(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118901
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】裏地付き運動用パンツ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20170410BHJP
A41D 1/06 20060101ALI20170410BHJP
A41D 1/08 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
A41D13/00 115
A41D1/06 B
A41D1/06 501D
A41D1/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-530623(P2015-530623)
(86)(22)【出願日】2013年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2013071524
(87)【国際公開番号】WO2015019467
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2015年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】古閑 豊
(72)【発明者】
【氏名】高本 義国
(72)【発明者】
【氏名】松本 直子
【審査官】
米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3128015(JP,U)
【文献】
特開2004−244741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/06−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地の裏側に裏地を設けた裏地付きの運動用パンツにおいて、股間から臀溝を通って大転子付近までの裏地部分に、運動時における皮膚伸びに追従する皮膚伸び追従部を設け、前記皮膚伸び追従部を、前記裏地の主素材よりも高伸縮な生地によって構成したことを特徴とする裏地付きの運動用パンツ。
【請求項2】
表地の裏側に裏地を設けた裏地付きの運動用パンツにおいて、股間から臀溝を通って大転子付近までの裏地部分に、運動時における皮膚伸びに追従する皮膚伸び追従部を設け、前記皮膚伸び追従部を、裏地生地に入れた切れ目によって構成したことを特徴とする裏地付きの運動用パンツ。
【請求項3】
運動時における皮膚伸びに追従する皮膚伸び追従部を、股間から鼠径部に至る裏地部分に追加している請求項1又は2に記載の裏地付きの運動用パンツ。
【請求項4】
股間から臀溝を通って大転子付近までの裏地部分に設けられた皮膚伸び追従部と、股間から鼠径部に至る裏地部分に設けられた皮膚伸び追従部とが繋がっている請求項3記載の裏地付きの運動用パンツ。
【請求項5】
前記表地と裏地の間に、中とじ布を有する請求項1〜4のいずれかに記載の裏地付きの運動用パンツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ランニング用パンツ、フィットネスパンツ等の運動用パンツ、特に表地の裏側に裏地の付いた裏地付き運動用パンツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
裏地付き運動用パンツは、保温性や透湿性、通気性を良好にするために、表地の裏側に裏地が付けられている。
【0003】
この裏地には、要求機能によって、タフタ素材、メッシュ素材、起毛素材、起毛メッシュ素材などが使用されている。
【0004】
例えば、タフタ素材の裏地は、表地と身体との滑りをよくしたり、保温性を高める目的で保温材(中綿、羽毛など)を固定するために使用される。
【0005】
また、メッシュ素材の裏地は、透湿性、通気性の低いトレーニングパンツ、レインパンツなどの汗取りや蒸れ対策用に使用される場合が多い。
【0006】
また、起毛素材の裏地は、保温性を高めるために使用される場合が多い。
【0007】
また、起毛メッシュ素材の裏地は、保温性や透湿性、通気性を高めるために使用される場合が多い。
【0008】
また、上記素材を部分的に切り替えて別素材と組み合わせて使用する場合もあり、裏地の使用方法と目的は様々である。
【0009】
ところで、皮膚表面には方向性のある体毛や角質があり、また、運動による発汗の影響により、皮膚と直接接触する裏地は、表地と異なり、皮膚との摩擦が大きく、運動時に皮膚伸びが大きい部位で引きつれが生じ、裏地が運動時の身体追従性を阻害する。
特に、裏地付きのパンツでは、生地の厚みが増すため、裏地のないものよりも身体への追従性が低下する傾向にあるのに、従来、裏地付き運動用パンツにおいて、運動時の身体追従性を考慮したものはなく、これらは裏地の引きつれによる不快感が生じるものが多く、身体へのフィット性が悪いという問題があった。
【0010】
裏地の付いていない運動パンツでは、局所的に伸縮性の高い生地を用いて、動きやすさを向上させるという技術が、特許文献1あるいは特許文献2に開示されている。
【0011】
即ち、特許文献1に開示された胴体下部から大腿部を被う陸上競技用スパッツでは、縦横方向に伸縮する素材からなり、足の運動動作を妨げないことを目的にして、
図12A,
図12Bに示すように、正面の鼠径部から側面の腸骨稜を通り背面の臀部下方部に至る領域21を、その他の部分よりも伸縮性が大きい素材によって形成している。
【0012】
また、
図13に示すように、動作時の身体への追従性に優れ、身体への過度の負荷がかからないように、臀部に相当する部分22および大転子に相当する部分23に伸縮性素材からなる生地を設け、大転子に相当する部分23に設ける生地が縦方向に対してバイアスの地の目となるように設けた軽スポーツ用パンツが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−293203号公報
【特許文献2】特開2012−167379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、上記特許文献1に開示された陸上競技用スパッツは、身生地よりも伸縮性の高い生地により動きやすさを向上させているが、股間の外面の目立つ部分に伸縮性の高い生地を配置しているため、見た目が非常に劣るという問題がある。
【0015】
また、上記特許文献2に開示された軽スポーツ用パンツは、伸縮性の高い生地を臀部から大転子部の広い範囲に設けているので、動作時に身体へ追従する効果は期待できる。しかしながら、商品にするにあたって品質上問題のない伸縮性の高い生地は、概して、比較的高価であるため、広い範囲に配置するとコストが高くなるという問題がある。また、臀部は皮膚の伸び縮みが大きく、その部分に伸縮性の高い生地を配すると、長期間の着用により形状維持ができずに弛みが生じて、外観が損なわれてしまうという問題がある。さらに、お尻や下着のラインが出るため、女性は嫌がる傾向にある。
【0016】
そこで、この発明は、外観を損なうことなく、運動時の引きつれによる不快感がなく、フィット性に優れた裏地付き運動用パンツを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明は、上記の課題を解決するために、表地の裏側に裏地を設けた裏地付きの運動用パンツにおいて、裏地の股間から臀溝を通って大転子付近までの部分に、運動時における皮膚伸びに追従する皮膚伸び追従部を設けたことを特徴とする。
【0018】
この発明において、裏地の皮膚伸び追従部とは、前記裏地の主素材よりも高伸縮な生地又は切れ目によって構成される裏地の部位であり、運動時に皮膚伸びが生じると、皮膚との摩擦によって、裏地に引きつれが生じないように、皮膚伸びに追従して広がる部位をいう。
【0019】
片脚を外側に大きく上げたり、大きく開脚して腰を落とすと、臀部や大腿部に、大きな皮膚伸びが生じ、皮膚との摩擦によって裏地に引きつれが生じやすいが、この発明では、皮膚伸びに追従して、裏地の皮膚伸び追従部が広がるため、裏地の引きつれが軽減され、裏地が身体の動きに追従する。
【0020】
そして、裏地と表地とは、生地同士であるため、一般的に摩擦が非常に少なく、裏地の皮膚伸び追従部が広がっても、表地にほとんど影響せず、良好なフィット性が得られる。すなわち、表地に低伸縮な生地を用いても、パンツ全体として引きつれが生じない。
【発明の効果】
【0021】
この発明の裏地付き運動用パンツは、表地ではなく、裏地の股間から臀溝を通って大転子付近までの部分にのみ皮膚伸び追従部を設けることによって、外面から裏地の皮膚伸び追従部が見えないため、外観を損なうことなく、裏地付き運動用パンツの身体へのフィット性を向上させることができる。
【0022】
また、裏地の皮膚伸び追従部を比較的高価な高伸縮性素材によって形成しても、裏地の一部分の使用であるため、全体のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツの背面図である。
【
図2】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツの正面図である。
【
図3】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツの側面図である。
【
図4】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツを着用して両足を大きく開脚して腰を落とした場合における臀部から大腿部に生じる引きつれ方向と皮膚伸び追従部との関係を示す背面図である。
【
図5】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツを着用して片脚を外側に上げた場合における支持脚と上げ脚の大腿部に生じる引きつれ方向と皮膚伸び追従部との関係を示す背面図である。
【
図6】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツを着用して片脚を前に上げた場合における支持脚と上げ脚の大腿部に生じる引きつれ方向と皮膚伸び追従部との関係を示す背面図である。
【
図7】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツを着用して両足を大きく開脚して腰を落とした場合における股間から大腿部に生じる引きつれ方向と皮膚伸び追従部との関係を示す正面図である。
【
図8】この発明の実施形態1の裏地付き運動用パンツを着用して片脚を外側に上げた場合における上げ脚の大腿部に生じる引きつれ方向と皮膚伸び追従部との関係を示す正面図である。
【
図9】この発明の実施形態2の裏地付き運動用パンツの背面図である。
【
図10】この発明の実施形態3の裏地付き運動用パンツの背面図である。
【
図11】皮膚伸び追従部の効果確認実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明に係る裏地付き運動用パンツの実施形態を説明する。なお、以下の実施形態において、同一の構成部分または同様の構成部分には、同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0025】
図1〜
図3に示す実施形態1の裏地付き運動用パンツ1は、表地2と裏地3とからなる。
【0026】
表地2の丈は、足首付近までの長さがあり、裏地3は総裏タイプで、裏地3の長さは表地2の丈とほぼ同じ長さに形成され、裏地3は、ウエスト部分と裾部で表地2に接合されている。
【0027】
裏地3の股間から臀溝を通って大転子付近までの部分に、運動時における皮膚伸びに追従する皮膚伸び追従部3aを設けている。
【0028】
裏地3の皮膚伸び追従部3aとは、裏地3の主素材よりも高伸縮な生地又は切れ目によって構成される裏地3の部位であり、運動時に皮膚伸びが生じると、皮膚との摩擦によって、皮膚伸びの影響により、裏地3に引きつれが生じないように、皮膚伸びに追従して広がる部位をいう。ここで、皮膚伸び追従部3aの大きさ(長さや幅)は、裏地3の引きつれを軽減する範囲で適宜設定することができる。また、皮膚伸び追従部3aは、裏地3の引きつれを軽減できる範囲で分断されていてもよい。
【0029】
この発明では、裏地3の皮膚伸び追従部3aを、股間から臀溝を通って大転子付近までの部分に設け、脚を横や前に上げたり、大きく開脚して腰を落とした際の裏地3の引きつれを効果的に軽減している。
【0030】
例えば、
図4、
図5、
図6に示すように、片脚を外側に大きく上げたり、大きく開脚して腰を落とすと、臀部や大腿部に、破線の矢印Aに示す方向に大きな皮膚伸びが生じ、皮膚との摩擦によって裏地3に引きつれが生じやすいが、この発明においては、裏地3の股間から臀溝を通って大転子付近までの部分に皮膚伸び追従部3aを設けているので、皮膚伸びに追従して、皮膚伸び追従部3aが広がるため、矢印Aの方向の引きつれが軽減され、裏地3が身体の動きに追従する。
【0031】
そして、裏地3と表地2とは、生地同士であるため、摩擦が非常に少なく、一般的な生地の表地2であれば、身体の動きに追従する裏地3が表地2にほとんど影響しない。
【0032】
したがって、裏地3の股間から臀溝を通って大転子付近までの部分にのみ皮膚伸び追従部3aを設けることによって、外観を損なうことなく、裏地付き運動用パンツ1の身体へのフィット性を向上させることができる。
【0033】
また、
図1〜
図3に示す実施形態1では、裏地3の股間から鼠径部に至る部分にも皮膚伸び追従部3aを設けている。
【0034】
裏地3の股間から鼠径部に至る部分に皮膚伸び追従部3aを設けると、
図7に示すように、脚を大きく開脚して腰を落とす動作を行った際に、股間から内腿に沿って生じる大きな皮膚伸び(矢印A)が生じても、股間から鼠径部に至る部分に設けた皮膚伸び追従部3aが広がるため、裏地3の引きつれが軽減され、裏地3が身体の動きに追従する。
【0035】
また、
図8に示すように、片脚を外側に上げた場合に、股間から内腿に沿って生じる大きな皮膚伸び(矢印A)が生じても、股間から鼠径部に至る部分に設けた皮膚伸び追従部3aが広がるため、裏地3の引きつれが軽減され、裏地3が身体の動きに追従する。
また、股間から臀溝を通って大転子付近までの裏地部分に設けられた皮膚伸び追従部3aと、股間から鼠径部に至る裏地部分に設けられた皮膚伸び追従部3aとが繋がっていてもよい。これにより、裏地3の引きつれがより一層軽減されるし、製造しやすくなる。
【0036】
図9に示す実施形態2の裏地付き運動用パンツ1は、表地2の丈は、足首付近までの長さがあり、実施形態1と同様であるが、裏地3の長さを短く、膝下あたりまでの長さにした例である。なお、実施形態2において、裏地3の丈が表地2の丈よりも短ければ、表地2の丈は足首付近までの長さよりも短くてもよい。
【0037】
図10に示す実施形態3の裏地付き運動用パンツ1は、表地2の丈は、足首付近までの長さがあり、実施形態1と同様であるが、裏地3の長さを実施形態2よりもさらに短く、膝上のあたりまでの長さにした例である。なお、実施形態3において、裏地3の丈が表地2の丈よりも短ければ、表地2の丈は足首付近までの長さよりも短くてもよい。
【0038】
上記の実施形態1〜3において、表地2と裏地3は、ウエスト部と裾部において互いに接合しているが、フロント部、サイド部、裾部は、表地2と裏地3をファスナーで留めて、ファスナーを開いて表地2と裏地3を一緒に開閉できるようにしてもよい。
【0039】
また、表地2と裏地3の間に、中とじ布を付けてもよい。
【0040】
裏地3の材料としては、タフタ素材、メッシュ素材、起毛素材、起毛メッシュ素材などを使用することができ、皮膚伸び追従部3aは、他の部分の生地よりも伸縮性の高い生地を使用することが好ましい。
【0041】
<皮膚伸び追従部3aの効果確認実験>
裏地3の皮膚伸び追従部3aを伸縮性の高い生地により構成した
図1〜
図3に示す実施形態1の裏地付き運動用パンツ1と、裏地3に皮膚伸び追従部3aを設けていない従来の裏地付きパンツを、寸法が同じLサイズの大きさに縫製し、被検者の男性7名(ヒップ:94.4±2.4cm、ウエスト:79.5±2.3cm、身長:173.1±1.6cm)に着用させ、股関節と膝関節を屈曲して脚を上げる動作と、脚を左右に広げて腰を落とす動作を行なって、引きつれ感を評価する実験を行った。
【0042】
引きつれ感を評価する部位は、膝部、臀部、股間とし、「全くつっぱらない」から「非常につっぱる」までを10cmの線にして、その線上で感じた位置にマークを付けて評価した。
【0043】
引きつれ感を評価する場合、前に着用したパンツの評価を見直しても良いこととした。引きつれ感の評価を数値化し、被検者とパンツの2要因の分散分析を行い、パンツの要因に有意差があった場合、最小有意差法でどのパンツ間に差があるのかを調べた。有意水準(p)は5%(p<0.05)とした。
【0044】
実験結果は、
図11に示すとおり、裏地3のみに皮膚伸び追従部3aを配置したパンツは従来例に比べて、臀部の引きつれ感が統計的に有意に小さかった。統計的に有意差がなかった膝部および股間も、被検者7名中5名が、裏地のみに皮膚伸び追従部3aを配置したパンツが従来例よりも引きつれ感が小さいと評価していた。
【0045】
<表地の動きの検討実験>
この発明に係る実施形態1の裏地付き運動用パンツ1を着用し、脚を上げたときのパンツの引きつれや滑りを視覚的に明らかにする実験を行った。
【0046】
実験方法は、(JASPO)Lサイズの大きさに縫製し、10cm間隔で反射マーカーを付けた実施形態1の裏地付き運動用パンツ1を、男性1名の被検者(ヒップ97cm、ウエスト83cm、身長175cm)に着用させ、身体の向きを右、正面、左、後ろに変えて足を上げる動作を行なった。
【0047】
足を上げる動作を行なった際の被検者を、カメラを固定して撮影して確認したところ、実施形態1の裏地付き運動用パンツ1は、上げ脚の裾が上がっていた。これは、膝付近のマーカーが上がっていることからも確認することができた。上げ脚の裾が上がるのは、裏地と皮膚との摩擦による裏地の引きつれが生じないからである。
【0048】
従来の裏地付き運動用パンツも同様に実験を行ったところ、上げ脚の裾があまり上がらず、支持脚の太もも前、内側の生地(マーカー)が、上に移動した。裏地と皮膚との摩擦によって上げ脚の生地が引きつれるため、支持脚の太ももの生地が引っ張られたと考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 裏地付き運動用パンツ
2 表地
3 裏地
3a 皮膚伸び追従部