特許第6118981号(P6118981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6118981評価用試験体、発電層の評価方法、色素増感太陽電池の製造設備の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118981
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】評価用試験体、発電層の評価方法、色素増感太陽電池の製造設備の管理方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   H01G9/20 313
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-29503(P2013-29503)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157797(P2014-157797A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知恵
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 節男
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】庄子 優樹
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−520822(JP,A)
【文献】 特開2000−323192(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0074932(US,A1)
【文献】 特開2011−222167(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0240989(US,A1)
【文献】 特開2012−122797(JP,A)
【文献】 特開2009−016174(JP,A)
【文献】 特開2013−053862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化膜及び前記金属酸化膜に担持させた増感色素からなる発電層に光を照射したときの電気特性の測定と多重内部反射フーリエ変換赤外分光法を用いた前記増感色素の構造解析により前記発電層の評価を行うための評価用試験体であって、
赤外分光法用の赤外光が内部伝搬可能な高屈折率媒質からなる評価用基板と、
前記評価用基板と間隔をあけて配置され且つ前記光を透過する対向基板と、
前記評価用基板と前記対向基板の間に注入された酸化還元対を含む電解質と、を備え、
前記評価用基板に第一領域及び第二領域が区画されており、
前記評価用基板の第一領域の板面に前記発電層から電子を取り出す電子取り出し層が設
けられ、
前記評価用基板の第二領域の板面及び前記評価用基板の第一領域の前記電子取り出し層上に前記発電層が設けられ、
前記評価用基板の第一領域及び前記対向基板の還元層が相互に重なる部分が前記発電層の電気特性を測定するための発電性能評価部とされ、前記評価用基板の第二領域及び前記対向基板の還元層が相互に重なる部分が前記増感色素の構造を解析するための色素評価部とされていることを特徴とする評価用試験体。
【請求項2】
前記還元層が導電性の高い金属からなることを特徴とする請求項1に記載の評価用試験体。
【請求項3】
請求項1に記載の評価用試験体を用意する工程と、
前記評価用試験体の前記電子取り出し層と前記還元層とを端子として、前記対向基板側から前記評価用試験体の発電性能評価部に光を照射して前記発電層の電気特性を測定する測定工程と、
前記評価用試験体の前記評価用基板に赤外光を内部伝搬させて、多重内部反射フーリエ変換赤外分光法により評価用増感色素の吸収特性を測定し、前記評価用増感色素の化学構造を解析する分析工程と、を備え、
前記測定工程と前記分析工程を同時又は順次行うことを特徴とする発電層の評価方法。
【請求項4】
前記還元層が導電性の高い金属からなることを特徴とする請求項3に記載の発電層の評価方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の発電層の評価方法を色素増感太陽電池の製造設備において実施し、前記発電層の評価結果に基づいて前記色素増感太陽電池の製造設備の周辺環境を制御することを特徴とする色素増感太陽電池の製造設備の管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価用試験体、発電層の評価方法、色素増感太陽電池の製造設備の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光エネルギーを直接かつ即時に電力に変換することができ、二酸化炭素等の汚染物質を排出しないクリーンな発電源として太陽電池が注目されている。太陽電池の中でも、色素増感型太陽電池は、高い変換効率を有し、比較的簡易な方法により製造され、かつ原材料単価が安価であるため、次世代太陽電池として期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、一般に、透明基板と、透明基板に対向して配置された対向基板と、透明基板と対向基板との間に挟まれて封止されたヨウ化物イオン等を含む電解質と、透明基板の電解質側の板面に形成された透明電極と、対向基板の電解質側の板面に形成された対向電極と、透明電極の電解質側に形成された発電層により構成されている。発電層は、酸化チタン等からなる金属酸化膜と、金属酸化膜に担持されたルテニウム錯体等からなる増感色素により構成されている。例えば、特許文献1には、上記構成を備え、金属酸化膜としてルチル型酸化チタンやチタン酸バリウム等の半導体が用いられてなる色素増感太陽電池が開示されている。
【0004】
上記構成を備えた色素増感太陽電池に太陽光が照射されると、増感色素が太陽光を吸収し、電子を放出する。電子は、金属酸化膜に素早く移動して透明電極に至り、配線を通って対向電極に達し、電解質中の三イオン化物イオンを還元してヨウ化物イオンにする。還元されたヨウ化物イオンは、電解質中で酸化されて再び電子を放出する。このような酸化還元反応が繰り返し継続されることにより、色素増感太陽電池に電気が流れる。従って、色素増感太陽電池の発電性能は、金属酸化膜に担持された増感色素の吸着量や、金属酸化膜に対する増感色素の吸着状態に大きく影響を受ける。
【0005】
発電層における金属酸化膜に対する増感色素の吸着量及び吸着状態や、増感色素溶液の濃度及び増感色素の構造を調べる方法として、例えば、酸化チタン膜に増感色素であるN719色素を担持させてなる発電層に赤外光を照射し、多重内部反射フーリエ変換赤外分光法(以下、多重内部反射FT−IR法と記載する)を用いて赤外光での吸収特性を測定して解析する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−140811号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid−States Letters,2008,11(7),A109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の色素増感太陽電池を製造する際に金属酸化膜の表面に増感色素を担持させる方法としては、金属酸化膜を増感色素溶液に一定時間浸漬する方法が用いられている。金属酸化膜を増感色素溶液に一定時間浸漬して金属酸化膜の表面に増感色素を担持させる場合、金属酸化膜に担持された増感色素の吸着量や、金属酸化膜と増感色素との化学結合の状況など金属酸化物膜に対する増感色素の吸着状態は、増感色素溶液中の増感色素濃度や増感色素の種類、金属酸化膜の表面状態、金属酸化膜を増感色素溶液に浸漬させた後の温湿度等の条件などによって、大きく変化する。また、金属酸化膜の表面状態は、例えば、金属酸化膜を焼成する際の焼成温度や焼成時間などの条件を変化させるなど、金属酸化膜の前処理条件を変化させることによって、変化する。このように金属酸化膜に対する増感色素の吸着量や吸着状態は、担持させる際の条件及び周辺環境による影響を受けやすい。
【0009】
また、色素増感太陽電池の発電性能は、電流−電圧特性(以下、I−V特性と記載する)等の電気特性によって評価される。I−V特性は、太陽光等の発電層の励起光を色素増感太陽電池に照射し、透明電極に接続した配線及び対向電極に接続した配線から付加電源を通して電流を測定することにより取得できる。色素増感太陽電池の最大出力は、前記測定により得られた光起電力曲線上において電流と電圧との積が最大値になる条件に設定することで得られる。このような色素増感太陽電池の電気特性と発電層における金属酸化膜に対する増感色素の吸着量や吸着状態には相関がある。
【0010】
従って、優れた発電性能を有する色素増感太陽電池を生産性高く、歩留まりよく製造するために、色素増感太陽電池の製造過程において、発電層の金属酸化膜に対する増感色素の吸着量及び吸着状態と、発電層の電気特性の双方を評価することが要求されている。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、発電層の金属酸化膜に対する増感色素の吸着量や吸着状態と、発電層の電気特性とを同時又は順次評価できる評価用試験体、発電層の評価方法、色素増感太陽電池の製造設備の管理方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の評価用試験体は、金属酸化膜及び前記金属酸化膜に担持させた増感色素からなる発電層に光を照射したときの電気特性の測定と多重内部反射フーリエ変換赤外分光法を用いた前記増感色素の構造解析により前記発電層の評価を行うための評価用試験体であって、赤外分光法用の赤外光が内部伝搬可能な高屈折率媒質からなる評価用基板と、前記評価用基板と間隔をあけて配置され且つ前記光を透過する対向基板と、前記評価用基板と前記対向基板の間に注入された酸化還元対を含む電解質と、を備え、前記評価用基板に第一領域及び第二領域が区画されており、前記評価用基板の第一領域の板面に前記発電層から電子を取り出す電子取り出し層が設けられ、前記評価用基板の第二領域の板面及び前記評価用基板の第一領域の前記電子取り出し層上に前記発電層が設けられ、前記評価用基板の第一領域及び前記対向基板の還元層が相互に重なる部分が前記発電層の電気特性を測定するための発電性能評価部とされ、前記評価用基板の第二領域及び前記対向基板の還元層が相互に重なる部分が前記増感色素の構造を解析するための色素評価部とされていることを特徴とする。
また、本発明の評価用試験体においては、前記還元層が導電性の高い金属からなることが好ましい。
【0013】
本発明の発電層の評価方法は、前記評価用試験体を用意する工程と、前記評価用試験体の前記電子取り出し層と前記還元層とを端子として、前記対向基板側から前記評価用試験体の発電性能評価部に光を照射して前記発電層の電気特性を測定する測定工程と、前記評価用試験体の前記評価用基板に赤外光を内部伝搬させて、多重内部反射フーリエ変換赤外分光法により評価用増感色素の吸収特性を測定し、前記評価用増感色素の化学構造を解析する分析工程と、を備え、前記測定工程と前記分析工程を同時又は順次行うことを特徴とする。
また、本発明の発電層の評価方法では、前記還元層が導電性の高い金属からなることが好ましい。
【0014】
本発明の色素増感太陽電池の製造設備の管理方法は、前記発電層の評価方法を色素増感太陽電池の製造設備において実施し、前記発電層の評価結果に基づいて前記色素増感太陽電池の製造設備の周辺環境を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の評価用試験体、発電層の評価方法及び色素増感太陽電池の製造方法によれば、発電層における金属酸化膜に対する増感色素の吸着量や吸着状態と、発電層の電気特性とを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態である評価用試験体を示す平面図である。
図2】本発明の実施形態である評価用試験体を示す図であって、(a)は図1に示すA−A線で矢視した場合の断面図であり、(b)は図1に示すB−B線で矢視した場合の断面図である。
図3】本発明の実施形態である評価用試験体の動作を示す図であって、図2(a)に示すX領域の拡大図である。
図4】本発明の実施形態である評価用試験体の測定原理を示す部分拡大図である。
図5】本発明の実施形態である評価用試験体の製造工程を示す図であって、(a),(b)は平面図であり、(c)は(b)に示すC−C線で矢視した場合の断面図である。
図6】本発明の実施形態である評価用試験体の製造工程を示す図であって、(a),(b)は平面図であり、(c)は(b)に示すD−D線で矢視した場合の断面図である。
図7】本発明の実施形態である評価用試験体の製造工程を示す断面図である。
図8】実施例1及び実施例2の評価用試験体における発電層のI−V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態である評価用試験体と発電層の評価方法及び色素増感太陽電池の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更できる。
【0018】
本発明の実施形態である評価用試験体41は、色素増感太陽電池等の光電変換素子における発電層の評価に用いられるものであり、図1に示すように、発電層45のI−V特性等の電気特性を測定するための発電性能評価部61と、多重内部反射FT−IR法を用いた発電層45の増感色素の濃度測定及び構造解析を行うための色素評価部62と、が設けられてなる試験体である。
【0019】
また、評価用試験体41は、評価用基板42と、対向基板43と、電解質44と、発電層45と、電子取り出し層52と、還元層53と、を少なくとも備えて構成されている。また、本実施形態の評価用試験体41の対向基板43及び還元層53には電解質44の注入孔49が設けられており、本実施形態の評価用試験体41はガラス板55,57と、封止材47,56と、を備えている。また、本実施形態の評価用試験体41は、配線58と、電気特性測定装置65と、を備えている。なお、図1においては、注入孔49、封止材47,56、ガラス板55,57、配線58及び電気特性測定装置65の図示は省略している。以下、各構成要素について順次説明する。
【0020】
評価用基板42は、多重内部反射FT−IR法等の赤外分光法用の赤外光が内部伝搬可能な高屈折率媒質によって構成されている。このような高屈折率媒質としては、例えばシリコンや砒化ガリウムが挙げられる。内部伝搬させる赤外光の損失が極めて低い点から、評価用基板42としては、フローティングゾーン法で作られたシリコン基板(以下、Fzシリコン基板と記載する)が好適である。また、発電層45の増感色素82の赤外分光用の赤外光の吸収特性を測定する際に評価用基板42に赤外光を内部伝搬させるため、評価用基板42の形状は、前記高屈折率媒質の屈折率や赤外光の入射角度等を勘案して、赤外光を導入する端面42cと、赤外光を伝搬するための板面42a,42bと、赤外光を評価用基板42の外部に導出する端面42dとが相互に適した角度をなして位置するように設定されることが好ましい(図3及び図4参照)。
【0021】
評価用基板42は、図1に示す発電性能評価部61を形成するための第一領域71と、図1に示す色素評価部62を形成するための第二領域72と、に区画されている。
【0022】
対向基板43は、評価用基板42と間隔をあけて配置されており、発電層45に照射される光を透過する媒質によって構成されている。即ち、対向基板43は、図2に示す矢印のように評価用試験体41の外方から対向基板43に照射された光を透過して発電層45に到達させる媒質からなる。本実施形態の評価用試験体41のように発電層45が太陽電池に用いられる場合、発電層45には太陽光が照射されるため、対向基板43としては太陽光を透過するガラス基板や、プラスチック基板が好適である。このようなガラス基材としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス及び白板ガラスなどの一般的なガラスが挙げられる。また、プラスチック基材としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂及びポリアミド樹脂が挙げられる。
【0023】
図1及び図2に示すように、電解質44は、評価用基板42と対向基板43の間に注入されており、発電性能評価部61において電気を流すための酸化還元反応を生ずる酸化還元対を含む物質である。このような酸化還元対としては、例えば、ヨウ素レドックスが挙げられる。ヨウ素レドックスを含む電解質44には、例えば、アセトニトリルやプロピオニトリル等の非水系溶媒、又は、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウムやヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム等の溶媒に、ヨウ化リチウムとヨウ素とが混合されてなる溶液が用いられる。
【0024】
電解質44は、その側方を封止材47により封止されている。また、対向基板43及び後述する還元層53には、評価用基板42と対向基板43の間に形成される内部空間に電解質44を注入するための注入孔49が設けられている。電解質44の前記内部空間への注入がなされた後に、注入孔49はガラス板等のガラス板55により閉じられ、ガラス板55の上方向から更に封止材56及びガラス板57により封止されている。封止材47,56としては、例えば光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物を使用し硬化させた材料が挙げられる。
【0025】
発電層45は、評価用試験体41を用いて評価を行う対象となる層であり、色素増感太陽電池に用いられる金属酸化膜81と金属酸化膜81に担持させた増感色素82によって構成されている(図3参照)。金属酸化膜81は、多孔質構造を形成し得る金属材料81Pからなる。ナノオーダーの多孔質構造を形成できる上に、下層の表面積よりも極めて大きな表面積が得られる点から、金属材料81Pとしては、酸化チタン(TiO)が好適である。
【0026】
増感色素82は、金属材料81Pの表面に吸着しており、太陽光等の光が図2に示す矢印のように評価用試験体41の外方から対向基板43を透過して照射された際に金属酸化膜81に電子を放出する。酸化チタンのようにバンドギャップが広く、紫外域にしか吸収体を持たない金属材料81Pからなる金属酸化膜81は、このように増感色素82から電子を受け取る。増感色素82としては、例えばルテニウム錯体、シアニンやクロロフィルといった有機色素が挙げられる。吸収する波長域が広い上に、光励起の寿命が長く、金属酸化膜81に導かれた電子が安定する点から、増感色素82としては、ルテニウム錯体が好適であり、具体的にはシス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)(N3と呼ばれることがある)、該シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(N719と呼ばれることがある)、トリ(チオシアナト)−(4,4’,4’’−トリカルボキシ−2,2’:6’,2’’−ターピリジン)ルテニウムのトリス−テトラブチルアンモニウム塩(ブラックダイと呼ばれることがある)等が挙げられる。
【0027】
図1及び図2に示すように、電子取り出し層52は、評価用基板42の第一領域71の板面42aに形成されている。電子取り出し層52は、増感色素82から金属酸化膜81に移動した電子を確実に取り出せる電気抵抗の低い材質によって構成されている。このような低抵抗の材質としては、例えば、酸化インジウム/酸化スズ(以下、ITOと記載する)、フッ素ドープ酸化スズ(以下、FTOと記載する)、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化インジウム/酸化亜鉛、酸化ガリウム/酸化亜鉛、白金が挙げられる。また、電子取り出し層52の材質として四塩化チタン(TiCl)が挙げられる。TiClからなる電子取り出し層52は、発電性能評価部61の逆電子防止層としても機能する。
【0028】
還元層53は、対向基板43の板面43aに形成されている。また、還元層53は、図2に示す矢印のように評価用試験体41の外方から対向基板43を透過して発電層45に向かって照射される光を透過し、電解質44の酸化還元対に対して還元能を有する。従って、板面43a全体に還元層53が設けられることにより、電解質44全域の酸化還元対が継続的に還元される。
【0029】
図2(a)に示すように、還元層53には配線58が接続されている。配線58を接続できる点から、還元層53は導電性の高い金属によって構成されていることが好ましい。酸化還元反応に対する触媒能が高く、安定であり、導電性が高い点から、還元層53は白金を含むことがより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール等の溶媒に白金を溶かした白金溶液を対向基板43の板面43aに塗布して焼成することにより、発電層45に向かって照射される光を透過し、電解質44の還元能を有すると共に導電性の高い還元層53が形成されている。また、対向基板43として、板面43aに図示しないITOやFTO等からなる薄膜が設けられた導電性基板を用いることにより、還元層53の導電性が向上する。
【0030】
配線58は、電子取り出し層52と還元層53とを接続して設けられている。電気特性測定装置65は配線58に配置されており、負荷電源や電流計、電圧計等によって構成されている。配線58と電気特性測定装置65により、発電層45から電子取り出し層52に移動した電子が還元層53に送られると共に、発電層45に印加電圧を加えた際の電気特性が測定値として得られる。
【0031】
発電性能評価部61は、図2(a)に示すように、評価用基板42の第一領域71と還元層53が相互に重なる部分で構成されている。図2(a)に示す構成により、発電性能評価部61では、発電層45に光を照射したときのI−V特性等の電気特性が測定される。図3は、発電性能評価部61における酸化還元反応を説明する図であり、電解質44の酸化還元対がヨウ素レドックスであり、金属酸化膜81の金属材料81Pが酸化チタンであって、増感色素82がルテニウム錯体である場合を例示している。
【0032】
図3に示す矢印のように、発電性能評価部61の対向基板43を透過し入射した太陽光等の光は、発電層45の金属酸化膜81に担持された増感色素82に吸収される。光吸収により増感色素82は基底状態から励起状態になり、励起状態の増感色素82の電子は金属材料81Pの伝導帯に注入され、ルテニウム錯体は酸化される。金属酸化膜81に注入された電子は、金属材料81P内を移動し、電子取り出し層52に取り出される。電気抵抗の低い電子取り出し層52が設けられていることにより、金属酸化膜81に注入された電子が金属材料81P内を移動する際に増感色素82の酸化体或いは電解質44の三ヨウ化物イオン(I)と再結合することを防止できる。電子取り出し層52に取り出された電子は、配線58を通って還元層53へと移動する。一方で、酸化された増感色素82は、ヨウ素レドックスのヨウ化物イオン(I)から電子を受け取り、基底状態に還元される。ヨウ化物イオンは酸化されて三ヨウ化物イオンになり、電解質44内で拡散されて還元層53へと移動する。三ヨウ化物イオンは還元層53から電子を受け取り、ヨウ化物イオンに戻る。このような一連のサイクルにより、発電性能評価部61では色素増感太陽電池と同様に電気が流れる。従って、配線58に設けられた電気特性測定装置65により印加電圧を加えて、発電層45からの電流を掃引することによってI−V特性が得られる。
【0033】
色素評価部62は、図2(b)に示すように、評価用基板42の第二領域72と還元層53が相互に重なる部分で構成されている。図2(b)に示す構成により、色素評価部62では、多重内部反射法により作成直後の初期試験体と評価時の試験体とをそれぞれ評価してその評価結果の差分を計算で求めることで評価がなされる。
図4は、色素評価部62における多重内部反射FT−IR法を用いた発電層45の増感色素82の吸収特性が測定される様子を示す図であって、評価用基板42と、電解液44と、発電層45と封止材47以外の評価用試験体41の構成要素の図示は省略している。
【0034】
図4に示すように、端面42cから評価用基板42の内部に導入された多重内部反射FT−IR法用の赤外光は、高屈折率媒質とその外方との屈折率差によって板面42a,42bにおける反射を繰り返しながら内部空間85を伝搬する。このとき、板面42a,42bにおいて赤外光が低損失に全反射するためには、板面42a,42bの法線に対して臨界角より大きい角度をなすように赤外光が評価用基板42に導入されることが好ましい。
【0035】
評価用基板42を内部伝搬する赤外光のパワーは、先ず板面42aでの反射の度に電解質44等の評価用基板42外部の構成要素の赤外光の吸収特性に応じて変化する。評価用基板42と接する発電層45の端面45bに至ると、赤外光のパワーは、板面42aでの反射の度に発電層45の赤外光の吸収特性に応じて変化する。その後、板面42aでの反射の度に、赤外光のパワーは、再び評価用基板42外部の構成要素の赤外光の吸収特性の影響を受けて評価用基板42の端面42dから導出される。このように評価用基板42の端面42dから出射した赤外光には、電解質44、発電層45、封止材47等の赤外光の吸収特性が反映されている。従って、予め取得された評価用基板42外部の構成要素の赤外光の吸収特性と評価用基板42の端面42dから導出された赤外光に反映された特性との比較により、発電層45の赤外光の吸収特性が得られる。
【0036】
以上説明した本実施形態の評価用試験体41によれば、電子取り出し層52が評価用基板42の第一領域71のみに形成されてなる発電性能評価部61において電解質44及び発電層45の酸化還元反応を継続的に生じさせることができ、発電層45のI−V特性等の電気特性が得られる。また、評価用基板42の第二領域72で発電層45が赤外光を内部伝搬可能な評価用基板42に当接してなる色素評価部62において多重内部反射FT−IR法を用いた発電層45の赤外光に対する吸収特性が得られる。発電層45の前記電気特性の取得と前記吸収特性の取得は同時に行われてもよく、順次行われてもよい。このように発電層45の電気特性と赤外光に対する吸収特性の双方が一つの評価用試験体41を用いて取得されることにより、発電層45のより正確な評価が行われる。
【0037】
次いで、本実施形態の評価用試験体41を用いた発電層45の評価方法について説明する。発電層45の評価方法は、評価用試験体41を用意する工程と、発電層45の電気特性を測定する測定工程と、発電層45の増感色素82の吸収特性を測定し、化学構造を解析する分析工程と、を備えている。以下、各工程について順次説明する。
【0038】
[評価用試験体を用意する工程]
図5(a)に示すように、評価用基板42として例えばFz基板を用意し、第一領域71と第二領域72に区画する。続いて、図5(b),(c)に示すように、評価用基板42の第一領域71の板面42aに電子取り出し層52を形成する。電子取り出し層52には、ITO又はFTO等を用いることができる。その場合、例えばスパッタリング法や印刷法によって、電子取り出し層52を形成できる。また、評価用基板42の第一領域71の板面42aのみにTiClを施すことによって、電子取り出し層52を形成できる。
【0039】
次に、図6(a)に示すように、対向基板43として例えばガラス基板を用意して、対向基板43の板面43aに還元層53を形成する。還元層53は、白金をメタノール、エタノール等の溶媒に溶かしてなる溶液を対向基板43の板面43aに塗布して、これを焼成することにより形成できる。その後、パターニング等の方法により、図6(b),(c)に示すように、後に電解液を評価用基板42と対向基板43との間に注入するための注入孔49を、対向基板43及び還元層53を貫通させるように形成する。
【0040】
次に、図7(a)に示すように電子取り出し層52の上と、図示略の評価用基板42の第二領域72の板面42aに発電層45を形成する。発電層45は、図3に示すように、電子取り出し層52の上と第二領域72の板面42aの所定の位置に金属酸化膜81を形成した後、金属酸化膜81に増感色素82を担持させることにより形成できる。金属酸化膜81の形成手法は、特に制限されるものではなく、例えば金属材料81Pを含む溶液をスピンコートしてから加熱処理を行う方法、金属材料81Pを粉体状にしてAD法やコールドスプレー法等の粉体吹付法により製膜する方法が挙げられる。また、増感色素82を金属酸化膜81に担持させる方法としては、金属酸化膜81を増感色素82の溶液に浸漬させる方法が挙げられる。該溶液中の増感色素82の濃度、浸漬時間、浸漬させる金属酸化膜81の表面状態、金属酸化膜81を前記溶液に浸漬させた後の温湿度などの条件は、発電層45が用いられる用途に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
次に、図7(b)に示すように、後に電解液を注入する空間Sを囲むように適当な厚みを有する封止材47を配置する。ここで、適当な厚みとは、図2(a),(b)に示す電解液44の厚みと同程度の厚みを示す。続いて、評価用基板42の第一領域71及び対向基板43の還元層53が相互に重なると共に、評価用基板42の第二領域72及び対向基板43の還元層53が相互に重なるように、図6(c)に示す対向基板43の還元層53を電子取り出し層52側に向けて、図6(c)に示す対向基板43を評価用基板42と対向させて配置する。その後、封止材47を適切な硬化工程により硬化させる。封止材47として光硬化性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物を用いた場合の硬化工程としては、例えば紫外線を対向基板43側から照射した後、約80℃の温度下で保持及び静置する工程が挙げられる。
【0042】
次に、図7(b)に示す評価用基板42と封止材47と対向基板43によって囲まれて形成された空間Sに注入孔49を通じて電解質44を注入する。その後、図7(c)に示すように、注入孔49の上部をガラス板55で閉じる。対向基板43とガラス板55の上部を封止材56とガラス板57とで順次覆い、封止材56を適切な硬化工程により硬化させる。
以上の工程により、図1及び図2に示すように発電性能評価部61と色素評価部62とを備えてなる評価用試験体41が完成する。
【0043】
[測定工程]
製造した評価用試験体41に設けられた発電層45の電気特性を測定するために、先ず評価用試験体41の発電性能評価部61の電子取り出し層52と還元層53とを配線58により接続し、配線58に電気特性測定装置65を設ける。続いて、電気特性測定装置65から印加電圧を還元層53に加えて、電解質44での酸化還元反応(図3参照)を生じさせ、発電層45からの電流を電子取り出し層52及び配線58を介して電気特性測定装置65に取り込む。前記印加電圧を変化させながら、発電層45からの電流を測定することにより、発電性能評価部61の発電層45のI−V特性を正確に測定できる。
【0044】
[分析工程]
製造した評価用試験体41に設けられた発電層45の増感色素82の濃度測定及び構造解析を行うために、先ず評価用試験体41の色素評価部62の評価用基板42に赤外分光用の赤外光が導入されるように、評価用試験体41を多重内部反射FT−IR法により測定を行う図示しない赤外分光測定装置に設置する。続いて、図4を用いて説明したように前記赤外分光測定装置からの赤外光を評価用試験体41の色素評価部62の評価用基板42で内部伝搬させて、発電層45の前記赤外光に対する吸収特性を測定する。この測定結果と、予め測定した発電層45の金属酸化膜81及び電解質44の前記赤外光に対する吸収特性とを比較することにより、増感色素82の前記赤外光に対する吸収特性が得られる。そして、増感色素82の前記赤外光に対する吸収特性を解析することにより、増感色素82の化学構造及びその変化を解析できる。
【0045】
上記説明した発電層45の評価方法においては、前記測定工程と前記分析工程を同時に行ってもよく、順次行ってもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の発電層45の評価方法においては、発電性能評価部61と色素評価部62とを備えた評価用試験体41を用いて、発電層45のI−V特性等の電気特性を取得すると共に、多重内部反射FT−IR法を用いた赤外光に対する吸収特性の測定結果を解析して増感色素82の濃度、化学構造及びその変化を得ることができる。
【0047】
次いで、本実施形態の評価用試験体41を用いた色素増感太陽電池の製造設備の管理方法について説明する。
【0048】
図示しない色素増感太陽電池の製造設備は、上記説明した発電層45の評価方法の各工程と同様の工程を実施できる設備である。但し、色素増感太陽電池は、評価用試験体41の評価用基板42の替わりに樹脂フィルムやガラス板等の透明基材を用い、この透明基材を第一領域及び第二領域に区画せずに、一方の板面の全体に電子取り出し層52と同様の材質からなる透明導電層を形成して製造される。また、対向基板の板面には対向導電層及び還元層が形成される。
【0049】
色素増感太陽電池の製造設備の管理方法では、上記の色素増感太陽電池の製造設備において、金属酸化膜81と増感色素82からなる発電層45の材質、形成方法及び周辺環境を同一に揃えること以外は、色素増感太陽電池と評価用試験体41とを、それぞれの構成要素に適した材質を用いて、適切な形成方法及び周辺環境を設定・実施しながら、並行して製造する。そして、色素増感太陽電池と評価用試験体41における発電層45の形成段階において、上記説明した発電層45の評価方法を実施し、得られた結果に基づいて色素増感太陽電池の製造設備の周辺環境を制御する。具体的には、発電層45の評価方法によって得られた発電層45のI−V特性及び増感色素82の構造解析の結果が所定の条件に該当しない場合は、色素増感太陽電池の製造設備の周辺環境にフィードバック制御をかけて、前記所定の条件を満たすように前記周辺環境を変更してもよい。
【0050】
本実施形態の色素増感太陽電池の製造設備の管理方法では、発電層45の評価方法で得られた発電層45の電気特性と増感色素82の構造解析により発電層45が所定の条件で製造されているかを正確に見極めることができ、色素増感太陽電池の生産性を高めて、歩留まりよく製造できる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
先ず、評価用基板としてFzシリコン基板を用意し、前記基板の長手方向の中央を第二領域とし、その両側を第一領域として区分した。次いで、スパッタリング法により、第一領域のFzシリコン基板の一方の板面にITOからなる電子取り出し層を形成する。その後、スクリーン印刷法により、電子取り出し層と第二領域のFzシリコン基板の前記一方の板面とを跨ぐようにTiOペーストを塗布して、500℃で焼成することによりTiOからなる金属酸化膜を形成した。次いで、N719と、アセトニトリルとt−ブタノールとの1:1混合溶媒とからなるN719濃度0.3%の増感色素溶液が収容された浸漬槽に、金属酸化膜を温度30℃で24時間浸漬させて、金属酸化膜に増感色素を担持させた発電層を形成した。
【0054】
次に、一方の面にFTOがコーティングされたガラスからなる対向基板(以下、FTOガラス基板という)を用意した。次いで、メタノール、エタノール等の溶媒に白金を溶かした白金溶液をFTO上に塗布した後、500℃で120分間、焼成して白金からなる還元層を形成した。
【0055】
次に、Fzシリコン基板とFTOガラス基板との間に電解液を注入するための空間を形成するために、Fzシリコン基板又はFTOガラス基板の一方の板面の所定の位置に、紫外線硬化樹脂と熱硬化樹脂を混合した封止樹脂からなる封止材を配置した。次いで、Fzシリコン基板とFTOガラス基板の各第一領域、各第二領域がそれぞれ相互に重なり、Fzシリコン基板とFTOガラス基板のそれぞれの一方の板面が互いに対向するように、Fzシリコン基板とFTOガラス基板とを封止材を介在させて配置した。その後、この封止材を硬化させて、Fzシリコン基板とFTOガラス基板との間に形成された空間にアセトニトリル溶媒の市販の色素増感太陽電池用の電解液(商品名:イオドライトAN−50(ソラノニクス社製)からなる電解液を注入し、注入孔をガラス板で封止した。更に、そのガラス板の上から前記封止樹脂からなる封止材とガラス板とを順次積載して封止し、図1及び図2に示す評価用試験体Aを得た。
【0056】
(実施例2)
ITOからなる電子取り出し層に替えて、第一領域のFzシリコン基板の一方の板面にTiCl処理を施すこと以外は、実施例1と同一の材料を用いて、同様の作業を行うことにより評価用試験体Bを得た。
【0057】
(比較例1)
Fzシリコン基板の前記一方の板面全体にITOからなる電子取り出し層を形成し、第一及び第二の領域のFzシリコン基板の前記一方の板面を跨ぐようにTiOペーストを塗布すること以外は、実施例1と同一の材料を用いて、同様の作業を行うことにより評価用試験体Cを得た。
【0058】
(比較例2)
Fzシリコン基板の第一領域にITOからなる電子取り出し層を形成せずに、第一及び第二の領域のFzシリコン基板の前記一方の板面を跨ぐようにTiOペーストを塗布すること以外は、実施例1と同一の材料を用いて、同様の作業を行うことにより評価用試験体Dを得た。
【0059】
(評価用試験体A〜Dを用いた発電層の発電性能の評価)
実施例1,2及び比較例1で得られた各評価用試験体A〜Cにおいて、図2(a)に示すように、電子取り出し層と還元層とを配線で接続し、電気特性測定装置を配置した。比較例2で得られた評価用試験体Dには電子取り出し層を形成しなかったため、評価用試験体DのFzシリコン基板と還元層とを配線で接続し、電気特性測定装置を配置した。次いで、電気特性測定装置を用いて、各評価用試験体A〜Dの発電層のI−V特性を取得した。実施例1及び実施例2の各評価用試験体A,Bの発電層のI−V特性のグラフを図8に示す。この後、図2(a)において矢印で示すように、対向基板側から評価用試験体A〜Dに市販のLEDライト(パナソニック株式会社製、照度:46k lux)からの光を照射してエネルギー変換効率を測定した。各評価用試験体A〜Dの発電層のI−V特性における開放電圧(Voc)、短絡電流(Jsc)、フィルファクター(FF)、エネルギー変換効率(PCE)を表1に示す。
【0060】
表1からわかるように、本発明を適用した実施例1及び実施例2の評価用試験体A,Bの第一領域に電流取り出し層が設けられていることにより、各評価用試験体A,Bの発電層のI−V特性等の電気特性が良好に取得されている。比較例1の評価用試験体CにおいてもI−V特性等の電気特性が良好に取得されたが、比較例2の評価用試験体Dでは電子取り出し層が形成されなかったため、電解質及び発電層の酸化還元反応が継続的に生じず、電気特性を測定することは不可能であった。
【0061】
【表1】
【0062】
(評価用試験体A〜Dを用いた発電層の増感色素の評価)
次に、実施例1,2及び比較例1,2の各評価用試験体A〜DのFzシリコン基板側を多重内部反射FT−IR測定装置(商品名:MB100(BOMEN社製))に対向させて、エネルギー変換効率を測定した時と同様の光を評価用試験体A〜Dに照射しながら、多重内部反射FT−IR法を用いて評価用試験体A〜Dの各発電層の増感色素の化学構造を解析した。解析を行うにあたっての各評価用試験体A〜Dにおける赤外光の透過性の評価結果を表1に示す。
【0063】
表1の「赤外光透過性」の欄には、評価用試験体D、即ちFzシリコン基板の第一領域、第二領域の何れの領域にも電子取り出し層が形成されていない評価用試験体の赤外光の透過性を基準「◎」として記載した。評価用試験体Aは、評価用試験体Dよりも赤外光の透過率は劣るものの、多重内部反射FT−IR測定装置で取得したスペクトルの信号雑音比が良好で増感色素の化学構造の解析可能なスペクトルを取得可能であった。評価用試験体Bは、かろうじてスペクトルを得られるものの、スペクトルの信号雑音比が悪く、増感色素の化学構造の解析は困難であった。評価用試験体Cは、赤外光を全く通さず、増感色素の化学構造の解析は不可能であった。
【0064】
以上説明したように、本発明によれば、電子取り出し層がFzシリコン基板の第一領域のみに形成されている発電性能評価部において、発電層のI−V特性等の電気特性が得られることを確認した。また、発電層が赤外光を内部伝搬可能なFzシリコン基板に当接してなる色素評価部において多重内部反射FT−IR法を用いた発電層の赤外光に対する吸収特性が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0065】
41…評価用試験体、42…評価用基板、43…対向基板、44…電解質、52…電子取り出し層、53…還元層、61…発電性能評価部、62…色素評価部、71…第一領域、72…第二領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8