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特許61187287XXX系合金製の厚い製品および製造方法
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  • 特許6118728-7XXX系合金製の厚い製品および製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118728
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】7XXX系合金製の厚い製品および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20170410BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20170410BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   C22C21/10
   C22F1/053
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-543846(P2013-543846)
(86)(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公表番号】特表2014-505786(P2014-505786A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】FR2011000637
(87)【国際公開番号】WO2012080592
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月10日
(31)【優先権主張番号】10/04865
(32)【優先日】2010年12月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500092697
【氏名又は名称】コンステリウム イソワール
【氏名又は名称原語表記】Constellium Issoire
(73)【特許権者】
【識別番号】513149104
【氏名又は名称】コンステリウム ヴァレ エスアー(アーゲー,エルティーディー)
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM VALAIS SA(AG,LTD)
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ガスクール,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】フルニエ,ジャン−エティエンヌ
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0173378(US,A1)
【文献】 特開2008−255372(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/049445(WO,A1)
【文献】 特許第5023233(JP,B1)
【文献】 特表2009−542912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(単位は重量%)を含む、350mmを超える厚みを有する厚いブロックの製造のためのアルミニウム合金;
Zn:5.3−5.9%、
Mg:0.8−1.8%、
Cu:<0.2%、
Zr:0.05−0.12%、
Ti:0.01−0.05%、
Mn:<0.1%、
Cr:<0.1%、
Si:<0.15%、
Fe:<0.20%、
不可避的不純物の個別含有量がそれぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満、残りはアルミニウム。
【請求項2】
以下(単位は重量%)を含む、請求項1に記載の合金;
Zn:5.4−5.8%および/または
Mg:1.0−1.4%および/または
Cu:<0.05%。
【請求項3】
Zrの最大含有量が、0.10重量%である、請求項1または2に記載の合金。
【請求項4】
以下のような、請求項1から3のいずれか一つに記載の合金;
Mn:<0.05%および/または
Cr:<0.05%および/または
Si:<0.10%および/または
Fe:<0.15%。
【請求項5】
以下の過程を含む、アルミニウム製の厚いブロックの製造方法であって:
a)請求項1から4のいずれか一つに記載の合金製の厚いブロックの鋳造、
b)450℃から550℃の間に含まれる温度での10分間から30時間の均質化、および/または300℃から400℃の間に含まれる温度での10分から30時間の応力除去、
b’)100℃未満の温度までの冷却、
c)前記鋳造されたブロックの、500℃から560℃の温度での10分間から20時間の溶体化処理、
d)前記溶体化処理されたブロックの、100℃未満の温度までの冷却、
e)前記溶体化処理され冷却されたブロックの、120℃から170℃での加熱による4時間から48時間の焼戻し、
前記ブロックが、鋳造と焼戻しの間に、熱間加工による10%以上の長さ、幅、厚みの寸法の一つの変形の過程を受けない、
幅の方向TLにおいて四分の一の厚みのところで、MPaで示される弾性限界RP0.2と、規格ASTM E602−03、パラグラフ9.2にしたがって測定される弾性限界RP0.2と切欠きをつけた試験片の機械的強度との間のNSRと呼ばれる比率とが、以下のようであることを特徴とする:
NSR>−0.017×RP0.2+6.7および
P0.2>320MPa、
アルミニウム製の厚いブロックの製造方法。
【請求項6】
幅の方向TLにおいて四分の一の厚みのところで、MPaで示される弾性限界RP0.2と、規格ASTM E602−03、パラグラフ9.2にしたがって測定される弾性限界RP0.2と切欠きをつけた試験片の機械的強度との間のNSRと呼ばれる比率とが、以下のようであることを特徴とし:
NSR>−0.017×RP0.2+6.7および
P0.2>320MPa、
以下(単位は重量%)を含むアルミニウム合金製の、350mmを超える厚みを有するアルミニウム製の厚いブロック:
Zn:5.3−5.9%、
Mg:0.8−1.8%、
Cu:<0.2%、
Zr:0.05−0.12%、
Ti:0.01−0.05%、
Mn:<0.1%、
Cr:<0.1%、
Si:<0.15%、
Fe:<0.20%、
不可避的不純物の個別含有量がそれぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満、残りはアルミニウム。
【請求項7】
NSRが、>0.8であることを特徴とする、請求項に記載のアルミニウム製の厚いブロック。
【請求項8】
プラスチック射出用の金型の製造のための、請求項またはに記載の350mmを超える厚みを有する厚いブロックの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にアルミニウム合金製の製品、より特徴的にはそのような7XXX系合金製の厚い製品、その製造方法および利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出によって得られるプラスチック材料の分野において、大きなサイズの製品を求める声が増加している。この大きなサイズの製品の製造を可能にする金型を製作するためには、厚いブロックを使用する必要があるが、厚いブロックとはすなわち、厚みが350mmを超えるもの、好ましくは450mmを、さらには550mmを超えるものである。ブロックとは、基本的に平行六面体形状の、頑丈な製品を意味する。
【0003】
アルミニウム製の厚いブロックはまた、機械工学の分野においても有用である。
【0004】
金型の製造を目的とした、アルミニウム製の厚いブロックに対して求められている特性は、弾性限界や破断強度のような高い静的な機械的特性、並びに優れた切欠き強度であり、これらの特性は一般に相反するものである。このように、切欠き強度は、これらの製品にとって重要な使用特性であり、例えばNSRによって特徴付けられることができるが、NSRとは、規格ASTM−E602にしたがって測定される、弾性限界と切欠きのある場合の機械的強度との間の比率である(「Sharp−Notch Strength−to−Yield Strength Ratio」)。厚い製品については、これらの特性は、四分の一の厚みおよび/または半分の厚みで特に得られなければならず、製品はしたがって焼入れ感受性が低くなくてはならない。弾性限界のような静的な機械的特性が、焼入れ速度が減少するときに減少する場合、その製品は焼入れ感受性があると言われる。焼入れ速度とは、焼入れ間の製品の、平均冷却速度である。
【0005】
厚いブロックはまた、好ましくは、残留応力が少なくなくてはならない。というのも、残留応力は、金型の形状に悪影響を及ぼす、加工の際の変形の原因となるのである。残留応力は、例えば国際公開第2004/053180号の中に記述されている方法によって測定することができる。少ない残留応力とは、典型的には4kJ/m3未満、一般的にはおよそ2kJ/m3のWTbar値を意味する。
【0006】
最後に、厚いブロックは、出来る限り時間のかからない、経済的な方法を用いて得られなければならない。
【0007】
欧州特許第1587965号明細書(Alcan)は、4.6−5.2%のZn、2.6−3.0%のMg、0.1−0.2%のCu、0.05−0.2%のZr、0.05%を超えないMn、0.05%を超えないCr、0.15%を超えないFe、0.15%を超えないSi、0.10%を超えないTiの組成(単位は重量%)の厚いブロックを製造するために有用な合金、およびこれらのブロックの製造方法について記述しており、該製造方法においては、ブロックとして、連続鋳造によって得られたインゴットが直接用いられている。
【0008】
国際公開第2008/005852号(Alcan)は、亜鉛6から8%、マグネシウム1から2%(単位は重量%)、Zr、Mn、Cr、Tiおよび/またはScのような分散質を形成する元素を含む、非常に厚い製品にとって有用な合金について記述している。
【0009】
類似の組成の合金が同様に、他の応用に対して既知である。例えば以下が、The Aluminium Associationのもとに登録されている:
−7003合金であって、その組成は以下の通りである:
Zn5.0%−6.5%、Mg0.50−1.0%、Zr0.05−0.25%、Cu0−0.20%、Fe0−0.35%、Si0−0.30%、Mn0−0.30%、Cr0−0.20%、Ti0−0.20%、残りはAlと不可避不純物であり、該不可避不純物は0.05%未満、合計で0.15%未満。
−7021合金であって、その組成は以下の通りである:
Zn5.0%−6.0%、Mg1.2−1.8%、Zr0.08−0.18%、Cu0−0.25%、Fe0−0.40%、Si0−0.25%、Mn0−0.10%、Cr0−0.05%、Ti0−0.10%、残りはAlと不可避不純物であり、該不可避不純物は0.05%未満、合計で0.15%未満。
【0010】
米国特許第3852122号明細書(Ardal)は、バンパー、構造部品、また圧縮ガスの製造、貯蔵および運搬のために用いられる部品を製造するために長期間利用可能な製品を製作することを目的とした、Zn4.5−5.8%、Mg1.0−1.8%、Zr0.10−0.30%、Fe0−0.30%、Si0−0.15%、Mn0−0.25%の組成(単位は重量%)の合金について記述している。
【0011】
仏国特許出願公開第2341661号明細書(VMRBA)は、熱間加工によって鍛造、あるいはこねられることを目的とした、また車両、機械、および器具や工具類の保管場所を構成するために用いられることを目的とした、Zn4.0−6.2%、Mg0.8−3.0%、Cu0−1.5%、Zr0.05−0.30%、Fe0−0.20%、Si0−0.15%、Mn0−0.25%、Ti0−0.10%の組成(単位は重量%)の合金について記述している。
【0012】
特開平8−144031号公報(Furukawa)は、管の生産のために、Zn4.0−6.5%、Mg0.4−1.8%、Cu0.1−0.5%、Zr0.1−0.5%、また追加としてMn0.05−0.20%および/またはCr0.05−0.20%の組成(単位は重量%)の合金を記述している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようと努める問題は、残留応力の少ない、静的な機械的特性と切欠き強度との改善された特性バランスを有する厚いアルミニウムブロックを、時間のかからない、経済的な方法によって得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の目的
本発明の第一の目的は、以下を含む(単位は重量%)、厚いブロックを製造するためのアルミニウム合金である;
Zn:5.3−5.9%、
Mg:0.8−1.8%、
Cu:<0.2%、
Zr:0.05−0.12%、
Ti:<0.15%、
Mn:<0.1%、
Cr:<0.1%、
Si:<0.15%、
Fe:<0.20%、
不純物の個別含有量がそれぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満、残りはアルミニウム。
【0015】
本発明の第二の目的は、以下の過程を含む方法であって:
a)本発明による合金製の厚いブロックの鋳造、
b)選択的に、450℃から550℃の間に含まれる温度での10分間から30時間の均質化、および/または300℃から400℃の間に含まれる温度での10分間から30時間の応力除去、その後、100℃未満の温度までの冷却、
c)前記鋳造されたブロックの、500℃から560℃の温度での10分間から20時間の溶体化処理、
d)前記溶体化処理されたブロックの、100℃未満の温度までの冷却、
e)前記溶体化処理されまた冷却されたブロックの、120℃から170℃での加熱による4時間から48時間の焼戻し、
該方法において、前記ブロックは、鋳造と焼戻しとの間に、熱間加工による大きな意味をもつ変形の過程を受けない。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、方向TLにおいて四分の一の厚みのところで、弾性限界RP0.2と、規格ASTM E602−03、パラグラフ9.2にしたがって測定される、切欠きをつけた試験片の機械的強度と弾性限界RP0.2との間のNSRと呼ばれる比率とが、以下のようであることを特徴とする、本発明による方法によって得ることができるアルミニウム製の厚いブロックである:
NSR>−0.017×RP0.2+6.7および
P0.2>320MPa好ましくは330MPa
および/または
NSR>0.8好ましくは1.0。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、プラスチック射出用の金型の製造のための、本発明による厚いブロックの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】弾性限界RP0.2と、NSR(「Sharp−Notch Strength−to−Yield Strength Ratio」)と呼ばれるパラメータとの間で得られる妥協点であって、NSRは、切欠きをつけた試験片の機械的強度と弾性限界RP0.2との間の比率である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の説明
反する言及がない限り、合金の化学組成に関するすべての表示は、合金の総重量にもとづいた重量パーセントとして示される。合金の名称は、当業者に知られているThe Aluminium Associationの規則にしたがって成されている。冶金の状態の定義は、欧州規格EN515で示されている。
【0020】
反する言及がない限り、静的な機械的特性、すなわち最終的な破断強度Rm、引張り弾性限界RP0.2、および破断伸びAは、規格EN10002−1あるいはNF EN ISO 6892−1にしたがった引張り試験で判定され、断片が採取される位置およびその方向は、規格EN 485−1によって定義される。切欠きをつけた試験片の機械的強度は、規格ASTM E602−03にしたがって得られる。規格E602−03、パラグラフ9.2にしたがって、切欠きをつけた試験片の機械的強度と弾性限界RP0.2との間の、NSRと呼ばれる比率(「Sharp−Notch Strength−to−Yield Strength Ratio」)が算出されるが、この比率は、サンプルの切欠き強度の情報を与えるものである。
【0021】
提起された問題は、以下を含む合金により解決される(単位は重量%);
Zn:5.3−5.9%、
Mg:0.8−1.8%、
Cu:<0.2%、
Zr:0.05−0.12%、
Ti:<0.15%、
Mn:<0.1%、
Cr:<0.1%、
Si:<0.15%、
Fe:<0.20%、
不純物の個別含有量がそれぞれ0.05%未満、合計で0.15%未満、残りはアルミニウム。
【0022】
亜鉛含有量5.3から5.9重量%、マグネシウム含有量0.8から1.8重量%、そして銅含有量0.2重量%未満の組み合わせは、機械的強度と切欠き強度との間の改善された妥協点に達することを可能にする。Znの好ましい含有量は、5.4から5.8重量%である。マグネシウムの好ましい含有量は、1.0から1.4重量%、さらには1.1から1.3重量%である。銅の好ましい含有量は、0.05重量%未満、さらには0.04重量%未満である。
【0023】
ジルコニウムの含有量は、0.05から0.12重量%である。好ましくは、ジルコニウムの含有量は、特にアルミニウム製の厚いブロックの焼入れ感受性をさらに低下させるように、最大で0.10重量%、さらには0.08重量%である。
【0024】
チタンの含有量は、0.15重量%未満である。有利には0.01から0.05重量%の間に含まれ、好ましくは0.02から0.04重量%の間に含まれるチタンの量が、鋳造の際に結晶粒の大きさを細かくするために加えられる。
【0025】
Crの含有量とMnの含有量は、0.1重量%未満である。好ましくは、Crの含有量は0.05重量%未満、さらには0.03重量%未満であり、かつ/または、Mnの含有量は0.05重量%未満、さらには0.03重量%未満であり、これにより、特にアルミニウム製の厚いブロックの焼入れ感受性をさらに低下させることが可能となる。
【0026】
SiおよびFeは、特に切欠きをつけた試験片の機械的強度を改善するように、含有量を最小限に抑えたい不可避不純物である。Feの含有量は0.20重量%未満、好ましくは0.15重量%未満である。Siの含有量は0.15重量%未満、好ましくは0.10重量%未満である。
【0027】
本発明による合金製の厚いブロックを製造するための適切な方法は、以下の過程を含む:
a)本発明による合金製の厚いブロックの鋳造、
b)前記鋳造されたブロックの、500℃から560℃の温度での10分間から20時間の溶体化処理、
c)前記溶体化処理されたブロックの、100℃未満の温度までの冷却、
d)前記溶体化処理され、また冷却されたブロックの、120℃から170℃での加熱による4時間から48時間の焼戻し。
【0028】
厚いブロックの鋳造は、好ましくは、直接冷却を伴う半連続鋳造(「Direct Chill casting」)によって実現される。厚いブロックとは、350mmを超える、好ましくは450mmを超える、さらには550mmを超える厚みをもつ。ブロックとは、基本的に平行六面体の形状であり、一般に、一番大きな寸法(長さ)、二番目に大きな寸法(幅)、そして一番小さな寸法(厚み)をもつ。
【0029】
ブロックは、選択的に、その後、典型的には450℃と550℃の間に含まれる温度での10分間から30時間の熱処理によって均質化されることができ、かつ/または、300℃から400℃の間に含まれる温度での、10分間から30時間の応力除去処理を受けることができ、その後、100℃未満の温度まで冷却されることができる。
【0030】
ブロックは、その後、溶体化処理、すなわち、ブロックの温度が500℃から560℃に達するように、10分間から5時間、さらには20時間の間、熱処理される。この熱処理は、一定の温度、またはいくつかの段階で実現可能である。
【0031】
溶体化処理後、ブロックは100℃未満の温度まで、好ましくは室温まで冷却される。冷却は、静止空気、通気、噴霧、灌水あるいは浸水によって、行うことができる。有利には、冷却速度は少なくとも200℃/時間である。
【0032】
本発明の有利な第一の実施態様において、冷却速度は200℃/時間未満である。この実施態様においては、残留応力は少ないが、機械的特性は、合金のいくらかの焼入れ感受性のために、その最大値には達しない。そのような冷却速度は、静止空気または換気装置を用いて得ることができる。
【0033】
本発明の有利な第二の実施態様においては、冷却速度は、少なくとも800℃/時間に等しい。そのような冷却速度は、灌水あるいは浸水によって得ることができる。冷却速度が速すぎると、ブロック中に過度の残留応力が生じるので、冷却用には少なくとも50℃、好ましくは少なくとも70℃の温度の水が、好適に用いられる。この第二の実施態様において、このように焼入れされたブロックは、好ましくは、1%から5%、好ましくは2%から4%の間に含まれる永久ひずみ率を伴う冷間圧縮によって、応力除去が行われる。応力除去により、金属中の残留応力を減少させ、加工の際の変形を回避することが可能となる。
【0034】
本発明の有利な第三の実施態様においては、冷却速度は、200℃/時間から400℃/時間の間に含まれる。すなわち、驚くべきことに、冷却速度が200℃/時間から400℃/時間の間に含まれるとき、満足すべき機械的特性と少ない残留エネルギーとを同時に得ることができ、圧縮による応力除去の過程の実施を回避することができる。そのような冷却速度は、噴霧によって得ることができる。
【0035】
最後に、このように溶体化処理され、冷却されたブロックの焼戻しが行われる。焼戻しは、ブロックが120℃から170℃の温度、好ましくは130℃から160℃の間の温度に達するように、4時間から48時間、好ましくは8時間から24時間、行われる。有利には、静的な機械的特性(RmとRP0.2)のピークに相当する状態T6またはT652に達するように焼戻しが行われる。
【0036】
各作業の間に、ブロックの切断および/または表面加工の単純な作業を行うことが可能である。
【0037】
それに対し、前記ブロックは、鋳造と焼戻しの間に、熱間加工による大きな意味をもつ変形の過程を受けない。「熱間加工」とは、典型的には、熱間圧延または熱間鍛造の作業を意味する。「大きな意味をもつ変形」とは、鋳造されたブロック−これは基本的に平行六面体(長さL、幅TL、厚みTC)の形状の厚いブロックである−のいかなる寸法も、鋳造と焼戻しの間に、熱間加工による大きな意味をもつ変更、すなわち、典型的には少なくともおよそ10%の変更を、受けないことを意味する。言葉を換えれば、鋳造されたブロックのいかなる寸法も、典型的には絶対値で10%を超える相対的変化を、熱間加工によって受けないということであり、このことは、前記熱間加工が、各方向L、TL、TCにおいて、Ln(1.1)=0.095に近い値を超えるいかなる永久ひずみももたらさず、また前記熱間加工が、典型的には0.135未満である一般化された塑性変形
【数1】
に相当することを意味する。
【0038】
本発明による方法によって得られる厚いブロックは、とりわけ、相反する二つの特性(一方が大きくなると、もう一方は小さくなる)である、弾性限界と切欠き強度との間に、有利な特性バランスを呈している。より正確には、出願人は、本発明による組成をもつ合金、あるいは焼戻しまでの手順で請求されている過程(鋳造、選択的な均質化および応力除去、溶体化処理、そして鋳造と最終過程である焼戻しの間に大きな意味をもつ熱間加工のない焼き入れ)にしたがって得られる合金製の厚いブロックについて、その後実現される、所与の弾性限界RP0.2に達するための焼戻し処理がいかなるもの(単一または多数の段階)であっても、NSR(「Sharp−Notch Strength−to−Yield Strength Ratio」)、およびこのようにして得られるブロックの切欠き強度を特徴づけるために用いられるパラメータは、目標のRP0.2を得るために実行される焼戻し処理に左右されない値に達することを確認した。したがって、そのような厚いブロックについて、例えば四分の一の厚みで測定されるRP0.2とNSRの間に関係を確立することができ、またこの関係はほぼ線形となる。
【0039】
このように、出願人は、第一の実施態様による方法が用いられるとき、NSR(規格ASTM E602−03、パラグラフ9.2にしたがって測定される比率)によって方向TLにおいて四分の一の厚みで評価されるような切欠き強度が、以下を超えることを確立することができた:
−0.017×RP0.2+6.4。
【0040】
典型的には、NSRは少なくとも0.7、好ましくは0.8であり、また弾性限界は少なくとも320MPa、好ましくは330Mpaである。
【0041】
第二の実施態様による方法が用いられるとき、NSR(規格ASTM E602−03、パラグラフ9.2にしたがって測定される)によって方向TLにおいて四分の一の厚みで評価されるような切欠き強度は、以下を超える:
−0.017×RP0.2+6.7。
【0042】
典型的には、NSRは、少なくとも0.8、好ましくは1.0であり、また弾性限界は少なくとも320MPa、好ましくは330Mpaである。
【0043】
高度な機械的強度と高度な切欠き強度を同時に得られる、驚くべき結果である。
【0044】
本発明による厚いブロックは、プラスチック射出用の金型の製造のために、有利に用いられる。
【実施例】
【0045】
本発明の実施例は、AとBで示される。実施例CとDは、比較として示される。この実施例においてテストされるさまざまな合金の化学組成は、表1において提示される。
【0046】
【表1】
【0047】
合金A、B、C、およびDは、厚さ625mmのブロックの形状に鋳造された。
【0048】
合金A製と合金C製のブロックは、次の方法で加工された:ブロックが、まず初めに480℃で10時間均質化された。ブロックは次に540℃で4時間溶体化処理され、そしておよそ40℃/時間で空冷された(2時間で540℃から410℃に、ついで9時間で410℃から90℃になった)。ブロックはその後、まず105℃でおよそ12時間、次いで160℃でおよそ16時間、焼戻し処理を受けた。
【0049】
合金B製と合金D製のブロックは、次の方法で加工された:ブロックが、まず初めに350℃で2時間の応力除去を受けた。540℃で4時間溶体化処理された後(ブロックB)、または475℃で10時間溶体化処理された後(ブロックD)、ブロックは80℃の水を用いた浸水によって冷却された。ブロックはその後、3%の圧縮による応力除去を受けた。合金B製のブロックは、その後、130℃の焼戻しを24時間(ブロックB1)、または150℃の焼戻しを16時間(ブロックB2)受けた。一方、合金D製のブロックは、まず90℃で8時間から12時間、ついで160℃で14時間から16時間焼戻し処理を受けた。
【0050】
方向TLにおいて四分の一の厚みで測定された、得られた機械的特性は、表2において示される。
【0051】
【表2】
【0052】
図1は、弾性限界RP0.2と、略語「NSR」で知られまた材料の切欠き感受性を特徴づけるために一般に用いられる、「Sharp−Notch Strength−to−Yield Strength Ratio」と呼ばれる比率、との間で得られた妥協点を示している。英語でのその完全な名称によって示されているように、このパラメータは、切欠きをつけた試験片で測定された機械的強度と、切欠きのつけられていない試験片で測定された弾性限界との間の比率である。このパラメータの使用の正当性、およびこのパラメータの測定を可能にする実験用プロトコルは、規格ASTM E602−03中の、特にパラグラフ9.2に記述されている。
【0053】
同様の加工条件において、本発明による合金Aは、合金Cと比較して、弾性限界とNSR比率、つまり切欠き強度を、同時に改善することを可能にする。得られるNSR比率は以下を超えるものである:
−0.017×RP0.2+6.4。
【0054】
本発明による合金の好ましい加工方法により、さらにNSR比率を改善することが可能となる。このように、本発明による合金B製のブロックは、以下を超えるNSR比率に達する:
−0.017×RP0.2+6.7。
【0055】
この比率は、類似の加工条件における合金Dによって達せられることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】国際公開第2004/053180号
【特許文献2】欧州特許第1587965号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/005852号
【特許文献4】米国特許第3852122号明細書
【特許文献5】仏国特許出願公開第2341661号明細書
【特許文献6】特開平8−144031号公報
図1