(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
共有結合又は非共有結合を介した生体分子又はリガンドの結合を可能とする官能基を有することを特徴とする、請求項21〜25のいずれか1項に記載の磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子。
【背景技術】
【0002】
上述した種類の磁性粒子は、多くの診断法や、生物医学又は生体分子研究に使用されている。通常、磁性粒子は、コロイド状の超常磁性材料を含む球状粒子であり、超常磁性材料は、ポリマーマトリックスに埋め込まれているか、ポリマーシェルによって覆われている。通常、磁性粒子は1〜20μmの粒径を有する微粒子である。
【0003】
磁化可能な微粒子は、選択的に(場合によっては選択的かつ可逆的に)生体分子又は細胞等の標的物質を結合させることができるため、特に自動化処理における使用に適している。磁化可能な微粒子は、磁場を与えることによって一時的に固定することができるため、遠心分離工程を行うことなく液体媒体から分離することができる。これにより、多段階処理においても容易に自動化を行うことができ、時間を大きく節約することができる。
【0004】
磁化可能なポリマー系微粒子並びにその製造方法及び使用は、例えば、特許文献1や、特許文献1に引用された刊行物に記載されている。
【0005】
特許文献1は、細胞、核酸、タンパク質、ウイルス又は細菌の分画や、免疫検定法、DNA配列決定又はDNA合成における使用に適した、ポリビニルアルコールのビーズ状又は球状粒子を開示している。
【0006】
特許文献1に記載された粒子は、10〜200nmの粒径を有する磁性コロイドが封入されたポリビニルアルコールのポリマーマトリックスを含む。ビーズ状又は球状ポリマー粒子は、1〜10μm、好ましくは1〜4μmの粒径を有する。
【0007】
特許文献1に記載された磁化可能なポリマー粒子を製造する場合には、磁性コロイドが分散されたポリビニルアルコール水溶液を、室温において、ポリマー相と混和せず、少なくとも2種類の乳化剤を含む有機相(例えば、植物油)に撹拌によって懸濁させる。懸濁時には、水酸基と反応する水溶性架橋剤(グルタルアルデヒド等)を添加することによってポリビニルアルコールを架橋させる。その後、例えば、生体分子を結合させることができるスペーサー分子へのグラフトによって、生体分子の特異的な結合のためにポリビニルアルコール粒子を変性させることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法及びそれによって得られる粒子は様々な欠点を有することが判明した。
【0009】
第1に、特許文献1に記載された方法によって製造された磁化可能なポリマー粒子は広過ぎる粒径分布を有し、粒径分布はバッチ間で変動する場合がある(すなわち、バッチ再現性が不十分である)。特許文献1に記載された方法によって製造された粒子を分離処理に使用すると、粒径分布の変動によって収量が不均一となるため、多くの用途においては特許文献1に記載された方法によって製造された粒子を使用することは不可能である。
【0010】
また、特許文献1に記載された方法によって製造された磁化可能なポリマー粒子は、0.5μm未満の粒径を有する粒子及び3μmを超える粒径を有する粒子を高い割合で含む。
【0011】
0.5μm未満の粒径を有する粒子は、十分な分離速度又は外部磁界における移動度を有していないため、通常使用される磁場強度を使用する場合には、粒子は非常にゆっくりと分離され、総処理時間に悪影響を与える。また、非常にゆっくりと分離されるか、全く分離されない粒子は不純物となり、その後の反応又は測定(紫外線測定やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等)を妨げ、不正確な結果を生じさせる。
【0012】
3μmを超える粒径を有する粒子は、重力場において比較的迅速に沈降し、生体分子を結合させる能力が大きく制限されるという欠点を有する。そのため、適切な手段(再分散)によって沈降に対処することが必要となる場合がある。また、磁化可能なポリマー粒子の粒径が大きくなると、全質量又は懸濁量に対する総表面積が減少する。これにより、分離対象物質(生体分子又は細胞)の収量が低下する。小さ過ぎる(<0.5μm)粒子及び大き過ぎる(>3μm)粒子の存在により、例えば自動核酸精製における磁気分離処理が困難となる。
【0013】
また、特許文献1に記載された方法によって製造された磁化可能なポリビニルアルコール粒子では、磁化可能材料(磁鉄鉱/酸化鉄)の含有量が比較的低い(約7〜24重量%)。そのため、磁場における粒子の分離性が不十分又は不利である。
【0014】
粒径、粒径分布及び磁鉄鉱含有量における上述した欠点のために、特許文献1に記載された方法によって製造された磁化可能な粒子の有用性は限定され、特に自動分離法及び分析法にはあまり適していない。
【0015】
特に、特許文献1に記載された磁化可能なポリマー粒子には、PCR法に使用した場合に阻害作用を示し、検出感度が低下すると共に測定の精度及び信頼度が悪影響を受けるという欠点があることが判明した。PCR技術は分子生物学研究及び医療診断に広く使用されており、磁化可能な微粒子の使用はこれらの方法の自動化に関して重要になっているため、特許文献1に記載された粒子の阻害作用は非常に不利である。
【0016】
また、特許文献1に記載された製造方法は、より大きな規模における磁化可能なポリビニルアルコール粒子の製造には適していないことが判明した。特許文献1に記載された製造方法によれば、反応バッチの容量は最大約5Lに制限され、磁化可能なポリマー粒子の収量は非常に低い。そのため、特許文献1に記載された製造方法により、必要とされる品質特性(特に、狭い粒径分布)を有する磁化可能なポリビニルアルコール粒子をより大量に費用効率よく製造することは不可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る製造方法によって得られる粒子は、光学顕微鏡で観察した場合に実質的に球状(ボール状又はビーズ状)である。
【0025】
「磁化可能」という用語は、外部磁界に暴露された場合に粒子が磁気的に引き付けられ、例えば液体媒体から分離されるように、粒子を磁化することができることを意味する。磁場を消失させると、粒子は磁化されていない状態に戻り、好ましくは約0又は0の残留磁気を有する。
【0026】
「ポリビニルアルコール微粒子」という用語は、本発明に係る磁化可能な微粒子がポリビニルアルコールを含むことを意味する。ポリビニルアルコールは、場合によっては他の物質との組み合わせにより、ナノ粒子状の磁化可能材料が埋め込まれるか、封入されるマトリックスを形成する。好適な実施形態によれば、磁化可能な微粒子のポリマーマトリックスはポリビニルアルコールのみからなる。
【0027】
本発明に係る方法によって得られる磁化可能なポリビニルアルコール微粒子は、0.5〜3μm、好ましくは0.5〜1μmの範囲の狭い粒径分布を有する。別の好適な実施形態によれば、ポリビニルアルコール微粒子は、1.25〜2.25μmの範囲の粒径分布を有する。
【0028】
「狭い粒径分布」という用語は、特に、粒子の少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%が、0.5〜3μm又は0.5〜1μmの範囲の粒径を有することを意味する。
【0029】
粒径分布は、好ましくは単峰性(すなわち、0.5〜3μm又は0.5〜1μmの範囲内に単一の極大のみが存在する)である。
【0030】
特に、ポリビニルアルコール水溶液に分散させるナノ粒子状の磁化可能材料としては、強磁性又は超常磁性コロイド粒子を使用することができ、ナノ結晶磁鉄鉱が特に好ましい。
【0031】
ナノ粒子状の磁化可能材料は、好ましくは5〜250nm、より好ましくは5〜100nm、特に好ましくは5〜50nmの範囲の粒径を有する。
【0032】
本発明の好適な実施形態によれば、ナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱ナノ粒子は、以下の特徴を有する方法によって製造又は前処理する:
500μS/cm未満、好ましくは100μS/cm未満、より好ましくは5μS/cm未満のコンダクタンスを有する脱イオン水に磁化可能なナノ粒子を懸濁させる;
ナノ粒子水懸濁液を超音波ホモジナイザで処理する。
【0033】
磁化可能なナノ粒子は、公知の方法(例えば、Sipos P.:「Manufacturing of Size Controlled Magnetite Nanoparticles Potentially Suitable for the Preparation of Aqueous Magnetic Fluids」;Romanian reports in physics 2006;58(3):229−233:YE XR et al.:「Room temperature solvent−free synthesis of monodisperse magnetite nanocrystals」,J.Nanosci.Nanotechnol.2006,Vol.6,No.3,pp.852−856)によって製造することができる。
【0034】
ナノ粒子の製造及びそのさらなる処理は、表面活性物質を添加することなく行うことが好ましい。
【0035】
ナノ粒子懸濁液に対して上記超音波処理を行うことにより、存在する可能性のある粒子凝集体を広範囲にわたって破壊することができる。超音波処理は、フロー法(flow method)を使用して行うことが好ましい。
【0036】
超音波出力は、少なくとも1000Wとすることが好ましい。超音波への暴露時間は、好ましくは少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも0.5時間、最も好ましくは少なくとも1時間である。
【0037】
上述した超音波処理を行うために適当な超音波ホモジナイザは公知であり、市販されている(例えば、Dr.Hielscher Sonopuls 2000 W、Hielscher Ultrasonics GmbH,D−14513テルトー)。
【0038】
また、ナノ粒子懸濁液をさらに処理する前に遠心分離工程を行い、250nmを超える粒径を有する粒子、好ましくは100nmを超える粒径を有する粒子を除去することが有利である。遠心分離は、1000〜3000×gで行うことが好ましい。
【0039】
上述した方法で前処理した磁化可能なナノ粒子は、上述した有利な特性(特に、上述した範囲の狭い粒径分布)を有する本発明の磁化可能なポリビニルアルコール微粒子の製造に特に適している。
【0040】
250nm以下、好ましくは100nm以下の粒径を有するナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱を使用することにより、磁化可能材料、特に磁鉄鉱を比較的高い割合(比率)で含む磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子を製造することができる。
【0041】
上記割合(比率)は、少なくとも50重量%であることが好ましい。特に好適な実施形態によれば、本発明の粒子は、50〜60重量%(平均値:約55重量%)の磁鉄鉱含有量を有する。
【0042】
水相の調製に使用されるポリビニルアルコールは、50,000〜300,000の平均モル質量及び70〜99.9モル%(好ましくは80〜95モル%)の加水分解度を有するポリビニルアルコールであることが好ましい。例えば、「Mowiol」(Kuraray Europe GmbH、フランクフルト・アム・マイン)として入手できるポリビニルアルコールが適当である。
【0043】
水相中のポリビニルアルコールの濃度は、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0.1〜2重量%、最も好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0044】
水相中のポリビニルアルコールの濃度を2.0重量%以下、特に1.5重量%以下に制限することは、大き過ぎる粒径(特に、3μmを超える粒径)を有し、沈降特性が粒子の使用(特に自動核酸精製)に悪影響を及ぼす粒子の形成の防止に大きく貢献する。また、ポリビニルアルコールの濃度を2.0重量%、好ましくは1.5重量%に制限することにより、磁化可能材料(例えば、磁鉄鉱)を高い割合(比率)(好ましくは50重量%以上、より好ましくは50〜60重量%)で含む磁化可能なポリマー粒子を得ることができる。
【0045】
磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱は、0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%の割合(比率)で水相に添加することが好ましい。
【0046】
本発明に係る方法の第1の工程における分散処理は、通常は、分散装置(例えば、ULTRA−TURRAXR(登録商標))又はプロペラミキサーを使用して、公知の方法によって行うことができる。必要に応じて、ポリビニルアルコールができるだけ完全に溶解されるように、加熱しながら分散処理を行うことができる。
【0047】
本発明に係る方法の好適な実施形態では、ポリビニルアルコールと磁化可能材料を含む水相は、有機相に添加する前に超音波ホモジナイザによって均質化する。これにより、必要に応じて、磁化可能材料の粒径(流体力学的径)を250nm未満、好ましくは100nm未満に減少させることができる。また、上記均質化工程は、存在する粒子凝集体(particle aggregates or agglomerates)のサイズを減少させることができるという利点も有する。適当な超音波ホモジナイザは公知であり、市販されている(例えば、Sartorius 社(ゲッティンゲン)製「Labsonic P」、「Dr.Hielscher Sonopuls 2000 W」)。
【0048】
本発明に係る製造方法の特徴によれば、ポリマーを含む水相に乳化剤を添加する必要はない。
【0049】
本発明に係る方法の第2の工程又はさらなる工程では、前記水相と混和せず、少なくとも1種の乳化剤を含む有機相に前記水相を添加する。そして、混合物を25℃以上の温度で撹拌することによってエマルションを得る。温度は、好ましくは30℃又は40℃以上、より好ましくは少なくとも50℃、特に55〜65℃、特に好ましくは60℃である。予期せぬことに、粒子を高い温度で製造することにより、非常に小さな粒子(粒径:0.5μm未満)の形成を抑制又は防止することができ、上記温度(30℃以上、40℃以上、50℃以上又は60℃以上)とすることによって特に有利な作用が得られることが判明した。
【0050】
乳化処理は、使用する分散又は撹拌装置の種類、エマルションの量等に応じて通常は10秒間〜15分間行う。
【0051】
エマルションは、公知の方法により、通常の分散又は撹拌装置を使用して、例えば500〜5000rpmの撹拌速度で撹拌を行うことによって得ることができる。
【0052】
本発明によれば、回転子−固定子原理に従って動作する分散混合機を使用してエマルションを得ることが特に有利であることが判明した。回転子の速度は、通常は500〜4000rpmの範囲である。通常は、分散混合機の混合ヘッドを、密閉容器に収容された乳化対象の液体に浸漬する。容器の容量は100L以下、例えば10〜100L又は数百L、例えば100〜500Lとすることができる。
【0053】
分散又は乳化処理は、上述した分散混合機を使用し、実質的に空気を導入することなく行う。分散混合機は、(回転子を取り囲む)固定子に複数の垂直溝が設けられた混合ヘッドを備えていることが好ましい。回転時には、液体の垂直で下向きの流れ及び液体の水平な流れが生じ、液体の水平な流れにより、乳化対象の液体が混合ヘッドの溝を通過し、処理中に生じる高い剪断力及び混合ヘッド内に形成される乱流のために、非常に効率的で十分な撹拌及び均質化を達成することができる。これにより、特に、懸濁液内における架橋剤の迅速な分散を促進することができる。
【0054】
上述した種類の分散混合機は公知であり、例えば、ystral GmbH(D−79282 Ballrechten−Dottingen)から入手できる分散混合機(「ystral Dispermix」)を使用することができる。
【0055】
分散混合機を上述したように使用する場合には、特に効率的な解砕と懸濁を行うことができる。また、分散混合機は高い循環性能を有しているため、局所的な過熱を防止し、架橋剤を迅速な分散させることができる。これにより、望ましくないミセルの「合体(coalescence)」が抑制又は防止される(すなわち、「複数のビーズ」又は2以上のミセルの組み合わせの形成が防止される)。
【0056】
上述した種類の分散混合機の使用は、処理するエマルションの量が多い場合(10L以上)に特に有利であり、バッチ間一貫性は可能な限り一定に維持される。
【0057】
上述した分散方法は、大量のバッチを処理する場合においてのみ特に有利というわけではなく、磁化可能なポリビニルアルコール微粒子の収量を高める点においても有利である。例えば、バッチ量(エマルションの量)が100Lである場合、磁化可能な球状ポリビニルアルコール粒子の収量は少なくとも200gである。
【0058】
特に、植物油(例えば、菜種油又はひまわり油)、鉱油、合成油、シリコーン油、パラフィン油及びこれらの混合物を水非混和性有機相として好適に使用することができる。
【0059】
通常、水非混和性有機相は、水相に対して過剰量で使用する。水非混和性有機相の体積分率は、好ましくは水相の体積の3〜50倍、特に3〜25倍、より好ましくは3〜15倍である。
【0060】
エマルションの調製に使用される乳化剤は、好ましくは、プロピレンオキシド−エチレンオキシドブロック共重合体(ポロキサマー、例えば、Synperonic(登録商標)、Tetronic(登録商標)、Pluronic(登録商標))、ポリソルベート(ソルビタン脂肪酸エステルとポリエチレングリコールをエーテル化することによって形成される化合物;例えば、Tween(登録商標)、好ましくはTween(登録商標) 80)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンラウレート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレエート、ソルビタンセスキオレエート;例えば、Arlacel(登録商標)、Span(登録商標)、Dehymuls(登録商標))、ポリエトキシ化脂肪酸(エチレンオキシド付加脂肪酸エステル)、脂肪酸エタノールアミド、アルキルアミンエトキシレート(例えば、ラウリル、オレイル又はステアリルアミン−PEGエーテル、トリエタノールアミン−PEGエーテル)炭素原子数8〜18の脂肪アルコールへのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物(例えば、Brij(登録商標)、Eumulgin(登録商標)、Polidocanol)、ポリオキシエチル化硬化ヒマシ油(例えば、DEHYMULS(登録商標) HRE7)、ヒマシ油誘導体のブロック共重合体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−エチレンジアミンブロック共重合体、ポリヒドロキシ脂肪酸とポリエチレンオキシドのポリオキシエチレンブロック共重合体(例えば、Hypermer(登録商標) A70)アルキルフェノールエトキシレート(特に、2〜100個のエチレンオキシド単位を有するオクチルフェノール又はノニルフェノール;例えば、Triton(登録商標)、Triton(登録商標) X−100)、アルキルフェノールプロポキシレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル(例えば、ペンタエリスリチルモノラウレート)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルとクエン酸−脂肪族アルコールエステルの混合エステル(例えば、Dehymuls(登録商標) FCE)、ポリエチレングリコール、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホネート、ポリグリセリン、糖アルコール又はアルキルグリコシドと炭素原子数8〜22の飽和及び/又は不飽和直鎖又は分岐脂肪酸の部分エステル、ポリヒドロキシ脂肪酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ホスファチジルコリン又はホスファチジルエタノールアミン等のホスホグリセリドから選択される。2種以上の乳化剤の混合物又は組み合わせを使用することもできる。
【0061】
好ましい乳化剤の混合物は、(1)Tween(登録商標) 80(ポリオキシエチレン(20)−ソルビタンモノオレエート)及び/又は(2)Arlacel(登録商標) 83(ソルビタンセスキオレエート)、(3)DEHYMULS(登録商標) HRE、7(エチレンオキシド付加(PEG−7)、硬化ヒマシ油、(4)Hypermer(登録商標) A70(ポリヒドロキシ脂肪酸とポリエチレンオキシドのポリオキシエチレンブロック共重合体)を主要な成分として含む。
【0062】
好ましい乳化剤の混合物は、少なくとも1種の親油性乳化剤と少なくとも1種の親水性又は両親媒性乳化剤を含む混合物である。親油性乳化剤は、通常は3〜8のHLB値を有する非イオン性界面活性剤であり、W/O乳化剤とも呼ばれる。親水性又は両親媒性乳化剤は、通常は8〜18のHLB値を有し、O/W乳化剤とも呼ばれる。
【0063】
親油性乳化剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Span(登録商標) 40)、レシチン、PEG−PPG−PEGブロック共重合体(例えば、Pluronic(登録商標) L31、L61、L81)、PEGオレイルエーテル(z.B.Brij(登録商標) 93)が挙げられる。
【0064】
親水性又は両親媒性乳化剤の例としては、PEG−PPG−PEGブロック共重合体(例えば、Pluronic(登録商標) L−64、Pluronic(登録商標) 10R5)、PEGヘキサデシルエーテル(例えば、Brij(登録商標) C10)、PEGオクタデシルエーテル(z.B.Brij(登録商標) S10)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(例えば、Tween(登録商標) 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例えば、Tween(登録商標) 20)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(例えば、Brij(登録商標) S100)、ポリエトキシ化硬化ヒマシ油が挙げられる。
【0065】
乳化剤又は2種以上の乳化剤の混合物は、水非混和性相(油相)を乳化のために水相に添加する前に、水非混和性相(油相)に添加(又は溶解)する。
【0066】
乳化剤又は乳化剤の混合物は、有機相に対して、0.1〜10重量%、より好ましくは1〜7.5重量%の割合(比率)で使用することが好ましい。
【0067】
乳化工程又は乳化工程の後の工程において、ポリビニルアルコールの架橋に適した少なくとも1種の水可溶性架橋剤を添加し、球状ポリビニルアルコール粒子は共有結合性架橋によって安定化する。
【0068】
架橋剤は乳化処理時に添加することが好ましい。この場合、2つの相は、当初は架橋剤の非存在下で撹拌によって分散又は乳化され、その後、架橋剤を添加し、架橋反応が終了するまで撹拌処理を継続する(通常は、架橋剤の添加後約10秒間〜5分間)。架橋工程は、乳化工程に関して上述したような高い温度で行うことが好ましい。乳化工程において使用する高い温度(25℃)を架橋反応時にも維持することができる。
【0069】
二官能アルデヒド、特にグルタルアルデヒド及び酸塩化物又はジビニルスルホンを使用することが好ましく、グルタルアルデヒドが特に好ましい。一方、ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミン)の架橋剤としての使用は、遊離アミノ基が生体分子と望ましくない副反応を生じるために好ましくない。
【0070】
架橋剤は、通常は液体、すなわち、溶液(例えば、水溶液)としてエマルションに添加し、溶液は、架橋剤を1〜40重量%(好ましくは5〜25重量%)の総濃度で含むことが好ましい。好適な実施形態によれば、12.5%グルタルアルデヒド水溶液を使用する。
【0071】
エマルションに添加する架橋剤は、水相に対して、0.1〜10体積%、より好ましくは1〜7.5体積%の割合(比率)で使用することが好ましい。
【0072】
また、架橋工程は、好ましくは酸を添加した状態で、二官能アルデヒド、特にグルタルアルデヒドを使用して行う。この場合、架橋反応が大きく促進される。本発明によれば、予期せぬことに、ポリマー水相に対して、10体積%以下、好ましくは5体積%以下、より好ましくは3.2体積%以下の酸を添加することによってグルタルアルデヒドによって生じる架橋を促進することができ、ナノ粒子状の磁化可能材料の凝集体の形成を防止することができることが判明した。体積百分率は1N〜3N HClに関するものである。
【0073】
酸の添加は、乳化工程前に行う(すなわち、酸を水相に添加する)ことが好ましい。あるいは、乳化時又は乳化完了後に酸を添加することもできる。
【0074】
HClに加えて、a)1〜3N硝酸(ポリマー相に添加、最大10体積%)、b)1〜3N硫酸(ポリマー相に添加、最大5体積%)、c)HBr、d)酢酸、e)リン酸も添加する酸として適当である。
【0075】
また、特に高い温度(60℃)において酸濃度が高い(10体積%以上)場合には、ナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱の分解が生じ、鉄イオンが放出されてしまうことが判明した。そのため、架橋工程時に添加する酸の量を減少させることにより、磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱を高い割合(比率)(少なくとも50重量%又は90重量%以下)で含む磁化可能なポリビニルアルコール粒子を得ることができる。
【0076】
通常、架橋反応は、架橋剤の添加後約10秒間〜5分間で完了する。その後、磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子を公知の方法(例えば、遠心分離又は磁気分離)によって液体反応混合物から分離することができる。粒子に付着した不純物(例えば、油、乳化剤)を分離するために、適当な溶媒又は溶媒混合物(例えば、水、エタノール、メタノール、2−プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン)を使用して、微粒子の再懸濁及び遠心分離又は磁気分離によって微粒子を洗浄することができる。
【0077】
好適な実施形態において、本発明に係る方法は少なくとも以下の工程を含む。
ナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱を、ポリビニルアルコールを溶解状態で含む水相に、水相中のポリビニルアルコールの濃度が2.0重量%以下、好ましくは0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、水相中の磁化可能材料又は磁鉄鉱の濃度が好ましくは0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%となるように分散させる工程と、
前記水相と混和せず、少なくとも1種の乳化剤を含む有機相に前記水相を添加し、少なくとも50℃、好ましくは55〜65℃、より好ましくは60℃の温度で撹拌することによってエマルションを得る工程と、
撹拌を継続しながら、ポリビニルアルコールを架橋させるために適した少なくとも1種の水溶性架橋剤を添加する工程。
【0078】
別の好適な実施形態において、本発明に係る方法は少なくとも以下の工程を含む。
250nm以下、好ましくは100nm以下の粒径を有するナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱を、ポリビニルアルコールを溶解状態で含む水相に、水相中のポリビニルアルコールの濃度が2.0重量%以下、好ましくは0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、水相中の磁化可能材料又は磁鉄鉱の濃度が好ましくは0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%となるように分散させる工程と、
前記水相と混和せず、少なくとも1種の乳化剤を含む有機相に前記水相を添加し、少なくとも25℃、好ましくは50〜65℃、より好ましくは60℃の温度で撹拌することによってエマルションを得る工程と、
架橋剤としての少なくとも1種の二官能アルデヒドを添加する共に、塩酸(1N〜3N)を水相に対して5体積%以下の量で添加する工程。
【0079】
さらに別の好適な実施形態において、本発明に係る方法は少なくとも以下の工程を含む。
ナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱を、ポリビニルアルコールを溶解状態で含む水相に、水相中のポリビニルアルコールの濃度が2.0重量%以下、好ましくは0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、水相中の磁化可能材料又は磁鉄鉱の濃度が好ましくは0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%となるように分散させる工程と、
前記水相と混和せず、少なくとも1種の乳化剤を含む有機相に前記水相を添加し、回転子−固定子原理に従って動作する分散混合機を使用し、500〜4000rpmの範囲の回転子速度で、25℃以上、好ましくは50〜65℃、より好ましくは60℃の温度で撹拌することによって、10L以上のエマルションを得る工程と、
撹拌を継続しながら、ポリビニルアルコールを架橋させるために適した少なくとも1種の水溶性架橋剤を添加する工程。
【0080】
特に好適な実施形態において、本発明に係る方法は少なくとも以下の工程を含む。
ナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱を、ポリビニルアルコールを溶解状態で含む水相に、水相中のポリビニルアルコールの濃度が2.0重量%以下、好ましくは0.1〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%、水相中の磁化可能材料又は磁鉄鉱の濃度が好ましくは0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%となるように分散させる工程と、
前記水相と混和せず、少なくとも1種の乳化剤を含む有機相に前記水相を添加し、回転子−固定子原理に従って動作する分散混合機を使用し、500〜4000rpmの範囲の回転子速度で、少なくとも50℃、好ましくは55〜65℃、より好ましくは60℃の温度で撹拌することによって、10L以上のエマルションを得る工程と、
架橋剤としての少なくとも1種の二官能アルデヒド、好ましくはグルタルアルデヒドを添加する共に、塩酸(1N〜3N)を水相に対して10体積%以下、好ましくは5体積%以下、より好ましくは3.2体積%以下の量で添加する工程。
【0081】
上記実施形態のそれぞれは、上述した特徴の1以上と組み合わせることができる。
【0082】
特に好適な実施形態によれば、本発明に係る製造方法の第1の工程で使用するナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱に対して、以下の工程を含む処理方法を行う。
100μS/cm未満、好ましくは5μS/cm未満のコンダクタンスを有する脱イオン水に磁化可能なナノ粒子を懸濁させる工程と、
ナノ粒子水懸濁液を、好ましくは少なくとも1000Wの超音波出力及び少なくとも10分間、好ましくは少なくとも0.5時間の超音波処理時間で超音波ホモジナイザによって処理する工程。ここで、超音波処理は連続法(フロー法)を使用して行うことが好ましい。
【0083】
本発明に係る方法によれば、0.5〜3μmの範囲の狭い粒径分布を有する磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子を、例えば、1バッチあたり少なくとも200gの量で得ることができる。バッチのサイズ、すなわち、製造に使用されるエマルションの量は、5L以上、好ましくは10L以上、例えば50〜150L又は数百L(例えば、200〜500L)とすることができる。
【0084】
必要に応じて、(上述した本発明に必須の限界値を考慮に入れて)以下のパラメータの1以上を変更することによって粒径を調節することができる。
ポリマー濃度(ポリマー濃度が低いと粒径が減少する);
乳化時の撹拌速度(撹拌速度が高いと粒径が減少する);
乳化剤の選択及び乳化剤濃度。
【0085】
本発明に係る方法によって製造されたポリビニルアルコール微粒子は、さらなる変性を行うことなく、例えば、ポリビニルアルコールの遊離OH基への結合によって生体分子を結合させるために使用することができ、生体分子、細胞等の結合を可能とするために公知の様々な反応によって活性化又は変性することもできる。変性反応を使用することにより、例えば、官能基又はスペーサー分子等を粒子マトリックス又は粒子表面に結合させることができる。
【0086】
そのような公知の活性化又は変性反応の好ましい例は、特許文献1及び特許文献1に引用されている刊行物に記載されている。特に、臭化シアン(リガンド、例えば抗体の第一アミノ基への結合用)、エピクロルヒドリン、1、1’−カルボニルジイミダゾール又はヘキサメチレンジイソシアナート等の活性化試薬による活性化が挙げられる。
【0087】
Cer(IV)塩の触媒作用下におけるビニルモノマー(特にアクリルモノマー)のグラフト重合によってスペーサー分子を導入することができる(特許文献1及び特許文献1に引用されている刊行物を参照)。
【0088】
磁化可能なポリビニルアルコール微粒子に結合したスペーサーは、例えば生体分子の結合に使用することができる。
【0089】
また、本発明は、上述した本発明に係る製造方法のいずれかによって得られる、0.5〜3μmの範囲の粒径分布を有する磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子に関する。微粒子は、0.8〜3μm、より好ましくは0.5〜1μmの範囲の粒径分布を有することが好ましい。別の好適な実施形態によれば、微粒子は、1.25〜2.25μmの範囲の粒径分布を有する。
【0090】
「・・・の範囲の粒径分布」とは、粒子の少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%が、当該範囲の粒径を有することを意味する。
【0091】
本発明に係る微粒子の粒径分布は、単峰性(すなわち、実質的に単一の極大のみを有する)であってもよい。
【0092】
粒径は公知の方法で測定することができ、例えば、DLS/PCS(動的光散乱法/光子相関分光法)によって測定することができる。粒径に測定に適した測定装置は市販されている(例えば、「DelsaNano C」、Beckman Coulter社(D−47807クレーフェルト)製)。
【0093】
PCS法は、サンプルの平均粒径及び関連する多分散指数(PDI)(粒径分布の幅の尺度)を測定する。本発明に係る方法で製造された狭い粒径分布を有する磁化可能な微粒子の場合には、多分散指数(PDI)は好ましくは0.25以下、より好ましくは0.1〜0.25である。
【0094】
好適な実施形態によれば、本発明に係る磁化可能な微粒子は、ナノ粒子状材料、特に磁鉄鉱の含有量が、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、特に90重量%以下であることを特徴とする。これは、特に、水相中のポリビニルアルコール濃度を最大1.5重量%に制限することによって達成することができる。磁鉄鉱の含有量が高く、粒径分布が狭いため、磁化可能な微粒子は、磁場において向上した分離特性を示す。
【0095】
磁化可能無機材料の含有量は、公知の方法、例えば燃焼分析によって測定することができる。
【0096】
本発明によれば、磁化可能な微粒子が高い磁鉄鉱含有量を有する場合には、小さな粒径(例えば、0.5〜1μm)であっても、良好な磁気分離特性を得ることができる。従って、本発明に係る特に好ましい粒子は、0.5〜1μmの範囲の粒径分布及び50〜90重量%、好ましくは50〜75重量%、より好ましくは50〜60重量%の磁鉄鉱含有量を有する粒子である。
【0097】
本発明に係る方法によって製造されるか、本発明に係る方法によって得られる磁化可能な微粒子は、磁鉄鉱含有量が高い(少なくとも50重量%、好ましくは50〜60重量%、より好ましくは少なくとも60重量%)にもかかわらず、上述した検出方法、特にPCRに使用した場合に、非特異的結合(特にタンパク質の非特異的結合)は顕著に減少する。このような非特異的結合の減少は、本発明に係る製造方法によって磁化可能材料(例えば、磁鉄鉱)の特に効率的な封入を達成することができるためである。その結果、非特異的結合の原因となる遊離磁鉄鉱(又はナノ粒子状の磁化可能材料)の割合(比率)は非常に小さくなる。
【0098】
磁鉄鉱のより効率的な封入及び遊離磁鉄鉱の割合(比率)の減少は、従来の粒子(例えば、特許文献1)と比較した場合の粒子のゼータ電位における測定可能な変化によって証明される(実施例3及び表1を参照)。本発明に係る方法によって製造されるか、本発明に係る方法によって得られる粒子は、ゼータ電位の絶対値に対して、少なくとも15%、好ましくは25%、特に30%増加したゼータ電位を示すことが好ましい。観察されるゼータ電位における変化は、粒子表面に存在する遊離磁鉄鉱の減少(粒径及び粒子表面積は同じ)によるものであり、ゼータ電位は磁鉄鉱の封入効率の尺度と見なすことができると考えられる。磁性微粒子のゼータ電位は、好ましくは−35mV以下、より好ましくは−40mV以下である。
【0099】
従って、本発明は、ナノ粒子状の磁化可能材料を含み、−35mV以下、より好ましくは−40mV以下のゼータ電位を有する、磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子を含む。
【0100】
粒径分布は、好ましくは0.5〜3μm、より好ましくは0.5〜1μm又は1.25〜2.25μmの範囲である。
【0101】
ナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱の含有量は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも75重量%であり、ナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱の含有量は90重量%以下であることができる。
【0102】
本発明に係る方法によって製造されるか、本発明に係る方法によって得られる粒子は、PCR用途に使用した場合に、公知の微粒子と比較して、PCR反応に対して顕著に低い阻害作用を示すか、阻害作用を全く示さないことを特徴とする(実施例4、表3及び表4を参照)。PCR反応バッチに阻害成分が存在すると、増幅反応の遅延及びCt値の上昇が生じる。リアルタイム定量PCRでは、Ct値は、蛍光シグナルが閾値を超え、PCRの指数期が開始するまでに必要なサイクル数を示す。Ct値はサンプルに含まれる核酸の量と反比例するため、阻害成分(抑制作用を有する微粒子等)の存在によって不正確な結果が得られる。
【0103】
予期せぬことに、本発明に係る方法によって製造されるか、本発明に係る方法によって得られる磁化可能な微粒子をPCR用途に使用すると、Ct値は変化しないか、2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下しか増加しないことが判明した。
【0104】
そのため、本発明は、ナノ粒子状の磁化可能材料を含む磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子であって、PCR法に使用した場合に、Ct値の変化を生じさせないか、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、特に0.5%以下の僅かなCt値の変化しか生じさせない微粒子を含む。
【0105】
粒径分布は、好ましくは0.5〜3μm、より好ましくは0.5〜1μm又は1.25〜2.25μmの範囲である。ナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱の含有量は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも75重量%であり、ナノ粒子状の磁化可能材料、特に磁鉄鉱の含有量は90重量%以下であることができる。
【0106】
本発明に係る磁化可能な微粒子は、共有結合又は非共有結合を介した生体分子又はリガンドの結合を可能とする官能基を有する。適当な官能基としては、ポリビニルアルコールマトリックスの水酸基及び上述したようにその後の変性反応によって導入された基が挙げられる。好適な実施形態によれば、官能基はスペーサー分子を介してポリビニルアルコールに結合している。
【0107】
共有結合又は非共有結合を介して磁化可能な微粒子に結合することができる適当な生体分子又はリガンドとしては、特に、抗体、アビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインG、レクチン、オリゴ糖、オリゴヌクレオチド、酵素、酵素抑制剤、酵素基質、受容タンパク質、アルブミン、ゼラチン、グルタチオン、アミノ酸、ペプチド、ホルモン及び/又は神経伝達物質が挙げられる。また、アフィニティークロマトグラフィー又は診断目的に使用されるその他の生体分子又はリガンドも基本的に適当である。
【0108】
ナノ粒子状の磁化可能材料、好ましくは磁鉄鉱の含有量が高く(少なくとも50重量%)、0.5〜3μmの範囲の狭い粒径分布を有するため、磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子は、自動分離法、特に自動核酸精製における使用に特に適している。粒径分布が狭いため、特に自動核酸精製において磁化可能な微粒子を完全に分離することができる。
【0109】
また、50重量%以上であって、90重量%以下の磁化可能材料を含むことができる、本発明に係る磁化可能な球状ポリビニルアルコール微粒子によれば、粒径が小さいにもかかわらず、非常に良好な磁気分離特性(すなわち、高収量での迅速、完全かつ再現可能な分離)を達成することができる。そのため、本発明に係る微粒子は、より多量のサンプル(例えば、10mLの全血からのゲノムDNAの単離)の処理に特に適している。
【0110】
また、本発明に係るポリビニルアルコール微粒子は、粒径が小さく、総活性表面積が大きく、小さな粒子によって各サンプルを精製することができるため、非常に少量のサンプル(例えば、10μL)の処理にも適している。
【0111】
本発明に係るポリビニルアルコール微粒子は、例えば、細胞、核酸、ペプチド、タンパク質、毒素、ウイルス、細菌、抗体、酵素、抗原又は受容体を分離、精製又は濃縮するために使用することができる。好ましい応用分野としては、診断又は法医学的検出法、免疫検定法、DNA配列決定、PCR産物精製、細胞分画、タンパク質単離、アフィニティ精製、免疫沈降反応、組織適合検査、オリゴヌクレオチド合成又はペプチド合成が挙げられる。
【0112】
本発明によれば、特に自動分離法に適した、向上した分離特性を有する磁化可能な微粒子が提供される。また、本発明に係る製造方法により、高いバッチ間一貫性を保ちながら、粒子を大きな規模で製造することができる。
【実施例】
【0113】
実施例1:磁鉄鉱コロイド懸濁液の調製
磁鉄鉱コロイド:公知の方法を使用して、上述したようにナノ結晶磁鉄鉱を調製した。次に、遠心分離(3000×g、1回5分間)を繰り返し、懸濁液のコンダクタンス値が500μS/cmとなるまで脱塩水に再懸濁させることにより、懸濁液を塩を含まなくなるまで洗浄した。本発明に従って調製した磁鉄鉱は、僅かに負であって、ゼロに近いゼータ電位(約−4.5〜−0.5mVの範囲)を有していた。
【0114】
このようにして得られた磁鉄鉱180gを脱塩水に懸濁させ、インライン超音波法(フロー法)によって少なくとも1000Wの出力で2時間処理した(Dr.Hielscher Sonopuls 2000 W、Hielscher Ultrasonics GmbH,D−14513テルトー)。
【0115】
次に、600mLの12.5%ポリビニルアルコール溶液(重量%)を添加し、超音波処理を2時間行った。その後、懸濁液に対して2000×gで10分間遠心分離を行った。100nm以下の粒径、2.8%の磁鉄鉱含有量及び1.4%のPVA含有量を有するPVA含有磁鉄鉱懸濁液を得た。粒径はPCS(「DelsaNano C」、Beckman Coulter社製)で測定した。
【0116】
実施例2:磁化可能なポリビニルアルコール微粒子の調製
実施例1で得た磁鉄鉱コロイド5000mLを660mLのHCL(2.5M)と十分に混合した。得られた懸濁液を、1.5体積%のTWEEN(登録商標)、0.5体積%のソルビタンセスキオレエート、2.5体積%のDehymuls(登録商標) HRE及び0.75体積%のHypermer(登録商標)を含む市販の植物油60Lに(有機相を60℃に加熱した後に)添加した。
【0117】
次に、分散混合機(Ystral Dispermix)を使用し、60℃で10分間撹拌(撹拌速度:3500rpm)を行った。550mLの12.5%グルタルアルデヒド水溶液を添加した後、撹拌を35分間継続した(Ystral Dispermix、3500rpm)。
【0118】
粒子を懸濁液から磁気的に分離し、水(有機溶媒を含まず)で繰り返し洗浄して、1〜3μmの粒径及び55重量%の磁鉄鉱含有量を有する磁鉄鉱粒子250gを得た。多分散指数(PDI)は0.1〜0.25だった。粒径及びPDIはPCS(「DelsaNano C」、Beckman Coulter社製)で測定した。
【0119】
実施例3:ゼータ電位の測定
本発明に係る磁化可能な微粒子は、特に、生化学的検出法(特にPCR)において、従来の粒子と比較して、より少ない非特異的結合を生じさせたり、阻害成分がより少ない等という点において特徴付けられる。本発明によれば、上記利点は、磁化可能材料(磁鉄鉱)の封入が改善され、粒子表面に露出された遊離(非封入)磁鉄鉱が少ないことによって得られるものと考えられる。
【0120】
非封入磁鉄鉱の存在は粒子の表面特性の変化を引き起こすため、表面特性の変化はゼータ電位(実質的に表面電荷数に比例)を測定することによって調べることができると考えられる。この仮説について以下のように実験を行った。
【0121】
本発明に係るポリビニルアルコール微粒子を実施例2に記載した方法で調製した。比較のために、特許文献1の実施例2に従って磁性ポリビニルアルコール粒子を調製した。各粒子の粒径は1〜3μmの範囲だった。次に、複数の粒子バッチから得たサンプルを使用してゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
本発明に係る方法によって調製した粒子は約−40mVの平均ゼータ電位を有しており、特許文献1に従って調製した粒子と比較して、ゼータ電位の絶対値に対して30%増加していた。
【0124】
この知見は、本発明に係る粒子では遊離磁鉄鉱の割合(比率)が減少しているという仮説を確証するものである。総表面積における遊離磁鉄鉱の割合(比率)が低下し、ポリビニルアルコールで被覆された総表面積の割合(比率)が大きくなると、表面に存在する潜在的に酸化可能な官能基(及び潜在的電荷キャリア)の数が増加する。これは、ゼータ電位の対応する変化として現れる(表1を参照)。粒子の粒径及び総表面積は一定(1〜3μm)であったため、本発明に係る粒子の場合には、観察されたゼータ電位の変化は遊離磁鉄鉱の割合(比率)の減少によって生じたものと考えられる。
【0125】
この仮定は、粒子をナノ結晶磁鉄鉱と共に培養することによって磁性ポリマー粒子のゼータ電位が再び(絶対値に対して)低下したさらなる実験によって確証された。磁鉄鉱はファン・デル・ワールス相互作用によって粒子表面に結合し、粒子表面の一部を覆うため、下部に存在する電荷は隠される(アクセスできなくなる)。これにより、予想通りゼータ電位の(絶対値に対する)低下が生じた(表2を参照)。
【0126】
【表2】
【0127】
表2に示すゼータ電位測定に使用した粒子は、本発明に係る方法(表1及び実施例2を参照)によって調製した粒子である。「+M」は、各サンプルを遊離磁鉄鉱と共に培養したことを意味する。
【0128】
本発明に係る磁化可能なポリビニルアルコール粒子は、従来のポリビニルアルコール粒子(特許文献1)よりも負のゼータ電位を有するため、凝集体を形成し、凝集反応を示す傾向が低い。
【0129】
実施例4:PCRに使用した場合の本発明に係る磁化可能なポリビニルアルコール微粒子の挙動
PCRサンプルにおける磁化可能なポリビニルアルコール微粒子の存在のPCRに対する阻害作用を調べた。本発明に係る微粒子(実施例2及び3を参照)を従来の粒子(特許文献1の実施例3を参照)と比較した。
【0130】
PCRに使用したテンプレートDNAは、バクテリオファージPhi X174の所定のファージ力価でヒト血漿をスパイクし、そこから核酸を抽出することによって得た。次に、リアルタイムPCRによって核酸を増幅した。磁化可能なポリマー粒子の阻害作用も調べるために、調査対象の磁化可能なポリビニルアルコール微粒子を増幅反応に添加した(25μg、50μg又は100μg/反応バッチ)(表3及び4を参照)。
【0131】
リアルタイムPCRで測定したCt値を表3及び4に示す。Ct値は、蛍光シグナルが閾値を超えるまでに必要なサイクル数を示す。陽性対照(磁化可能なポリマー粒子を添加しないPCR反応)では、Ct値は25.00だった。
【0132】
【表3】
【0133】
1〜5列に示すデータは、本発明に係る粒子の異なるバッチに関するものである。
【0134】
表3に示すように、Ct値は25から変化しなかった。これは、核酸の増幅は反応に添加した粒子によって阻害されなかったことを意味している。
【0135】
【表4】
【0136】
1〜5列に示すデータは、特許文献1に係る粒子の異なるバッチに関するものである。
【0137】
表3(本発明に係る粒子)とは対照的に、従来の粒子をPCRに添加すると、粒子の添加量(25/50/100μg)の関数としてCt値が上昇した。100μgの粒子を添加した場合には、Ct値は28に上昇した。Ct値の上昇は、蛍光シグナルの生成の遅延、すなわち、DNAの増幅の遅延を意味する。そのため、上記遅延は、阻害作用を示さなかった本発明に係る粒子(表3)とは異なり、従来の磁性粒子(特許文献1)は阻害作用を示したことを示している。