(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施形態における磁気記録媒体の製造方法及び装置を図面と共に説明する。
【0017】
インライン式真空成膜装置を用いて上記の多層膜積層構造を有する磁気記録媒体を製造する場合、磁気記録層の形成にはプロセスガス(または、スパッタリングガス)として例えばアルゴンが使用され、保護層の形成にはプロセスガスとして例えば炭化水素、水素、アルゴンなどが使用され、潤滑層の形成にはプロセスガスとして例えば高分子化合物が使用される。このため、隣接するプロセスである磁気記録層の形成プロセスと保護層の形成プロセスとの間では、両形成プロセスで用いるプロセスガスが混ざることによる影響は比較的少ない。一方、保護層の形成プロセスと潤滑層の形成プロセスとの間では、両形成プロセスで用いるプロセスガスの物性はかなり異なり、両形成プロセスで用いるプロセスガスが混ざると、両形成プロセスで形成される層に多大な悪影響を及ぼし、形成される層の品質(または、膜質)が低下する。このように、隣接する形成プロセスで用いるプロセスガスが混ざることによる層の品質の低下を防止するためには、例えば各形成プロセスの終了後に成膜容器内に残留するプロセスガスを十分に排気することが望ましい。
【0018】
そこで、このような層の品質低下を防止するために、両形成プロセスの終了後、成膜容器内に残留するプロセスガスを十分に排気し、その後、両成膜容器間のゲートバルブを開いて基板の入れ替えを行うことが考えられる。しかし、成膜容器内に残留するプロセスガスを十分に排気するには排気時間を十分長くする必要があり、インライン式真空成膜装置の生産性が著しく低下してしまう。
【0019】
また、両成膜容器間に予備の真空容器を設け、両成膜容器間の距離を広げることが考えられる。しかし、本発明者による検討によると、両成膜容器間の距離を広げても、両成膜容器間のプロセスガスの混合は僅かに生じていることが確認された。さらに、本発明者による検討によると、基板を搬送するキャリアにプロセスガスが付着し、キャリアを介してプロセスガスの混合が生じていることが確認された。
【0020】
一方、物性の異なるプロセスガスが混ざることによる層の品質低下を防止するために、保護層を形成するチャンバと潤滑層を形成するチャンバとの間にエアロックチャンバを設けることが考えられる。しかし、このようなエアロックチャンバを設けた場合、エアロックチャンバ内が汚れるため、頻繁にエアロックチャンバ内を清掃する必要があり、インライン式真空成膜装置の生産性が著しく低下してしまう。
【0021】
そこで、本発明の一実施形態では、磁気記録層、保護層、及び潤滑層をこの順で形成する、多層膜積層構造を有する磁気記録媒体の製造方法及び装置において、潤滑層の成膜装置を磁気記録層及び保護層を形成するインライン式成膜装置から独立させ、保護層を形成した後の被積層体を大気に触れさせることなく移送容器ユニット内に封入し、この被積層体を封入した移送容器ユニットをベーパールブ成膜装置まで搬送する。移送容器ユニットをベーパールブ成膜装置まで搬送すると、移送容器ユニット内に封入された被積層体を大気に触れさせることなく移送容器ユニット内から取り出してベーパールブ成膜装置内にセットし、ベーパールブ成膜装置内の被積層体に潤滑層をベーパールブ成膜方法で形成する。
【0022】
例えば、移送容器ユニットは、被積層体を封入する移送容器、成膜装置及びベーパールブ成膜装置に脱着可能に接続される予備室、移送容器及び予備室を接続するゲートバルブ、及びゲートバルブの第1及び第2の弁体で区画可能な分離室を有し、第1の弁体が開いている状態では分離室は予備室と連通し、第2の弁体が開いている状態では分離室は収納室と連通する。
【0023】
このように、被積層体上に保護層を形成した後、この被積層体を大気に触れさせることなく潤滑層をベーパールブ成膜方法で形成することで、保護層と潤滑層との間に不純物などが混入することを防止できる。
【0024】
また、保護層の形成チャンバと潤滑層の形成チャンバとを完全に分離できるため、両形成プロセスで用いるプロセスガスが混ざることがなくなり、形成される層の品質低下を防止できる。
【0025】
さらに、基板を搬送するキャリアも、保護層の形成工程と潤滑層の形成工程とで完全に分離できるため、保護層の形成工程に潤滑剤が混入することがなくなり、形成される層の品質低下を防止できる。
【0026】
予備の移送容器ユニットを準備することで、保護層などを形成するインライン式成膜装置やベーパールブ成膜装置を停止することなく、移送容器ユニット内を洗浄可能とし、磁気記録媒体の生産性を高めるようにしても良い。
【0027】
本願発明の一実施形態では、移送容器内を真空としても良い。この場合、被積層体上に保護層を形成した後、この被積層体を大気に触れさせることなく潤滑層をベーパールブ成膜方法で形成することが可能となり、保護層と潤滑層との間に不純物などが混入することを防止できる。
【0028】
また、本願発明の一実施形態では、移送容器内を不活性ガス雰囲気としても良い。この場合、被積層体上に保護層を形成した後、この被積層体を大気に触れさせることなく潤滑層をベーパールブ成膜方法で形成することが可能となり、保護層と潤滑層との間に不純物などが混入することを防止できる。また、保護層の表面への潤滑剤の付着力を高めるという観点からは、移送容器内の不活性ガス圧を例えば10Pa〜200Paの範囲内とすることが好ましい。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態における磁気記録媒体の製造装置の一例を示す模式図である。
図1に示す磁気記録媒体の製造装置は、磁気記録媒体の保護層までを形成する成膜装置101と、保護層の表面に潤滑層を形成するベーパールブ成膜装置102と、成膜装置101,102の間に設けられ、被積層体が封入された移送容器ユニット934,938を成膜装置101からベーパールブ成膜装置102まで搬送するコンベア935を有する。コンベア935は、被積層体が封入された移送容器ユニット934,938を成膜装置101からベーパールブ成膜装置102まで搬送する搬送手段の一例である。
【0030】
成膜装置101は、チャンバ間ゲートバルブGを介して、基板装脱着用チャンバ903、第1のコーナーチャンバ904、第1の処理チャンバ905、第2の処理チャンバ906、第2のコーナーチャンバ907、第3の処理チャンバ908、第4の処理チャンバ909、第5の処理チャンバ910、第6の処理チャンバ911、第7の処理チャンバ912、第8の処理チャンバ913、第3のコーナーチャンバ914、第9の処理チャンバ915、第10の処理チャンバ916、第4のコーナーチャンバ917、第11の処理チャンバ918、第12の処理チャンバ919、第13の処理チャンバ920が環状に連結された構成を有する。各チャンバ903〜920は、複数の隔壁に囲まれ、減圧状態とすることが可能な空間部を備えている。
【0031】
互いに隣接するチャンバ間(例えば、処理チャンバ905,906間)には、高速で開閉自在なチャンバ間ゲートバルブGが設置されている。全てのゲートバルブGの開閉動作は、同じタイミングで行われる。これにより、基板(図示せず)を搬送する複数のキャリア925を規則正しく互いに隣接チャンバの一方から他方に移動できる。
【0032】
第1〜第13の処理チャンバ905,906,908〜913,915,916,918〜920は、夫々基板加熱手段(または、基板ヒータ)、成膜手段(または、成膜部)、プロセスガス供給手段(または、フロンガス供給部)、排気手段(または、排気部)などを備えている。成膜手段は、例えばスパッタ装置、イオンビーム成膜装置で形成可能である。ガス供給手段と排気手段により、必要に応じてプロセスガスを流すことができる。例えば、第1の処理チャンバ905から第10の処理チャンバ916までが、磁気記録媒体の磁気記録層までの成膜に使用され、第11及び第12の処理チャンバ918,919が保護層の成膜に使用され、第13の処理チャンバ920が予備チャンバとして使用される。
【0033】
なお、第1〜第13の処理チャンバ905,906,908〜913,915,916,918〜920のベースプレッシャー(到達圧)は、例えば1×10
-5Paに設定されている。
【0034】
コーナーチャンバ904,907,914,917は、磁気記録媒体の成膜装置101のコーナーに配置され、キャリア925の向きをキャリア925の進行方向に変更する。コーナーチャンバ904,907,914,917内は高真空に設定されており、減圧雰囲気でキャリア925を回転可能である。
【0035】
図1に示すように、第1のコーナーチャンバ904と処理チャンバ920との間には、基板装脱着用チャンバ903が配置されている。基板装脱着用チャンバ903の空間部は、他のチャンバの空間部より大きい。基板装脱着用チャンバ903内には、基板を装着または脱着可能なキャリア925が3台配置されている。1台のキャリア925で基板の装着を行い、別の1台のキャリア925で基板の脱着を行う。なお、中央のキャリア925は、待機中のキャリアである。各キャリア925は同時に、
図1の矢印で示す方向に搬送される。基板装脱着用チャンバ903には、基板搬入用チャンバ902及び基板搬出用チャンバ922が連結されている。
【0036】
基板搬入用チャンバ902内には、1台の真空ロボット111が配置され、基板搬出用チャンバ922内には別の1台の真空ロボット112が配置されている。真空ロボット111,112は、搬送装置の一例である。基板搬入用チャンバ902は、真空ロボット111を用いて、基板装脱着用チャンバ903内のキャリア925に基板を装着する。また、基板搬出用チャンバ922は、真空ロボット112を用いて、基板装脱着用チャンバ903内のキャリア925から基板を脱着する。
【0037】
基板搬入用チャンバ902には、チャンバ間ゲートバルブG2を介してエアロックチャンバ12が接続されている。基板搬出用チャンバ922には、チャンバ間ゲートバルブG11を介して第1の移送容器(または、搬送容器)932が接続されており、チャンバ間ゲートバルブG13を介して第2の移送容器(または、搬送容器)933が接続されている。第1の移送容器932の移送口には、ゲートバルブG12と予備室930が設けられている。第2の移送容器933の移送口には、ゲートバルブG14と予備室931が設けられている。移送容器ユニット934は、第1の移送容器932、ゲートバルブG12、及び予備室930を有する。移送容器ユニット938は、第2の移送容器933、ゲートバルブG14、及び予備室931を有する。移送容器ユニット934,938は、成膜装置101及びベーパールブ成膜装置102に対して脱着可能であり、成膜装置101からの基板の搬出に際して交互に使用され、成膜装置101から取り外された移送容器ユニット934,938はコンベア935に載置されてベーパールブ成膜装置102まで搬送される。
【0038】
図2は、移送容器ユニットの一例を示す図であり、第1の移送容器内を真空とする場合を示す。
図2において、(a)は移送容器ユニット934の断面を示し、(b)は(a)中のIIb−IIb線に沿った断面を示す。
【0039】
図2に示すように、ゲートバルブG12は、弁体G12a,G12b、弁体G12a,G12bで区画可能な分離室40、弁体G12a,G12bをシールするOリング61、及び弁体G12a,G12bを開閉するための開閉手段の一例であるシリンダ46を有する。第1の移送容器932内の収納室42には、複数の基板44を載置可能な基板載置ユニット45が配置されている。弁体G12aが開いている状態では、分離室40は予備室930と連通する。一方、弁体G12bが開いている状態では、分離室40は収納室42と連通する。
【0040】
図1に示す成膜装置101は、例えば毎分20〜30枚程度の速度で基板44を処理するので、移送容器ユニット934,938の成膜装置101への取り付け及び成膜装置101からの取り外し頻度、ゲートバルブG11〜G14の開閉頻度は比較的高い。このため、ゲートバルブG11〜G14の動作にも高速性が求められる。ここで、ゲートバルブG11〜G14の動作速度を高めるためには、構造を簡略化することが望ましいが、構造の簡略化の影響で各ゲートバルブG11〜G14の弁体の気密性が損なわれたのでは形成される層の品質低下を招いてしまう。
【0041】
図2に示す移送容器ユニット934では、ゲートバルブG12の弁体を2重構造とすることで、2つの弁体G12a,G12bの間の分離室40にArを充填して、収納室42に大気が入り込むのを防いでいる。分離室40を不活性ガスで加圧する場合、加圧は大気圧以上であることが理想であるが、収納室42内に対して加圧で、且つ、大気圧に対しては減圧であっても収納室42に大気が入り込むのを防ぐ効果は得られる。
図2に示す移送容器ユニット934を用いた場合、被積層体(基板44)への大気からの不純物の混入をより確実に防止することができる。
【0042】
図3は、移送容器ユニット934の他の例を示す図であり、移送容器ユニット923内を不活性ガス雰囲気とする場合を示す。
図3において、(a)は移送容器ユニット923の断面を示し、(b)は(a)中のIIIb−IIIb線に沿った断面を示す。
【0043】
図3に示すように、ゲートバルブG12は、弁体G12c,G12d、弁体G12c,G12dで区画可能な分離室41、弁体G12c,G12dをシールするOリング62、及び弁体G12c,G12dを開閉するための開閉手段の一例であるシリンダ47を有する。第1の移送容器932内の収納室43には、複数の基板44を載置可能な基板載置ユニット45が配置されている。弁体G12cが開いている状態では、分離室41は予備室930と連通する。一方、弁体G12dが開いている状態では、分離室41は収納室43と連通する。
【0044】
図3に示す移送容器ユニット934では、ゲートバルブG12の弁体を2重構造とすることで、2つの弁体G12c,G12dの間の分離室41を真空にして、収納室43に大気が入り込むのを防いでいる。
図3に示す移送容器ユニット934を用いた場合、被積層体(基板44)への大気からの不純物の混入をより確実に防止することができる。
【0045】
なお、移送容器ユニット934の分離室40,41と、第1の移送容器932内の収納室42、43との間の差圧の関係から、
図2及び
図3とでは弁体G12a,G12bと弁体G12c,G12dの向きが相違している。つまり、
図2に示す弁体G12a,G12bは分離室40の内側に配置され、
図3に示す弁体G12c,G12dは分離室41の外側に配置される。
【0046】
移送容器ユニット938は、
図2及び
図3に示す移送容器ユニット934と同様の構成を有するため、その図示及び説明は省略する。
【0047】
各移送容器932,933の内部には、大気から遮断した状態で、複数の基板(例えば、50枚)を蓄積可能であり、移送容器ユニット934,938は、夫々予備室930,931の箇所で成膜装置101から取り外し可能である。エアロックチャンバ12及び第1及び第2の移送容器932,933の動作は、以下に説明する処理の繰り返しである。
【0048】
(成膜装置への基板の搬入)
成膜装置101への基板の搬入は、以下のステップs1〜s9を含む処理で実現できる。
【0049】
ステップs1: ゲートバルブG1,G2を閉じる。なお、ゲートバルブG1,G2なdのゲートバルブは、周知の開閉手段により開閉可能であるため、開閉手段の図示及び説明は省略する。
【0050】
ステップs2: エアロックチャンバ12内を大気圧にする。
【0051】
ステップs3: ゲートバルブG1を開く。
【0052】
ステップs4: 搬送装置の一例である基板搬入ロボット940により複数の基板(例えば、50枚)をエアロックチャンバ12内に搬入する。
【0053】
ステップs5: ゲートバルブG1を閉じる。
【0054】
ステップs6: エアロックチャンバ12内を真空まで減圧する。
【0055】
ステップs7: ゲートバルブG2を開く。
【0056】
ステップs8: 真空ロボット111を用いて、エアロックチャンバ12内の基板を基板装脱着用チャンバ903内のキャリア925に装着する。
【0057】
(成膜装置からの被積層体の搬出とベーパールブ成膜装置への被積層体の搬入)
成膜装置101からの被積層体の搬出とベーパールブ成膜装置102への被積層体の搬入は、以下のステップs11〜s38を含む処理で実現できる。なお、前述のように、
図1では、成膜装置101からの被積層体の移送容器が2系列、すなわち、第1及び第2の移送容器932,933が設けられている。これは、成膜装置101からの被積層体の搬出効率を高めるためであり、1系列が被積層体の搬出処理を行っている際には、他の予備の系列では被積層体を搬出するための準備を行うことができる。なお、移送容器及び移送容器ユニットは、夫々1つであっても良い。以下では、移送容器ユニット934として
図2に示す構造のものを使用し、説明の便宜上、第1の移送容器932の操作について説明するが、第2の移送容器933についても同様のステップで操作可能である。
【0058】
ステップs11: ゲートバルブG12の弁体G12a,G12bが閉じた状態で、空の移送容器ユニット934を成膜装置101のゲートバルブG11に接続する。
【0059】
ステップs12: 予備室930内を真空まで減圧する。
【0060】
ステップs13: 予備室930内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0061】
ステップs14: ゲートバルブG12の弁体G12aを開く。
【0062】
ステップs15: 予備室930及び分離室40内を真空まで減圧する。
【0063】
ステップs16: ゲートバルブG12の弁体G12bを開く。
【0064】
ステップs17: ゲートバルブG11を開く。
【0065】
ステップs18: 真空ロボット112を用いて、基板装脱着用チャンバ903内のキャリア925から基板44を外し、第1の移送容器932の収納室42内の基板載置ユニット45上に積載する。
【0066】
ステップs19: 第1の移送容器932内の基板44が一杯(例えば、50枚)になったらゲートバルブG11及びゲートバルブG12の弁体G12bを閉じる。
【0067】
ステップs20: 予備室930及び分離室40内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0068】
ステップs21: ゲートバルブG12の弁体G12aを閉じる。
【0069】
ステップs22: 予備室930内をベント(排気)して大気圧にする。
【0070】
ステップs23: 移送容器ユニット934を成膜装置101から取り外し、
図1中細い実線の矢印で示すようにコンベア935上に載置する。
【0071】
ステップs24: 移送容器ユニット934をベーパールブ成膜装置102の基板搬入口まで搬送する。なお、コンベア935のコーナー部936の位置で移送容器ユニット934を90度反時計方向へ回転する。
【0072】
ステップs25: 移送容器ユニット934を、
図1中細い実線の矢印で示すようにゲートバルブG15に接続する。
【0073】
ステップs26: 予備室930内を真空まで減圧する。
【0074】
ステップs27: 予備室930内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0075】
ステップs28: ゲートバルブG12の弁体G12aを開く。
【0076】
ステップs29: 予備室930及び分離室40内を真空まで減圧する。
【0077】
ステップs30: ゲートバルブG12の弁体G12bを開く。
【0078】
ステップs31: ゲートバルブG15を開く。
【0079】
ステップs32: 第1の移送容器932の収納室42内の基板44を隔離チャンバ943へ移送する。
【0080】
ステップs33: 第1の移送容器932内の基板44が一杯(例えば、50枚)になったら、ゲートバルブG15及びゲートバルブG12の弁体G12bを閉じる。
【0081】
ステップs34: 予備室930及び分離室40内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0082】
ステップs35: ゲートバルブG12の弁体G12aを閉じる。
【0083】
ステップs36: 予備室930内をベントして大気圧にする。
【0084】
ステップs37: 移送容器ユニット934をゲートバルブG15から取り外す。
【0085】
ステップs38: 空の移送容器ユニット934を、
図1中細い実線の矢印で示すように成膜装置101に移送し、ゲートバルブG11に接続する。
【0086】
また、移送容器ユニット934として
図3の構造のものを使用する場合は、上記ステップs11〜s38の代わりに以下のステップS111〜s142の処理を行うようにすれば良い。
【0087】
ステップs111: ゲートバルブG12の弁体G12c,G12dが閉じた状態で、空の移送容器ユニット934を成膜装置101のゲートバルブG11に接続する。
【0088】
ステップs112: 予備室930内を真空まで減圧する。
【0089】
ステップs113: ゲートバルブG12の弁体G12cを開く。
【0090】
ステップs114: 予備室930及び分離室41内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0091】
ステップs115: ゲートバルブG12の弁体G12dを開く。
【0092】
ステップs116: 予備室930、分離室41及び第1の移送容器932の収納室43内を真空まで減圧する。
【0093】
ステップs117: ゲートバルブG11を開く。
【0094】
ステップs118: 真空ロボット112を用いて、基板装脱着用チャンバ903内のキャリア925から基板44を外し、第1の移送容器932の収納室43内の基板載置ユニット45上に積載する。
【0095】
ステップs119: 第1の移送容器932内の基板44が一杯(例えば、50枚)になったらゲートバルブG11を閉じる。
【0096】
ステップs120: 予備室930、分離室41及び第1の移送容器932の収納室43内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0097】
ステップs121: ゲートバルブG12の弁体G12dを閉じる。
【0098】
ステップs122: 予備室930及び分離室41内を真空まで減圧する。
【0099】
ステップs123: ゲートバルブG12の弁体G12cを閉じる。
【0100】
ステップs124: 予備室930内を大気圧にする。
【0101】
ステップs125: 移送容器ユニット934を成膜装置101から取り外し、
図1中細い実線の矢印で示すようにコンベア935上に載置する。
【0102】
ステップs126: 移送容器ユニット934をベーパールブ成膜装置102の基板搬入口まで搬送する。なお、コンベア935のコーナー部936の位置で移送容器ユニット934を90度反時計方向へ回転する。
【0103】
ステップs127: 移送容器ユニット934を、
図1中細い実線の矢印で示すようにゲートバルブG15に接続する。
【0104】
ステップs128: 予備室930内を真空まで減圧する。
【0105】
ステップs129: ゲートバルブG12の弁体G12cを開く。
【0106】
ステップs130: 予備室930及び分離室41内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0107】
ステップs131: ゲートバルブG12の弁体G12dを開く。
【0108】
ステップs132: 予備室930、分離室41及び第1の移送容器932の収納室43内を真空まで減圧する。
【0109】
ステップs133: ゲートバルブG15を開く。
【0110】
ステップs134: 第1の移送容器932の収納室43内の基板44を隔離チャンバ943へ移送する。
【0111】
ステップs135: ゲートバルブG15を閉じる。
ステップs136: 予備室930、分離室41及び第1の移送容器932の収納室43内が大気圧以上の圧力になるまで不活性ガスを充填する。
【0112】
ステップs137: ゲートバルブG12の弁体G12dを閉じる。
【0113】
ステップs138: 予備室930及び分離室41内を真空まで減圧する。
【0114】
ステップs139: ゲートバルブG12の弁体G12cを閉じる。
【0115】
ステップs140: 予備室930内を大気圧にする。
【0116】
ステップs141: 移送容器ユニット934をゲートバルブG15から取り外す。
【0117】
ステップs142: 空の移送容器ユニット934を、
図1中細い実線の矢印で示すように成膜装置101に移送し、ゲートバルブG11に接続する。
【0118】
移送容器ユニット934の成膜装置101からコンベア935までの移送、コンベア935からベーパールブ成膜装置102までの移送、及びベーパールブ成膜装置102から成膜装置101までの移送(または、搬送)は、いずれも図示を省略する周知の移送設備(または、移送手段)で行うことができる。
【0119】
図1の説明に戻るに、ベーパールブ成膜装置102は、不活性ガスを充填する隔離チャンバ943、ベーパールブプロセスチャンバ944、エアロックチャンバ945、及び搬送カセットの戻り経路チャンバ947がゲートバルブG6,G7,G9,G10を介して接続された構成を有する。エアロックチャンバ945の隣には、潤滑層を形成した被積層体を取り出すための基板搬出ロボット946がゲートバルブG8を介して接続されている。基板搬出ロボット946は、搬送装置の一例である。各チャンバ943〜945,947間を複数(例えば、50枚)の被積層体を搬送するための搬送カセット948が移動する。
【0120】
ベーパールブ成膜装置102内における被積層体(以下、基板とも言う)などの動きは、前述のステップs25〜s35またはステップs127〜s139に続き、以下に説明する処理の繰り返しであり、以下のステップs41〜s53を含む処理が連続的に行われる。
【0121】
ステップs25またはs127: 移送容器ユニット934をゲートバルブG15に接続する。
【0122】
ステップs26〜30またはs128〜132:
図2において分離室40内が不活性ガスで満たされている場合は真空まで減圧し、
図3において第1の移送容器932の収納室43内が不活性ガスで満たされている場合は真空まで減圧することで、移送容器ユニット934内を真空まで減圧する。
【0123】
ステップs31またはs133: ゲートバルブG15を開く。
【0124】
ステップs32またはs134: 第1の移送容器932内の基板44を隔離チャンバ943へ移送する。
【0125】
ステップs33〜35またはs135〜139:
図2の場合はゲートバルブG12の弁体G12a,G12b及びゲートバルブG15を閉じ、
図3の場合はゲートバルブG12の弁体G12c,G12d及びゲートバルブG15を閉じる。
【0126】
ステップs41: ゲートバルブG6を開く。
【0127】
ステップs42: 隔離チャンバ943内の搬送カセット948をベーパールブプロセスチャンバ944内に搬入する。
【0128】
ステップs43: ベーパールブプロセスチャンバ944内で搬送カセット948内の被積層体に潤滑層を形成する。
【0129】
ステップs44: ゲートバルブG7を開き、潤滑層が形成された被積層体を納めた搬送カセット948が真空状態のエアロックチャンバ945内に移動する。
【0130】
ステップs45: ゲートバルブG7を閉じる。
【0131】
ステップs46: エアロックチャンバ945内を大気圧とする。
【0132】
ステップs47: ゲートバルブG8を開く。
【0133】
ステップs48: 基板搬出ロボット946により処理済み(すなわち、潤滑層が形成済み)の被積層体を取り出す。
【0134】
ステップs49: ゲートバルブG8を閉じる。
【0135】
ステップs50: エアロックチャンバ945内を真空まで減圧する。
【0136】
ステップs51: ゲートバルブG9を開く。
【0137】
ステップs52: 空の搬送カセット948を、真空まで減圧された戻り経路チャンバ947を通して隔離チャンバ943へ移動する。
【0138】
ステップs53: 隔離チャンバ943が減圧状態でゲートバルブG10を開き、隔離チャンバ943内に空の搬送カセット948を搬入する。
【0139】
図4は、
図1の製造装置で製造される磁気記録媒体1の一例を示す断面図である。なお、磁気記録媒体1に対するデータの記録方式には面内記録方式と垂直記録方式とが存在するが、本実施形態では、垂直記録方式を用いる磁気記録媒体1について説明を行う。
【0140】
磁気記録媒体1は、基板100と、基板100の上に形成された密着層110と、密着層110の上に形成された軟磁性下地層120と、軟磁性下地層120の上に形成された配向制御層130と、配向制御層130の上に形成された非磁性下地層140と、非磁性下地層140の上に形成された磁気記録層の一例である垂直記録層150と、垂直記録層150の上に形成された保護層160と、保護層160の上に形成された潤滑層170とを有する。基板100は、
図2及び
図3に示す基板44に相当する。本実施形態では、基板100の両面の夫々に、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140、垂直記録層150、保護層160、及び潤滑層170が形成された構成を有する。なお、以下の説明では、必要に応じて、基板100の両面に密着層110から保護層160までの各層を積層した積層構造、換言すれば、基板100に潤滑層170以外の各層を形成した積層構造を、積層基板180とも称する。また、以下の説明では、必要に応じて、基板100の両面に密着層110から垂直記録層150までの各層を形成した積層構造、換言すれば、基板100に保護層160及び潤滑層170以外の各層を形成した積層構造を、被積層体190とも称する。
【0141】
本実施形態では、基板100は非磁性体で形成されている。基板100には、例えばアルミニウム、アルミニウム合金などの金属材料で形成された金属基板を用いても良く、例えばガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料で形成された非金属基板を用いても良い。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層またはNiP合金層が形成された基板を基板100として用いることもできる。
【0142】
ガラス基板には、例えば、通常のガラスや結晶化ガラスなどを用いることができる。通常のガラスには、例えば、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスには、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。また、セラミック基板には、例えば、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、またはこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0143】
基板100は、後述するように主成分がCoまたはFeである軟磁性下地層120と接することで、表面の吸着ガスや水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。このため、基板100と軟磁性下地層120との間に密着層110を設けることが好ましい。なお、密着層110の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層110の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0144】
軟磁性下地層120は、垂直記録方式を採用した場合において、記録再生時のノイズの低減を図るために設けられている。本実施形態において、軟磁性下地層120は、密着層110の上に形成される第1軟磁性層121と、第1軟磁性層121の上に形成されるスペーサ層122と、スペーサ層122の上に形成される第2軟磁性層123とを有する。つまり、軟磁性下地層120は、第1軟磁性層121と第2軟磁性層123でスペーサ層122を挟む構成を有する。
【0145】
第1軟磁性層121及び第2軟磁性層123は、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料で形成することが好ましく、透磁率や耐食性を高めるためTa、Nb、Zr、Crからなる群から選ばれる何れか1種を1atm%〜8atm%の範囲で含有することが好ましい。また、スペーサ層122は、Ru、Re、Cuなどで形成可能であるが、特にRuで形成することが好ましい。
【0146】
配向制御層130は、非磁性下地層140を介して積層される垂直記録層150の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するために設けられている。配向制御層130を形成する材料は特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有する材料であることが好ましい。特にRu系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金で形成することが好ましく、これらの合金を多層化した多層構造で形成しても良い。例えば、基板100側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を形成することが好ましい。
【0147】
非磁性下地層140は、非磁性下地層140の上に積層される垂直記録層150の初期積層部における結晶成長の乱れを抑制し、記録再生時のノイズの発生を抑制するために設けられている。ただし、非磁性下地層140は省略しても良い。
【0148】
本実施形態において、非磁性下地層140は、Coを主成分とする金属に加え、さらに酸化物を含む材料で形成することが好ましい。非磁性下地層140のCr含有量は、25原子%〜50原子%であることが好ましい。非磁性下地層140に含まれる酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、特にTiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを用いることが好ましい。非磁性下地層140に含まれる酸化物の含有量は、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Ptなどの合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、且つ、18mol%以下であることが好ましい。
【0149】
本実施形態における垂直記録層150は、非磁性下地層140の上に形成される第1磁性層151と、第1磁性層151の上に形成される第1非磁性層152と、第1非磁性層152の上に形成される第2磁性層153と、第2磁性層153の上に形成される第2非磁性層154と、第2非磁性層154の上に形成される第3磁性層155とを有する。すなわち、垂直記録層150では、第1磁性層151と第2磁性層153により第1非磁性層152を挟み、第2磁性層153と第3磁性層155により第2非磁性層154を挟む構成を有する。
【0150】
第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155は、磁気ヘッド3から供給される磁気エネルギーによって垂直記録層150の厚さ方向に磁化の向きを反転させ、その磁化の状態を維持することでデータを記憶するために設けられている。なお、これらの第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155が、本実施形態における磁性層に対応する。
【0151】
第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155は、Coを主成分とする金属の磁性粒子と非磁性の酸化物とを含み、磁性粒子を酸化物で囲んだグラニュラ型構造を有することが好ましい。
【0152】
第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155を形成する酸化物は、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどであることが好ましく、特にTiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などであることが好ましい。また、垂直記録層150の中で最下層となる第1磁性層151は、2種類以上の酸化物で形成された複合酸化物を含むことが好ましく、特にCr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などを含むことが好ましい。
【0153】
また、第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155を形成する磁性粒子に適した材料は、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO
2){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiO
2からなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO
2)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr
2O
3)の他、(CoCrPt)−(Ta
2O
5)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(TiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)−(TiO
2)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO
2)、(CoCrPtB)−(Al
2O
3)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y
2O
3)、(CoCrPtRu)−(SiO
2)などの組成物を含む。
【0154】
第1非磁性層152及び第2非磁性層154は、垂直記録層150を形成する第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155の各磁性層での磁化反転を容易とし、磁性粒子全体での磁化反転の分散を小さくすることで、ノイズを低減するために設けられている。本実施形態において、第1非磁性層152及び第2非磁性層154は、例えばRu及びCoを含むことが好ましい。
【0155】
なお、
図4に示す例では、垂直記録層150を形成する磁性層が3層構造(第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155)を有するが、垂直記録層150は3層構造に限定されるものではなく、4層以上の多層構造を有しても良い。また、この例では、垂直記録層150を形成する各磁性層(第1磁性層151、第2磁性層153及び第3磁性層155)の間に非磁性層(第1非磁性層152及び第2非磁性層154)を設けているが、垂直記録層150を形成する磁性層はこのような構成に限点されるものではなく、例えば異なる組成を有する2つの磁性層を重ねて配置する構成を有しても良い。
【0156】
保護層160は、垂直記録層150の腐食を抑制すると共に、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に接触したときに、磁気記録媒体1の表面の損傷を防いで保護するため、また磁気記録媒体1の耐食性を高めるために設けられている。
【0157】
保護層160は、周知の保護層材料で形成可能であり、例えばC、SiO
2、ZrO
2を含む。保護層160は、Cで形成することが好ましく、特にアモルファス状の硬質炭素膜やダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC:Diamond Like Carbon)で形成することが、保護層160の硬度を保ち、且つ、薄層化を図るという観点から好ましい。さらに、保護層160の厚みは、1nm〜10nmとすることが、
図5と共に後述する磁気記憶装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を短くでき、高記録密度の点から好ましい。
【0158】
潤滑層170は、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に接触したときに磁気ヘッド3及び磁気記録媒体1の表面の摩耗を抑制し、磁気記録媒体1の耐食性を高めるために設けられている。潤滑層170は、周知の潤滑層材料で形成可能であり、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤で形成することが好ましい。潤滑層170の厚さは、1nm〜2nmとすることが、
図5と共に後述する磁気記憶装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を短くでき、高記録密度の点から好ましい。
【0159】
ベーパールブプロセスによる潤滑層170の成膜では、上記の潤滑剤を90℃〜150℃で加熱し、潤滑剤の蒸気を反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を10Pa程度とし、この反応容器内への被積層体の露出時間を10秒程度とすることで、保護層160の表面に1nm程度の潤滑層170を形成できる。
【0160】
図5は、本実施形態において製造された磁気記録媒体1を備えた磁気記憶装置の構成の一例を示す斜視図である。
【0161】
磁気記憶装置50は、データを磁気的に記録する磁気記録媒体1と、磁気記録媒体1を回転駆動させる回転駆動部2と、磁気記録媒体1にデータを書き込むと共に磁気記録媒体1に記録されたデータを読み取る磁気ヘッド3と、磁気ヘッド3を搭載するキャリッジ4と、キャリッジ4を介して磁気記録媒体1に対して磁気ヘッド3を相対移動させるヘッド駆動部5と、外部から入力された情報を処理して得られた記録信号を磁気ヘッド3に出力し、磁気ヘッド3からの再生信号を処理して得られた情報を外部に出力する信号処理部6とを有する。
【0162】
図5に示す例では、磁気記録媒体1は円盤形状を有する磁気ディスクである。磁気ディスクは、少なくとも一方の面にデータを記録するための磁気記録層が形成されており、
図4に示すように両面に磁気記録層が形成されていても良い。また、
図5に示す例では、1台の磁気記憶装置50に複数(この例では3枚)の磁気記録媒体1が取り付けられているが、磁気記録媒体1の枚数は1以上であれば良い。
【0163】
以上、磁気記録媒体の製造方法及び装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態及び以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0164】
図1の製造装置を用いて磁気記録媒体を製造した。先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、
図1に示す製造装置のエアロックチャンバ12に収容し、その後、基板搬入用チャンバ902内の真空ロボット111を用いて、キャリア925に載置し、この基板表面に被積層体を形成した。なお、成膜チャンバ内の到達真空度(ベースプレッシャ)は1×10
−5Paであった。
【0165】
次に、このガラス基板の上に、処理チャンバ905内で1Paのアルゴンガス圧で、60Cr−50Tiターゲットを用いて密着層を10nmの膜厚で成膜した。また、この密着層の上に、処理チャンバ906内で1Paのアルゴンガス圧で、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、第1の軟磁性層を34nmの膜厚で成膜した。さらに、この第1の軟磁性層の上に、処理チャンバ908内でRu層を0.76nmの膜厚で成膜した。また、このRu層の上に、処理チャンバ909内で46Fe−46Co−5Zr−3Bの第2の軟磁性層を34nmの膜厚で成膜した。Ru層を挟む第1及び第2の軟磁性層を、軟磁性下地層として形成した。
【0166】
次に、軟磁性下地層の上に、処理チャンバ910内で1Paのアルゴンガス圧で、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲットを用いて第1の下地層を5nmの膜厚で成膜し、処理チャンバ911内でRuターゲットを用いて第2の下地層を10nmの膜厚で成膜し、処理チャンバ912内でRuターゲットを用いて8Paのアルゴンガス圧で、第3の下地層を10nmの膜厚で成膜して、3層構造の下地層を形成した。
【0167】
次に、3層構造の下地層の上に、1Paのアルゴンガス圧で、処理チャンバ913内でCo6Cr16Pt6Ru−4SiO
2−3Cr
2O
3−2TiO
2層を6nmの膜厚で成膜し、処理チャンバ915内でCo11−5Cr13Pt10Ru−4SiO
2−3Cr
2O
3−2TiO
2層を6nmの膜厚で成膜し、処理チャンバ916内でCo15Cr16Pt6B層を3nmの膜厚で成膜して、多層構造の磁性層を形成した。
【0168】
次に、イオンビーム法により、処理チャンバ918,919内で炭素保護層を2.5nmの膜厚で成膜し、被積層体(または、磁気記録媒体)を得た。なお、処理チャンバ918,919のベースプレッシャは1×10
−5Pa、プロセスガスには水素ガスに4%のメタンを混合させた混合ガスを使用し、ガス圧は8Paとした。チャンバ920は予備チャンバとして使用し、プロセスガスは流さず、ベースプレッシャは1×10
−5Paとした。
【0169】
成膜後の被積層体は、基板搬出用チャンバ922内の真空ロボット112によりキャリア925から取り外され、第1の移送容器932内に搬入した。第1の移送容器932内はアルゴンを50Paの圧力で満たした。その後、搬送ユニット934を成膜装置101から切り離し、コンベア935で約15分の搬送の後、ゲートバルブG12を介してベーパールブ成膜装置102の隔離チャンバ943に接続し、被積層体を隔離チャンバ943に搬送した。
【0170】
ベーパールブ成膜装置102の隔離チャンバ943、ベーパールブプロセスチャンバ944、エアロックチャンバ945、及び戻り経路チャンバ947のベースプレッシャは1×10
−5Paとし、隔離チャンバ943内は真空とし、ベーパールブプロセスチャンバ944内にはパーフルオロポリエーテルのガスを20Paで流し、隔離チャンバ943、エアロックチャンバ945、戻り経路チャンバ947にはプロセスガスは流さなかった。そして、ベーパールブ成膜装置102によって被積層体の表面にパーフルオロポリエーテルの潤滑層を15オングストローム(Å)の膜厚で形成した。
【0171】
潤滑層を形成した被積層体(または、磁気記録媒体)は、ロボット946を用いて製造装置外の大気中に取り出した。
【0172】
上記の方法で1万枚の磁気記録媒体の製造を行い、1万枚目の磁気記録媒体について、潤滑層の膜厚のばらつき、記録再生特性(S/N比:Signal-to-Noise Ratio)、上書き(OW:Over-Write)特性の評価を行った。なお、各移送容器932,933の内部は、50回の搬送に使用する毎に洗浄した。
その結果、潤滑層の膜厚のばらつきは、±0.4Å、S/N比は25.1dB、OW特性は39.0dBで、潤滑層の膜厚のばらつきが少なく、電磁変換特性に優れていることが確認された。なお、潤滑層の膜厚のばらつきについては、磁気記録媒体の表面の20箇所の潤滑層の膜厚をフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Fourier Transform- Infra-Red Spectrometer)で測定し、平均値に対する変位を評価した。記録再生特性の評価については、記録部にシングルポール磁極、再生部にGMR素子を備えた磁気ヘッドを用いて、記録周波数条件を線記録密度1000kFCIとして測定した。一方、上書き特性(OW)特性の評価については、磁気記録媒体に500kFCIの信号を書いた上に67kFCIの信号を上書きした後の、最初に書いた信号の残り成分を測定することで評価した。