【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(レーザー光と高速可動ステージの精密制御による高効率細胞融合・回収自動化装置の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
Macromolecules, 2012, Vol. 45, No. 9, pp. 3910-3918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞接着スポットの接触角は、前記上限臨界溶液温度よりも高い温度において、前記上限臨界溶液温度よりも高い温度と比べて10%以上低下する、請求項1又は2に記載の細胞処理用基板。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の細胞処理用基板は、基材の上に設けられた複数の細胞接着スポットを備え、その表面には上限臨界溶液温度(UCST)を示す温度応答性ポリマーが固定されている。
【0021】
−温度応答性ポリマー−
UCSTを示す温度応答性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸ウラシル、ポリ(メタ)アクリル酸N−アスパラギンアミド、ポリアクリル酸N−グルタミンアミド、ポリ(アリルアミン−co−アリルウレア)、及びポリ(メタ)アクリルアミド−co−N−アセチルアクリルアミド)等の水素結合型ポリマー、並びにポリ(N-(3-dimethyl(methacryloyloxyethyl)ammonium propaneスルホン酸塩若しくは炭酸塩、ポリ(3-[N-(3-methacrylamidopropyl)-N,N-dimethyl]ammoniopropaneスルホン酸塩若しくは炭酸塩等の両イオン性型ポリマーが知られている。本実施形態においては、温度応答性ポリマーとして、アクリルニトリル又はメタアクリルニトリル(以下、アクリルニトリル及びメタアクリルニトリルをまとめて(メタ)アクリルニトリルと表記する。)に由来する第1のモノマー単位、アクリルアミド又はメタアクリルアミド(以下、アクリルアミド及びメタアクリルアミドをまとめて(メタ)アクリルアミドと表記する。)に由来する第2のモノマー単位を含むポリマーを用いる。なお、本明細書において「モノマーに由来するモノマー単位」とは、当該モノマーを重合して得られるホモポリマーにおける繰り返し構造単位に対応する構造単位をいう。
【0022】
温度応答性ポリマーにおける第1のモノマー単位と第2のモノマー単位とのモル比は、6:94以上、好ましくは8:92以上、より好ましくは12:88以上である。そして、20:80以下、好ましくは18:82以下、より好ましくは14:86以下である。また、温度応答性ポリマーにおける第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の合計のモル含有率は、20mol%以上、好ましくは30mol%以上、より好ましくは50mol%以上である。温度応答性ポリマーは、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位以外のモノマー単位を含んでいなくても、含んでいてもよい。
【0023】
温度応答性ポリマーは、UCSTにおいて、培養細胞の接着又は増殖時において細胞が接着できる足場となる細胞接着性の状態と、細胞が遊離する細胞非接着性の状態とがシャープに変化することが好ましい。UCSTは、培養細胞に応じて、細胞の接着及び増殖が効果的にできる温度域にあることが好ましい。標的細胞が一般的な細胞の場合には、UCSTは20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい、そして50℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。特に、培養に適した37℃付近において細胞接着性の状態となるようにすることが好ましい。UCSTは、実施例に示すように温度可変ステージ上での水に対する接触角測定により求めることができる。
【0024】
温度応答性ポリマーは、第1のモノマー単位と第2のモノマー単位とが、ランダムに配置されているランダム共重合体でかまわないが、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位がそれぞれブロックを形成したブロック共重合体であってもよい。また、温度応答性ポリマーは、直鎖のポリマーでかまわないが、多数の分岐を有するハイパーブランチポリマー、複数のポリマー鎖が一点で結合した星形ポリマー、星形ポリマーの各腕がさらに分岐したポリマー、又は中心から規則的に分岐したデンドリマー等の分岐ポリマーとすることもできる。さらに、複数のポリマー鎖が架橋されたはしご状ポリマー、網目状ポリマー、又は相互侵入網目状ポリマー等となっていてもよく、ロタキサン又はカテナン等であってもよい。
【0025】
本実施形態の温度応答性ポリマーは、第3のモノマー単位を含んでいてもよい。第3のモノマー単位の含有率を変化させることにより温度応答性ポリマーのUCSTを制御することができる。第3のモノマー単位は例えば、アルキル(メタ)アクリレート等の疎水性のモノマーに由来するモノマー単位とすることができる。この場合、アルキル基の炭素数は1〜14程度が好ましく、中でもブチル基が好ましい。また、水素結合性モノマーに由来するモノマー単位とすることもできる。水素結合性モノマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリルアミド、フマル酸エステル、イタコン酸エステル、N,N,N',N'-テトラ置換マレイミド、N,N-置換マレイミド、N,N,N',N'-テトラ置換フマルアミド(N,N,N',N'-tetraalkylfumaramide)、フマル酸N,N'-置換アミド(N,N-alkylfumaramates)等を用いることができる。アルキル(メタ)アクリルアミドは、例えばN-イソプロピルアクリルアミドとすることができる。また、2-methacryloyloxyethylphosphorylcholine(MPC)等の両イオン性モノマー、(メタ)アクリル酸等のアニオン性モノマー、及びアリルアミン等のカチオン性モノマーに由来するモノマー単位とすることもできる。
【0026】
温度応答性ポリマーにおける第3のモノマー単位のモル含有率は、必要とするUCSTに応じて選択すればよく、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは0.5mol%以上である。第3のモノマー単位は、温度応答性ポリマーにおける第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位の残部としてもよい。
【0027】
第3のモノマー単位は、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位と共にランダム共重合体となっていてかまわない。また、第3のモノマー単位はブロックとして温度応答性ポリマー中に存在していてもよい。また、第1のモノマー単位及び第2のモノマー単位を含む主鎖から分岐したグラフト鎖となっていてもよい。
【0028】
温度応答性ポリマーは、さらに他のモノマー単位を含む3元以上の多元重合体であってもよい。
【0029】
また、温度応答性ポリマーを固定した接着スポットは、UCST以上の温度における水に対する接触角が、UCST未満の温度における接触角よりも小さく、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上小さくなるようにすればよい。接触角は、実施例に示すように温度可変ステージ上で、溶液に対する接触角測定により求めることができる。なお、本実施形態において、特に断りがない限り、接触角は水に対する接触角である。
【0030】
温度応答性ポリマーは、UCST以下の温度では、ポリマー鎖間(分子間)にイオン結合又は水素結合等が生じポリマー鎖が沈殿した状態となり、高い疎水性を示す。一方、UCST以上の温度では、分子間の結合が分子内の結合に変化するため溶解状態となると考えられる。本実施形態の温度応答性ポリマーの場合には、−CNと−CONH
2との間に水素結合が生じていると考えられる。
【0031】
溶液の塩濃度及びイオン強度等は、分子間及び分子内の水素結合に影響を与えるため、温度応答性ポリマーの特性は、溶液の塩濃度等に影響を受けると考えられる。また、溶液中において自由に動ける場合と異なり、スポットに固定された温度応答性ポリマーは、密度(グラフト量)の影響も大きく受けると考えられる。具体的には、密度が高くなると、溶液の塩濃度の影響をより受けやすくなると考えられる。
【0032】
疎水性のポリマー鎖は、溶液の塩濃度が高い場合には、よりコンパクトになろうとする。ポリマー鎖の密度が高い場合には、ポリマー鎖間での−CNと−CNH
2との間の結合が発達しやすいために、疎水性が高くなると考えられる。密度が高い場合には、温度を高くしても、−CNと−CNH
2との間の水素結合が十分に切断されず、接触角の変化が小さくなる。従って、ポリマー鎖の密度を高くしすぎないことが好ましい。一方、温度が低い場合にポリマー鎖間において十分に水素結合が生じ、疎水性となるためには、ポリマー鎖の固定化密度をある程度以上高くすることが好ましい。
【0033】
また、ポリマー鎖間及びポリマー鎖内において、十分に水素結合が生じるように、温度応答性ポリマーの重合度はある程度高いことが好ましい。また、重合度が高い方が、基板自体と細胞との相互作用を小さくすることもできる。一方、ポリマー鎖同士の相互作用を小さくする、及びポリマー鎖の長さをできるだけ一定にそろえるという観点からは温度応答性ポリマーの重合度を高くしすぎない方が好ましい。従って、温度応答性ポリマーの重合度は、20以上、好ましくは50上、より好ましくは100以上、よりさらに好ましくは200以上、そして800以下、好ましくは700以下、より好ましくは600以下である。温度応答性ポリマーの分子量は、実施例に示すように、走査型プローブ顕微鏡観察により求めることができる。
【0034】
細胞接着スポットにおける温度応答性ポリマーのグラフト量は、1μg/cm
2以上、好ましくは5μg/cm
2以上、より好ましくは10μg/cm
2以上、そして300μg/cm
2以下、好ましくは150μg/cm
2以下、より好ましくは100μg/cm
2以下である。グラフト量は、実施例に示すように、重合後の基板の重量変化により求めることができる。ここでいうグラフト量とは、1cm
2当たりに固定されているポリマーの数(モル数)にポリマーの分子量を乗じた値に相当する。従って、重合度が同じ場合には、グラフト量が多いほど固定されているポリマーの数が多いことを意味し、ポリマーの数が同じ場合には、グラフト量が多いほど重合度が高いことを意味する。
【0035】
一例として、温度応答性ポリマーのグラフト量が3.6μg/cm
2のガラス基板1及び1.9μg/cm
2のガラス基板2について、純水及び生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)についての接触角を比較した。基板への温度応答性ポリマーの固定は、実施例において述べる方法と同様の方法とした。重合開始点を導入するためのシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)の仕込み濃度を、ガラス基板1は1mMとし、ガラス基板2は0.5mMとした。この場合の、温度応答性ポリマーの重合度は、130であった。
【0036】
純水の場合には、ガラス基板1とガラス基板2とはいずれも、25℃における接触角は70°程度であり、38℃における接触角は60°程度であった。しかし、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)の場合には、ガラス基板1では25℃における接触角が約65°となり、38℃における接触角も約65°となった。38℃において20秒保持すると接触角は約60°に低下した。これは、塩濃度が高い溶液において、分子間から分子内への水素結合の組み替えが生じにくくなったことにより、応答性が低下したためであると考えられる。ガラス基板2では、25°における接触角が約60°となり、38℃における接触角は約50°となった。38℃において20秒間保持した後の接触角も約50°であり変化は認められなかった。
【0037】
塩濃度が高い溶液中における温度応答性ポリマーの応答速度を速くするという観点からはグラフト量を3.5μg/cm
2以下としてもよく、2μg/cm
2以下としてもよい。
【0038】
−細胞処理用基板−
図1(a)〜(c)に示すように温度応答性ポリマー204は、基材201の細胞接着スポット203に固定されている。基材201は、特に限定されない。例えば、ガラス基板、シリコン基板、ダイヤモンド様カーボン基板、若しくはセラミクス基板等の無機性基板、ITO(酸化インジウムスズ)、若しくは金・チタン・クロム等の金属性基板、又は樹脂基板等の有機性基板等を用いることができる。中でも、ガラスは表面の修飾が容易であり好ましい。
【0039】
細胞接着スポット203は、
図1(a)に示すように周囲よりも低い凹部であっても、
図1(b)に示すように周囲よりも突出した凸部であっても、
図1(c)に示すように周囲と同じ平坦な部分であってもよい。細胞接着スポット203を
図1(a)に示すような凹部とすることにより、基材201の上に形成した細胞接着スポット203のほぼすべてに細胞を接着させることが可能となることを本願発明者らは見出した。また、細胞を確実に保持することができ、温度応答性ポリマー204を接着状態とした場合には細胞の脱離がほとんど生じなくなる。さらに凹部から細胞がはみ出しにくくなるため、接着された細胞が細胞接着スポット203の周囲の領域からの影響を受けにくくなる。このため、細胞の変形等が生じにくくなるという利点も得られる。さらに、凹部の大きさを細胞に合わせて調整することにより、1つの細胞接着スポット203に1つの細胞だけを接着しやすくすることが容易にできるという利点がある。
【0040】
凹部又は凸部となった細胞接着スポット203は、基材201の上に、スポット形成材料202を堆積した後、選択的に除去すればよい。細胞接着スポット203となる部分を除去すれば、
図1(a)に示すような凹部となった細胞接着スポット203が形成でき、細胞接着スポット203となる部分以外を除去すれば、
図1(b)に示すような凸部となった細胞接着スポットが形成できる。また、マスク等を用いて選択的に堆積してもよい。
【0041】
スポット形成材料202は、特に限定されないが、堆積及び加工が容易で、細胞に対する毒性が小さい材料が好ましい。例えば、金、若しくはクロムとチタンとの合金等の金属、酸化チタン等の金属酸化物、セラミックス、ダイヤモンド様カーボン、ヒドロキシアパタイト、又は樹脂等を用いることができる。スポット形成材料202は、積層材料であってもよい。スポット形成材料202は基材201と同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。基材201と異なる材料とすれば、基材201を残して除去することが容易にできるため好ましい。また、細胞接着スポット203と基材201の他の部分とが異なる材料である方が、細胞接着スポット203に選択的に温度応答性ポリマー204を固定することが容易となるという利点も得られる。
【0042】
スポット形成材料202は、その材質に応じて化学気相堆積法(CVD法)、スパッタリング法、スピンコーティング法等の方法により基材201の上に堆積すればよい。また、スポット形成材料202の除去は、エッチング法又はリソグラフィー法等により行えばよい。また、マスク等を用いて、スポット形成材料202を選択的に堆積することにより細胞接着スポット203を形成してもよい。
【0043】
細胞接着スポット203は、取り扱う細胞の大きさにもよるが、直径dを20μm〜500μm程度とすればよい。また、細胞接着スポット203同士の中心間の間隔pは直径dに応じて決めればよいが、30μm〜500μm程度のマトリックス状に配置すればよい。細胞接着スポット203が凹部の場合には、深さは数nmから数十μmとすることが好ましい。細胞接着スポット203が凸部の場合には、高さは数nmから数μmとすることが好ましい。
【0044】
細胞接着スポット203を含む基板201の表面は平滑であってもよいが、周期が1μm〜5μm程度で、高さが1μm程度の周期的な凹凸構造を有していてもよい。基板201の表面に周期的な凹凸構造を設けることにより、基板101上において細胞への標的物資の導入等を行う場合には、導入効率を高めることができる。凹凸構造はどのようなものであってもよいが、例えば、円錐状、角錐状、円錐台状、角錐台状、円筒状又は角筒状等の凸部又は凹部とすることができる。これらの凸部又は凹部の表面にさらに周期的な凸部又は凹部が設けられた形状であってもよい。凹凸構造の形状、周期及び高さ等は特に限定されないが、周期が1μm以上、5μm以下程度で、高さが1μm以下程度の周期的な凹凸構造は、リソグラフィーを用いて容易に形成することができ好ましい。
【0045】
凹凸構造は、細胞接着スポット203を含む基板201の全面に形成してもよく、選択的に形成してもよい。例えば、細胞接着スポット203である凹部又は凸部のみに形成してもよく、細細胞接着スポット203以外の部分のみに形成してもよい。
【0046】
細胞接着スポット203への温度応答性ポリマー204の固定方法は特に限定されない。細胞接着スポット203の表面に重合開始点を導入し、導入した重合開始点を用いて温度応答性ポリマー204を重合すると共に固定すれば、温度応答性ポリマー204の密度及び分子量を容易に制御することができるので好ましい。
【0047】
例えば、基材201がガラス又はシリコンである場合には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を用いて、基材201の表面にまずアミノ基を有するリンカーを導入する。次に、導入されたアミノ基に、酸クロライドを有する開始剤である4,4’−アゾビス(2−シアノ吉草酸)クロライド(V501−Cl)を結合させる。このようにして基材201の表面に導入した開始剤を用いて、モノマーを重合することにより、温度応答性ポリマー204が固定された基材201を容易に得ることができる。リンカーのアミノ基と重合開始剤の酸クロライドとを反応させる例を示したが、これに限らずどのようにしてリンカーと重合開始剤とを結合させてもよい。
【0048】
シリコンと反応する部位を有する(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン又は2−フェニル−2−[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ)オキシ]オクチルトリエトキシシラン等を用いれば、リンカーを用いることなく重合開始剤を基材201に導入できる。この場合には、原子移動ラジカル重合(ATRP)法等により導入促進ポリマーを形成すればよい。ATRP法は、分子量の制御が容易にできるため好ましい。
【0049】
なお、ATRP法に限らず熱重合法、光重合法又は付加開裂移動型(RAFT)重合法等のどのような重合方法を用いてポリマーの重合を行ってもよい。さらに、導入する開始剤を適宜選択することによりアニオン重合又はカチオン重合を用いてもよい。
【0050】
重合開始剤を基材201に固定するのではなく、基材201にプラズマ照射等を行い、基材201の表面にラジカルを発生させ、発生させたラジカルを重合開始点として導入促進ポリマーの重合を行ってもよい。基材201が樹脂である場合には、プラズマ照射等により基材201の表面にラジカルを容易に発生させることができるので、この方法は有用である。
【0051】
細胞接着スポット203に重合開始点を導入して、温度応答性ポリマー204を重合する場合には、細胞接着スポット203における温度応答性ポリマー204のグラフト量は、重合開始点の量と、重合度とによって決まる。シランカップリング剤を用いる場合には、重合開始点の量は、シランカップリング剤の仕込み量によって決まる。このため、塩濃度が高い溶液中においても、十分な温度応答特性を示すようにするためには、シランカップリング剤を導入する際のシランカップリング剤の仕込み濃度を、0.1mM以上とすることが好ましく、0.3mM以上とすることがより好ましい。そして、2mM以下とすることが好ましく、1mM以下とすることがより好ましく、0.8mM以下とすることがさらに好ましい。
【0052】
細胞処理用基板の細胞接着スポット203以外の部分は、細胞の非特異吸着が生じにくい状態となっていることが好ましい。例えば、細胞非接着性ポリマー205が固定されていることが好ましい。
【0053】
細胞非接着性ポリマー205は、基材201及びスポット形成材料202よりも細胞との相互作用が小さく、細胞の非特異的な接着が少ない材料であればどのような材料であってもよい。一般的に細胞は親水性の表面には接着しにくいため、細胞非接着性ポリマー205は、基材201及びスポット形成材料202よりも親水性が高いポリマーが好ましい。例えば、ポリ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の合成リン脂質系ポリマー、ポリ2−エトキシアクリレート又はポリエチレングリコール等とすればよい。合成リン脂質系ポリマーは、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの共重合体等であってもよい。ポリエチレングリコールは、ポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール又はポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールアルキルエステル等とすればよい。
【0054】
また、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸の水溶性塩、ポリアクリル酸の水溶性塩、ポリグルタミン酸の水溶性塩及びポリビニルピロリドン等のうちの少なくとも1つとからなる混合高分子の含水ゲル成型物等を用いてもよい。ポリ(MPC)等の双性構造イオンのポリマー、ポリ(O−メタクリロイル−L−セリン)等の両性イオン構造のポリマー並びにポリアクリル酸及びポリエチレンイミン等のポリイオンコンプレックスを用いてもよい。さらに、これらのポリマーセグメントに、ランダム、ブロック又はグラフト状に他の共重合セグメントが含まれている構成としてもよい。合成ポリマーに限らず細胞非接着性のタンパク質等の天然高分子を用いてもよい。細胞非接着性のタンパク質としては、例えばアルブミンを用いることができる。また、親水性にするのではなく、含フッ素ポリマー等を用いて高撥水性の表面とすることにより細胞非接着性を実現してもよい。この他、細胞又は微生物等を細胞接着スポット203以外の部分に吸着させることにより、細胞接着スポット203以外の部分をターゲット細胞が吸着しにくい表面としてもよい。
【0055】
細胞非接着性ポリマー205の細胞処理用基板への固定は、温度応答性ポリマー204の固定と同様に、リンカーを用いる方法、表面に固定した開始剤を用いて重合する方法等により行うことができる。また、プラズマ照射等により表面にラジカルを形成し、これを重合開始点として重合する方法を用いることもできる。さらに、イオン結合、疎水結合等により固定してもよい。
【0056】
細胞非接着性ポリマー205を固定する代わりに、細胞処理用基板の細胞接着スポット203以外の部分を、細胞非接着性の材料を用いて形成してもよい。細胞非接着性の材料は、例えばチタン合金又は酸化チタン等を挙げることができる。また、細胞接着スポット203以外の部分をプラズマ照射等により親水化して細胞非接着性としたり、界面活性剤等の低分子物質を用いて細胞非接着性としたりしてもよい。
【0057】
また、細胞非接着性ポリマー205に変えて、細胞接着スポット203とは異なる特性を有する温度応答性ポリマーを固定してもよい。例えば、細胞接着スポット203以外の部分にLCSTを有する温度応答性ポリマーを固定することができる。細胞接着スポット203以外の部分に固定する温度応答性ポリマーは、細胞を細胞接着スポット203に吸着させる温度において親水性となっていればよい。但し、細胞接着スポット203から細胞を遊離させる際にも親水性であることが好ましい。このため、細胞接着スポット203以外の部分に固定する温度応答性ポリマーのLCSTは、細胞接着スポット203に固定する温度応答性ポリマーのUCST以上、好ましくは3℃以上、より好ましくは5℃以上高くすればよい。また、細胞接着スポット203に細胞を吸着させる温度において親水性となるような、低いUCSTを有する温度応答性ポリマーを用いることも可能である。
【0058】
−使用方法−
細胞接着スポットへの細胞の接着は、細胞を細胞処理用基板に播種した後、UCST以下の温度を維持することにより容易に行うことができる。細胞接着スポットに接着された細胞を選択的に標識して、必要とする標的細胞を識別できるようにした後、標的細胞が接着された細胞接着スポットの温度をUCST以上とすれば、標的細胞だけを細胞接着スポットから遊離させることができる。
【0059】
細胞接着スポットの局所的な加温は特に限定されないが、レーザ光を照射することにより行うことができる。特に、全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)等を用いてエバネセント波が生じるようにレーザ光を照射すれば、細胞にダメージを与えることなく、選択した細胞接着スポットを局所的に加温することが容易にできる。
【0060】
照射するレーザ光の波長は特に限定されないが、細胞へのダメージの低減及びエネルギーの効率の観点から、600nm以上が好ましく、800nm以上がより好ましく、そして2400nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましい。特に、温度応答性ポリマーの特異的な吸収波長の光を照射することにより、細胞へのダメージを低減しつつ、効率よく温度応答性ポリマーを加温することができる。(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリルニトリルとの共重合体の場合、アセトアミド及びアセトニトリルの吸収スペクトルから、1484nm、1972nm、及び2176nm等に吸収ピークが存在すると考えられる。従って、これらの吸収ピーク又はその近傍の波長のレーザ光を照射すれば、効率よく温度応答性ポリマーを加温することができる。
【0061】
温度応答性ポリマーがさらに効率よくレーザ光を吸収するように、温度応答性ポリマーに色素等を組み込んでもよい。色素としては例えば、ローダミン、カルコン、オーロン、アントシアニン類、及びフラボン類等を用いることができる。特に、クロロフィル等は吸収した光を熱エネルギーとして放出するため、より効率よく温度応答性ポリマーを加温することができる。クロロフィルを温度応答性ポリマーに導入する場合には、銅クロロフィリン又はその塩(例えばナトリウム塩)(Chlph)を共重合させればよい。温度応答性ポリマーにおけるChlphに由来するモノマー単位のモル含有率は、特に限定されないが、0.1mol%以上、好ましくは0.5mol%以上、より好ましくは1mol%以上、そして5mol%以下、好ましくは3mol%以下、より好ましくは2mol%以下とすることができる。Chlphは400nm付近に吸収ピークを有しているため、Chlphを導入した温度応答性ポリマーの場合には、400nm〜450nm程度の波長のレーザ光を用いて加温することができる。
【0062】
レーザ光による加温に限らず、赤外線照射を行ったり、細胞接着スポットの位置にマイクロヒータを配置したりすることにより選択的な加温を行ってもよい。
【0063】
細胞の標識は特に限定されないが、抗体を用いた蛍光標識等を用いることができる。標的細胞を標識すればよいが、不要な細胞を標識してもよい。
【0064】
全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)と、レーザ光源と、制御部とを組み合わせることにより、必要とする細胞を自動的に細胞接着スポットから遊離させて回収する細胞自動分取装置を実現することができる。
【0065】
以下に、
図2を用いて本実施形態の細胞自動分取装置300の動作を説明する。まず、チャンバー331内に収容された細胞処理用基板200に、供給部322から細胞浮遊液が供給される。この際に、細胞接着スポットが細胞接着性となるようにチャンバー331の温度をUCST未満の温度とする。これにより、細胞浮遊液中の細胞は、細胞接着性となっている接着スポットに接着される。
【0066】
細胞接着スポットに接着された細胞を必要に応じて培養する。培養は通常は二酸化炭素(CO
2)雰囲気において行う。培養の際に、供給部322から必要に応じて、培養に必要な薬液を供給したり、分化を促す試薬を供給したりしてもよい。供給部322は、供給する細胞浮遊液及び試薬の種類等に応じて複数設けられていてもよい。細胞を培養した後、供給部322から標的細胞を特異的に認識する標識試薬を供給し、標的細胞を標識する。標識試薬は標的細胞を特異的に標識できればどのようなものであってもよい。例えば、標的細胞を特異的に認識する一次抗体と、一次抗体を特異的に認識し、色素が結合された二次抗体とすればよい。
【0067】
次に、接着スポットに接着された細胞の光学像をデータとして制御部302に取り込み、標的細胞かどうかの判定を行う。本実施形態においては、色素標識されている場合には標的細胞と判定し、色素標識されていない場合には不要な細胞と判定する。具体的にはTIRFである観察用光学系301により細胞接着スポットに接着された細胞を観察し、色素による蛍光の有無により標的細胞かどうかの判定を行う。観察用光学系301は、目視観察用の顕微鏡部311と光学像を画像データへ変換するデータ変換部312とを有している。なお、目視観察用の顕微鏡部311は必要に応じて設ければよく、なくてもかまわない。
【0068】
データ変換部312は、例えば冷却CCD(Charge Coupled Device)カメラ等の撮像素子とすればよい。データ変換部312を光電子増倍管等として、光子のカウントを行うことにより蛍光の有無を判定してもよい。本実施形態の細胞自動分取装置300における蛍光標識励起用の光は、蛍光標識観察用光源315Aから供給される。なお、蛍光標識観察用光源315Aは、通常光の光源を用いればよいが、レーザ光源を用いることもできる。
【0069】
データ変換部312の出力は制御部302に入力される。制御部302は入力された画像データに基づいて細胞接着スポットに接着されている細胞が、標的細胞か不要細胞かを判定する。標的細胞であると判定した場合には、温度制御用レーザ光源315Bを駆動し、細胞接着スポットの温度をUCST以上とする。これにより、標的細胞が細胞接着スポットから剥離する。剥離させた細胞は回収部323に回収する。本実施形態の細胞自動分取装置300では、温度制御用レーザ光源315Bからのレーザ光は、エバネセント波として細胞接着スポットに照射される。このため、レーザ光により細胞がダメージを受けることはほとんどない。
【0070】
制御部302は、位置制御部324を駆動して、光学的データの取り込み、標的細胞かどうかの判定及び標的細胞の剥離をすべての細胞接着スポットに対して、又はあらかじめ定められた細胞接着スポットに対して行う。光学的データの取り込み、標的細胞かどうかの判定は、複数の細胞接着スポットに対してまとめて行ってもよい。
【0071】
本実施形態において、標的細胞を特異的に標識する例を示したが、不要な細胞を特異的に標識してもよい。この場合は、標識されていない細胞が接着された細胞接着スポットの温度を上昇させて、標的細胞を回収すればよい。標的細胞と不用な細胞とのそれぞれに異なる標識を行ってもよい。また、抗体を用いた標識ではなく、細胞染色等により標識を行ってもよい。さらに、標識は必ずしも必要ではなく、細胞の形態の差異等により、標的細胞かどうかを判定することも可能である。細胞機能の違いにより誘起される赤外又は近赤外吸収、ラマン散乱、化学発光、屈折率、細胞接着面のプラズモン吸収、細胞接着面の光熱変換効率又は酸化還元電流等の違いにより標的細胞かどうかを判定してもよい。複数の判定方法を組み合わせることも可能である。
【0072】
蛍光標識観察用レーザ光源と、温度制御用レーザ光源とを別々に設ける例を示したが、これらを兼用することも可能である。この場合には、蛍光標識観察の際と温度制御の際とでレーザ光源の出力レベルを変化させる構成としてもよい。
【実施例】
【0073】
<細胞処理用基板の製造>
−細胞接着スポットの形成−
基板は、10mm角で厚さが0.21mmのガラス基板又はポリエチレンテレフタレート(PET)基板を用いた。基板の表面にクロム及びチタンの合金(Cr/Ti)膜及び金膜を順次堆積した。細胞接着スポットの形成は以下のようにした。まず、金膜上にスピンコーターにより感光性レジストをコーティングした後、石英ガラス上に選択的にクロムコーティングをしたフォトマスクを重ねた。紫外光照射を行い、フォトマスクのクロムコーティングが施されていない箇所(ガラス露出部)を透過した紫外光により感光性レジストを露光した。次に、レジストの露光部を現像液により除去した。続いて、薬液を用いたウェットエッチングを行い、金膜を選択的に除去した。この後、アセトンにより残ったレジストを除去した。これにより、凹部である細胞接着スポットを形成した。
【0074】
細胞接着スポットは、直径50μmとし、細胞接着スポットの中心間の間隔は100μmとした。80×80個の細胞接着スポットをアレイ状に形成した。
【0075】
−温度応答性ポリマーの固定−
ガラス基板の場合には、まず、リンカーである3−アミノプロピルトリメトキシシラン(アズマックス社製)を細胞接着スポットに固定した。具体的には、ジメチルホルムアミド(DMF)により1mMに調製した3−アミノプロピルトリメトキシシラン溶液に細胞接着スポットを形成した基板を浸漬し、60℃で3時間反応させた。
【0076】
次に、開始剤である2−ブロモイソブチルブロマイド(BiBB)をリンカーと結合させた。具体的には、トルエン4mlに、トリエチルアミン70mg、4−ジエチルアミノピリジン3.52mgを溶解し、3−アミノプロピルトリメトキシシランを固定した基板を浸漬し−5℃とする。臭化2−ブロモイソブチル50mgを0.5mlのトルエンに溶解させた溶液を、シリンジを用いてゆっくり適下した、かき混ぜながら、−5℃で30分、さらに25℃で4時間反応させた。
【0077】
次に、アクリルアミド(AAm、和光純薬工業(株)社製)475.4mg(6.69mmol)、アクリロニトリル(AN、東京化成(株)社製)70.2mg(1.31mmol)、臭化銅(I)(和光純薬工業(株)社製)10mg、N,N,N',N'',N''−ペンタメチルヂエチレントリアミン(和光純薬工業(株)社製)146μl、及びアスコルビン酸123mgを8mlのジメチルスルホオキシド(DMSO)に溶解させたモノマー溶液に開始剤を固定した基板を浸漬し、40℃で6.5時間反応させた。これにより、ポリ(AAm−AN)である温度応答性ポリマーを細胞接着スポットの表面に重合して固定した。グラフト量は、6.2μg/cm
2であった。温度応答性ポリマーのグラフト量は、温度応答性ポリマーのグラフト前の基板の重量とポリマーグラフト重合後の基板の重量との差から求めた。また、後で述べる方法により測定した重合度は、520であった。なお、重合時間を2時間とした場合の重合度は130、4時間とした場合の重合度は390であった。
【0078】
PET基板の場合には、基板にアルゴン(Ar)プラズマを照射することにより、細胞接着スポットに重合開始点を導入した。Arプラズマは以下の条件で照射した。
反応気圧:0.1Pa
Ar流量:10sccm
高周波電力:
反応温度:室温
照射時間:60秒
重合開始点を導入した後、アクリルアミド(AAm、和光純薬工業(株)社製)475.4mg(6.69mmol)、アクリロニトリル(AN、東京化成(株)社製)70.2mg(1.31mmol)を8mlのDMSOに溶解させたモノマー溶液に重合開始点を導入した基板を浸漬し、60℃で20時間反応させた。これにより、ポリ(AAm−AN)である温度応答性ポリマーを細胞接着スポットの表面に重合して固定した。グラフト量は、54.2μg/cm
2であった。また、後で述べる方法により測定した重合度は、125であった。
【0079】
−細胞非接着性ポリマーの固定−
MPC(シグマアルドリッチ社製)0.500g及びブチルメタクリレート(東京化成工業(株)製:BMA)0.963g、アゾビスイソ吉草酸ジメチル(和光純薬工業(株)製)19.5mgを5mlのエタノールに溶解させたモノマー溶液と60℃で15時間反応させ、ポリ(MPC−BMA)を得た。0.1wt%のポリ(MPC−BMA)エタノール溶液に、金膜の表面をヨウ素とヨウ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチングした基板を4℃、12時間、浸漬した後、水/エタノール(8/2(v/v))溶液に4℃、1時間浸漬してガラススポット部のポリ(MPC−BMA)を除き、基板の細胞接着スポット以外の部分に、細胞非接着性ポリマーを固定した。
【0080】
−遺伝子導入用基板の物性評価−
・接触角:
接触角は、以下のようにして測定した。エルマ製ゴニオメータ式接触角測定機G−1型を用いてステージ温度を所定の温度とした後、基板上に15μlの水滴を置き接触角を測定した。測定は計5回のうち、最大値及び最小値を除いた平均値を接触角とした。ステージ温度を変えて接触角を測定し、接触角が大きく変化する温度をUCSTとした。
【0081】
温度応答性ポリマーを固定したガラス基板の31℃における水に対する接触角は59°、40℃における接触角は46°、UCSTは36.5℃であった。温度応答性ポリマーを固定したPET基板の31℃における接触角は78°、40℃における接触角は65°、UCSTは36.5℃であった。温度応答性ポリマーを固定していないガラス基板の31℃における接触角は、21°、40℃における接触角は21°であった。温度応答性ポリマーを固定していないPET基板の31℃における接触角は、75°、40℃における接触角は75°であった。
【0082】
・分子量:
細胞接着スポットに固定した温度応答性ポリマーの分子量(数平均分子量Mn)は、以下のようにして測定した。走査型プローブ顕微鏡を用いてガラススポット部の高低差を測定し、基板から伸びているポリマーブラシの平均長さを求め、繰り返し単位の炭素−炭素結合長0.154nmから重合度を見積もった。
【0083】
(実施例1)
温度応答性ポリマーを固定したガラス基板にヒーラ(HeLa)細胞を3×10
5個/mlの濃度に調製した細胞浮遊液800μlを播種し、30℃、24時間、5%CO
2雰囲気中で、基板への細胞の接着・培養を行った。リン酸緩衝液(PBS)で、非接着細胞を除去した。さらに、5%CO
2雰囲気において37℃の温度で30分の培養を行った。培地はMEM培地(MinimumEssential Medium、GIBCO社製:MEM)と、ウシ胎仔血清(CellCultureTechnologies社製:FCS)と、非必須アミノ酸含有MEM(MEM non-essential amino acid、GIBCO社製:NEAA)とを89:10:1に混合して用いた。
【0084】
細胞を培養した後、30℃を保持した状態で上澄み液を静かに除去し、基板を蛍光顕微鏡又は位相差顕微鏡により観察し、基板上に接着された細胞数を計測した。細胞数を計測した後、pH7.4のリン酸緩衝液100μl×3回により基板を洗浄し、洗浄後の細胞数を計測した。さらに、37℃にて30分間静置した後、37℃を保持した状態でリン酸緩衝液100μl×3回により基板を洗浄し、洗浄後の細胞数を計測した。
【0085】
洗浄前の細胞数と、30℃における洗浄後の細胞数とを比較することにより30℃における剥離率を算出し、30℃における洗浄後の細胞数と37℃における洗浄後の細胞数とを比較することにより37℃における剥離率を算出した。30℃における剥離率は0%であり、37℃における剥離率は98%であった。
【0086】
(実施例2)
温度応答性ポリマーを固定したPET基板を用いた以外は、実施例1と同様にして剥離率を求めた。30℃における剥離率は18%であり、37℃における剥離率は75%であった。
【0087】
(比較例1)
温度応答性ポリマーを固定していないガラス基板を用いた以外は、実施例1と同様にして剥離率を求めた。30℃における剥離率は53%であり、37℃における剥離率は9%であった。
【0088】
(比較例2)
温度応答性ポリマーを固定していないPET基板を用いた以外は、実施例1と同様にして剥離率を求めた。30℃における剥離率は22%であり、37℃における剥離率は25%であった。
【0089】
表1に各実施例及び比較例の剥離率をまとめて示す。
【0090】
【表1】