(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
<<保持パッド>>
本発明の第1の態様は、湿式成膜法によって形成される涙形状気泡を有する第1のポリウレタン樹脂シート上に積層された第2のポリウレタン樹脂シートを含む保持パッドであって、前記第2のポリウレタン樹脂シートが被保持物に対する保持面を有しており、該保持面の表面粗さが、0.6μm以下であり、且つ前記第2のポリウレタン樹脂シートの空隙率が5%以下であることを特徴とする、前記保持パッドである。保持パッドは、第1のポリウレタン樹脂シートと第2のポリウレタン樹脂シートとが他の層を介することなく積層されていることが好ましい。すなわち、接着剤や接着剤シートなどの他の層を介することなく、第1のポリウレタン樹脂シートと第2のポリウレタン樹脂シートとが互いに接触するように貼り合わされていることが好ましい。
本発明の保持パッドによって保持される被保持物としては、特に制限はないが、例えば、シリコンウエハ、ハードディスク、液晶ディスプレイ用ガラス基板、半導体デバイスなどが挙げられる。本発明の保持パッドは、これらの被保持物(被研磨物)を研磨パッドを用いて研磨する際に被保持物を保持する保持パッドとして特に好ましく用いられる。
【0013】
<第1のポリウレタン樹脂シート>
第1のポリウレタン樹脂シートは、湿式成膜法によって形成される涙形状(teardrop-shaped)気泡を複数有する。本明細書及び特許請求の範囲において、湿式成膜法とは、成膜する樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後、該有機溶媒は溶解するが該樹脂は溶解しない凝固液中に通して該有機溶媒を置換し、凝固させ、乾燥して発泡層を形成する方法を意味する。通常、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂シートを製造すると、略涙形状のマクロ気泡(涙形状気泡)が生じる。涙形状気泡は、異方性があり、樹脂シートの上部から下部(基材と接する側)に向けて径が大きい構造を有する。
第1のポリウレタン樹脂シートは、第1のポリウレタン樹脂を含む。第1のポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく、種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択すればよい。例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、又はポリカーボネート系の樹脂を用いることができる。
ポリエステル系の樹脂としては、エチレングリコールやブチレングリコール等とアジピン酸等とのポリエステルポリオールと、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等のジイソシアネートとの重合物が挙げられる。
ポリエーテル系の樹脂としては、ポリテトラメチレンエーテルグリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオールと、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。
ポリカーボネート系の樹脂としては、ポリカーボネートポリオールと、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等のイソシアネートとの重合物が挙げられる。
これらの樹脂は、DIC(株)製の商品名「クリスボン」や、三洋化成工業(株)製の商品名「サンプレン」、大日精化工業(株)製の商品名「レザミン」など、市場で入手可能な樹脂を用いてもよく、所望の特性を有する樹脂を自ら製造してもよい。
【0014】
(モジュラス)
モジュラスとは、樹脂の硬さを表す指標であり、無発泡の樹脂シートを100%伸ばしたとき(元の長さの2倍に伸ばしたとき)に掛かる荷重を単位面積で割った値である(以下、100%モジュラスと呼ぶことがある。)。この値が高い程、硬い樹脂である事を意味する。
第1のポリウレタン樹脂は、4〜20MPaの樹脂モジュラスを有することが好ましく、4〜10MPaであることがより好ましい。樹脂モジュラスが上記範囲内であると、平坦性に優れ、かつ被保持物を研磨パッドを用いて研磨した場合に応力集中による破損リスクやスクラッチが低減されるため望ましい。
【0015】
第1のポリウレタン樹脂シートは、上記成分の他に、カーボンブラックなどのフィラー、発泡助剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。カーボンブラックを含む場合には、第1のポリウレタン樹脂シートを構成する全固形分に対して1〜30質量%含むことが好ましく、5〜25質量%含むことがより好ましく、5〜15質量%含むことがさらにより好ましい。カーボンブラックを上記範囲内で含んでいると、気泡形状が安定化されるため望ましい。
【0016】
<第2のポリウレタン樹脂シート>
第2のポリウレタン樹脂シートは、第2のポリウレタン樹脂を含む。第2のポリウレタン樹脂の例としては、第1のポリウレタン樹脂と同様のものが挙げられる。第2のポリウレタン樹脂は、第1のポリウレタン樹脂と同一であってもよく、異なっていてもよい。
第2のポリウレタン樹脂含有溶液には、上記成分の他に、カーボンブラックなどのフィラー、界面活性剤などを添加してもよい。
【0017】
(表面粗さRa)
本明細書及び特許請求の範囲において、保持パッドの表面粗さRaとは、保持パッドの被保持物を保持する表面(保持面)の凹凸の高低バラツキの平均値を意味する。
本発明の保持パッドは、第2のポリウレタン樹脂シートが被保持物に対する保持面を有する。該保持面の表面粗さRaは、0.6μm以下であり、0.1〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.2μmであることがより好ましい。表面粗さが上記範囲内であると、被保持物の平坦性及び吸着力に優れるため望ましい。
(空隙率)
本明細書及び特許請求の範囲において、空隙率とは、ポリウレタン樹脂シートの厚さ方向に対して垂直な方向に切断した任意の切断面の全面積に対する気泡(開孔)面積の割合を意味する。
本発明の保持パッドは、第2のポリウレタン樹脂シートの空隙率が5%以下であり、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。該空隙率は0%であってもよい。第2ポリウレタン樹脂シートの空隙率が上記範囲内であると、保持面近傍の厚みムラが小さいため、平坦性に優れる。また、研磨中に第2のポリウレタン樹脂シートに傷が発生した場合においても、第1のポリウレタン樹脂シートまでスラリーが浸透しにくいため、保持パッドの吸着力が低下しにくい。
【0018】
(密度D)
本発明の保持パッドは、第1のポリウレタン樹脂シートと第2のポリウレタン樹脂シートの平均密度が、0.15〜0.50g/cm
3であることが好ましく、0.20〜0.40g/cm
3であることがより好ましい。
【0019】
(厚み)
本発明の保持パッドの厚みに特に制限はないが、0.4〜1.2mm程度であることが好ましい。
また、本発明の保持パッドは、第2のポリウレタン樹脂シートの膜厚が10μm以上であることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、20〜80μmであることがさらにより好ましい。第2のポリウレタン樹脂シートの膜厚が上記範囲内であると、保持面付近において略涙形状気泡がほとんど存在しないため、平坦性に優れ、研磨を行っても吸着性が低下しにくい。
【0020】
(圧縮率)
本明細書及び特許請求の範囲において、圧縮率とは、保持パッドの軟らかさの指標である。
圧縮率は、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることが出来る。具体的には、以下の通りである。
無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0を測定し、次に、厚さt
0の状態から最終荷重を30秒間かけた後の厚さt
1を測定する。圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t
0−t
1)/t
0の式で算出することができる(なお、初荷重は100g/cm
2、最終荷重は1120g/cm
2である)。
本発明の保持パッドの圧縮率(%)は、30〜70%が好ましく、35〜45%がより好ましい。圧縮率が上記範囲内であると、被保持物の保持性や引き剥がし性を確保しつつ、被保持物を研磨した場合の研磨効率の低下や平坦性の低下を抑制することができる。
【0021】
(圧縮弾性率)
本明細書及び特許請求の範囲において、圧縮弾性率とは、保持パッドの圧縮変形に対する戻りやすさの指標である。
圧縮弾性率は、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることが出来る。具体的には、以下の通りである。
無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0を測定し、次に、厚さt
0の状態から最終荷重を30秒間かけた後の厚さt
1を測定する。次に、厚さt
1の状態から全ての荷重を除き、5分間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0’を測定する。圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t
0’−t
1)/(t
0−t
1)の式で算出することが出来る(なお、初荷重は100g/cm
2、最終荷重は1120g/cm
2である)。
本発明の保持パッドの圧縮弾性率(%)は、80〜100%が好ましく、90〜100%がより好ましい。圧縮弾性率が上記範囲内であると、繰り返し使用下での回復性が良好であり、被保持物への追従性や到達平坦度(立ち上がり)が良好となる。
【0022】
(A硬度)
本明細書及び特許請求の範囲において、A硬度とは、JIS K7311に準じて測定した値を意味する。
本発明の保持パッドのA硬度は、5〜40度であることが好ましく、10〜30度であることがより好ましい。A硬度が上記の範囲内であると、適度に硬質であるため平坦性向上に寄与する。
(用途)
【0023】
本発明の保持パッドは、シリコンウエハ、ハードディスク、液晶ディスプレイ用ガラス基板、半導体デバイスを研磨する際の保持パッドとして、特には液晶ディスプレイ用ガラス基板の保持パッドとして、好適に用いることが出来る。
【0024】
本発明の保持パッドは、好ましくは下記本発明の第2の態様に記載した保持パッドの製造方法により製造することができる。
【0025】
[保持パッドの製造方法]
本発明の第2の態様は、第1のポリウレタン樹脂を含む第1のポリウレタン樹脂シートを用意する工程、第1のポリウレタン樹脂と同一又は異なる組成の第2のポリウレタン樹脂を含む溶液を離型紙上に塗布する工程、第2のポリウレタン樹脂を含む溶液を凝固浴に浸漬させることなく乾燥処理を施し、第2のポリウレタン樹脂シートを得る工程、及び第1のポリウレタン樹脂シート上に第2のポリウレタン樹脂シートを積層する工程、を含む、保持パッドを製造する方法である。
以下、各工程について詳しく説明する。
【0026】
<<(1)第1のポリウレタン樹脂シートを用意する工程>>
第1のポリウレタン樹脂シートを用意する工程において、第1のポリウレタン樹脂を含む第1のポリウレタン樹脂シートを用意する。第1のポリウレタン樹脂シートは湿式成膜法によって形成される涙形状気泡を複数有することが好ましい。また、第1のポリウレタン樹脂シートは、市販されているものを用いてもよく、自ら製造したものを用いてもよい。第1のポリウレタン樹脂シートは、例えば、下記(i)〜(iv)の工程を経て製造することができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、第1のポリウレタン樹脂シートを湿式フィルムと呼ぶことがある。
【0027】
<(i)第1のポリウレタン樹脂含有溶液の調製>
第1のポリウレタン樹脂シートの原料となる第1のポリウレタン樹脂を、第1のポリウレタン樹脂を溶解することのできる水混和性の有機溶媒に溶解することにより、第1のポリウレタン樹脂含有溶液を調製する。第1のポリウレタン樹脂含有溶液には、上記成分の他に、フィラー、発泡助剤、界面活性剤などを添加してもよい。カーボンブラックなどのフィラーを用いる場合には、第1のポリウレタン樹脂溶液を構成する全固形分に対して1〜30質量%含むことが好ましく、5〜25質量%含むことがより好ましく、5〜15質量%含むことがさらにより好ましい。カーボンブラックを上記範囲内で含んでいると、気泡形状が安定化されるため望ましい。
【0028】
(A)ポリウレタン樹脂
第1のポリウレタン樹脂の種類に特に制限はなく、種々のポリウレタン樹脂の中から使用目的に応じて選択すればよい。例えば、上記第1の態様で例示したポリエステル系、ポリエーテル系、又はポリカーボネート系の樹脂を用いることができる。
【0029】
(B)有機溶媒
前記有機溶媒としては、第1のポリウレタン樹脂を溶解することができ且つ水混和性であれば特に制限なく用いることが出来る。例としては、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)などが挙げられる。これらの中でも、DMF又はDMAcが好ましく用いられる。
第1のポリウレタン樹脂含有溶液中の固形分濃度は、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%である。上記範囲内の濃度であれば、ポリウレタン樹脂含有溶液が適度な流動性を有し、後の塗布工程において成膜基材に均一に塗布することができる。また、ポリウレタン樹脂含有溶液には白濁しない程度に水を樹脂固形分に対して1〜20質量%添加してもよい。
【0030】
<(ii)塗布>
上記で得られた第1のポリウレタン樹脂含有溶液を、ナイフコーター、リバースコーター等により成膜基材上に略均一となるように、連続的に塗布する。成膜基材としては、本技術分野で通常用いられる基材であれば特に制限なく用いることができる。例としては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム等の可撓性のある高分子フィルム、弾性樹脂を含浸固着させた不織布等が挙げられ、中でもポリエステルフィルムが好ましく用いられる。
【0031】
<(iii)凝固>
第1のポリウレタン樹脂含有溶液が塗布された基材を、第1のポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液に浸漬する。
凝固液としては、水、水とDMF等の極性溶媒との混合溶液などが用いられる。中でも、水又は水とDMF等の極性溶媒との混合溶液が好ましい。極性溶媒としては、ポリウレタン樹脂を溶解するのに用いた水混和性の有機溶媒、例えばDMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトンが挙げられる。また、混合溶媒中の極性溶媒の濃度は0.5〜30質量%が好ましい。
凝固液の温度や浸漬時間に特に制限はなく、例えば5〜80℃で5〜60分間浸漬すればよい。
【0032】
<(iv)洗浄乾燥>
凝固浴で凝固させて得られたシート状の第1のポリウレタン樹脂を成膜基材から剥離した後又は剥離せずに、洗浄、乾燥処理を行う。
洗浄処理により、ポリウレタン樹脂中に残留する有機溶媒が除去される。洗浄に用いられる洗浄液としては、水が挙げられる。
洗浄後、ポリウレタン樹脂を乾燥処理する。乾燥処理は従来行われている方法で行えばよく、例えば80〜150℃で5〜60分程度乾燥機内で乾燥させればよい。上記の工程を経て、第1のポリウレタン樹脂シートを得ることができる。
【0033】
第1のポリウレタン樹脂シートは、必要に応じて、第2のポリウレタン樹脂シートと接する面とは逆の面を研削処理してもよい。研削処理の方法に特に制限はなく、公知の方法により研削することができる。具体的には、サンドペーパーによる研削が挙げられる。
【0034】
<<(2)第2のポリウレタン樹脂シートを得る工程>>
第2のポリウレタン樹脂シートを得る工程では、離型紙にウレタン樹脂を塗布し、凝固浴に浸漬することなく乾燥処理を施すことにより、第2のポリウレタン樹脂シートを得る。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、第2のポリウレタン樹脂シートを乾式フィルムと呼ぶことがある。
【0035】
<第2のポリウレタン樹脂を含む溶液の調製>
第2のポリウレタン樹脂シートの原料となる第2のポリウレタン樹脂を、第2のポリウレタン樹脂を溶解することのできる水混和性の有機溶媒に溶解することにより、第2のポリウレタン樹脂を含む溶液を調製する。具体的には、第1のポリウレタン樹脂含有溶液の調製と同様の方法により、第2のポリウレタン樹脂を含む溶液を調製すればよい。
第2のポリウレタン樹脂シートの製造に使用できるポリウレタン樹脂及び有機溶媒の例としては、第1のポリウレタン樹脂シートを製造するのに使用できるポリウレタン樹脂及び有機溶媒と同様のものが挙げられる。第2のポリウレタン樹脂シートの製造に使用されるポリウレタン樹脂及び有機溶媒は、第1のポリウレタン樹脂シートを製造するのに使用されるポリウレタン樹脂及び有機溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよい。
第2のポリウレタン樹脂含有溶液には、上記成分の他に、カーボンブラックなどのフィラー、界面活性剤などを添加してもよい。
【0036】
<塗布>
上記で得られた第2のポリウレタン樹脂含有溶液を、ナイフコーター、リバースコーター、グラビアコーター等により離型紙上に略均一となるように、連続的に塗布する。この際、第2のポリウレタン樹脂含有溶液を薄く塗布することが好ましく、50〜600μmの厚さであることがより好ましく、100〜500μmの厚さであることがさらにより好ましい。
離型紙としては、本技術分野で通常用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。例としては、リンテック(株)製の商品名「合皮用工程紙ESR180SK−2」、カイト化学工業(株)製の商品名「SLB−80W2」、藤森工業製の商品名「75S−518L」等が挙げられる。
使用する離型紙は、表面粗さが0.5μm以下であることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがより好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、離型紙の表面粗さとは、第2のポリウレタン樹脂含有溶液が塗布される面における、離型紙の表面の凹凸の高低バラツキの平均値を意味する。
【0037】
<乾燥>
上記塗布した後、第2のポリウレタン樹脂含有溶液を凝固浴に浸漬させることなく、乾燥処理を施すことにより、第2のポリウレタン樹脂シートを得る。乾燥処理方法としては、常温(周囲温度)あるいは加温状態で静置する方法や、乾燥した空気(常温あるいは加温)を吹き付ける方法、真空減圧による方法などが挙げられる。凝固浴に浸漬させることなく乾燥処理を施すことにより、表面及び内部にほとんど気泡を有さない第2のポリウレタン樹脂シートが得られる。したがって、保持面付近に気泡ムラが生じず、保持パッドの保持面の平坦性が向上する。また、従来の保持パッドのように開孔部がすぐに露出してしまうこともない。また、気泡がほとんどないため、被保持物に偏荷重がかかりにくくなり、吸着力や被保持物の平坦性も向上する。さらには、保持パッドの吸着力が高くなることにより、研磨中に被保持物が剥がれる等のトラブルも低減する。
【0038】
また、このとき、ポリウレタン樹脂含有溶液が乾燥し始めてはいるものの完全には乾燥してはいない状態(「半乾き状態」と呼ぶ)にまで乾燥することが好ましい。通常、半乾き状態であるか否かは目視により判断できる。具体的には、第2のポリウレタン樹脂含有溶液中の固形分濃度が約50質量%〜約99質量%の範囲内になるまで乾燥することが好ましく、約60質量%〜約90質量%の範囲内になるまで乾燥することがより好ましい。
第2のポリウレタン樹脂を含む溶液が半乾き状態であると、後のラミネート工程において、接着剤や接着剤シートなどの他の成分を介することなく、第1のポリウレタン樹脂シートと第2のポリウレタン樹脂シートとを直接貼り合わせることが出来る。これにより、貼り合わせにかかる手間を低減し、強固でシームレスな接着面を有し、且つ貼りムラによる平坦性悪化をも防ぐことが出来る。
乾燥処理の温度条件や時間は、樹脂の種類や厚み、溶媒の種類、乾燥機内の風量などによって異なるが、例えば、10〜200℃で1秒〜1日、好ましくは20〜180℃で10秒〜12時間、より好ましくは50〜150℃で1分〜1時間、さらにより好ましくは80〜130℃で1分〜5分乾燥機内で乾燥させることにより、半乾き状態にまで乾燥することができる。
上記の工程を経て、第2のポリウレタン樹脂シートを得ることができる。
【0039】
<<(3)ラミネート工程>>
上記工程により得られた第2のポリウレタン樹脂シートを、第1のポリウレタン樹脂シート(好ましくは第1のポリウレタン樹脂シートの成膜用基材と接している又は接していた面とは反対側の面)上に積層する(ラミネート工程)。このとき、第2のポリウレタン樹脂シートの離型紙と接する面とは反対側の面と、第1のポリウレタン樹脂シートの成膜用基材と接している又は接していた面とは反対側の面とが互いに向かい合うようにして積層することが好ましい。また、半乾き状態の第2のポリウレタン樹脂シートを用いて、第1のポリウレタン樹脂シート上に第2のポリウレタン樹脂シートを他の層を介することなく積層することが好ましい。
その後、離型紙を剥離させて必要によりさらに乾燥することにより、離型紙と接していた面を被保持物に対する保持面とする本発明の保持パッドを得ることが出来る。
【0040】
<<(4)その他の任意工程>>
本発明の保持パッドの製造方法では、上記ラミネート工程後、被保持物を保持する面とは反対側の面に他の層(下層、支持層)を貼り合わせてもよい。他の層の特性は特に限定されるものではないが、保持パッドよりも硬い(A硬度の高い)層が貼り合わされていることが好ましい。保持パッドよりも硬い層が設けられることにより、保持定盤上の微細な凹凸が研磨面の形状に影響することを回避でき、平坦性が更に向上する。
【0041】
複層構造を有する場合には、複数の層同士を両面テープや接着剤などを用いて、必要により加圧しながら接着・固定すればよい。この際用いられる両面テープや接着剤に特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープや接着剤の中から任意に選択して使用することが出来る。
【0042】
本発明の保持パッドは、第2のポリウレタン樹脂シート内部に湿式フィルム特有の気泡がなく、気泡の厚みがばらつきにくい。また、本発明の保持パッドは、接着層を介さずに第1のポリウレタン樹脂シートと第2のポリウレタン樹脂シートとを積層できるため、貼りムラも生じにくい。したがって、保持パッドの保持面の平坦性を向上させることができる。その結果、被保持物に偏荷重がかかり難くなり、吸着力や被保持物平坦性が向上する。また、保持パッドの吸着力が高くなることで、研磨中に被保持物が剥がれる等といった問題も低減する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
各実施例及び比較例並びに表1〜3において、特段の指定のない限り、「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0044】
[実施例1]
下記(1)〜(3)の手順で、保持パッドを製造した。
(1)湿式フィルムの作製
100%モジュラスが6MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂を30質量%含むDMF溶液100部に対し、DMF50部、水5部、カーボンブラック2部、界面活性剤1部を添加混合することにより樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を、クリアランス1.5mmに設定したリバースコーターを用いて、ポリエステルフィルム上に1.2mm厚にてキャストした。その後樹脂溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(水)に浸漬し(20℃で60分)、該樹脂溶液を凝固させた後、剥離・洗浄・乾燥させて湿式樹脂シートを得た。
【0045】
(2)乾式フィルムの作製
100%モジュラスが6MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂を30質量%含むDMF溶液70部に対し、DMF15部、MEK15部を添加混合することにより樹脂溶液を得た(固形分濃度21質量%)。得られた樹脂溶液を、離型紙上に320μm厚にてキャストした。その後第一乾燥機を通過させ(100℃、3分)、半乾きの状態にした(固形分濃度80質量%)。
【0046】
(3)保持パッドの作製
上記(1)で得た湿式フィルムのスキン層表面に、上記(2)で得た半乾き状態の乾式フィルムの離型紙と反対側の面を圧着させ、その後第二乾燥機を通過させた。その後、離型紙を剥離させ、スキン層の膜厚が補強された保持パッド用シートを得た。その後、湿式フィルムのスキン層と反対の面にバフ処理を施し、バフ面に対し、両面テープを貼り付け、実施例1の保持パッドを得た。湿式フィルムの厚さは805μmであり、乾式フィルムの厚さは56μmであった(
図1〜3)。
【0047】
[比較例1]
実施例1の湿式フィルムを作成する要領と全く同様の材料及び方法を用いて、湿式フィルムを作製した。その後、スキン層と反対の面にバフ処理を施し、その後、バフ処理面に対し、両面テープを貼り付け、比較例1の保持パッドを得た(
図4〜5)。
【0048】
[比較例2]
下記(1)〜(3)の手順で、保持パッドを製造した。
(1)湿式フィルムの作製
実施例1の湿式フィルムを作成する要領と全く同様の方法で、湿式フィルムを作製した。
(2)湿式薄膜フィルムの作製
100%モジュラスが6MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂の30%DMF溶液100部に対し、DMF44部、カーボンブラック1部を添加混合することにより樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を、クリアランス0.2mmに設定したリバースコーターを用いて、ポリエステルフィルム上に0.16mm厚にてキャストした。
その後樹脂溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(水)に浸漬し(20℃で60分)、該樹脂含有溶液を凝固させた後、剥離・洗浄・乾燥させて湿式薄膜フィルムを得た。
(3)保持パッドの作製
上記(1)で得られた湿式フィルムのスキン層上に接着剤シート(ウレタン樹脂)を貼り付け、その上に上記(2)で得られた湿式薄膜フィルムを貼り合せて熱圧着した。その後湿式フィルムの、湿式薄膜フィルムと接着した反対面にバフ処理を施し、その後、バフ処理面に対し、両面テープを貼り付け、比較例2の保持パッドを得た(
図6〜8)。
【0049】
【表1】
【0050】
<物性評価>
上記の各実施例及び比較例の保持パッドについて、下記の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0051】
(空隙率の測定)
空隙率の測定は次のようにして行った。
三次元計測X線CT装置(ヤマト科学製、TDM1000−IS/SP)を用いて、断面をスキャンし、連続断層画像を得た。このうち実施例1及び比較例2では保持面から湿式フィルムに到達しない深さまで(実施例1では乾式フィルム(第2のポリウレタン樹脂シート)内部の領域である)、比較例1では保持面から湿式フィルムの背面側までの連続断層画像に対してSEM用画像解析ソフトウエア『Scandium』(Olympus Soft−Imaging Solutions社製)を用いてニ値化処理し、それぞれ濃淡のある画像を得た。
濃淡のある画像のそれぞれについて、濃部を開孔部として、開孔部の濃度範囲(閾値)を目視で設定し、開孔部を積算することにより、開孔面積を求めた。続いて、それぞれの断層画像から求めた開孔面積の和を求め、観測面積の和で除した百分率を空隙率とした。
下記にX線CT装置の測定条件を記す。
測定条件
管電圧:30kV
管電流:30μA
画素数:512×512pixcel
視野サイズ:2.23mmφ×2.23mmh
【0052】
(厚さ)
日本工業規格(JIS K 6550)に記載された厚さ測定方法に準じて、保持パッドの厚さを測定した。すなわち、保持パッドに厚さ方向に初荷重として1cm
2あたり100gの荷重をかけた(負荷した)ときのシート厚みを測定した。
【0053】
(密度)
所定サイズの大きさに切り出した試料の重量を測定して、サイズから体積(g/cm
3)を求めることにより保持パッドの密度を算出した。
【0054】
(圧縮率)
保持パッドの圧縮率は、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(製品名No.517厚さ測定器デジタル(株式会社マイズ試験機製);加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めた。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0を測定し、次に、厚さt
0の状態から最終荷重を30秒間かけた後の厚さt
1を測定した。圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t
0−t
1)/t
0の式で算出した。このとき、初荷重は100g/cm
2、最終荷重は1120g/cm
2であった。
【0055】
(圧縮弾性率)
保持パッドの圧縮弾性率は、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(製品名No.517厚さ測定器デジタル(株式会社マイズ試験機製);加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることが出来る。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0を測定し、次に、厚さt
0の状態から最終荷重を30秒間かけた後の厚さt
1を測定した。次に、厚さt
1の状態から全ての荷重を除き、5分間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt
0’を測定する。圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t
0’−t
1)/ (t
0−t
1)の式で算出した。このとき、初荷重は100g/cm
2、最終荷重は1120g/cm
2であった。
【0056】
(A硬度)
保持パッドにおけるショアA硬度の測定は、発泡シートから試料片(10cm×10cm)を切り出し、複数枚の試料片を厚さが4.5mm以上になるように重ね、A型硬度計(日本工業規格、JIS K 7311)にて測定した。例えば、1枚の試料片の厚さが1.4mmの場合は、4枚重ねて測定した。
【0057】
【表2】
【0058】
<保持パッドとしての性能評価試験>
各実施例及び比較例の保持パッドの性能を、初期条件(0回研磨)における表面粗さ、吸着力、剪断吸着力、並びに被保持物(被研磨物)を保持して30回研磨した後の表面粗さ、吸着力、剪断吸着力を測定することにより評価した。その結果を表3に示す。
【0059】
(表面粗さ)
表面粗さRaの測定では、表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、サーフコム480B)を用い、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に基づき測定した。具体的には、測定速度0.6mm/secにて測定距離を4mmとし、保持パッド用のシートの表面5区間測定を行った。カットオフ値は0.8mmとし、それ以上の値を測定値から除外した。
【0060】
(吸着力)
垂直方向の吸着力の測定は、以下のようにして行った。予め水中に15分間浸漬させた実施例或いは比較例の保持パッドを定盤上に両面テープを用いて固定し、保持パッド表面に霧吹きで水を5回吹きつけた。その後、ガラス(10cm×10cm)/SUS板の二層の基板のガラス側を保持パッド面に接するように積載し、上から手で押し、吸着させた。次に、SUS(ステンレス)板の上から150gf/cm
2の荷重を1分間乗せ、1分後、吸水紙でガラスの周りの水分を取り除き、荷重を外した。その後、SUS板に取り付けられたワイヤーを50mm/minの一定速度で垂直方向に引っ張り、保持パッドが外れたときの値を読みとった。5回測定を行い、平均値を測定結果とした。
【0061】
(剪断吸着力)
剪断方向の吸着力の測定は、以下のようにして行った。予め水中に15分間浸漬させた実施例或いは比較例の保持パッドを定盤上に両面テープを用いて固定し、保持パッド表面に霧吹きで水を5回吹きつけた。その後、ガラス(10cm×10cm)/SUS板の二層の基板を、ガラス側を保持パッド面に接するように積載し、上から手で押し、吸着させた。次に、SUS板の上から150gf/cm
2の荷重をかけ1分間静止した。1分後、吸水紙でガラスの周りの水分を取り除いた。その後、SUS板に取り付けられたワイヤーを100mm/minの一定速度で水平方向に80mm引っ張り、このときに要した力の最大値を測定した。5回測定を行い、平均値を測定結果とした。
【0062】
なお、30回研磨時の各性能評価試験における研磨条件は以下の通りである。
・被保持物(被研磨物):液晶ディスプレイ用ガラス基板(470mm×370mm×0.7mm)
・使用研磨機:オスカー研磨機(スピードファム社製、SP−1200)
・研磨速度(回転数):61rpm
・加工圧力:76gf/cm
2
・スラリ:セリウムスラリ
・研磨時間:1分/回
・研磨剤温度:25℃
【0063】
【表3】
【0064】
<試験結果>
従来の保持パッドは、表面が粗く、初期条件時及び30回研磨後のいずれにおいても、吸着力及び剪断吸着力は十分なものではなかった(比較例1,2)。また、研磨開始前に比べて30回研磨後の剪断吸着力が大きく低下し、使用による剪断吸着力の低下が確認された。これに対し、本発明の保持パッドは、表面が平坦であり、初期条件時及び30回研磨後のいずれにおいても、吸着力、剪断吸着力が優れていた(実施例1)。また、30回研磨後も剪断吸着力は低下しなかった。したがって、従来の保持パッドに比べ、本発明の保持パッドは、平坦性が高く、被保持物の保持能力に優れている。