特許第6119076号(P6119076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119076
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】モータ用ボビン
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/46 20060101AFI20170417BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   H02K3/46 B
   H02K3/30
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-11012(P2013-11012)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-143845(P2014-143845A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】596001379
【氏名又は名称】デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 新二
(72)【発明者】
【氏名】藤森 竜士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】田中 康紀
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−044780(JP,A)
【文献】 特開2012−180619(JP,A)
【文献】 特開2009−130942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00− 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が巻回されるモータ用ボビンであって、
絶縁紙と樹脂成型体とからなり、
前記絶縁紙と樹脂成型体とは、接着剤を用いることなく連結固定され、
前記樹脂成型体と当接している前記絶縁紙の面は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙で構成され、
前記絶縁紙は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着し、アラミド紙で構成された面を表面処理することで得られ、
アラミド紙上に樹脂成形体の溶融した部分を接触させてなる前記モータ用ボビン。
【請求項2】
少なくともその一部が前記絶縁紙であるボビンボディ部を備えた請求項1に記載のモータ用ボビン。
【請求項3】
前記ボビンボディ部の両端に連結された一対の樹脂成型体を備えた請求項1に記載のモータ用ボビン。
【請求項4】
前記表面処理がプラズマ表面処理である、請求項1に記載のモータ用ボビン。
【請求項5】
絶縁紙と樹脂成型体が接する面に樹脂成型体が含浸している、請求項1に記載のモータ用ボビン。
【請求項6】
樹脂成型体に巻き線の位置決め用の溝がある、請求項3に記載のモータ用ボビン。
【請求項7】
樹脂成型体を成型するときに絶縁紙との接着を同時に行う、請求項1に記載のモータ用ボビンの製造方法。
【請求項8】
コア材が組み込まれた、請求項1〜6のいずれかに記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、モータ。
【請求項9】
コア材が組み込まれた、請求項1〜6のいずれかに記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、モータジェネレータ。
【請求項10】
コア材が組み込まれた、請求項1〜6のいずれかに記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータ用ボビン、さらに詳しくは、たとえばハイブリッドカーや電気自動車等のモータジェネレータを構成するモータステータ等において、巻線が巻回された状態で磁心巻き線等のコア材に嵌入されるモータ用のボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドカーや電気自動車には、電気モータ及び発電機として選択的に機能するモータジェネレータが搭載される。かかるモータジェネレータは、たとえば軸心まわりに回転可能に支持された出力軸に固定された円柱状のローターと、該ローターの外周面に対して所定の隙間を隔てた内周面を有するモータステータと、該モータステータを収容するモータハウジングとを備えたものである。このようなモータジェネレータを構成するモータステータは、一般にコア材と巻線とで構成されており、このコア材と巻線との間を絶縁するために、巻線をモータ用のボビンに巻回し、その巻線が巻回されたボビンをコア材に嵌入している。従来、このようなモータ用ボビンとしては、一般に合成樹脂で構成されており、たとえば集中巻ステーターの場合であれば、ポリフェニレンスルフィド等が用いられている(たとえば特開2005−102454号公報及び特開2002−142399号公報参照)。
しかしながら、このような合成樹脂でボビンが構成される場合、そのボビンの厚みは0.6mm程度が下限とされており、近年のモータジェネレータなどの益々の高効率化、大出力化及びコンパクト化には必ずしも十分な対応ができていない。高効率及び大出力が要求されるモータジェネレータ用ボビンには、
1)薄いこと(低厚み)、
2)巻き線とコア材の地絡を防ぐこと(高耐電圧、耐部分放電)
3)巻き線の発熱に耐えること(耐熱性)、
4)機械的強度を有すること
の4つの特性を同時に満たすことが必要とされている。特に、低厚みは薄ければその分、巻き線を増量でき、線積率を増加させ、大出力化が可能という意味で、極めて重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−102454号公報
【特許文献2】特開2002−142399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、モータジェネレータなどの高効率化・大出力化に耐えうるモータ用ボビンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはかかる状況に鑑み、モータジェネレータなどの高効率化・大出力化に耐えうるモータ用ボビンを開発すべく鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。
第1の態様において、本発明は、巻線が巻回されるモータ用ボビンであって、
絶縁紙と樹脂成型体とからなり、前記絶縁紙と樹脂成型体とは、接着剤を用いることなく連結固定され、前記樹脂成型体と当接している前記絶縁紙の面は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙で構成され、前記絶縁紙は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着し、アラミド紙で構成された面を表面処理することで得られ、アラミド紙上に樹脂成形体の溶融した部分を接触させてなる前記モータ用ボビンを提供する。
第2の態様において、本発明は、少なくともその一部が前記絶縁紙であるボビンボディ部を備えた第1の態様に記載のモータ用ボビンを提供する。
第3の態様において、本発明は、前記ボビンボディ部の両端に連結された一対の樹脂成型体を備えた第1の態様に記載のモータ用ボビンを提供する。
第4の態様において、本発明は、前記表面処理がプラズマ表面処理である、第1の態様に記載のモータ用ボビンを提供する。
第5の態様において、本発明は、絶縁紙と樹脂成型体が接する面に樹脂成型体が含浸している、第1の態様に記載のモータ用ボビンを提供する。
第6の態様において、本発明は、樹脂成型体に巻き線の位置決め用の溝がある、第1の態様に記載のモータ用ボビンを提供する。
第7の態様において、本発明は、樹脂成型体を成型するときに絶縁紙との接着を同時に行う、第1の態様に記載のモータ用ボビンの製造方法を提供する。
第8の態様において、本発明は、コア材が組み込まれた、第1〜第6のいずれかの態様に記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、モータを提供する。
第9の態様において、本発明は、コア材が組み込まれた、第1〜第6のいずれかの態様に記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、モータジェネレータを提供する。
第10の態様において、本発明は、コア材が組み込まれた、第1〜第6のいずれかの態様に記載のモータ用ボビンに巻き線を巻回したステーターを使用している、発電機を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態のモータ用ボビンの斜視図。
図2図1のモータ用ボビンを構成する折り曲げられた絶縁紙の斜視図。
図3図1のモータ用ボビンを構成する樹脂成型体の斜視図。
図4】ステータコアと組み合わせる際の図1モータ用ボビンの配置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態のモータ用ボビンについて詳細に説明するが、特にこれに限定されるものではない。図1は、本発明の好ましい実施形態のモータ用ボビン1の斜視図である。
モータ用ボビン1は、断面コ字状のボビンボディ2と、ボビンボディ2の両端に取付けられた一対の樹脂成型体4とを備えている。
ボビンボディ2の斜視図である図2に示されているように、ボビンボディ2は、長方形の絶縁紙の両側縁部を同一方向に向けて略直角に折り曲げることによって断面コ字状に成形され、中央部分6と、両側縁の一対の折曲部8、8とを備えている。
樹脂成型体4の斜視図である図3に示されているように、樹脂成型体4は、直方体状の本体部10と、本体部10の両端に設けられた一対の庇部12、12とを備えている。本実施態様のモータ用ボビン1では、本体部10と一対の庇部12、12とは一体的に形成されている。各庇部12は同一形状を有し、庇部12の先端側部分は、本体部10から突出する突出部12aとされている。この結果、樹脂成型体4は、略コ字状の断面形状を有している。そして、樹脂成型体4は、各庇部12の突出部12aの内側面12bと突出部12aの突出方向の本体部10の側面10aとで、三方を囲まれた断面が矩形状の空間を形成している。一対の庇部12の突出部12aの内側面12bの間隔は、ボビンボディ2の中央部分6の幅と略等しい。
【0008】
ボビンボディ2は、長手方向の両端が、それぞれ、各樹脂成型体4に連結されている。詳細には、断面コ字状のボビンボディ2は、両端で、中央部分6の外側面6aが樹脂成型体4の本体部10の側面10aに接合し、各折曲部8の外側面8aが樹脂成型体4の突出部12aの内側面12bに接合することによって、各樹脂成型体4に連結固定されている。
ボビンボディ2は、各樹脂成型体4との接合部において接着剤を介することなく、各樹脂成型体4と連結されている。さらに、樹脂成型体4と接合しているボビンボディ2の面は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙で構成されている。さらに、絶縁紙は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着し、アラミド紙で構成された面を表面処理することで得られる。
本実施態様のモータ用ボビン1では、各樹脂成型体4の本体部10の外方を向いた側面10bの全体には、水平方向に延びる巻線の位置決め用の溝14が多数本、形成されている。
図4に示されているように、本実施態様のモータ用ボビン1では、一方の樹脂成型体4の本体部10の裏面10cには突起16が、他方の樹脂成型体4の本体部10の裏面10cには凹部18が形成されている。これら突起16および凹部18は、図4に示されているような配置で、一対のモータ用ボビン1を離間して配置し、この一対のモータ用ボビンの間に配置されたステータコアにモータ用ボビン1を連結する際に使用されるものである。
【0009】
(アラミド)
本発明において、アラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物(芳香族ポリアミド)を意味する。このようなアラミドとしては、例えばポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4’−ジフェニルエーテル)テレフタールアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えばイソフタル酸塩化物およびメタフェニレンジアミンを用いた従来既知の界面重合法、溶液重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが、良好な成型加工性、熱接着性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0010】
(アラミドファイブリッド)
本発明において、アラミドファイブリッドとは、抄紙性を有するフィルム状のアラミド粒子であり、アラミドパルプとも呼ばれる(特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等参照)。
アラミドファイブリッドは、通常の木材パルプと同様に、離解、叩解処理を施し抄紙原料として用いることが広く知られており、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、デイスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することが出来る。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、日本工業規格P8121に規定の濾水度試験方法(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10cm3〜300cm3(カナディアンフリーネス(JISP8121))の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形されるアラミド紙の強度が低下する可能性がある。一方、10cm3よりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるためいわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、このように10cm3よりも小さい濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0011】
(アラミド短繊維)
アラミド短繊維は、アラミドを材料とする繊維を切断したものであり、そのような繊維としては、例えば帝人(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」などの商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維の長さは、一般に1mm以上50mm未満、好ましくは2〜10mmの範囲内から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、シート材料の力学特性が低下し、他方、50mm以上のものは、湿式法でのアラミド紙の製造にあたり「からみ」、「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすい。
【0012】
(アラミド紙)
本発明において、アラミド紙とは、前記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維から主として構成されるシート状物であり、一般に20μm〜1000μmの範囲内の厚さを有している。さらに、アラミド紙は、一般に10g/m2〜1000g/m2の範囲内の坪量を有している。ここで、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維の混合割合は任意とすることができるが、アラミドファイブリッド/アラミド短繊維の割合(質量比)を1/9〜9/1とするのが好ましく、より好ましくは2/8〜8/2であるが、この範囲に限定されるものではない。
アラミド紙は、一般に、前述したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維とを混合した後シート化する方法により製造される。具体的には、例えば上記アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などが適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
湿式抄造法では、少なくともアラミドファイブリッド、アラミド短繊維を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤が使用される。
上記のようにして得られたアラミド紙は、一対のロール間にて高温高圧で熱圧することにより、密度、機械強度を向上することができる。熱圧の条件は、たとえば金属製ロール使用の場合、温度100〜400℃、線圧50〜400kg/cmの範囲内を例示することができるが、これらに限定されるものではない。熱圧の際に複数のアラミド紙を積層することもできる。上記の熱圧加工を任意の順に複数回行うこともできる。
【0013】
(絶縁紙)
本発明において、絶縁紙は、少なくとも前記絶縁紙の樹脂成型体と接着している側の面がアラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙で構成されており、アラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着した絶縁紙を表面処理した絶縁紙がこれに該当する。前記樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、フェノキシなどのポリマー、あるいはそれらのポリマーのブレント、アロイなどが好ましく使用されるが、これらに限定されるものではない。
アラミド紙の層と樹脂の層の積層の層数は積層体の用途、目的に応じて適宜選択できるが、少なくとも片方の表層はアラミド紙の層であることが、すべり性が良好となるため、モータにおいてたとえばモータステータのコア材と巻線との間、すなわちコア材に設けたスロットの間に上記のようなボビンを挿入しやすくなるという効果があり、好ましい。例えば、特開2006−321183号公報に記載されているような芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とからなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂の比率が30〜50質量%であるポリマーとアラミド紙の2層積層シート、アラミド紙と前記ポリマーとアラミド紙の3層の積層シートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
積層体の厚みは、積層体の用途及び目的に応じて適宜選択でき、折り曲げ、巻きつけなどの加工性に問題がなければ、任意の厚みを選択することができる。一般には、加工性の観点から50μm〜1000μmの範囲内の厚みが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0014】
(表面処理)
本発明における表面処理とは、プラズマ表面処理、コロナ表面処理、液体浸漬による表面処理などがあげられる。これらのような表面処理を実施することにより、絶縁紙の表面の表面エネルギーの向上、樹脂成型体との界面エネルギーの低下の結果、樹脂成型体との接着性が向上する。処理の簡便さから特にプラズマ表面処理が好ましい。
【0015】
(プラズマ表面処理)
本発明におけるプラズマ表面処理とは、電極間に直流または交流の高電圧を印加することによって開始持続する放電、例えば大気圧下でのコロナ放電あるいは真空でのグロー放電などに処理基材を曝すことによって成される処理をいう。このとき、特に限定されないが、処理ガスの選択が広い真空での処理が好ましい。処理ガスとしては、特に限定されないが、He、Ne、Ar、窒素、酸素、炭酸ガス、空気、水蒸気等が単独あるいは混合した状態で使用される。なかでもAr、炭酸ガスが放電開始効率の点から好ましい。処理圧力は特に限定されないが、0.1Pa〜1330Paの圧力範囲で持続放電するグロー放電処理、いわゆる低温プラズマ処理が処理効率の点で好ましい。さらに好ましくは、1Pa〜266Paの範囲である。
本発明において、より具体的には、アラミド紙表面における酸素原子(O)と炭素原子(C)との組成比X(O/C)が、理論値の120%以上、250%以下の範囲にあることにより、目的とする良好な熱融着性を得ることができる。ここで、組成比X(O/C)とは、アラミド紙表面をXPS(X線電子光分光法)で測定した炭素原子数(C)と、酸素原子数(O)との原子数の比(測定値)をいう。また、その理論値とは、樹脂を構成する樹脂組成における、高分子化学構造式の反復単位から算出される原子数比率の値をいう。
例えば、ノーメックス(登録商標)紙の場合、主成分であるポリメタフェニレンイソフタルアミドは、C/O/N=14/2/2となり、炭素原子数(C)と酸素原子数(O)との組成比X(O/C)の理論値は、炭素(C)基準にすると、2/14=0.143である。通常は、表面に炭化水素系のものが微量付着しているため実測値は理論値よりも小さいとされる。前記組成比X(O/C)が、理論値の120%以上、250%以下の範囲、つまり20%〜150%の範囲で理論値よりも大きい値であれば、良好な熱融着性を得ることができた。より好ましくは150%以上、230%以下の範囲である。組成比Xが、理論値の120%未満であれば、良好な熱融着性が得られない。また、理論値の250%を越えた場合でも、やはり良好な熱融着性が得られない。
また、前記組成比X(O/C)が前述した範囲内であるアラミド紙を得る方法としては、前述の方法によって得られたアラミド紙に対し、低温プラズマ処理機により、その表面を低温プラズマ処理する方法などが挙げられる。これにより、熱融着性に優れたアラミド紙を得ることができる。
このとき、内部電極方式のプラズマ処理機を採用してアラミド紙に対する低温プラズマ処理を行う場合にあっては、低温プラズマ処理の処理強度(出力)を、30W・min/m2〜1500W・min/m2の範囲とすることが好ましい。これにより、アラミド紙の表面における前述した組成比X(O/C)の範囲を得ることができる。低温プラズマ処理の強度が上記範囲より低い場合、上記した組成比Xが小さくなり、低温プラズマ処理の強度が上記範囲より高い場合には、上記した組成比Xが大きくなり、いずれも良好なる熱融着性が得られなくなる。更に好ましくは、130W・min/m2〜1200W・min/m2の範囲である。
【0016】
(樹脂成型体)
本発明において、樹脂成型体とは、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アミド結合を含有するポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、共重合ポリアミド、ポリアミドMXD6、ポリアミド46、メトキシメチル化ポリアミド、半芳香族ポリアミドなどのポリマー、あるいは特開2006−321951号公報に示されるようなポリアミド樹脂組成物を含有するポリマーあるいはそれらの混合物または前記ポリマーとガラス繊維などの無機物との混合物を溶融させた状態で所望の金型に挿入し、冷却後型から外すという溶融射出成型法により作製された成型体を表す。特に半芳香族ポリアミドとガラス繊維の混合物の成型体が、耐熱性が高いため好ましい。このような混合物の例として、デュポン社のザイテル(登録商標)HTN51G、52Gなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
樹脂成型体が巻き線と接する部分に巻き線の位置決め用の溝を成型することにより、巻き線の位置が安定し、精度の高い整列巻きが可能となり、モータジェネレータなどの効率が向上するという効果があり、好ましい。
【0017】
(モータ用ボビンの製造方法)
上記金型内に予め前記プラズマ表面処理した絶縁紙を少なくともプラズマ表面処理した一部分が樹脂成形体の溶融した部分と接触するように配置することで、溶融したポリマーが絶縁紙の少なくともプラズマ表面処理した表面の部分に含浸させることができる。樹脂成型体の部分と絶縁紙が連結固定したモータ用ボビンをこのようにして作製することにより、接着剤を使用する必要もなく、樹脂成型体作製時に同時に連結固定することができる。また、ボディ部分にアラミド紙を使用することで、ボディ部分を薄くすることができ、線積率や熱伝導性を向上させることができる。本発明のモータ用ボビンは、コア材を組み込み、巻き線を巻回してステーターとして、モータ、モータジェネレータ、発電機などとして使用できる。
以下、本発明について実施例を挙げて説明する。なお、これらの実施例は、本発明の内容を、例を挙げては説明するためのものであり、本発明の内容を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0018】
(測定方法)
(1)坪量、厚みの測定
JIS C2300−2に準じて実施した。
(2)密度の計算
坪量÷厚みで計算した。
(3)接着性
絶縁紙と樹脂成型体の接着部分を目視により観察した。
(4)絶縁紙部分の外観
絶縁紙の部分の成型時の熱による反りの度合いを目視により判定した。
【0019】
(参考例)
(原料調製)
特開昭52−15621号公報に記載の、ステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを、離解機、叩解機で処理し長さ加重平均繊維長を0.9mmに調節した。得られたアラミドファイブリッドの濾水度は90cm3であった。
一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2デニール)を、長さ6mmに切断(以下「アラミド短繊維」と記載)した。
(アラミド紙の製造)
調製したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散しスラリーを作成した。これらのスラリーを、ファイブリッドとアラミド短繊維とが1/1の配合比率(重量比)となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、表1、並びに表2に示すアラミド紙を得た。
(絶縁紙の製造)
特開2006−321183号公報の段落[0024]に記載の方法で、前記アラミド紙とエポキシ基含有フェノキシ樹脂が50重量%含有されている半芳香族ポリアミド樹脂組成物(特開2006−321183号公報の配合例6)を用いて、アラミド紙を外側に配置したアラミド紙/樹脂組成物/アラミド紙(重量比で37/54/37)の3層構造よりなるアラミド紙を含む表1の実施例1及び2、並びに表2の比較例1及び2に示す絶縁紙を得た。
【0020】
(実施例1及び2)
(プラズマ表面処理された絶縁紙の製造)
表1に示す絶縁紙を、特許第4607826号公報の図1に記載の内部電極方式の低温プラズマ処理機に通し、任意の片側表面に処理強度650W・min/m2にて低温プラズマ処理を施した。このとき、絶縁紙表面の、酸素原子(O)と炭素原子(C)との原子数の組成比X(O/C)は、原子数比率の理論値の206%であった。
【0021】
(モータ用ボビンの製造)
上記プラズマ表面処理された絶縁紙とポリマーとしてポリプラスチックス社製ポリフェニレンサルファイド(フォートロン(登録商標)1140A64))を用いて、表1に示す条件で挿入成型を実施し、モータ用ボビンを得た。このようにして得られたモータ用ボビンの主要特性値を表1に示す。
実施例のモータ用ボビンは、ボビンボディ部は絶縁紙よりなるため、厚みが小さく、巻き線の高線積化による高効率化が期待でき、絶縁紙と樹脂成型体間の連結固定も十分であり、さらに絶縁紙に反りも発生していないので、コア材との密着性も高いため、絶縁破壊電圧も十分に高いことが期待でき、さらに使用したアラミド紙とポリマーの耐熱性が高いため、巻き線の発熱にも十分に耐え得ると考えられることから、モータジェネレータなどの高効率化・大出力化に耐えうるモータ用ボビンとして有用である。
【0022】
【表1】
【0023】
(比較例1〜6)
(絶縁紙の製造)
前記アラミド紙と東レ社製ポリエチレンテレフタレートフィルム(S28♯16、厚み16μm)を接着剤で貼り合わせ、アラミド紙を外側に配置したアラミド紙/ポリエチレンテレフタレートフィルム/アラミド紙(重量比で37/24/37)の3層構造よりなるアラミド紙を含む表2の比較例3〜6に示す絶縁紙を得た。
【0024】
(プラズマ表面処理された絶縁紙の製造)
表2の比較例5及び6に示す絶縁紙を、特許第4607826号公報の図1に記載の内部電極方式の低温プラズマ処理機に通し、任意の片側表面に処理強度650W・min/m2にて低温プラズマ処理を施した。このとき、絶縁紙表面の、酸素原子(O)と炭素原子(C)との原子数の組成比X(O/C)は、原子数比率の理論値の206%であった。
【0025】
(モータ用ボビンの製造)
上記絶縁紙とポリマーとしてポリプラスチックス社製ポリフェニレンサルファイド(フォートロン(登録商標)1140A64))を用いて、表2に示す条件で挿入成型を実施し、モータ用ボビンを得た。このようにして得られたモータ用ボビンの主要特性値を表2に示す。
比較例1〜4のモータ用ボビンは、絶縁紙に樹脂が含浸していない部分があり、目視で絶縁紙と樹脂成型体の間に隙間がある部分が確認できた。これは、モータなどに使用したときに部分放電発生や、隙間の部分は厚くなるので巻き線の線積率減少による効率の低下、コアに嵌入するときの障害の原因などを招くと考えられることから、モータジェネレータなどの高効率化・大出力化に耐え得るモータ用ボビンとしては適さないと考えられる。また、比較例3〜6のモータ用ボビンは、アラミド紙とフィルムを積層しているため、フィルムの部分が収縮したことにより反りが発生した。反りは、コア材との密着性を低下させ、絶縁破壊電圧が下がる可能性がある。さらに、反りが大きいとコアに嵌入するときの障害の原因などを招くと考えられることから、モータジェネレータなどの高効率化・大出力化に耐えうるモータ用ボビンとしては適さないと考えられる。
このようにフィルムは、通常延伸されている場合がほとんどで、溶融射出成型法でモータ用ボビンの樹脂成形体の製造と同時に絶縁紙のボビンボディ部と連結固定する場合、熱により緩和、収縮し、絶縁紙の変形の原因となる場合がある。
【0026】
【表2】
【符号の説明】
【0027】
1:モータ用ボビン
2:ボビンボディ
4:樹脂成型体
6:中央部分
8:折曲部
10:本体部
12:庇部
12a:突出部
14:溝
16:突起
18:凹部
図1
図2
図3
図4