特許第6118980号(P6118980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6118980-自動変速機用の潤滑剤組成物 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118980
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】自動変速機用の潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 139/00 20060101AFI20170417BHJP
   C10M 163/00 20060101ALI20170417BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20170417BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20170417BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20170417BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20170417BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20170417BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20170417BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20170417BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20170417BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
   C10M139/00 A
   C10M163/00
   F16H57/04 Z
   !C10M159/24
   !C10M159/22
   !C10M159/20
   C10N20:02
   C10N20:04
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:04
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-48685(P2016-48685)
(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-176066(P2016-176066A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年10月11日
(31)【優先権主張番号】14/656,008
(32)【優先日】2015年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/151,143
(32)【優先日】2015年4月22日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】トム・ホン−ジー・タン
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275492(JP,A)
【文献】 特開平08−209174(JP,A)
【文献】 特開2005−139446(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00、
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機用潤滑剤組成物であって:
主要量の潤滑油;
変速機用潤滑剤組成物に対して4.5〜23.1重量%のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤;および
金属含有清浄剤;
を含んでなり、
上記ホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより較正基準としてポリスチレンを使用して測定した場合に1300より高く2300までのポリイソブチレン置換基の数平均分子量、100℃で2100〜2700cStのポリイソブチレン置換基の粘度、0.21〜0.46のホウ素/リン重量比、0.09〜0.19のホウ素/窒素重量比、および、変速機用潤滑剤組成物に58〜371ppmのホウ素を供給する量のホウ素を有するものであり、
上記金属含有清浄剤は、変速機用潤滑剤組成物に対して0ppm超から281ppm以下の金属をもたらし、そして変速機用潤滑剤組成物に対して0.02〜0.15重量%の石けん分をもたらす量で配合される、上記の変速機用潤滑剤組成物。
【請求項2】
変速機用潤滑剤組成物が−40℃で15,000cP以下のブルックフィールド粘度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
主要量の潤滑油が、グループIIの基油、グループIIIの基油および/またはグループのIV基油ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
変速機用潤滑剤組成物が、4.5〜7.7重量のホウ素化およびリン酸化 N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
金属含有清浄剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩としての中性から過塩基性スルホネート、フェネートまたはカルボキシレートである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
金属含有清浄剤が直線状または分岐スルホネートである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
金属含有清浄剤の含量が0.08〜1重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
金属含有清浄剤がホウ素化されていない請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
さらに摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
変速機部分に潤滑剤組成物を供給することによる変速機部分の潤滑法であって:
潤滑剤組成物で変速機部分を潤滑にすることを含んでなり、潤滑剤組成物が、
主要量の潤滑油;
変速機用潤滑剤組成物に対して4.5〜23.1重量%のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤;および
金属含有清浄剤;
を含んでなり、
上記ホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより較正基準としてポリスチレンを使用して測定した場合に1300より高く2300までのポリイソブチレン置換基の数平均分子量、100℃で2100〜2700cStのポリイソブチレン置換基の粘度、0.21〜0.46のホウ素/リン重量比、0.09〜0.19のホウ素/窒素重量比、および、変速機用潤滑剤組成物に58〜371ppmのホウ素を供給する量のホウ素を有するものであり、
上記金属含有清浄剤は、変速機用潤滑剤組成物に対して0ppm超から281ppm以下の金属をもたらし、そして変速機用潤滑剤組成物に対して0.02〜0.15重量%の石けん分をもたらす量で配合される、
の混合物を含む上記方法。
【請求項11】
潤滑剤組成物が−40℃で15,000cP以下のブルックフィールド粘度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
主要量の潤滑油が、グループIIの基油、グループIIIの基油および/またはグループのIV基油ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
潤滑剤組成物が、4.5〜7.7重量のホウ素化およびリン酸化 N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
金属含有清浄剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩としての中性から過塩基性スルホネート、フェネートまたはカルボキシレートである請求項10に記載の方法。
【請求項15】
金属含有清浄剤が直線状または分岐スルホネートである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
金属含有清浄剤の含量が0.08〜1重量%である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
金属含有清浄剤がホウ素化されていない、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
潤滑剤組成物がさらに摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に自動変速機用潤滑剤、そのような潤滑剤の使用法、および潤滑剤を含む湿式クラッチ摩擦円板を含む変速機に関する。より詳細には本開示は、高レベルの動摩擦、高い摩擦耐久性および低い摩耗率のホウ素化およびリン酸化変速機用潤滑剤組成物を選択することに関する。
【背景技術】
【0002】
より低燃費車への絶え間のない追求は、自動変速機がより頑丈でエネルギー効率が良くなることを要求する。有段自動(stepped automatic)変速機、自動手動変速機、無段変速機およびデュアルクラッチ変速機を含む多くの種類の自動変速機が存在する。自動車で使用される場合、各種自動変速機が、他に優るいくつかの利点を提供するが、望ましい変速機の特性を維持しながら寸法および重量を下げる能力は、種類を問わず利点を提供する。流体潤滑クラッチが使用されるいかなる自動変速機でも(例えば有段自動変速機、無段変速機およびデュアルクラッチ変速機)、クラッチの摩擦レベルを上げるとクラッチを介して伝えることができるトルクのレベルが上がる望ましい効果を有するが、これは次に同量のトルクを伝えるためにより少ない表面積を要求する。
【0003】
しかし変速機が異なれば、最適な性能のために潤滑剤に対する要求も異なる傾向がある。例えばギアオイルには良好な極圧および耐荷重性、一般に低い境界摩擦および低い薄膜摩擦(thin film friction)を必要とすることが多い。他方で無段変速機(CVT)用の潤滑剤は、低い境界摩擦および高い薄膜摩擦を要求する傾向がある。対照的に湿式クラッチを含む自動変速機は、通常、最適なトルク伝達に高い境界摩擦、および流体を効率的に変速機にポンプ送液するために低い薄膜摩擦を要する。
【0004】
多くの場合で、自動変速機用油(ATF)の特別な注目は振動(shudder)の最小化(すなわち耐振動性(anti−shudder))であり、これは経時的な摩擦係数の変化の関数になると考えられている(dμ/dt<0)。さらに自動変速機のシフト特性は、主にATFの摩擦特性に依存する。ATF液は一般に、流体の寿命にわたり高く、しかも安定な摩擦性能、良好な耐振動性、および耐摩耗性を有することが必要である。これらの特性はまた、今日のATF潤滑組成物のサービス間隔を最長にする、すなわちさらに良くなれば装置の耐用年限の間にオイルサービスを無くするといった要求とのバランスを取ることが難しいことが多い。これを業界では耐用年限中1回の充填(lifetime fill)または使用期間にわたる充填(“fill−for−life”)液と呼んでいる。したがって経時的なATFの摩擦特性の管理、すなわち摩耗耐久性もこの流体に望まれる特性となることになる。
【0005】
これまでATF液の摩擦特性を改善するために幾つかの試みがなされてきたが、多くは摩擦調整剤、酸化調整剤、および/または粘度調整剤のような潤滑剤成分の追加、またはレベルの増加が関与する。成分の追加またはレベルの増加は、製造の複雑さを加速し、しかも製造コストを上げる。さらに自動変速機用液との関係で摩擦調整剤の追加、またはレベルの上昇は、他の重要な流体特性を犠牲にしかねないことから望ましくない恐れがある。例えば摩擦および/または粘度調整剤の追加またはレベルの増加は、静摩擦を、許容できないトルク伝達の損失を生じるレベルに落とす傾向があり、これは湿式クラッチ摩擦円板を含むような自動変速機には望ましくはないことになる。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、変速機用潤滑剤組成物、そのような潤滑組成物を使用して機械部分を潤滑に
する方法、およびデュアルクラッチ変速機のような自動変速機に高く安定な動摩擦、優れた耐振動性、および低い摩耗率を提供する潤滑剤組成物を含む変速機を記載する。
【0007】
本開示の一つの観点または態様では、変速機用潤滑剤組成物は、主要量の基油または潤滑油、選択したホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤、および選択した金属含有清浄剤を含む。潤滑剤組成物は、約4.5〜約25重量%のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を有し、これはゲル浸透クロマトグラフィーにより参照としてポリスチレンを使用して測定した場合に約1300より高く約2300までのポリイソブチレンの数平均分子量、および100℃で約2100〜約2700cStのポリイソブチレンの粘度を有する。またこの分散剤は、約44〜約371ppmのホウ素、約0.21〜約0.46のホウ素/リン比、および約0.09〜約0.19のホウ素/窒素比を有する。金属含有清浄剤は、潤滑剤組成物に対して約455ppm未満の金属を提供し、そして潤滑剤組成物に対して約0.02〜約0.15重量パーセントの石けん分をもたらす。本明細書および実施例でさらに検討するように、特定の潤滑剤組成物が予期せずに、高い摩擦耐久性、高い動摩擦および低い摩耗率をすべて同時に発現しながら、従来のレベルの摩擦調整剤および粘度調整剤を含むしっかりとした(robust)潤滑剤を提供する。
【0008】
前記段落のものと組み合わせることができる他の観点または態様では、変速機用潤滑組成物は、−40℃で約15,000cP以下のブルックフィールド粘度を有し;潤滑油は鉱油および合成油から選択され;主要量の潤滑油が、グループIIの基油、グループIIIの基油および/またはグループIVの基油ならびにそれらの混合物からなる群から選択され;変速機用潤滑組成物が、約4.5〜約12重量パーセントのホウ素化およびリン酸化 N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含み(別の方法では約4.5〜約7.7重量パーセント);清浄剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩としての中性から過塩基性スルホネート、フェネートまたはカルボキシレートであり;清浄剤が直線状または分岐スルホネートであり;金属含有清浄剤が約0〜約281ppmの金属を含み;潤滑剤組成物が約0.08〜約1重量パーセントの金属含有清浄剤を含み;かつ/または金属含有清浄剤がホウ素化されていない。
【0009】
前記の二段落に記載のものと組み合わせることができるさらに他の観点または態様では、変速機用潤滑剤組成物はさらに摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、金属系清浄剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む。
【0010】
また本開示は、機械部分に潤滑剤組成物を供給することによる機械部分の潤滑法を開示し、この潤滑剤組成物は、主要量の潤滑油、およびゲル浸透クロマトグラフィーにより参照としてポリスチレンを使用して測定した場合に約1300より高く約2300までのポリイソブチレンの数平均分子量、および100℃で約2100〜約2700cStのポリイソブチレンの粘度、約44〜約371ppmのホウ素、約0.21〜約0.46のホウ素/リン比、および約0.09〜約0.19のホウ素/窒素比を有する約4.5〜約25重量%のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤の混合物を含む。また潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物に対して約455ppm未満の金属を提供し、そして潤滑剤組成物に対して約0.02〜約0.15重量パーセントの石けん分をもたらす金属含有清浄剤を含む。
【0011】
前記段落に記載したものと組み合わせることができる本明細書の方法の他の観点または態様では、この方法に使用される潤滑剤が−40℃で約15,000cP以下のブルックフィールド粘度を有し;潤滑油が鉱油および合成油から選択され;主要量の潤滑油が、グループIIの基油、グループIIIの基油および/またはグループIVの基油ならびにそ
れらの混合物からなる群から選択され;変速機用潤滑剤組成物が約4.5〜約12重量パーセントのホウ素化およびリン酸化 N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含み(別の方法では約4.5〜約7.7重量パーセント);清浄剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩としての中性から過塩基性スルホネート、フェネートまたはカルボキシレートであり;清浄剤が直線状または分岐スルホネートであり;金属含有清浄剤が約0〜約281ppmの金属を含み;潤滑組成物が約0.08〜約1重量パーセントの金属含有清浄剤を含み;かつ/または金属含有清浄剤がホウ素化されていない。
【0012】
前記の二段落に記載のものと組み合わせることができる本明細書の方法のさらに他の観点または態様では、この方法に使用する潤滑剤はさらに摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、金属系清浄剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む。
【0013】
また本開示は、湿式クラッチ摩擦円板および潤滑組成物を含む変速機を記載する。潤滑組成物は主要量の潤滑油、およびゲル浸透クロマトグラフィーにより参照としてポリスチレンを使用することにより測定した場合に約1300より高く約2300までのポリイソブチレンの数平均分子量、および100℃で約2100〜約2700cSTのポリイソブチレンの粘度、約44〜約371ppmのホウ素、約0.21〜約0.46のホウ素/リン比、そして約0.09〜約0.19のホウ素/窒素比を有する約4.5〜約25重量%のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む。また変速機の潤滑剤は、潤滑剤組成物に対して約455ppm未満の金属を提供し、そして潤滑剤組成物に対して約0.02〜約0.15重量パーセントの石けん分をもたらす金属含有清浄剤を含む。
【0014】
前記段落に記載したものと組み合わせることができる変速機の他の観点または態様では、この変速機に使用される潤滑剤が−40℃で約15,000cP以下のブルックフィールド粘度を有し;潤滑油が鉱油および合成油から選択され;主要量の潤滑油が、グループIIの基油、グループIIIの基油および/またはグループIVの基油ならびにそれらの混合物からなる群から選択され;変速機用潤滑剤組成物が約4.5〜約12重量パーセントのホウ素化およびリン酸化 N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含み(別の方法では約4.5〜約7.7重量パーセント);清浄剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩との中性から過塩基性スルホネート、フェネートまたはカルボキシレートであり;清浄剤が直線状または分岐スルホネートであり;金属含有清浄剤が約0〜約281ppmの金属を含み;潤滑剤組成物が約0.08〜約1重量パーセントの金属含有清浄剤を含み;かつ/または金属含有清浄剤がホウ素化されていない。
【0015】
前記の二段落に記載のものと組み合わせることができる変速機のさらに他の観点または態様では、この変速機に使用する潤滑剤はさらに摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む。
【0016】
前記段落に記載の変速機はデュアルクラッチ変速機でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本明細書の潤滑剤の摩擦特性を評価するための例示的な試験リグの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
改善された摩擦特性および摩擦耐久性を、流体の使用期間にわたって提供する変速機用潤滑剤が記載される。この潤滑剤は、限定するわけではないが湿式クラッチ摩擦円板を備えたデュアルクラッチ変速機のような自動変速機に特に適する。本明細書の潤滑剤は、高く安定な動摩擦、良好な耐振動性、および耐摩耗性をすべて同時に提供する。そのような結果は、摩擦調整剤または粘度調整剤のレベルを上げることによってではなく、変速機用潤滑剤内でそのような劇的な様式で摩擦特性に影響するとはこれまで予想されなかった選択した潤滑剤の分散剤と清浄剤のパラメーター間の臨界的(critical)な相互作用を見出すことにより得られた。摩擦特性は、SAE#2試験リグまたは標準FZG耐摩耗性試験を本明細書に詳細に記載するように使用して測定することができる。
【0019】
一つの観点では、潤滑剤は主要量の基油または潤滑油(1もしくは複数)、選択した量の特定のホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤(1もしくは複数)、および選択した金属含有清浄剤(1もしくは複数)を含む。所望の摩擦特性、所望の摩擦耐久性、および良好な耐摩耗性をすべて同時に達成するために、分散剤と清浄剤の多くのパラメーター間の臨界的な相互作用が同時に満たされる必要があることが見出された。例えば分散剤は、潤滑剤中、PIB置換基の特定パラメーターに約4.5〜約25重量パーセントの処理率(treat rate)、および窒素、ホウ素およびリンに選択した関係性を有するホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレン(PIB)スクシンイミド分散剤である。例えばPIB置換基は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより参照としてポリスチレンを使用することにより測定した場合に約1300より高く約2300までの数平均分子量、および100℃で約2100〜約2700cStのPIBの粘度を有する。また分散剤は、約44〜約371ppmのホウ素、約0.21〜約0.46のホウ素/リン比、および約0.09〜約0.19のホウ素/窒素比を有する。分散剤のこれらの選択した特性は臨界的であるばかりではなく、清浄剤はまた潤滑剤に対して約455ppm未満の金属を提供し、そして約0.02〜約0.15重量パーセントの石けん分をもたらさなければならない。分散剤または清浄剤のいずれか一つのこれら臨界的成分の逸脱は、摩擦性能、摩擦耐久性、耐摩耗性の一つ、またはそれらの組み合わせの実現に至らない潤滑剤組成物を生じる。分散剤および清浄剤選択の臨界性が、変速機用潤滑液との関連で潤滑剤の性能にそのように劇的に影響を及ぼすことは予想されなかった。
【0020】
本明細書で使用するように、用語「油組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「完全に配合された潤滑剤組成物」および「潤滑剤」は同義語と考えられ、主要量の基油または潤滑油に加えて、本明細書に特記する微量の選択した分散剤および清浄剤を含んでなる完成された潤滑製品を称する完全に互換性のある用語である。また潤滑剤は、さらに以下に記載する任意の添加剤を含むことができる。幾つかの方法では、これらの潤滑剤組成物についてブルックフィールド粘度は−40℃で一般に約15,000cP以下、方法によってはASTM−2983を使用して約8000から約15000cPの間である。他の方法では、これらの潤滑剤について100℃での動粘性は、約5.9から約7.0cStの範囲である。約4.5〜約12パーセントの分散剤を含む本発明の潤滑剤は、そのような粘性を表す。別の例では、開示する分散剤のより高い処理率で(例えば約20〜約25パーセント、他の場合では約23〜約25パーセント)、−40℃でのブルックフィールド粘度は72,500cPに到達でき、そして100℃での動粘性は約14cStに到達することができる。
【0021】
基油または潤滑油
本明細書で使用する用語「基油」または「潤滑油」は、一般にアメリカ石油協会(American Petroleum InstitutecST:API)の分類群のグループI−V油、ならびに動物性油、植物性油(例えばひまし油およびラード油)、石油、鉱油、合成油、および石炭または頁岩から誘導される油に分類されることを特徴とする油を称する。アメリカ石油協会はこれらの種々のベースストックタイプを以下のように分
類した:グループI、0.03重量パーセントより多い硫黄、および/または90容量パーセント未満の飽和、80から120の間の粘度指数;グループII,0.03重量パーセント以下の硫黄、および90容量パーセント以上の飽和、80から120の間の粘度指数;グループIII,0.03重量パーセント以下の硫黄、および90容量パーセント以上の飽和、120より高い粘度指数;グループIV,全てのポリアルファオレフィン類。水素処理されたベースストックおよび触媒的に脱蝋したベースストックはそれらの低い硫黄および芳香族含量から、一般にグループIIおよびグループIIIの分類に入る。ポリアルファオレフィン類(グループIVのベースストック)は、種々のアルファオレフィン類から調製され、硫黄および芳香族を実質的に含まない合成の基油である。
【0022】
グループI,IIおよびIIIは鉱油処理ストックである。グループIVの基油は真に合成の分子種を含み、これはオレフィン不飽和炭化水素の重合により製造される。多くのグループVの基油も真に合成の生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリリン酸エステル、ポリビニルエーテル、および/またはポリフェニルエーテル等を含むことができるが、植物油のような自然に存在する油でもよい。グループIIIの基油は鉱油に由来するが、これらの流体が受ける厳しい処理がそれらの物理的性質をPAOのような幾つかの真の合成物に大変類似することに留意されたい。したがってグループIIIの基油に由来する油は、業界では合成流体と称することがある。
【0023】
開示する潤滑油組成物に使用する基油は、鉱油、動物性油、植物性油、合成油、またはそれらの混合物でよい。適切な油は水素分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製、および再精製油、およびそれらの混合物に由来することができる。
【0024】
未精製油は、天然、鉱物または合成起源から誘導されるものであり、さらにわずかな精製処理をするか、またはしない。精製油は1もしくは複数の精製工程により処理されていることを除き未精製油に類似するが、精製工程が1もしくは複数の特性に改善をもたらすことができる。適切な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過(filtration)、浸透(percolation)等である。可食性油の品質まで精製された油は、有用な場合とそうでない場合がある。可食性油はホワイトオイルとも呼ばれることがある。幾つか態様では潤滑組成物に可食性油またはホワイトオイルは含まない。
【0025】
再精製油は、再生油または再処理油としても知られている。これらの油は、同じか類似のプロセスを使用して、精製油を得るために使用するものと類似の様式で得られる。これらの油は、しばしば消費した添加物および油の分解産物を除去することを対象とする技術によりさらに処理される。
【0026】
鉱油は、掘削により、または植物および動物から得られる油、およびそれらの混合物を含むことができる。例えばそのような油は、限定するわけではないがひまし油、ラード油、オリーブ油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油およびアマニ油、ならびに鉱油系潤滑油、例えば液体石油およびパラフィン系、ナフテン系または混合パラフィンおよびナフテン系型の溶媒処理または酸処理鉱油系潤滑油を含むことができる。そのような油は所望により部分的または完全に水素化されることができる。石炭または頁岩に由来する油も有用となり得る。
【0027】
有用な合成潤滑油は、例えば重合化、オリゴマー化、または相互共重合(interpolymerized)したオレフィン類(例えばポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー);ポリ(1−ヘキサン);ポリ(1−オクテン),1−デセンのトリマーまたはオリゴマー、例えばポリ(1−デセン),そのような材料はしば
しばα−オレフィンと呼ばれ,およびそれらの混合物;アルキル−ベンゼン(例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)−ベンゼン);ポリフェニル(例えばビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル、およびアルキル化ジフェニルスルフィド、およびそれらの誘導体、類似体および相同体、またはそれらの混合物のような炭化水素油を含むことができる。
【0028】
他の合成潤滑油には、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えばリン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、およびデカンホスホン酸のジエチルエステル)、または重合テトラヒドロフランを含む。合成油はフィッシャー−トロプシュ反応により製造されることができ、そして一般には水素異性化したフィッシャー−トロプシュ炭化水素またはワックスであることができる。一態様では、油はフィッシャー−トロプシュのガスから液体へ(gas−to−liquid)の合成法により、ならびに他のガスから液体への油から調製することができる。
【0029】
存在する基油および潤滑油の量は、本明細書で特記する特定の分散剤および清浄剤、ならびにまた本明細書で特記するさらなる任意の性能添加剤の量の総和である100重量パーセントから引いた後の残りのバランスを取ることができる。例えば仕上げた流体に存在できる基油または潤滑油は、主要量、例えば約50重量パーセントより多く、約60重量パーセントより多く、約70重量パーセントより多く、約80重量パーセントより多く、約85重量パーセントより多く、または約90重量パーセントより多くてもよい。
【0030】
分散剤
潤滑剤組成物は、1もしくは複数の選択した分散剤またはそれらの混合物を含む。分散剤は、潤滑油組成物に混合する前に灰を形成する金属を含まず、そしてそれらは通常、潤滑剤に加えた時に灰形成に貢献しないので、無灰型(ashless−type)分散剤としてもよく知られている。無灰型分散剤は、比較的高分子量の炭化水素鎖に付いた極性基を特徴とする。本開示に見出された具体的な無灰型分散剤には、ホウ素化およびリン酸化N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドを含む。
【0031】
N−置換長鎖アルケニルスクシンイミドには、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により較正基準としてポリスチレン(約180〜約18,000の数平均分子量を有する)を使用することにより測定した場合に、約1300〜約2300の範囲のポリイソブチレン置換基の数平均分子量を持つポリイソブチレン(PIB)置換基を含む。また分散剤に使用するPIB置換基は、ASTM D445を使用して測定した時、100℃で約2100〜約2700cStの粘度を有する。スクシンイミド分散剤およびそれらの調製は、例えば引用により本明細書に編入する米国特許第7,897,696号および同第4,234,435号明細書に開示されている。スクシンイミド分散剤は、一般にポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されるイミドである。分散剤は一般に、ポリアミンに連結された二つのスクシンイミド部分を含む。ポリアミンはテトラエチレンペンタアミン(TEPA)、トリエチレンテトラアミン(TETA)、ペンタエチレンヘキサアミン(PEHA)、他のより高い窒素エチレンジアミン種および/またはそれらの混合物でよい。ポリアミンは、直線状、分岐および環式アミンの混合物でよい。PIB置換基は、各スクシンイミド部分に連結することができる。
【0032】
本明細書のN−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤はまた、所望の摩擦特性を達成するためにホウ素化およびリン酸化される。これらの分散剤は、一般にi)少なくとも一つのリン化合物および/またはホウ素化合物、およびii)少なくとも一つの無灰分散剤の反応産物である。ホウ素およびリンは、選択した量で、そして、互いのおよび窒素レベルとの重要な比の範囲内で分散剤中に供給される必要があり、結果として、従来のレ
ベルの摩擦調整剤および/または粘度調整剤を使用しながら所望の摩擦特性を達成する。一つの方法により、分散剤は約44〜約371ppmのホウ素、約0.21〜約0.46のホウ素/リン比、および約0.09〜約0.19のホウ素/窒素比を含む。これらパラメーターからの逸脱は、実施例でさらに検討するような摩擦特性の1もしくは複数の不首尾をもたらす。
【0033】
本明細書の分散剤の形成に有用な適切なホウ素化合物には、ホウ素含有種を無灰分散剤に導入することができる任意のホウ素化合物またはホウ素化合物の混合物を含む。有機または無機のそのような反応を受けることができる任意のホウ素化合物を使用することができる。したがって、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、HBF4 ホウ素酸(boron acid)、例えばボロン酸(例えばアルキル−B(OH)2またはアリール−B(OH)2),ホウ酸(すなわちH3BO3),テトラホウ酸(すなわちH257),メタホウ酸(すなわちHBO2),そのようなホウ素酸のアンモニウム塩、およびそのようなホウ素酸のエステルを使用することができる。トリハロゲン化ホウ素とエーテル、有機酸、無機酸または炭化水素との錯体の使用は、ホウ素反応物質を反応混合物に導入するための都合が良い手段である。そのような錯体は既知であり、そして三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素−フェノール、三フッ化ホウ素−リン酸、三フッ化ホウ素−クロロ酢酸、三臭化ホウ素−ジオキサンおよび三フッ化ホウ素−メチルエチルエーテルにより例示される。
【0034】
本明細書の分散剤を形成するために適当なリン化合物は、リン含有種を無灰分散剤に導入することができるリン化合物またはリン化合物の混合物を含む。有機または無機のそのような反応を受けることができる任意のリン化合物を使用することができる。したがって、無機リン酸、および無機酸化リン(それらの水和物を含む)のような無機リン化合物を使用することができる。典型的な有機リン化合物は、リン酸の完全および部分エステル、例えばリン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、およびテトラチオリン酸のモノ−、ジ−、およびトリ−エステル;亜リン酸、チオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、およびトリチオ亜リン酸のモノ−、ジ−、およびトリ−エステル;トリヒドロカルビルホスフィンオキシド;トリヒドロカルビルホスフィンスルフィド;モノ−およびジヒドロカルビルホスホネート、(RPO(OR’)(OR”)ここでRおよびR’はヒドロカルビルであり、そしてR”は水素原子またはヒドロカルビル基である),およびそれらのモノ−、ジ−およびトリチオ−類似体;モノ−およびジヒドロカルビルホスホナイト,(RP(OR’)(OR”)ここでRおよびR’はヒドロカルビルであり、そしてR”は水素原子またはヒドロカルビル基である)、およびそれらのモノ−およびジチオ−類似体;などを含む。このように例えば亜リン酸(H3PO3,H2(HPO3)と表すこともあり、そしてオルト亜リン酸またはホスホン酸と呼ぶこともある)、リン酸(H3PO4,オルトリン酸と呼ぶこともある),次リン酸(H426),メタリン酸(HPO3),ピロリン酸(H427),次亜リン酸(H3PO2,ホスフィン酸と呼ぶこともある),ピロ亜リン酸(H425,ピロホスホン酸と呼ぶこともある),亜ホスフィン酸(H3PO),トリポリリン酸(H5310),テトラポリリン酸(H5413),トリメタリン酸(H339),三酸化リン,四酸化リン、五酸化リン、等のような化合物を使用することができる。ホスホロテトラチオ酸(H3PS4),ホスホロモノチオ酸(H3PO3S),ホスホロジチオ酸(H3PO22),ホスホロトリチオ酸(H3POS3),三硫化四リン、七硫化リン、および五硫化リン(P25,P410と呼ぶこともある)のような部分的または完全な硫黄類似体も本開示の分散剤の形成に使用することができる。それほど好ましくはないが有用であるのは、無機のハロゲン化リン化合物、例えばPCl3,PBr3,POCl3,PSCl3,等である。
【0035】
同様に、リン酸のモノ−、ジ−およびトリエステル(例えば、リン酸トリヒドロカルビル、ジヒドロカルビルモノアシッドホスフェート、モノヒドロカルビルジアシッドホスフ
ェート、およびそれらの混合物)、亜リン酸のモノ−、ジ−およびトリエステル(例えば、トリヒドロカルビルホスファイト、ジヒドロカルビルハイドロゲンホスファイト、ヒドロカルビルジアシッドホスファイト、およびそれらの混合物),ホスホン酸のエステル(“1級”,RP(O)(OR)2,および“2級”,R2P(O)(OR)の両方),ホスフィン酸のエステル、ホスホニルハライド(例えば、RP(O)Cl2およびR2P(O)Cl),ハロホスファイト(例えば(RO)PCl2および(RO)2PCl),ハロホスフェート(例えばROP(O)Cl2および(RO)2P(O)Cl),三級ピロリン酸エステル(例えば(RO)2P(O)−O−P(O)(OR)2)および前記有機リン化合物等の全または部分硫黄類似体等のような有機リン化合物を使用することができ、ここで各ヒドロカルビル基は最高約100個の炭素原子、好ましくは最高約50個の炭素原子、より好ましくは最高約24個の炭素原子、そして最も好ましくは最高約12個の炭素原子を含む。またそれほど好ましくはないが有用であるのは、ハロホスフィンハライド(例えば四ハロゲン化リンヒドロカルビル、三ハロゲン化リンジヒドロカルビル、および二ハロゲン化リントリヒドロカルビル),およびハロホスフィン(モノハロホスフィンおよびジハロホスフィン)である。
【0036】
本明細書の潤滑剤は、上記に説明した分散剤に求められる要件が潤滑剤中で尚、満たされるならば、非ホウ素化および非リン酸化分散剤と組み合わせた上記に説明した1もしくは複数のホウ素化およびリン酸化分散剤の混合物を含むことができる。
【0037】
また潤滑剤中の分散剤の処理率(treat rates)は、所望の結果を得るために慎重に管理されなければならない。一般に上記分散剤は、潤滑剤中に約4.5〜約25重量パーセント、そして他の方法では約4.5〜約12重量パーセント、そしてさらに他の方法では約4.5〜約7.7重量パーセントで提供される。
【0038】
清浄剤
また潤滑剤組成物は、潤滑組成物に特定量の金属および石けん分を与えるために1もしくは複数の選択した清浄剤またはそれらの混合物を含むことができる。一つの方法により、清浄剤は金属含有清浄剤、例えば中性から過塩基性の清浄剤である。適切な清浄剤基質(substrate)には、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホネート、カリキサレート(calixarates)、サリキサレート(salixarates,)、サリチレート、カルボン酸、亜リン酸、モノ−および/またはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄連結(coupled)アルキルフェノール化合物、およびメチレン架橋フェノールを含む。適切な清浄剤およびそれらの調製法は、米国特許第7,732,390号明細書およびそこに引用されている文献を含め、多くの特許公報により詳細に記載されている。一つの方法では、清浄剤はアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩としての中性から過塩基性のスルホネート、フェネート、またはカルボキシレートである。この清浄剤は、直線状または分岐したスルホネートのような直線状または分岐型でよい。直線状の清浄剤は、それに結合した側鎖が無い直鎖を含み、そして一般に1または2個の他の炭素原子のみに結合した炭素原子を含むものである。分岐清浄剤は、分子の骨格に1または複数の側鎖を持ち、そして1,2,3、または4個の他の炭素原子に結合した炭素原子を含むことができるものである。一つの態様では、スルホネート清浄剤は主に直線状のアルキルベンゼンスルホネート清浄剤であることができる。幾つかの態様では、直線状のアルキル(またはヒドロカルビル)基は、アルキル基の直線状鎖に沿っていずれの場所でもベンゼン環に結合することができるが、しばしば直線状鎖の2,3または4位、そして幾つかの場合では主に2位で結合することができる。他の態様では、アルキル(またはヒドロカルビル)基は分岐でよく、すなわちプロピレンまたは1−ブテンまたは1−イソブテンのような分岐オレフィンから形成される。直線状および分岐アルキル基の混合物を有するスルホネート清浄剤も使用することができる。
【0039】
清浄剤基質は、限定するわけではないがカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウムまたはそれらの混合物のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属で造塩(salted)することができる。幾つかの態様では、清浄剤はバリウムを含まない。適切な清浄剤は、石油スルホン酸、およびアリール基がベンジル、トリルおよびキシリルの一つである長鎖モノ−またはジ−アルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を含むことができる。
【0040】
過塩基性清浄剤添加物は当該技術分野で周知であり、そしてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の過塩基性清浄剤添加物でよい。そのような清浄剤添加物は、金属酸化物または金属水酸化物を基質および二酸化炭素ガスと反応させることにより調製できる。基質は一般に酸、例えば脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、または脂肪族置換フェノールのような酸である。一般に「過塩基性」という用語は、スルホネート、カルボキシレートおよびフェネートの金属塩のような金属塩を指し、ここで存在する金属の量が化学量論的量を超えている。そのような塩は100%を越えた転換レベルを有することができる(すなわちそれらは、酸をその「正(normal)」、「中性」の塩に転換するために必要な金属の理論的量の100%より多くを含むことができる)。「金属比」という表現は、しばしばMRと略されるが、既知の化学反応性および化学量論に従う中性の塩中の金属の化学当量に対して、過塩基性の塩中の金属の全化学当量の比を表すために使用する。正または中性の塩では金属比は1であり、そして過塩基性塩ではMRは1より大きい。そのような塩は、一般に過塩基性、多過塩基性(hyperbased)または超塩基性(superbased)塩と呼ばれ、そして有機硫酸、カルボン酸またはフェノールの塩であることができる。また清浄剤は約27〜約307、そして他の方法では約200〜約307の全塩基価(TBN)を表すことができる。
【0041】
清浄剤は、潤滑剤組成物に対して約455ppm未満の金属を提供する。より高レベルの金属では本明細書で説明する摩擦耐久性または摩耗試験の1もしくは複数で不合格となる。他の方法では、清浄剤は約0〜約281ppmの金属を提供する。さらに他の方法では、清浄剤は約0〜約100ppmの金属を潤滑剤組成物に提供する。
【0042】
また清浄剤は選択されたレベルの石けん分を潤滑剤組成物に提供し、提供された石けんの量は金属のレベルとバランスするので、金属が所望の範囲内にないときに石けん分を増加させても所望の結果を達成することはできない。これは本明細書の実施例でさらに詳細に検討する。一つの方法により、清浄剤はスルホネート石けん、フェネート石けんおよび/またはカルボキシレート石けんのような約0.02〜約0.15パーセントの石けん分を、最終的な潤滑組成物に提供する。他の方法では、清浄剤は約0.02〜約0.1パーセントの石けん、そしてさらに他の方法では、約0.02〜約0.05パーセントの石けんを提供する。
【0043】
石けん分は一般に中性の有機酸塩の量を指し、そして清浄剤の洗浄(cleansing)能力、すなわち洗浄力(detergency)、および汚れの懸濁能力(dirt
suspending ability)を反映している。石けん分は例としてスルホン酸カルシウム清浄剤(RSO3vCaw(CO3x(Oh)yにより表され、v,w,x,およびyは、それぞれスルホネート基の数、カルシウム原子の数、カルボネート基の数、およびヒドロキシル基の数を表す)を使用して、以下の式により決定することができる:

石けん分 = [(RSO32Ca]の式量 × 100
有効式量

有効式量は、式(RSO3vCaw(CO3x(OH)yを構成する全ての原子の重量に加
えて、他の潤滑剤成分を作る原子の重量が合わせられる。石けん分の決定に関するさらなる検討は、FUELS AND LUBRICANTS HANDBOOK,TECHNOLOGY,PROPERTIES,PERFORMANCE,AND TESTING,George Totten,editor,ASTM International,2003に見出すことができ、その関連部分を引用により本明細書に編入する。
【0044】
清浄剤の処理率は、潤滑剤組成物の総重量に基づき約0.08重量パーセント〜約1重量パーセントであることができる。幾つかの方法では、潤滑剤中のホウ素が分散剤だけにより提供されるように、金属含有清浄剤はホウ素化されない。
【0045】
上記の分散剤および清浄剤の選択は、摩擦調整剤および粘度調整剤のような従来のレベルの他の性能の添加剤を使用しながら、潤滑剤の所望の摩擦特性を達成するために臨界的である。自動変速機用および特にデュアルクラッチ変速機用の潤滑剤性能を達成するために、潤滑剤は最小の動摩擦、特定の摩擦耐久性、および低い耐摩耗性率をすべて同時に達成する必要がある。上記のように、これらの特性は、粘度調整剤または摩擦調整剤のレベルを上げるか、または変動させることにより達成されるのではなく、分散剤および清浄剤に見出された多くの特性のバランスを同時に取ることにより達成される。最小動摩擦および摩擦耐久性は、実施例により完全に記載するように、SAE No.2湿式摩擦リグおよびJASO M348:2002に基づく改良試験を使用して測定することができる。SAE No.2摩擦試験は停止時間制御、高エネルギー発車摩擦試験(stop time controlled,high energy launch friction test)である。クラッチは、クラッチの界面を通してバッチ油を移動させる循環ポンプを備えた温度制御型潤滑油浴に浸水させられる。クラッチは固定された初期レベルの力のレベルを適用し、次いでシステムの性能が変わる時、停止時間を制御するために自動的に調整する。データが得られ、μd(動摩擦)と適用した力との間で変化する関係、ならびにμ−初期,μd,とμ0(200rpm)との間で変化する関係を示す。本明細書で所望する潤滑剤は、約0.128の最少平均動摩擦(μd)(1400rpmでのμdの平均、およびμ0/μd<1.0),μ0/μd<1.0で少なくとも約8000サイクルの最少摩擦耐久性、およびASTM D4998を使用して約30mg以下のFZG耐摩耗性の重量損失を有する。
【0046】
また潤滑剤は、任意の成分が上記分散剤および清浄剤の基本的特徴に影響を及ぼさない限り、特定の応用に必要な他の任意の添加剤を含むことができる。数種の一般的な任意の添加剤を本明細書に記載する。
【0047】
任意の添加剤成分
上記の基油、分散剤および清浄剤に加えて、本明細書に記載する自動変速機用の潤滑組成物は、潤滑流体に要求される1もしくは複数の機能を達成するために他の添加剤を含んでもよい。さらに挙げた1もしくは複数の添加剤は多機能性であり、そして本明細書に記載した機能に加えて、またはそれ以外の他の機能を提供することができる。
【0048】
例えば、本明細書の組成物は、摩擦調整剤、空気排除添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、泡抑制剤、シール膨張剤、粘度指数向上剤、防錆剤、極圧添加剤およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの成分の1もしくは複数を含むことができる。上に特定したものに加えて、他の性能添加剤は、金属不活性化剤、無灰TBNブースター、抗乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、およびそれらの混合物の1もしくは複数も含むことができる。一般に完全に配合された潤滑油は、1もしくは複数のこれら性能添加剤を含むことになる。そのような幾つかの通例の任意の添加剤成分を以下に説明する。
【0049】
摩擦調整剤
本明細書の潤滑油組成物は、場合により1もしくは複数の摩擦調整剤を含んでもよい。適切な摩擦調整剤は、金属含有および金属を含まない摩擦調整剤を含んでなることができ、そして限定するわけではないがイミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホネート、金属含有化合物、グリセロールエステル、硫化脂肪化合物およびオレフィン、ヒマワリ油、および他の自然に存在する植物および動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1もしくは複数の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とのエステルまたは部分エステル等を含むことができる。
【0050】
適切な摩擦調整剤は、直鎖、分岐鎖または芳香族ヒドロカルビル基から選択されるヒドロカルビル基またはそれらの混合物を含むことができ、そして飽和または不飽和でよい。ヒドロカルビル基は、炭素および水素または硫黄もしくは酸素のようなヘテロ原子から構成されることができる。ヒドロカルビル基は、約12〜約25個の範囲の炭素原子であることができる。一つの態様では、摩擦調整剤は長鎖脂肪酸エステルであることができる。一つの態様では、長鎖脂肪酸エステルはモノ−エステルまたはジ−エステル、または(トリ)グリセリドであることができる。摩擦調整剤は長鎖脂肪アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであることができる。
【0051】
他の適切な摩擦調整剤は、有機、無灰(金属を含まない)、窒素非含有の有機摩擦調整剤を含むことができる。そのような摩擦調整剤は、カルボン酸および無水物とアルカノールとの反応により形成されるエステルを含むことができ、そして一般に親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えばカルボキシルもしくはヒドロキシル)を含む。有機無灰窒素非含有摩擦調整剤の例は、一般にオレイン酸のモノ−、ジ−およびトリ−エステルを含むことができるグリセロールモノオレート(GMO)として知られている。他の適切な摩擦調整剤は米国特許第6,723,685号明細書に記載されている。
【0052】
アミン系摩擦調整剤にはアミンまたはポリアミンを含むことができる。そのような化合物は、飽和もしくは不飽和のいずれかの直線状のヒドロカルビル基、またはその混合物を有することができ、そして約12〜約25個の炭素原子を含むことができる。さらに適切な摩擦調整剤の例には、アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化エーテルアミンがある。そのような化合物は、飽和もしくは不飽和のいずれかの直線状のヒドロカルビル基、またはその混合物を有することができる。それらは約12〜約25個の炭素原子を含むことができる。例にはエトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンがある。
【0053】
アミンおよびアミドはそのままで、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸、またはモノ−、ジ−もしくはトリ−アルキルホウ酸塩のようなホウ素化合物との付加物または反応生成物の状態で使用することができる。他の適切な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号明細書に記載されている。
【0054】
酸化防止剤
本明細書の潤滑油組成物は、場合により1もしくは複数の酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤化合物は既知であり、そして例えばフェネート、硫化フェネート、硫化オレフィン、リン硫化(phosphosulfurized)テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えばノニルジフェニルアミン、ジ−ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ−オクチルジフェニルアミン)、フェニル−アルファ―ナフチルアミン、アルキル化フェニル−アルファ―ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油可溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、またはそれらの混合物を含む。酸化防止剤は単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0055】
腐食抑制剤
自動変速機用潤滑剤は、さらに追加の腐食抑制剤(他に挙げた幾つかの成分も銅腐食抑制性を有することに留意されたい)を含むことができる。銅腐食の適切な追加の抑制剤には、エーテルアミン、ポリエトキシル化化合物、例えばエトキシル化アミンおよびエトキシル化アルコール、イミダゾリン、モノアルキルおよびジアルキルチアジアゾール等がある。
【0056】
チアゾール、トリアゾールおよびチアジアゾールも潤滑剤に使用することができる。例には、ベンゾトリアゾール;トリルトリアゾール;オクチルトリアゾール;デシルトリアゾール;ドデシルトリアゾール;2−メルカプトベンゾチアゾール;2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール;2−メルカプト−5−ヒドロカルビルチオ−1,3,4−チアジアゾール;および2−メルカプト−5−ヒドロカルビルジチオ−1,3,4−チアジアゾールがある。好適な化合物は、1,3,4−チアジアゾール、特に2−ヒドロカルビルジチオ−5−メルカプト−1,3,4−ジチアジアゾールであり、その多くが市販されている商品である。
【0057】
泡抑制剤/消泡剤
消泡剤/界面活性剤も本発明による流体に含めることができる。種々の薬剤(agent)がそのような使用に知られている。特に好適であるのはエチルアクリレートとエチルヘキシルアクリレートとのコポリマー、例えばSolutiaから販売されているPC−1244である。好適であるのは、4%DCFのようなシリコーン流体である。消泡剤の混合物が特に好ましい。
【0058】
シール膨張剤
本発開示の自動変速機流体は、さらにシール膨張剤を含むことができる。エステル類、アジペート、セバケート、アゼラート、フタレート、スルホン、アルコール、アルキルベンゼン、置換スルホラン、芳香族または鉱油のようなシール膨張剤は、エンジンおよび自動変速機にシールとして使用される弾性材料の膨張を引き起こす。
【0059】
アルコール型のシール膨張剤は、一般に低揮発性の直線状アルコール、例えばデシルアルコール、トリデシルアルコールおよびテトラデシルアルコールである。シール膨張剤として有用なアルキルベンゼンには、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニル−ベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、等がある。置換スルホラン(例えば引用により本明細書に編入する米国特許第4,029,588号明細書に記載されているようなもの)も同様に、本発明による組成物にシール膨張剤として有用である。本発明のシール膨張剤として有用な鉱油には、高ナフテン系または芳香族系含量の低粘度鉱油がある。芳香族のシール膨張剤には、市販されているExxon Aromatic 200 NDシール膨張剤がある。鉱油シール膨張剤の市販されている例には、Exxon(登録商標)Necton(登録商標)−37(FN1380)およびExxon(登録商標)Mineral Seal Oil(FN3200)がある。
【0060】
粘度調整剤
本明細書の潤滑油組成物は、場合により1もしくは複数の粘度指数向上剤を含んでもよい。適切な粘度指数向上剤には、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ−オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、またはそれらの混合物を含むことができる。粘度指数向上剤は星型高分子を含むことができ、そして適切な例は米国特許出願公開第2012/0101017A1に開示
されている。
【0061】
また本明細書の潤滑油組成物は、場合により粘度指数向上剤に加えて、または粘度指数向上剤に代えて1もしくは複数の分散剤の粘度指数向上剤を含んでもよい。適切な分散剤の粘度指数向上剤には、官能化ポリオレフィン、例えばアシル化剤(例えば無水マレイン酸)とアミンとの反応産物で官能化されたエチレン−プロピレンコポリマー;アミンで官能化されたポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸−スチレンコポリマーを含むことができる。
【0062】
防錆剤
様々な既知の防錆剤または添加剤が変速機流体に使用するために知られ、そして本開示による流体に使用するために適している。特に好適であるのは、Mazawet(登録商標)77のようなアルキルポリオキシアルキレンエーテル、Neofat(登録商標)8のようなC−8酸、Tomah PA−14のようなオキシアルキルアミン、3−デシルオキシプロピルアミン、およびPluronic(登録商標)L−81のようなポリオキシプロピレン―ポリオキシエチレンブロックコポリマーである。
【0063】
極圧剤
本明細書の潤滑油組成物は、場合により1もしくは複数の極圧剤を含んでもよい。油に可溶性の極圧(EP)剤は、硫黄−およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素系EP剤およびリン系EP剤を含む。そのようなEP剤の例には、塩素化ロウ;有機硫化物および多硫化物、例えばジベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化ディールス−アルダー付加物;リン硫化炭化水素、例えばリン硫化物とテルペンチンまたはオレイン酸メチルとの反応産物;ジヒドロカルビルおよびトリヒドロカルビルホスファイトのようなリンエステル、例えばジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイト;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、およびポリプロピレン置換フェニルホスファイト;金属チオカルバメート、例えばジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛およびバリウムヘプチルフェノール二酸;アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩、例えばジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応産物のアミン塩;およびそれらの混合物がある。
【0064】
上記考察に基づき、種々の潤滑組成物の成分の例示範囲を以下の表1に説明する。
【0065】
【表1】
【0066】
本明細書の潤滑剤は、湿式摩擦クラッチを含むようなデュアルクラッチ変速機に特によく適している。適切な湿式摩擦クラッチ変速機は、一般にセルロース基材の摩擦ライニングを有し、そしてそれぞれがアプリケーションピストンと開放スプリグとの間のハウジングに一緒に詰められる随伴する(associated)鋼鉄反応板を有するもののような、複数のクラッチプレートを有する(恐らく少なくとも3、そして恐らく最高6)。そのような変速機は、波形またはクッションプレート、スペーサープレート、および/またはリテンションリングのような他の通例の部品も含むことができる。湿式摩擦クラッチは、本明細書の潤滑化変速機流体を使用した流体圧の選択した適用により通例の様式で操作される。
【0067】
本開示のより良い理解およびその多くの利点は、以下の実施例で明確にされることができる。以下の実施例は説明であり、そしていかなる範囲または精神のいずれにおいてもそれらを限定しない。当業者はこれら実施例に記載されている成分、方法、工程および装置の変更を使用できると容易に理解するだろう。別段の記載がない限り、本開示で特記される全ての百分率、比および部は重量によるものである。
【0068】
実施例
【実施例1】
【0069】
例示する本発明の、および比較用の潤滑剤は、分散剤の処理率、PIB分子量、ホウ素レベル、ホウ素/リン比およびホウ素/窒素比の臨界性を示すために調製して、そのような分散剤の特性を変動させることが許容できない摩擦耐久性または摩耗率を導くことを示す。以下の表2Aおよび2Bに説明する特性を有するホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミドを含む潤滑剤を調製し、そして表1に説明する通例の潤滑剤添加物とブレンドした。分散剤はスクシンイミド部分間に置換基としてテトラエチレンペンタアミン(TEPA)を含んだ。
【0070】
【表2A】
【0071】
【表2B】
【0072】
表2Aおよび2Bにおいて、分子量は参照としてポリスチレン(180〜18000の数平均分子量)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用したPIB置換基の数平均分子量である。Nは窒素を指し、Pはリンを指し、そしてBはホウ素を指す。この実施例中の清浄剤は、307のTBN、約11.9重量パーセントの金属、そして25重量パーセントの石けんを有する直線状スルホネートであり、これは仕上げた流体に対して約93ppmの金属、および仕上げた流体に対して約0.02パーセントの石けんを提供した。
【0073】
表2Aおよび2Bの各変速機用潤滑剤は、同量の同じ清浄剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防錆剤、腐食抑制剤、シール膨張剤、消泡剤、極圧剤および潤滑油も含んだ。これらの追加成分の量を上記表1で説明した。すなわち表2Aおよび2Bの油の間で唯一の変動は、これらの表中で説明する分散剤の特性であった。
【0074】
以下の表3は、表2Aおよび2Bの様々な本発明の、および比較用の潤滑剤の摩擦および耐摩耗性試験結果を提供する。耐摩耗性は、ASTM D4998に従いFZG耐摩耗性試験を使用して測定する。摩擦特性はSAE#2湿式摩擦リグおよび以下に記載する工程を使用した改良JASO M348:2002試験を使用して測定する。自動変速機、そして特にデュアルクラッチ変速機に許容される潤滑剤は、FZG耐摩耗性試験を使用して約30mg以下の重量損失、およびμ0/μd<1.0で少なくとも8000サイクルの摩擦耐久性(μ0は200rpmでの摩擦であり、μdは1400での摩擦である)、
そしてμ0/μd>1.0前の1400rpmで0.128の最少平均動摩擦を要求する。本発明の潤滑剤はこれら3つ全ての性能基準に合格した。比較用の潤滑剤は、これら試験の1もしくは複数で失格した。比較サンプルC1およびC7は、耐摩耗性の結果が所望の最小値のほぼ倍であったので、摩擦耐久性についてはさらに試験しなかった。以下の表では失格を強調する。
【0075】
【表3】
【0076】
上記表2Aおよび2Bおよび3に示すように、たとえ分散剤処理率、PIB分子量、ホウ素レベル、ホウ素/リン比、またはホウ素/窒素比の1もしくは複数の小さい逸脱でも、1もしくは複数の所望する潤滑剤パラメーターに失格をもたらし、これにより潤滑剤を自動変速機、特にデュアルクラッチ変速機には不適なものとする。
【0077】
試験条件
試験手順は、クラッチシステムの耐久性を評価するために、SAE No.2湿式摩擦リグを使用して摩擦耐久性を測定するJASO M348:2002の改良版である。図1は概略的様式で、本明細書の試験に使用した例示的なSAE No.2機械を表す。
【0078】
図1では、SAE No.2コンビネーション湿式摩擦リグは両端に軸延長をもつ高速ACモーターHを含む。慣性端(inertia end)はフライホールJにフランジ付けされて、各動的嵌合に所望の全エネルギーを提供する。クラッチ端(B,CおよびE)は試験ヘッドAに伸び、ここはクラッチ(BおよびC)にスプラインハブ(splined hub)を駆動するように適合されている。試験ヘッドAは、ベアリグを介して軸上に支持され、軸から独立した回転を可能にする。摩擦力は所定温度、負荷および滑り速度でロードセルGを通って測定される。負荷は空気圧ピストンFによりかけられる。評価中の特定の試験油は、ポンプJで試験ヘッドAの底から熱交換器Kを通ってホースLにより循環され、試験ヘッドAに中空駆動軸を通って戻り、各クラッチにスプライン結合ハブの穴を通って噴霧される。
【0079】
摩擦板Eの寸法、2枚のスチール板C間の負荷は以下の通りである:材料の種類:Borg Warner 6100;溝:平行(溝は約20%の領域で完全に平行);内径(Di)120.5mm;外径(Do)146.0mm;有効平均半径(Rm)66.8mm;総面積[片面、無溝](AG)5,337m2。
【0080】
業界標準の鋼鉄分離版を合わせ板として使用する。2枚の鋼鉄板のそれぞれに、半径0.61mmの穴をドリルで開け、外縁を鋼鉄分離板の有効平均半径の深さに面取りする。J型の熱電対を、熱電対の先端が穴の底に配置されるように各板に挿入した。鋼鉄分離板をへプタンで清浄化した。板を試験潤滑剤に15分間浸し、そして固定鋼鉄板間に位置する回転摩擦板を備えたSAE No.2ヘッドに集成した(図参照)。油温度熱電対TC3を、試験ヘッドAに7時の位置で鋼鉄分離板の外側から1mmに設置する。スペーサーBを設置して、0.8±2mmのクラッチパッククリアランス(clutch pack
clearance)を与える。試験油の循環ポンプJ、熱交換器KおよびホースLは、1リットルの無添加(unadditized)ベースストックオイルをそれらに流すことにより清浄化した。基油を流した後、500mlの試験潤滑剤をそれに流す。ホースLを試験ヘッドAにつなぎ、そして1リットルの試験油を、ATFリザーバーを通してヘッドアッセンブリに入れた。フライホイールIをリグ上に設置して1.27kg2の総慣性(total inertia)を与える。
【0081】
評価を行うために、試験油の循環ポンプJを約4.5±0.5L/minの流れに設定する。負荷をクラッチにかけず、そしてモーターHを100rpmで駆動し、試験油を60±3℃に加熱する。油の温度が安定化した時、試験は20,000回の連続的な動的嵌合を開始し、この条件を表4に記載する。試験は0.76MPaの負荷をかけて開始し、そして停止時間を制御するためにかける負荷を調整する。データは各試験サイクルについて集める。摩擦(μ)の値を各サイクルについて算出し、そしてクラッチシステムの性能および耐久性を決定するために使用する。
【0082】
【表4】
【実施例2】
【0083】
さらに例示の本発明と比較用の潤滑剤を調製して、選択した分散剤処理率、PIB分子量、ホウ素レベル、ホウ素/リン比、およびホウ素/窒素比を組み合わせた時の金属含有清浄剤のさらなる臨界性を示した。さらにこの実施例は、清浄剤の金属含量および石けん分を変動させることが自動変速機用潤滑剤の内容において許容できる摩擦耐久性および耐摩耗性の維持にも重要であることを示す。最終潤滑剤に対して、変動する金属量および石けん分を与える中性から過塩基性清浄剤と組み合わせたホウ素化およびリン酸化N−置換ポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む潤滑剤を調整した。表6(失格を強調)の結果に表されるように、清浄剤は所望の結果を達成するために455ppm未満の金属含量および0.02〜約0.15パーセントの石けん分を潤滑剤に提供する必要がある。
【0084】
以下の表5A(本発明)および5B(比較)の各変速機用潤滑剤は、同量の同じ分散剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防錆剤、腐食抑制剤、シール膨張剤、消泡剤、極圧剤および潤滑油も含んだ。これらの追加成分の量を上記表1に説明した。すなわち表5Aと5Bの油の間の唯一の変化は、これらの表に説明する清浄剤の特性であった。この実施例で使用する分散剤は、2300のPIB置換基の数平均分子量、約0.77重量パ
ーセントの窒素、約593ppmの窒素、約0.15重量パーセントのホウ素、約0.35重量パーセントのリン、0.43のホウ素/リン比、0.19のホウ素/窒素比、および124ppmのホウ素を仕上げた流体中に有する。
【0085】
【表5A】
【0086】
【表5B】
【0087】
以下の表6は、上記実施例1と同じ手順を使用して測定した耐摩耗性および摩擦耐久性試験の結果を示す。比較サンプルC11は、耐摩耗性が所望の最小値のほぼ倍であるとい観点から摩擦耐久性については試験しなかった。結果は、所望の潤滑性について最終潤滑剤中に清浄剤により提供される金属含量および石けん分の臨界性を示す。いずれの因子の逸脱も、1もしくは複数の臨界的な潤滑性能の基準を落とすことになる。
【0088】
【表6】
【実施例3】
【0089】
別の実験を行って、チアヂアゾール腐食抑制剤中の硫黄レベルがさらに潤滑剤の特性に影響を及ぶすかどうかを測定した。表7はチアヂアゾール含有腐食抑制剤のレベルが変動する潤滑剤を確認する。表7の試験した潤滑剤では、評価した各組成物は同量の同じ分散剤、清浄剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防錆剤、シール膨張剤、消泡剤、極圧剤および潤滑基油も含んだ。これらの他の成分の量を表1に説明する。これらの実施例で使用した分散剤は実施例2に記載し、そして清浄剤は実施例1に記載した。すなわち表7の潤滑剤の間の唯一の変動は、腐食抑制剤量、したがって試験した潤滑剤中の硫黄のレベルであった。試験結果により示されるように、表7のすべての潤滑剤が摩擦および耐摩耗性試験(実施例1と同様に行った)に合格し、これは腐食抑制剤により提供される硫黄レベルが結果に影響を与えなかったことを示す。同様な結果が、約1%未満、そして特に約0.005%〜約0.5%の腐食抑制剤処理率で達成されると予想する。
【0090】
【表7】
【0091】
この方法の性質、組成物および変速機を説明するために本明細書に記載し、そして説明してきた詳細、材料および配合および成分の構成における様々な変化は、本明細書の記載および請求の範囲の原理および範囲内で当業者によりなされることができる。
図1