【実施例】
【0093】
実施例1:モルチエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)種CNCM I−4642によるARAに富む粗製油の産生
主発酵は、2シリーズのより小さい発酵槽から接種された培養培地が入った発酵槽で実施される。
【0094】
急速前培養(6×200mL)
・グルコース3%、酵母粉末(7%窒素含量)1.5%を含有する培地中、
・温度28℃、
・240rpmで撹拌、
・継続期間24〜48時間。
【0095】
この前培養の終わりに:3L反応器内で、6×200mLを混ぜ合わせる。
【0096】
第1発酵工程(1m3反応器)
・グルコース3%、酵母粉末(7%窒素含量)1.5%を含有する培地中、
・接種材料の量:0.1〜1容量%、
・温度:28℃、
・圧力:0.03mPa、
・通気度:最大
・機械的撹拌なし、
・継続期間:32〜48時間、
・作用量:全容積の70%、
・pH:6〜6.5(アルカリで調節)、
・最終量:750L。
【0097】
第2発酵工程(10m3反応器)
・グルコース4%、酵母粉末(7%窒素含量)1.5%、消泡剤(ひまわり油)0.2%を含有する培地中、
・接種材料の量:10〜15容量%、
・温度:28℃、
・圧力:0.03mPa、
・通気度:最大、
・機械的撹拌なし、
・継続期間:24〜32時間、
・作用量:全容積の70%、
・pH:6〜6.5(アルカリで調節)、
・最終量:7.5m
3。
【0098】
主発酵(85m3反応器)
・グルコース3%、酵母粉末(7%窒素含量)2%、(ひまわり油)0.2%を含有する
培地中、
・C/N(炭素/窒素)比:7〜8、
・接種材料の量:15〜25容量%、
・温度:27〜28℃、
・通気度:最大、
・機械的撹拌なし、
・継続期間:155〜165時間、
・作用量:全体積の70%、
・pH:7〜7.1、
・最終量:60〜63m
3。
【0099】
この主発酵工程を記述しようとする際、この場合、好気性発酵プロセスであるということを覚えておかれたい。
【0100】
発酵反応器は、機械的手段なしで、細胞および培養培地の通気および混合を実施するような方法で規定される:好ましくは、この場合、直径3.5mおよび高さ8.7mを有する気泡塔である。
【0101】
発酵槽の全容積は85m
3である。発酵は一般に6〜7日間(155〜165時間)持続し、温度は27〜28℃である。
【0102】
好適であるが簡単な培地が発酵で使用される。
【0103】
好ましい炭素源は、グルコースのみからなり、窒素源は酵母粉末(7%N含量)からなる。
【0104】
C/Nモル比は7〜8に維持される。
【0105】
窒素源および炭素源は、別々に滅菌されて、別々に添加される。
【0106】
窒素源は、グルコース発酵の始めに全部一度に供給され、「フェッドバッチ」方式で添加される。
【0107】
培養培地は:
・生じる泡のレベルを調節するための、消泡剤(食品用シリコーンを主成分とする)および/またはひまわり油、および
・pHを6.5〜7.1の最適値に調節するための、水酸化ナトリウム(NaOH)、
を含有する水である。
【0108】
最適温度は、好ましくは27〜28℃である。
【0109】
発酵中、培地を撹拌する。
【0110】
これは、殺菌した空気を培地に「注入」することによりもたらされる通気によって実施され、また細胞に酸素を提供する。
【0111】
通気は調節されず、発酵を通して最大(0.8〜1 VVMの値)に保たれる。
【0112】
通気を促進するための、追加の機械的撹拌はない。
【0113】
発酵の終わりに、グルコース含量がゼロと等しく、pHの上昇が7.5超のとき(細胞溶解の開始を示す)、反応器を停止し、次いで濾過(フィルター−プレス)により発酵タンクから微生物を回収する。
【0114】
85m
3反応器での発酵中、培地中に存在する炭素源の全量が調節され、以下に記載の通り、5つの工程は明らかに識別された。
【0115】
1.第1工程
これはt=0時間から始まり、一般に20〜24時間後に終了する。
【0116】
この期間中、炭素源は過剰であり、細胞成長にとって制限的であってはならない。
【0117】
炭素源はこの期間中添加されず、培地中の還元糖類の含量は30g/Lから20g/Lまで減少する。
【0118】
pHは管理されない:その値は6.3から5.7まで僅かに低下する。
【0119】
この第1工程の終わりに、バイオマスの濃度は16g/L培地に達することがあり、全脂質含量は少なくとも4.7g/L培地であり、アラキドン酸含量は好ましくは1.3g/L培地より多い。
【0120】
2.第2工程
これは、t=20時間に開始し、一般に50〜55時間後に終了する。
【0121】
この期間中、利用できる炭素源は制限的であってはならず、添加速度は通常は、細胞による消費速度より僅かに低いはずである。
【0122】
グルコース溶液(25g/L)は、1時間当たり0.15M炭素/kg培地の平均速度(単位は、炭素源中の炭素のモル量である)で添加され、培地中の還元糖類の含量は、20g/Lから11g/Lまで減少する。
【0123】
pHは、NaOH溶液を給送することにより5.7〜7に調整され、管理される。
【0124】
この第2工程の終わりに、バイオマスの濃度は、21g/L培地に達することができ、全脂質含量は少なくとも8.3g/L培地であり、アラキドン酸含量は好ましくは3.1g/L培地より多い。
【0125】
これらの最初の2工程の目的は、主要量のバイオマスを製造することである。
【0126】
3.第3工程
これは、t=55時間に開始し、一般に100〜105時間後に終了する。
【0127】
この期間中、利用できる炭素源はまだ制限的ではなく、添加速度は通常、細胞による消費速度より低いはずである。
【0128】
グルコース溶液(25g/L)は、1時間当たり0.08M/kg培地の平均速度で添加され、還元糖類の含量は11g/Lから4g/Lまで減少する。
【0129】
pHは、NaOH溶液を添加することにより7〜7.1に調整され、管理される。
【0130】
この第3工程の終わりに、バイオマスの濃度は24g/Lに達することができ、全脂質含量は少なくとも11g/Lであり、アラキドン酸含量は好ましくは5g/L培地より多い。
【0131】
4.第4工程
これは、t=100時間に開始し、一般に130〜135時間後に終了する。
【0132】
この期間中、炭素源は僅かに制限され、また添加速度は通常、細胞による消費速度より低いはずである。
【0133】
グルコース溶液(25g/L)は、1時間当たり0.04M炭素/kg培地の平均速度で添加され、還元糖類の含量は4g/Lから1g/Lまで減少する。
【0134】
pHは管理されず、わずかに上昇し、7.1から7.3になる。
【0135】
この第4工程の終わりに、バイオマスの濃度は26g/L培地に達することができ、全脂質含量は少なくとも12.4g/L培地であり、アラキドン酸含量は好ましくは6.2g/L培地より多い。
【0136】
第3工程および第4工程の目的は、主要量の脂質を製造することである。
【0137】
5.第5工程
これはt=130時間に開始し、一般に160〜170時間後に終了する。
【0138】
この期間中、利用できる炭素源は制限的であり、炭素源の供給は停止される。
【0139】
培地中の還元糖類の含量は1g/Lから0g/Lに急速に減少する。
【0140】
pHは管理されず、7.3から7.5にわずかに上昇する。
【0141】
この第5工程の終わりに、バイオマスの濃度は27g/L培地に達することができ、全脂質含量は少なくとも14g/Lであり、アラキドン酸含量は好ましくは7.6g/L培地より多い。
【0142】
この第5工程の目的は、脂質の全濃度に影響を及ぼさずにアラキドン酸含量を高めることである。
【0143】
pHが7.5という値を超えるとき(細胞溶解の開始を示す)、反応器を停止して、発酵培地を70℃で30分間、低温殺菌し、30℃〜25℃に冷却した後、フィルタープレスを通過させることにより微生物を発酵槽から除去する。
【0144】
この発酵を実施する主要な指標を、下表Iに示す。
【0145】
【表1】
【0146】
この発酵の結果を下表IIに示す。
【0147】
【表2】
【0148】
実施例2:CNCM I−4642種バイオマスの回収および調整
実施例1の発酵を実行する第5工程の終わりに、培地を70℃で30分間、低温殺菌した後に30〜25℃に冷却した後、プレス下で濾過による機械的脱水後、次には微生物を発酵培地から回収することができる。
【0149】
濾過および浄水による洗浄後(水0.5V/培地1V)、バイオマスケーキの乾物含量は65%〜75%である。
【0150】
第2工程で、バイオマスケーキを、0.5〜1.5cm
2の粒子に粒状化し、次いで流動層乾燥装置を使用して粒子を乾燥させる。
【0151】
乾燥時間は、導入される空気の投入温度150℃で約45〜55分である。
【0152】
出力空気温度が95〜100℃を超えるとき、空気投入は停止される。
【0153】
バイオマスを周囲温度まで冷却し、酸化を制限するために、25kgバッグ内、窒素下で、バイオマスを保存する。
【0154】
バイオマスの組成を下表IIIに示す。
【0155】
【表3】
【0156】
実施例3.乾燥して粒状化したバイオマスからの粗製油の抽出
本テクニックは、液体溶媒とのアフィニティによる油の抽出にある。
【0157】
油は、実施例2で得られる顆粒から、6〜7barの圧力下で液体ブタンを使用して抽出される。
【0158】
抽出収率を最適化するために、バイオマスを、リサイクルされた新しい溶媒と連続7回混合するが、いずれの回も接触時間は50〜60分である。
【0159】
抽出収率は85%超である(90%〜95%という値に達することができる)。
【0160】
溶媒の真空蒸留および乾燥(圧力0.1mPaおよび温度70〜80℃)後に、油を回収する。
【0161】
下表IVは、得られた粗製油のプロフィールを示す。
【0162】
【表4】
【0163】
実施例4.油の精製および純正化
1.精製相
この精製相は、当業者により従来法で実施される、連続した6工程:
・脱ガム:クエン酸による酸性化、
・鹸化:アルカリによる中和、
・ガム質および石鹸を除去するための遠心分離、
・水による洗浄、
・珪質、活性炭およびクレイによる退色、ならびに
・濾過、
を含む。
【0164】
2.純正化相
純正化相の目的は、まずい味および過酸化物を除去するためであり、また純正化相は、油の安定性を最適化する。
【0165】
この相は:
・分子蒸留(UNS因子があまりにも高い場合に使用される)、
・強真空下での蒸気脱臭、
の1つまたは2つの工程を連続的に含む。
【0166】
本プロセス全体を通して、純正化収率は約78〜80%であり、また達成指標を下表Vに示す。
【0167】
【表5】
【0168】
最終的な油は、40℃で透き通った黄色液体の形であって、均質であり、外来不純物を含まない。
【0169】
臭いは不明確であり、変敗臭はない。
【0170】
強真空下での蒸気脱臭工程からの揮発性画分も回収される。
【0171】
慣習的に、この脱臭工程は特定の反応器で実施され、ここで揮発性画分を放出するために油が加熱され、強真空にかけられる。
【0172】
ここでは、このバッチテクニックは1200L反応器内、50%の供給原料量、不活性窒素雰囲気で実施される。
【0173】
油を、周囲温度から185℃(ジャケットおよび190℃の蒸気の内部注入によってもたらされる温度)まで徐々に加熱する。
【0174】
温度が185℃で安定した後、260Paまで真空を徐々に作り、30分間維持する。
【0175】
この処理により放出されるガス画分は、周囲温度で凝縮され、外部サイクロンにより回収される。
【0176】
この画分の組成は:
・25℃で、CDCL
3+CD
3ODに溶解した、赤外分光光度法およびプロトンNMR分光光度法、および25℃で、CDCL
3+CD
3OD+バッファーpH7に溶解した、リンNMR分光光度法、および
・全脂肪酸については、F−CPG−043によるガスクロマトグラフィ、
で測定される。
【0177】
画分は、主としてトリグリセリド(含量は約80%と推定される)からなり、スクアレンは10%の量で検出される。
【0178】
脂肪酸プロフィールは下記の通りである。
【0179】
【表6】
【0180】
実施例5.市販の油または文献に記述されている油と比較した、本発明による油の脂質プ
ロフィールの比較試験
脂肪酸は、エタノール性塩酸とのエステル交換反応およびクロロホルムによる抽出後に、メチルエステルの形でガスクロマトグラフィにより測定した。結果は、%分布として表す;分析は、内部標準法により実施する。
【0181】
タップフォーカスライナーおよび水素炎イオン化検出器と共に、スプリット―スプリットレスインジェクタ(a split−splitless injector)を備えたクロマトグラフ(Varian 3800)を使用した。
【0182】
メタノール1mL当たり、正確に約0.5mgのヘプタデカン酸メチルを含有する内部標準溶液を調製した。ヘプタデカン酸メチルは、リファレンスのクロマトグラフィポイントの役割をした。
【0183】
正確に約30mgの予備乾燥試料を6mLチューブに量り込む。2本の測定線が付いたピペットを使用して、内部標準溶液1mLを、次いで3Nエタノール性塩酸2mlを加えた。次いでこのチューブに栓をし、110℃の恒温乾浴槽に4時間入れた。
【0184】
冷却後、水約0.5mLおよび飽和塩化ナトリウム水溶液0.5mLを加え、クロロホルム1mLで3回、抽出を実施した。クロロホルム相を6mLチューブに回収し、硫酸ナトリウが入ったカラムで乾燥した。それらを窒素流下で約1mLまで濃縮して注入した。
【0185】
各脂肪酸の%分布(i)は、ヘプタデカン酸メチルピークを除外し、ラウリン酸(C12:0)からDHA(C22:6 Δ4c、7c、10c、13c、16c、19c)まで(両者を含む)の、クロマトグラム上の特定された全ピークの面積の合計と比較した、この脂肪酸のピーク面積の比率によって得た。
【0186】
この方法に従って分析された油(下表VI)は、本発明のものの他に、Cargill社、Fuxing社およびSuntory社により販売されている油である。
【0187】
文献に記述されているM.カルマゲンシス(M.carmagensis)およびM.シュマッケリ(M.schmuckeri)から抽出された油の脂肪酸プロフィールは、コントロールとして存在する。
【0188】
本発明によるアラキドン酸に富む油は:
・50%超のARA、
・EPA含量約0.1%、
・および特に、商用微生物に由来するかまたは文献に記述されている他の油と比較して、0.5%未満、好ましくは0.2%未満のミリスチン酸(C14:0)、9%未満、好ましくは7%未満のパルミチン酸(C16:0)、3%未満、好ましくは2.5%未満のベヘン酸(C22:0)および3%未満、好ましくは2.5%未満のリグノセリン酸(C24:0)、
を含む。
【0189】
【表7】
【0190】
実施例6.油抽出工程後に得られる残留バイオマスの特性化
実施例4の精製工程および純正化工程の後、得られる残留バイオマスは、85%〜95%の乾物含量を有する。
【0191】
次いで、その含量を決定するために、分析を実施する:
・全窒素(N6.25の%の決定)
・全脂質、
・全糖類、
・可溶性繊維
ならびに:
・残留脂肪酸分布、
・残留糖プロフィール、
・アミノグラム。
【0192】
下表VIIは、5バッチの残留バイオマスのプロフィールを示す。
【0193】
【表8】
【0194】
【表9】
【0195】
【表10】
【0196】
したがって残留バイオマスは、その蛋白質窒素含量(35%〜45%)、その可溶性繊維含量(20%〜30%)およびその残留糖含量(15%〜20%)のため、また特定の種(ペット、水産養殖)には、その残留ARA含量(3.5%〜4.5%)のため、動物飼料におけるその用途に完全に適していると思われる。