【実施例1】
【0020】
図6に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材のシステム断面図を示す。外断熱緑化部材1の,後述する根域確保部2および匍匐茎展開部3に植生基盤材13を敷き詰め,植生基板上に匍匐型植物14を植生せしめる。匍匐型植物とは,匍匐茎を有する植物のことであり,匍匐型植物14としては,屋上緑化において通常用いられているコウライ芝等の匍匐型芝やイワダレソウの他に,イチゴ,ミント,ハイキンポウゲ,オリヅルラン,キジムシロ,イヌゴマなどを用いることができる。匍匐型植物14は,匍匐茎を通じて水や養分などを植物体全体で共有することができるため,土壌などがある程度局在していても植物を局部的に枯らすことなく全面を均一に生育せしめることが可能である。このとき,土壌の量を少なくすることにより,匍匐型植物のメンテナンスを大幅に軽減することができ,同時に,システム全体の重量およびコストも大幅に下げることができる。匍匐型植物を含む多くの植物に関して,植生基盤材13には通常の土壌の他,天然または人工軽量土壌や,木質材料などを用いても良い。木質材料を用いる場合には,ヤシ殻やスギ,桧,松樹皮,コルクくずなどの難分解性のものであることが望ましい。外断熱緑化部材1には軽量性、断熱性および耐踏圧性が要求されるため,独立気泡発泡成形品で構成されている。発泡倍率は10乃至90倍であることが望ましい。10倍以下であると,軽量性および断熱性が損なわれ,90倍を超えると機械的強度が極端に低下する。外断熱緑化部材1としては,有機系材料の場合,押出法ポリスチレンフォーム,ビーズ法ポリスチレンフォームのほかポリウレタンフォーム,ポリエチレンフォーム,ポリ塩化ビニルフォーム,などがある。無機系材料を用いても良いが,比重が大きいために有機系材料のほうがより好ましい。また,外断熱緑化部材1が特に有機樹脂発泡体の場合,発泡倍率が30倍を超えると,匍匐型植物14が強勢な根を有するノシバなどでは,発泡体表面の微細な凹凸に根冠が侵入し、発泡体の中に伸長する現象が確認された。このため,塗料や熱処理,フィルムラミネートなどによって表面に0.02mm以上の皮膜層を設け,表面を平滑面にすると根の食い込みは生じなかった。熱処理の場合は,ホットプレス等によって容易に皮膜を形成せしめることが可能であるが,成膜条件は外断熱緑化部材1の材質や製法,形状等の要因に左右されやすい。また,厚膜の形成にはあまり向いていない。塗料を用いると,厚く強固な被膜を形成せしめることが可能である。塗料は水性塗料よりも油性塗料の方が塗布しやすいが,フォームが溶解しないような溶剤組成を選定する必要がある。また,2mm以上にするとコスト的に高価になるとともに,塗装により成膜を実現することは難しく,敢えて塗装にした場合剥離が生じることがある。フィルムラミネートに関しては,既存の製品膜厚が限られており,成型上も膜厚が薄過ぎたり厚過ぎたりすると,ラミネート成形が困難となる。従って,塗料・熱処理いずれにおいても,厚さ0.02乃至2mmの皮膜であることが望ましい。また,端部に見切り材15を設置することによって,匍匐茎や根が屋上面16に達することを防ぐことができる。あらかじめ,外断熱緑化部材1の形状に密接するようなフィルムまたはシート成形品を造り,これを外断熱緑化部材1に被せる方法も可能であるが,現状ではコスト上の制約から必ずしも実用的ではない。塗料中に塗料面,及び塗料面近傍において根の成長を抑制する忌避成分を含有させることにより,塗膜厚みをより薄くすることもできる。
【0021】
本発明のうち,塗膜の防根効果について評価した結果を表3に示す。植生基盤材に接した発泡ポリスチレン成型品(50倍発泡,根域確保部深さ140mm,底部発泡ポリスチレン厚さ60mm)面に,塗膜を設けたものと,設けなかったもので2010年8月25日よりコウライ芝を成育し,発泡ポリスチレン成型品への根の侵入を平成23年11月20日に観察したところ,次の結果を得,塗膜による防根機能の重要性が確認できた。なお,本発明品の塗膜は下塗り材(シリコンエポキシ変成カチオン系塗料)及び上塗り材(合成エマルション系塗料)2層の合計70μmとした。
【0022】
【表3】
【0023】
均整化とは,植物に一定・一様の生育をせしめることであり,植物の長期安定性に大きく寄与する要因の一つである。匍匐型植物の個体は,匍匐茎によって広範囲に一体的に生育しており,植物体の一部がストレスの影響を受けたとしても,究極的には植物の全ての器官が影響を受けることになる。このような植物個体全体の連動は植物ホルモンや,環境ストレス応答物質によって媒介される。植物の一部がストレス条件に置かれると,すぐに植物ホルモンや,環境ストレス応答物質のシステムに変化が起こる。これらの変化はストレスの影響を最小限にとどめて生命を維持するような諸反応,すなわち,短期的には代謝過程,長期的には形態の変化などを誘発する。(これを植物の馴化(順化)という。)本発明における匍匐茎展開部は限られた根域しかなく,乾燥,養水分の不足,高温下などのストレス条件に置かれるため,これに応答して個体全体が節間や直立茎等の短小化,すなわち,矮化を起こすことになる。また,根域確保部で吸収された養水分は直ちにストレスを受けている匍匐茎展開部に分配され,植物個体全体として均整な形態をとろうとする。一方,矮化とは,植物の生育性を制限せしめることである。均整化・矮化現象とはこれら二つの要因を同時に植物に発現せしめることである。本発明では,植物の環境ストレス下で示す馴化の発現形態である「均整化・矮化現象」という特徴的挙動を利用しつつ,さらに,匍匐型植物を用い,且つ,▲1▼根や匍匐茎の発生・更新,及び,匍匐茎展開部への新しい匍匐茎の供給・更新と,必要最低限で安定的な養水分吸収,及び,匍匐茎展開部への養水分の分配を分担する(いわば基地部とも言える)根域確保部と,▲2▼養水分吸収のストレス下に,根域確保部から分配された養水分も利用し,匍匐茎が伸長展開する(いわば拡大展開部,または,ストレスに満ちた実戦部とも言える)匍匐茎展開部,の▲1▼と▲2▼を一定の比率で設けることによって,均整化,矮化を発現せしめ,長期安定生育・被覆とメンテナンスの大幅削減という二律背反的な課題を両立させることに成功した。匍匐型植物14に環境ストレスを与えるには,単に全面の植生基盤材13を均一に薄層化する方法もある。この場合,やはり匍匐型植物14は均整化・矮化するが,根の生長も全面にわたって抑制化される。従って,猛暑や養水分不足などの一時的な過度の環境ストレスが掛かった場合,相反する均整化・矮化と,安定生育のバランスを取ることが難しくなり,植物体全体が枯死することが多い。本発明に関しては,部分的に匍匐型植物14の旺盛な根の成育をせしめており,一時的な過度の環境ストレスに対しても植物体全面が枯死してしまうことは少ない。かつ,全面に渡って均整化・矮化現象を発現せしめ,安定生育とのバランスにおいても環境ストレスへの寛容度がより広くなる。言うまでもないが,これは,匍匐型植物14の馴化(順化)現象を用いることによって初めて達成されるものである。従って,特許文献1に示されるような単純な植物のポット植生と比しても,その目的,用途,効果およびその思想・原理は根本的に異なるものである。
【0024】
図5に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材1の斜視図を示す。また,
図1に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材1の上面図を示す。外断熱緑化部材1は大別して根域確保部2と匍匐茎展開部3から成っている。
【0025】
根域確保部2には匍匐型植物14の根を収納し,根域確保部2より植物全体へ水および肥料が供給される。根域確保部2は外断熱緑化部材1に局部的に形成されているが,屋上全面において匍匐型植物14を均一に生育せしめるためにも,
図5の例のような形態の場合には,根域確保部2は外断熱緑化部材1に全体的に均一,且つ,同ピッチで存在することが望ましい。また,根域確保部2同士は根域確保部連結溝部17よって連結していることが望ましい。根域確保部連結溝部17によって,全ての根域確保部2の水や養分が均一に存在することができるためである。根域確保部連結溝部17の深さは根域確保部2と同じ深さであることが望ましい。全根域確保部は,これら「根域確保部2」と「根域確保部連結溝部17」から成り,請求項1における「全根域確保部の面積S
b」は,これらの合計したものを指す。実施形態によっては,
図7(h)乃至(k)に示すように,S
bが全て連結した溝部のみで構成されても良い。根域確保部2の深さは植物にもよるが,実験的に植物の生育性の確認を行ったところ,30mmは必要である。しかしながら,200mm以上になると匍匐型植物14の生育性には大きく影響しなくなる一方,重量およびコストが嵩む要因となる。また,必須条件ではないが,根域確保部2の形が
図5の例のように個別に複数配列されている場合には,根域確保部2の1箇所あたりの面積が25乃至400cm
2であることが望ましい。根域確保部2の1箇所あたりの面積が25cm
2より小さくなると,匍匐型植物14の生育が阻害されてしまって根域確保部2の役割が果たしにくくなることがあり,また,400cm
2を超えると,匍匐型植物14の矮化が生じにくくなるためである。
【0026】
匍匐茎展開部3は匍匐型植物14の匍匐茎を拡大展開せしめる部分であり,且つ,植物体に一定の環境ストレスを加える部分である。植生基盤材13が無いか非常に薄いため十分な養水分が吸収できず,生育上のストレスを受けており,最低限の生育は根域確保部2からの養水分で保証され,徐々にストレスに順応して矮化,則ち,直立茎,葉長の短縮化,匍匐茎節間の短縮化,側枝の発生等の形態的順応を示し,このため,灌水,刈り込み,施肥等のメンテナンスが大幅に削減できることとなる。根域確保部2も,根を発達させ,新たな匍匐茎を発生,伸長させ,匍匐茎展開部3に新しい匍匐茎を供給する一方で,匍匐茎展開部3に養水分を分配することとなり,地上部,直立茎は短くなり,矮化現象を示す。均整化とはこのように,匍匐型植物14が植物体全体として養水分を共有し,バランスを取って環境ストレスに応答することであり,多くの場合,ストレスに応答して小型化,則ち,矮化する。匍匐茎展開部3の深さが深いほど,植物の生育条件は良好になるが,均整化・矮化現象の発現は弱まり,メンテナンスの軽減が難しくなる。匍匐茎展開部3において植生基盤材13の深さが40mm以上になると,匍匐茎展開部3においても根の生育が顕著となり,必要なストレスを掛けられなくなり,矮化が起こりにくくなり,メンテナンスの軽減が難しくなる。いちごやイワダレソウのごとく,土壌のないところにも匍匐茎が進展し、隣接する根域確保部2で節から根を下ろすような匍匐型植物14や,あらかじめ任意の大きさのソッド(切り芝)を形成せしめた匍匐型植物14を全面に敷設する場合で,ソッドに付着した生産地圃場の土壌厚さが約10mmを超えているものには,匍匐茎展開部3には新たな植生基盤材13は特に必要としない。通常,芝ソッドの場合,生産地で切り出すと,生産地圃場の土壌を3乃至5mm程付けた状態で出荷される。この場合には,匍匐茎展開部3上には,5乃至10mmの植生基盤13を敷き並べた上で,芝ソッドを施工することが望ましい。匍匐茎展開部3における植生基盤材13の深さに関しては,周辺部10および植生基盤材ガイド突起11を設けることにより,システム施工時に容易に管理することが可能となる。植生基盤材ガイド突起11は,施工時(植生基盤材13の充填時)に,匍匐茎展開部3の植生基盤材13の厚さを均一にするための補助的ガイド突起であって,基本的には,周辺部10と共に全匍匐茎展開部(植物に環境ストレスを与える部分,則ち,S
op)に属する。実際には,匍匐茎は成長に応じ植生基盤材ガイド突起11や周辺部10を乗り越えて,全面に展開する。また、匍匐茎展開部3から植生基盤材ガイド突起11や周辺部10が立ち上がる部分の隅部を直角ではなくR形状を持たせることにより、匍匐茎の隅部に対する侵入を回避できる。
【0027】
匍匐茎展開部3に対して根域確保部2の割合が多くなると,植物の生育は旺盛になるが,均整化・矮化は起こりにくくなり,植物のメンテナンス(刈り込み,施肥,灌水等)が多く必要となり,また,保水性の植生基盤材13が多くなり,システム全体の重量が大きくなってしまう。一方,根域確保部2の割合が小さくなると,システム全体の重量は小さくなり,植物のメンテナンスは軽減されるが,植物の安定生育に必要な最低限の生育保証ができない程になると,植物の生育が困難になり,衰退・荒廃に繋がる。根域確保部の面積S
bと匍匐茎展開部面積S
opの比S
op/S
bは,根域確保部の植生基盤の種類,深さ,匍匐茎展開部の植生基盤の有無や厚さ,匍匐型植物の種類によっても異なるが,実験的検討の結果,一般に使うことのできる匍匐型植物の範囲では0.5乃至40であることが必要であるが,1乃至30であることがより望ましい。匍匐茎は,複数の根域確保部にまたがって根を下ろし,拡大展開することとなり,植生基盤材が無いか,極めて薄いという環境ストレス下にある匍匐茎展開部に養水分や植物ホルモン等を分配し,これにより,全体として均整化・矮化すると共に,緻密化して匍匐型植物面は実用に耐えられる程度の均一性を長期間安定的に保つことができる。
【0028】
外断熱緑化部材1にはスプリンクラー設置部9を設置することにより,スプリンクラーを収納することもできる。灌水は,匍匐型植物14が過剰な乾燥ストレスにより衰退することが無く,且つ,水の蒸散による冷却効果が減殺されない程度に実施する必要があり,人力によって散水する場合には,植物の葉が初期萎凋する前に給水する必要がある。例えば,芝の場合には,葉が巻き始めれば直ちに灌水を行う必要がある。実際には,葉の状態を常に注意しておくことは難しいことが多く,自動的にタイマーまたは植生基盤材13層内に水分センサーを設け,自動給水することが望ましい。給水の方法はスプリンクラー等で上面から散水しても良く,植生基盤材13内に埋設した給水チューブから給水しても良い。また,根域確保部2の底部に水溜を設けることも良い。
【0029】
図2に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材1の,
図1における▲1▼−▲1▼断面図を示す。また,
図3に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材1の,
図1における▲2▼−▲2▼断面図を示す。また,
図4に,本発明の実施の形態に係る,外断熱緑化部材1の下面図を示す。外断熱緑化部材1に貯水ガイド突起12を設けることにより,外断熱緑化部材1に貯水機能をもたせることができる。また,外断熱緑化部材1は,嵌合部A4および嵌合部B5を設けることによって平面方向に任意の数だけ連結させることができる。嵌合部A4および嵌合部B5の他にも,固定金具などを用いて外断熱緑化部材1同士を連結することもできるが,連結部より根が屋上面16に侵入しないように隙間を形成せしめないことが望ましい。また,嵌合部の構造は重力方向および半重力方向の嵌合面を併せ持たせることにより,根の有する重力屈性原理によって根の嵌合部から下,則ち,防水層面等への侵入を防ぐことができる。さらに,下面には屋上面16に存在する水を速やかに排出せしめることができるように,排水溝6が形成されている。外断熱緑化部材1の材料コストを下げるため,下面には空隙部8が形成されている。このとき,上部よりの踏圧などによって外断熱緑化部材1が破壊しないように,支持部7が形成されていると良い。
【実施例3】
【0031】
表1に,本発明の実施の形態に係る,
図1乃至
図6に示す形態の外断熱緑化部材1のシステムを用いた生育試験(平均葉長測定)の結果を示す。本発明を用いた実施の形態に関しては,根域確保部2の面積S
bと匍匐茎展開部3の投影面積S
opの比S
op/S
bが3,根域確保部2の1箇所あたりの面積が100cm
2で,根域確保部2の深さが200mm,植生基盤材13にスギ・桧樹皮を2年間堆積発酵させた難分解性材料と,保水性火山砂礫(平均径2mm)を体積比2:1で混合したものを用い,匍匐茎展開部3における植生基盤材13の深さを10mmとし,匍匐型植物14として平均葉長(任意の20枚の葉長を測定し,平均値を算出)が22mmのコウライ芝(鳥取県芝生生産組合)を植生せしめた。また,対照区に関しては,全面の土厚200mmのスギ・桧樹皮を2年間堆積発酵させた難分解性材料と,保水性火山砂礫(平均径2mm)を体積比2:1で混合したものの植生基盤材13上に匍匐型植物14として平均葉長が22mmのコウライ芝のソッドを全面に植生せしめた。火山砂礫としては,一般に入手可能な見かけ比重0.6の鹿児島産ボラ土を用いた。火山砂礫は植生基盤材に適度な透水性を与えると共に,踏圧に対する保型性を向上させ,且つ,減容防止のために用いた。施肥は行わず,水に関しては,天水に加え,1週間に4L/m
2の水を灌水せしめた。これらの2つのシステムを2007年8月1日より2010年8月1日の間,山口県防府市の屋外に置き,1ヶ月後の平均葉長を測定した。植生初年度より3年度目までにおいても,本発明を用いた実施の形態の場合と,対照区である従来の均一な植生基盤(土壌)厚さの場合を比すと,平均葉長については大きい差異が確認され,本発明による匍匐型植物の均整化・矮化によるメンテナンスの大幅軽減が確認された。
【0032】
【表1】