特許第6118466号(P6118466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118466
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20170410BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170410BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20170410BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L63/00 C
   C08K3/00
   C08J5/24CER
   C08J5/24CEZ
   B32B5/28
【請求項の数】22
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-526403(P2016-526403)
(86)(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公表番号】特表2016-524033(P2016-524033A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】CN2013086617
(87)【国際公開番号】WO2015062115
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】201310526318.9
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514309583
【氏名又は名称】廣東生益科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENGYI TECHNOLOGY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】杜 翠鳴
(72)【発明者】
【氏名】柴 頌剛
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0143091(US,A1)
【文献】 特開2012−122045(JP,A)
【文献】 特開昭62−132960(JP,A)
【文献】 特開2012−099697(JP,A)
【文献】 特開2005−336416(JP,A)
【文献】 特開2008−179724(JP,A)
【文献】 特開2012−134411(JP,A)
【文献】 特開2009−138075(JP,A)
【文献】 特開2002−367869(JP,A)
【文献】 特表2004−500470(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101463181(CN,A)
【文献】 特開平10−212396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
B29B 11/16
B29B 15/08 − 15/14
C08J 5/04 − 5/10
C08J 5/24
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、無機フィラー及びタングステン化合物を含み、前記タングステン化合物はS元素とP元素を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記タングステン化合物は有機タングステン化合物又は/及び無機タングステン化合物から選ばれる、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記タングステン化合物はアミノジイソプロピルジチオリン酸タングステン又はアルキル(アリール)アミノチオリン酸タングステンから選ばれる任意の1種又は2種の混合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記タングステン化合物の含有量は熱硬化性樹脂組成物の全質量に対し0.1〜15wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記タングステン化合物の含有量は熱硬化性樹脂組成物の全質量に対し0.001〜30wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機フィラーはシリカ、アルミナ、タルク、雲母、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、Eガラスパウダー、Sガラスパウダー、Dガラスパウダー、NEガラスパウダー、中空微粉末又はベーマイトから選ばれる任意の1種又は少なくとも2種の混合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機フィラーの含有量は熱硬化性樹脂組成物の全質量に対し20〜60wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記無機フィラーの含有量は熱硬化性樹脂組成物の全質量に対し10〜80wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機フィラーの平均粒子径は0.5〜20μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記無機フィラーの平均粒子径は0.1〜100μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂は熱硬化性樹脂組成物の全質量の20〜70wt%を占める、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂は熱硬化性樹脂組成物の全質量の25〜65wt%を占める、ことを特徴とする請求項11に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂は熱硬化性樹脂組成物の全質量の30〜60wt%を占める、ことを特徴とする請求項12に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂組成物は、更に熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して1〜30wt%の硬化剤を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
前記硬化剤は熱硬化性樹脂組成物の全質量の4〜25wt%を占める、ことを特徴とする請求項14に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
前記硬化剤は熱硬化性樹脂組成物の全質量の10〜20wt%を占める、ことを特徴とする請求項15に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項17】
前記熱硬化性樹脂組成物は、更に熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して0(0を除く)〜10wt%の促進剤を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項18】
前記促進剤は熱硬化性樹脂組成物の全質量の1〜10wt%を占める、ことを特徴とする請求項17に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項19】
前記促進剤は熱硬化性樹脂組成物の全質量の2〜8wt%を占める、ことを特徴とする請求項18に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項20】
請求項1−19のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散させて得る、ことを特徴とする樹脂溶液。
【請求項21】
強化材と、浸漬乾燥後にそれに付着される請求項1−19のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物とを含む、ことを特徴とするプリプレグ。
【請求項22】
少なくとも請求項21に記載のプリプレグを一枚含む、ことを特徴とする積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂組成物及びその用途に関し、具体的には、熱硬化性樹脂組成物及び該熱硬化性樹脂組成物で製造されたプリプレグ及び積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品がコンパクト化、多機能化、高性能化及び高信頼化へ迅速に発展するにつれて、プリント回路基板は高精度化、高密度化、高性能化、微孔化、薄型化及び多層化へ迅速に発展し始め、その応用範囲も益々幅広くなり、工業用大型コンピューター、通信機器、電気測定、国防及び航空・宇宙等の分野から民用電化製品及びその関連製品へ広がる。マトリクス材料はプリント回路基板の性能を決める要因であるため、次世代のマトリクス材料の開発に対する要求が緊迫になる。次世代のマトリクス材料としては高耐熱性、低熱膨張係数及び優れた化学安定性と機械的性質が求められる。
【0003】
積層板の熱膨張係数を低下させるために、低熱膨張係数の樹脂を使用するか又は無機フィラーの含有量を向上させることが一般的である。しかしながら、低熱膨張係数樹脂は構造が特殊で、コストが高く、それに対して、無機フィラーの含有量を向上させる方法は複合物の熱膨張係数を効果的に低下させるとともに、コストを大幅に低減させることができるが、高充填化樹脂は積層板のドリル加工性を大幅に低下させる。従って、タルク等のブロック状フィラーを潤滑剤として添加することにより、加工性を改善する試みが行われたが、効果が低く、更にそれらブロック状フィラーの添加により層間接着力がさらに低下する。
【0004】
また、近年、LED(発光ダイオード)は特徴としてエネルギー消費が低く、効率が高いため、電器指示、LEDディスプレイ、LEDバックライト、景観照明、室内装飾等の分野に幅広く適用される。LEDの急速な発展も、機能性銅張積層板と被覆膜の発展を促進した。該銅張積層板と被覆膜は固有の絶縁性等の性質以外に、LED光源の光線が板材の裏面を透過し、エネルギーを浪費するとともに、輝度を低下させることを可能な限り防止するように優れた光遮断機能を有する必要がある。銅張積層板と被覆膜に黒色特性を付与するために、従来からカーボンブラックやアニリンブラック等の材料を銅張積層板や被覆膜に添加することで板材に黒色機能を持たせることが産業において一般的である。
【0005】
CN 102190865Aにおいて、銅張積層板を製造するエポキシ樹脂組成物が開示され、主にアニリンブラックを用いて銅張積層板に黒色特性を付与する。特許CN 101851390Aにおいて、黒色被覆膜が開示され、主にカーボンブラックパウダーで被覆膜に黒色特性を付与する。しかしながら、黒色顔料も様々な問題を引き起こすことがある。例えば、炭素を主成分とする黒色顔料のカーボンブラックは銅張積層板や被覆膜の絶縁性に大幅な影響を与え、ベンゼン環と窒素元素で構成される黒色顔料のアニリンブラックは銅張積層板や被覆膜、特にハロゲン系銅張積層板や被覆膜の耐熱性に大幅な影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に存在する問題に対して、本発明は無機フィラーを高充填化してもドリル加工性及び層間接着力の劣化を抑制できる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とし、該熱硬化性樹脂組成物で製造された積層板は低熱膨張係数、優れたドリル加工性と耐熱性、高い層間接着力及び優れた機械的性質と化学安定性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は下記技術案を採用する。
【0008】
熱硬化性樹脂組成物であって、前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂、無機フィラー及びタングステン化合物を含む。
【0009】
本発明は、熱硬化性樹脂にタングステン化合物と無機フィラーを添加することにより、積層板の熱膨張係数を低下させて積層板の機械的性質を向上させ、積層板のドリル加工性を著しく改善できるだけでなく、熱硬化性樹脂と無機フィラーとの相溶性及び積層板の層間接着力を著しく改善し、それにより無機フィラーを高充填化してもドリル加工性や層間接着力の劣化を抑制でき、得られた積層板は低熱膨張係数、優れたドリル加工性と耐熱性、高い層間接着力及び優れた機械的性質と化学安定性を有する。且つ、タングステン化合物を添加した熱硬化性樹脂は積層板の製造、PCBの製造等のいずれかの生産プロセスにも適用でき、処方やプロセスの改良操作がシンプルである。
【0010】
タングステン化合物の摩擦係数が低く、潤滑性に優れるので、ドリルカッターへのタングステン化合物を添加した熱硬化性樹脂組成物による摩損が大幅に低下する。
【0011】
好ましくは、前記タングステン化合物は、有機タングステン化合物又は/及び無機タングステン化合物から選ばれる。
【0012】
好ましくは、前記タングステン化合物は、二硫化タングステン、テトラチオタングステン酸アンモニウム、四臭化酸化タングステン、四塩化タングステン、四臭化タングステン、タングステン酸亜鉛、タングステン酸カルシウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸アンモニウム、セレン化タングステン、酸化タングステン、ジオクチルジチオカルバミン酸タングステン、ジチオラトタングステン、トルエン−3,4−ジチオールタングステン、アミノジイソプロピルジチオリン酸タングステン、有機タングステンモリブデン錯体、ジチオカルバミン酸タングステン化合物、芳香族炭化水素タングステン化合物又はアルキル(アリール)アミノチオリン酸タングステンから選ばれる任意の1種又は少なくとも2種の混合物である。前記混合物は、例えば二硫化タングステンとテトラチオタングステン酸アンモニウムの混合物、四臭化酸化タングステンと四塩化タングステンの混合物、四臭化タングステンとタングステン酸亜鉛の混合物、タングステン酸カルシウムとタングステン酸マグネシウムの混合物、タングステン酸アンモニウムとセレン化タングステンの混合物、酸化タングステンとジオクチルジチオカルバミン酸タングステンの混合物、ジチオラトタングステンとトルエン−3,4−ジチオールタングステンの混合物、アミノジイソプロピルジチオリン酸タングステンと有機タングステンモリブデン錯体の混合物、ジチオカルバミン酸タングステン化合物、芳香族炭化水素タングステン化合物及びアルキル(アリール)アミノチオリン酸タングステンの混合物が挙げられる。
【0013】
前記タングステン化合物にS元素とP元素を含むと、潤滑効果が更に高く、ドリル加工性に対する改善効果が更に高くなることが好ましい。分子にSやP等の極性原子を含むと、それら高活性成分は金属表面エネルギーの影響を受けて、金属表面と親和力が発生して、金属表面に強固に吸着され、本質的には金属表面と物理化学的吸着が発生される。機械的運動を行った後、金属表面が摩擦されて荷重圧力が高くなるため、極性分子は摩擦環境における特殊な高温、高圧及び触媒等の作用下で、一連の複雑な化学反応を迅速に行い、タングステン化合物におけるタングステン元素も成分中の特定元素を合理的で効果的に吸収して、層状減摩剤に類似する被覆膜を形成することができ、該減摩剤は粒度が小さく且つ吸着力が高い。
【0014】
好ましくは、前記タングステン化合物は、二硫化タングステン、テトラチオタングステン酸アンモニウム、四臭化酸化タングステン、四塩化タングステン、四臭化タングステン又はアルキル(アリール)アミノチオリン酸タングステンから選ばれる任意の1種又は少なくとも2種の混合物である。熱硬化性樹脂に上記タングステン化合物を添加することにより、積層板のドリル加工性を著しく改善し、熱硬化性樹脂と無機フィラーとの相溶性及び積層板の層間接着力を改善し、それにより無機フィラーを高充填化してもドリル加工性と層間接着力の劣化を抑制することができるだけでなく、UV光を効果的に遮断して光透過率を低下させ、絶縁性を低下させずに、黒色銅張積層板を製造することが可能である。上記タングステン化合物はアニリンブラック等の黒色顔料に比べて、耐熱性に優れ、物理化学的性質が安定し、耐薬品性が高く、分散性に優れ、また熱硬化性樹脂の反応性等に悪影響を与えず、特に積層板用熱硬化性樹脂組成物の使用に適している。
【0015】
前記タングステン化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して0.001〜30wt%が好ましく、0.1〜15wt%がより好ましい。前記タングステン化合物の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の全質量百分率に対して、例えば1wt%、3wt%、5wt%、7wt%、9wt%、11wt%、13wt%、17wt%、19wt%、21wt%、23wt%、25wt%、27wt%又は29wt%である。該使用量が樹脂組成物の全質量の0.001wt%未満であれば、顕著な効果が得られず、樹脂組成物の全質量の30wt%を超えれば、樹脂組成物の固有の全体としての性質に悪影響を与える。使用量が樹脂組成物の全質量の0.1〜15wt%であると、タングステン化合物の機能は最も十分に発揮でき、且つ樹脂組成物の分散性と流動性も最適である。
【0016】
好ましくは、前記無機フィラーは、シリカ、ベーマイト、アルミナ、タルク、雲母、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、Eガラスパウダー、Sガラスパウダー、Dガラスパウダー、NEガラスパウダー、中空微粉末又はベーマイトから選ばれる任意の1種又は少なくとも2種の混合物である。前記混合物は、例えば、シリカとベーマイトの混合物、アルミナとタルクの混合物、雲母とカオリンの混合物、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの混合物、ホウ酸亜鉛と錫酸亜鉛の混合物、酸化亜鉛と酸化チタンの混合物、窒化ホウ素と炭酸カルシウムの混合物、硫酸バリウムとチタン酸バリウムの混合物、ホウ酸アルミニウムとチタン酸カリウムの混合物、EガラスパウダーとSガラスパウダーの混合物、DガラスパウダーとNEガラスパウダーの混合物、中空微粉末とベーマイトの混合物、シリカ、ベーマイト及びアルミナの混合物、タルク、雲母及びカオリンの混合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びホウ酸亜鉛の混合物、錫酸亜鉛、酸化亜鉛及び酸化チタンの混合物、窒化ホウ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウムの混合物、チタン酸バリウム、ホウ酸アルミニウム及びチタン酸カリウムの混合物、Eガラスパウダー、Sガラスパウダー及びDガラスパウダーの混合物、NEガラスパウダー、中空微粉末及びベーマイトの混合物が挙げられる。
【0017】
前記無機フィラーの含有量は、熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して、10〜80wt%が好ましく、20〜60wt%がより好ましい。無機フィラーの含有量を熱硬化性樹脂組成物の全質量に対して20〜60wt%にすることにより、熱硬化性樹脂組成物の成形性と低熱膨張をよく保持できる。本発明の技術案により、無機フィラーを高充填化しても、ドリル加工性及び層間接着力の劣化を抑制でき、得られた積層板は、低熱膨張係数、優れたドリル加工性と耐熱性、高層間接着力及び優れた機械的性質と化学安定性を有する。
【0018】
前記無機フィラーの含有量は、熱硬化性樹脂組成物の全質量百分率に対して、例えば、23wt%、28wt%、32wt%、37wt%、42wt%、47wt%、52wt%、57wt%、62wt%、67wt%、72wt%、76wt%又は78wt%である。
【0019】
好ましくは、前記無機フィラーの平均粒子径は0.1〜100μm、好ましくは0.5〜20μmである。無機フィラーの平均粒子径を0.1μm以上にすることにより、熱硬化性樹脂組成物にフィラーを高充填化する時における流動性をよく保持できる。100μm以下にすることにより、粗大粒子の混入確率を減少させ且つ粗大粒子による不良の発生を抑制する。ここで、平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径に基づいて作成された累積度数分布曲線において、体積が50%の点における粒子径を意味し、レーザー回折散乱法による粒度分布で測定できる。
【0020】
好ましくは、前記熱硬化性樹脂は熱硬化性樹脂組成物の全質量の20〜70wt%、好ましくは25〜65wt%、更に好ましくは30〜60wt%を占める。前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂組成物の全質量百分率に対して、例えば、23wt%、26wt%、31wt%、35wt%、39wt%、43wt%、47wt%、51wt%、55wt%、59wt%、63wt%又は67wt%である。
【0021】
好ましくは、前記熱硬化性樹脂組成物は更に硬化剤を含み、前記硬化剤は、熱硬化性樹脂組成物の全質量の1〜30wt%、好ましくは4〜25wt%、更に好ましくは10〜20wt%を占める。前記硬化剤は、熱硬化性樹脂組成物の全質量百分率に対して、例えば、2wt%、5wt%、8wt%、11wt%、14wt%、17wt%、19wt%、22wt%、26wt%又は28wt%を占める。
【0022】
好ましくは、前記熱硬化性樹脂組成物は更に促進剤を含み、前記促進剤は熱硬化性樹脂組成物の全質量の0(0を除く)〜10wt%、好ましくは1〜10wt%、更に好ましくは2〜8wt%を占める。前記促進剤は、熱硬化性樹脂組成物の全質量百分率に対して、例えば、0.5wt%、1.5wt%、2.5wt%、3.5wt%、4.5wt%、5.5wt%、6.5wt%、7.5wt%、8.5wt%又は9.5wt%である。
【0023】
好ましくは、前記熱硬化性樹脂組成物は、更にシランカップリング剤又は/及び湿潤分散剤を含む。それらシランカップリング剤としては、一般的な無機表面処理に使用されるシランカップリング剤であればよく、特に制限がない。具体例として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系;γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン系;N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等のアニオンシラン系;フェニルシラン系等が挙げられ、そのうちの1種又は少なくとも2種を適宜に組み合わせて使用することができる。また、潤湿分散剤は塗料に使用可能な分散安定剤であれば、特に制限なく使用できる。例えば、BYKChemie Japan製のDisperbyk−110、111、180、161、BYK−W996、W9010、W903等の潤湿分散剤が挙げられる。
【0024】
本発明における「含む」とは、前記成分以外に、ほかの成分を含んでもよく、それらのほかの成分は、前記樹脂組成物に様々な特性を付与する。また、本発明における「含む」は、クローズド形式の「である」又は「からなる」に代えることもできる。前記熱硬化性樹脂組成物は何の成分を含んでも、熱硬化性樹脂組成物の質量百分率に対して、前記熱硬化性組成物の各成分の合計は100%である。
【0025】
例えば、前記熱硬化性樹脂組成物は、更に各種の添加剤を含んでもよく、具体例として、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤又は潤滑剤等が挙げられる。それら各種の添加剤は独立に使用しても、2種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
本発明の樹脂組成物の一つの製造方法として、周知の方法で、前記熱硬化性樹脂、無機フィラー、タングステン化合物、硬化剤と促進剤、及び各種の添加剤を配合、撹拌、混合することで、製造できる。
【0027】
本発明は、また前記熱硬化性樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散させて得た樹脂溶液を提供することを目的とする。
【0028】
本発明における溶媒について、特に制限がなく、具体例として、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコール−メチルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール等のエーテル類;アセトン、ブタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;エトキシエチルアセテート、酢酸エチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の窒素含有溶媒が挙げられる。上記溶媒は独立に使用しても、2種又は2種以上を混合して使用してもよく、好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類溶媒とアセトン、ブタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類溶媒とを混合して使用する。前記溶媒の使用量は、当業者が経験に基づき選択可能であり、得られた樹脂溶液を使用に適する粘度にすればよい。
【0029】
前記の樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散させる過程において、乳化剤を添加してもよい。乳化剤を分散させることにより、フィラー等を接着剤に均一に分散させる。
【0030】
本発明は、更に強化材と浸漬乾燥によってそれに付着された前記熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグを提供することを目的とする。
【0031】
本発明は、更に少なくとも一枚の前記プリプレグを含む積層板を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0032】
先行技術に比べて、本発明は下記有益な効果を有する。
【0033】
本発明は、熱硬化性樹脂にタングステン化合物と無機フィラーを添加することにより、積層板の熱膨張係数を低下させて積層板の機械的性質を向上させ、積層板のドリル加工性を著しく改善するだけでなく、熱硬化性樹脂と無機フィラーとの相溶性及び積層板の層間接着力を著しく改善し、それにより無機フィラーを高充填化してもドリル加工性や層間接着力の劣化を抑制することができ、製造された積層板は低熱膨張係数、優れたドリル加工性と耐熱性、高層間接着力及び優れた機械的性質と化学安定性を有する。
【0034】
また、タングステン化合物を使用することで、UV光を効果的に遮断して光透過率を低下させ、絶縁性を低下させずに、耐熱性に優れた黒色銅張積層板を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を更に詳細に説明し、本発明の技術案を理解易くするために、本発明は下記実施例を典型として挙げるが、それらに制限されるものではない。
【0036】
臭素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(ダウ・ケミカル製、エポキシ当量435、臭素含有量19%、商品名DER530)、ジシアンジアミド、2−メチルイミダゾール、タングステン化合物、無機フィラーを、有機溶媒に溶解させ、機械的撹拌し、乳化させて65wt%の接着剤を調製し、次にガラス繊維布を含浸させ、加熱して乾燥させるとプリプレグ(prepreg)を形成し、両面に銅箔を載せ、加圧・加熱して銅箔基板を得る。
【0037】
得られた銅張積層板について、下記方法で、熱膨張係数、UV透過率、透過率、分散性、体積抵抗率、ドリルカッターによる加工性を評価し、結果を表1に示す。
【0038】
A)タングステン化合物:
A−1 二硫化タングステン、長沙市華京粉末材料科技有限公司製
A−2 テトラチオタングステン酸アンモニウム、昊睿化学有限公司製
A−3 アルキル(アリール)アミノチオリン酸タングステン、上海東理科技有限公司製
【0039】
B) 無機フィラー
B−1 溶融球状マイクロシリカ、電気化学工業株式会社製、SFP30M、平均粒子径0.5μm
B−2 溶融不規則シリカ、Sibelco Asia社製、525、平均粒子径2μm
B−3 複合マイクロシリカ、Sibelco Asia社製、G2C、平均粒子径2μm
B−4 ベーマイト、Nabaltec製、AOH30
B−5 ベーマイト、Nabaltec製、AOH60
【0040】
C) 顔料
C−1 カーボンブラックパウダー、ドイツデグサ社製、FW200
C−2 アニリンブラック、ドイツデグサ社製、BS890
【0041】
比較例
タングステン化合物をカーボンブラックパウダーに変更する以外に、比較例1と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表2に示す。
【0042】
比較例
タングステン化合物をアニリンブラックに変更する以外に、比較例1と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表2に示す。
【0043】
比較例
タングステン化合物を添加しない以外に、比較例1と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表2に示す。
【0044】
比較例
タングステン化合物、無機フィラー及び顔料を添加しない以外に、比較例1と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表2に示す。
【0045】
1、熱膨張率の測定
エッチング液で銅張積層板の銅箔を除去した後、5mm×5mm角のサイズの試験片に切り出す。TMA試験装置を用いて10℃/minの加熱速度で、30〜260℃での該試験片のZ軸方向(ガラス布に垂直な方向)における平均線熱膨張係数を測定する。熱膨張率が小さいほど、効果が高い。
【0046】
2、UV透過率
エッチング液で銅張積層板の銅箔を除去した後、100mm×100mmの試験片に切り出す。波長365nmの3kWの紫外線ランプで照射する。照度計プローブを光源のガラスプラットフォームに載せて紫外線に合わせ、光度計に表示される光強度が25mv/cmになった時の値を記録し、空白サンプルの値をA、テストサンプルの値をBにして、下式に基づき紫外線透過率を算出する:γ=B/A×100%、透過率が小さいほど、紫外線遮断能力が高い。
【0047】
3、透過率
米国ラブスフェア社製の透過反射率試験装置を用いて積分球法でテストする。
【0048】
4、フィラーと樹脂との結合界面についての評価
積層板を剥離した後に5mm角のサイズに切り、導電性接着剤に載せて、金をスプレー塗装し、観察用試験片を製造する。走査電子顕微鏡を用いて、フィラーと樹脂との界面を観察して、評価する。
【0049】
5、フィラーの樹脂における分散均一性についての評価
積層板を5mm角のサイズに切り、樹脂を用いて注型し、導電性接着剤に載せ、金をスプレー塗装し、観察用試験片を製造する。走査電子顕微鏡を用いて、フィラーの樹脂における分散状況を観察し、更に評価する。
【0050】
6、樹脂組成物の安定性についての評価
100mlの樹脂組成物を100mlの栓付きメスシリンダー内に投入し、25℃の室温で静置し、沈殿物が沈降管の底部に沈降するまでの時間を測定し、安定性を評価する。
【0051】
7、電気絶縁性の測定
積層板を100mm×100mmの試験片に切り出し、その表面における銅箔を特定のパターンに作製し、高温で処理した後、メグオーム計を用いて試験片に500Vの直流電圧を印加し且つ60s安定させた後に値を読み取り、更に体積抵抗率を算出し、値が大きいほど、体積抵抗率が大きく、積層板の電気絶縁性に優れる。
【0052】
8、ドリル加工性の評価
6軸ボール盤の二つの効果の近いドリル軸を用いて孔を開け、一枚の基板に対して6つの新しいカッターを使用し、各カッターで基板において3000個の孔を開けた後、検査顕微鏡でドリル刃部を観察し、刃先の摩損後退量を測定し更に垂直線と中軸線との交点と摩損上縁との距離を測定してドリルカッターの寸法とし、下式に基づきドリルカッターの摩損率を計算してドリル加工性を評価する。
【0053】
摩損率%=孔開け後の縁部と中軸線との距離/孔開け前の縁部と中軸線との距離×100%
【0054】
表1
【0055】
表2
表1と表2の注釈:「〇」は優良、「△」は良好、「×」は悪を示す。
【0056】
実施例3および4ならびに比較例9−12
100重量部の臭素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(ダウ・ケミカル製、エポキシ当量435、臭素含有量19%、商品名DER530)、24重量部のノボラック樹脂(日本群栄製、ヒドロキシ当量105、商品名TD2090)、0.05重量部の2−メチルイミダゾール、タングステン化合物を、有機溶媒に溶解させ、機械的撹拌して乳化させて65wt%の接着剤を調製し、次にガラス繊維布を含浸させ、加熱乾燥後にプリプレグ(prepreg)を形成し、両面に銅箔を載せ、加圧・加熱して銅箔基板を得る。
【0057】
得た銅張積層板について、上記に示される方法を用いて、熱膨張係数、UV透過率、体積抵抗率、分散性、ドリル加工性を評価し、結果を表3に示す。
【0058】
比較例13
タングステン化合物をカーボンブラックパウダーに変更する以外に、比較例と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表4に示す。
【0059】
比較例14
タングステン化合物をアニリンブラックに変更する以外に、比較例と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表4に示す。
【0060】
比較例15
タングステン化合物を添加しない以外に、比較例と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表4に示す。
【0061】
比較例16
タングステン化合物、無機フィラー及び顔料を添加しない以外に、比較例と同様な方法で、樹脂組成物を用いた銅張積層板を製造する。測定結果、評価結果を表4に示す。
【0062】
表3
【0063】
表4
表3と表4の注釈:「〇」は優良、「△」は良好、「×」は悪を示す。
【0064】
表1〜表4より明らかなように、DICYを硬化させた熱硬化性樹脂組成物もフェノールを硬化させた熱硬化性樹脂組成物も、タングステン化合物を添加することにより積層板のドリル加工性を著しく改善するだけでなく、UV光を効率よく遮断して光透過率を低下させ、少量のタングステン化合物を添加するだけで、積層板のUV光透過率を35〜46%から0.01〜0.6%に低下させ、光透過率を3〜4%から0.1〜0.8%に低下させることができ、効果は著しく、且つ総合的性質に優れる。また、表1〜表4より明らかなように、タングステン化合物を添加した樹脂組成物は、分散性も安定性もタングステン化合物を添加していない樹脂組成物の分散性と安定性より遥かに優れる。比較例16において、組成物に無機フィラーを添加していないため、その熱膨脹係数は著しく増加し、それにより無機フィラーの添加により複合材の熱膨張係数を著しく低下させることが分かり、比較例15に比べて、無機フィラーではUV光透過率と光透過率への改善作用に寄与することが分かった。比較例13については、カーボンブラックパウダーを含むため、電気絶縁性は幅広く低下する。
【0065】
出願者は、本発明では上記実施例を用いて本発明の詳細な方法を説明したが、本発明は上記の詳細な方法に制限されず、即ち本発明は上記の詳細な方法によってしか実施できないと思えないと声明する。従業者にとっては、本発明に対する全ての改良、本発明の製品における各原料の同等置換及び補助成分の添加、実施形態の選択等は、いずれも本発明の保護範囲と開示範囲内に入られることを了承すべきである。