【文献】
NAGANO, Takayuki et al.,"Hydrothermal stability of mesoporous Ni-doped y-A1203",JOURNAL OF THE CERAMIC SOCIETY OF JAPAN,2009年,Vol.117, No.7,pp.832-835
【文献】
TSURU, Toshinori,"Development of Metal-doped Silica Membranes for Increased Hydroethermal Stability and Their Applications to Membrane Reactors for Steam Reforming of Methane",Journal of the Japan Petroleum Institute,2011年,Vol.54, No.5,pp.277-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のヘリウムガス分離材は、基部及びガス分離部が接合されて構成されている。ガス分離部は、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部(以下、単に「γ−アルミナ多孔質部」という場合がある)と、シリカ膜部を有する。基部は、連通孔の平均径が50nm〜1,000nmのα−アルミナ多孔質体からなる。シリカ膜部は、γ−アルミナ多孔質部における連通孔の内壁に配されている。ガス分離部は、このシリカ膜部により包囲形成された、平均径が0.27nm〜0.60nmである細孔有する。ヘリウムガス分離材は、基部の連通孔と、ガス分離部における細孔とが連絡して、基部からガス分離部にかけて、通気性を有するようになっている。
本発明のヘリウムガス分離材を、ゲージ圧が0.1MPaを超えて12MPa以下の範囲の高い圧力条件下において用いると、ヘリウムガスを含む混合ガスから、高い回収率でヘリウムガスが得られる。シリカ膜部により包囲形成される細孔(小細孔)の平均径(0.27nm〜0.60nm)は、ヘリウム分子より大きい領域を含むが、上記の圧力条件下において、ヘリウムガスは、二酸化炭素ガス、窒素ガス等の、ヘリウムより分子径の大きなガスよりも、優先的に透過する。この性質を利用して、例えば、燃料ガス等として有用な炭化水素系ガスと、ヘリウムガスとを含む天然ガスから、有限資源であるヘリウムガス又は粗ヘリウムガス(ヘリウムガスを主として含み、他の小径ガスを含む混合ガス)を分離した後、これらを大気中に自然放出することなく、地中に戻す用途または、回収する用途等に好適である。
【0010】
本発明のヘリウムガス分離材10の概略断面は、
図1に示される。即ち、
図1のヘリウムガス分離材10は、基部11及びガス分離部12を備える。基部11は、α−アルミナ多孔質体からなる。ガス分離部12は、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部13と、この多孔質部における連通孔の内壁に配されたシリカ膜部14とを有する。そして、シリカ膜部14により包囲形成された細孔(小細孔)15が、ヘリウムガスの分離に関わる。
細孔(小細孔)15は、上記γ−アルミナ多孔質部13の連通孔の内壁に形成されたシリカ膜部14が、γ−アルミナ多孔質部13の連通孔の内径(細孔径)を狭小化したものである。
【0011】
本発明のヘリウムガス分離材10を構成する基部11は、α−アルミナ多孔質体からなり、1つの部位から他の部位へと線状又は網目状に貫通する細孔、即ち、連通孔を有する。基部11の構造、形状、大きさ等は、特に限定されない。この連通孔は、単一の貫通孔であってよいし、複数の貫通孔が規則的又は不規則的に連続してもよい。
上記連通孔の平均径は、50nm〜1,000nmであり、好ましくは60nm〜180nm、より好ましくは80nm〜150nmである。この平均径は、市販の細孔径分布測定装置を用いて、バブルポイント及びハーフドライ法により測定された細孔分布における50%透過流束径を意味する。
【0012】
上記基部11の形状は、目的、用途等に応じて選択されるが、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。
また、基部11の大きさも、目的、用途等に応じて選択される。特に、混合ガスの分離に関わる厚さとしては、好ましくは150μm以上である。
本発明のヘリウムガス分離材10の形状及び大きさは、一般に、基部11の形状及び大きさと同等である。
【0013】
一方、ガス分離部12は、基部11と接合している。ガス分離部12は、
図2に示すように、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部13と、シリカ膜部14と、細孔(小細孔)15とを有する。
上記γ−アルミナ多孔質部13は、好ましくは、結晶性の低いγ−Al
2O
3の結晶構造の中にNiが固溶した混合陽イオン状態となっている多孔質体からなる。この場合、多孔質体が、上記酸化物固溶体からなるものであることは、X線回折(XRD)によるピークシフト及び格子定数の変化から確認することができる。
【0014】
上記酸化物固溶体におけるAl元素及び上記Ni元素の比は、耐熱性の観点から、これらの酸化物Al
2O
3及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、好ましくは、Al
2O
3が60モル%〜99モル%であり、NiOが1モル%〜40モル%であり、より好ましくは、Al
2O
3が80モル%〜99モル%であり、NiOが1モル%〜20モル%であり、更に好ましくは、Al
2O
3が88モル%〜98モル%であり、NiOが2モル%〜12モル%である。
【0015】
上記シリカ膜部14は、非晶質シリカからなることが好ましい。
このシリカ膜部14は、上記γ−アルミナ多孔質部13が有する細孔の内壁面の全てに形成されていてよいし、一部に形成されていてもよい。尚、「一部に形成される」とは、
図1のように断面図でシリカ膜部14を見た場合に、ガス分離部12の深さ方向(断面方向)において、シリカ膜部14が互いに同じ深さの位置まで形成されていることを意味する。「一部に形成される」とは、ガス分離部12の深さ方向において、ガス分離部12の寸法より、シリカ膜部14の寸法が小さいことを意味してもよい。
上記シリカ膜部14の深さ方向(断面方向)の長さは、ガス透過速度は膜厚に反比例することから、好ましくは50nm〜500nm、より好ましくは50nm〜300nmである。
【0016】
本発明においては、セラミックスの圧縮強度が引張強度より高いことから、シリカ膜部14は、γ−アルミナ多孔質部13の連通孔の内壁におけるガス分離部12の露出面側に形成されていることが好ましい(
図1参照)。この好ましい態様において、シリカ膜部14は、同じ構成材料をもって、ガス分離部12の露出面に配された皮膜と、連続相を形成していてもよい(図示せず)。なお、ガス分離部12の露出面とは、混合ガスが接触する面である。混合ガスは、ガス分離部12の露出面と接触し、混合ガスに含まれるヘリウムガスが、ガス分離部12及び基部11を透過することで、混合ガスから分離される。
【0017】
上記シリカ膜部14により包囲形成された細孔(小細孔)15の平均径は、0.27nm〜0.60nmであり、好ましくは0.27nm〜0.50nm、より好ましくは0.2nm7〜0.38nmである。
【0018】
上記ガス分離部12の厚さは、γ−アルミナ多孔質部13の厚さと、ほぼ同じであり、目的、用途等により、選択されるが、好ましくは1.0μm〜6.0μm、より好ましくは2.0μm〜4.0μmである。
【0019】
本発明のヘリウムガス分離材の製造方法は、α−アルミナ多孔質体の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含有する組成物を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を加熱して、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質膜を形成し、このγ−アルミナ多孔質膜が上記α−アルミナ多孔質体の表面に接合した複合体を得る熱処理工程と、上記複合体における上記γ−アルミナ多孔質膜の表面近傍に、シリカ前駆体ガスを存在させた状態で、酸素元素を含むガスを、上記α−アルミナ多孔質体の側から、上記複合体における連通孔を介して、上記γ−アルミナ多孔質膜の側に、送気し、上記複合体を加熱するシリカ膜部形成工程と、を、順次、備える。
【0020】
はじめに、塗膜形成工程により、α−アルミナ多孔質体の表面に、Al成分を含むゾルと、Ni化合物とを含有する組成物(以下、「ゾル組成物」という。)を用いて塗膜が形成される。
上記ゾル組成物は、更に、分散性、粘度調整等を向上するために、高分子量成分、水等を含有してもよい。
【0021】
上記ゾル組成物に含まれるAl成分及びNi成分の比は、これらの酸化物Al
2O
3及びNiOを用いて換算したとき、これらの合計100モル%に対して、好ましくは、Al
2O
3が60モル%〜99モル%であり、NiOが1モル%〜40モル%であり、より好ましくは、Al
2O
3が80モル%〜99モル%であり、NiOが1モル%〜20モル%であり、更に好ましくは、Al
2O
3が88モル%〜98モル%であり、NiOが2モル%〜12モル%である。
また、上記ゾル組成物の固形分濃度は、好ましくは5質量%〜7質量%であり、pHは、好ましくは0.5〜3.5である。
【0022】
上記ゾル組成物は、通常、上記のAl成分を含むゾル、Ni化合物等を用い、上記の各濃度なるように、これらを混合することにより調製される。
Al成分を含むゾルとしては、公知のアルミナゾル(コロイド粒子としてアルミナ水和物を含むゾル)、好ましくは、ベーマイトゾルが用いられる。このベーマイトゾルは、AlO(OH)の分子式で表される物質を含むゾルである。
上記ベーマイトゾルとしては、以下の方法で得られたゾルを用いることができる。即ち、まず、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド等のアルミニウムアルコキシドを、水に可溶な有機溶媒(イソプロパノール、エタノール、2−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等)に溶解させる。その後、この溶液を、塩酸、硝酸、過塩素酸等の一価の酸により酸性とし、80℃以上、好ましくは80℃〜95℃の熱水中に、撹拌しながら添加し、加水分解する。通常、上記温度で1時間〜20時間、攪拌が継続される。尚、この熱水の温度が低いと、無定形の水和物が生成してしまうことがある。
次いで、加水分解によりアルミニウムアルコキシドから生じた(遊離した)アルコールを蒸発させ、除去することにより、ベーマイトと、水とを含む混合物が得られる。その後、この混合物に、更に、上記酸を添加することによりベーマイトゾルが調製される。尚、加水分解前のアルミニウムアルコキシドが、水と反応しないようにするため、予め、無水酢酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル等のアセト酢酸エステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル等のジカルボン酸エステル等を配合しておいてもよい。
【0023】
上記のNi化合物としては、いずれも、Ni原子を含む水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。
また、上記高分子量成分としては、ポリビニルアルコール及びその変性物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、でんぷん及びその変性物等が挙げられる。
【0024】
上記ゾル組成物を、効率よく調製するためには、上記の方法により得られたベーマイトゾル、及び/又は、市販のベーマイトゾルと、Ni化合物と、を混合してもよいが、上記ベーマイトゾルとする直前の上記混合物と、上記Ni化合物として硝酸ニッケル等の水に溶解して酸性を呈する化合物等と、を混合することが好ましい。このように、水に溶解して酸性を呈する化合物を用いる場合には、上記各成分の混合によって、酸性になるため、ベーマイトゾルと、Ni成分とを含む組成物を得ることができる。尚、このゾル組成物の調製の際には、上記高分子量成分を配合してもよい。
上記Ni化合物は、それぞれ、固体で用いてよいし、いずれか一方を、又は、両方を、水、有機溶媒等に溶解させてなる溶液を用いてもよい。溶液を用いる場合は、調製されるゾル組成物のpHが、上記好ましい範囲になるように、酸等が用いられる。上記高分子量成分を配合する場合も同様に、好ましい含有量となるように、単独であるいは溶液として用いられる。この高分子量成分の含有量は、混合前のAl成分及びNi成分の固形分の合計量に対して、好ましくは8質量%〜18質量%である。
【0025】
上記ゾル組成物は、α−アルミナ多孔質体の表面に塗布され、その表面に沿って、塗膜が形成される。塗布方法としては、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられる。また、上記ゾル組成物を塗布する際の、ゾル組成物の温度は、好ましくは10℃〜35℃、より好ましくは15℃〜25℃であり、上記α−アルミナ多孔質体の温度は、好ましくは10℃〜35℃、より好ましくは15℃〜25℃である。
塗膜の厚さは、用途に応じて選択され、通常、1μm〜6μmである。
尚、α−アルミナ多孔質体への塗布であるため、ゾル組成物が、細孔内部に侵入することがあるが、侵入しないように塗布し、塗膜を形成することが好ましい。ゾル組成物が、一部の細孔内部に入った場合は、以下の熱処理工程によって生成される酸化物固溶体が、α−アルミナ多孔質体の連通孔を閉塞した状態になる場合がある。
【0026】
その後、熱処理工程により、塗膜を加熱して、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質膜を形成し、このγ−アルミナ多孔質膜がα−アルミナ多孔質体の表面に接合した複合体を得る。
この熱処理工程における塗膜の熱処理条件としては、大気、酸素ガス等の雰囲気中、大気圧下において、加熱温度が、好ましくは450℃〜950℃、より好ましくは550℃〜900℃、更に好ましくは600℃〜850℃である。熱処理は、この範囲の温度であれば、一定温度で熱処理を行ってよいし、温度を変化させながら熱処理を行ってもよい。尚、加熱温度が高すぎると、γ−Al
2O
3からα−Al
2O
3への相転移が進行してしまう場合がある。
上記範囲の温度で熱処理することにより、組成が安定であり、均一である酸化物固溶体からなる多孔質膜を得ることができる。上記温度が低すぎると、細孔構造が熱的に不安定になる傾向がある。一方、温度が高すぎると、細孔径が大きくなる傾向がある。尚、加熱時間、昇温速度等は、α−アルミナ多孔質体の形状、大きさ等により、適宜、選択されるが、加熱時間は、通常、0.5時間〜10時間である。
上記熱処理工程の後、表面にクラックが生じないように、徐冷される。
【0027】
上記の塗膜形成工程及び熱処理工程は、それぞれ、1回ずつ行って単層型のγ−アルミナ多孔質膜としてよいし、繰り返し行って、積層型のγ−アルミナ多孔質膜とすることもできる。
【0028】
上記ゾル組成物を用いて塗膜を形成し、上記条件により熱処理を行うことにより、平均細孔径が10nm以下、好ましくは1nm〜8nm、より好ましくは1nm〜7nm、更に好ましくは1nm〜6nmの細孔を有する多孔質膜を効率よく形成することができる。このγ−アルミナ多孔質膜の細孔は、α−アルミナ多孔質体の細孔と連絡しており、複合体の断面方向に連通孔が形成されている。
【0029】
次に、シリカ膜部形成工程において、上記複合体におけるγ−アルミナ多孔質膜の表面近傍に、シリカ前駆体ガスを存在させた状態で、酸素元素を含むガスを、上記α−アルミナ多孔質体の側から、上記複合体における連通孔を介して、上記γ−アルミナ多孔質膜の側に、送気し、上記複合体を加熱し、シリカ膜部を形成する。
このシリカ膜部形成工程は、好ましくは、密閉空間にて進められ、複合体の加熱時に、2種のガスが接触するγ−アルミナ多孔質膜の連通孔内にて、これらが反応し、γ−アルミナ多孔質膜の連通孔の内壁に均一なシリカ膜部が形成される。
【0030】
上記シリカ前駆体ガスとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;テトラエチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン化合物のガスが好ましく用いられる。
また、酸素元素を含むガスとしては、酸素ガス、オゾンガス等が挙げられる。
【0031】
上記シリカ膜部形成工程における、シリカ前駆体ガス、及び、酸素元素を含むガスの使用方法は、特に限定されない。シリカ前駆体ガスは、複合体におけるγ−アルミナ多孔質膜の表面近傍に、滞留させておいてよいし、該表面近傍にその一定量が存在するように、連続的又は間欠的に流してもよい。また、酸素元素を含むガスを、α−アルミナ多孔質体の側からγ−アルミナ多孔質膜の側に、連続的に送気してよいし、間欠的に送気してもよい。
上記のシリカ前駆体ガス、及び、酸素元素を含むガスが接触する際の体積割合は、両者をγ―アルミナの細孔内で接触させて円滑にシリカを形成できることから、両者の合計を100体積%とした場合に、好ましくは20〜80体積%及び20〜80体積%、より好ましくは30〜70体積%及び30〜70体積%である。
【0032】
上記γ−アルミナ多孔質膜内におけるシリカ膜部の形成位置及び成膜性は、通常、シリカ前駆体ガス及び酸素元素を含むガスの流量バランスに依存する。
酸素元素を含むガスは、複合体の連通孔内を通って、γ−アルミナ多孔質膜の側に流れることから、シリカ膜部は、通常、γ−アルミナ多孔質膜の連通孔の内壁であって、この多孔質膜の露出面側に形成される。
【0033】
上記シリカ膜部形成工程における複合体の加熱温度は、好ましくは200℃〜700℃、より好ましくは500℃〜600℃である。
【0034】
上記シリカ膜部形成工程を行う場合には、
図3に示すような対向拡散CVD装置を用いることができる。対向拡散CVD装置の詳細な構成は後述する。
【0035】
本発明のヘリウムガス分離材は、後述の実施例にて示されるように、ヘリウムガスと、他のガス(ヘリウムより分子径の大きなガス)との混合ガスから、ヘリウムガスを分離する場合に、0.1MPaを超えて12MPa以下、好ましくは0.9〜12MPaのゲージ圧、及び、150℃〜300℃という高い温度の条件で分離を進めることにより、ヘリウムガスの回収率を向上させることができる。尚、混合ガスの流量は、ヘリウムガス分離材の大きさ等により、適宜、選択されるが、例えば、膜面積4.7×10
−4m
2あたり、40cc/分〜500cc/分等とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下に例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記記載において、「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0037】
Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部の形成に用いるベーマイト系混合液の調製方法を示す。
Arガス雰囲気のグローブボックスの中で、0.05モルのアルミニウムトリセカンダリーブトキシドに、水溶性有機溶媒として、0.1モルのイソプロパノールを加え、十分混合した。その後、この混合液を、90℃に加熱した蒸留水90ml(5モル)の攪拌下に、添加した。次いで、液温を室温まで冷却し、5モル%のNi(NO
3)
2・6H
2O及び1モル−硝酸4.8mlを添加して撹拌し、固形分濃度6.4%のベーマイト系ゾル(Al
2O
3及びNiO換算のモル比95:5)を得た。
その後、このベーマイト系ゾル24mlと、3.5%のポリビニルアルコール水溶液16mlとを混合し、ベーマイト系混合液(ゾル組成物)を調製した。
【0038】
実施例1
α−アルミナからなり、内壁及び外壁の間を網目状に連通する細孔(平均細孔径150nm)を有する多孔質の管状体(内径2.1mm、外径2.9mm及び長さ400mm)を、基部用材料として用いた。尚、
図4に示すように、Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部の形成を、この管状体の中央部分であって、長さ50mmに相当する部分21に対して行うため、それ以外の両端側の部分22においては、予め、その表面を、Si−Ca−Oからなるガラスで完全被覆した。以下、
図4の基材を「第1の複合基材20」という。
上記ベーマイト系混合液(ゾル組成物)を、第1の複合基材20の外表面に塗布し、1時間乾燥させた。尚、ベーマイト系混合液を塗布する際に、液が多孔質管状体の中央部分21の細孔内に入らないようにした。その後、大気雰囲気中、800℃で1時間熱処理し、上記第1の複合基材20の全表面(多孔質管状体の中央部分21及び両端側の部分22の表面)に、γ−アルミナと、Niを含む固溶体酸化物とからなる多孔質膜を形成させた。この操作を再度繰り返し(合計2回成膜)、多孔質管状体の中央部分21の外表面を被覆する多孔質膜(Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部)を備える多孔質複合部を含む第2の複合構造体(図示せず)を得た。尚、中央部分21の外表面に形成された多孔質膜(Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部)の厚さを断面SEM法にて測定したところ、3.0μmであった。
この多孔質複合部における多孔質膜(Ni元素を含むγ−アルミナ多孔質部)の細孔径分布を、西華産業株式会社製細孔径分布測定装置「ナノパームポロメーター」を用いて測定したところ、細孔径は0.3nm〜7.7nmの範囲で分布しており、50%透過流束径は約5.9nmであった(
図5参照)。
【0039】
次に、
図3に示す対向拡散CVD装置を用い、反応器内に上記第2の複合構造体を配置し、シリカ前駆体ガスとしてテトラメトキシシランガス(以下、「TMOSガス」という)を、酸素元素を含むガスとして酸素ガスを導入して、電気炉による加熱条件下、多孔質複合部における多孔質膜の連通孔の内壁に、シリカ膜を形成した。詳細は以下の通りである。
図3の対向拡散CVD装置30は、反応器31、電気炉32、ロータリーポンプ33、TMOS用バブラー34、マスフローコントローラー(MFC)35、コールドトラップ36、窒素ガスボンベ37、酸素ガスボンベ38等を備える。原料ガスが通る配管は、ステンレス製であり、その周囲は、配管内における原料ガスの凝縮を防ぐために、リボンヒーターを巻き付けた。また、装置の稼働前には、第2の複合構造体の両端を、Oリングで固定した。
はじめに、ロータリーポンプ33により、反応器31内を減圧条件とした。その後、電気炉32により、反応器31内の温度を600℃とし、酸素ガス及びTMOSガスを、それぞれ、複合構造体の内側及び外側(反応器31の内部)に供給した。これらのガスの供給量は、いずれも、200cc/分である。尚、バブラー34では、45℃に加温されたTMOSを窒素ガスでバブリングして気化させた。そして、TMOSの配管を70℃に加熱した。この操作を2時間行って、シリカ膜部を形成し、多孔質複合部を、ヘリウムガス分離材とした(
図6参照)。
【0040】
また、トプコン社製透過電子顕微鏡「EM−002B」(型式名)を用いて、ヘリウムガス分離材のガス分離部側表面から、深さ方向の元素分析を行った。Si/Al比は、
図7に示され、シリカ膜部がガス分離部の内壁であって、ガス分離部の表面側に形成されていること、及び、形成されたシリカ膜部の深さ方向の長さが約200nmであることが分かった。
【0041】
ヘリウムガス分離材のガス透過特性を、
図8に示すガス透過率測定装置を用いた定圧容積変化法(加圧法)により評価した。測定ガス43として、ヘリウムガスを0.6体積%含むメタンガス、即ち、メタンガス99.4体積%及びヘリウムガス0.6体積%からなる混合ガスを用いた。
図8のガス透過率測定装置40では、分離用の測定ガス43(混合ガス等)を高圧で供給して、ガス分離室41においてヘリウムガス分離材10による分離を行った後、分離したガスを大気圧で排気するようにしている。ヘリウムガス分離材10を電気炉42により所定の温度とした後、圧力調整弁46を制御し、圧力差を0.1MPa、0.5MPa又は0.9MPaに設定して、測定ガス43をガス分離室41に導入し、ヘリウムガス分離材10により混合ガス(測定ガス43)を分離させ、分離ガス(透過ガス及び非透過ガス)の組成をガスクロマトグラフ装置48により分析した。尚、ガス分離室41に導入する測定ガス43の流量は、石鹸膜流量計47でモニターしながら、405cc/分、81cc/分又は40.5cc/分(メタン換算)とした。
ガスクロマトグラフ装置48の検出器へ導入する分離ガスの流量を20cc/分とした。ヘリウムガス分離材10に処理されない非透過ガスは、ガスクロマトグラフ装置48の検出器に対して、十分な流量を得ることができたが、透過ガスの流量は20cc/分未満であったので、ガス分離に際して、スイープガス44として、アルゴンガスを100cc/分の流量で供給することにより、透過ガスのガスクロマトグラフ装置48の検出器へ導入量を確保した。
図中、符号45はマスフローコントローラーを示す。符号49は、非透過ガスを示す。符号50は、透過ガスを示す。
【0042】
(1)温度を50℃、100℃、150℃又は200℃に、圧力差を0.1MPa、0.5MPa又は0.9MPaに設定して、測定ガスを、流量405cc/分で用いたときの非透過側のヘリウムガス濃度を分析した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から、非透過側のヘリウムガス濃度は、ヘリウムガス分離材の温度の上昇及び圧力差の増大とともに減少することが分かる。
【0045】
(2)温度を50℃、100℃又は200℃に、圧力差を0.9MPaに設定して、測定ガスを、流量405cc/分、81cc/分又は40.5cc/分で用いたときの非透過側のヘリウムガス濃度及び透過側のヘリウムガス濃度を分析した。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から、非透過側のヘリウムガス濃度は、ヘリウムガス分離材の温度の上昇及び測定ガスの流量の減少とともに減少することが分かる。一方、透過側のヘリウムガス濃度は、ヘリウムガス分離材の温度の上昇とともに増加するが、同じ温度で見た場合、測定ガスの流量による差はほとんどないことが分かる。
【0048】
(3)温度を200℃に、圧力差を0.1MPa、0.5MPa又は0.9MPaに設定して、測定ガスを、流量405cc/分、81cc/分又は40.5cc/分で用いたときの非透過側のヘリウムガス濃度及び透過側のヘリウムガス濃度を分析した。その結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3から、透過側のヘリウムガス濃度は、圧力差の増大とともに、増加することが分かる。また、同じ流量で見た場合、圧力差が大きいほど、非透過側のヘリウムガス濃度が減少することが分かる。
【0051】
(4)温度を200℃に、圧力差を0.1MPa、0.5MPa又は0.9MPaに設定して、測定ガスを、流量40.5cc/分で用いたときの透過側のヘリウムガス濃度及びメタンガス濃度を分析した。ガスクロマトグラフにおける各ピーク面積と、圧力差との関係を
図9に示す。
図9中、白抜きの丸は、ヘリウムガスのピーク面積を示す。黒丸は、メタンガスのピーク面積を示す。
【0052】
図9から、圧力差が増大すると、メタンガスの透過量が減少する一方、ヘリウムガスの透過量が増加する傾向にあることが分かる。これにより、0.9MPaよりも高い圧力条件では、測定ガスに含まれているヘリウムガスの回収率が更に向上すると推察される。
【0053】
上記評価(1)〜(4)を終えた後、200℃で150時間試験評価したヘリウムガス分離材を観察したところ、評価前と同じ膜構造が保持されていた。