【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げ、上述の各実施形態を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に制限されない。
【0052】
一般的に、表皮厚、角層細胞面積及びターンオーバー速度(時間)はそれぞれ加齢と相関があることが知られている(上記特許文献2、上記非特許文献1及び2参照)。この知見によれば、表皮厚と角層細胞面積とには相関があると考えられる。そこで、本実施例では、まず、表皮厚と角層細胞面積との関係を調査した。それは、皮膚内での実際の細胞のターンオーバー時間を測定することは困難であるところ、角層細胞面積は、角層細胞の表皮内での滞在時間を反映していると一般的に言われているからである。
【0053】
図5は、実施例における表皮厚と角層細胞面積との関係を示すグラフである。
図5では、60代15名及び30代13名のサンプル提供者とから測定された表皮厚と角層細胞面積との関係がプロットされている。
図5に示される相関関数では、yが角層細胞面積を示し、xが表皮厚を示す。
【0054】
表皮厚は、米国Lucid社製のVIVASCOPEと呼ばれる共焦点レーザー生体顕微鏡を用いて各サンプル提供者の皮膚を撮影することで得られた。表皮厚を抽出する方法には、共焦点レーザー生体顕微鏡により得られた3.17μmごとの皮膚の水平断面図より、表皮層が完全に視野から見えなくなる深さを表皮厚とし、同一のサンプル提供者についてそれぞれ撮影した3箇所の皮膚水平断面図より得られた表皮厚の平均値を算出する方法を用いた。
角層細胞面積は、非特許文献2の方法で測定された。
【0055】
図5に示されるように、本実施例において、表皮厚が、角層細胞面積と負の相関を持つことが確認された。ここで、一般的な表皮のターンオーバー時間は、4から6週間程度であると言われている。そこで、30代の角層細胞面積平均値である857μm
2のターンオーバー時間を5週間(35日)と定め、この値を基準にすれば、角層細胞面積をターンオーバー時間に変換することができる。
【0056】
図6は、実施例における表皮厚とターンオーバー時間との関係を示すグラフである。
図6は、上記基準に基づいて、
図5に示される角層細胞面積がターンオーバー時間に変換されることで得られたグラフである。
【0057】
図6により、皮膚内での実際の細胞のターンオーバー時間を測定することは困難であるところ、表皮厚が、肌の代謝状態を表すターンオーバー時間(日数)と負の相関を持つことが確認された。
図6に示される相関関数では、yがターンオーバー時間(日数)を示し、xが表皮厚を示す。よって、例えば、上述の第2実施形態における分析装置1は、
図6に示される相関関数(y=−0.1479x+43.437)を用いて表皮厚からターンオーバー時間を推定してもよい。
【0058】
次に、60代15名を肌画像のサンプルの提供者とし、各提供者の色素斑部及び標準部を略均等に含む各肌画像が、DSA(倍率×130)を用いてそれぞれ撮影された。
図7は、実施例において撮影された肌画像の例を示す図である。
図7には、15名のサンプル提供者の中の6名分の肌画像が示される。但し、
図7は、出願の図面要領に基づいて、グレースケール画像となっている。
【0059】
実施例では、撮影された各肌画像に対して独立成分分析がそれぞれ行われ、各肌画像から各メラニン成分画像がそれぞれ生成された。そして、各メラニン成分画像の変動係数(CV値とも表記される)がそれぞれ算出された。
【0060】
図8は、実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と表皮厚との関係を示すグラフである。
図8では、サンプル提供者毎に、そのサンプル提供者の肌画像から上述のように取得された各メラニン成分画像の変動係数と、そのサンプル提供者の肌から計測された表皮厚との関係がプロットされている。表皮厚は、
図5の場合と同様な方法により計算された。
【0061】
本実施例により、
図8に示されるように、メラニン成分画像のCV値は、表皮厚と負の相関があることが検証された。上述の各実施形態における分析装置1は、例えば、
図8に示される相関関数(y=−127.49x+56.171)を用いてCV値から表皮厚を推定する。
図8に示される相関関数では、yが表皮厚を示し、xがCV値を示す。
【0062】
図9は、実施例における表皮厚と実年齢との関係を示すグラフである。
図9では、サンプル提供者毎に、上述のようにサンプル提供者の肌から計測された表皮厚とそのサンプル提供者の実年齢との関係がプロットされている。
図9により、肌の持ち主の実年齢と表皮厚とは無相関であることが検証された。
【0063】
本実施例によれば、同世代の中でも表皮厚の厚い人、薄い人が存在するところ、そのような実年齢とは無相関の表皮厚を、メラニン成分画像のCV値により推定することができることが検証された。更に、上述のように一般的な知見から得られた表皮厚とターンオーバー時間との相関関係に基づいて、CV値から推定される表皮厚から、ターンオーバー時間を推定することも可能である。
【0064】
代謝が活発な若い皮膚ではメラニンの蓄積量自体が小さく、メラニン成分画像のCV値の変化の範囲が小さいと考えられる。そこで、本実施例では、メラニン成分画像の輝度の変動係数を用いて、所定年齢範囲毎に肌の代謝状態を推定するようにしてもよい。所定年齢範囲は、代謝が活発な年齢範囲(40歳未満)とそれ以降の年齢範囲(40歳以上)とに分けられてもよいし、上述のサンプル提供者の例のように、50代、60代といった年齢範囲に設定されてもよい。
【0065】
図10は、実施例におけるメラニン成分画像の変動係数と代謝状態との関係を示す図である。
図8に示されるデータによれば、60代の被験者に関し、CV値から、
図10に示されるような代謝状態を推定してもよい。
【0066】
図11は、60代の被験者に関する、実施例における表皮厚と代謝状態との関係を示す図である。
図8に示されるデータによれば、60代の被験者に関し、表皮厚から、
図11に示されるような代謝状態を推定してもよい。
【0067】
図12は、肌の代謝状態の提示例を示す図である。本実施例は、肌のカウンセリング等の際に、被験者の肌の代謝状態の推定結果に基づいて、
図12に示されるような内容を提示するようにしてもよい。この場合、
図12に示されるように、カウンセリング対象者の現在の肌が、顔写真、イラスト、皮膚拡大写真等で提示されると共に、代謝状態の指標値として、推定結果である表皮厚及びターンオーバー日数が提示される。また、カウンセリング対象者の現在の肌の代謝状態の、全年齢又は所定年齢範囲の相対位置が示される。更に、代謝が改善したとき、加齢に伴い代謝が緩慢になったときのカウンセリング対象者の肌を顔写真、イラスト、皮膚拡大写真等で提示することもできる。
【0068】
なお、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、本実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。本実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態及び実施例は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0069】
上記の各実施形態及び各変形例の一部又は全部は、次のようにも特定され得る。但し、上述の各実施形態及び実施例が以下の記載に制限されるものではない。
【0070】
<1>分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出される前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する推定手段と、
を備える肌画像分析装置。
<2>前記推定手段は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<1>に記載の肌画像分析装置。
<3>前記推定手段は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<2>に記載の肌画像分析装置。
<4>前記推定手段により推定される肌の代謝状態を示す情報を出力する出力処理手段、
を更に備える<1>から<3>のいずれか1つに記載の肌画像分析装置。
<5>分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、
ことを含む肌画像分析方法。
<6>前記代謝状態の推定は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<5>に記載の肌画像分析方法。
<7>前記代謝状態の推定は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<6>に記載の肌画像分析方法。
<8>前記推定される肌の代謝状態を示す情報を提示する、
ことを更に含む<5>から<7>のいずれか1つに記載の肌画像分析方法。
<9>少なくとも1つのコンピュータに、
分析対象肌の色素斑部及び該色素斑部以外の標準部を所定割合で含む肌画像から抽出されるメラニン成分画像を取得し、
前記メラニン成分画像から、輝度の変動係数を算出し、
前記変動係数を用いて、肌の代謝状態を推定する、
ことを実行させるプログラム。
<10>前記代謝状態の推定は、前記変動係数から前記代謝状態を示す情報として表皮厚を推定する、<9>に記載のプログラム。
<11>前記代謝状態の推定は、前記推定された表皮厚から前記代謝状態を示す情報としてターンオーバー時間を更に推定する、<10>に記載のプログラム。
<12>前記少なくとも1つのコンピュータに、
前記推定される肌の代謝状態を示す情報を出力する、
ことを更に実行させる<9>から<11>のいずれか1つに記載のプログラム。