特許第6118834号(P6118834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118834
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】モード変換素子及び光機能素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20170410BHJP
   G02B 6/14 20060101ALI20170410BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20170410BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20170410BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20170410BHJP
   G02F 1/015 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G02B6/126
   G02B6/14
   G02B6/12 301
   G02B6/12 361
   G02B6/122 311
   H01L31/10 A
   G02F1/015 505
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-69078(P2015-69078)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188956(P2016-188956A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2015年3月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513065077
【氏名又は名称】技術研究組合光電子融合基盤技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】小野 英輝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【審査官】 廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−125276(JP,A)
【文献】 特開2014−182213(JP,A)
【文献】 特開2016−040572(JP,A)
【文献】 Daoxin Dai, et al.,"SILICON MULTIMODE PHOTONIC INTEGRATED DEVICES FOR ON-CHIP MODE-DIVISION-MULTIPLEXED OPTICAL INTERCONNECTS",Progress In Electromagnetics Research,2014年 1月,Vol.143,pp.773-819
【文献】 Wesley D. Sacher, et al.,"Polarization rotator-splitters and controllers in a Si3N4-on-SOI integrated photonics platform",Optics Express,2014年 5月 5日,Vol.22, No.9,pp.11167-11174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12− 6/14
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細線導波路部と、
段差スラブ部と、
スラブ部と
が、一体的なチャネル導波路として順次接続されており、
前記段差スラブ部は、
下部スラブ部と、
前記下部スラブ部上に、前記細線導波路部側から、前記スラブ部側に向けて、幅が増大する上部テーパ部と
を備え、
前記細線導波路部から前記段差スラブ部に入力された、基本モードのTE偏波は、偏波及びモードが変換されずに前記スラブ部に出力され、
前記細線導波路部から前記段差スラブ部に入力された、基本モードのTM偏波は、1次モードのTE偏波に変換されて前記スラブ部に出力される
ことを特徴とするモード変換素子。
【請求項2】
前記下部スラブ部の幅が、前記上部テーパ部の最大幅以上である
ことを特徴とする請求項に記載のモード変換素子。
【請求項3】
前記下部スラブ部と前記上部テーパ部の厚さが等しい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモード変換素子。
【請求項4】
材質がシリコンである
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のモード変換素子。
【請求項5】
当該モード変換素子は、シリコン基板上に、酸化シリコン層及びシリコン層が積層されたSOI基板を用いて形成されており、
前記シリコン基板が支持基板として用いられ、
前記酸化シリコン層が下部クラッド層として用いられ、
前記シリコン層が光導波路層として用いられる
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のモード変換素子。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のモード変換素子と、
前記上部テーパ部の幅が広い側から出力される光が入力される、光電子デバイスと
を備えることを特徴とする光機能素子。
【請求項7】
光電子デバイスの入力側と出力側に、それぞれ請求項1〜のいずれか一項に記載のモード変換素子を備え、
入力側のモード変換素子の上部テーパ部の幅の広い側から出力される光が前記光電子デバイスに入力され、
前記光電子デバイスから出力される光が、出力側のモード変換素子の上部テーパ部の幅が広い側に入力される
ことを特徴とする光機能素子。
【請求項8】
前記光電子デバイスがフォトダイオードである
ことを特徴とする請求項に記載の光機能素子。
【請求項9】
前記フォトダイオードの光吸収層の材質がゲルマニウムである
ことを特徴とする請求項に記載の光機能素子。
【請求項10】
前記光電子デバイスがEA変調器である
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の光機能素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、基本モードのTM(Transverse Magnetic)偏波を、1次モードのTE(Transverse Electric)偏波に変換するモード変換素子、及び、このモード変換素子と光電子デバイスを備える光機能素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化や量産性に有利な光機能素子の開発に当たり、Si(シリコン)を細線導波路の材料として用いるSi細線導波路が注目を集めている。
【0003】
Si細線導波路では、実質的に光の伝送路となる光導波路コアを、Siを材料として形成する。そして、Siよりも屈折率の低い例えばシリカ等を材料としたクラッドで、光導波路コアの周囲を覆う。このような構成により、光導波路コアとクラッドとの屈折率差が極めて大きくなるため、光導波路コア内に光を強く閉じ込めることができる。その結果、曲げ半径を例えば1μm程度まで小さくした、小型の曲線導波路を実現することができる。そのため、電子回路と同程度の大きさの光回路を作成することが可能であり、光機能素子全体の小型化に有利である。
【0004】
また、Si細線導波路では、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の半導体装置の製造過程を流用することが可能である。そのため、チップ上に電子機能回路と光機能回路とを一括形成する光電融合(シリコンフォトニクス)の実現が期待されている。
【0005】
ところで、Si細線導波路に集積される光電子デバイスとして、PIN構造のフォトダイオード(以下、PIN−PDとも称する。)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。PIN−PDは、例えば以下のようにSi細線導波路に集積される。先ず、Siのコアに対して、不純物添加することにより、P型又はN型の導電性を付与する。次に、Siのコア上に例えば、Ge(ゲルマニウム)を積層する。その後、Geの表面に不純物添加することにより、Siのコアと逆の導電性を付与する。すなわち、SiがP型の場合は、GeをN型とし、SiがN型の場合は、GeをP型とする。この結果、P型の領域とN型の領域の間にI型領域と呼ばれる真性半導体領域が存在するPIN−PDが得られる。
【0006】
一般にP型領域、I型領域及びN型領域が積層された構造の縦型のPIN−PDは、基板上に光吸収層をエピタキシャル成長させて形成される。このとき、光吸収層に残留する歪によってPDの受光効率に偏波依存性が生じることが知られている。無歪又は圧縮歪を持つ光吸収層は、TEモードの受光効率が高く、引っ張り歪みを持つ光吸収層はTMモードの受光効率が高い(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
このため、特許文献1に開示されている受光器では、InP基板上に光吸収層としてInGaAsをエピタキシャル成長させたPDに対して、無歪又は圧縮歪光吸収層を前段に配置し、引っ張り歪光吸収層を後段に配置している。無歪又は圧縮歪光吸収層では、TEモード光が吸収され、TMモード光は透過し、引っ張り歪光吸収層では、TMモード光が吸収されるので、受信感度が偏波無依存化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−267709号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】OPTICS EXPRESS, Vol.15, No.21,2007、pp.13965〜13971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この特許文献1に開示されている技術は、3元又は4元の化合物半導体を用いたPDには適用可能であるが、Si基板上にGeをエピタキシャル成長させた光吸収層を有するPDには適用できない。この理由は以下の通りである。
【0011】
InP基板上にエピタキシャル成長させるInGaAs光吸収層のInとGaの組成(InGa1−xAs)を制御することにより、格子定数をGaAs(x=0)の5.653ÅからInAs(x=1)の6.06Åまで変えることができる。x=0.53のIn0.53Ga0.47Asのとき、格子定数が5.8687ÅのInPと位相整合する。従って、xを0.53よりも小さくするとInPよりも格子定数が小さくなり、InGaAsに引っ張り歪を入れることができる。また、xを0.53よりも大きくするとInPよりも格子定数が大きくなり、InGaAsに圧縮歪を入れることができる。
【0012】
これに対し、Si基板上にGeをエピタキシャル成長させる場合は、Si基板の格子定数が5.44Åであるのに対し、Geの格子定数が5.65Åであるため、Geには圧縮歪しか入れることができない。
【0013】
このように、特許文献1に開示されている、無歪又は圧縮歪光吸収層を前段に配置し、引っ張り歪光吸収層を後段に配置することにより、受信感度を偏波無依存化する技術は、Si基板上にGeをエピタキシャル成長させるPDには適用できない。発明者らが行った受信感度の測定結果によれば、TEモード光では、受信感度が0.74A/Wであり、TMモード光では、受信感度が0.56A/Wであり、約1.2dBの偏波依存性が存在する。
【0014】
この出願に係る発明者は、鋭意検討の結果、PDの入力側に下部スラブ部と、下部スラブ部上に形成された、上部テーパ部とを備えて構成されるモード変換素子を配置して、入力される基本モードのTE偏波を、変換せず出力し、入力される基本モードのTM偏波を、1次モードのTE偏波に変換して出力することで、受信感度に偏波依存性が有る場合であっても、受光効率の偏波依存性を小さくできることに想到した。
【0015】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、受信感度に偏波依存性がある光電子デバイスに対して好適なモード変換素子を提供すること、及び、このモード変換素子と光電子デバイスを備える光機能素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成するために、この発明のモード変換素子は、細線導波路部と、段差スラブ部と、スラブ部とが、一体的なチャネル導波路として順次接続されて構成される光導波路を備える。段差スラブ部は、下部スラブと、下部スラブ上に、細線導波路部側から、スラブ部側に向けて、幅が増大する上部テーパ部とを備える。細線導波路部から段差スラブ部に入力された、基本モードのTE偏波は、偏波及びモードが変換されずにスラブ部に出力される。また、細線導波路部から段差スラブ部に入力された、基本モードのTM偏波は、1次モードのTE偏波に変換されてスラブ部に出力される。
【0018】
また、この発明の光機能素子は、上述のモード変換素子と、モード変換素子の上部テーパ部の幅が広い側から出力される光が入力される、光電子デバイスとを備えて構成される。この光電子デバイスとして、例えば、フォトダイオードやEA変調器が用いられる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のモード変換素子によれば、入力される基本モードのTE偏波を変換せずにそのまま出力し、基本モードのTM偏波を1次モードのTE偏波に変換して出力する。このため、後段に偏波依存性の大きな光電子デバイスを用いる場合であっても、その偏波依存性の影響を小さくすることができる。
【0020】
また、このモード変換素子と光電子デバイスとして、受信感度に偏波依存性のあるフォトダイオードを用いた場合に、受光効率の偏波依存性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1光機能素子の模式図である。(A)は、第1光機能素子の模式的な斜視図である。また、(B)は、第1光機能素子を上面から見た、模式的な平面図である。
図2】第1光機能素子の切断端面を示す図である。
図3】第1光機能素子の動作を説明するための模式図である。
図4】第1光機能素子の製造方法を説明するための工程図(1)である。
図5】第1光機能素子の製造方法を説明するための工程図(2)である。
図6】第1光機能素子の製造方法を説明するための工程図(3)である。
図7】第2光機能素子の構造及び動作を説明するための模式図である。
図8】第2光機能素子の製造方法を説明するための工程図である。
図9】第3光機能素子の構造及び動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0023】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、第1実施形態の光機能素子(以下、第1光機能素子とも称する。)について説明する。第1光機能素子は、モード変換素子と、光電子デバイスとしてフォトダイオードを備えて構成される。
【0024】
図1(A)は、第1光機能素子の模式的な斜視図である。また、図1(B)は、第1光機能素子を上面から見た、模式的な平面図である。第1光機能素子は、導波路コアと、導波路コアの周囲のクラッド等を備えて構成されるが、図1(A)及び(B)では、クラッドなど他の構成要素の図示を一部省略している。
【0025】
図2(A)及び(B)は、第1光機能素子の切断端面を示す図である。図2(A)は、図1(B)のI−I線に沿って取った切断端面を示し、図2(B)は、図1(B)のII−II線に沿って取った切断端面を示している。
【0026】
第1光機能素子10は、支持基板12と、支持基板12上に形成された下部クラッド14と、下部クラッド14上に形成された光導波路16と、下部クラッド14及び光導波路16上に形成された上部クラッド18とを備えて構成される。支持基板12及び光導波路16は、は、シリコン(Si)で形成され、下部クラッド14及び上部クラッド18は、酸化シリコン(SiO)で形成されている。
【0027】
先ず、モード変換素子20の構造について説明する。モード変換素子20の光導波路16は、細線導波路部22と、段差スラブ部24と、スラブ部28とが順次接続されて構成されている。
【0028】
モード変換素子20の光導波路16の厚さは、例えば300nmである。細線導波路部22の幅は、波長1460nm〜1530nmのSバンドの信号光に対して、シングルモード導波路となるように300nmとしている。スラブ部28は、フォトダイオードと接続される部分であり、スラブ部28の幅を約2μmとしている。なお、ここでは支持基板の上面に直交する方向を厚さ方向とし、光の伝搬方向と厚さ方向の両方に直交する方向を幅方向とする。
【0029】
段差スラブ部24は、下部スラブ部25と、下部スラブ部25上に形成された、上部テーパ部27とを備えて構成される。下部スラブ部25は、平面形状が矩形の平板状に形成されていて、下部スラブ部25の厚さは、細線導波路部22の半分の150nmである。
【0030】
上部テーパ部27は、下部スラブ部25の1つの辺から対向する辺に向けて幅が広がるテーパ状に形成されている。ここでは、上部テーパ部27は、細線導波路部22側から、スラブ部28側に向けて、幅が増大する。すなわち、上部テーパ部27は、細線導波路部22側からスラブ部28側に向けた導波方向に沿って幅が増大する逆テーパ状に形成されている。上部テーパ部27の厚さは、下部スラブ部25と同じく、細線導波路部22の半分の150nmである。上部テーパ部27と下部スラブ部25の厚さは、必ずしも等しくなっている必要はないが、等しくするとモード変換効率が高まるので有利である。
【0031】
図1に示す構成例では、上部テーパ部27の細線導波路部22側の端部の幅が、細線導波路部22の幅と等しく最小である。また、上部テーパ部27のスラブ部28側の端部の幅が、スラブ部28の幅と等しく最大である。
【0032】
なお、モード変換効率の低下や、光信号の損失を考慮すると、段差スラブ部24の上部テーパ部27が等幅の領域を備えず、かつ、細線導波路部22及びスラブ部28がテーパ状の領域を備えない構成にするのが良い。しかし、多少の性能の低下はありうるが、上部テーパ部27の幅が変化する部分に対応する領域よりも、下部スラブ部25が設けられる領域を大きくしたり、小さくしたりしてもよい。
【0033】
また、下部スラブ部25の幅は、少なくとも上部テーパ部27の最大幅と等しい大きさであれば良い。しかし、製造誤差を考慮すると、下部スラブ部25の幅は、上部テーパ部27の最大幅以上にするのが良い。なお、幅に対して長さの方が大きいため、長さ方向については製造誤差を無視することができる。
【0034】
また、モード変換素子として主に機能するのは、段差スラブ部24である。従って、上部テーパ部27の幅の狭い側に接続される他の素子や、上部テーパ部27の幅の広い側に接続される光電子デバイスの構造等によっては、細線導波路部22やスラブ部28を備えない構成にしても良い。
【0035】
次に、フォトダイオード30について説明する。フォトダイオード30は、モード変換素子20のスラブ部28(上部テーパ部27の幅が大きい)側に配置される。モード変換素子20の、上部テーパ部27の幅が広い側から出力される光が、フォトダイオード30に入力される。
【0036】
フォトダイオード30の光導波路16には、低濃度の不純物が添加された低濃度p−Si領域32が形成されている。低濃度p−Si領域32上にGe層42が形成されている。低濃度p−Si領域32のGe層42が形成されていない領域の一部には、高濃度の不純物が添加された高濃度p−Siコンタクト領域34が形成されている。また、Ge層42の上側の領域に、高濃度n−Geコンタクト領域44が形成されている。高濃度p−Siコンタクト領域34及び高濃度nーGeコンタクト領域44上には、それぞれコンタクト電極50が形成され、コンタクト電極50上にはパット電極52が形成されている。光導波路16及びGe層42は、上部クラッド18で覆われているが、コンタクト電極50上のパット電極52は露出している。
【0037】
図3を参照して、第1光機能素子の動作について説明する。図3は、第1光機能素子の動作を説明するための模式図である。図3(A)は、基本モードのTE偏波(以下、TE0と称することもある。)が入力される場合を示し、図3(B)は、基本モードのTM偏波(以下、TM0と称することもある。)が入力される場合を示している。図3(A)及び(B)では、図1(B)と同様に、光導波路のみを示し、クラッドなど他の構成要素の図示を省略している。
【0038】
光機能素子10のモード変換素子20に入力された、信号光のTE0成分及びTM0成分は、細線導波路22、段差スラブ部24及びスラブ部28を伝播し、モード変換素子20から出力される。
【0039】
このとき、導波方向に入力される光のTE0成分は、段差スラブ部24において、偏波及びモードが変換されず、TE0成分のまま、モード変換素子20から出力される。このモード変換素子20から出力されたTE0成分はフォトダイオード30に入力される。
【0040】
一方、導波方向に入力される光のTM0成分は、段差スラブ部24において、1次モードのTE偏波(以下、TE1と称することもある。)に変換され、TE1成分として、モード変換素子20から出力される。このモード変換素子20から出力されたTE1成分はフォトダイオード30に入力される。
【0041】
このように第1光機能素子10では、モード変換素子20において、信号光の基本モードのTM偏波が1次モードのTE偏波に変換される。このため、フォトダイオード30の受信感度に大幅な偏波依存性が存在しても、光機能素子全体として、受光効率の偏波依存性を低減することができる。
【0042】
発明者らによる検討によれば、段差スラブ部24及びスラブ部28の形状を適切に設計することで、Sバンド、特に波長1520nmの信号光に対して、TM0成分からTE1成分への変換損失が約0.2dBとなることを見出している。この結果、光機能素子としての受信感度の偏波依存性を約1.2dBから約0.2dBへ減少させることができる。
【0043】
このように、このモード変換素子20を用いると、光電子デバイスとして受信感度に偏波依存性のあるフォトダイオードを用いた場合であっても、光機能素子全体として受光効率の偏波依存性を小さくすることができる。
【0044】
図4〜6を参照して、第1光機能素子の製造方法について説明する。図4〜6は、第1光機能素子の製造方法を説明するための工程図である。
【0045】
先ず、Si基板上にSiO層及びSi層が積層されたSOI基板を用意する。Si基板、SiO層及びSi層がそれぞれ支持基板、下部クラッド層及び光導波路層として用いられる。
【0046】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、Si層をパターニングして、ハーフエッチパターン60を形成する(図4(A)、(B)及び(C)参照)。図4(A)は、ハーフエッチパターン60の斜視図である。図4(B)は、図4(A)のI−I線に沿って取った、ハーフエッチパターン60が形成されたSOI基板の切断端面を示している。また、図4(C)は、図4(A)のII−II線に沿って取った、ハーフエッチパターン60が形成されたSOI基板の切断端面を示している。
【0047】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、ハーフエッチパターン60をパターニングして、光導波路16を形成する(図5(A)、(B)及び(C)参照)。図5(A)は、光導波路16の斜視図である。図5(B)は、図5(A)のI−I線に沿って取った、光導波路16が形成されたSOI基板の切断端面を示している。また、図5(C)は、図5(A)のII−II線に沿って取った、光導波路16が形成されたSOI基板の切断端面を示している。
【0048】
次に、フォトダイオードを形成する工程について、図6(A)〜(D)を参照して説明する。図6(A)〜(D)は、図4(A)及び図5(A)のII−II線に沿って取った、切断端面に対応する端面を示している。
【0049】
先ず、下部クラッド14及び光導波路16上に、フォトリソグラフィによりレジストパターン80を形成する。このレジストパターン80には、フォトダイオード形成領域の光導波路16をほぼ露出する開口81が形成されている。この開口81の面積は、数μm×数十μm程度である。その後、この開口81から光導波路16に、p型の不純物として例えばホウ素(B)を不純物添加して、低濃度p−Si領域32を形成する。この低濃度p−Si領域の不純物濃度は、例えば1×1019cm−3程度である(図6(A))。
【0050】
次に、レジストパターン80を除去した後、下部クラッド14及び光導波路16上に、フォトリソグラフィによりレジストパターン82を形成する。このレジストパターン82には、光導波路16の低濃度p−Si領域32の一部を露出する矩形状の開口83が、光の伝播方向に平行に2箇所設けられている。その後、この開口83から光導波路の低濃度p−Si領域32に、p型の不純物として例えばホウ素(B)を不純物添加して、高濃度p−Siコンタクト領域34を形成する。この高濃度p−Siコンタクト領域34の不純物濃度は、例えば1×1020cm−3程度である(図6(B))。
【0051】
次に、レジストパターン82を除去した後、低濃度p−Si領域32上に、厚さ1μm程度のGe層42を選択成長させる(図6(C))。
【0052】
次に、下部クラッド14、光導波路16及びGe層42上に、フォトリソグラフィによりレジストパターン84を形成する。このレジストパターン84には、Ge層42の一部領域を露出する開口85が形成されている。その後、この開口85からGe層42に、n型の不純物として例えばリン(P)を不純物添加して、高濃度n−Geコンタクト領域44を形成する。この高濃度n−Geコンタクト領域44の不純物濃度は、例えば1×1020cm−3程度である(図6(D))。
【0053】
次に、レジストパターン84を除去した後、下部クラッド14上に、光導波路16及びGe層18を覆うSiO膜を形成する。このSiO膜が上部クラッド18となる。その後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、上部クラッド18にコンタクトホールを形成する。次に、電極材料として例えばアルミニウム(Al)を真空蒸着してコンタクトホールを埋め込むことにより、コンタクト電極50を形成する。最後に、上部クラッド18上に、電極材料として例えばアルミニウム(Al)を真空蒸着した後、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによりAl膜をパターニングして、コンタクト電極50上にパッド電極52を形成し、図1及び図2を参照して説明した第1光機能素子を得る。
【0054】
(第2実施形態)
図7(A)及び(B)を参照して、第2実施形態の光機能素子(以下、第2光機能素子とも称する。)について説明する。なお、第1光機能素子と重複する説明を省略する場合がある。
【0055】
第2光機能素子70は、順次に接続されたモード変換素子20と、光電子デバイスとして電界吸収型(EA:Electro−Absorption)変調器72と、出力側導波路74を備えて構成される。
【0056】
図7(A)及び(B)は、第2光機能素子の構成及び動作を説明するための模式図である。図7(A)は、TE0成分が入力される場合を示し、図7(B)は、TM0成分が入力される場合を示している。図7(A)及び(B)では、図1図3(A)及び(B)と同様に、光導波路のみを示し、クラッドなど他の構成要素の図示を省略している。
【0057】
第2光機能素子のモード変換素子は、第1光機能素子のモード変換素子と同様に構成されるので重複する説明を省略する。
【0058】
EA変調器72は、モード変換素子20のスラブ部28側に配置される。モード変換素子20の、上部テーパ部27の幅が広い側から出力される光が、EA変調器72に入力される。EA変調器72としては、任意好適な従来公知のものを用いることができる。
【0059】
出力側導波路74は、EA変調器72の出力側に設けられる。出力側導波路74は、テーパ部75と等幅導波路77とを備えて構成される。テーパ部75がEA変調器72側に配置される。
【0060】
テーパ部75は、EA変調器72側から、等幅導波路77側に向けて、幅が縮小する。等幅導波路77はTE1成分が伝搬するように構成される。
【0061】
光機能素子70のモード変換素子20に入力された、信号光のTE0成分及びTM0成分は、細線導波路部22、段差スラブ部24及びスラブ部28を伝播し、モード変換素子20から出力される。
【0062】
このとき、TE0成分は、段差スラブ部24において、偏波及びモードが変換されず、TE0成分のまま、モード変換素子20から出力される。このモード変換素子20から出力されたTE0成分はEA変調器72に入力される。EA変調器72で所定の変調を受けたTE0成分は、テーパ部75及び等幅導波路76を経て第2光機能素子70から出力される。
【0063】
一方、TM0成分は、段差スラブ部24において、TE1成分に変換され、TE1成分として、モード変換素子20から出力される。このモード変換素子20から出力されたTE1成分はEA変調器72に入力される。EA変調器72で所定の変調を受けたTE1成分は、テーパ部75及び等幅導波路77を経て第2光機能素子70から出力される。
【0064】
このように第2光機能素子70では、モード変換素子20において、信号光の基本モードのTM偏波が1次モードのTE偏波に変換された後、EA変調器72に入力される。このため、EA変調器72の受信感度に大幅な偏波依存性が存在しても、光機能素子全体として、受光効率の偏波依存性を低減することができる。
【0065】
図8を参照して、第2光機能素子の製造方法について説明する。図8は、第2光機能素子の製造方法を説明するための工程図である。
【0066】
先ず、Si基板上にSiO層及びSi層が積層されたSOI基板を用意する。
【0067】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、Si層をパターニングして、ハーフエッチパターン62を形成する(図8(A)参照)。図8(A)は、ハーフエッチパターン62の斜視図である。
【0068】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングにより、ハーフエッチパターン62をパターニングして、光導波路17を形成する(図8(B)及び(C)参照)。図8(B)は、光導波路の斜視図である。図8(C)は、図8(B)のI−I線に沿って取った、光導波路が形成されたSOI基板の切断端面を示している。この工程で、モード変換素子20及び出力側導波路74を含む光導波路17が形成される。その後、必要に応じてモード変換素子20と出力側導波路74の間のテラス領域78に、EA変調器72に電流を供給するための電極を形成する。
【0069】
次に、テラス領域78に予め用意しておいたEA変調器72を実装、ダイボンディングして、図7を参照して説明した第2光機能素子70を得る。
【0070】
(第3実施形態)
図9(A)及び(B)を参照して、第3実施形態の光機能素子(以下、第3光機能素子とも称する。)について説明する。なお、第2光機能素子と重複する説明を省略する場合がある。
【0071】
第3光機能素子90は、出力側導波路に換えてモード変換素子21を備える点が第2光機能素子と異なっており、その他の構成は第2光機能素子と同様に構成される。
【0072】
EA変調器72の出力側に設けられるモード変換素子21は、EA変調器72の入力側に設けられるモード変換素子20と同様の構造であり、EA変調器72に対して対称となるように配置されている。すなわち、出力側のモード変換素子21は、EA変調器72の出力側に、スラブ部98が設けられ、第3光機能素子90の出力側に細線導波路部92が設けられ、スラブ部98と細線導波路部92の間に段差スラブ部94が設けられている。
【0073】
第3光機能素子90の入力側のモード変換素子20に入力された、信号光のTE0成分及びTM0成分は、細線導波路22、段差スラブ部24及びスラブ部28を伝播し、入力側のモード変換素子20から出力される。
【0074】
このとき、TE0成分は、入力側のモード変換素子20の段差スラブ部24において、偏波及びモードが変換されず、TE0成分のまま、入力側のモード変換素子20から出力される。入力側のモード変換素子20から出力されたTE0成分はEA変調器72に入力される。EA変調器72で所定の変調を受けたTE0成分は、出力側のモード変換素子21を経て第3光機能素子90から出力される。
【0075】
一方、TM0成分は、入力側のモード変換素子20の段差スラブ部24において、TE1成分に変換され、TE1成分として、入力側のモード変換素子20から出力される。この入力側のモード変換素子20から出力されたTE1成分はEA変調器72に入力される。EA変調器72で所定の変調を受けたTE1成分は、出力側のモード変換素子21の段差スラブ部94において、TM0成分に変換され、TM0成分として、第3光機能素子90から出力される。
【0076】
このように第3光機能素子90では、入力側のモード変換素子20において、信号光のTM0成分がTE1成分に変換される。このため、EA変調器72の受信感度に大幅な偏波依存性が存在しても、光機能素子全体として、受光効率の偏波依存性を低減することができる。また、出力側のモード変換素子21において、信号光のTE1成分がTM0成分に変換される。このため、第3光機能素子90に入力される信号光の偏波状態を保ったまま、EA変調器72で変調された信号光を出力することができる。
【0077】
第3光機能素子90の製造方法については、出力側のモード変換素子21を形成するための、ハーフエッチパターンの形状を除いては、第2光機能素子と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
(他の構成例)
上述した第1光機能素子では、光電子デバイスとしてPIN構造が縦型のPDを用いる例について説明したが、これに限定されない。PIN構造が横型のPDを用いても良い。また、第1光機能素子では、Si導波路からGe層への光の結合はエバネッセント結合であるが、バットカップリング結合でもよい。また、PIN−PDではなくアバランシェフォトダイオードを光電子デバイスとして用いても良い。
【0079】
また、第2光機能素子及び第3光機能素子では、予め用意したEA変調器をテラスに実装する構成であるが、第1光機能素子と同様に光導波路とEA変調器を作り込む構成にしても良い。また、実装する光電子デバイスは、EA変調器に限定されない。半導体光増幅器などを実装して、利得の偏波依存性を低減することもできる。また、PDをテラスに実装しても良い。
【0080】
また、ここでは、光導波路をSiで構成する例を説明したが、光導波路は、クラッドを形成する材料よりも高い屈折率を持つ材料で構成しても良い。例えば、クラッドにSiOを用いた場合、モード変換素子を形成する材料として、SiO(0<x<2)や、SiON、SiNを用いても良い。また、光導波路をSiで構成した場合は、クラッドを形成する材料として、SiO(0<x<2)や、SiON、SiNを用いても良い。
【符号の説明】
【0081】
10 第1光機能素子
12 支持基板
14 下部クラッド
16、17 光導波路
18 上部クラッド
20、21 モード変換素子
22、92 細線導波路部
24、94 段差スラブ部
25 下部スラブ部
27 上部テーパ部
28、98 スラブ部
30 フォトダイオード
32 低濃度p−Si領域
34 高濃度p−Siコンタクト領域
42 Ge層
44 高濃度n−Geコンタクト領域
50 コンタクト電極
52 パット電極
60、62 ハーフエッチパターン
70 第2光機能素子
72 EA変調器
74 出力側導波路
75 テーパ部
77 等幅導波路
80、82、84 レジストパターン
90 第3光機能素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9