【実施例】
【0050】
(搬送ベルト)
実施例として、実施例1〜4の搬送ベルトを形成した。実施例1〜3の搬送ベルト1は、外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、接着層4が形成された芯体帆布3とが積層された上述の第一の実施形態に係る搬送ベルト1の構造で形成した。また、実施例4の搬送ベルト1は、外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、接着層4が形成された芯体帆布3と、中間層5と、接着層7が形成された第2の芯体帆布6とが積層された上述の第二の実施形態に係る搬送ベルト1の構造で形成した。
【0051】
本実施例(実施例1〜4)では、ポリエステルマルチフィラメント、撚り合せ数1、繊度280から560dtexの繊維を経糸とし、ポリエステルモノフィラメント、繊度280から560dtexの繊維を緯糸とし、経糸に白色導電性繊維を撚り込んだ導電性経糸を経糸10本に1本の割合で混合して使用し、経糸密度63〜125本/5cm、緯糸密度70〜100本/5cmで織られた、光透過率92〜98%の平織り布を、芯体帆布3とした。また、実施例4では、ポリエステルマルチフィラメント、繊度56dtexの繊維を経糸とし、ポリエステルマルチフィラメント、繊度110dtexの繊維を緯糸とし、経糸密度230本/3cm、緯糸密度135本/3cmで織られた、光透過率が90%の平織り布を、第2の芯体帆布6とした。また、実施例1〜4では、表面カバー層2は、いずれも、透明無黄変ポリウレタンエラストマーを使用して、厚み0.3mmとなるように構成した。同様に、実施例4では、中間層5として、透明無黄変ポリウレタンエラストマーを使用して、厚み0.3mmとなるように構成した。そして、接着層4及び接着層7として、いずれも、透明無黄変ポリウレタンエラストマーをメチルエチルケトン/シクロヘキサン/テトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた接着剤(ウレタンエラストマーの濃度10wt%)を使用し、芯体帆布3及び第2の芯体帆布6を浸漬して接着処理を行った。
【0052】
また、比較例として、表面カバー層2のない芯体帆布3のみの搬送ベルト(比較例1)、外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、芯体帆布3と、芯体帆布3の接着層4と、中間層5と、第2の芯体帆布6と、第2の芯体帆布6の接着層7と、が積層された上述の第二の実施形態に係る搬送ベルト1の構造で形成した搬送ベルト(比較例2)を用意した。
【0053】
比較例(比較例1〜2)では、ポリエステルスパン糸、繊度20番手の繊維を経糸とし、ポリエステルモノフィラメント、繊度1100dtexの繊維を緯糸とし、経糸に黒色導電性繊維を撚り込んだ導電性経糸を経糸10本に1本の割合で混合して使用し、経糸密度140本/5cm、緯糸密度56本/5cmに織られた、光透過率88%の平織り布を、芯体帆布3とした。また、比較例2では、表面カバー層2及び中間層5は、透明ポリウレタンエラストマー(無黄変ではない)を使用して、表面カバー層2は厚み0.8mmとなるように、中間層5は厚み0.3mmとなるように構成した。また、比較例2では、ポリエステルスパン糸、繊度20番手の繊維を経糸とし、ポリエステルモノフィラメント、繊度1100dtexの繊維を緯糸として、経糸密度140本/5cm、緯糸密度56本/5cmで織られた、光透過率が88%の平織り布を、第2の芯体帆布6とした。そして、接着層4及び接着層7として、いずれも、透明ポリウレタンエラストマー(無黄変ではない)をメチルエチルケトン/シクロヘキサン/テトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた接着剤(ウレタンエラストマーの濃度10wt%)を使用し、芯体帆布3及び第2の芯体帆布6を浸漬して接着処理を行った。
【0054】
尚、実施例、比較例の各搬送ベルト1は無端状に形成されて、その寸法は、いずれも幅100mm、周長1450mmとした。実施例、比較例の各搬送ベルト1の接合部は、それぞれ、表面カバー層2と同様の材質の厚さ0.15mmのエンドレスシート8を使用し、熱板プレス機を用いて、温度130℃×圧力0.3MPa、加圧時間5分の条件で、加圧し、接合した。
【0055】
以上で説明した、実施例、比較例の各搬送ベルトについての層構造、搬送ベルトの厚みをまとめると、下記の表1に示す通りとなる。尚、表1において、芯体帆布3を、第2の芯体帆布6と区別する為に、第1の芯体帆布と記載した。
【0056】
そして、実施例、比較例の各搬送ベルトについて、下記の光透過率測定試験、走行帯電圧測定試験、ベルト強力測定試験、耐変色試験、屈曲走行試験を行った。
【0057】
(光透過率測定試験)
光透過率測定試験では、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、ベルト裏面に設置した光源から、搬送ベルト1を通過する光の透過率を、光透過性として測定した。具体的には、
図4に示すように、実施例、比較例の各搬送ベルト1をプーリ10に巻きかけた状態で、ベルト裏面に設置した光源(例えば、LEDライトボード)11から光を照射し、光センサー(照度計)12にて、光源11の照度E
0と、ベルト表面の照度E
1とを測定し、光透過率Tを次式で算出した。
光透過率T=(E
1/E
0)×100(%)
尚、本実施例において、測定環境は、室内、室温23℃、湿度52%、部屋全体の明るさ960ルクスであり、光源11は、照度4030ルクスに調整した。
【0058】
(走行帯電圧測定試験)
走行帯電圧測定試験では、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、走行帯電圧を測定して、帯電防止性能の評価を行った。ここで、走行帯電圧とは、ベルトが走行している時にベルト表裏面とプーリが接触したり離れたりする部分で発生する電圧をいう。具体的には、
図5に示すように、実施例、比較例の各搬送ベルト1をプーリ10に巻きかけた状態で、搬送ベルト1を走行させながら、ベルト表面からX(mm)離れた場所に設置した走行帯電圧測定装置13を用いて搬送ベルト1の表面電位を測定し、走行帯電圧として測定した。搬送ベルト1が帯電している場合、走行帯電圧は、−20000から−30000Vである。また、搬送ベルト1が帯電していない場合、走行帯電圧は、およそ−1000Vである。尚、本実施例において、測定環境は、室内、室温23℃、湿度50%であった。また、プーリ10のプーリ径φ200mm、搬送ベルト1の走行速度を5m/sとし、X=50mmとした。
【0059】
(ベルト強力測定試験)
ベルト強力測定試験では、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、引張実験によりベルト強力を測定した。具体的には、実施例、比較例の各搬送ベルト1のそれぞれについて、試験片を用いて100mm/minの速度で引張り、ベルト強力を測定した。尚、搬送ベルト1としては、10N/mm以上のベルト強力があれば、実用可能である。
【0060】
(耐変色試験)
耐変色試験では、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、耐光試験機を用いて耐変色試験を行い、試験前後の色差を、色差計を用いて測定した。具体的には、実施例、比較例の各搬送ベルト1のそれぞれについて、試験片に対して、紫外線カーボンアーク燈式耐光試験機により紫外線を温度63℃下で22時間照射し、色差計を用いて試験前後のL
*a
*b
*表色系のΔL
*、Δa
*、Δb
*を測定し、色差ΔEを次式で算出した。ΔEは耐変色性を示し、ΔEが大きいほど変色していることを示す。
ΔE= 〔(ΔL
*)
2 +(Δa
*)
2+(Δb
*)
2〕
1/2
ΔE:L
*a
*b
*表色系における試験前後の試験片の色差
ΔL
*:L
*a
*b
*表色系における試験前後の試験片の明度の差
Δa
*,Δb
*:L
*a
*b
*表色系における試験前後の試験片の各色度座標の差
【0061】
(屈曲走行試験)
屈曲走行試験では、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、屈曲走行試験機を用いて屈曲走行試験を行い、走行後の強力保持率を評価した。具体的には、
図6に示すように、実施例、比較例の各搬送ベルト1について、屈曲走行試験機30の駆動ローラ31(直径50mm)と4つのガイドローラ(直径15mm)32〜35に巻き掛けて、各搬送ベルト1をガイドローラに沿って屈曲させながら走行させた。各搬送ベルト1を40万回転させることにより、各搬送ベルト1を5つのプーリ31〜35によって200万回屈曲させた後、各搬送ベルト1の接合部を目視により観察した。なお、走行試験条件は、ベルト張力を1N/mm、ベルト走行速度を150m/minとした。そして、走行後の強力保持率が90%以上の搬送ベルト1を○とし、走行後の強力保持率が80%以上、90%未満の搬送ベルト1を△として評価した。
【0062】
実施例、比較例の各搬送ベルトについて、層構造及び搬送ベルトの厚みと共に、上述した光透過率測定試験、走行帯電圧測定試験、ベルト強力測定試験、耐変色試験、屈曲走行試験の結果を、それぞれ、表1の「光透過性(%)」、「走行耐電圧(V)」、「ベルト強力(N/mm)」、「耐変色性(ΔE)」、「屈曲走行試験」の欄に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示す結果から、光透過性測定試験の結果では、第一の実施形態の搬送ベルト1の構成である実施例1〜3の搬送ベルトは、比較例1の搬送ベルトと比べ、光透過率が高くなっている。また、第二の実施形態の搬送ベルト1の構成である実施例4の搬送ベルトは、比較例2の搬送ベルトと比べ、光透過率が高くなっている。
【0065】
また、走行帯電圧測定試験の結果では、通常の搬送ベルトの走行帯電圧は、白色導電性繊維を撚り込んだ導電性経糸を用いた実施例1〜4の搬送ベルトの走行帯電圧は、−2000V程度である。また、黒色導電性繊維を撚り込んだ導電性経糸を用いた比較例1〜2の搬送ベルトの走行帯電圧は、−1000V程度である。
【0066】
また、耐変色試験の結果では、透明無黄変ポリウレタンエラストマーを表面カバー層2、接着層4、中間層5、及び、接着層7に用いた実施例1〜4の搬送ベルトのフェードメータ試験後の色差変化ΔEは、透明ポリウレタンエラストマーを表面カバー層2、接着層4、中間層5、及び、接着層7に用いた比較例1〜2より小さくなった。
【0067】
また、ベルト強力測定試験の結果では、第一の実施形態の搬送ベルト1の構成である実施例1〜3の搬送ベルトは、比較例1の搬送ベルトと比べ、ベルト張力が低くなっている。また、第二の実施形態の搬送ベルト1の構成である実施例4の搬送ベルトは、比較例2の搬送ベルトと比べ、ベルト張力が低くなっているが、実施例1,3の搬送ベルトと比べると、ベルト張力が高くなっている。
【0068】
また、屈曲走行試験の結果では、実施例3の搬送ベルトは、走行後の強力保持率が80%以上、90%未満となったが、実施例1〜2,4及び比較例1〜2の搬送ベルトは、走行後の強力保持率が90%以上となった。
【0069】
[考察]
上述の試験より、以下のことが明らかになった。
【0070】
光透過性測定試験では、実施例1〜3の搬送ベルトは、比較例1の搬送ベルトと比べ、光透過率が高くなっており、実施例4の搬送ベルトは、比較例2の搬送ベルトと比べ、光透過率が高くなっていることが明らかとなった。これは、比較例1〜2の搬送ベルトに比べて、実施例1〜4の搬送ベルトに、より光透過性の高い芯体帆布が用いられているためだと考えられる。
【0071】
走行帯電圧測定試験では、白色導電性繊維を撚り込んだ導電性経糸を用いた実施例1〜4の搬送ベルトの走行帯電圧は、−2000V程度であることが明らかになった。これにより、通常の搬送ベルトの走行帯電圧は、−20000から−30000Vであるのに対して、十分に帯電防止ができていることがわかる。
【0072】
耐変色試験では、実施例1〜4の搬送ベルトのフェードメータ試験後の色差変化ΔEは、比較例1〜2より小さくなったことが明らかになった。これは、比較例1〜2に用いられている透明ポリウレタンエラストマーに含まれるフェニル基が、紫外線と反応して、
表面カバー層2、接着層4、中間層5、及び、接着層7が経時により黄変したからであると考えられる。
【0073】
ベルト強力測定試験では、実施例1〜3の搬送ベルトは、比較例1の搬送ベルトと比べ、ベルト張力が低くなっており、実施例4の搬送ベルトは、比較例2の搬送ベルトと比べ、ベルト張力が低くなっているが、実施例1,3の搬送ベルトと比べると、ベルト張力が高くなっていることが明らかになった。通常の軽搬送用途で要求される張力は10N/mm以上であるので、実施例1〜4の搬送ベルトは、軽搬送用途の搬送ベルトとして使用することができる。
【0074】
屈曲走行試験では、実施例3の搬送ベルトは、走行後の強力保持率が80%以上、90%未満となり、実施例1〜2,4及び比較例1〜2の搬送ベルトは、走行後の強力保持率が90%以上となったことが明らかになった。これにより、実施例1〜4では、搬送ベルト1の異常が発生しないと考えられる。
【0075】
以上より、外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、接着層4が形成された芯体帆布3とが積層された第一の実施形態に係る搬送ベルト1、及び、外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、接着層4が形成された芯体帆布3と、芯体帆布3の接着層4と、中間層5と、接着層7が形成された第2の芯体帆布6とが積層された第二の実施形態に係る搬送ベルト1は、物品の搬送に必要なベルトの強度や耐久性を確保しつつ、搬送ベルトの裏面に光源を設置して搬送物を目視検査する場合の視認性に優れたことが明らかとなった。
【0076】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。