【実施例】
【0068】
次に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8および比較例1〜5は表面処理剤の調製に関するものであり、実験例1〜7は表面処理剤の性能評価(固定化量、血液濾過性能および抗血栓性)に関するものである。
【0069】
(1)表面処理剤の調製
<実施例1>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)32.7g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.2gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.8gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)145.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)37mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加し、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAEMA/HEMA=90/5/5であった。質量平均分子量は32,000であった。
【0070】
<実施例2>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)28.7g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)140.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)34mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/HEMA=92/3/5であった。質量平均分子量は44,000であった。
【0071】
<実施例3>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)39.0g,N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA:和光純薬工業(株)製)0.6gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)0.4gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)160.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)40mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DEAEMA/HEMA=98/1/1であった。質量平均分子量は38,000であった。
【0072】
<参考例4>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)15.0g、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMAm:和光純薬工業(株)製)5.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)4.2gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)100.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)25mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製80mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAPMAm/HEMA=70/15/15であった
。質量平均分子量は28,000であった。
【0073】
<参考例5>
2−エトキシエチルメタクリレート(EEMA:和光純薬工業(株)製)23.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)3.6gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)3.3gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)120.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)30mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、EEMA/DMAEMA/HEMA=76/12/12であった。質量平均分子量は18,000であった。
【0074】
<実施例6>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)27.0g、N,N−ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート(DiPAEMA:和光純薬工業(株)製)5.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)33mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DiPAEMA/HEMA=87/10/3であった。質量平均分子量は27,000であった。
【0075】
<実施例7>
(2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)塩酸塩の合成)
N−(t−ブトキシカルボニル)−1,2−アミノエタン(東京化成工業(株)製)5.0gを脱水クロロホルム(和光純薬工業(株)製)100mLに溶かし、トリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)5.0gを添加した。氷浴下、この溶液を攪拌しながらアクリロイルクロライド(和光純薬工業(株)製)2.5gを滴下した。滴下後30分間攪拌を継続した後1N塩酸20mL×3回、さらに飽和重曹水20mL×3回でクロロホルム相を洗浄した。その後無水硫酸ナトリウムでクロロホルム相を脱水し蒸発乾固させた。続いて蒸発乾固物に37質量%塩酸2.5mL用いてN−(t−ブトキシカルボニル)保護基を外した後凍結乾燥した。得られた生成物は
1H−NMRの結果、2−アミノエチルアクリルアミド塩酸塩であり、その収量は3.2g(収率77%)であった。
【0076】
(2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)を反応活性基としたポリマー合成)
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)25.0g、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび前記で合成した2−アミノエチルアクリルアミド(AEAAm)塩酸塩1.6gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)110.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)28mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)80mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/DMAEA/AEAAm=90/5/5であった。質量平均分子量は26,000であった。
【0077】
<実施例8>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)22.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gおよびグリシジルメタクリレート(GMA:和光純薬工業(株)製)1.8gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)100.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)26mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/GMA=90/5/5であった。質量平均分子量は41,000であった。
【0078】
<比較例1>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)31.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)34mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMR解析の結果、得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)は、MEA/DMAEMA=95/5であった。質量平均分子量は52,000であった。
【0079】
<比較例2>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)30.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)2.5gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)130.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)33mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA=95/5であった。質量平均分子量は49,000であった。
【0080】
<比較例3>
2−メトキシエチルアクリレート(MEA:和光純薬工業(株)製)30.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)125.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)32mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、MEA/HEMA=90/5であった。質量平均分子量は77,000であった。
【0081】
<比較例4>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業(株)製)20.0g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)13.0gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)2.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)125.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)36mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)100mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DMAA/DMAEMA/HEMA=67/28/5であった。質量平均分子量は43,000であった。
【0082】
<比較例5>
N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA:和光純薬工業(株)製)1.5gおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業(株)製)20.0gを脱水ジメチルホルムアミド(DMF:和光純薬工業(株)製)80.0gに溶かした。この溶液を1時間窒素置換した後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBIN:和光純薬工業(株)製)22mgをDMF1mLに溶かした溶液を添加、80℃で8時間重合させた。重合後、溶液にアセトン(国産化学(株)製)60mLを添加攪拌し、n−ヘキサン(国産化学(株)製)に滴下・沈殿させ生成物を単離した。単離した生成物をアセトンに溶解、n−ヘキサンに滴下・沈殿の操作を合計3回繰り返し精製した。精製物を一昼夜減圧乾燥し表面処理剤を得た。
1H−NMRにより得られたポリマーの組成比(モノマー成分のモル比)を解析した結果、DEAEMA/HEMA=5/95であった。質量平均分子量は66,000であった。
【0083】
(2)表面処理剤の性能評価
<実験例1>各種表面処理剤(実施例8以外)の表面処理剤の固定化量
(GMAグラフトPU膜の作製)
厚さ1.2mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)製スポンジ状多孔質膜(平均孔径5.0μm,空孔率85%)21cm×25cmを、圧力25Paのアルゴンガス流気中、出力200Wで30秒間プラズマ照射した。その後0.5Paまで脱アルゴン操作をした後、予め脱気したグリシジルメタクリレート(GMA:和光純薬工業(株)製)を陰圧下導入し、圧力56Paで3分間グラフト重合した。反応系内に残ったGMAモノマーを3分間真空ポンプで脱気除去した後、大気圧に戻しGMAグラフト処理PU膜を得た。
【0084】
(表面処理剤の固定化)
表1に示す溶媒に、実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6および比較例1〜5で合成した表面処理剤が最終濃度として0.5質量%、ピリジン(和光純薬工業(株)製)が最終濃度として0.25質量%となるよう溶液を500mLビーカーにそれぞれ450g調製した。実施例7の表面処理剤の溶液ではピリジンを入れずに表面処理剤最終濃度として0.5質量%となるメタノール/水=1/1(質量比)溶液を500mLビーカーに450g調製した
。
【0085】
それぞれの表面処理剤溶液にGMAグラフト処理した膜が500mLビーカー内の溶液に完全に浸かるよう、7cm×25cmの短冊3枚に切り、3枚ともビーカーに入れ、恒温水槽下攪拌しながら65℃で8時間の条件で合成した実施例8以外の各種表面処理剤を固定化した。
【0086】
(表面処理剤固定化膜の洗浄)
各種表面処理剤を固定化した3枚のうち1枚は固定化終了後そのままドラフト内で自然乾燥させ、さらに80℃オーブンで8時間熱処理した。残り2枚はそれぞれ60℃のRO水で8時間シャワー洗浄、メタノールを洗浄溶媒とした8時間ソックスレー洗浄し、ドラフト中で一晩自然乾燥させた後80℃オーブンで4時間乾燥した。
【0087】
(未洗浄・洗浄後固定化量)
乾燥させた各種表面処理剤固定化膜をトリパンブルー染色法で確認した。すなわち膜をφ26mmに打抜き、PP製ホルダ(アドバンテック製)に装着した。ホルダ内部をRO水で満たし、最大吸収波長における吸光度が1.15±0.05となるよう濃度調整したトリパンブルー(MERCK製)水溶液を流速15mL/minで90秒通液した後、50mLのRO水を通液し過剰のトリパンブルーを洗浄した。膜を取り出し80℃オーブンで乾燥後クロマトスキャナーCS−930(島津製作所製)で599nmの反射吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<実験例2>実施例8の表面処理剤の固定化量
(AAグラフトPU膜の作製)
厚さ1.2mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)製スポンジ状多孔質膜(平均孔径5.0μm,空孔率85%)21cm×25cmを、圧力25Paのアルゴンガス流気中、出力200Wで30秒間プラズマ照射した。その後0.5Paまで脱アルゴン操作をした後、予め脱気したアクリル酸(AA:和光純薬工業(株)製)を陰圧下導入し、圧力37Paで5分間グラフト重合した。反応系内に残ったAAモノマーを3分間真空ポンプで脱気除去した後、大気圧に戻しAAグラフト処理PU膜を得た。
【0089】
(表面処理剤の固定化)
最終濃度として、エチレンジアミン(EDA:和光純薬工業(株))および脱水縮合剤DMAT−MM(国産化学(株))をそれぞれ10mM含む水溶液を450mL調製し、この溶液を7cm×25cmの短冊3枚に切り取ったAAグラフト処理膜を入れた500mLビーカーに静かに注ぎ入れ、このまま室温で6時間反応させた。反応終了後膜をRO流水で3時間洗浄し、80℃オーブンで4時間乾燥させた。実施例8の表面処理剤が最終濃度として0.5質量%となるメタノール/水=1/1(質量比)溶液を500mLビーカーに450g調製した。表面アミノ化したAAグラフト膜3枚をビーカーに入れ、恒温水槽下攪拌しながら65℃で8時間の条件で実施例8の表面処理剤を固定化した。
【0090】
(表面処理剤固定化膜の洗浄)
実験例1と同様とした。
(未洗浄・洗浄後固定化量)
実験例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1から明らかなように、実施例の1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8および比較例4,5のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)と反応性官能基を有するモノマー(C)とを同時に含む表面処理剤で処理したポリウレタン製スポンジ状多孔質膜(PU多孔質膜)はRO水シャワー洗浄、またはメタノールを溶媒としたソックスレー洗浄後においてもトリパンブルーにより強く染色されていることから、PU多孔質膜上に塩基性官能基を有する表面処理剤が固定化されている。一方、比較例1、2のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)は含むが反応性官能基を有するモノマー(C)を含まない表面処理剤で処理したPU多孔質膜、および、比較例3のごとき塩基性官能基を有するモノマー(B)を含まない表面処理剤で処理したPU多孔質膜においては、その表面処理剤が溶解可能な溶媒で洗浄すると洗い流されてしまい、ほとんど若しくは全くトリパンブルー染色されない。
【0093】
<実験例3>ポリウレタン製スポンジ状多孔質膜へ固定化した表面処理剤の血液濾過性能
実験例1でメタノールによるソックスレー洗浄した実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8、比較例3〜5および未洗浄の比較例1,2のPU多孔質膜をφ26mmの大きさに打抜き、血液回路にこれを1枚組み込み血液濾過性能サンプルとした。血液は健常なボランティアより採血したCPD加全血を22℃で24時間保存したものを用い、各サンプルにそれぞれ45mL濾過した。なお、比較例6として表面処理剤を固定化処理しなかった未処理PU多孔質膜も同様に濾過評価した。濾過前および濾過後の白血球濃度、血小板濃度を自動血球計測装置(Sysmex XE2100東亞医用電子(株)製)でそれぞれ計測し、以下の式に従い白血球除去率および血小板回収率を求めた。結果を表2に示す。
【0094】
白血球除去率(%)=100×(1−濾過後白血球数/濾過前白血球数)
血小板回収率(%) =100× 濾過後血小板数/濾過前血小板数
【0095】
【表2】
【0096】
表2から明らかなように、実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8の表面処理剤を固定化したPU多孔質膜は、比較例1〜5の表面処理剤を固定化したPU多孔質膜および比較例6の未処理PU多孔質膜に比べて血小板回収能を維持したまま白血球除去能が飛躍的に向上した。一方、比較例1,2のごとき表面処理剤が固定化できていないPU多孔質膜は、血中に表面処理剤が溶出したためか実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8のいずれと比較しても白血球除去能が劣っていた。また、比較例3のごとき塩基性官能基を含まない表面処理剤では、未処理膜(比較例6)に比べ白血球除去能が低下し、比較例4のごとき塩基性官能基を多く含む表面処理剤では血小板回収率が大幅に低下した。比較例5においては未処理PU多孔質膜に比べて白血球除去能は向上したが実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8のいずれのそれにも及ばず、血小板回収率は明らかに低下した。
【0097】
<実験例4>ポリプロピレン製不織布へ固定化した表面処理剤の血液濾過性能
繊維径2.1μm、目付け31g/m
2、厚さ0.20mmのポリプロピレン製不織布(PP不織布)を使った以外は、実験例1と同様の操作で実施例1および実施例2の表面処理剤を固定化およびメタノールによるソックスレー洗浄をし、2種類の表面処理剤固定化PP不織布を得た。表面処理剤を固定化したPP不織布をそれぞれφ26mmの大きさに打ち抜き、これを血液回路に6枚組込んで血液濾過性能サンプルとした。なお、比較例7として表面処理剤を全く固定化していない未処理PP不織布、および、比較例8として0.2%デカグリン(界面活性剤:日光ケミカルズ製)を単純コート処理したPP不織布についてもそれぞれ同様に血液濾過回路に組込み血液濾過性能サンプルとした。実験例3と同様に血液は健常なボランティアより採血したCPD加全血を22℃で24時間保存したものを用い、各サンプルにそれぞれ45mL濾過し、白血球除去率および血小板回収率を求めた。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3から明らかなように比較例7の未処理PP不織布においては、血液が染込まず濾過できなかったのに対し、実施例1,2の表面処理剤を固定化したPP不織布は親水性が向上し濾過可能となったばかりか、比較例8の界面活性剤コートPP不織布に比べて白血球除去能および血小板回収能が大幅に向上した。
【0100】
<実験例5>模擬製品形態での血液濾過性能
φ30mmに打抜いた、未処理のPU多孔質膜の、プレフィルター部として平均孔径6.0μmの膜を1枚、メインフィルター部として平均孔径4.0μmの膜を2枚、および実験例1で固定化・メタノールによるソックスレー洗浄した、実施例1の表面処理剤を固定化した膜(平均孔径5.0μm)1枚の合計4枚をこの順番に濾過モジュールに組込み、模擬製品形態サンプルとした。
【0101】
血液濾過評価においては未処理膜側から、健常なボランティアから採血したCPD加全血を22℃で1時間保存したものを60mL濾過した。濾過前および濾過後の血小板濃度および赤血球濃度は自動血球計測装置(Sysmex XE2100東亞医用電子(株)製)でそれぞれ計測し、漏出白血球数はフローサイトメーター(EPICS XL ベックマンコールター製)で計測した。結果を表4に示す。
【0102】
また、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに、実施例2の表面処理剤を固定化した膜1枚を組み込んだ合計4枚からなる濾過モジュールを作製して上記と同様の評価をした。結果を表4に示す。
【0103】
さらに比較例9として、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに、表面処理剤を固定化していない平均孔径5.0μmの膜を1枚組み込んだ合計4枚からなる濾過モジュール、比較例10として、実施例1の表面処理剤を固定化した膜の代わりに平均孔径4.0μmの膜を4枚組み込んだ合計6枚からなる濾過モジュールについて同様の評価をした。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4から明らかなように、白血球除去能を向上させるために濾材枚数を増やすと(比較例10)、濾材に残留する血小板および赤血球が増えるため血小板回収率および赤血球回収率が低下するが、本発明の白血球吸着性に優れた表面処理剤(実施例1、2)を固定化した膜を組み込むことにより、少ない枚数で白血球除去能を飛躍的に向上させることが可能であり、血小板回収能を向上させた白血球除去フィルターを提供することができる。
【0106】
<実験例6>表面処理剤の抗血栓性評価
実験例1、2のPU多孔質膜に変えて、厚さ0.1mmのポリウレタン(PU:E394POTA日本ミラクトラン(株)製)シートを使った他は同様の条件で実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8、比較例1〜5の表面処理剤を固定化した。固定化処理をした各シートについてそれぞれメタノールを洗浄溶媒とするソックスレー洗浄を8時間行った後80℃オーブンで4時間乾燥させた。比較例11として、表面処理剤を固定化しない未処理PUシートを準備した。
【0107】
また、PUシートに変えて、厚さ0.1mmのポリプロピレン(PP:住友化学(株)製)シートおよびポリエチレンテレフタレート(PET:帝人デュポンフィルム(株)製)についても上記と同様に固定化処理・洗浄・乾燥した。比較例12、13として、表面処理剤を固定化しない未処理PPシート、未処理PETシートを準備した。
【0108】
作製した各表面処理剤固定シートおよび未処理シートについて以下の手順で血小板粘着試験を行った。
まずCPD液7mLを添加した採血管に全血50mLを採血し、1200rpmで5分間遠心分離することでPRP(多血小板血漿)を分離した。PRPの一部を分取した残りをさらに3000rpmで10分間遠心分離し、PPP(貧血小板血漿)を得た。最初に分取したPRPをPPPで希釈し、血小板濃度が1×10
5個/μLとなるよう濃度調製した。0.2mLの希釈PRPをサンプルシートの上に静かに滴下し、室温で30分間放置した後、生食(生理食塩水)で2回リンスした。その後グルタルアルデヒド1質量%の生食に浸漬し、室温で1時間固定した。洗浄・乾燥後、イオンスパッタリングし、SEM(JEOL JSM−840)での観察および写真撮影(1000倍,5視野)を行った。
【0109】
血液を変え合計3回の血小板粘着試験を行い、シートに粘着した血小板数の平均をそれぞれ表5(PUシート)、表6(PPシート)、表7(PETシート)に示す。なお、血小板の形態については、ラウンドシェイプを保っている血小板を「I型」、多少の擬足の見られる血小板を「II型」、進展していて原型を留めていない血小板を「III型」とした。
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
表5〜表7から明らかなように、実施例1〜
3、参考例4、5、実施例6〜8の表面処理剤を固定化したPU、PP、PETシートは、比較例1〜5の表面処理剤で処理したシート、および、比較例11〜13の未処理シートに比べて血小板粘着を抑制しており、さらに粘着した血小板もそのほとんどがラウンドシェイプ形状を保っていた。
【0114】
<実験例7>ステンレス板への固定化
厚さ0.5mmのステンレス板25mm×50mmを3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403,信越化学化学工業(株)製)を0.1質量%含むトルエン(和光純薬工業(株)製)溶液に一晩浸漬した後取り出して、過剰の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをトルエンで洗い流した。これを80℃のオーブンで4時間加熱し、シランカップリング剤処理ステンレス板を得た。
【0115】
実験例1の表面処理剤の固定化において、GMAグラフト処理PU多孔質膜をシランカップリング剤処理ステンレス板に変えた以外は、同様の操作で実施例1〜
3、参考例4、5の表面処理剤を固定化した。表面処理剤を固定化したステンレス板を、メタノールによるソックスレー洗浄を8時間行い、X線光電子分光装置(JPS−90SX,日本電子社製)で表面に鉄原子が存在するか否かを観測した。その結果、鉄による原子由来のピークは観察されず各実施例
、参考例の表面処理剤で完全に被覆され、固定化されていることが確認できた。