特許第6118082号(P6118082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118082
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】肌画像分析装置及び肌画像分析方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/107 20060101AFI20170410BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   A61B5/10 300Q
   A61B5/00 101A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-258905(P2012-258905)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-104132(P2014-104132A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】天野 恭子
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−308634(JP,A)
【文献】 特開2003−159195(JP,A)
【文献】 特開平07−019839(JP,A)
【文献】 特開平09−038045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/107
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出される前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する推定手段と、
を備える肌画像分析装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記推定された表皮厚から肌の代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、
請求項1に記載の肌画像分析装置。
【請求項3】
前記推定手段により推定される肌の代謝状態を示す情報を出力する出力処理手段、
を更に備える請求項1又は2に記載の肌画像分析装置。
【請求項4】
分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、
ことを含む肌画像分析方法。
【請求項5】
記推定された表皮厚から肌の代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、
請求項4に記載の肌画像分析方法。
【請求項6】
前記推定される肌の代謝状態を示す情報を提示する、
請求項4又は5に記載の肌画像分析方法。
【請求項7】
少なくとも1つのコンピュータに、
分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、
ことを実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌画像の分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の総合的な状態を表す指標として、肌の老化の進み具合(老化傾向)を示す肌年齢と呼ばれる尺度がよく利用されている。下記特許文献1では、頬の表皮の角質細胞の平均面積と季節とを指標として肌年齢を推定する手法が提案されている。一方、加齢に伴い変化する肌の指標として、肌の新陳代謝の状態(代謝状態)や表皮厚が着目されている。下記特許文献2では、皮膚を構成する表皮の厚さが加齢に応じて減少することが記載されている。また、下記非特許文献1及び2には、表皮の機能であり、肌の代謝状態を表すターンオーバー(角化)の速度が加齢に応じて減少することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−299792号公報
【特許文献2】特開2006−385号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Gerontologty, 38, pages 137-142, 1983
【非特許文献2】日皮会誌, 99, pages 999-1006, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1の手法では、細胞の採取、染色、顕微鏡観察などにより、角質細胞の平均面積を得るのに多くの時間及び労力が必要となる。また、分析対象肌から、表皮厚やターンオーバー速度を測定することには一定のハードルがある。例えば、表皮厚を測定するためには、上述の特許文献2で提案されるようなOCT(Optical Coherence Tomography)計測装置が必要となり、ターンオーバー速度を計測することは実際上困難である。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、肌画像に基づいて肌の代謝状態を推定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の各態様では、上述した課題を解決するために、それぞれ以下の構成を採用する。
【0008】
第1の態様に係る肌画像分析装置は、分析対象肌の色素斑部及びこの色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得する取得部と、この取得部により取得されるメラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する算出部と、この算出部により算出される変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する推定部とを有する。
【0009】
第2の態様に係る肌画像分析方法は、分析対象肌の色素斑部及びこの色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、取得されたメラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、算出された変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、ことを含む。
【0010】
なお、本発明の別態様としては、上記第1態様に係る構成をコンピュータに実現させるプログラムであってもよいし、このようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であってもよい。この記録媒体は、非一時的な有形の媒体を含む。
【発明の効果】
【0011】
上記各態様によれば、肌画像に基づいて肌の代謝状態を推定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における肌画像分析装置のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
図2】第1実施形態における肌画像分析装置の処理構成例を概念的に示す図である。
図3】第1実施形態における肌画像分析装置の動作例を示すフローチャートである。
図4】第2実施形態における肌画像分析装置の動作例を示すフローチャートである。
図5】実施例における表皮厚と角層細胞面積との関係を示すグラフである。
図6】実施例における表皮厚とターンオーバー時間との関係を示すグラフである。
図7】実施例において撮影された肌画像の例を示す図である。
図8】実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と表皮厚との関係を示すグラフである。
図9】実施例における表皮厚と実年齢との関係を示すグラフである。
図10】60代の被験者に関する、実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と代謝状態との関係を示す図である。
図11】60代の被験者に関する、実施例における表皮厚と代謝状態との関係を示す図である。
図12】肌の代謝状態の提示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0014】
本実施形態に係る肌画像分析装置は、分析対象肌の色素斑部及びこの色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得する取得部と、この取得部により取得されるメラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する算出部と、この算出部により算出される変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する推定部とを有する。
【0015】
本実施形態に係る肌画像分析方法は、分析対象肌の色素斑部及びこの色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、取得されたメラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、算出された変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、ことを含む。
【0016】
上述のように、メラニン成分画像の抽出元となる肌画像には、分析対象肌の色素斑部及び標準部が所定割合で含まれる。色素斑部とは、シミ、ソバカス等のような、表皮内部に沈着したメラニンが肌表面から透けて見えている箇所を意味し、標準部とは、そのような色素斑部以外の通常の肌部を意味する。所定割合は、色素斑部と標準部との境界が肌画像内に含まれていれば、特に制限されない。所定割合は、色素斑部と標準部とが概ね均等な割合であることが望ましい。
【0017】
本実施形態では、このような肌画像から抽出されるメラニン成分画像が取得される。メラニン成分画像は、メラニン成分が輝度として表わされた画像である。本実施形態では、このメラニン成分画像から、輝度の変動係数が算出される。具体的には、メラニン成分画像に関し、輝度の平均値及び輝度の標準偏差がそれぞれ算出され、その標準偏差がその平均値で除算されることにより、輝度の変動係数が算出される。算出される変動係数は、メラニン成分画像全体における輝度値の大きさや分布位置の影響が捨象された、輝度の純粋なばらつき程度を示す。
【0018】
まず、本発明者らは、メラニン成分画像の輝度の変動係数と表皮厚とに負の相関があること、及び、その肌の持ち主の実年齢と表皮厚とは無相関であることを見出した。また、本発明者らにより、表皮厚は角層細胞面積と負の相関を持つことが確認された。ここで、角層細胞面積が角層細胞の表皮内での滞在時間を反映しているとの一般的な見識がある。そこで、本発明者らは、そのような一般的な見識に基づいて、角層細胞面積をターンオーバー時間(速度)に変換することで、更に、表皮厚が、ターンオーバー時間と負の相関があることを導出した。ターンオーバー時間は、肌の新陳代謝の活発度、即ち、肌の代謝状態を示す。以上から、本発明者らは、実年齢とは無関係に様々な代謝状態を持つ肌(表皮)が存在しているところ、メラニン成分画像の輝度の変動係数を用いることで、肌の代謝状態を推定することができるとの新たな着想を得た。
【0019】
そこで、本実施形態では、上述のように算出された輝度の変動係数に基づいて、肌の代謝状態が推定される。従って、本実施形態によれば、上述のようなメラニン成分画像に対する簡易な画像解析のみによって、肌の代謝状態を簡単に推定することができる。
【0020】
また、肌の代謝状態は、肌の老化傾向、いわゆる肌年齢を表す1指標である。よって、本実施形態により推定される代謝状態は肌年齢を表すため、本実施形態は、肌年齢を推定しているということもできる。
【0021】
本実施形態に係る肌画像分析方法において、当該変動係数を用いて肌の代謝状態を推定する工程は、コンピュータにより実行されてもよいし、コンピュータに依存しない次のような形態として実現されてもよい。例えば、当該変動係数と代謝状態の活発さ又は緩慢さの程度を示す値との対応関係を示す2次元グラフや表が印刷された媒体が予め作成されており、ユーザが、その媒体と算出された変動係数とを見比べることにより、その分析対象肌の持ち主である被験者の肌の代謝状態を推定するようにしてもよい。
【0022】
以下、上述の実施形態について更に詳細を説明する。以下には、詳細実施形態として、第1実施形態及び第2実施形態が例示される。
【0023】
[第1実施形態]
〔装置構成〕
図1は、第1実施形態における肌画像分析装置(以降、単に分析装置とも表記する)1のハードウェア構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における分析装置1は、いわゆるコンピュータであり、例えば、バス5で相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、入出力インタフェース(I/F)4等を有する。メモリ3は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。
【0024】
入出力I/F4は、入力部7、出力部9、ネットワーク(図示せず)を介して他のコンピュータと通信を行う通信装置(図示せず)等と接続される。入力部7は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。出力部9は、ディスプレイ装置やプリンタ等のようなユーザに情報を提供する装置である。なお、分析装置1のハードウェア構成は制限されない。
【0025】
図2は、第1実施形態における分析装置1の処理構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における分析装置1は、肌画像取得部11、メラニン成分画像取得部12、算出部13、推定部14等を有する。これら各処理部は、例えば、CPU2によりメモリ3に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。また、当該プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F4を介してインストールされ、メモリ3に格納されてもよい。
【0026】
肌画像取得部11は、分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像の画像データを取得する。例えば、当該肌画像は、DSA(Digital Subtraction Angiography)(デジタルマイクロスコープ)を、色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含むように、分析対象肌の表面に当てて撮影することにより得られる。分析装置1は、DSAのような撮像装置を備えていてもよい。また、分析装置1は、そのような撮像装置を備えず、可搬型記録媒体、他のコンピュータ等から入出力I/F4を経由して当該画像データを取得するようにしてもよい。当該画像データは、例えば、JPEG形式、GIF形式等のファイルとして取得される。
【0027】
メラニン成分画像取得部12は、肌画像取得部11により取得された画像データからメラニン成分画像の画像データを生成する。例えば、メラニン成分画像取得部12は、肌画像取得部11により取得された画像データに、独立成分分析(ICA(Independent Component Analysis))のような周知の多変量解析を適用することにより、メラニン成分画像の画像データを生成する。
【0028】
算出部13は、メラニン成分画像取得部12により生成されたメラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する。具体的には、算出部13は、メラニン成分画像に関し、輝度の平均値及び輝度の標準偏差をそれぞれ算出し、その標準偏差をその平均値で除算することで、輝度の変動係数を算出する。
【0029】
推定部14は、算出部13により算出された輝度の変動係数から、分析対象肌の表皮厚を推定する。具体的には、推定部14は、変動係数から表皮厚を出力する推定関数を予め保持しており、この推定関数を用いて表皮厚を推定する。このような推定関数は、複数のサンプル肌画像を用いて予め算出される。
【0030】
推定部14は、推定された表皮厚に対応する代謝状態を示す情報を更に決定するようにしてもよい。具体的には、推定部14は、表皮厚から、代謝状態の活発さ又は緩慢さの程度を示す代謝状態値を出力する関数、又は、表皮厚と当該代謝状態値との対応表を予め保持しており、この関数又は対応表を用いて、推定された表皮厚に対応する代謝状態を示す情報を決定する。ここで、決定される代謝状態は、代謝が活発傾向を示すか否か、代謝が緩慢傾向を示すか否かといった2つの値の情報で示されてもよいし、代謝の活発程度又は緩慢程度を示す連続値で示されてもよい。また、当該代謝状態は、数値ではなく、活発、やや活発、普通、やや緩慢、緩慢といった代謝状態のレベルを示す文字列で示されてもよい。
【0031】
出力処理部15は、推定部14により推定された表皮厚を入出力I/F4を介して出力部9から出力する。出力処理部15は、その表皮厚と共に代謝状態を示す情報を出力するようにしてもよい。当該出力形態は、表示装置への表示であってもよいし、印刷装置からの印刷であってもよいし、音声出力であってもよい。
【0032】
〔動作例〕
以下、第1実施形態における肌画像分析方法について図3を用いて説明する。図3は、第1実施形態における分析装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0033】
分析装置1は、分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像の画像データを取得する(S31)。
分析装置1は、取得された画像データからメラニン成分画像の画像データを生成する(S32)。
【0034】
分析装置1は、メラニン成分画像から輝度の変動係数を算出する(S33)。
分析装置1は、輝度の変動係数から、分析対象肌の表皮厚を推定する(S34)。このとき、分析装置1は、表皮厚に対応する代謝状態を示す情報を更に決定するようにしてもよい。
【0035】
分析装置1は、表皮厚を所定の出力形態で出力する(S35)。このとき、分析装置1は、表皮厚と共に代謝状態を示す情報を出力するようにしてもよい。
【0036】
〔第1実施形態の作用及び効果〕
第1実施形態では、上述のように、分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から、メラニン成分が輝度として表わされたメラニン成分画像が取得され、このメラニン成分画像から、輝度の標準偏差が輝度の平均値で除算されて得られる輝度の変動係数が算出される。そして、当該輝度の変動係数から分析対象肌の表皮厚が推定され、推定された表皮厚が出力される。
【0037】
このように、第1実施形態によれば、上述のような本発明者らにより得られた新たな知見が具現化された情報処理により、特定部位の肌画像に対する簡易な画像解析のみによって、分析対象肌の表皮厚を推定することが出来る。上述したように、表皮厚と角層細胞面積との間には負の相関があることが確認されており、角層細胞面積はターンオーバー時間(速度)に変換することができる。そして、ターンオーバー時間は肌の代謝状態を示す。
【0038】
従って、第1実施形態によれば、このような各皮膚パラメータの関係により、当該表皮厚を肌の代謝状態を示す指標として出力することができる。更に、第1実施形態によれば、推定された表皮厚から、肌の代謝状態を推定し、その代謝状態を示す情報を出力することもできる。
【0039】
[第2実施形態]
第1実施形態では、肌の代謝状態を示す指標として表皮厚が推定され、その推定された表皮厚が出力された。第2実施形態は、上述のような、表皮厚、角層細胞面積、ターンオーバー時間のような各皮膚パラメータの関係から、肌の代謝状態を示す指標としてターンオーバー時間を推定する。以下、第2実施形態における分析装置1について、第1実施形態と異なる内容を中心に説明する。以下の説明では、第1実施形態と同様の内容については適宜省略する。
【0040】
第2実施形態では、推定部14は、算出部13により算出された輝度の変動係数から、分析対象肌の表皮厚を推定し、推定された表皮厚からターンオーバー時間を更に推定する。具体的には、推定部14は、変動係数から表皮厚を出力する推定関数と共に、表皮厚からターンオーバー時間を出力する推定関数を予め保持しており、この推定関数を用いてターンオーバー時間を推定する。
【0041】
この場合、推定部14は、推定されたターンオーバー時間に対応する代謝状態を示す情報を更に決定するようにしてもよい。具体的には、推定部14は、ターンオーバー時間から、代謝状態の活発さ又は緩慢さの程度を示す代謝状態値を出力する関数、又は、ターンオーバー時間と当該代謝状態値との対応表を予め保持しており、この関数又は対応表を用いて、推定されたターンオーバー時間に対応する代謝状態を示す情報を決定する。ここで、決定される代謝状態は、第1実施形態と同様である。
【0042】
出力処理部15は、推定部14により推定されたターンオーバー時間を入出力I/F4を介して出力部9から出力する。出力処理部15は、そのターンオーバー時間と共に、表皮厚及び代謝状態を示す情報を出力するようにしてもよい。当該出力形態は、制限されない。
【0043】
〔動作例〕
以下、第2実施形態における肌画像分析方法について図4を用いて説明する。図4は、第2実施形態における分析装置1の動作例を示すフローチャートである。図4では、図3と同じ工程について、図3と同じ符号が付されている。
【0044】
分析装置1は、表皮厚を推定すると(S34)、続いて、その表皮厚からターンオーバー時間を推定する(S41)。このとき、分析装置1は、ターンオーバー時間に対応する代謝状態を示す情報を更に決定するようにしてもよい。
【0045】
分析装置1は、ターンオーバー時間を所定の出力形態で出力する(S42)。このとき、分析装置1は、ターンオーバー時間と共に、表皮厚及び代謝状態を示す情報を出力するようにしてもよい。
【0046】
〔第2実施形態の作用及び効果〕
第2実施形態では、上述のように、第1実施形態と同様に、輝度の変動係数から分析対象肌の表皮厚が推定され、更に、その表皮厚からターンオーバー時間が推定される。そして、推定されたターンオーバー時間が出力される。
【0047】
このように、第2実施形態によれば、上述のような本発明者らにより得られた新たな知見が具現化された情報処理により、特定部位の肌画像に対する簡易な画像解析のみによって、分析対象肌のターンオーバー時間を推定することが出来る。更に、第2実施形態によれば、上述したような各皮膚パラメータの関係により、当該ターンオーバー時間を肌の代謝状態を示す指標として出力することができる。また、第2実施形態によれば、推定されたターンオーバー時間から、肌の代謝状態を推定し、その代謝状態を示す情報を出力することもできる。
【0048】
[変形例]
図3及び図4に示される上述の各実施形態に係る肌画像分析方法において、表皮厚を推定する工程(S34)、ターンオーバー時間を推定する工程(S41)、表皮厚を出力する工程(S35)又はターンオーバー時間を出力する工程(S42)は、コンピュータに依存しない次のような形態として実現されてもよい。
【0049】
(S34)では、変動係数と表皮厚との対応関係を示す2次元グラフや表が印刷された媒体が予め作成されており、ユーザが、その媒体と算出された変動係数とを見比べることにより、その分析対象肌の表皮厚を推定するようにしてもよい。この場合、(S35)では、その推定された表皮厚をユーザがその分析対象肌の持ち主である被験者に提示するようにすればよい。
【0050】
(S41)では、表皮厚とターンオーバー時間との対応関係を示す2次元グラフや表が印刷された媒体が予め作成されており、ユーザが、その媒体と推定された表皮厚とを見比べることにより、その分析対象肌のターンオーバー時間を推定するようにしてもよい。この場合、(S42)では、その推定されたターンオーバー時間をユーザがその分析対象肌の持ち主である被験者に提示するようにすればよい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げ、上述の各実施形態を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に制限されない。
【0052】
一般的に、表皮厚、角層細胞面積及びターンオーバー速度(時間)はそれぞれ加齢と相関があることが知られている(上記特許文献2、上記非特許文献1及び2参照)。この知見によれば、表皮厚と角層細胞面積とには相関があると考えられる。そこで、本実施例では、まず、表皮厚と角層細胞面積との関係を調査した。それは、皮膚内での実際の細胞のターンオーバー時間を測定することは困難であるところ、角層細胞面積は、角層細胞の表皮内での滞在時間を反映していると一般的に言われているからである。
【0053】
図5は、実施例における表皮厚と角層細胞面積との関係を示すグラフである。図5では、60代15名及び30代13名のサンプル提供者とから測定された表皮厚と角層細胞面積との関係がプロットされている。図5に示される相関関数では、yが角層細胞面積を示し、xが表皮厚を示す。
【0054】
表皮厚は、米国Lucid社製のVIVASCOPEと呼ばれる共焦点レーザー生体顕微鏡を用いて各サンプル提供者の皮膚を撮影することで得られた。表皮厚を抽出する方法には、共焦点レーザー生体顕微鏡により得られた3.17μmごとの皮膚の水平断面図より、表皮層が完全に視野から見えなくなる深さを表皮厚とし、同一のサンプル提供者についてそれぞれ撮影した3箇所の皮膚水平断面図より得られた表皮厚の平均値を算出する方法を用いた。
角層細胞面積は、非特許文献2の方法で測定された。
【0055】
図5に示されるように、本実施例において、表皮厚が、角層細胞面積と負の相関を持つことが確認された。ここで、一般的な表皮のターンオーバー時間は、4から6週間程度であると言われている。そこで、30代の角層細胞面積平均値である857μmのターンオーバー時間を5週間(35日)と定め、この値を基準にすれば、角層細胞面積をターンオーバー時間に変換することができる。
【0056】
図6は、実施例における表皮厚とターンオーバー時間との関係を示すグラフである。図6は、上記基準に基づいて、図5に示される角層細胞面積がターンオーバー時間に変換されることで得られたグラフである。
【0057】
図6により、皮膚内での実際の細胞のターンオーバー時間を測定することは困難であるところ、表皮厚が、肌の代謝状態を表すターンオーバー時間(日数)と負の相関を持つことが確認された。図6に示される相関関数では、yがターンオーバー時間(日数)を示し、xが表皮厚を示す。よって、例えば、上述の第2実施形態における分析装置1は、図6に示される相関関数(y=−0.1479x+43.437)を用いて表皮厚からターンオーバー時間を推定してもよい。
【0058】
次に、60代15名を肌画像のサンプルの提供者とし、各提供者の色素斑部及び標準部を略均等に含む各肌画像が、DSA(倍率×130)を用いてそれぞれ撮影された。図7は、実施例において撮影された肌画像の例を示す図である。図7には、15名のサンプル提供者の中の6名分の肌画像が示される。但し、図7は、出願の図面要領に基づいて、グレースケール画像となっている。
【0059】
実施例では、撮影された各肌画像に対して独立成分分析がそれぞれ行われ、各肌画像から各メラニン成分画像がそれぞれ生成された。そして、各メラニン成分画像の変動係数(CV値とも表記される)がそれぞれ算出された。
【0060】
図8は、実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と表皮厚との関係を示すグラフである。図8では、サンプル提供者毎に、そのサンプル提供者の肌画像から上述のように取得された各メラニン成分画像の変動係数と、そのサンプル提供者の肌から計測された表皮厚との関係がプロットされている。表皮厚は、図5の場合と同様な方法により計算された。
【0061】
本実施例により、図8に示されるように、メラニン成分画像のCV値は、表皮厚と負の相関があることが検証された。上述の各実施形態における分析装置1は、例えば、図8に示される相関関数(y=−127.49x+56.171)を用いてCV値から表皮厚を推定する。図8に示される相関関数では、yが表皮厚を示し、xがCV値を示す。
【0062】
図9は、実施例における表皮厚と実年齢との関係を示すグラフである。図9では、サンプル提供者毎に、上述のようにサンプル提供者の肌から計測された表皮厚とそのサンプル提供者の実年齢との関係がプロットされている。図9により、肌の持ち主の実年齢と表皮厚とは無相関であることが検証された。
【0063】
本実施例によれば、同世代の中でも表皮厚の厚い人、薄い人が存在するところ、そのような実年齢とは無相関の表皮厚を、メラニン成分画像のCV値により推定することができることが検証された。更に、上述のように一般的な知見から得られた表皮厚とターンオーバー時間との相関関係に基づいて、CV値から推定される表皮厚から、ターンオーバー時間を推定することも可能である。
【0064】
代謝が活発な若い皮膚ではメラニンの蓄積量自体が小さく、メラニン成分画像のCV値の変化の範囲が小さいと考えられる。そこで、本実施例では、メラニン成分画像の輝度の変動係数を用いて、所定年齢範囲毎に肌の代謝状態を推定するようにしてもよい。所定年齢範囲は、代謝が活発な年齢範囲(40歳未満)とそれ以降の年齢範囲(40歳以上)とに分けられてもよいし、上述のサンプル提供者の例のように、50代、60代といった年齢範囲に設定されてもよい。
【0065】
図10は、実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と代謝状態との関係を示す図である。図8に示されるデータによれば、60代の被験者に関し、CV値から、図10に示されるような代謝状態を推定してもよい。
【0066】
図11は、60代の被験者に関する、実施例における表皮厚と代謝状態との関係を示す図である。図8に示されるデータによれば、60代の被験者に関し、表皮厚から、図11に示されるような代謝状態を推定してもよい。
【0067】
図12は、肌の代謝状態の提示例を示す図である。本実施例は、肌のカウンセリング等の際に、被験者の肌の代謝状態の推定結果に基づいて、図12に示されるような内容を提示するようにしてもよい。この場合、図12に示されるように、カウンセリング対象者の現在の肌が、顔写真、イラスト、皮膚拡大写真等で提示されると共に、代謝状態の指標値として、推定結果である表皮厚及びターンオーバー日数が提示される。また、カウンセリング対象者の現在の肌の代謝状態の、全年齢又は所定年齢範囲の相対位置が示される。更に、代謝が改善したとき、加齢に伴い代謝が緩慢になったときのカウンセリング対象者の肌を顔写真、イラスト、皮膚拡大写真等で提示することもできる。
【0068】
なお、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、本実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。本実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態及び実施例は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0069】
上記の各実施形態及び各変形例の一部又は全部は、次のようにも特定され得る。但し、上述の各実施形態及び実施例が以下の記載に制限されるものではない。
【0070】
<1>分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出される前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する推定手段と、
を備える肌画像分析装置。
<2>前記推定手段は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<1>に記載の肌画像分析装置。
<3>前記推定手段は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<2>に記載の肌画像分析装置。
<4>前記推定手段により推定される肌の代謝状態を示す情報を出力する出力処理手段、
を更に備える<1>から<3>のいずれか1つに記載の肌画像分析装置。
<5>分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、
ことを含む肌画像分析方法。
<6>前記代謝状態の推定は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<5>に記載の肌画像分析方法。
<7>前記代謝状態の推定は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<6>に記載の肌画像分析方法。
<8>前記推定される肌の代謝状態を示す情報を提示する、
ことを更に含む<5>から<7>のいずれか1つに記載の肌画像分析方法。
<9>少なくとも1つのコンピュータに、
分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、
ことを実行させるプログラム。
<10>前記代謝状態の推定は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<9>に記載のプログラム。
<11>前記代謝状態の推定は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<10>に記載のプログラム。
<12>前記少なくとも1つのコンピュータに、
前記推定される肌の代謝状態を示す情報を出力する、
ことを更に実行させる<9>から<11>のいずれか1つに記載のプログラム。
【符号の説明】
【0071】
1 肌画像分析装置(分析装置)
2 CPU
3 メモリ
7 入力部
9 出力部
11 肌画像取得部
12 メラニン成分画像取得部
13 算出部
14 推定部
15 出力処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12