特許第6119013号(P6119013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6119013歯科用超音波診断装置及び歯科用超音波プローブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6119013
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】歯科用超音波診断装置及び歯科用超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20170417BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-571753(P2016-571753)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2016078160
【審査請求日】2016年12月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】石黒 稔道
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−168844(JP,A)
【文献】 特表2001−507603(JP,A)
【文献】 特開昭60−55937(JP,A)
【文献】 特開2006−20828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を検査対象としての歯及び/または歯茎に伝搬させ、得られた反射波信号に基づいて前記検査対象の超音波断層画像を表示する歯科用超音波診断装置であって、
複数の超音波振動子が配列されてなり前面側に超音波放射面を有する振動子アレイと、第1面及びその反対側に位置する第2面を有し、前記第1面が前記振動子アレイの前記超音波放射面を覆うように接合され、前記第2面が検査時に前記検査対象に対して密着配置されるゲル状シートとを含んで構成された歯科用超音波プローブと、
前記振動子アレイにおける前記複数の超音波振動子に駆動信号を入力し、前記ゲル状シートに対して前記第1面側から入射した前記超音波のビームが、前記第2面に到る手前の位置で集束しかつ前記複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動するように、前記超音波の電子フォーカス及び電子走査を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【請求項2】
前記歯科用超音波プローブは、把持可能な棒状に形成され、前記振動子アレイを先端に有する柄部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項3】
前記歯科用超音波プローブにおける前記柄部と前記振動子アレイとの連結部分には、前記柄部の長手方向を基準としたときの前記複数の超音波振動子の配列方向を変更すべく、前記柄部に対する前記振動子アレイの取付角度を調整するための角度調整機構が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項4】
前記歯科用超音波プローブは、前記振動子アレイと対向するよう設けられ、前記ゲル状シートを介して前記検査対象を挟み込むことが可能な挟持部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項5】
前記歯科用超音波プローブは、前記振動子アレイを固定するとともに、前記検査対象を挟み込むことが可能なようにマウスピース型に前記ゲル状シートを変形させた状態で支持する固定支持体をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項6】
前記ゲル状シートを介して前記検査対象を挟み込むことが可能なように一対の前記振動子アレイが対向配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項7】
前記振動子アレイにおける前記超音波振動子の配列方向の寸法は、10mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の歯科用超音波診断装置。
【請求項8】
超音波を検査対象としての歯及び/または歯茎に伝搬させ、得られた反射波信号に基づいて前記検査対象の超音波断層画像を表示する歯科用超音波診断装置に用いる歯科用超音波プローブであって、
複数の超音波振動子が配列されてなり前面側に超音波放射面を有する振動子アレイと、第1面及びその反対側に位置する第2面を有し、前記第1面が前記振動子アレイの前記超音波放射面を覆うように接合され、前記第2面が検査時に前記検査対象に対して密着配置されるゲル状シートとを含んで構成され、
前記振動子アレイにおける前記複数の超音波振動子に駆動信号が入力したときに、前記ゲル状シートに対して前記第1面側から入射した前記超音波のビームが、前記第2面に到る手前の位置で集束しかつ前記複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動するように構成されている
ことを特徴とする歯科用超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて歯の状態を検査する歯科用超音波診断装置及び歯科用超音波プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯の状態を観察して診断するためにレントゲン撮影が広く用いられている。しかし、放射線被爆が問題となるため、診断のたびにレントゲン撮影を繰り返し行うことは極力避ける必要があった。
【0003】
また、歯科においては、虫歯の検査に加えて歯周病の検査が行われている。歯周病は、症状の進行によって歯を支えている土台である歯槽骨が崩壊し、歯が抜けてしまう病気である。それゆえ、歯を健康に保つ上で大きな問題となっている。このため、歯周病の予防や治療を適切に行うために歯周病の検査が行われている。歯周病の検査は、レントゲン撮影のほかに歯周ポケットプローブと呼ばれるニードル状の器具を用いて歯周ポケットの深さを測定することによって行われる。歯周ポケットプローブを用いた検査では、プローブ先端を歯と歯茎との間に差し込んで歯周骨の状態をチェックする。そのため、放射線被爆がなく簡単に検査できるといったメリットがあるが、痛みや出血を伴うといったデメリットがある。
【0004】
これに対して、超音波診断は、簡便で非侵襲的な検査である。また、超音波を用いて画像を形成する超音波診断によれば、レントゲン撮影のような被曝の恐れがなく、繰り返し検査が可能である。因みに、超音波を歯周ポケットに照射し、その反射波信号に基づいて歯周ポケットの深さを測定する方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米抄2010/121191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超音波診断を行う従来の診断装置は、主として腹部などの画像診断を行うために開発されたものである。よって、歯の検査に適した装置(具体的には、歯内部の断層画像を表示して検査する歯科専用の超音波診断装置)は、いまだ実用化されていない。この理由は、歯は歯茎などの生体組織と比べて音速が大きく異なるからである。それゆえ、従来の超音波診断装置を用いる場合、歯の表面で超音波が散乱して歯内部の超音波断層画像を表示することができなかった。このため、超音波断層画像を表示して歯周病の検査等を行う歯科専用の診断装置の実用化が望まれている。
【0007】
特許文献1に開示された方法では、先端に超音波を照射するチップを備えた手持ち具を用いる。そして、歯周ポケットに診断用流体を充填した状態でチップから超音波を照射し、ピンポイントで歯周ポケットの深さを測定する。この検査方法は、断層画像を表示するものではないため、1回の検査によって測定できる部位が限られてしまう。このため、歯周病の進行度合を正確に把握するためには、超音波測定を複数回行う必要があり、検査時間が長くなってしまうことが懸念される。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、放射線被爆や痛みを伴うことなく、断層画像からの視覚的情報により歯や歯茎の状態を簡単かつ迅速に検査することができる歯科用超音波診断装置及び歯科用超音波プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を検査対象としての歯及び/または歯茎に伝搬させ、得られた反射波信号に基づいて前記検査対象の超音波断層画像を表示する歯科用超音波診断装置であって、複数の超音波振動子が配列されてなり前面側に超音波放射面を有する振動子アレイと、第1面及びその反対側に位置する第2面を有し、前記第1面が前記振動子アレイの前記超音波放射面を覆うように接合され、前記第2面が検査時に前記検査対象に対して密着配置されるゲル状シートとを含んで構成された歯科用超音波プローブと、前記振動子アレイにおける前記複数の超音波振動子に駆動信号を入力し、前記ゲル状シートに対して前記第1面側から入射した前記超音波のビームが、前記第2面に到る手前の位置で集束しかつ前記複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動するように、前記超音波の電子フォーカス及び電子走査を行う制御手段とを備えたことを特徴とする歯科用超音波診断装置をその要旨とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の発明によると、歯科用超音波プローブにおいて、振動子アレイの前面側にある超音波放射面にゲル状シートの第1面が接合され、ゲル状シートによって超音波放射面が覆われている。検査時には、ゲル状シートの第2面が検査対象としての歯及び/または歯茎に密着配置される。そして、制御手段によって、振動子アレイにおける複数の超音波振動子に駆動信号が入力され、超音波が送受信される。このとき、ゲル状シートに対して第1面側から入射された超音波のビームが第2面に至る手前の位置で集束するよう電子フォーカスが行われるとともに、複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動するよう電子走査が行われる。この場合、振動子アレイの超音波放射面から放射された超音波のビームは、ゲル状シートを伝搬して歯の表面に達する前に焦点が絞り込まれた後、歯の表面から内部に入り込んでいく。このようにすると、歯表面での超音波の散乱が抑制されるため、従来では困難であった超音波による歯内部の断層画像の可視化が可能となる。従って、本発明の歯科用超音波診断装置を用いれば、ゲル状シートを介して振動子アレイの超音波放射面を歯や歯茎の表面に密着させるといった簡単な操作により超音波断層画像を取得することができ、その断層画像を確認することによって、歯や歯茎の状態をリアルタイムで迅速に検査することができる。さらに、超音波を用いているため、レントゲン撮影のような放射線被爆がなく、歯周ポケットプローブを用いた検査のような痛みを伴うことがない。また、本発明の歯科用超音波診断装置を用いれば、レントゲン撮影を行う場合のように処置室から撮影室などに移動する必要がなく、処置室での治療中に検査が可能である。このため、歯科用超音波診断装置による検査結果に基づいて、歯の治療を素早く正確に行うことができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記歯科用超音波プローブは、把持可能な棒状に形成され、前記振動子アレイを先端に有する柄部をさらに備えたことをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項2に記載の発明によると、本発明の歯科用超音波プローブは、棒状の柄部の先端に振動子アレイが設けられた歯ブラシタイプのプローブであるため、操作性を高めることができる。具体的には、作業者が柄部を手に持って振動子アレイがある先端側を口腔内に挿入し、ゲル状シートを介して検査対象の表面に超音波放射面を確実に密着させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記歯科用超音波プローブにおける前記柄部と前記振動子アレイとの連結部分には、前記柄部の長手方向を基準としたときの前記複数の超音波振動子の配列方向を変更すべく、前記柄部に対する前記振動子アレイの取付角度を調整するための角度調整機構が設けられていることをその要旨とする。
【0014】
従って、請求項3に記載の発明によると、歯科用超音波プローブにおける柄部と振動子アレイとの連結部分に角度調整機構が設けられており、この角度調整機構によって、柄部に対する振動子アレイの取付角度が調整される。この結果、柄部の長手方向を基準としたときの複数の超音波振動子の配列方向が変更されるため、検査し難い箇所にある歯や歯茎の表面に超音波放射面を確実に密着させることが可能となる。そして、歯の縦断面や横断面など検査に適した超音波断層画像を確実に得ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記歯科用超音波プローブは、前記振動子アレイと対向するよう設けられ、前記ゲル状シートを介して前記検査対象を挟み込むことが可能な挟持部材をさらに備えたことをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項4に記載の発明によると、挟持部材と振動子アレイとによって検査対象を挟み込むことにより、ゲル状シートを介して検査対象の表面に超音波放射面を確実に密着させることができ、検査対象の超音波断層画像を確実に得ることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1において、前記歯科用超音波プローブは、前記振動子アレイを固定するとともに、前記検査対象を挟み込むことが可能なようにマウスピース型に前記ゲル状シートを変形させた状態で支持する固定支持体をさらに備えたことをその要旨とする。
【0018】
従って、請求項5に記載の発明によると、歯科用超音波プローブにおいて、固定支持体により、振動子アレイが固定されるとともに、ゲル状シートがマウスピース型に変形されて支持される。このように歯科用超音波プローブを構成すると、任意の位置にある歯や歯茎の表面にゲル状シートを介して超音波放射面を確実に密着させることができ、超音波断層画像を確実に得ることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記ゲル状シートを介して前記検査対象を挟み込むことが可能なように一対の前記振動子アレイが対向配置されていることをその要旨とする。
【0020】
従って、請求項6に記載の発明によると、対向配置された一対の振動子アレイによって、歯の表側及び裏側から同時に超音波断層画像を取得することができる。このため、それら断層画像を確認することにより歯の状態をより正確に検査することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかにおいて、前記振動子アレイにおける前記超音波振動子の配列方向の寸法は、10mm以上20mm以下であることをその要旨とする。
【0022】
従って、請求項7に記載の発明によると、振動子アレイの寸法が20mm以下であるため、振動子アレイを口腔内に挿入して歯の検査を確実に行うことができる。また、振動子アレイの寸法が10mm以上であるため、超音波断層画像の表示可能な検査範囲を十分に確保することができ、歯の検査を効率的に行うことができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、超音波を検査対象としての歯及び/または歯茎に伝搬させ、得られた反射波信号に基づいて前記検査対象の超音波断層画像を表示する歯科用超音波診断装置に用いる歯科用超音波プローブであって、複数の超音波振動子が配列されてなり前面側に超音波放射面を有する振動子アレイと、第1面及びその反対側に位置する第2面を有し、前記第1面が前記振動子アレイの前記超音波放射面を覆うように接合され、前記第2面が検査時に前記検査対象に対して密着配置されるゲル状シートとを含んで構成され、前記振動子アレイにおける前記複数の超音波振動子に駆動信号が入力したときに、前記ゲル状シートに対して前記第1面側から入射した前記超音波のビームが、前記第2面に到る手前の位置で集束しかつ前記複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動するように構成されていることを特徴とする歯科用超音波プローブをその要旨とする。
【0024】
従って、請求項8に記載の発明によると、歯科用超音波プローブにおいて、振動子アレイの前面側にある超音波放射面にゲル状シートの第1面が接合され、ゲル状シートによって超音波放射面が覆われている。検査時には、ゲル状シートの第2面が検査対象に密着配置される。そして、振動子アレイにおける複数の超音波振動子に駆動信号が入力される。このとき、ゲル状シートに対して第1面側から入射された超音波のビームが第2面に至る手前の位置で集束するとともに、複数の超音波振動子の配列方向に沿って移動する。この場合、超音波のビームは、ゲル状シートを伝搬して歯の表面に達する前に焦点が絞り込まれた後、歯の表面から内部に入り込んでいくため、歯表面での超音波の散乱が抑制され、従来では困難であった歯内部の断層画像の可視化が可能となる。従って、本発明の歯科用超音波プローブを用いれば、ゲル状シートを介して振動子アレイの超音波放射面を歯や歯茎の表面に密着させるといった簡単な操作により超音波断層画像を取得することができ、その断層画像を確認することによって、歯や歯茎の状態をリアルタイムで迅速に検査することができる。さらに、超音波を用いているため、レントゲン撮影のような放射線被爆がなく、歯周ポケットプローブを用いた検査のような痛みを伴うことがない。また、本発明の歯科用超音波プローブを用いれば、レントゲン撮影を行う場合のように処置室から撮影室などに移動する必要がなく、処置室での歯の治療中にて検査が可能である。このため、歯科用超音波プローブを用いた歯科用超音波診断装置の検査結果に基づいて、歯の治療を素早く正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、請求項1〜8に記載の発明によると、放射線被爆や痛みを伴うことなく、断層画像からの視覚的情報により歯や歯茎の状態を簡単かつ迅速に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の実施の形態の歯科用超音波診断装置の概略構成を示す構成図。
図2】第1の実施の形態の歯科用超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図。
図3】超音波のスキャン位置を示す説明図。
図4】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図5】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図6】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図7】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図8】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図9】歯及び歯茎の超音波断層画像を示す断面図。
図10】歯の超音波断層画像を示す断面図。
図11】模式的な歯の縦断面を示す断面図。
図12】第2の実施の形態の歯科用超音波プローブを示す斜視図。
図13】第3の実施の形態の歯科用超音波プローブを示す斜視図。
図14】第4の実施の形態の歯科用超音波プローブを示す斜視図。
図15】第5の実施の形態の歯科用超音波プローブを示す斜視図。
図16図15の歯科用超音波プローブにおけるA―A線での断面図。
図17】第6の実施の形態の歯科用超音波プローブを示す断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を歯科用超音波診断装置に具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態の歯科用超音波診断装置1の概略構成を示す構成図であり、図2は、その歯科用超音波診断装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0028】
図1及び図2に示されるように、歯科用超音波診断装置1は、装置本体2と、その装置本体2に接続される歯科用超音波プローブ3とを備えている。歯科用超音波診断装置1は、歯科用超音波プローブ3を用いて超音波を検査対象4(歯及び/または歯茎)に伝搬させ、得られた反射波信号に基づいて検査対象4の超音波断層画像を表示する。
【0029】
より詳しくは、歯科用超音波プローブ3は、把持可能な棒状に形成された柄部5と、柄部5の先端に設けられた振動子アレイ6と、振動子アレイ6の超音波放射面7に貼付されるゲル状シート8とを備える。歯科用超音波プローブ3は、信号ケーブル9を介して装置本体2に電気的に接続されている。
【0030】
本実施の形態の振動子アレイ6は、複数の超音波振動子11(本実施の形態では96素子)が直線的に配列してなるリニア型の振動子アレイであり、例えば、12MHzの超音波を直線的に走査する。振動子アレイ6は、長方形のボックス状をなし、前面側に超音波放射面7を有する。振動子アレイ6において、超音波振動子11の配列方向の寸法(長さ)が16mm程度であり、配列方向と直交する方向の寸法(幅)が5mm程度である。
【0031】
ゲル状シート8は、含水性であってヒトの生体組織と同等の音響インピーダンスを有する材料からなり、柔軟で弾力性がある透明なシートである。つまり、ゲル状シート8は、超音波の伝搬効率が高く、音響カプラとして用いられるシートである。本実施の形態のゲル状シート8は、5mm程度の一定の厚さを有している。ゲル状シート8は、第1面12及びその反対側に位置する第2面13を有し、第1面12が振動子アレイ6の超音波放射面7を覆うように接合され、第2面13が検査時に検査対象4に対して密着配置される。ゲル状シート8の面積は振動子アレイ6の超音波放射面7の面積とほぼ等しく、超音波放射面7全体がゲル状シート8によって覆われている。また、振動子アレイ6の超音波放射面7とゲル状シート8の第1面12との間には、音響レンズ15が介在されている。さらに、歯科用超音波プローブ3において、外側に露出するゲル状シート8の第2面13は、清潔で衛生的に歯の検査が行えるように必要に応じて、洗浄・消毒・殺菌等の処理が施されている。
【0032】
次に、歯科用超音波診断装置1における電気的な構成について詳述する。
【0033】
図2に示されるように、歯科用超音波診断装置1の装置本体2は、コントローラ20、パルス発生回路21、送信回路22、A/D変換回路23、受信回路24、信号処理回路25、画像処理回路26、メモリ27、記憶装置28、入力装置29、表示装置30等を備える。制御手段としてのコントローラ20は、周知の中央処理装置(CPU)を含んで構成されたコンピュータであり、メモリ27を利用して制御プログラムを実行し、装置全体を統括的に制御する。具体的には、コントローラ20は、例えば超音波の電子フォーカス及び電子走査のための制御や、超音波断層画像を表示するための制御などを行う。
【0034】
パルス発生回路21は、コントローラ20からの制御信号に応答して動作し、所定周期のパルス信号を生成して出力する。送信回路22は、超音波プローブ3における超音波振動子11の素子数に対応した複数の遅延回路(図示略)を含み、パルス発生回路21から出力されるパルス信号に基づいて、各超音波振動子11に応じて遅延させた駆動パルス(駆動信号)を出力する。各駆動パルスの遅延時間は、超音波プローブ3から出力される超音波のビームSoが所定の照射点Poで焦点を結ぶように設定される。より詳しくは、ゲル状シート8に対して第1面12側から入射した超音波のビームSoが、第2面13に至る手前の位置(第2面13からの深さが、例えば手前から2mm(0〜2mm)程度の範囲)で集束するよう電子フォーカスが行われる。また、超音波のビームSoが、複数の超音波振動子11の配列方向に沿って移動するように電子走査が行われる。なお、本実施の形態では、超音波のビームSoの焦点は入力装置29によって設定及び変更できるように構成されている。
【0035】
A/D変換回路23は、超音波プローブ3における各超音波振動子11で受信された各反射波信号(エコー信号)を取り込み、アナログ信号からデジタル信号に変換する。受信回路24は、図示しない遅延回路、整相加算回路などを含む。この受信回路24では、各超音波振動子11で受信された各反射波信号(エコー信号)に対して受信指向性を考慮した遅延時間が付加された後、整相加算される。この加算によって、各超音波振動子11の受信信号の位相差が調整される。
【0036】
信号処理回路25は、図示しない対数変換回路、包絡線検波回路などから構成されている。信号処理回路25における対数変換回路は反射波信号を対数変換し、包絡線検波回路は対数変換回路の出力信号の包絡線を検波する。
【0037】
画像処理回路26は、信号処理回路25から出力される反射波信号に基づいて、輝度変調処理を行いBモードの超音波断層画像の画像データを生成する。具体的には、画像処理回路26は、反射波信号の振幅(信号強度)に応じた輝度の画像データを生成する。そして、画像処理回路26から出力される画像データに基づいて、検査対象4の超音波断層画像が白黒の濃淡で表示装置30に表示される。
【0038】
入力装置29は、キーボード31、トラックボール32、各種の操作ボタン33などで構成されており、ユーザからの要求や指示等の入力に用いられる。表示装置30は、例えば、LCDやCRTなどのディスプレイであり、検査対象4の超音波断層画像や、各種設定の入力画面を表示するために用いられる。
【0039】
記憶装置28は、磁気ディスク装置や光ディスク装置などであり、制御プログラム及び各種のデータを記録媒体に格納している。コントローラ20は、入力装置29による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置28からメモリ27へ転送し、それを逐次実行する。なお、コントローラ20が実行するプログラムとしては、メモリカード、フレキシブルディスク、光ディスクなどの記憶媒体に記憶されたプログラムや、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよく、その実行時には記憶装置28にインストールして利用する。
【0040】
次に、本実施の形態の歯科用超音波診断装置1を用いて歯の状態を検査する際の操作例について以下に説明する。
【0041】
先ず、医者などの作業者は、歯科用超音波プローブ3の柄部5を手に持ちプローブ先端側の振動子アレイ6及びゲル状シート8を患者の口腔内に挿入する。そして、検査対象4となる歯または歯茎の表面にゲル状シート8の第2面13を密着させる。その後、作業者は、入力装置29の操作ボタン33(検査開始ボタン)を操作する。このとき、コントローラ20は、そのボタン操作を判断し、検査対象4の超音波断層画像を表示するための処理を開始する。
【0042】
この処理において、コントローラ20は、パルス発生回路21を動作させ、超音波プローブ3による超音波の送受信を開始させる。具体的には、コントローラ20から出力される制御信号に応答してパルス発生回路21が動作し、所定周期のパルス信号が送信回路22に供給される。そして、送信回路22では、パルス信号に基づいて、各超音波振動子11に対応した遅延時間を有する駆動パルスが生成され、超音波プローブ3に供給される。これにより、超音波プローブ3の振動子アレイ6における各超音波振動子11が振動して超音波のビームSoが検査対象4に向けて照射される。本実施の形態では、振動子アレイ6の超音波放射面7から放射された超音波のビームSoは、ゲル状シート8の第1面12側から入射して第2面13に至る手前の位置Poで集束する。つまり、超音波のビームSoは、ゲル状シート8を伝搬して歯の表面に達する前に焦点が絞り込まれた後、歯の内部に入り込んでいく。
【0043】
ここで、検査対象4を伝搬する超音波の一部は、組織境界面(例えば歯肉と歯の表面、歯肉と歯槽骨、歯におけるエナメル質と象牙質、セメント質と象牙質、象牙質と歯髄腔などの界面)で反射して超音波プローブ3で受信される。このとき、超音波プローブ3の各超音波振動子11によって反射波が電気信号(反射波信号)に変換される。そして、その反射波信号は、A/D変換回路23でデジタル信号に変換された後、受信回路24を経て信号処理回路25に入力される。
【0044】
信号処理回路25では、対数変換、包絡線検波といった信号処理が行われ、処理後の反射波信号が画像処理回路26に供給される。画像処理回路26では、その反射波信号に基づいて、超音波断層画像の画像データを生成するための画像処理が行われる。コントローラ20は、画像処理回路26で生成された各画像データをメモリ27に一旦記憶する。
【0045】
コントローラ20は、1フレーム分の画像データがメモリ27に記憶されたか否かを判定し、1フレーム分の画像データがメモリ27に格納された場合にその画像データを表示装置30に送信する。この結果、検査対象4の超音波断層画像が白黒の濃淡で表示装置30に表示される。そして、作業者は、超音波断層画像を確認することにより歯の状態を検査して、例えば歯周病の進行度合を判定する。その後、作業者は、入力装置29に設けられている操作ボタン33(検査終了ボタン)を操作した後、超音波プローブ3の先端側にある振動子アレイ6を患者の口腔内から外部に取り出す。コントローラ20は、そのボタン操作を判断し、超音波断層画像を表示するための処理を終了する。
【0046】
本発明者らは、歯科用超音波診断装置1を用いて検査対象4として歯4a及び歯茎4bの状態を確認した。ここでは、図3に示すように、超音波のスキャン位置P1〜P6を下顎の前歯4aに対応する歯茎4bの位置から徐々に上方に移動させて超音波断層画像を取得している。そして、各スキャン位置P1〜P6に対応した各超音波断層画像G1〜G6を図4図9に示している。
【0047】
スキャン位置P1における図4の超音波断層画像G1やスキャン位置P2における図5の超音波断層画像G2では、歯茎4b及び歯槽骨4cが表示されている。そして、スキャン位置P3における図6の超音波断層画像G3では、歯4aの歯根の部分が見え始め、スキャン位置P4における図7の超音波断層画像G4では、歯4aの歯根の部分が太くなっている。なお、超音波断層画像G4における歯4aの中央部分(黒い部分)には歯髄腔も確認することができる。さらに、スキャン位置P5における図8の超音波断層画像G5では、歯槽骨4cの部分が見えなくなり、歯4a及び歯茎4bが表示されている。また、スキャン位置P6における図9の超音波断層画像G6では、歯茎4bは殆ど見えなくなり、歯4aが表示されている。
【0048】
さらに、本発明者らは、抜歯した歯4aを用いて歯4aの縦断面を示す超音波断層画像G7(図10参照)を確認した。ここでは、予め用意したゲル状シート(図示略)に抜歯した歯4aを載置し、そのゲル状シートと超音波プローブ3のゲル状シート8との間に歯4aを挟み込んだ状態で超音波断層画像を撮影した。図11には、模式的な歯4aの縦断面を示している。図10に示される超音波断層画像G7では、歯4aにおけるエナメル質34、セメント質35、象牙質36、歯髄腔37、歯管38(図11参照)などの構造を確認することができた。
【0049】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0050】
(1)本実施の形態の歯科用超音波診断装置1では、ゲル状シート8に対して第1面12側から入射された超音波のビームSoが第2面13に至る手前の位置で集束するよう電子フォーカスが行われる。この場合、振動子アレイ6の超音波放射面7から放射された超音波のビームSoは、ゲル状シート8を伝搬して歯4aの表面に達する前に焦点が絞り込まれた後、歯4aの表面から内部に入り込んでいく。このようにすると、歯4a表面での超音波の散乱が抑制されるため、従来では困難であった超音波による歯4a内部の断層画像G7の可視化が可能となる。従って、本実施の形態の歯科用超音波診断装置1を用いれば、ゲル状シート8を介して振動子アレイ6の超音波放射面7を歯4aや歯茎4bの表面に密着させるといった簡単な操作により超音波断層画像G1〜G7を取得することができる。そして、それら断層画像G1〜G7を確認することによって、歯4aや歯茎4bの状態をリアルタイムで迅速に検査することができる。また、歯4a、歯茎4b、歯槽骨4cの状態(歯茎4b及び歯槽骨4cの高さなど)を超音波断層画像G1〜G6にて確認することができる。このため、歯周ポケットの深さ(歯茎4bから歯槽骨4cまでの深さ)を測定し、歯周病の進行度合を容易かつ確実に検査することができる。さらに、歯4a内部の断層画像G7を確認できるため、歯周病の検査に加えて虫歯の検査も可能である。さらには、本実施の形態の歯科用超音波診断装置1では、レントゲン撮影のような放射線被爆がなく、歯周ポケットプローブを用いた検査のような痛みを伴うことがない。また、歯科用超音波診断装置1を用いれば、レントゲン撮影を行う場合のように処置室から撮影室などに移動する必要がなく、処置室での治療中に検査が可能である。このため、歯科用超音波診断装置1による検査結果に基づいて、歯4aの治療を素早く正確に行うことができる。
【0051】
(2)本実施の形態の歯科用超音波プローブ3は、棒状の柄部5の先端に振動子アレイ6が設けられた歯ブラシタイプのプローブであるため、操作性を高めることができる。具体的には、作業者が柄部5を手に持って振動子アレイ6がある先端側を口腔内に挿入し、ゲル状シート8を介して検査対象4の表面に超音波放射面7を確実に密着させることができる。
【0052】
(3)本実施の歯科用超音波プローブ3では、振動子アレイ6における超音波振動子11の配列方向の寸法は16mm程度であるため、振動子アレイ6を口腔内に挿入して歯4aや歯茎4bの検査を確実に行うことができる。またこの場合、超音波の電子走査によって超音波断層画像G1〜G7の表示可能な検査範囲を十分に確保することができるため、歯4aや歯茎4bの検査を効率的に行うことができる。
【0053】
(4)本実施の歯科用超音波プローブ3では、ゲル状シート8の厚さが一定であり超音波放射面7に接合されているため、歯4aの表面手前の位置に超音波のビームSoの照射点Poを正確に合わせることができ、鮮明な超音波断層画像G1〜G7を得ることができる。
【0054】
(5)本実施の形態の歯科用超音波プローブ3を構成する振動子アレイ6は、複数の超音波振動子11が直線的に配列されたリニア型の振動子アレイである。この場合、通常のリニア型超音波プローブの振動子アレイ6を使用することができるため、部品コストを低く抑えることができる。さらに、振動子アレイ6の超音波放射面7を覆うゲル状シート8の面積は、超音波放射面7の面積とほぼ同じであるため、ゲル状シート8のサイズが必要以上に大きくなることがなく、部品コストをより低減することができる。
[第2の実施の形態]
【0055】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図12に基づき説明する。本実施の形態の歯科用超音波診断装置1では、歯科用超音波プローブ3Aの構成が上記第1の実施の形態と異なり、装置本体2の構成は上記第1の実施の形態と同じである。図12に示されるように、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Aにおいて、柄部5と振動子アレイ6との連結部分には、柄部5の長手方向を基準としたときの複数の超音波振動子11の配列方向を変更すべく、柄部5に対する振動子アレイ6の取付角度を調整するための角度調整機構40が設けられている。角度調整機構40は、柄部5に対して振動子アレイ6の取付角度を90°回転させ、超音波振動子11の配列方向の向きを柄部5の長手方向と平行な方向から直交する方向に変更できるようになっている。この歯科用超音波プローブ3Aを用いる場合、振動子アレイ6の取付角度を変更することによって、歯4aの縦断面や横断面などの検査に適した超音波断層画像を容易に取得することができる。また、前歯や奥歯などの検査部位に応じて振動子アレイ6の取付角度を調整することにより、検査部位の超音波断層画像を確実に取得することができる。
[第3の実施の形態]
【0056】
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態を図13に基づき説明する。本実施の形態では、歯科用超音波プローブ3Bの構成が上記第1の実施の形態と異なる。図13に示されるように、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Bは、柄部5の先端側にて分岐して振動子アレイ6と対向するように設けられた挟持部材42を備えている。挟持部材42は、略L字状に屈曲した形状をなし、屈曲した端部にゲル状シート43が固定されている。そして、振動子アレイ6と挟持部材42との間にゲル状シート8,42を介して検査対象4が挟み込まれるようになっている。挟持部材42側に配置されるゲル状シート43は、振動子アレイ6側に配置されるゲル状シート8よりも厚く、かつ柔軟な材料を用いて形成されている。この歯科用超音波プローブ3Bでは、挟持部材42側のゲル状シート43が変形することにより、厚みの異なる歯4aや歯茎4bを容易に挟み込むことができるようになっている。このように歯科用超音波プローブ3Bを構成することにより、ゲル状シート8を介して検査対象4の表面に超音波放射面7を確実に密着させることができ、検査対象4の超音波断層画像を確実に得ることができる。
[第4の実施の形態]
【0057】
次に、本発明を具体化した第4の実施の形態を図14に基づき説明する。本実施の形態では、歯科用超音波プローブ3Cの構成が上記第1の実施の形態と異なる。図14に示されるように、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cでは、ゲル状シート8を介して検査対象4を挟み込むことが可能なように一対の振動子アレイ6,6Aが対向配置されている。さらに、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cには、検査対象4の厚みに応じて一対の振動子アレイ6,6Aの間隔を調整可能な間隔調整部が設けられている。
【0058】
詳しくは、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cは、柄部5の先端側にて分岐するよう設けられた挟持部材46を備え、挟持部材46に一方の振動子アレイ6Aが移動可能に配置されている。挟持部材46にはその長手方向に沿ってガイド溝47が形成されるとともに、振動子アレイ6Aの下端部には、ガイド溝47に嵌合される突起部48が形成されている。さらに、振動子アレイ6Aの突起部48の中央には、内面に雌ネジ部50が形成された貫通穴51が形成されている。また、柄部5において、挟持部材46に対応する位置に、間隔調整部としての回転軸45が回転可能に支持されている。
【0059】
回転軸45の先端には、雄ネジ部53が形成されるとともに、基端部には操作ツマミ54が設けられている。柄部5において振動子アレイ6の下方に形成された支持穴(図示略)に回転軸45が挿入され、ガイド溝47に沿うように回転軸45が配置されている。さらに、回転軸45の先端側の雄ネジ部53が振動子アレイ6Aの突起部48に形成された雌ネジ部50に螺入されている。なお、回転軸45の基端にある操作ツマミ54は柄部5の支持穴から突出している。この操作ツマミ54を回すと、回転軸45が回転して振動子アレイ6Aがガイド溝47に沿って移動することで、一対の振動子アレイ6,6Aの間隔が調整される。
【0060】
本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cを用いれば、対向配置された一対の振動子アレイ6,6Aによって、歯4aの表側及び裏側から同時に断層画像を取得することができるため、それら断層画像を確認することにより歯4aの状態をより正確に検査することができる。また、間隔調整部の回転軸45を回すことによって一対の超音波振動子6,6aの間隔を調整することができるため、前歯や奥歯、子供の歯や大人の歯などの厚さの異なる検査対象4を一対の振動子アレイ6,6Aによって確実に挟み込むことができる。このため、振動子アレイ6,6Aの間隔が異なる複数種類の超音波プローブを用意する必要がなく、歯科用超音波診断装置1の部品コストを低く抑えることができる。
[第5の実施の形態]
【0061】
次に、本発明を具体化した第5の実施の形態を図15及び図16に基づき説明する。本実施の形態では、歯科用超音波プローブ3Dの構成が上記第1の実施の形態と異なる。図15及び図16に示されるように、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Dは、マウスピース型のプローブである。超音波プローブ3Dは、一対の振動子アレイ6を固定するとともに、検査対象4を挟み込むことが可能なようにマウスピース型にゲル状シート60を変形させた状態で支持する固定支持体61を備える。固定支持体61には、振動子アレイ6を固定するための固定穴62が複数形成されている。これら固定穴62は、歯並び方向に沿って歯幅に対応した間隔をあけて形成されている。各固定穴62には振動子アレイ6が着脱可能に固定される。そして、検査対象となる歯4a(本実施の形態では前歯)に対応する位置にある各固定穴62に一対の振動子アレイ6が収納固定される。なお、振動子アレイ6は、複数の超音波振動子11の配列方向が歯4aの上下方向に向くように固定穴62内に配置されている。さらに、固定支持体61には、検査対象4の内側面及び外側面を挟み込むよう折り曲げられた状態でゲル状シート60が保持されている。
【0062】
本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Dを用いることにより、対向配置された一対の振動子アレイ6によって、歯4aの表側及び裏側から同時に超音波断層画像を取得することができる。このため、それら断層画像を確認することにより歯4aの状態をより正確に検査することができる。また、歯科用超音波プローブ3Dでは、任意の位置にある歯4aや歯茎4bの表面にゲル状シート60を介して超音波放射面7を密着させることが可能となり、歯4aの状態を迅速かつ確実に検査することができる。
[第6の実施の形態]
【0063】
次に、本発明を具体化した第6の実施の形態を図17に基づき説明する。本実施の形態では、歯科用超音波プローブ3Eの構成が上記第5の実施の形態と異なる。上記第5の実施の形態の歯科用超音波プローブ3Dは、全ての歯4aを挟み込むことが可能なマウスピース型に形成されていたが、図17に示されるように、本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Eは、前歯4aの部分を挟み込むことが可能なマウスピース型に形成されている。歯科用超音波プローブ3Eには、一対の振動子アレイ71,72が固定される固定支持体73が設けられている。そして、各振動子アレイ71,72の超音波放射面74,75を覆うようにゲル状シート76,77が接合されている。本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Eでは、検査対象4の湾曲した表面(歯列における凹状の内面及び凸状の外面)の形状に合わせて、内側に配置される振動子アレイ71の超音波放射面74は凸状に湾曲しており、外側に配置される振動子アレイ72の超音波放射面75は凹状に湾曲している。また、各振動子アレイ71,72は、複数の超音波振動子11の配列方向が歯4aの幅方向(歯列方向)に向くように配置されている。
【0064】
本実施の形態の歯科用超音波プローブ3Eを用いることにより、対向配置された一対の振動子アレイ71,72によって、前歯4aの表側及び裏側から同時に超音波断層画像を取得することができる。このため、それら断層画像を確認することにより前歯4aの状態をより正確に検査することができる。
【0065】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0066】
・上記第2の実施の形態の歯科用超音波プローブ3Aでは、角度調整機構40によって柄部5に対する振動子アレイ6の取付角度を調整するよう構成したが、これに限定されるものではない。例えば、柄部5と振動子アレイ6との連結部分に可撓性のある部材を介在させ、その部材の弾性によって超音波振動子11の配列方向を微調整できるように歯科用超音波プローブを構成してもよい。
【0067】
・上記第4の実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cでは、一対の振動子アレイ6,6Aの間隔を調整する間隔調整部(回転軸45等)を備えるものであったが、この間隔調整部を省略して間隔の異なる複数種類の超音波プローブを構成してもよい。また、第4の実施の形態の歯科用超音波プローブ3Cでは、挟持部材46にガイド溝47などを形成して回転軸45を用いて間隔調整部を構成していたが、一対の振動子アレイ6,6Aの間隔を調整できる構成であれば、間隔調整部は適宜変更してもよい。例えば、一方の振動子アレイ6Aを移動させるスライド機構やその振動子アレイ6Aの位置を固定する固定ピンなどを用いて間隔調整部を構成してもよい。
【0068】
・上記第5の実施の形態における歯科用超音波プローブ3Dでは、振動子アレイ6は、超音波振動子11の配列方向が歯4aの上下方向を向くように配置されていたが、それとは直交する歯4aの幅方向(歯列方向)に超音波振動子11の配列方向が向くように配置されるものでもよい。また、第6の実施の形態における歯科用超音波プローブ3Eでは、振動子アレイ71,72は、超音波振動子11の配列方向が歯4aの幅方向(歯列方向)を向くように配置されていたが、それとは直交する歯4aの上下方向に超音波振動子11の配列方向が向くように配置されるものでもよい。
【0069】
・上記第6の実施の形態の歯科用超音波プローブ3Eでは、前歯4aの部分を挟み込むことが可能なマウスピース型に形成されていたが、奥歯などの他の部分を部分的に挟み込むことが可能なマウスピース型に形成されるものであってもよい。
【0070】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0071】
(1)請求項6において、前記検査対象の厚みに応じて前記一対の振動子アレイの間隔を調整可能な間隔調整部を備えたことを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0072】
(2)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記振動子アレイの前記超音波放射面は、歯列の形状に合わせて凹状または凸状に湾曲していることを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0073】
(3)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記ゲル状シートは、一定の厚さを有するシートであることを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0074】
(4)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記ゲル状シートの厚みは3mm以上10mm以下であることを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0075】
(5)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記ゲル状シートの厚みは3mm以上10mm以下であり、前記第1面側から入射した前記超音波のビームは、前記第2面からの深さが0.1mm以上1.0mm以下の位置にて集束することを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0076】
(6)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記振動子アレイの前記超音波放射面と前記ゲル状シートの前記第1面との間には、音響レンズが介在されていることを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0077】
(7)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記ゲル状シートの面積は前記振動子アレイの前記超音波放射面の面積とほぼ等しいことを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【0078】
(8)請求項1乃至7のいずれか1項において、前記ゲル状シートは、含水性であってヒトの生体組織の音響インピーダンスと同等の音響インピーダンスを有することを特徴とする歯科用超音波診断装置。
【符号の説明】
【0079】
1…歯科用超音波診断装置
3,3A〜3E…歯科用超音波プローブ
4…検査対象
4a…歯
4b…歯茎
5…柄部
6,6A,71,72…振動子アレイ
7,74,75…超音波放射面
8,60,76,77…ゲル状シート
12…ゲル状シートの第1面
13…ゲル状シートの第2面
20…制御手段としてのコントローラ
40…角度調整機構
42…挟持部材
61,73…固定支持体
So…超音波のビーム
【要約】
放射線被爆や痛みを伴うことなく、断層画像からの視覚的情報により歯や歯茎の状態を簡単かつ迅速に検査することができる歯科用超音波診断装置を提供する。歯科用超音波診断装置(1)の超音波プローブ(3)は、複数の超音波振動子(11)が配列されてなる振動子アレイ(6)とゲル状シート(8)とを含んで構成される。ゲル状シート(8)の第1面(12)は振動子アレイ(6)の超音波放射面(7)を覆うように接合され、ゲル状シート(8)の第2面(13)が検査時に検査対象(4)に対して密着配置される。コントローラ(20)は、振動子アレイ(6)における複数の超音波振動子(11)に駆動信号を入力し、ゲル状シート(8)に対して第1面(12)側から入射した超音波のビーム(So)が、第2面(13)に到る手前の位置で集束しかつ複数の超音波振動子(11)の配列方向に沿って移動するように、超音波の電子フォーカス及び電子走査を行う。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17