【実施例】
【0027】
まず、樹脂材料及び非オーム性抵抗体の製造方法の実施例を、
図1を用いて説明する。本実施例では、第1樹脂材料にはポリエチレンを、第2樹脂材料にはナイロン(主相樹脂)にカーボンの粉末(導電性粉末)を混入させたものを、マイクロバリスタにはZnOを添加物と共に焼結反応させて得られた多結晶体の粒子を用いた。カーボンの粉末は、粒子の表面に対してカップリング剤によって親水性の表面処理を施したものを用いてもよいが、そのような処理を行わずにそのまま用いてもよい。マイクロバリスタは、一般的な噴霧乾燥法で得られたものを焼成し、所定の大きさの目(後述)を有する篩を通過したものを用いた。第2樹脂材料の体積は、該第2樹脂材料と第1樹脂材料を合わせた体積の16%未満とした。
【0028】
これら第1樹脂材料と第2樹脂材料を190〜230℃の温度下において混練する(ステップS1)。その際、主相樹脂と導電性粉末を混合して第2樹脂材料を作製した後に第1樹脂材料と当該第2樹脂材料を混合するという2段階の混合を行ってもよいが、第1樹脂材料と主相樹脂と導電性粉末の3種を同時に混練した方が、時間を短縮することができる上に、容易に導電性粉末の濃度の高い分散相を得ることができる。
【0029】
その後、得られた混合物をペレットに成形する(ステップS2)。次に、このペレットとマイクロバリスタを混練する(ステップS3)。これにより、本実施例の樹脂材料10が得られる。その後、架橋剤を添加したうえで射出成型を行うことにより、非オーム性抵抗体が得られる(ステップS4)。
【0030】
第1樹脂材料であるポリエチレンと第2樹脂材料の主相樹脂であるナイロンが互いに非相溶であることにより、第1樹脂材料と第2樹脂材料は、混合しても互いに分離する。また、ポリエチレンが無極性樹脂であってナイロンが極性樹脂であることにより、導電性材料であるカーボンはナイロンの方に偏在する。これにより、得られた樹脂材料10内には、
図2(a)に示すように、第1樹脂材料によるマトリックス11の中に、第1樹脂材料よりも体積が小さい第2樹脂材料による島状導電性分散相12が分散して形成される。
【0031】
樹脂材料10では、
図2(b)に示すように、島状導電性分散相12とマイクロバリスタ13が接触して、島状導電性分散相12を介してマイクロバリスタ13同士を電気的に接続する電流19の経路が形成される。樹脂材料10の電気的特性(すなわち、非オーム性)は、マイクロバリスタ13内におけるZnO粒子131と粒界層132の界面を電流が流れることにより発現する。
【0032】
本実施例の樹脂材料10では、第1樹脂材料のポリエチレンよりも第2樹脂材料のナイロンの方が、マイクロバリスタ13に対する濡れ性が高い。そのため、マイクロバリスタ13と島状導電性分散相12の間にマトリックス11が侵入することが防止され、マイクロバリスタ13同士は、島状導電性分散相12を介して電気的に接触することとなる。こうして、本実施例の樹脂材料10では、大電流に対するサージ耐性に優れた特性が得られる。
【0033】
また、第1樹脂材料のポリエチレンは、マイクロバリスタ13に対する濡れ性が、上述のように第2樹脂材料よりは低いものの、マイクロバリスタ13の表面で弾かれるほどではない。そのため、島状導電性分散相12を介してマイクロバリスタ13同士が接触している接触点以外では、マトリックス11はマイクロバリスタ13の表面を覆うことができる。これにより、マイクロバリスタ13の表層に電流が流れることを防止することができ、小電流に対する良好な絶縁特性を得ることができる。
【0034】
さらに、島状導電性分散相12は、球形に近いため島状導電性分散相12同士のパーコレーションが生じ難く、高濃度にすることができる。それゆえ、固形分であるマイクロバリスタ13の体積比率を小さくすることができるため、射出成型が可能となり、成形の自由度を高めることができる。さらに、耐衝撃性も高めることができる。
【0035】
以下、本実施例で作製した試料に対して行った実験の結果を説明する。
[実験1]
実験1では、材料に関する以下の(1)〜(3)のパラメータが異なる4種類の試料を作製した。なお、マイクロバリスタ13は、目の大きさが45μmである篩を通過したものを使用した。
<材料パラメータ>
(1) 原料全体に占める第2樹脂材料の濃度(体積百分率)
(2) カーボンが全て第2樹脂材料に偏在したと想定した場合における、第2樹脂材料に占めるカーボンの濃度(重量百分率)
(3) 原料全体に占めるマイクロバリスタ13の濃度(体積百分率)
各試料における材料パラメータの値を表1に示す。
【表1】
【0036】
表1の各試料についてV-I特性を測定した。本実施例では、得られる電流がおおむね1×10
-2A/10cm
2以下の範囲内では試料に直流電圧を印加し、電流がおおむね1×10
-2A/10cm
2を超える範囲内では、大電流を流すことができるよう、試料にインパルス電圧を印加した。測定結果を
図3に示す。いずれの試料においても、電流がほぼ0のときにも、電圧が1mmあたり数十〜数百Vという高い値を有する。これは、小電流に対する良好な絶縁特性を有していることを意味する。また、
図3では、対数スケールの電流に対して、電圧を線形スケールで示しており、電流が増加しても電圧の上昇が抑えられることを意味している。すなわち、この測定結果は、試料1〜4が非オーム性を有することを示している。
【0037】
[実験2]
次に、実験1よりも第2樹脂材料の含有率が高い試料を作製し、V-I特性を測定した結果を示す。試料の作製の際には、まず、ポリエチレンを91.3体積%、ナイロンを8.0体積%、カーボンを0.680体積%(有効数字の関係上、これらの数値の合計は100体積%にはならない)、200℃で同時混練することにより、ポリマーアロイを作製した。次に、このポリマーアロイとZnOのマイクロバリスタ13を表2に示した体積割合で190℃の温度条件において混合することにより、試料を得た。マイクロバリスタ13は、篩にかけることにより、粒径がそれぞれ10〜20μm、20〜30μm、及び30〜44μmの範囲内にある3種類のものを用いた。
【表2】
【0038】
V-I特性の実験結果を
図4及び
図5のグラフに示す。これらのグラフでは電流、電圧共に対数スケールで示しており、V-I特性がI=(V/C)
α(α:非オーム性指数、C:定数)で表せる場合に、グラフが直線になり、該直線の傾きの逆数が非オーム性指数αに対応する。非オーム性指数αが大きいほど、電流が増加しても電圧の上昇が抑えられて非オーム性に優れていることを意味する。
【0039】
図4では、マイクロバリスタ13の体積率が等しい試料同士を1つのグラフにまとめ(グラフの数は3つ)、各グラフにおいてマイクロバリスタ13の粒径の相違によるV-I特性の相違を示した。
図4のグラフより、マイクロバリスタ13の体積率が等しい試料同士を比較すると、いずれの場合にも、マイクロバリスタ13の粒径が3種のうちの中位である20〜30μmの試料が、小電流における絶縁特性が最も良い(電圧が高い)上に、非オーム性指数αが大きい。
【0040】
図5では、マイクロバリスタ13の粒径が等しい試料同士を1つのグラフにまとめ(グラフの数は3つ)、各グラフにおいてマイクロバリスタ13の体積率の相違によるV-I特性の相違を示した。
図5のグラフより、マイクロバリスタ13の粒径が等しい試料同士を比較すると、いずれの場合にも、作製した試料におけるマイクロバリスタ13の体積率の範囲内(10〜30体積%)では、当該体積率が低くなるほど、小電流における絶縁特性が最も良い(電圧が高い)といえる。非オーム性指数αは、マイクロバリスタ13の体積率が3種のうちの中位である20体積%の試料が最も大きい。
【0041】
[実験3]
次に、表3に示すようにポリエチレン、ナイロン、及びカーボンの体積率が異なる3種類のポリマーアロイを作製し、それらポリマーアロイをそれぞれZnOのマイクロバリスタ13と混合することにより、3種類の試料(試料21〜23)を作製した。ポリマーアロイの作製時には200℃で各材料を混合した。また、マイクロバリスタは粒径10〜20μmのものを用い、ポリマーアロイとマイクロバリスタ13は190℃で混合し、その混合比は、ポリマーアロイを70体積%、マイクロバリスタ13を30体積%とした。なお、これら3種類の試料のうちの1つ(表3中の試料23)は、表2の試料17と同じものである。
【表3】
【0042】
試料21〜23のV-I特性の実験結果を
図6のグラフに示す。この実験結果より、ナイロンの含有量が少なくなるほど、小電流における電圧が最も高く、且つ、非オーム性指数αが大きい。
【0043】
[実験4]
次に、島状導電性分散相12の濃度の上限値、及び望ましい下限値を定めるために、島状導電性分散相12の体積率(濃度)が0.5体積%〜16体積%の範囲内で異なる、マトリックス11と島状導電性分散相12から成る試料を作製した。なお、この試料にはマイクロバリスタ13は混練されていない。マトリックス11、島状導電性分散相12の原料には、実験1〜3と同じものを用いた。
【0044】
図7に、各試料における樹脂材料全体の体積抵抗率を測定した結果を示す。体積抵抗率は、島状導電性分散相12の体積率が16体積%である試料(以下、「16%試料」とする)では10
8Ωcmのオーダーであるのに対して、16%試料以外(島状導電性分散相12の体積率が0.5〜12体積%)の試料ではいずれも10
15〜10
17Ωcmという7〜9桁高い値が得られた。16%試料以外の試料同士では、島状導電性分散相12の体積率に依存した体積抵抗率の有意な相違は見られない。これらの結果は、16%試料以外では島状導電性分散相12同士が電気的に分離しているのに対して、16%試料では、島状導電性分散相12によるパーコレーションが生じていることを示唆している。
【0045】
図8に、各試料における島状導電性分散相12の平均粒径を測定した結果を示す。ここで平均粒径は、樹脂材料10の走査電子顕微鏡(SEM)画像を解析することにより求めた、累積度数分布における50%の値(中央値)を用いた。島状導電性分散相12の体積率が大きいほど、平均粒径も大きくなる。なお本実施例ではSEMによる2次元画像から島状導電性分散相のサイズを読み取っているので形状が球状から崩れると実際のサイズを正確に測定できない。理論上は16%ではサイズが無限大となる。平均粒径が急激に増加する16%付近の領域では島状導電性分散相12によるパーコレーションが生じるおそれがあるため、そのような範囲内を避けて島状導電性分散相12の体積率を設定することが望ましい。
一方、島状導電性分散相が極端に少ないと、マトリックス内における島状導電性分散相の不均質性が増大する。
図8では島状導電性分散相12の体積率が1%付近になると体積率の減少に伴い粒径が極端に減少することが示されている。
このように1%未満の領域では島状導電性分散相の体積率がわずかに変化しただけで粒径が大幅に変化してしまうため、島状導電性分散相の粒径のコントロールは難しく、島状導電性分散相の不均質性はより顕著になってしまう。そのため、島状導電性分散相の体積率は1%以上であることが望ましい。
【0046】
次に、マイクロバリスタ13の濃度x、島状導電性分散相12(第2樹脂材料)の濃度y、マイクロバリスタ13の半径r
1、及び島状導電性分散相12の半径r
2の関係について理論的に考察する。なお、島状導電性分散相12の径r
2は、樹脂材料10の作製時における第1樹脂材料と第2樹脂材料の混練の条件、並びに第1樹脂材料及び第2樹脂材料のMFR(Melt Flow Rate:流動性指数)及び表面エネルギーに左右される値である。
【0047】
まず、樹脂材料10全体に含まれるマイクロバリスタ13の総数をn
1、島状導電性分散相12の総数をn
2とする。1個のマイクロバリスタ13に接触する島状導電性分散相12の平均個数をn、島状導電性分散相12のうちマイクロバリスタ13に接触している個数比をpとすると、
n=p・n
2/n
1 …式(1)
となる。ここで、n
2/n
1をx, y, r
1, 及びr
2で表すと、
n
2/n
1=(y/x)・(r
1/r
2)
3 …式(2)
となる。1個のマイクロバリスタ13に平均で1個以上の島状導電性分散相12が接触することが望ましいことから、式(1)及び(2)より、
1≦n=p・n
2/n
1=p・(y/x)・(r
1/r
2)
3、
1/p≦n
2/n
1=(y/x)・(r
1/r
2)
3 …式(3)
となる。
【0048】
次に、マイクロバリスタ13を半径r
1の球体、島状導電性分散相12を半径r
2の円、とそれぞれ近似し、当該球体の表面を複数の当該円で埋めるというモデルを考える。当該球体の表面積S
1のうち、当該円が付着する面積S
2の割合が一定の値φを超えると、多数のマイクロバリスタ13が島状導電性分散相12を介して連続的に繋がるパーコレーションが生じ、バリスタとしての特性を発揮できる、電流の経路が形成される。その条件は、
φ>n・S
2/S
1=(n・πr
22)/(4πr
12) …式(4)
である。
【0049】
式(1), (3)及び(4)より、
(1/p)・(r
2/r
1)
2≦(y/x)・(r
1/r
2)<(1/p)・4φ …式(5)
となる。従って、コンピュータシミュレーション等によりパラメータp及びφを求めることができれば、x、y、r
1及びr
2の適切な値の範囲を求めることができる。
【0050】
本発明は上記実施例のものには限られない。例えば、第1樹脂材料、第2樹脂材料及びマイクロバリスタ13の材料は実施例で挙げたものだけではなく、上述の種々の組み合わせを用いることができる。また、マイクロバリスタ13自身の粒径、マイクロバリスタ13内の結晶粒の粒径を左右する焼成温度、あるいは島状導電性分散相12の粒径を左右するMFRも上記のものには限られない。
【0051】
上記実施例では焼成したマイクロバリスタ13をそのまま用いていたが、ZnOナノロッドに加熱処理によってCoやMnを熱拡散させたものを酸化ビスマスでコートして得られるマイクロバリスタを用いてもよい。これにより、マイクロバリスタ13が球形である場合よりも、マイクロバリスタ13同士の(島状導電性分散相12を介した)接触点の数を増加させることができる。
【0052】
島状導電性分散相12は、その一部が、カーボン等の導電性粉末から成る粒子に置き換えられていてもよい。この粒子には、マイクロバリスタと同程度の大きさのもの、用いることが望ましい。また、パーコレーションが生じ難いという点において、この粒子は球形であることが望ましい。
【0053】
マイクロバリスタと共に、以下に示す熱伝導率の高い絶縁材料をマトリックスに加えることで、マトリックス内の均熱化を図ることができる。そのような絶縁材料として、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化マグネシウム等が挙げられる。これにより、バリスタとしての特性をより良好にすることができる。
【0054】
さらには、マイクロバリスタ13を、高熱伝導性絶縁材料等、他の機能性粉末に置き換えることにより、樹脂材料10をバリスタ以外に用いることができる。