特許第6118831号(P6118831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6118831表面処理剤およびフィルター用濾材ならびに血液処理フィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118831
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】表面処理剤およびフィルター用濾材ならびに血液処理フィルター
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20170410BHJP
   A61L 33/00 20060101ALI20170410BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20170410BHJP
【FI】
   A61M1/02 100
   A61L33/00
   A61K35/14
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-29086(P2015-29086)
(22)【出願日】2015年2月17日
(62)【分割の表示】特願2011-507082(P2011-507082)の分割
【原出願日】2010年3月16日
(65)【公開番号】特開2015-128620(P2015-128620A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2009-83034(P2009-83034)
(32)【優先日】2009年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(72)【発明者】
【氏名】落合 庄司
(72)【発明者】
【氏名】徳永 則文
(72)【発明者】
【氏名】田口 昇
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/016163(WO,A1)
【文献】 特開2003−070905(JP,A)
【文献】 特開2002−105136(JP,A)
【文献】 特開平07−124255(JP,A)
【文献】 特開2003−190276(JP,A)
【文献】 特開2009−018177(JP,A)
【文献】 特開平05−194243(JP,A)
【文献】 特開2004−339165(JP,A)
【文献】 特開2003−164522(JP,A)
【文献】 国際公開第03/047655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/02
A61K 35/14
A61L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆される表面処理剤であって、
下記式(1)または(2)で表される親水性官能基を有するモノマー(A)と、塩基性官能基を有するモノマー(B)と、反応性官能基を有するモノマー(C)とをモノマー成分として有する共重合体からなり、
前記共重合体は、前記モノマー(A)、モノマー(B)およびモノマー(C)のモル比が、モノマー(A):モノマー(B):モノマー(C)で87〜98/1〜10/1〜5であり、
【化1】

(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
前記塩基性官能基を有するモノマー(B)は、下記式(3)、(4)、(5)および(6)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであり、
【化2】

(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数であることを表し、Xはハロゲン、スルホン酸、硫酸などから導かれる陰イオンを表す。)
前記反応性官能基を有するモノマー(C)は、下記式(7)および(8)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであることを特徴とする表面処理剤。
【化3】

(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、nは1〜3の整数であることを表し、Yは水酸基、エポキシ基、第一級アミンまたは第二級アミンを表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表されるモノマー(A)は、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−エトキシエチル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記式(2)で表されるモノマー(A)は、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記式(3)で表されるモノマー(B)は、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記式(5)で表されるモノマー(B)は、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする請求項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記式(7)で表されるモノマー(C)は、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項に記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記式(8)で表されるモノマー(C)は、2−アミノエチル(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする請求項に記載の表面処理剤。
【請求項8】
請求項1に記載の表面処理剤が基材の少なくとも一部に被覆されていることを特徴とするフィルター用濾材。
【請求項9】
前記表面処理剤は、前記反応性官能基を有するポリマー(C)と前記基材の反応性官能基とが化学結合することによって固定されていることを特徴とする請求項に記載のフィルター用濾材。
【請求項10】
血液流入ポートおよび血液流出ポートを有するハウジングと、ハウジング内を血液流入室および血液流出室に区分するフィルター部とを備える血液処理フィルターであって、
前記フィルター部の少なくとも一部は、請求項に記載のフィルター用濾材で構成されていることを特徴とする血液処理フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具、特に血液処理フィルターを構成する基材の血液接触面に被覆される表面処理剤、および、その表面処理剤で被覆された基材を有するフィルター用濾材ならびに血液処理フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療器具を構成する基材には、各種の高分子材料が使用されている。この場合、生体にとって異物である高分子材料を血液と接触させて使用することとなるため、基材には、血小板の粘着、活性化を抑制する特性(抗血栓性)が要求される。そして、このような要求に応えるため、基材は、通常、その表面に所定の表面処理剤を被覆したものが使用されている。また、医療器具の1つとしての血液処理フィルターに使用した際には、優れた血液ろ過性能(具体的には、白血球除去率および血小板回収率など)を有していることも要求される。
【0003】
そして、特許文献1には、血液処理フィルターの表面処理剤として、非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基とを有するポリマー、具体的には、ヒドロキシエチルメタアクリレートとジエチルアミノエチルメタアクリレートとのコポリマーが記載され、このコポリマーをフィルター材料(基材)に被覆することによって、白血球除去率および血小板通過率(回収率)が向上することが記載さている。
【0004】
また、特許文献2には、血液処理フィルターの表面処理剤として、アルコキシアルキルメタアクリレートと塩基性官能基を有するモノマー(アミノアルキルメタアクリレート、アミノアルキルメタアクリルアミド、または、それらの誘導体)からなる共重合体が記載され、この共重合体を医療用具(基材)の表面に被覆することによって、白血球除去率、血小板回収率が向上することが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、表面処理剤として、第4級窒素を主鎖もしくは側鎖に有するカチオン性物質が記載され、このカチオン性物質を基材の表面に結合させることによって、白血球除去率が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06−51060号公報(米国特許第4936998号明細書)
【特許文献2】特開2002−105136号公報(米国特許第6590054号明細書)
【特許文献3】特許第3379972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載された表面処理剤では、基材との結合力が低い(基材への固定化が十分でない)ため、医療器具の滅菌処理や洗浄処理、または、医療器具が繰り返し血液と接触することにより、表面処理剤が基材から容易に脱離(溶出)し易く、抗血栓性が維持できないという問題がある。また、特許文献3に記載された表面処理剤では、白血球を吸着するため白血球除去率は向上するものの、白血球と同時に血小板も吸着(粘着)するため血小板回収率が低下すると共に、粘着した血小板が活性化するため抗血栓性においても十分なレベルとは言えないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆された際に、基材に効率よく固定化され、優れた抗血栓性を維持できると共に、血液処理フィルターの基材に被覆された際に、優れた白血球除去性能および血小板回収効率を示す表面処理剤、および、その表面処理剤で被覆されたフィルター用濾材ならびに血液処理フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係る表面処理剤は、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆される表面処理剤であって、下記式(1)または(2)で表される親水性官能基を有するモノマー(A)と、塩基性官能基を有するモノマー(B)と、反応性官能基を有するモノマー(C)とをモノマー成分として有する共重合体からなり、前記共重合体は、前記モノマー(A)、モノマー(B)およびモノマー(C)のモル比が、モノマー(A):モノマー(B):モノマー(C)が87〜98:1〜10:1〜5であることを特徴とする。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0012】
そして、前記式(1)で表されるモノマー(A)は、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−エトキシエチル(メタ)アクリレートであること、または/および、前記式(2)で表されるモノマー(A)は、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0013】
前記構成によれば、所定の構造を有するモノマー(A)と、モノマー(B)と、モノマー(C)とをモノマー成分として有し、所定のモル比で構成される共重合体からなることによって、モノマー(A)が血小板の粘着・活性化を抑制する。そして、モノマー(C)が表面処理剤の基材への固定化を持続させるため、製造および使用の際に表面処理剤が基材から脱離(溶出)することがない。その結果、血小板の粘着・活性化を抑制する作用が長期にわたって維持される。また、血液処理フィルターに使用した際には、表面処理剤のモノマー(A)および(B)によって、血小板の粘着・活性化が抑制されると共に、白血球が選択的に吸着される。
【0014】
本発明に係る表面処理剤は、前記共重合体において、前記塩基性官能基を有するモノマー(B)は、下記式(3)、(4)、(5)および(6)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであることを特徴とする。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数であることを表し、Xはハロゲン、スルホン酸、硫酸などから導かれる陰イオンを表す。)
【0017】
そして、前記式(3)で表されるモノマー(B)は、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレートであること、または/および、前記式(5)で表されるモノマー(B)は、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0018】
前記構成によれば、モノマー(B)が、所定の構造を有することによって、血小板の粘着・活性化がさらに抑制されると共に、白血球が選択的にさらに吸着される。
【0019】
本発明に係る表面処理剤は、前記共重合体において、前記反応性官能基を有するモノマー(C)は、式(7)および(8)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであることを特徴とする。
【0020】
【化3】
【0021】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、nは〜3の整数であることを表し、Yは水酸基、エポキシ基、第一級アミンまたは第二級アミンを表す。)
【0022】
そして、前記式(7)で表されるモノマー(C)は、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートであること、または/および、前記式(8)で表されるモノマー(C)は、2−アミノエチル(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0023】
前記構成によれば、モノマー(C)が、所定の構造を有することによって、表面処理剤の基材への固定化がさらに向上する。
【0024】
本発明に係るフィルター用濾材は、前記表面処理剤で基材の少なくとも一部が被覆されたことを特徴とする。そして、前記表面処理剤が、前記反応性官能基を有するモノマー(C)と前記基材の反応性官能基とが化学結合することによって、固定されていることが好ましい。
【0025】
前記構成によれば、基材の少なくとも一部が前記表面処理剤で被覆されることによって、血小板の粘着・活性化を抑制する作用、および、白血球を選択的に吸着する作用が濾材に付与される。そして、表面処理剤の濾材(基材)への固定化が、好ましくは化学結合によって、持続するため、濾材の製造または使用の際に表面処理剤が脱離(溶出)することがない。その結果、前記作用が維持される。
【0026】
本発明に係る血液処理フィルターは、血液流入ポートおよび血液流出ポートを有するハウジングと、ハウジング内を血液流入室および血液流出室に区分するフィルター部とを備え、前記フィルター部の少なくとも一部が、前記フィルター用濾材で構成されていることを特徴とする。
【0027】
前記構成によれば、フィルター部の少なくとも一部が前記フィルター用濾材で構成されていることによって、血小板の粘着・活性化を抑制する作用、および、白血球を選択的に吸着する作用が血液処理フィルターに付与される。そして、表面処理剤の血液処理フィルター(フィルター部)への固定化が持続するため、血液処理フィルターの製造または使用の際に表面処理剤が脱離(溶出)することがない。その結果、前記作用が維持される。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る表面処理剤によれば、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆された際に、基材に効率よく固定化され、優れた抗血栓性を維持できると共に、血液処理フィルターの基材に被覆された際に、優れた白血球除去性能および血小板回収効率を示す。
また、本発明に係るフィルター用濾材および血液処理フィルターによれば、優れた抗血栓性を維持できると共に、優れた白血球除去率および血小板回収率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る血液処理フィルターの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る表面処理剤の実施の形態について説明する。
表面処理剤は、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆されるもので、下記式(1)または(2)で表される親水性官能基を有するモノマー(A)と、塩基性官能基を有するモノマー(B)と、反応性官能基を有するモノマー(C)とをモノマー成分として有する共重合体からなり、共重合体は、モノマー(A)、モノマー(B)およびモノマー(C)のモル比が70/15/15〜98/1/1であることを特徴とする。
【0031】
共重合体は、そのモル比(モノマー(A)/モノマー(B)/モノマー(C))が70/15/15〜98/1/1であることによって、医療器具を構成する基材の血液接触面に被覆された際に、基材に効率よく固定化され、優れた抗血栓性を維持できると共に、血液処理フィルターの基材に被覆された際に、優れた白血球除去性能および血小板回収効率を示す。そして、モノマー(A)のモル比が70未満であると、モノマー(A)の量が少なく、血小板の粘着・活性化を抑制できず、抗血栓性が低下する。また、モノマー(A)のモル比が98を超えると、モノマー(C)の量が少なく、基材に共重合体を効率よく固定化することができなくなる。
【0032】
【化4】
【0033】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0034】
共重合体(表面処理剤)のモノマー成分であるモノマー(A)において、親水性官能基は、アルコキシ基またはアミド基(無置換アミド、N−1置換アミド、N−2置換アミド)である。そして、前記式(1)または(2)で表される。モノマー(A)は、血小板の粘着・活性化を抑制する作用を有する。
【0035】
前記式(1)で表されるモノマー(A)は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートであり、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、メトキシエチル(メタ)アクリレートまたはエトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートまたは2−エトキシエチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0036】
前記式(2)で表されるモノマー(A)は、(メタ)アクリルアミドであり、例えば、(メタ)アクリルアミド以外には、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0037】
共重合体のモノマー成分であるモノマー(B)は、塩基性官能基を有するモノマーであって、モノマー(A)と所定のモル比で共重合しうるものであれば特に限定されない。塩基性官能基としては、例えば、アミノ基(第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アミン(アンモニウム塩))、ピリジル基、アジリジン基、イミダゾイル基が挙げられる。モノマー(B)は、白血球を選択的に吸着する作用を有する。
【0038】
モノマー(B)は、下記式(3)、(4)、(5)および(6)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであることが好ましい。
【0039】
【化5】
【0040】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは2〜4の整数であることを表し、Xはハロゲン、スルホン酸、硫酸などから導かれる陰イオンを表す。)
【0041】
前記式(3)で表されるモノマー(B)は、アミノアルキル(メタ)アクリレートであり、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノイソプロピル(メタ)アクリレート、アミノノルマルブチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−エチルアミノイソブチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ノルマルブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ターシャルブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジアミノブチルプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0042】
前記式(5)で表されるモノマーは、アミノアルキル(メタ)アクリルアミドであり、例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、アミノイソプロピル(メタ)アクリルアミド、アミノノルマルブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアミノイソブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ノルマルブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャルブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−ブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアミノブチルプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0043】
前記式(4)および(6)で表されるモノマー(B)は、それぞれ前記式(3)および(5)に示すモノマーをハロゲン化アルキル、硫酸化アルキル等によって第四級アンモニウム塩とした誘導体である。
【0044】
また、本発明において、モノマー(B)は、前記式(3)〜(6)で表されるモノマー以外に、少なくとも、アミノスチレン、N,N−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジエチルアミノスチレン、ビニルピリジン、N−メチルビニルピリジン、N−エチルビニルピリジン、ビニルキノリン、エチレンイミン、プロピレンイミン、N−アミノエチルエチレンイミン、ビニルイミダゾール、ビニルピラゾリンおよびビニルピラジンからなる群から選ばれる1種以上のモノマーを含んでもよい。さらに、これらのモノマーは、前記したモノマーをハロゲン化アルキル、硫酸化アルキル等によって第四級アンモニウム塩とした誘導体であってもよい。
【0045】
共重合体のモノマー成分であるモノマー(C)は、反応性官能基を有するモノマーであって、モノマー(A)、(B)と所定のモル比で共重合しうるものであれば特に限定されない。反応性官能基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、第一級アミン、第二級アミンまたは水素原子が挙げられる。モノマー(C)は、共重合体(表面処理剤)を基材に効率よく固定化させる作用を有する。
【0046】
モノマー(C)は、下記式(7)および(8)で表されるモノマーの中から選択される1つ以上のモノマーであることが好ましい。
【0047】
【化6】
【0048】
(式中Rは水素原子またはメチル基を表し、nは0〜3の整数であることを表し、Yは水酸基、エポキシ基、第一級アミン、第二級アミンまたは水素原子を表す。)
【0049】
前記式(7)で表されるモノマー(C)は、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、エポキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはエポキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)またはグリシジル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0050】
前記式(8)で表されるモノマー(C)は、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、エポキシアルキル(メタ)アクリルアミド、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、経済性および操作性の点から、アミノアルキル(メタ)アクリルアミドが好ましく、アミノエチル(メタ)アクリルアミド(2−アミノエチル(メタ)アクリルアミド)がさらに好ましい。
【0051】
また、共重合体は、その質量平均分子量が3,000〜300,000が好ましく、7,000〜50,000がさらに好ましい。質量平均分子量が3,000未満であると、共重合体の合成が困難になり易い。また、質量平均分子量が300,000を超えると、基材への被覆(コーティング)において共重合体が有機溶媒に溶解し難くなるため、基材に共重合体が固定化し難くなる。
【0052】
本発明において、医療器具とは、血液接触面を有するもので、例えば、血液処理フィルター、血漿分離器、血液バッグ、血液回路、留置針、人工肺、血液リザーバー、人工腎臓、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工血管、癒着防止材、創傷被覆材等である。そして、本発明に係る表面処理剤(前記共重合体)は、血液処理フィルター、具体的には血液処理フィルター(血小板通過タイプの白血球除去フィルター)を構成するフィルター用濾材に好適に使用される。
【0053】
次に、本発明に係るフィルター用濾材について説明する。
フィルター用濾材は、基材の少なくとも一部、すなわち、血液と接触する部分が、前記した表面処理剤で被覆されたことを特徴とする。
【0054】
基材は、スポンジ状多孔質体(三次元網目状連続多孔質体)、不織布、織布、編布等からなり、スポンジ状多孔質体または不織布が好ましい。スポンジ状多孔質体の場合、パームポロシメーターで測定した平均孔径が1μm〜20μmであるのが好ましい。平均孔径が1μm未満であると、濾材の目詰まりが起こりやすく、20μmを超えると、フィルター用濾材(血液処理フィルター)としての性能(白血球除去率)が低下する場合がある。
【0055】
基材の材質は、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンの合成高分子;これらの混合物が挙げられる。
【0056】
基材への表面処理剤の被覆方法は、コーティング法;放射線、電子線、紫外線によるグラフト重合を利用する方法;基材の官能基との化学反応を利用する方法等の公知の方法が挙げられる。
【0057】
フィルター用濾材においては、基材へ表面処理剤を被覆した結果、被覆された表面処理剤が、表面処理剤のモノマー(C)と基材の反応性官能基とが化学結合することによって固定されていることが好ましい。ここで、基材の反応性官能基としては、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基等である。そして、基材自身が反応性官能基を有するものを選択してもよいし、基材へグラフト重合等によって反応性官能基を導入してもよい。
【0058】
次に、本発明に係る血液処理フィルターについて説明する。
図1に示すように、血液処理フィルター1は、血液流入ポート4および血液流出ポート6を有するハウジング2と、ハウジング2内を血液流入室8および血液流出室9に区分するフィルター部7とを備え、フィルター部7の少なくとも一部は前記フィルター用濾材で構成されていることを特徴とする。
【0059】
ハウジング2は、一端に血液を流入する血液流入ポート4を有する蓋部3と、一端にフィルター部7で処理された血液を流出する血液流出ポート6を有する底部5とから構成される。そして、フィルター部7の周縁部を蓋部3および底部5で挟持した状態で、高周波融着または超音波融着等で融着することによって、フィルター部7が、ハウジング2の内部空間を血液流入ポート4と連通する血液流入室8と、血液流出ポート6と連通する血液流出室9とに区分する。なお、ハウジング2の材質としては、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ABS樹脂、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0060】
そして、血液処理フィルター1は、血液流入ポート4からハウジング2内に流入した血液は、血液流入室8を経由してフィルター部7を通過して、血液流出室9に流入し、血液流出ポート6からハウジング2より流出するように構成されている。
【0061】
フィルター部7は、メインフィルター部7bと、メインフィルター部7bの上流側に配置されたプレフィルター部7aとを備える。なお、メインフィルター部7bは、流入血液から白血球を除去する部分である。また、プレフィルター部7aは、メインフィルター部7bよりも平均孔径が大きく、メインフィルター部7bへの血液流入を促進させる部分で、白血球の除去が少ない部分である。また、血液中にタンパク質や血液成分が凝集した凝集塊が形成されることがあるため、プレフィルター部7aには、凝集塊を除去し、メインフィルター部7bで目詰まりを起して血液が流れ難くなることを抑制または防止する役割もある。
【0062】
そして、フィルター部7の少なくとも一部が前記フィルター用濾材で構成されているとは、具体的には、前記共重合体(表面処理材)の被覆(固定化)をメインフイルター部7bのみで行うことを意味する。また、メインフィルター部7bは、白血球除去能を高めるために多層構造になっていることが好ましい。
【0063】
メインフィルター部7bは、例えば、ポリウレタン製スポンジ状多孔質膜のような基材自身が、白血球を選択的に捕捉する性能(白血球除去性能)ならびに血小板および赤血球を通過させる性能(血小板回収性能、赤血球回収性能)を有する濾材である場合には、下流側層のみに、前記共重合体(表面処理剤)を被覆(固定化)して、白血球を選択的に吸着する性能を付加して、上流側層よりも、白血球除去性能を高め、かつ、血小板および赤血球を通過させる性能を維持させることが好ましい。この場合には、未処理の基材を複数積層する場合に比べて、少ない積層数で同等の効果を得ることが可能となるので、基材に残留する血小板および赤血球を減少させ、血小板回収率および赤血球回収率を向上させることができる。
【0064】
メインフィルター部7bは、例えば、ポリエステル製不織布のような基材自身が、白血球および血小板を吸着する性能(白血球除去性能)、および、赤血球を通過させる性能(赤血球回収性能)を有する場合には、全ての層に、前記共重合体(表面処理剤)を被覆(固定化)して、血小板を通過させる性能を付加して、かつ、白血球を吸着する性能を維持または向上させることが好ましい。
【0065】
また、メインフィルター部7bにおいて、前記共重合体(表面処理剤)の固定量は、メインフィルター部7bの下流側に向かって(血液の流れに沿って)増大させてもよい。
【0066】
なお、本発明において、フィルター部7は、メインフィルター部7bとプレフィルター部7aとで構成されたものに限定されず、メインフィルター部7bのみで構成されたものであってもよい。
【0067】
このような血液処理フィルター1(フィルター部7)は、血液(例えば、全血)を流したときに、白血球が選択的に除去され、血小板、赤血球および血漿が通過するので、血液処理フィルター1を血液バッグシステムに組み込むことにより、白血球を除去した血液を回収し、そして、各々の血液成分に分離することによって、白血球に起因する副作用を抑制または防止した血液製剤を得ることができる。
【実施例】
【0068】
次に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8および比較例1〜5は表面処理剤の調製に関するものであり、実験例1〜7は表面処理剤の性能評価(固定化量、血液濾過性能および抗血栓性)に関するものである。
【0069】
(1)表面処理剤の調製
<実施例1>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)32.7g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.2gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.8gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)145.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)37mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加し、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAEMA/HEMA=90/5/5であった。質量平均分子量は32,000であった。
【0070】
<実施例2>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)28.7g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)140.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)34mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/HEMA=92/3/5であった。質量平均分子量は44,000であった。
【0071】
<実施例3>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)39.0g,N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA:和光純薬工業(株)製)0.6gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)0.4gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)160.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)40mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DEAEMA/HEMA=98/1/1であった。質量平均分子量は38,000であった。
【0072】
<参考例4>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)15.0g、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMAm:和光純薬工業(株)製)5.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)4.2gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)100.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)25mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製80mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAPMAm/HEMA=70/15/15であった質量平均分子量は28,000であった。
【0073】
<参考例5>
2−エトキシエチルメタクリレート(EEMA:和光純薬工業(株)製)23.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)3.6gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)3.3gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)120.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)30mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、EEMA/DMAEMA/HEMA=76/12/12であった。質量平均分子量は18,000であった。
【0074】
<実施例6>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)27.0g、N,N−ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート(DiPAEMA:和光純薬工業(株)製)5.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)33mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DiPAEMA/HEMA=87/10/3であった。質量平均分子量は27,000であった。
【0075】
<実施例7>
(2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)塩酸塩の合成)
N−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−アミノエタン(東京化成工業(株)製)5.0gを脱水クロロホルム(和光純薬工業(株)製)100mLに溶かし、トリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)5.0gを添加した。氷浴下、この溶液を攪拌しながらアクリロイルクロライド(和光純薬工業(株)製)2.5gを滴下した。滴下後30分間攪拌を継続した後1N塩酸20mL×3回、さらに飽和重曹水20mL×3回でクロロホルム相を洗浄した。その後無水硫酸ナトリウムでクロロホルム相を脱水し蒸発乾固させた。続いて蒸発乾固物に37質量%塩酸2.5mL用いてN−(t−ブトキシカルボニル)保護基を外した後凍結乾燥した。得られた生成物はH−NMRの結果、2−アミノエチルアクリルアミド塩酸塩であり、その収量は3.2g(収率77%)であった。
【0076】
(2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)を反応活性基としたポリマー合成)
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)25.0g、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび前記で合成した2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)塩酸塩1.6gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)110.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)28mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)80mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAEA/AEAAm=90/5/5であった。質量平均分子量は26,000であった。
【0077】
<実施例8>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)22.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gおよびグリシジルメタクリレート(GMA:和光純薬工業(株)製)1.8gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)100.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)26mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/GMA=90/5/5であった。質量平均分子量は41,000であった。
【0078】
<比較例1>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)31.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)34mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMR解析の結果、得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)は、MEA/DMAEMA=95/5であった。質量平均分子量は52,000であった。
【0079】
<比較例2>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)30.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.5gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)33mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA=95/5であった。質量平均分子量は49,000であった。
【0080】
<比較例3>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)30.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)125.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)32mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/HEMA=90/5であった。質量平均分子量は77,000であった。
【0081】
<比較例4>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)20.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)13.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)125.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)36mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/HEMA=67/28/5であった。質量平均分子量は43,000であった。
【0082】
<比較例5>
N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)20.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)80.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)22mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)60mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DEAEMA/HEMA=5/95であった。質量平均分子量は66,000であった。
【0083】
(2)表面処理剤の性能評価
<実験例1>各種表面処理剤(実施例8以外)の表面処理剤の固定化量
(GMAグラフトPU膜の作製)
厚さ1.2mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)製スポンジ状多孔質膜(平均孔径5.0μm,空孔率85%)21cm×25cmを、圧力25Paのアルゴンガス流気中、出力200Wで30秒間プラズマ照射した。その後0.5Paまで脱アルゴン操作をした後、予め脱気したグリシジルメタクリレート(GMA:和光純薬工業(株)製)を陰圧下導入し、圧力56Paで3分間グラフト重合した。反応系内に残ったGMAモノマーを3分間真空ポンプで脱気除去した後、大気圧に戻しGMAグラフト処理PU膜を得た。
【0084】
(表面処理剤の固定化)
表1に示す溶媒に、実施例1〜3、参考例4、5、実施例6および比較例1〜5で合成した表面処理剤が最終濃度として0.5質量%、ピリジン(和光純薬工業(株)製)が最終濃度として0.25質量%となるよう溶液を500mLビーカーにそれぞれ450g調製した。実施例7の表面処理剤の溶液ではピリジンを入れずに表面処理剤最終濃度として0.5質量%となるメタノール/水=1/1(質量比)溶液を500mLビーカーに450g調製した
【0085】
それぞれの表面処理剤溶液にGMAグラフト処理した膜が500mLビーカー内の溶液に完全に浸かるよう、7cm×25cmの短冊3枚に切り、3枚ともビーカーに入れ、恒温水槽下攪拌しながら65℃で8時間の条件で合成した実施例8以外の各種表面処理剤を固定化した。
【0086】
(表面処理剤固定化膜の洗浄)
各種表面処理剤を固定化した3枚のうち1枚は固定化終了後そのままドラフト内で自然乾燥させ、さらに80℃オーブンで8時間熱処理した。残り2枚はそれぞれ60℃のRO水で8時間シャワー洗浄、メタノールを洗浄溶媒とした8時間ソックスレー洗浄し、ドラフト中で一晩自然乾燥させた後80℃オーブンで4時間乾燥した。
【0087】
(未洗浄・洗浄後固定化量)
乾燥させた各種表面処理剤固定化膜をトリパンブルー染色法で確認した。すなわち膜をφ26mmに打抜き、PP製ホルダ(アドバンテック製)に装着した。ホルダ内部をRO水で満たし、最大吸収波長における吸光度が1.15±0.05となるよう濃度調整したトリパンブルー(MERCK製)水溶液を流速15mL/minで90秒通液した後、50mLのRO水を通液し過剰のトリパンブルーを洗浄した。膜を取り出し80℃オーブンで乾燥後クロマトスキャナーCS−930(島津製作所製)で599nmの反射吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<実験例2>実施例8の表面処理剤の固定化量
(AAグラフトPU膜の作製)
厚さ1.2mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)製スポンジ状多孔質膜(平均孔径5.0μm,空孔率85%)21cm×25cmを、圧力25Paのアルゴンガス流気中、出力200Wで30秒間プラズマ照射した。その後0.5Paまで脱アルゴン操作をした後、予め脱気したアクリル酸(AA:和光純薬工業(株)製)を陰圧下導入し、圧力37Paで5分間グラフト重合した。反応系内に残ったAAモノマーを3分間真空ポンプで脱気除去した後、大気圧に戻しAAグラフト処理PU膜を得た。
【0089】
(表面処理剤の固定化)
最終濃度として、エチレンジアミン(EDA:和光純薬工業(株))および脱水縮合剤DMAT−MM(国産化学(株))をそれぞれ10mM含む水溶液を450mL調製し、この溶液を7cm×25cmの短冊3枚に切り取ったAAグラフト処理膜を入れた500mLビーカーに静かに注ぎ入れ、このまま室温で6時間反応させた。反応終了後膜をRO流水で3時間洗浄し、80℃オーブンで4時間乾燥させた。実施例8の表面処理剤が最終濃度として0.5質量%となるメタノール/水=1/1(質量比)溶液を500mLビーカーに450g調製した。表面アミノ化したAAグラフト膜3枚をビーカーに入れ、恒温水槽下攪拌しながら65℃で8時間の条件で実施例8の表面処理剤を固定化した。
【0090】
(表面処理剤固定化膜の洗浄)
実験例1と同様とした。
(未洗浄・洗浄後固定化量)
実験例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1から明らかなように、実施例の1〜3、参考例4、5、実施例6〜8および比較例4,5のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)と反応性官能基を有するモノマー(C)とを同時に含む表面処理剤で処理したポリウレタン製スポンジ状多孔質膜(PU多孔質膜)はRO水シャワー洗浄、またはメタノールを溶媒としたソックスレー洗浄後においてもトリパンブルーにより強く染色されていることから、PU多孔質膜上に塩基性官能基を有する表面処理剤が固定化されている。一方、比較例1、2のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)は含むが反応性官能基を有するモノマー(C)を含まない表面処理剤で処理したPU多孔質膜、および、比較例3のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)を含まない表面処理剤で処理したPU多孔質膜においては、その表面処理剤が溶解可能な溶媒で洗浄すると洗い流されてしまい、ほとんど若しくは全くトリパンブルー染色されない。
【0093】
<実験例3>ポリウレタン製スポンジ状多孔質膜へ固定化した表面処理剤の血液濾過性能
実験例1でメタノールによるソックスレー洗浄した実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8、比較例3〜5および未洗浄の比較例1,2のPU多孔質膜をφ26mmの大きさに打抜き、血液回路にこれを1枚組み込み血液濾過性能サンプルとした。血液は健常なボランティアより採血したCPD加全血を22℃で24時間保存したものを用い、各サンプルにそれぞれ45mL濾過した。なお、比較例6として表面処理剤を固定化処理しなかった未処理PU多孔質膜も同様に濾過評価した。濾過前および濾過後の白血球濃度、血小板濃度を自動血球計測装置(Sysmex XE2100東亞医用電子(株)製)でそれぞれ計測し、以下の式に従い白血球除去率および血小板回収率を求めた。結果を表2に示す。
【0094】
白血球除去率(%)=100×(1−濾過後白血球数/濾過前白血球数)
血小板回収率(%) =100× 濾過後血小板数/濾過前血小板数
【0095】
【表2】
【0096】
表2から明らかなように、実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8の表面処理剤を固定化したPU多孔質膜は、比較例1〜5の表面処理剤を固定化したPU多孔質膜および比較例6の未処理PU多孔質膜に比べて血小板回収能を維持したまま白血球除去能が飛躍的に向上した。一方、比較例1,2のごとき表面処理剤が固定化できていないPU多孔質膜は、血中に表面処理剤が溶出したためか実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8のいずれと比較しても白血球除去能が劣っていた。また、比較例3のごとき塩基性官能基を含まない表面処理剤では、未処理膜(比較例6)に比べ白血球除去能が低下し、比較例4のごとき塩基性官能基を多く含む表面処理剤では血小板回収率が大幅に低下した。比較例5においては未処理PU多孔質膜に比べて白血球除去能は向上したが実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8のいずれのそれにも及ばず、血小板回収率は明らかに低下した。
【0097】
<実験例4>ポリプロピレン製不織布へ固定化した表面処理剤の血液濾過性能
繊維径2.1μm、目付け31g/m、厚さ0.20mmのポリプロピレン製不織布(PP不織布)を使った以外は、実験例1と同様の操作で実施例1および実施例2の表面処理剤を固定化およびメタノールによるソックスレー洗浄をし、2種類の表面処理剤固定化PP不織布を得た。表面処理剤を固定化したPP不織布をそれぞれφ26mmの大きさに打ち抜き、これを血液回路に6枚組込んで血液濾過性能サンプルとした。なお、比較例7として表面処理剤を全く固定化していない未処理PP不織布、および、比較例8として0.2%デカグリン(界面活性剤:日光ケミカルズ製)を単純コート処理したPP不織布についてもそれぞれ同様に血液濾過回路に組込み血液濾過性能サンプルとした。実験例3と同様に血液は健常なボランティアより採血したCPD加全血を22℃で24時間保存したものを用い、各サンプルにそれぞれ45mL濾過し、白血球除去率および血小板回収率を求めた。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3から明らかなように比較例7の未処理PP不織布においては、血液が染込まず濾過できなかったのに対し、実施例1,2の表面処理剤を固定化したPP不織布は親水性が向上し濾過可能となったばかりか、比較例8の界面活性剤コートPP不織布に比べて白血球除去能および血小板回収能が大幅に向上した。
【0100】
<実験例5>模擬製品形態での血液濾過性能
φ30mmに打抜いた、未処理のPU多孔質膜の、プレフィルター部として平均孔径6.0μmの膜を1枚、メインフィルター部として平均孔径4.0μmの膜を2枚、および実験例1で固定化・メタノールによるソックスレー洗浄した、実施例1の表面処理剤を固定化した膜(平均孔径5.0μm)1枚の合計4枚をこの順番に濾過モジュールに組込み、模擬製品形態サンプルとした。
【0101】
血液濾過評価においては未処理膜側から、健常なボランティアから採血したCPD加全血を22℃で1時間保存したものを60mL濾過した。濾過前および濾過後の血小板濃度および赤血球濃度は自動血球計測装置(Sysmex XE2100東亞医用電子(株)製)でそれぞれ計測し、漏出白血球数はフローサイトメーター(EPICS XL ベックマンコールター製)で計測した。結果を表4に示す。
【0102】
また、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに、実施例2の表面処理剤を固定化した膜1枚を組み込んだ合計4枚からなる濾過モジュールを作製して上記と同様の評価をした。結果を表4に示す。
【0103】
さらに比較例9として、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに、表面処理剤を固定化していない平均孔径5.0μmの膜を1枚組み込んだ合計4枚からなる濾過モジュール、比較例10として、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに平均孔径4.0μmの膜を4枚組み込んだ合計6枚からなる濾過モジュールについて同様の評価をした。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4から明らかなように、白血球除去能を向上させるために濾材枚数を増やすと(比較例10)、濾材に残留する血小板および赤血球が増えるため血小板回収率および赤血球回収率が低下するが、本発明の白血球吸着性に優れた表面処理剤(実施例1、2)を固定化した膜を組み込むことにより、少ない枚数で白血球除去能を飛躍的に向上させることが可能であり、血小板回収能を向上させた白血球除去フィルターを提供することができる。
【0106】
<実験例6>表面処理剤の抗血栓性評価
実験例1、2のPU多孔質膜に変えて、厚さ0.1mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)シートを使った他は同様の条件で実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8、比較例1〜5の表面処理剤を固定化した。固定化処理をした各シートについてそれぞれメタノールを洗浄溶媒とするソックスレー洗浄を8時間行った後80℃オーブンで4時間乾燥させた。比較例11として、表面処理剤を固定化しない未処理PUシートを準備した。
【0107】
また、PUシートに変えて、厚さ0.1mmのポリプロピレン(PP:住友化学(株)製)シートおよびポリエチレンテレフタレート(PET:帝人デュポンフィルム(株)製)についても上記と同様に固定化処理・洗浄・乾燥した。比較例12、13として、表面処理剤を固定化しない未処理PPシート、未処理PETシートを準備した。
【0108】
作製した各表面処理剤固定シートおよび未処理シートについて以下の手順で血小板粘着試験を行った。
まずCPD液7mLを添加した採血管に全血50mLを採血し、1200rpmで5分間遠心分離することでPRP(多血小板血漿)を分離した。PRPの一部を分取した残りをさらに3000rpmで10分間遠心分離し、PPP(貧血小板血漿)を得た。最初に分取したPRPをPPPで希釈し、血小板濃度が1×10個/μLとなるよう濃度調製した。0.2mLの希釈PRPをサンプルシートの上に静かに滴下し、室温で30分間放置した後、生食(生理食塩水)で2回リンスした。その後グルタルアルデヒド1質量%の生食に浸漬し、室温で1時間固定した。洗浄・乾燥後、イオンスパッタリングし、SEM(JEOL JSM−840)での観察および写真撮影(1000倍,5視野)を行った。
【0109】
血液を変え合計3回の血小板粘着試験を行い、シートに粘着した血小板数の平均をそれぞれ表5(PUシート)、表6(PPシート)、表7(PETシート)に示す。なお、血小板の形態については、ラウンドシェイプを保っている血小板を「I型」、多少の擬足の見られる血小板を「II型」、進展していて原型を留めていない血小板を「III型」とした。
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
表5〜表7から明らかなように、実施例1〜3、参考例4、5、実施例6〜8の表面処理剤を固定化したPU、PP、PETシートは、比較例1〜5の表面処理剤で処理したシート、および、比較例11〜13の未処理シートに比べて血小板粘着を抑制しており、さらに粘着した血小板もそのほとんどがラウンドシェイプ形状を保っていた。
【0114】
<実験例7>ステンレス板への固定化
厚さ0.5mmのステンレス板25mm×50mmを3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403,信越化学化学工業(株)製)を0.1質量%含むトルエン(和光純薬工業(株)製)溶液に一晩浸漬した後取り出して、過剰の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをトルエンで洗い流した。これを80℃のオーブンで4時間加熱し、シランカップリング剤処理ステンレス板を得た。
【0115】
実験例1の表面処理剤の固定化において、GMAグラフト処理PU多孔質膜をシランカップリング剤処理ステンレス板に変えた以外は、同様の操作で実施例1〜3、参考例4、5の表面処理剤を固定化した。表面処理剤を固定化したステンレス板を、メタノールによるソックスレー洗浄を8時間行い、X線光電子分光装置(JPS−90SX,日本電子社製)で表面に鉄原子が存在するか否かを観測した。その結果、鉄による原子由来のピークは観察されず各実施例、参考例の表面処理剤で完全に被覆され、固定化されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0116】
1 血液処理フィルター
2 ハウジング
3 蓋部
4 血液流入ポート
5 底部
6 血液流出ポート
7 フィルター部
8 血液流入室
9 血液流出室
図1