(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118916
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ステアリングホイール
(51)【国際特許分類】
B62D 1/06 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
B62D1/06
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-554623(P2015-554623)
(86)(22)【出願日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】JP2014077510
(87)【国際公開番号】WO2015098248
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-270449(P2013-270449)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【復代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】金 眞根
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−060149(JP,A)
【文献】
特開平11−268652(JP,A)
【文献】
カオ ミン タイ,“ウレタン樹脂のリサイクル技術”,東芝レビュー(Vol.56 No.8 pp.46-49,[online],(株)東芝,2001年 8月20日,[検索日2013.12.22],インターネット〈http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2001/08/56_08pdf/a12.pdf〉
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムに連結されるボス部と;ドライバーが把持する把持部と;前記ボス部と前記把持部を連結するスポーク部とを有するステアリングホイールにおいて、
前記把持部は、
合成樹脂によって成形される合成樹脂層と;
芯金と;
当該芯金の外周面側に配置された柔軟な多孔質材料層と;
前記多孔質材料層の外側表面上に配置されたヒータエレメントと;を含み、
前記多孔質材料層と前記ヒータエレメントは前記合成樹脂層に内包され、
前記多孔質材料層は、前記合成樹脂が前記芯金に達するのに十分な大きさの空隙を全体に有し、これによって、前記ヒータエレメント及び当該多孔質材料層を前記芯金に対して固定可能であることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項2】
前記多孔質材料層は、オープンセル構造の材料によって成形されることを特徴とする請求項1に記載のステアリングホイール。
【請求項3】
前記多孔質材料層は、三次元網状構造を有する材料によって成形されることを特徴とする請求項1に記載のステアリングホイール。
【請求項4】
少なくともドライバーが把持する把持部の表面に合成樹脂層が形成されたステアリングホイールの製造方法において、
前記合成樹脂層を成形する合成樹脂が貫通するのに十分な大きさの空隙を全体に有する多孔質材料層を準備する工程と;
ヒータエレメントが前記多孔質材料層の外側表面上に配設されるように、前記多孔質材料層を前記把持部の芯金の周囲に巻き付ける工程と;
前記ヒータエレメントを備えた前記多孔質材料層の前記空隙を介して前記合成樹脂を浸透・充填させることで、前記ヒータエレメントを備えた前記多孔質材料層を芯金に対して固定して、前記合成樹脂層を形成する工程と;を含むことを特徴とするステアリングホイールの製造方法。
【請求項5】
前記多孔質材料層は、オープンセル構造の材料によって成形されることを特徴とする請求項4に記載のステアリングホイールの製造方法。
【請求項6】
前記多孔質材料層は、三次元網状構造を有する材料によって成形されることを特徴とする請求項4記載のステアリングホイールの製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂層を形成する前の状態では、前記ヒータエレメントは、前記多孔質材料層と接していない表面が他の部材によって覆われずに露出していることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載のステアリングホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調整機能(ヒーター及び/又はクーラー機能)を有するステアリングホイールの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などのステアリングホイールとして温度調整機能(ヒーター及び/又はクーラー機能)を有するものが提案、実用化されている。例えば、芯金の外側にヒータエレメントを配置した構造が提案されている。従来のヒータ機能を付きステアリングホイールとしては、例えば、特許文献1に示すものが存在する。
【0003】
ヒータ機能を有するステアリングホイールにおいては、効率よく熱をステアリング外皮に伝達させることが重要である。そこで、特許文献2に示すように、リムの表面に骨格を形成し、その上にヒータエレメントを配置する構造が提案されている。しかしながら、特許文献2に開示された発明では、ステアリングホイールを握ったときの感触が硬くなり、違和感を感じやすい。また、部品点数の増加に伴う構造の複雑化、製造工程の複雑化によりコストの上昇が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−153026号公報
【特許文献2】特開2013−139203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、温度調整機能の付加に伴うコストの上昇を最小限に抑制可能なステアリングホイールを提供することを目的とする。
【0006】
また、効率よく且つ、均一に熱(温熱、冷熱)をステアリング外皮に伝達可能なステアリングホイールを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、ステアリングコラムに連結されるボス部と;ドライバーが把持する把持部と;前記ボス部と前記把持部を連結するスポーク部とを有するステアリングホイールにおいて、前記把持部は、合成樹脂によって成形される合成樹脂層と;芯金と;当該芯金の外周面側に配置された柔軟な多孔質材料層と;前記多孔質材料層の外側表面上に配置されたヒータエレメントと;を含む。そして、前記多孔質材料層と前記ヒータエレメントは前記合成樹脂層に内包された構造とする。
【0008】
「前記多孔質材料層と前記ヒータエレメントは前記合成樹脂層に内包」とあるが、ここでの「内包」は完全に包囲する場合の他に、限られた狭い範囲に部分的に露出している場合も含むものである。「合成樹脂」としては、サーモプラスチック、ポリプロピレン、ウレタン等、発泡性のもの非発泡性の何れのタイプも使用することができる。「芯金の外周面」とは、芯金の外側表面を意味するものである。「多孔質材料層の外側表面」とは、芯金に多孔質材料層を配置(巻き付けた)場合に、芯金と反対側の表面、すなわち、ドライバーが握る手に近い方の表面に相当する面を意味する。
【0009】
前記把持部は、前記ヒータエレメントを有する前記多孔質材料層を、当該ヒータエレメントが当該多孔質材料層の外側表面上に配設されるように、前記把持部の芯金の周囲に巻き付ける工程と;前記把持部の外表面を形成する前記合成樹脂層を形成する工程と;を含む方法によって製造されることが好ましい。
【0010】
上記のような本発明によれば、把持部の芯金周辺に柔軟な多孔質材料層を介してヒータエレメントを配置する構造であるため、ヒータエレメントを多孔質材料層の厚み分だけ芯金から間隔をおいて配置でき、表面に近い位置にヒータエレメントを配置することにより、温度調整効率が向上する。また、柔軟な多孔質材料層を採用することにより、芯金の周囲に容易に装着できるだけでなく、外側を合成樹脂層で包囲した場合にも握った感触を良好に保つことができる。本発明による多孔質材料層でない、例えば、フレーム構造の上にヒータエレメントを載せるような構造では、リムの表面をウレタン等で覆った場合にも、ステアリングを握ったときに違和感が残ってしまう。また、本発明においては、多孔質材料層の隙間が合成樹脂によって充填されることにより、当該多孔質材料層及びヒータエレメントを芯金に対して確実に密着・固定できる。このように本発明の構造的特徴によって、本来は複雑な構造となりがちな温度調整機能付きステアリングホイールを、低コストで製造することが可能となる。
【0011】
前記ヒータエレメントは、前記合成樹脂層を形成する前の状態では、前記多孔質材料層とは反対側の表面は他の部材によって覆われずに露出した構造とすることが好ましい。このような構造を採用することにより、全体にむらなく均一であり、且つ効率よく温度調整をすることが可能となる。
【0012】
「多孔質材料」とは、内部に多数の空隙がある構造を持った材料である。本発明においては、前記多孔質材料層は、発泡構造又は細胞のような構造のオープンセル構造を有する材料によって成形することができる。発泡構造は製造コストが低く抑えやすいというメリットがある。また、クローズドセルではなくオープンセル構造を採用することにより、合成樹脂の充填をスムーズ且つ、確実に行うことが可能となる。そのため、多孔質材料層は、合成樹脂が把持部の内部まで充填されるのに十分な大きさの空隙を有する構造とする。
【0013】
多孔質材料層としては、更に、三次元網状構造を有する材料を使用することもできる。「三次元網状構造」とは、糸状のポリエチレン樹脂等の樹脂繊維を不規則に接触絡合させた状態で部分的に融着し、発泡樹脂やスポンジのような状態に成形したものであり、融着工程での圧力や温度等を調整することによって隙間や柔軟性を容易にコントロールできるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るステアリングホイールを示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るステアリングホイールのリム部(把持部)の一部の構造を示す斜視図であり、説明の便宜上、部分的に内部を露出させている。
【
図4】
図4(A)は、本発明に使用される多孔質材料層及びヒータエレメントの配置を概略的に示す概念斜視図であり、
図4(B)は同(A)図のY−Y方向の断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に使用可能な他の多孔質材料層(オープンセル構造)を示す模式図であり、(A)が単一のセルの構造を示し、(B)が多孔質材料層の厚さtとセルとの大きさとの関係を概略的に示す。
【
図6】
図6は、本発明に使用可能な他の多孔質材料層(三次元網状構造)の一部を示す模式平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係るステアリングホイール10を示す平面図である。
図2は、本発明に係るステアリングホイール10のリム部(把持部)14の一部の構造を示す斜視図であり、説明の便宜上、部分的に内部を露出させている。
図3は、
図2のX−X方向の断面図である。
図4(A)は、本発明に使用される多孔質材料層20及びヒータエレメント22の配置を概略的に示す概念斜視図であり、
図4(B)は同(A)図のY−Y方向の断面図である。
【0016】
図1に示すように、本発明に係るステアリングホイール10は、ステアリングコラム(図示せず)に連結されるボス部12と;ドライバーが把持する把持部14と;ボス部12と把持部14を連結するスポーク部16とを備えている。把持部14は一般的にリムと呼ばれる部分に相当するが、温度調整機能という意味ではドライバーが触れる部分と言うことができる。
【0017】
図2及び
図3に示すように、把持部14は、ウレタンフォーム等の合成樹脂によって成形される合成樹脂層24と;芯金18と;芯金18の外周面側に配置された柔軟な多孔質材料層20と;多孔質材料層20の外側表面上に配置されたヒータエレメント22とを備えている。多孔質材料層20とヒータエレメント22は合成樹脂層24に内包されている。そして、合成樹脂層24が多孔質材料層20の空隙に入り込んで、ヒータエレメント22及び多孔質材料層20を芯金18に対して固定するようになっている。
【0018】
多孔質材料層20としては、例えば、発泡構造、オープンセル構造、三次元網状構造を採用することができる。多孔質材料層20は、何れにしても、ヒータエレメント22を芯金18から離間させ
るだけの厚みを持ち、合成樹脂が内部に十分に行き渡るだけの隙間を有し、合成樹脂層24で包囲した時に感触が損なわれないようにそれ自体が柔軟であることが好ましい。
【0019】
図2及び
図3に示すように、ヒータエレメント22は、合成樹脂層24を形成する前の状態では、多孔質材料層20とは反対側の表面は他の部材によって覆われずに露出していることが望ましい。これにより、部分的に熱が遮断させることが無く、全体にむらなく均一であり、且つ効率よく温度調整をすることが可能となる。ヒータエレメント
22は、中心のヒータ線22aと、これを覆う被覆部22bとから構成されている。ヒータ線22aは、電流を流すことによって発熱する金属線を採用することができる。
【0020】
図4に示すように、ヒータエレメント22は、被覆部22bを多孔質材料層20の表面に接着、融着等することによって固定される。なお、この時点でのヒータエレメント22の固定は、完全な固定である必要は無く、多孔質材料層20に対してずれない程度に保持されていれば良い。
図4において、白丸22cが接着点を示している。
【0021】
図5は、本発明に使用可能な他の多孔質材料層(オープンセル構造120)を示す模式図であり、(A)が単一のセル120aの構造を示し、(B)が多孔質材料層の厚さtとセル120aとの大きさとの関係を概略的に示す。オープンセル構造は、細胞のような構造の各セル120aを構成する何れの面も開放されている構造である。オープンセル構造のシートは、ポリエステル系、ポリエーテル系等の樹脂を用いて成形することができる。セルの数に関しては、25mmの間に6〜10個のセルが入るようにし、シートとしての厚みtの間には完全な1つのセル又は不完全な1つのセル(半個)が収まる程度にすることにより、多孔質材料層20とヒータエレメント22が芯金18に対して十分な密着強度で固定されることが確認された。
【0022】
図6は、本発明に使用可能な他の多孔質材料層(三次元網状構造)220の一部を示す模式平面図である。上述したように、「三次元網状構造」は、糸状のポリエチレン樹脂等の樹脂繊維220aを不規則に接触絡合させた状態で部分的に融着し(220b)、発泡樹脂やスポンジのような状態に成形したものである。このような構造を採用することにより、融着工程での圧力や温度等を調整することによって、接着密度、隙間、柔軟性を容易にコントロールできるというメリットがある。
【0023】
本発明に係るステアリングホイール10の製造に際しては、最初に、
図4に示すように、多孔質材料層20の表面にヒータエレメント22を融着固定する。次に、
図2に示すように、ヒータエレメント22を有する多孔質材料層20を、当該ヒータエレメント22が当該多孔質材料層20の外側表面上に配設されるように、把持部14の芯金18の周囲に巻き付ける。次に、把持部14を成形型に入れ、
図3(A)に示すように、ウレタン等の合成樹脂24を多孔質材料層20を含めて全体を包囲するように形成する。この時、樹脂は多孔質材料層20の隙間を介して芯金18まで十分に達し、これによってヒータエレメント22及び多孔質材料層20が芯金18に対して密着固定される。
【0024】
上記のような構造及び製造法によって成形される本発明のステアリングホイール10においては、多孔質材料層20によって、ヒーターエレメント22が芯金18から離間しているため、ヒーターエレメント22で発生した熱の大半が熱伝導率の高い芯金18方向に伝導される事態を回避でき、効率よくステアリング表面側に熱を伝導可能となる。すなわち、少ない電力で効率よくステアリングホイール10を温める(冷やす)ことが可能となる。また、合成樹脂層24の成形を1回の工程で完結させることができ、ヒーター機能の付加に伴うコストの上昇を最小限に抑えることができる。
【0025】
また、柔軟な多孔質材料層20を採用することにより、芯金18の周囲にヒータエレメント22を容易に配設できるだけでなく、外側を合成樹脂層24で包囲した場合にも握った感触を良好に保つことができる。
【0026】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想を逸脱しない範囲で種々の設計変更等が可能である。例えば、ヒーター機能に代えてクーラー機能を有するステアリングホイールに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
10:ステアリングホイール
12:ボス部
14:把持部
16:スポーク部
18:芯金
20:多孔質材料層
22:ヒーターエレメント
24:合成樹脂層