特許第6118421号(P6118421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許6118421-歯科用窯 図000002
  • 特許6118421-歯科用窯 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118421
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】歯科用窯
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/00 20060101AFI20170410BHJP
   A61C 13/38 20060101ALI20170410BHJP
   F27B 17/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   A61C13/00 K
   A61C13/38
   F27B17/00 C
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-546909(P2015-546909)
(86)(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公表番号】特表2016-504080(P2016-504080A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】EP2013073287
(87)【国際公開番号】WO2014090487
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年8月11日
(31)【優先権主張番号】12197055.2
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ユッゼル,ルドルフ
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047731(US,A1)
【文献】 特開2002−277176(JP,A)
【文献】 特開平09−184687(JP,A)
【文献】 特開平08−059247(JP,A)
【文献】 特開2009−233330(JP,A)
【文献】 特開平06−123556(JP,A)
【文献】 特開2001−293012(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0250067(US,A1)
【文献】 特開2002−062117(JP,A)
【文献】 特開2008−253770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00
A61C 13/38
F27B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯基礎部材と窯天蓋からなり、前記窯天蓋が歯科補綴部材を収容するための燃焼室と前記窯天蓋と窯基礎部材の間の相対動作のための駆動装置を備えていて、さらに歯科用窯を制御する制御装置に結合されていて前記歯科補綴部材の温度を検出する温度センサを備えてなる歯科用窯であり、
前記制御装置(30)が前記温度センサ(20)によって検出された温度に基づいて前記駆動装置(18)を制御し、
前記温度センサ(20)を光学センサとし、
また前記温度センサ(20)を燃焼室(15)の外部に配置し、
該温度センサ(20)は、前記歯科補綴部材の温度の検出に加え、周囲環境温度、ならびに歯科補綴部材の寸法および/またはその歯科補綴部材を収容するマッフルの寸法をも計測することができる、
ことを特徴とする歯科用窯。
【請求項2】
前記光学センサは、二次元のセンサアレイである
ことを特徴とする請求項1に記載の歯科用窯。
【請求項3】
前記制御装置(30)が前記温度センサ(20)によって検出された温度に基づいて前記駆動装置(18)を制御して、前記窯天蓋(16)を前記窯基礎部材(11)に対して開放する
ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項4】
温度センサ(20)が歯科補綴部材の温度を継続的に検出し、また制御装置(30)が前記継続的に検出された温度センサ(20)の温度数値から温度勾配を算定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項5】
光学センサが赤外線センサであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項6】
温度センサ(20)をサーモグラフィカメラとすることを特徴とする請求項に記載の歯科用窯。
【請求項7】
温度センサ(20)を窯基礎部材(11)の上方側部に配置することを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項8】
窯天蓋(16)が赤外線透過性の窓を備え、その窓を燃焼室(15)内に存在する歯科補綴部材と温度センサ(20)の間の光学経路内に配置することを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項9】
駆動装置(18)を使用して窯基礎部材(11)に対する窯天蓋(16)の相対位置を変更することによって歯科補綴部材の冷却速度を制御するように制御装置(30)を適応させることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項10】
温度センサ(20)によって焼成物担持部材の温度を検出可能であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項11】
操作装置(19)によって処理プログラムを選択可能であり、前記処理プログラムは制御装置(30)内に記憶可能であり、また前記処理プログラム中に歯科補綴部材の冷却速度の目標値が予設定されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項12】
歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に大きい場合に窯天蓋(16)を下降させるように制御装置(30)を適応させ、また歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に小さい場合に窯天蓋(16)を上昇させるかあるいは上昇を加速させるように制御装置(30)を適応させることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項13】
窯天蓋(16)内に加熱装置を配置し、歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に大きい場合に前記加熱装置を付勢するように制御装置(30)を適応させることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項14】
歯科用窯(10)に冷却装置を設け、歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に小さい場合に前記冷却装置を付勢するように制御装置(30)を適応させることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項15】
歯科用窯(10)が制御装置(30)に接続された信号発生装置(22)をさらに備え、選択された処理プログラムによって予設定された歯科補綴部材の冷却温度を下回ったことを前記信号発生装置(22)によって発信するように前記制御装置(30)を適応させることを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項16】
温度センサ(20)によって歯科補綴部材の存在あるいは不在、ならびにその歯科補綴部材の取り出し時点を検出し、その検出結果を制御装置に伝送することを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載の歯科用窯。
【請求項17】
前記制御装置が、前記検出結果を記憶することを特徴とする請求項16に記載の歯科用窯。
【請求項18】
歯科用窯が窯基礎部材と駆動装置によって動作可能な窯天蓋を備え、前記窯天蓋が歯科補綴部材を収容するための燃焼室を備え、歯科用窯がさらに制御装置に接続された温度センサを備え、前記温度センサを前記燃焼室の外部に配置してなる、歯科用窯を制御する方法であり、
前記制御装置が焼成プロセスの終了後にその制御装置(30)内に記憶された前記歯科用窯の所定の温度、および/または前記歯科用窯の冷却速度、および/または前記窯天蓋の待機時間あるいは休止時間に従って前記窯天蓋(16)を開放し;
前記温度センサ(20)が前記歯科補綴部材の温度を検出し;
前記温度センサ(20)によって検出された歯科補綴部材の温度が前記制御装置(30)内に記憶された数値を下回った場合に前記制御装置(30)が前記駆動装置(18)を使用して前記窯天蓋(16)を完全に開放する、および/または前記制御装置に接続された信号発生装置(22)を介して使用者に信号を発信する、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、請求項1前段に記載の歯科補綴部材用の焼成窯あるいはプレス窯、ならびに請求項17前段に記載の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の歯科補綴部材を焼成あるいはプレス加工するための歯科用窯は以前から知られている。その種の歯科用窯内において1つあるいは複数の歯科補綴部材に対して焼成工程あるいはプレス工程が施され、特に所与の温度プロフィールならびに必要に応じてプレスプロフィールに従ってプログラム制御される。
【0003】
製造された歯科補綴部材の品質は、予め設定しかつ実際に使用される歯科補綴材料に適合させたパラメータが焼成工程中ならびに必要に応じたプレス工程中に正確に維持されるかに実質的に依存する。それには、維持すべき温度プロフィールのみでなく焼成サイクル中の存在する圧力状況も含まれる。
【0004】
その種の歯科補綴部材には、樹脂、金属、複合材、および特にセラミックあるいはそれらの組合せから製造される歯科補綴部材が含まれる。
【0005】
加工する材料、大きさ、さらに同時に製造する歯科補綴部材の数および形状を通じて、特に加工する歯科補綴部材の総熱容量が決定される。それによって加熱出力の調節が必要となる可能性が有り、そのため焼成もしくはプレス窯上で入力装置を介して多様な処理プログラムを呼び出すことができ、その中に対応する全般条件(材料、大きさ等)に対する最適な動作パラメータが統合される。適宜な処理プログラムの呼び出しと開始によって最適な製品品質を達成するための焼成プロセスが促進される。
【0006】
その種の歯科用窯は主に、窯基礎部を備えその上で焼成する歯科補綴部材が必要に応じてマッフル内に収容され、また窯天蓋部を備えそれが断熱材に加えて通常加熱装置(例えば電熱コイル)を収容し、さらに制御装置とそれに接続された表示および入力装置を備える。さらに制御装置が記憶装置を備え、その中に処理プログラムが記憶される。一方入力装置は接触感応式の表示装置(タッチパネル)の形式で部分的に表示装置と組み合わせることができるが、さらに周知の方式で専用キーあるいは表示装置を使用して可変の機能に割り当てられたキー(“ソフトキー”)を備えることができる。
【0007】
その種の歯科用窯は例えば独国特許第19754077号B4明細書に記載されている。表示装置上にパラメータを数値で表示することも、また相互に重ね合わせることができる多色の曲線表示で示すこともできる。キーによる入力が可能であり、それによって必要であれば焼成プログラムを変更することができる。
【0008】
近年さらに、歯科用窯に好適には赤外線領域に対しても感応性のあるカメラを装備しそれによって焼成対象の温度検出をその対象物が既に窯内に挿入されている間においても実施可能にすることが提案されている。そのことによって、例えば予め予加熱窯内で予加熱されたマッフルの実温度の極めて正確な検出が達成可能になるという利点がもたらされる。実際のマッフル温度を考慮することによって例えばプレスプログラム等の選択された歯科用窯の処理プログラムを調節し、それによって改善された結果を達成することができる。
【0009】
その種の温度検出は、そのように検出されたマッフル絶対温度に基づいて例えば昇温持続時間等の焼成パラメータの補正を実行し、それによって後続する本質的な処理プログラムのために処理される材料に対する最適な処理パラメータを確立し得るように提案されている。
【0010】
本質的な焼成温度(あるいは燃焼曲線)の他に焼成する歯科補綴部材の投入温度ならびに焼成する材料の特性まで考慮した、時に極めて複雑になる焼成工程中の窯温度の制御にもかかわらず、焼成結果あるいはそのようにして製造される歯科補綴部材の品質が必ずしも要求を満たすものでないことが判明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は、製造する歯科補綴部材の高い寸法精度および長い寿命等の高い品質要求を満たすことができる請求項1前段に記載の歯科用窯ならびに請求項17前段に記載の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題は本発明に従って請求項1ならびに請求項17によって解決される。従属請求項によって好適な追加構成が定義される。
【0013】
周知の歯科用窯のいくつかは、モータによって駆動される窯天蓋を備える。それによって、焼成プログラムの開始に際して窯天蓋の自動的な閉鎖と、焼成サイクルの終了に際して極めて振動が少ない開放が可能になる。
【0014】
原則的に、固定式の窯天蓋とモータ駆動で下降する窯基礎部材にも適しているが、この解決方式には新しく焼成された歯科補綴部材が窯基礎部材の下降の間に回避不能な振動に曝されるという問題点がある。その振動の大きさは窯基礎部材の駆動のために使用されるギアの構造と材質に依存する。いずれの場合にしてもこの振動が冷却前の歯科補綴部材の品質に悪影響を与える。
【0015】
その限りにおいて、モータ駆動によって開放可能な窯天蓋と固定式の窯基礎部材が前提とされる。しかしながら本発明の原理は、上記の可動式窯基礎部材と固定式の窯天蓋の組合せにも容易に適用可能である。
【0016】
品質を改善すべき理由の探求の枠内において、製造する歯科補綴部材の最適な品質のために最適な焼成温度ならびに焼成持続時間等のパラメータの他に別の決定要素が重要な役割を果たすことが判明した。終了まで焼成した歯科補綴部材の冷却プロセスも長期的な品質に対して極めて大きな影響を与える。例えば、本質的な焼成プロセスの終了直後に焼成窯から焼成対象物を直接取り出すことによって発生し得る過度に急速な冷却により、焼成対象物内に内部圧力が発生する可能性があり、それが歪みならびにそれに伴う不良な寸法精度、または極端な場合圧力破断に通じる可能性がある。
【0017】
その種の圧力破断は最悪の場合製造から長期間経過後に使用ならびにそれよって生じる歯科補綴部材への点的な負荷によって発生し得る。
【0018】
過度に遅速な歯科補綴部材の冷却によっては前述したような品質への悪影響は生じないが、サイクル時間を遅延させその間該当する焼成窯を新しい焼成サイクルに使用できないため問題である。
【0019】
一方、例えば歯科用窯内に設けた送風機を使用した強制冷却によって達成可能である過度に急速な冷却は上述したような問題の原因となり、従ってこれも可能な限り回避すべきである。
【0020】
歯科用窯の内部を減圧あるいは真空にして、または保護用ガスを入れて稼働させる特殊な場合は、送風機開口部が、たとえ閉鎖可能であっても、減圧あるいは真空の形成を妨害するため、送風機の適用が不可能になる。
【0021】
焼成対象物の冷却はそれの質量、大きさならびに形状(例えば多様な表面構造によるもの)に依存して変化する。焼成物の体積に対する表面積の比率が大きい場合、焼成物の体積に対して表面積が小さい場合に比べてより高い冷却速度が実現する。加えて、使用される焼成物担持部材、場合によって使用される燃焼棒および保護ペースト、ならびに窯天蓋および窯基礎部材もそれぞれ冷却速度の変化に影響を与える。
【0022】
本発明によれば、窯の周囲環境条件の変動も本発明に従って補償し得ることである。従って、赤外線カメラとして形成することができる本発明に係る温度センサが低温な周囲環境温度による急激な冷却を検出し、また本発明に係る窯天蓋の駆動制御が温度勾配に基づいて例えば過度に急速な冷却に際しては窯天蓋を遅速に開放するかあるいは再び閉鎖することによって調節を実施することが極めて好適である。
【0023】
本発明に係る歯科用窯は固定式の窯基礎部材とそれに対して可動式の窯天蓋を備えるものとして記述されるが、それに代えて窯天蓋を固定式とし窯基礎部材を下降可能に設計し得ることも理解される。窯天蓋の駆動としては、その窯天蓋と窯基礎部材の間の相対動作も理解され、窯天蓋の開放としては前記窯基礎部材に対する相対動作も理解される。
【0024】
従って、前述した窯天蓋内に存在する送風機を使用した強制冷却の問題点を同時に回避する、前述した要件を考慮しながらの個別で迅速であるがそれにもかかわらず制御された(すなわちいずれにしても過度に急速でない)焼成プロセスの焼成物の冷却が要望される。
【0025】
前述した熱的あるいは機械的に生じる圧力破断あるいは過度に時間がかかる冷却による長いサイクル時間等の問題点は、以下に詳細に記述するように、本発明に係る解決方式によって意外なほど簡便に解決される。
【0026】
好適には赤外線カメラによって形成される、燃焼室の外部に配置された温度検出装置によって、前述したように歯科補綴部材あるいは焼成対象物が収容された例えばマッフル等の焼成物担持部材の温度が歯科用窯内への挿入に際して窯天蓋が完全に閉鎖されていない間検出される。好適にはその温度検出装置は、窯天蓋が極僅かに開放されている際でも窯内部の焼成対象物に対して直接的に光学的な接触を有するように配置される。
【0027】
この時間間隔は焼成対象物の燃焼室内への設置あるいはその焼成対象物の窯基礎部材上への載置から窯天蓋の完全な閉鎖(すなわち窯天蓋が焼成対象物を赤外線カメラの“視界”から遮蔽する)まで継続する間隔であり、この時間間隔に対して継続的な温度検出が実施される。時間に従った温度の検出によって温度経移あるいは温度勾配を判定することができる。
【0028】
その後窯天蓋を完全に閉鎖した際の燃焼室温度の測定は、当然燃焼室内に設置された温度センサ(例えば熱電対)によってのみ可能になる。
【0029】
窯天蓋中の焼成対象物と赤外線カメラの間の光学経路内に存在し、熱絶縁性であるが赤外線を可能な限り減衰させず従って赤外線透過性である窓を介して、窯天蓋を閉鎖している際の焼成対象物の温度測定を実施可能にすることもできる。
【0030】
焼成プロセスの終了後にプログラムに従って窯の加熱が停止され、焼成対象物の冷却が開始される。送風機等の装置手段を使用する必要なく冷却を加速するために、窯の制御によって制御しモータの支援によって窯天蓋を開放し燃焼室の外部に配置された赤外線カメラによって焼成対象物の温度を再び検出することが意外にも容易に可能となる。
【0031】
従って焼成対象物の温度の継続的な検出は、赤外線カメラと焼成対象物の間の光学的な接触を可能にするために充分な程の広さで窯天蓋が開放された時点において開始することができる。前述したように、焼成対象物の冷却が進行する際の温度勾配を判定することができる。
【0032】
窯天蓋をより大きく開放すると、それによって大きく窯天蓋から離間する焼成対象物への窯天蓋内およびそれの断熱材内に蓄積された残留熱の放射が減少し周囲空気と焼成物の間のより良好な熱交換が実施され得るため、より迅速な冷却が達成される。それに対して窯天蓋をより小さく開放した場合、発熱体と断熱材から焼成対象物への残留熱の放射によって焼成対象物がさらに後加熱され、また比較的きつく閉鎖された窯天蓋によって周囲環境と焼成物の間の温度均衡化が妨害される。この場合冷却曲線が著しく平坦になる。
【0033】
歯科用窯の制御装置の支援によって焼成対象物の実際の冷却速度と選択された処理プログラムの焼成プロフィール内で設定された最適な冷却速度との間の継続的な比較を実施することができる。窯の制御装置による窯天蓋モータの制御によって意外なほど簡便に焼成対象物の冷却速度の調節を次のように実施することができ、すなわち窯天蓋の開放を縮小(すなわち下降)することによって速度を低下させ、また窯天蓋の開放を拡大(すなわち上昇)することによって冷却速度を増加させることができる。
【0034】
多様な温度領域のために焼成対象物の最適な冷却速度を勿論多様にすることができる。プログラム制御された窯天蓋の開放あるいは上昇によって、例えば冷却の開始のためにより高い冷却速度を実施し、セラミックあるいはガラスの軟質から硬質状態への遷移臨界を示すものであるいわゆる変態温度の通過に際して冷却速度を著しく低減し、その後再び高速にして非臨界的な冷却を実施させることができる。
【0035】
同様に処理プログラムの焼成プロフィール内に設定された最終冷却温度に到達した際に、焼成物の取り出しが可能であることを示す信号が窯から発信され窯天蓋の完全な開放が未だ行われていない場合はそこで完全開放が実施される。
【0036】
本発明に係る実際の焼成物温度に依存した窯天蓋の開放位置の自動制御によって、熱圧力(歪み、破断)等の過度に急速に実施される冷却の悪影響を伴うことなく、本発明に従って可能な限り短いサイクル時間で最適な焼成物の冷却を実現することが可能になる。
【0037】
好適な構成形態によれば、温度センサが歯科補綴部材の温度を継続的に検出し、また制御装置が前記継続的に検出された温度センサ温度数値から温度勾配を算定する。
【0038】
好適な構成形態によれば温度センサを光学センサ、特に赤外線センサとする。
【0039】
好適な構成形態によれば、温度センサを二次元のセンサアレイ、特にサーモグラフィカメラとする。
【0040】
好適な構成形態によれば、温度センサを燃焼室の外部、特に窯基礎部材の上方側部に配置する。
【0041】
好適な追加構成形態によれば、窯天蓋が赤外線透過性の窓を備え、その窓を燃焼室内に存在する歯科補綴部材と温度センサの間の光学経路内に配置することを特徴とする。
【0042】
好適な構成形態によれば、駆動装置を使用して窯基礎部材に対する窯天蓋の相対位置を変更することによって歯科補綴部材の冷却速度を制御するように制御装置を適応させることを特徴とする。
【0043】
好適な構成形態によれば、温度センサによって焼成物担持部材の温度を検出可能である。
【0044】
好適な構成形態によればさらに、温度センサによって周囲環境温度、ならびに歯科補綴部材の寸法および/またはその歯科補綴部材を収容するマッフルの寸法を計測することもできる。
【0045】
好適な構成形態によれば、操作装置によって処理プログラムを選択可能であり、前記処理プログラムは制御装置内に記憶可能であり、また前記処理プログラム中に歯科補綴部材の冷却速度の目標値が予設定される。
【0046】
好適な構成形態によれば、歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に大きい場合に窯天蓋を下降させるように制御装置を適用し、また歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に小さい場合に窯天蓋を上昇させるかあるいは上昇を加速させるように制御装置を適応させる。
【0047】
好適な構成形態によれば、窯天蓋内に加熱装置を配置し、歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に大きい場合に前記加熱装置を付勢するように制御装置を適応させる。
【0048】
好適な構成形態によればさらに、歯科用窯に冷却装置を設け、歯科補綴部材の冷却速度が選択された処理プログラム中に予設定された目標値と比べて過度に小さい場合に前記冷却装置を付勢するように制御装置を適応させる。
【0049】
好適な構成形態によれば、歯科用窯が制御装置に接続された信号発生装置をさらに備え、選択された処理プログラムによって予設定された歯科補綴部材の冷却温度を下回ったことを前記信号発生装置によって発信するように前記制御装置を適応させる。
【0050】
好適な構成形態によれば、温度センサによって歯科補綴部材の存在あるいは不在、ならびにその歯科補綴部材の取り出し時点を検出し、その検出結果を制御装置に伝送し、その制御装置が特にその結果を記憶する。
【0051】
好適な構成形態によれば、歯科用窯が窯基礎部材と駆動装置によって動作可能な窯天蓋を備え、前記窯天蓋が歯科補綴部材を収容するための燃焼室を備え、歯科用窯がさらに制御装置に接続された温度センサを備え、前記温度センサを前記燃焼室の外部に配置し、また前記制御装置が焼成プロセスの終了後に前記制御装置内に記憶された所与の数値に従って前記窯天蓋を開放し;前記温度センサが前記歯科補綴部材の温度を検出し;前記温度センサによって検出された歯科補綴部材の温度が前記制御装置内に記憶された数値を下回った場合に前記制御装置が前記駆動装置を使用して前記窯天蓋を完全に開放するか、および/または前記制御装置に接続された信号発生装置を介して使用者に信号を発信する。
【0052】
本発明のその他の詳細、特徴、ならびに種々の利点は添付図面を参照しながら以下に記述する実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明に係る歯科用窯を概略的に示した構成図である。
図2】本発明に係る窯において制御された冷却の間の窯天蓋位置の制御を概略的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
歯科用窯10は例えばマッフル13(ここでは挿入された未加工材14と共に図示されている)等の焼成物を収容するように設計された燃焼室底部12を有する窯基礎部材11を備える。焼成のために焼成物15が図1に極概略的に示された燃焼室15内に収容され、その燃焼室は関節17を介して窯基礎部材11と結合された窯天蓋16内に形成される。窯天蓋16の開放の度合いは、図1においては明瞭性の理由から象徴的に示されているモータ18によって変更可能である。本発明に係る10がプレス窯である場合、処理する歯科材料をプレスするための装置を好適には窯天蓋16内に追加的に備えるが、ここでは明瞭性を維持するために図示されていない。
【0055】
歯科用窯10はさらに、(図1には示されていない)制御装置と共働する操作装置19を備える。前記制御装置に接続された赤外線カメラ20が窯基礎部材11上に存在する。前記カメラ20は、窯天蓋16が閉鎖されている際はそれの外部に存在し、またその窯天蓋の開閉を妨害することが無く、さらに窯天蓋が開放された際には焼成物に対しての自由な視界が保証されるように配置される。カメラ20の撮像範囲は、燃焼室底部12上に載置されたマッフル13をその直径全体で捕捉するような方式で窯基礎部材11と燃焼室底部12に沿って延在する。カメラ20は、窯天蓋16が最小限に開放された場合でも設置されたマッフル13の少なくとも極小さい部分を捕捉することができ従って窯天蓋16が最小限に開放された場合でも既に温度検出が可能になるように配置することが好適である。
【0056】
図1に示された状態において窯天蓋16(燃焼室15を含む)が完全に持ち上げられており、従って焼成物を挿入あるいは取り出すことができる。
【0057】
本発明によれば、赤外線センサの二次元アレーを形成する赤外線カメラによって焼成物の温度検出の他にその焼成物の寸法の計測も可能になることが好適である。その際カメラによって捕捉された高温の領域(歯科補綴部材あるいはマッフル)と周囲環境温度に相当する低温の領域との間のコントラストが利用される。加えて、その方式によって周囲環境温度の簡便な検出が可能になり、その数値も同様に焼成物の冷却速度の制御に取り入れることができる。
【0058】
さらに、歯科補綴部材あるいはその歯科補綴部材を収容するマッフルの外形寸法の検出によって極めて高い信頼性で焼成物の質量と(材質が判明していれば)さらに熱容量の結果を得ることができる。そのようにして判定される追加的なパラメータも冷却速度の制御に取り入れることができる。
【0059】
窯基礎部材11に対する窯天蓋16の位置を制御するために絶対的な位置の他に動作、すなわち開放および閉鎖の速度も制御装置30によって制御し得ることが理解される。焼成物の実際温度と焼成物の実際冷却速度等の検出されたパラメータに従って制御装置30によって計算された位置に到達すると、予め設定された閾値を超える変動が制御装置30によって検出されるまで窯天蓋がその位置に滞留する。加えて、必要に応じて同様に予設定された待機時間あるいは休止時間を維持しながらの補正が実施され、それによって恒久的な天蓋位置の後調節を回避する。制御装置30は、制御量、すなわち窯基礎部材11に対する窯天蓋16の開口を判定するために例えばPID制御等の一般的なアルゴリズムを使用する。
【0060】
図2には、窯天蓋16の位置の制御が概略的に示されている。燃焼室15の外側に配置された赤外線カメラ20を介してそれの捕捉領域21内で検出された温度情報が制御装置30に伝送される。そのように計測される焼成物(例えばマッフル)の温度が時間的に継続して捕捉されるため、制御装置30が温度勾配あるいは冷却速度を判定しその制御装置の(図示されていない)記憶装置内に記録された閾値と比較することができる。
【0061】
その結果過度に低い冷却速度が判定されると、制御装置30がモータ18を介して窯天蓋16のさらなる開放を実行し、そのことは図2中において矢印32によって示されている。それによって歯科用窯10と周囲空気との間のより良好な温度均衡化を実施することができ、冷却速度が上昇する。そのようにして達成可能である冷却速度が窯天蓋16を完全に開放させても未だ不充分である場合、例えば外部の送風機等の追加的な冷却処置によって能動的に追加冷却することができる。
【0062】
その逆に過度に大きな冷却速度が判定された場合、窯天蓋16が窯基礎部材11に向かって移動するように制御装置30によってモータ18が制御される。それによってまず第1にマッフル13に対して窯天蓋16内に存在する(図示されていない)断熱材の残留熱が再び放射され、他方で周囲空気とマッフル13の間の熱均衡化が妨害されそれによって冷却速度の低下がもたらされる。処理プログラムによって予設定された閾値まで冷却速度を下げるために窯天蓋16内に蓄積された残留熱が不充分である場合、窯天蓋16内に存在しているが明瞭性の理由から図中には示されていない燃焼室加熱装置によって追加的に熱エネルギーを提供することもできる。
【0063】
マッフル16の冷却速度の継続的な制御を達成するために、前述した窯天蓋16の位置調節が継続的に実施される。同様に処理プログラムによって予設定されたマッフル16の冷却の最終温度に到達すると、制御装置30によってモータ18の支援を通じて窯天蓋16が完全に開放され、また追加的にスピーカ22を介して音響信号が発信されるかあるいは装置パネル19上に視覚的な表示が成され、それによって焼成物を既に取り出すことが可能でありまた歯科用窯10を再び新しい焼成サイクルに投入可能であることを使用者が認識し得るようにする。
【0064】
原則的に、歯科補綴部材の過度に早い取り出しを温度センサによって検出することも可能である。このことは温度センサがサーモグラフィカメラとして形成される場合に特に該当する。この構成においては、歯科補綴部材を取り出す際の温度を一種のプロトコルとして捕捉し、それによって所与の取り出し温度を正確に捕捉し得るようにすることが好適である。
【0065】
別の実施形態によれば、既知の先行した温度処理(焼成温度、焼成物の熱容量等)に基づいて固定的に予設定された窯天蓋位置をモータ駆動によって調節し、またそれによって焼成プログラムによって予設定された非変動制の冷却曲線(これは勿論非線形の軌道である)を実現し、それによれば温度閾値を下回ったことのみが赤外線カメラによって検出される。この温度閾値は使用される材料(例えば長石あるいは二珪酸リチウムセラミック)ならびに燃焼の種類(溶融、酸化、グレージング等)によって多様である。
図1
図2