたサーボ情報をサーボ情報用ヘッドアンプ183−1から出力し、再生信号から分離されたデータをデータ用ヘッドアンプ183−2から出力することができる。
【0040】
分離手段の一例であるヘッドアンプ部は、再生ヘッド82−1が磁気ディスク1から再生した信号が入力される単一のヘッドアンプと、サーボ情報とデータの互いに異なる周波数帯域を利用して、このヘッドアンプの出力をサーボ情報とデータに分離するフィルタを有する構成を有しても良い。この場合、ヘッドアンプ部は、フィルタが出力するサーボ情報を増幅する第1のアンプと、フィルタが出力するデータを増幅する第2のアンプを更に有する構成を有しても良い。しかし、分離手段として単一のヘッドアンプで形成されたヘッドアンプ部を用いた場合、
図7のように再生ヘッド82−1が磁気ディスク1から再生した信号を並行してサーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2で処理する場合と比較すると、再生信号から分離されたサーボ情報とデータを出力するのに要する時間が長くなり、再生信号の高速処理を行うことは難しい。従って、再生信号の高速処理を考慮すると、ヘッドアンプ部は、ヘッドアンプ部183のように再生ヘッド82−1が磁気ディスク1から再生した信号を並行して処理するサーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2を有する構成とすることが好ましい。
【0041】
図7の説明に戻るに、サーボ情報ヘッドアンプ183−1から出力されるサーボ情報は、制御回路187に供給される。制御回路187は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサで形成可能である。制御回路187は、外部からの指示と、サーボ情報用ヘッドアンプ183−1からのサーボ情報とに基づいて、磁気ヘッド82の目標アドレスへのシークや磁気ヘッド82のトラッキングを行わせるための制御信号を生成し、ヘッド駆動用VCM184に供給する機能を有する。ヘッド駆動用VCM184は、制御回路187からの制御信号に基づいて磁気ヘッド82を駆動して移動することで、シーク動作やトラッキング動作を行うヘッド駆動部の一例である。なお、ヘッド駆動部自体は周知であるため、シーク動作やトラッキング動作を実現するために磁気ヘッド82を駆動する個々の機構などの図示及び説明は省略する。
【0042】
なお、再生信号処理回路185は、データ用ヘッドアンプ183−2から出力されるデータに処理を施して外部へ出力する。再生信号処理回路185がデータに施す処理は、例えば外部のホスト装置(図示せず)での信号処理に適した再生信号に変換する処理を含んでも良い。一方、記録信号処理回路186は、外部から入力された記録するべき信号に処理を施して、磁気ヘッド82の記録ヘッド82−2に供給する。記録信号処理回路186が外部から入力された信号に施す処理は、例えば磁気ディスク1に記録するのに適した記録信号に変換する処理を含んでも良い。
【0043】
(磁気記録媒体の製造方法)
本発明者らは、外径65mm、中央孔20mm、厚さ0.80mmの円盤状ガラス基板を用いて磁気ディスクを製造した。
【0044】
具体的には、先ず、円盤状ガラス基板を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、この円盤状ガラス基板の上に、Crターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20原子%、Zr含有量5原子%、Ta含有量5原子%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚25nmの軟磁性層を成膜し、この上に層厚0.7nmのRu層を成膜した後、更にその上に層厚25nmのCo−20Fe−5Zr−5Ta軟磁性層を軟磁性下地層として成膜した。
【0045】
次に、軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲットを用いて、層厚5nmのシード層を成膜した後、このシード層の上に、スパッタ圧力を0.8Paとして層厚10nmのRu層を第1の配向制御層として成膜した。
【0046】
次に、スパッタ圧力を1.5Paとして層厚10nmのRu層を第2の配向制御層として成膜した。そして、この第2の配向制御層の上に、91(Co15Cr16Pt)−6(SiO
2)−3(TiO
2){Cr含有量15原子%、Pt含有量16原子%、残部Coの合金を91mol%、SiO
2酸化物を6mol%、TiO
2酸化物を3mol%}磁性層を下層記録層として、スパッタ圧力を2Paとして層厚9nmに成膜した。下層記録層の保磁力は、7000Oeとした。
【0047】
次に、下層記録層の上に、88(Co30Cr)−12(TiO
2){Cr含有量30原子%、残部Coの合金を88mol%、TiO
2酸化物を12mol%}非磁性層を、層厚20nmに成膜した。その後、この非磁性層の上に、92(Co11Cr18Pt)−5(SiO
2)−3(TiO
2){Cr含有量11原子%、Pt含有量18原子%、残部Coの合金を92mol%、SiO
2酸化物を5mol%、TiO
2酸化物を3mol%}磁性層を上層記録層として、スパッタ圧力を2Paとして層厚6nmに成膜した。上層記録層の保磁力は、5000Oeとした。
【0048】
次に、CVD法により層厚3nmの保護層を成膜し、最後に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑膜を成膜することにより、磁気ディスクを作製した。
【0049】
(サーボ情報の記録方法)
次に、作製した磁気ディスクに、STWを用いてサーボ情報を記録した。サーボ情報の記録は、磁気ディスクの回転数を7200回転/分、記録周波数は30MHzとした。サーボ情報の記録は、下層記録層、上層記録層の両層に同時に行い、その後、外部磁場を印加して上層記録層の記録情報を消去した。これにより、サーボ情報は、下層記録層には記録され、上層記録層には記録されていない磁気ディスクが作製された。
【0050】
(磁気記憶装置の評価)
本発明者らは、上記の如く作製された磁気ディスクの評価を行った。具体的には、熱式浮上量可変素子がヘッドのスライダに形成された磁気ヘッドを用いて、磁気ディスクへのリードライト評価を行った。評価条件c1〜c4は以下の通りである。
c1:磁気ディスクの回転数:7200回転/分
c2:評価ヘッド:熱式浮上量可変素子内蔵型MRヘッド
c3:ヘッド浮上量の可変量:1nm/10mW
c4:記録周波数:70MHz
磁気ディスクへの信号の記録、及び磁気ディスクからの信号の再生は、サーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2を含む第1の信号処理系を用いて、下層記録層に記録されたサーボ情報に基づいて磁気ヘッドの位置付けを行いながら、データセクタにおいて磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量を±3nmの範囲内に制御して行った。
【0051】
この磁気ディスクについて、データを記録して再生した場合のビットエラーレート(BER:Bit Error Rate)を測定した。なお、BERは、「−log(エラービット数/総ビット数)」で算出した。この測定の結果、BERは4.21であった。このように算出したBERの値が大きい程、磁気記憶装置の信頼性が高いことになる。
【0052】
(比較例の評価)
上記の如く作製された磁気ディスクを用いてBERを測定する際に、単一のヘッドアンプを有する第1の信号処理系を用いた比較例についてもリードライト評価を行った。即ち、サーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2を単一のヘッドアンプとし、磁気ヘッドからの再生信号をこのヘッドアンプで増幅し、その後、この再生信号からサーボ情報とデータをフィルタによって分離した。この再生データのBERは4.01であった。
【0053】
つまり、再生信号のサーボ情報及びデータを並行してサーボ情報用ヘッドアンプ183−1及びデータ用ヘッドアンプ183−2で処理することで、比較例と比べて再生データの信頼性が向上することが確認された。
【0054】
なお、上記の如き磁気記録媒体の製造方法で用いる材料、膜厚、プロセスなどは、一例にすぎない。また、磁気記憶装置の評価方法も、上記評価方法に限定されない。
【0055】
以上、磁気記憶装置及び情報再生方法を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。