(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液状化対策の対象地盤の情報と、入力地震動の情報と、前記液状化対策工の情報との複数の組み合わせについて、前記めり込み係数を求め、各組み合わせ毎に前記めり込み係数と前記液状化対策工の情報との関係を図化したノモグラムを作成することを特徴とする請求項1に記載の液状化対策工の評価方法。
前記液状化対策工は、構造物を支持する地盤の液状化対策を目的として、当該地盤の表層を改良することにより形成する表層改良体であることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の液状化対策工の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、表層改良による液状化対策工の模式図である。この図に示すように、本実施形態に係る液状化対策工では、構造物2を直接支持する地盤の表層を地盤改良することにより、液状化層の上に表層改良体1を構築する。ここで、構造物2は、小規模倉庫、設備基礎、配管架台、外構、駐車場等の接地圧が約20kN/m
2以下の小規模建築物である。また、表層改良体1は、ソイルセメント等を用いた厚さが1〜数m程度の固化系地盤改良体であり、鉛直方向に延びる貫通孔である排水孔3が、所定間隔で形成され、上面に排水層4が形成されている。これらの排水孔3及び排水層4は、透水性材料で形成されており、表層改良体1の下側に存する過剰間隙水を表層改良体1の上側に排出する経路となる。
【0015】
以上のような構成の表層改良体1の厚さH
1や平面寸法Bや接地圧pや排水孔面積率d等の仕様を以下に説明するように決定する。なお、平面寸法Bは、表層改良体1の平面形状を長方形とみなした場合の短辺長とする。また、接地圧pは、構造物2の重量と表層改良体1の重量との合計を表層改良体1の底面積で除した値である。さらに、排水孔面積率dは、排水孔3の直径をφ、排水孔3の中心間隔をDとすると、d=(φ/D)
2×π/4である。
【0016】
図2は、表層改良体1を評価する手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示すように、表層改良体1の設計を実施する期間の前に、想定される入力地震動の種類、地盤の条件、及び表層改良体1の仕様を多様に組み合わせてFEM解析を実施して、多様な組み合わせの解析結果をノモグラムとしてまとめておく。FEM解析は、株式会社大林組製の2次元動的有効応力解析プログラムを用いて実施する。なお、当該プログラムによる解析原理については後述する。
【0017】
まず、地盤の情報、構造物2の情報(荷重の情報)、入力地震動の情報を入力する(ステップ1)。ここで、地盤の情報は、地下水位W
L、間隙比e
0、ダイレイタンシーパラメータλ、μ、内部摩擦角φ
f、圧縮指数C
c、骨格ポアソン比ν、単位体積重量γ、液状化層の下端の深さZ等を含み、地盤の地層構造に応じて、各層に対応する要素毎に入力する。例えば、埋土層、浚渫埋土層、沖積砂層の順の地層構造を想定して、沖積砂層に対応する要素について、透水係数が比較的小さくなるように間隙比e
0等を設定するなどすればよい。なお、液状化層の下端の深さZを、例えば、6m、8m、12m、16m、20mと変化させ、その他の地盤情報は一定値とする。
【0018】
次に、液状化対策を行わない場合の液状化解析を実施して(ステップ2)、地表面沈下量bを算出する(ステップ3)。液状化解析では、
図3に示すように、FEM解析モデルを設定する。そして、動的解析を実施する。当該解析では、非液状化層(地表面からの深さがZ以深の層)に数種類の入力地震動(例えば、
図4に示す告示稀波、Elcentoro波、Traft波、八戸波、神戸ポートランド波、浦安波等)を入力し、当該地震動が所定時間(例えば、3000sec)経過した後における地表面の沈下量bを算出する(
図5参照)。
【0019】
一方で、液状化対策工の種類と仕様とを選定してその情報を入力し(ステップ4)、その液状化対策を行う場合の液状化解析を実施して(ステップ5)、構造物2の沈下量aを算出する(ステップ6)。本実施形態では、液状化対策工として表層改良体1を選択する。その表層改良体1の情報は、厚さH
1、平面寸法B、接地圧p、排水孔面積率d等を含む。表層改良体1の範囲に対応する要素には、工学的には剛となる大きな剛性を与える。厚さH
1は、例えば、1.0m、2.0m、3.0mと変化させ、平面寸法Bは、例えば、2m、8m、12m、16m、20mと変化させる。また、接地圧pは、5kN/m
2、10kN/m
2、15kN/m
2、20kN/m
2と変化させる。さらに、排水孔面積率dは、例えば、0%、1%、2%、3%と変化させる。なお、表層改良体1の上面の位置は、地下水位W
L程度とすることが望ましい。
【0020】
以上により、入力地震動の種類、液状化層の下端の深さZ、表層改良体1の厚さH
1、平面寸法B、接地圧p、排水孔面積率dの多様な組み合わせの夫々について、液状化対策を行わない場合の地表面の沈下量bと、液状化対策を行う場合の構造物2の沈下量aとの解析結果が得られる。
【0021】
つぎに、得られた解析結果を、入力地震動の種類、地表面の沈下量b、液状化層の下端の深さと表層改良体1の平面寸法との比B/Z、表層改良体1の接地圧p、排水孔面積率dの組み合わせ毎に、
図6に示すようなノモグラムとしてまとめる(ステップ7、8)。本ステップでは、各組み合わせ毎に、表層改良体1の厚さH
1と下記(1)式で示すめり込み係数α
1との関係を示すノモグラムを作成する。なお、下記(1)式の右辺の分子であるa−bは、構造物2が地盤にめり込んで沈下した量(以下、めり込み沈下量という)を表す。
【0022】
ここで、めり込み沈下量(a−b)から構造物2の傾斜角β
1を求めることができ、その方法について説明する。
図7は、東日本大震災後に神栖市の住宅を対象に行われた液状化被災調査結果(めり込み沈下量と構造物2の傾斜角との関係)をまとめたグラフ(出展:第47回地盤工学研究発表会(八戸)梗概集1487〜1488頁,「東北地方太平洋沖地震による液状化被災地区における住宅の傾斜とめり込み沈下量の関係」の図−4(a),橋本 隆雄・安田 進・山口 亮 著)である。
【0023】
このグラフに示すように、液状化後のめり込み沈下量(a−b)と構造物2の傾斜角β
1との間には、前者の増加に伴って後者が一定の割合で増加する比例関係があるため、当該比例関係に基づいて、ステップ7で算出しためり込み沈下量(a−b)に応じた構造物2の傾斜角β
1を読み取る。
【0024】
図8は、表層改良体の仕様を決定する手順を示すフローチャートである。まず、地層の条件、地下水の条件、構造物2の荷重の条件、及び地震動の条件を決定し(ステップ11)、液状化対策を行わない場合の地表面の沈下量bを、FL法等の公知の簡易的な方法により算出する(ステップ12)。
【0025】
ここで、上記簡易的な方法の一例について説明する。
図9は、補正N値と繰返しせん断ひずみとの関係を示すグラフである(出展:建築基礎構造設計指針 2001改訂,編集・著作・発行 日本建築学会,66頁の
図4.5.7)。まず、液状化判定により各深度の補正N値N
0と応力比τ
d/σ
Z´を求め、
図9のグラフから繰返しせん断ひずみγ
cyを読み取る。例えば、補正N値N
0が10、応力比が0.14の場合、繰返しせん断ひずみγ
cyは2%となる。即ち、厚さ1mあたりの沈下量が2cmとなる。そして、液状化層の全深度の沈下量の総和を、地表面の沈下量bとして算出する。
【0026】
一方、構造物の沈下量の許容値Uと、構造物2のめり込み沈下量の許容値ΔUとを決定する(ステップ13)。そして、液状化対策工の種類と仕様との選定を行う(ステップ14)。
【0027】
まず、多数のノモグラムの中から液状化対策の対象の構造物2や地盤や液状化対策工や入力地震動の条件に適したノモグラムを選択する(ステップ15)。例えば、入力地震動の種類が告示稀波、液状化層の下端の深さと表層改良体1の平面寸法との比B/Zが1.0、表層改良体1の接地圧pが5kN/m
2、排水孔面積率dが0%、地表面の沈下量bが7.5cmであれば、
図6に示すノモグラムを選択する。なお、ノモグラムの選択にあたっては、上記諸条件に対して最適なノモグラムを選択してもよいが、それに限られるわけではなく、上記諸条件に対して妥当なノモグラムを選択してもよい。
【0028】
つぎに、選択したノモグラムからめり込み係数α
1と表層改良体1の厚さH
1を読み取り、上記(1)式より、表層改良体1の厚さH
1に応じた構造物2の沈下量aと、めり込み沈下量(a−b)とを算出する(ステップ16)。
【0029】
つぎに、ステップ17で算出した構造物2の沈下量aがステップ13で決定した地表面の沈下量Uより小さいか否かを判定する(ステップ17)。沈下量aが許容値U以上である場合には、液状化対策工の種類と仕様との選定を再度実施する(ステップ14)。それに対して、沈下量aが許容値Uよりも小さい場合には、ステップ17で算出しためり込み沈下量(a−b)がステップ13で決定した許容値ΔUより小さいか否かを判定する(ステップ18)。めり込み沈下量(a−b)が許容値ΔU以上である場合には、液状化対策工の種類と仕様との選定を再度実施する(ステップ14)。それに対して、めり込み沈下量(a−b)が許容値ΔUより小さい場合には、液状化対策工の種類と仕様とを選択しているものに決定する。
【0030】
以下、上述の2次元動的有効応力解析プログラムを用いて実施するFEM解析の原理について説明する。当該解析では、土骨格と間隙水との連成効果を厳密に評価した飽和多孔質媒体のBiotの多次元圧密方程式(下記(2)〜(4)式)を基礎式としている。
【0031】
本解析で用いる地盤構成モデルでは、塑性ひずみ増分が、
図10の一般応力の定義において、
図11のモールの応力円に示すせん断、主応力回転、異方圧密、等方圧密の降伏関数に相当する各応力変動による塑性ひずみ増分の総和として、下記(5)式で評価される。
なお、以下の説明におけるs,r,ac,icはそれぞれ、せん断、主応力回転、等方圧密、異方圧密を意味する。
【0032】
上記(5)式の各塑性ひずみ増分テンソルの流れ則を下記(6)〜(9)式に示す。
【0033】
s,r,acの塑性主ひずみ増分dε
1P,dε
3Pは、(6)〜(8)式の各々の比例定数λと後述の応力−ダイレイタンシー関係を用いて決定され、後続の編微分は、後述の塑性主ひずみ増分dε
1P,dε
3Pを仮定して決定される。
【0034】
s,r,acの比例定数λを下記(10)〜(13)式に示す。
【0035】
繰り返しせん断特性を表現するために、上記(10)式にMasing則を導入し、上記(13)式は既往の研究から仮定した。各λの降伏関数は、一般応力増分を用いて、(14)〜(16)式で表現される。
【0036】
図12では、モールの応力円でモービライズド面のせん断力比(τ/σ
N)を示し、
図13では、モールのひずみ増分円でモービライズド面の塑性ひずみ増分比(ε
NP/dγ
P)を示している。
【0037】
応力−ダイレイタンシー関係は、
図12に示すモービライズド面のせん断力比(τ/σ
N)と
図13に示すモービライズド面の塑性ひずみ増分比(ε
NP/dγ
P)との線形関係から導かれる下記(17)(18)式で表される。ここで、sでは、繰り返しせん断のダイレイタンシー特性を表現するために荷重パラメータζ(=±1)を導入し、r,acでは、荷重パラメータζ=1を導入する。
【0038】
上記(17)、(18)式から導かれるs,r,acの塑性主ひずみ増分dε
1P,dε
3Pを下記(19)〜(24)式に示す。
【0039】
塑性主ひずみ増分dε
1P,dε
3Pの方向は、s,r,acで共軸性を仮定し、rで非共軸性を仮定し、各々下記(25)〜(28)式で示される。
【0040】
ここで、本構成モデルは、弾性ひずみ増分を考慮するところ、上記(13)式から導かれる骨格弾性係数Eは下記(29)式で表される。
【0041】
本構成モデルの陽な応力−ひずみ関係は、以下の手法で導かれる。まず、弾性応力増分−弾性ひずみ増分関係は、下記(30)式で表される。
【0042】
上記(6)〜(9)式を上記(30)式に代入し、さらに上記(14)〜(16)式、上記(10)〜(13)式に代入することにより、4個の比例定数λを有する下記(31)〜(34)式が得られる。
【0043】
{dε
ij}が与えられた場合、s,r,ac,icの{dε
ijP}は、上記(31)〜(34)式を整理した下記(35)式のマトリクス解の4個のλを上記(6)〜(9)式に代入して得られる。また、{σε
ij}は、各々の{dε
ijP}を上記(30)式に代入して得られる。
【0044】
ここまで説明した構成モデルでは、ダイレイタンシーパラメータλ,μと硬化パラメータk
sを応力経路にかかわらず一定としている。このため、有効応力経路を表現するために、単調載荷の排水試験から決定したk
s(=0.1%)を低減する必要がある。また、変相角近傍の有効応力経路、応力−ひずみ関係が定常となり、ひずみが数%まで漸増しながら液状化に至る表現ができない。そこで、繰り返し載荷のλ
r,μ
rとk
srとを新たに定義し、応力反転毎に単調載荷のλ,μ,k
sを更新することにしている。
【0045】
λ
r,μ
rは、上記(17)式で規定される変相角tanφ
p(=2μ/(2−λ))が応力経路にかかわらず一定であるという条件を仮定した場合、下記(36)、(37)式で表される。
(factor)
λ,μは低減係数であり、単調載荷の場合に1、繰り返し載荷で応力反転が変相角より大きい場合に0.9、小さい場合に0.5を、前応力反転のλ
r−1,μ
r−1に乗じて算定する。但し、(factor)
λ,μの下限値は0.5
4と仮定している。
【0046】
k
srは、下記(38)式で表される。
(factor)
ksは増幅係数であり、単調載荷の場合に1、繰り返し載荷で応力反転が変相角より大きい場合に1.15を前応力反転のk
sr−1に乗じて算定されている。
【0047】
(factor)
ksの乗数は、上記(17)、(18)式の塑性体積ひずみ増分dε
VP(=dε
1P+dε
3P)の算定から理解されるように、変相角近傍の有効応力経路、応力−ひずみ関係を表す(factor)
λ,μ・(factor)
ks>1を満足するように設定されている。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る表層改良体1の評価方法では、液状化対策の対象地盤の地表面の沈下量bと構造物2の沈下量aとの差であるめり込み量(a−b)を、液状化対策の対象地盤の情報(液状化層の下端の深さZ等)と、入力地震動の情報(告示稀波等の時刻歴)と、表層改良体1の情報(接地圧pや厚さH
1等)とを入力情報とする数値解析(FEM解析)により求める。これにより、表層改良体1の設計仕様に応じた液状化による変状を定量的に評価することができる。
【0049】
特に、めりこみ沈下量と構造物の傾斜角との関係についての既知の調査結果に基づいて、構造物2の傾斜角β
1を求めることにより、液状化による不同沈下を定量的に評価することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る表層改良体1の設計方法では、表層改良体1の設計期間よりも前に、液状化対策の対象地盤の情報と、入力地震動の情報と、表層改良体1の情報との複数の組み合わせについて、これらの情報を入力情報とする数値解析により、液状化対策の対象地盤の地表面の沈下量bと、構造物2の沈下量aとを求め、各組み合わせ毎にめり込み係数α
1と表層改良体1の厚さHとの関係を図化したノモグラムを作成しておく。そして、表層改良体1の設計期間に、液状化対策の対象地盤と構造物2との条件に該当する上記ノモグラムを選択し、該ノモグラムに対応する表層改良体1の情報に基づいて、表層改良体1の仕様を決定する。これによって、要求性能を満足する合理的な表層改良体1の設計仕様を短期間で決定することができる。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、上述の実施形態では、株式会社大林組製の2次元動的有効応力解析プログラムを用いた数値解析を実施したが、「液状化による構造物被害予測プログラムFLIP」等の他の液状化による構造物の被害を解析するプログラムを用いた数値解析を実施してもよい。また、3次元動的有効応力解析プログラムを用いた数値解析を実施してもよい。
【0052】
また、上述の実施形態では、液状化対策工を評価するにあたって、めり込み量(a−b)とめり込み係数α
1とを求めたが、めり込み係数α
1を求めることは必須ではない。さらに、めり込み係数α
1を用いてノモグラムを作成することは必須ではなく、めり込み量(a−b)を用いてノモグラムを作成してもよい。
【0053】
また、液状化対策工として盤状の表層改良体1を選択することは必須ではなく、サンドコンパクションパイル等の他の液状化対策工を選択してもよい。また、改良工法は、固化材混合工法、薬液注入工法、排水促進工法、地中振動・充填工法等を選択できる。さらに、表層改良体1に排水孔3を形成することは必須ではない。