特許第6118568号(P6118568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118568
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】放熱性組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20170410BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170410BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20170410BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20170410BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C09K5/14 E
   C09K5/14 101E
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K7/00
   C01G9/02 A
   C09D7/12
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-16619(P2013-16619)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148568(P2014-148568A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 満
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/147886(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/123142(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147887(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147888(WO,A1)
【文献】 特開2008−254992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
C01G1/00−23/08、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14、
C09D1/00−10/00、
C09D101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形の面の平均わたり径(L)が0.5〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜20μmであり、平均わたり径(L)と平均高さ(H)の比L/Hが0.1〜0.8の範囲であり、しかも、六角柱の両端部の径に比し中央部の径が小さい六角柱状形状を有する酸化亜鉛粒子を配合し、
放熱性組成物中の固形分全量に対して酸化亜鉛粒子の配合量が30体積%以上である放熱性組成物。
【請求項2】
熱伝導率が1.0W/m・K以上である請求項1に記載の放熱性組成物。
【請求項3】
前記の酸化亜鉛粒子を樹脂に含有した請求項1又は2に記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項4】
前記の酸化亜鉛粒子を油に含有した請求項1又は2に記載の放熱性グリース組成物。
【請求項5】
前記の酸化亜鉛粒子を溶媒に含有した請求項1又は2に記載の放熱性塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性フィラーを配合した放熱性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などの分野において、近年、小型化に伴う熱源の集中や電流容量の増加による発熱量の増大が生じている。これに対処するため、熱伝導性に優れた放熱性フィラーを充填した組成物を電子機器などに取り付け、発生した熱を外部に放出している。
このような放熱性フィラーとして、粒子同士の接触により組成物中に熱伝導パスを形成し、熱伝導性を確保するために、比較的粒子径の大きい酸化亜鉛が用いられている。例えば、特許文献1には、平均粒子径が1〜300μm、BET比表面積が1m/g以下であり、水銀圧入法による細孔容積が0.05ml/g以下であり、球形度が1.4未満の球状粒子を用いることを開示している。また、特許文献2には、平均長径が0.1μm〜10μm、平均短径が0.025μm〜2.5μmであり、平均長径/平均短径で定義されるアスペクト比が4以上で、かつBET法による比表面積が50m/g以下である針状酸化亜鉛を1〜50体積%を用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009‐249226号公報
【特許文献2】特開2011‐21069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の従来技術では、放熱性フィラーとして球状や針状の粒子形状を有する酸化亜鉛を用いているが、球状や針状の粒子形状では、組成物中での粒子同士の接触が少なく、十分な熱伝導パスを形成することができにくいなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、十分な熱伝導パスを形成することができる酸化亜鉛を探索した結果、特定の粒子形状を有するものが最適であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、六角形の面の平均わたり径(L)が0.5〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜20μmである六角柱状形状を有する酸化亜鉛粒子を配合した放熱性組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の放熱性組成物は、特定の粒子形状を有する酸化亜鉛を配合したため、組成物中の熱伝導パスを十分に形成することができ、優れた熱伝導性を確保することができる。このため、本発明の放熱性組成物を電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができる。
また、本発明の放熱性組成物は、一定の熱伝導性を確保するためには酸化亜鉛の充填量を低減してもよい。充填量の低減にともない、樹脂、グリース、塗料などの組成物の本来の特性、例えば、柔軟性、成型性、塗布性等の悪化を防止し、組成物の重量増加を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】製造例1で得られた酸化亜鉛(試料a)の電子顕微鏡写真である。
図2】比較例2で用いた酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、放熱性組成物であり、それには放熱性フィラーとして、六角形の面を有し、その面に垂直方向に伸びた六角柱の形状を有し、六角形の面の平均わたり径(L)が0.5〜40μmであり、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)が0.05〜20μmである酸化亜鉛粒子を含有させることが重要である。一方、六角形の面の平均わたり径(L)が、0.5μmより小さい粒子であると熱伝導性が低下するため好ましくなく、40μmより大きい粒子であると熱伝導性はよいものの組成物中に配合しにくいため好ましくない。このようなことから、酸化亜鉛粒子の六角形の面の平均わたり径(L)は、0.5〜40μmがより好ましく、0.6〜30μmが更に好ましい。六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)は、0.05〜20μmが好ましく、0.25〜10μmがより好ましい。酸化亜鉛の粒子形状は電子顕微鏡で観察することができる。酸化亜鉛の平均わたり径(L)、平均高さ(H)は、少なくとも20個の粒子の六角面のわたり径、高さを電子顕微鏡写真から計測して、それらの粒子を角柱相当体と仮定し、下記式によって算出した重量平均わたり径、重量平均高さを基準とする。

重量平均わたり径=Σ(Ln・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn
重量平均高さ=Σ(Dn・Ln・Dn)/Σ(Ln・Dn

上記式中、nは計測した個々の粒子の番号を表し、Lnは第n番目の粒子のわたり径、Dnは第n番目の粒子の高さをそれぞれ表す。酸化亜鉛粒子の六角形の面の平均わたり径(L)と、六角形の面に垂直方向の平均高さ(H)の比L/Hで表すと、0.1〜10の範囲が好ましく、0.1〜2の範囲がより好ましく、0.1〜1の範囲が更に好ましい。六角柱状としては、六角板状といわれるような形状を含むが、特に前記の比L/Hが1以下の粒子を特に六角柱状といい、L/Hが1以上の粒子を六角板状という場合がある。前記の比L/Hが0.1〜1の範囲の六角柱状が好ましく、0.1〜0.8の範囲がより好ましい。
【0009】
また、電子顕微鏡写真を詳細に観察すると、六角柱状の中央部にくびれがあり、その部分の径は両端部に比べ小さい酸化亜鉛粒子がある。このような六角柱の柱の両端部と中央部の径が、両端部に比し中央部の径が小さい形状を本発明では鼓に類似した形状(鼓形状)という。(中央部の径)/(両端部の径)は、0.5〜0.99程度が好ましく、0.7〜0.99程度がより好ましい。このような鼓形状は、中央部のくびれ部分に存在する六角板状核晶を対称面とした成長双晶が起こったような形状を有する。このような鼓形状では、両端部で熱伝導パスを形成することかでき、しかも中央部が小さいとその分だけ重量減少となるため好ましい。
【0010】
本発明の酸化亜鉛は、六方晶、立方晶、立方晶面心構造いずれかのX線回折パターンを示すZnOを少なくとも50重量%含むものであり、水酸化亜鉛や製造の際に使用する硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛化合物が含まれていても良い。また、製造の際に使用する亜鉛化合物を構成していた硫酸根、硝酸根、塩素、酢酸等が含まれていても良く、また、カルボン酸、その塩、アミン化合物等の材料が含まれていても良い。更に、酸化亜鉛の粒子表面にはシリカ、アルミナ等の無機化合物やシロキサン等の有機化合物の表面処理剤を被覆していても良い。酸化亜鉛粒子は熱伝導性の観点から結晶性の良いものが好ましく、その指標として粉末X線回折スペクトルのメインピークである2θ=36.5度の半価幅が0.20度以下であるのが好ましい。半価幅が0.20度よりも大きいと結晶性が低く熱伝導性が低下しやすいため好ましくない。
【0011】
本発明の酸化亜鉛は、その粒子表面に必要に応じてケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ等の酸化物あるいはそれらのリン酸塩等の無機化合物の被覆層を設けることもできる。また、溶媒、塗料やプラスチックス等への分散性を付与するなどの目的で、有機化合物を被覆しても良く、前記の無機化合物と有機化合物の両者を被覆しても良い。有機化合物としては、例えば、(1)有機ケイ素化合物((a)オルガノポリシロキサン類(ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、メチルメトキシポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンジオール、ジメチルポリシロキサンジハイドロジェン等又はそれらの共重合体)、(b)オルガノシラン類(アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン、クロロアルキルシラン、アルキルシラン、フルオロアルキルシラン等又はそれらの加水分解生成物)、(c)オルガノシラザン類(ヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等)、(2)有機金属化合物((a)有機チタニウム化合物(アミノアルコキシチタニウム、リン酸エステルチタニウム、カルボン酸エステルチタニウム、スルホン酸エステルチタニウム、チタニウムキレート、亜リン酸エステルチタニウム錯体等)、(b)有機アルミニウム化合物(アルミニウムキレート等)、(c)有機ジルコニウム化合物(カルボン酸エステルジルコニウム、ジルコニウムキレート等)等)、(3)ポリオール類(トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等)、(4)アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等)又はその誘導体(酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩等)、(5)高級脂肪酸類(ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等)又はその金属塩(アルミニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等)、(6)高級炭化水素類(パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等)又はその誘導体(パーフルオロ化物等)が挙げられる。これらの有機化合物は1種を用いても、2種以上を積層又は混合して用いても良い。無機化合物、有機化合物の被覆量は、酸化亜鉛に対し、0.1〜50重量%の範囲が好ましく、0.1〜30重量%の範囲が更に好ましい。酸化亜鉛の粒子表面に前記の無機化合物や有機化合物を被覆させるには、酸化亜鉛の水性スラリー中で、無機化合物あるいは有機化合物を添加し中和するなどして被覆することができる。また、有機化合物を被覆するには別の方法として、前述の乾式粉砕の際に有機化合物を添加し混合することもできる。
【0012】
本発明の放熱性組成物は、上記の酸化亜鉛粒子を放熱性フィラーとして含有したものであり、樹脂組成物、グリース組成物、塗料組成物などが挙げられる。また、それらを用いて形成するシート、ゲル、エラストマー、プラスチックなどであっても良い。本発明の放熱性組成物中の上記酸化亜鉛粒子の配合量は、目的とする熱伝導性や樹脂組成物の硬度等、樹脂組成物の性能に合わせて任意に決定することができる。上記酸化亜鉛粒子の熱伝導性を十分に発現させるためには、樹脂組成物中の固形分全量に対して1体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましく、30体積%以上が最も好ましい。このようにして、熱伝導率が好ましくは0.5W/m・K以上とすることができ、より好ましくは1.0W/m・K以上、更に好ましくは2.0W/m・K以上とすることができる。本発明の放熱性組成物は、電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができる。なお、本発明の放熱性組成物には、酸化亜鉛以外に、その他の成分を併用して使用することもでき、例えば、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、金属ケイ素、ダイヤモンド等の酸化亜鉛以外の放熱性フィラー、樹脂、界面活性剤等を挙げることができる。
【0013】
放熱性樹脂組成物は、上記の酸化亜鉛粒子を樹脂と混合して使用することができる。使用する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良く、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、エポキシ、フェノール、液晶樹脂(LCP)、シリコン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。放熱性グリース組成物とする場合、鉱油又は合成油を含有する基油と混合する。合成油としてα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、シリコーンオイル等が使用できる。また、放熱性塗料組成物とする場合、樹脂は硬化性を有するものであっても、硬化性を有さないものであっても良い。塗料は、有機溶媒を含有する溶剤系のものであっても、水中に樹脂が溶解又は分散した水系のものであっても良い。
【0014】
本発明の放熱性組成物は、(1)熱可塑性樹脂と上記酸化亜鉛粒子とを溶融状態で混練して熱成型用の樹脂組成物とする、(2)熱硬化性樹脂と上記酸化亜鉛粒子とを混練後、加熱硬化させて樹脂組成物とする、(3)樹脂溶液又は分散液中に上記酸化亜鉛粒子を分散させて塗料組成物、グリース組成物とすることができる。
【0015】
酸化亜鉛粒子の製造方法は、特開2008−254992号公報に沿って製造することができる。例えば亜鉛化合物と、その亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、0.001〜0.01の範囲の量のカルボン酸及び/又はその塩とを混合した水溶液にアミン化合物を添加し水溶液のpHを7以上として沈殿物を析出させ、次いで、該水溶液を40℃以上に加熱する。亜鉛化合物は、水溶性のものであればどのようなものでも用いることができ、例えば硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等を用いることができる。六角柱状、特に鼓形状の酸化亜鉛が得られ易いことから硫酸亜鉛が好ましい。また、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等、中性の水に溶解しないものでも、酸、アルカリに溶解する化合物であれば、上記の亜鉛化合物と同様に用いることができる。
【0016】
前記のカルボン酸はカルボキシル基を有する化合物であり、制限なく用いることができるが、例えば、次のようなものを用いることができ、特にクエン酸及び/又はその塩を用いると鼓形状の酸化亜鉛を製造することができるため好ましく、結晶性の良い酸化亜鉛、具体的には粉末X線回折スペクトルのメインピークである2θ=36.5度の半価幅が0.20度以下の酸化亜鉛を製造することができるため好ましい。
(1)ポリカルボン酸、特にジカルボン酸、トリカルボン酸、例えば、シュウ酸、フマル酸。
(2)ヒドロキシポリカルボン酸、特にヒドロキシジ−又はヒドロキシトリ−カルボン酸、例えばリンゴ酸、クエン酸又はタルトロン酸。
(3)(ポリヒドロキシ)モノカルボン酸、例えばグルコヘプトン酸又はグルコン酸。
(4)ポリ(ヒドロキシカルボン酸)、例えば酒石酸。
(5)ジカルボキシルアミノ酸及びその対応するアミド、例えばアスパラギン酸、アスパラギン又はグルタミン酸。
(6)ヒドロキシル化され又はヒドロキシル化されていないモノカルボキシルアミノ酸、例えばリジン、セリン又はトレオニン。
カルボン酸塩としては、どのような塩でも制限なく用いることができるが、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。カルボン酸及びその塩の量は、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、0.001〜0.01の範囲の量が好ましく、0.001〜0.005の範囲がより好ましい。カルボン酸の量が0.01より多くすると、六角柱状、特に鼓形状の酸化亜鉛が得られにくいため好ましくない。
【0017】
前記のアミン化合物はアンモニア中の水素原子を炭化水素基で置換した化合物であって、その炭化水素基を水酸基、カルボキシル基、フェニル基、チオール基等で置換した誘導体を含む。具体的には第1アミン、第2アミン、第3アミンやそれらの誘導体であって、水溶性でありアルカリ性を呈するものが好ましく、第1アミン、第2アミン、それらの誘導体がより好ましい。例えば、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等のアルカノールアミンが好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましい。アミン化合物の添加量は、後述の亜鉛化合物水溶液のpHの設定に応じて適宜調整することができるが、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、2以上の範囲が好ましく、2.01〜7程度の範囲の量がより好ましい。アミン化合物の量を7より多くすると、沈殿物がアミン化合物により錯体となって再溶解し易くなり、収量が少なくなり易いため好ましくない。
【0018】
前記の亜鉛化合物とカルボン酸及び/又はその塩を溶解した水溶液を40℃以下に保持した後、撹拌下アミン化合物を添加して水溶液のpHは7以上となるようにして、沈殿物を析出させる。生成する沈殿物は亜鉛の水酸化物を主成分としたものである。亜鉛化合物溶液の温度が40℃よりも高いと、アミン化合物添加により部分的に酸化亜鉛が析出し不均一な状態となり易いため好ましくなく、好ましい温度は10〜40℃、より好ましい温度は10〜30℃である。撹拌は通常の混合撹拌の手段を用いることができ、例えば撹拌羽根を付けた撹拌機等で行うことができる。その撹拌機の運転条件は適宜設定することができる。例えば、回転数は20〜2000rpm程度で行うことができ、また、下記のレイノルズ係数で表して10以上程度が好ましく、10〜50000程度がより好ましい。

レイノルズ係数=(翼径)×撹拌速度×溶液密度/溶液粘度

アミン化合物の添加時間は適宜設定できるが、例えば1秒〜1時間程度が好ましく、1秒〜30分程度がより好ましい。アミン化合物の添加によりpHを7以上に調整するが、7よりも低いと所望の酸化亜鉛が得られない。好ましいpHは8〜13程度、より好ましくは9〜12程度、更に好ましくは9〜11程度である。所定のpHに調整して沈殿物を析出させた後、必要に応じて10分〜5時間程度そのpHを保持しても良い。その後、撹拌しながら、前記の水溶液を40℃以上、好ましくは60〜250℃程度、より好ましくは80〜110℃程度に加温して、沈殿物を酸化亜鉛に変化させる。所定の温度に加温した後、必要に応じて10分〜5時間程度その温度を保持しても良い。
【0019】
亜鉛化合物とカルボン酸及び/又はその塩とアミン化合物との混合水溶液には更に、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の塩類を混合しても良く、アルカリ化合物と混合する前の亜鉛化合物水溶液に塩類を添加するのが好ましい。塩類の添加量は、亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモル比で表して、0.0001以上の範囲が好ましく、0.001〜10程度がより好ましい。
【0020】
このようにして得られた酸化亜鉛は、必要に応じて濾過・洗浄して固液分離し、乾燥、乾式粉砕を行うと、酸化亜鉛粉末が得られる。固液分離には、フィルタープレス、ロールプレス等の通常工業的に用いられる濾過器を用いることができる。乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター、噴霧乾燥機等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルペライザー、解砕機等の摩砕粉砕機、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等の圧縮粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機等を用いることができる。乾燥温度は適宜設定することができるが、80〜200℃程度が適当である。また、必要に応じて前記の酸化亜鉛粉末を200〜800℃程度の温度で焼成しても良く、結晶性を更に高めることができるため好ましい。焼成は通常、空気、酸素、窒素等の雰囲気下で行うことができ、焼成時間は10分〜10時間程度が適当である。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0022】
製造例1
硫酸亜鉛0.3モルとクエン酸0.001モルを150ccの純水に溶解した。次に2Lの四つ口フラスコに純水500ccを入れ、その中に前記の硫酸亜鉛水溶液を添加し、翼径12cmの2枚羽根の撹拌機を用いて回転数200rpmで撹拌下、室温で0.9モルのモノエタノールアミンを含む350ccの水溶液を添加し、水溶液のpHを10.0に調整し、30分間保持して沈殿物を析出させた。その後、100℃に昇温し1時間熟成した後、冷却し、濾過・水洗・乾燥して、本発明の酸化亜鉛粉末(試料a)を得た。
この試料aは、X線回折の結果、結晶性の良い酸化亜鉛であることを確認した。また、電子顕微鏡写真(図1)から、六角柱の形状(鼓形状)を有し、その柱の平均わたり径が1.4μmであり、平均高さが2.2μmであった。
【0023】
実施例1
表1に示す組成で熱硬化性樹脂(jER社製 jER-807、エポキシ樹脂)と製造例1の六角柱状酸化亜鉛(試料a)を、撹拌脱泡装置(THINKY社製)を用いて混合した。その後、10φ×5t(mm)の成形器に注型し常温硬化させた後、100℃2時間乾燥させて、樹脂組成物(試料A)を得た。
【0024】
比較例1
実施例1で使用したものと同じ熱硬化性樹脂に酸化亜鉛粒子を添加せずに、表1に示す組成で攪拌脱泡装置(THINKY社製)を用いて混合した。その後、10φ×5t(mm)の成形器に注型し常温硬化させた後、100℃2時間乾燥させて、比較試料Bを得た。
【0025】
比較例2
実施例1で使用したものと同じ熱硬化性樹脂と市販品の酸化亜鉛(平均粒子径20μm、X線回折スペクトルのメインピークである2θ=36.5度の半価幅が0.35度の球状酸化亜鉛)を表1に示す組成で撹拌脱泡装置(THINKY社製)を用いて混合した。その後、10φ×5t(mm)の成形器に注型し常温硬化させた後、100℃2時間乾燥させて比較試料Cを得た。
【0026】
試料Aと比較試料B、Cを、形状が10φ×1t(mm)のペレットになるように研磨し、熱伝導率をレーザーフラッシュ法(アルバック理工製 熱定数測定装置TC-7000)により測定した。また、体積抵抗率を絶縁抵抗計(Hewlett Packard製High Resistance Meter 4339A及びResistivity Cell 16008B)により測定した。この結果を表1に示す。実施例1の試料Aは熱伝導率が高いことがわかった。しかも、体積抵抗率も十分高いことがわかった。
【0027】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の放熱性組成物は、特定の粒子形状を有する酸化亜鉛を配合したため、組成物中の熱伝導パスを十分に形成することができ、優れた熱伝導性を確保することができる。このため、本発明の放熱性組成物を電子機器などに取り付けて効率よく放熱する材料として用いることができる。
図1
図2